説明

光学積層体及びその製造方法

固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層(A層)、及び前記A層の少なくとも片面に設けられた透明な樹脂を含有してなる層(B層)を含む光学積層体であって、前記固有複屈折が負である樹脂のガラス転移温度をTg、前記透明な樹脂のガラス転移温度をTg、前記積層体の厚みをd、波長548.6nmの光で測定した厚み方向の屈折率をn、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn、n(n、nの直交軸はn−nが最大となるように定められる)としたとき以下の[1]〜[5]の要件を満たすことを特徴とする光学積層体並びにその製造方法: [1]Tg>Tg; [2]n>n、n>n、n≒n; [3]n>(n+n)/2; [4](n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきが10nm以内である; [5]光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±20nm以内である。これにより好適に複屈折を補償でき、さらに輝度ムラや色むらのない光学積層体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に製造が可能で、これを用いて好適に複屈折を補償でき、さらに輝度ムラや色ムラのない光学積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等の種々の画面表示にSTN型等の複屈折性を利用した高コントラストな液晶表示装置が使用されている。しかしながら、ツイストネマチック液晶、コレステリック液晶及びスメクチック液晶を使用した液晶表示装置においては、液晶セルの持つ複屈折によって視野角特性が悪くなるという問題がある。視野角特性が悪いということは、表示画面を正面から見た場合の表示が良好でも、斜め方向から見た場合に着色や表示の消失などの不具合が生じるということである。この不具合を解消するために、液晶セルの複屈折によって生じる位相差を補償可能な位相差板を、液晶セルと偏光板との間に介在させる方式が主流となっており、この位相差板について種々の検討がされている。
【0003】
特開平2−160204号公報(特許文献1)には、波長632.8nmの単色光を垂直入射した場合の位相差をRe、波長632.8nmの単色光をフィルム面の法線とのなす角度が40°で斜入射した場合の位相差をR40としたとき0.92≦R40/Re≦1.08であることを特徴とする位相差フィルムが開示されている。
【0004】
また、特開平5−157911号公報(特許文献2)には、フィルムの平面方向に配向した分子群と厚み方向に配向した分子群とが混在してなることを特徴とする複屈折性フィルム、及び樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理して前記樹脂フィルムの延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することを特徴とする前記複屈折性フィルムの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特開平2−256023号公報(特許文献3)には、光透過性を有するフィルム(A)が、該フィルムの法線方向を基準として周囲45°以内に少なくとも1本の光軸又は光線軸を有するか、又は該フィルムの法線方向の屈折率をnTH、長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTDとしたとき、nTH−(nMD+nTD)/2>0を満たすかのいずれかの条件を満たし、該フィルム(A)の少なくとも1枚と正の固有複屈折値を有するとともに光透過性を有する高分子から形成される1軸延伸フィルム(B)の少なくとも1枚とを、液晶セルと偏光板との間に挿入してなる液晶表示装置が開示されている。前記フィルム(A)として、固有複屈折値が負の材料からなる二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを積層したものが挙げられている。
【0006】
しかしながら、特開平2−160204号公報に記載の方法では、位相差のばらつきや輝度ムラや色むらが十分に小さくならず、又製造効率に劣るという問題があった。また、この方法では、ハイビジョンテレビ等の大液晶画面などに適用できる大判体を得ることが困難である。
また、特開平5−157911号公報に記載の方法では、延伸と収縮との比率を精密にコントロールする必要があり、製造工程が複雑になって生産効率に劣る問題がある。
さらに特開平2−256023号公報に開示されている液晶表示装置に使用されているフィルムは、特に該フィルム(A)として、固有複屈折値が負の材料からなる二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを用いた場合、製造が比較的容易で位相差のコントロールも容易にできるものと考えられる。しかしながら、好適な位相差(レターデーション)を発現し、しかもその均一性を保つためには、ゾーン加熱による縦一軸延伸やテンターによる横一軸延伸、あるいはこれらを組み合わせた逐次または同時二軸延伸などを行うことが必要である。しかしながら、延伸する材料の強度が不足しているために延伸時に破断しやすく、破断しないように高温の条件で延伸すると、望ましい位相差が発現しにくく、また位相差の発現にムラを生じやすくなる問題があった。従って、このように固有複屈折値が負の材料からなり、nTH−(nMD+nTD)/2>0の条件を満たすような位相差フィルムは、実用レベルで使用できるものは存在しなかった。
【0007】
さらに、固有複屈折値が負の材料からなるフィルムを二軸延伸することにより、面内の位相差が実質的に無く、かつ面方向の屈折率よりも厚み方向の屈折率が大きい位相差フィルム(いわゆるポジティブレターダー)の作成が可能となり、例えばコレステリック液晶を用いた表示装置の位相差補償フィルムへの応用などが期待できるが、やはり延伸する材料の強度が不足しているために延伸時に破断しやすく、破断しないように高温の条件で延伸すると、望ましい位相差が発現しにくく、また位相差の発現にムラ、輝度ムラ及び色むらが発生しやすいという理由から、実用レベルで使用できるものは存在しなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平2−160204号公報
【特許文献2】特開平5−157911号公報
【特許文献3】特開平2−256023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、従来のものよりも、好適に複屈折を補償でき、さらに輝度ムラや色むらのない光学積層体及びこれを容易に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる樹脂材料と、前記固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度Tgよりも低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂を含有してなる樹脂材料とを共押出して、未延伸積層体を得、その積層体を特定の条件で延伸処理することにより、上記目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、
(1)固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層(A層)、及び前記A層の少なくとも片面に設けられた透明な樹脂を含有してなる層(B層)を含む光学積層体であって、前記固有複屈折が負である樹脂のガラス転移温度をTg、前記透明な樹脂のガラス転移温度をTg、前記積層体の厚みをd、波長548.6nmの光で測定した厚み方向の屈折率をn、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn、n(n、nの直交軸はn−nが最大となるように定められる)としたとき以下の[1]〜[5]の要件を満たすことを特徴とする光学積層体;
[1]Tg>Tg
[2]n>n、n>n、n≒n
[3]n>(n+n)/2、
[4](n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきが10nm以内である、
[5]光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±20nm以内である;
(2)ヘイズが3%以下である前記(1)記載の光学積層体;
(3)前記固有複屈折値が負である樹脂が、ビニル芳香族系重合体である前記(1)又は(2)記載の光学積層体;
(4)前記ビニル芳香族系重合体が、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体である前記(3)に記載の光学積層体;
(5)前記透明な樹脂が、脂環式構造を有する重合体樹脂である前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の光学積層体;
(6)固有複屈折値が負でありガラス転移温度Tgを有する樹脂を含有してなる樹脂材料(a)と、Tgよりも20℃以上低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂を含有してなる樹脂材料(b)とを共押出して、未延伸積層体を得る工程、及び前記未延伸積層体を前記(Tg−10)℃〜(Tg+20)℃の温度で延伸する工程を有することを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の光学積層体の製造方法;
(7)前記延伸工程が、未延伸積層体を温風で加熱することを含み、未延伸積層体上部における未延伸積層体に直角に吹き出す温風の温度をT(℃)、温風の風速をU(m/秒)、未延伸積層体から温風の吹き出し口までの最短距離をL(m)、未延伸積層体下部における未延伸積層体に直角に吹き出す温風の温度をT(℃)、温風の風速をU(m/秒)、未延伸積層体から温風の吹き出し口までの最短距離をL(m)としたとき、下式(1)で計算されるVの、未延伸積層体の上部におけるVに対する下部におけるVの比(V/V)が、0.5<V/V<2を満たすことを特徴とする前記(6)記載の製造方法、
式(1):V=(T×U)/L;
(8)前記未延伸積層体の各層の厚みのばらつきが±3%以内である前記(6)又は(7)記載の製造方法;
及び
(9)前記延伸工程において、未延伸積層体の流れ方向の中心部から左右の領域の温度を中心部の温度に対して±1.5℃以内とする前記(6)〜(8)のいずれか1つに記載の製造方法;がそれぞれ提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学積層体は、位相差のコントロールが可能で、かつ位相差のばらつき(光入射角が0°及び40°のとき)が少なく、さらに色むらや輝度ムラが少ないので、複屈折の高度な補償が可能となり、それ単独または他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償板などとして、液晶表示装置、有機EL表示装置などの装置に広く応用可能である。また、本発明の方法によれば、本発明の光学積層体を、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層(A層)の破断なく、製造効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光学積層体は、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層(A層)及びその少なくとも片面に設けられた透明な樹脂を含有してなる層(B層)を含む。以下、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層を単にA層、透明な樹脂を含有してなる層を単にB層と記すことがある。
【0014】
本発明の光学積層体のA層に使用する固有複屈折値が負である樹脂とは、分子が一軸性の秩序をもって配向した層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなるものをいう。
【0015】
A層に用いる固有複屈折率が負の樹脂としては、ディスコティック液晶ポリマー、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリメチルメタクリレート系重合体、セルロースエステル系重合体、これらの多元(二元、三元等)共重合体などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
これらの中でも、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体およびポリメチルメタクリレート系重合体の中から選択される少なくとも1種が好ましい。中でも複屈折発現性が高いという観点から、ビニル芳香族系重合体がより好ましい。
【0017】
ビニル芳香族系重合体とは、ビニル芳香族単量体の重合体、又はビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体との共重合体のことをいう。
ビニル芳香族単量体としては、スチレン;4−メチルスチレン、4−クロロスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−tert−ブトキシスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体;などが挙げられる。これらを単独若しくは2種以上併用して使用してもよい。
ビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体としては、プロピレン、ブテン等のオレフィン;アクリロニトリル等のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体;アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;アクリル酸エステル;メタアクリル酸エステル;マレイミド;酢酸ビニル;塩化ビニル;などが挙げられる。
ビニル芳香族系重合体の中でも、耐熱性が高い観点から、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が好ましい。
【0018】
本発明において、A層の厚みは、特に限定されないが、通常5〜400μm、好ましくは15〜250μmである。
【0019】
本発明において、A層に用いる固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度Tgは、使用時の耐熱性に優れる点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0020】
本発明の光学積層体に使用するB層に用いる前記固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度Tgよりも低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂としては、前記A層に用いる樹脂のガラス転移温度Tgよりも低いガラス転移温度Tgを有し、かつ1mm厚で全光線透過率が80%以上のものであれば特に制限されず、例えば、脂環式構造を有する重合体樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどの鎖状オレフィン系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリエステル系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリエーテルスルホン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、酢酸セルロース系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリメチルメタクリレート系重合体などが挙げられる。これらの中でも、脂環式構造を有する重合体樹脂、鎖状オレフィン系重合体、ポリスチレン系重合体、又はポリメチルメタクリレート系重合体が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、脂環式構造を有する重合体樹脂が特に好ましい。もし、A層に用いる樹脂と同じ種類のものを用いる場合には、A層に用いる樹脂のガラス転移温度よりも20℃以上低いものを選択することが好ましい。
【0021】
脂環式構造を有する重合体樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するものであり、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するものが好ましい。
【0022】
脂環式構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。本発明に使用される脂環式構造含有重合体樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、もっとも好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する重合体樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると光学積層体の透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0023】
脂環式構造を有する重合体樹脂は、具体的には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、透明性や成形性の観点から、ノルボルネン系重合体がより好ましい。
ノルボルネン系重合体としては、具体的にはノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体水素添加物が最も好ましい。
脂環式構造を有する重合体樹脂は、例えば特開2002−321302号公報などに開示されている公知の重合体から選ばれる。
【0024】
本発明の光学積層体のB層に用いる透明な樹脂として好適に用いられるノルボルネン系重合体の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系重合体の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学積層体を得ることができる。
【0025】
重合したときXの構造を繰り返し単位として有するモノマーとしては、ノルボルネン環に五員環が結合した構造を有するノルボルネン系単量体が挙げられ、より具体的には、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.10,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、及びその誘導体が挙げられる。
また、重合したときYの構造を繰り返し単位として有するモノマーとしては、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]デカ−3,7−ジエン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)が挙げられる。
【0026】
このようなノルボルネン系重合体を得る手段としては、具体的にはa)重合したとき前記Xの構造を繰り返し単位として有することができるモノマーと、重合したとき前記Yの構造を繰り返し単位として有することができるモノマーとを共重合比をコントロールして重合し、必要に応じてポリマー中の不飽和結合を水素添加する方法や、b)前記Xの構造を繰り返し単位として有するポリマーと、前記Yの構造を繰り返し単位として有するポリマーとをブレンド比をコントロールしてブレンドする方法が挙げられる。
【0027】
本発明において、B層に用いる透明な樹脂のガラス転移温度Tgは、A層に用いる固有複屈折が負である樹脂のガラス転移温度Tgよりも低く、20℃以上低いことが好ましい。TgがTgと同等以上であると、特にB層に用いる透明な樹脂の固有複屈折値が正である場合、延伸によってA層の屈折率異方性だけでなく、B層の屈折率異方性が発現してしまい、目的とする面内の直交軸方向の屈折率と厚み方向の屈折率との関係が得られにくくなる。
【0028】
本発明において、B層に用いる透明樹脂の分子量は、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)で測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、光学積層体の機械的強度及び成形加工性が高度にバランスされ好適である。
【0029】
本発明において、B層に用いる透明樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1〜10、好ましくは1〜4、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0030】
本発明に好適に用いる脂環式構造を有する重合体樹脂は、その分子量2,000以下の樹脂成分(すなわち、オリゴマー成分)の含有量が5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。オリゴマー成分の量が多いと樹脂積層体を延伸する際に、表面に微細な凹凸が発生したり、厚みムラを生じたりして面精度が悪くなる。
【0031】
オリゴマー成分の量を低減するためには、重合触媒や水素化触媒の選択、重合、水素化などの反応条件、樹脂を成形用材料としてペレット化する工程における温度条件、などを最適化すればよい。オリゴマーの成分量は、シクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0032】
本発明においてB層の波長548.6nmにおける正面位相差Reは、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。さらに、B層の波長548.6nmにおける厚み方向の位相差Rthは、0〜20nmであることが好ましい。
【0033】
本発明において、B層の厚みは、特に限定されないが、通常15〜250μm、好ましくは25〜150μmである。
【0034】
本発明において、A層に用いる固有複屈折値が負である樹脂及び/又はB層に用いる透明な樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止剤、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で添加することができる。これらの添加剤は、A層に用いる固有複屈折値が負である樹脂又はB層に用いる透明な樹脂100重量部に対して、通常0〜5重量部、好ましくは0〜3重量部使用する。A層における固有複屈折値が負である樹脂及びB層における透明な樹脂の割合は、それぞれ95〜100重量%、好ましくは97〜100重量%である。
【0035】
本発明の光学積層体は、波長548.6nmの光で測定した積層体の厚み方向の屈折率をn、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn、n(n、nの直交軸はn−nが最大となるように定められる)としたとき、n>n、n>n及びn≒n並びにn>(n+n)/2を満たす。
ここで、n≒nとは、nとnとの差が、通常0.0002以下、好ましくは0.0001以下、さらに好ましくは0.00005以下の範囲である。
【0036】
また、本発明の光学積層体をポジティブレターダーとして使用する場合は、厚み方向の位相差Rthが0以下であることが必要である。Rthは使用目的に応じて設定すればよいが、位相差補償素子としての機能を果たす上では−50〜−1000nmの範囲、好ましくは−100〜−500nmの範囲とする。Rthは、式:Rth=((n+n)/2−n)×dで定義される数値である。なお、dは光学積層体の厚みである。以下、dは光学積層体の厚みをさす。
【0037】
本発明の光学積層体において、(n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきは、10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。正面位相差Reのばらつきを、前記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差補償素子として用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、正面位相差Reのばらつきは、光入射角0°(入射光線と本発明の積層体表面が直交する状態)の時の面内位相差を測定したときの、その面内位相差の測定値の内、最大値と最小値の差とする。以下、正面位相差Reのことを単にReと記すことがある。
【0038】
本発明の光学積層体では、光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±20nm以内、好ましくは±10nm以内である。ここで、光入射角が40°とは、入射光線と積層体面の法線とのなす角度が40°であることをいう。また、位相差R40のばらつきは、測定値の算術平均値に対する各測定値のばらつきとする。以下、位相差R40を単にR40と記すことがある。
これは、公知の自動複屈折計を用いて測定することができる。
【0039】
本発明においては、光学積層体のヘイズが3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。ヘイズが3%を超えると、フィルムを透過する光が散乱し、偏光が均一でなくなり、液晶表示装置に組み込んだとき、液晶表示のコントラストが低下し、表示品位が悪くなる傾向にある。
【0040】
本発明の光学積層体においては、吸湿や温度変化、または経時変化による反りなどを防止する観点からは、A層の両面に、B層を設けることが好ましく、この場合A層の両面に設けるB層の厚みは実質的に等しいことが好ましい。また、片面のみにB層を設ける場合は、重ねるB層の数に限りはないが、通常は1層である。
【0041】
本発明の光学積層体においては、A層とB層との間に接着剤層(C層)を設けてもよい。以下、接着剤層を単にC層と記すことがある。
【0042】
C層は、A層に用いる固有複屈折値が負の材料とB層に用いる透明な樹脂との双方に対して親和性があるものから形成することができる。例えば、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−アクリル酸エステル共重合体;エチレン−メタアクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エチル共重合体などのエチレン−メタアクリル酸エステル共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系共重合体;他のオレフィン共重合体が挙げられる。また、これらの共重合体を酸化、ケン化、塩素化、クロルスルホン化などにより変性した変性物を用いることもできる。本発明において、変性した共重合体を使用すると、積層構造体成形時のハンドリング性や接着力の耐熱劣化性を向上させることができる。
C層の厚みは、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmである。
【0043】
本発明の光学積層体において、C層を含む場合は、C層に用いる接着剤のガラス転移温度又は軟化点Tgは、前記Tgよりも低いことが好ましく、Tgよりも20℃以上低いことがさらに好ましい。
【0044】
本発明の光学積層体の厚みは、通常10〜500μm、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。液晶表示装置等に用いる場合、厚みが薄いほど装置全体の薄型化や軽量化が図れるが、機械的強度や取り扱いの容易性の観点ではある程度の厚みが必要である。
【0045】
本発明の光学積層体は、他の位相差フィルム、例えば固有複屈折値が正である材料からなるフィルムを一軸延伸して得られた位相差フィルムと組み合わせた構成として用いてもよい。
【0046】
本発明の光学積層体を製造する方法は、特に制限されないが、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる樹脂材料(a)と、前記固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度Tgよりも20℃以上低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂を含有してなる樹脂材料(b)とを共押出して、未延伸積層体を得る工程、及び前記未延伸積層体を前記(Tg−10)℃〜(Tg+20)℃の温度で延伸する工程を有することが好ましい(以下、この方法を「本発明の製造方法」とする。)。
【0047】
本発明の製造方法では、固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる樹脂材料(a)と、前記固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度Tgよりも20℃以上低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂を含有してなる樹脂材料(b)とを共押出して、未延伸積層体を得る。
【0048】
本発明の製造方法で用いる固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる樹脂材料(a)は、固有複屈折値が負である樹脂又はこの樹脂とその他の添加剤を含有してなる樹脂組成物である。固有複屈折値が負である樹脂及びその他の添加剤としては、本発明の光学積層体で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
本発明の製造方法で用いる透明な樹脂を含有してなる樹脂材料(b)は、透明な樹脂又はこの樹脂とその他の添加剤を含有してなる樹脂組成物である。透明な樹脂及びその他の添加剤としては、本発明の光学積層体で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
共押出する方法としては、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法などが挙げられる。中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式、マルチマニホールド方式が挙げられるが、マルチマニホールド方式がさらに好ましい。
押出し温度は、使用する固有複屈折値が負である樹脂や透明な樹脂及び必要に応じて用いられる接着剤の種類に応じて適宜選択すればよい。押出し機内の温度で、樹脂投入口はTg〜(Tg+100)℃、押出し機出口は(Tg+50)〜(Tg+170)℃、ダイス温度は(Tg+50)℃〜(Tg+170)℃とするのが好ましい。ここでTgは押出す樹脂のガラス転移温度である。本発明の製造方法ではTgの異なる樹脂を同時に押し出すため、各樹脂のTgの全てがこの範囲内であることが好ましい。
【0051】
未延伸積層体を延伸する際には、未延伸積層体を予め加熱する工程(予熱工程)、予熱された未延伸積層体を延伸する工程(延伸工程)、延伸したフィルムを緩和する工程(熱固定工程)を有する。
予熱工程において、未延伸積層体を加熱する手段としては、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は加熱した液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。
予熱工程における加熱温度は、通常、延伸温度−40℃〜延伸温度+20℃、好ましくは延伸温度−30℃〜延伸温度+15℃である。延伸温度は、加熱装置の設定温度を意味する。
【0052】
延伸工程において、延伸する方法としては、チャックをパンタグラフで連結し、チャック間隔で開くパンタグラフ式のテンター;チャックをスクリュー形状の軸で駆動し、スクリュー溝の間隔を調整することでチャック間隔を開くスクリュー式のテンター;また、リニアモーター式のテンター;などが挙げられる。
【0053】
積層体を延伸する方法は特に制限はなく、従来公知の方法が適用され得る。具体的には、ロール側の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンターを用いて横方向に一軸延伸する方法等の一軸延伸法;固定するクリップの間隔を開いての縦方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後、その両端部をクリップ把持してテンターを用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;が挙げられる。面内の直交軸方向の屈折率をバランスさせ、面内位相差を実質的にゼロにする場合(ポジティブレターダー)には二軸延伸法が好ましい。
【0054】
本発明の製造方法においては、延伸温度は、A層に用いる固有複屈折値が負である樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg−10(℃)〜Tg+20(℃)、好ましくはTg−5(℃)〜Tg+15(℃)の範囲である。延伸温度を上記範囲とすることにより、延伸時にB層の屈折率異方性を発現させずに、さらにA層を破断しないようにA層の屈折率異方性だけを発現させることができ、本発明の光学積層体を容易に得ることができる。
【0055】
本発明の製造方法においては、延伸に供する未延伸積層体の各層の厚みのばらつきが±3%以内であることが好ましい。厚みのばらつきを前記範囲にすることにより、本発明の光学積層体のReやR40のばらつきを少なくすることができる。ここでいう厚みのばらつきは、厚みを何点か測定し、その算術平均値を求め、その算術平均値に対する測定値のばらつきとする。
未延伸積層体の各層の厚みのばらつきを±3%以内にするための手段としては、1)ダイスの開口部から押出されたシート状の未延伸積層体が最初に密着するキャストロールまでを囲い部材で覆う;2)フィルム両端部をキャストロール上でエッジピニングし、第2ロール上でエアブラストを行う;3)ダイスリップと未延伸積層体のキャスト部との間の距離を200mm以下とする;ことが挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法においては、延伸工程における未延伸積層体の流れ方向の中心部から左右の領域の温度が中心部の温度に対して±1.5℃以内とすることが好ましく、±1℃以内とすることがさらに好ましい。左右の領域の温度差を均一とすることで左右の延伸度合いが均一となるので、得られる光学積層体の厚み、Re及びR40を均一にできる。また、左右の厚みが均一となることから、未延伸積層体にかかる応力及び温度も均一となり、延伸や緩和の程度が均一となる。
【0057】
本発明の製造方法においては、前記延伸工程において、未延伸積層体の加熱手段が温風であって、該温風の温度をT(℃)、温風の風速をU(m/秒)、フィルムから温風の吹き出し口の最短距離をLとしたときに表されるV(=T×U×1/L)の、未延伸積層体の上部におけるVに対する下部におけるVの比(V/V)が、0.5<V/V<2を満たすことが好ましい。V/Vを前記範囲とすることにより、温風の熱量が上下で均一となり、B層のReの発現を抑えることができる。また、厚物フィルムの厚み方向での延伸度合いが均一となり、R40が均一となる。ここで温風の温度は、加熱装置、例えばオーブンの設定温度である。
【0058】
本発明の製造方法においては、延伸倍率は、通常1.1〜10倍、好ましくは1.3〜5倍である。延伸方法が、逐次二軸延伸である場合には、二回目の延伸倍率を一回目の延伸倍率よりも小さくすることが好ましい。具体的には、二回目の延伸倍率を、一回目の延伸倍率の0.5〜0.95倍である。延伸倍率が、上記範囲を外れると、配向が不十分で屈折率異方性、ひいては位相差の発現が不十分になったり、積層体が破断したりするおそれがある。ここでいう延伸倍率は、二軸延伸を行う場合は、縦方向、横方向それぞれの延伸倍率をさす。通常、縦方向とは、積層体の長手方向を指し、横方向は幅方向を指す。
【0059】
熱固定工程における緩和温度は、通常、室温〜延伸温度+30℃、好ましくは延伸温度−40℃〜延伸温度+20℃である。また、熱固定工程においては特に温度を設定せず、延伸温度のまま保持してもよい。
【0060】
本発明の光学積層体は、複屈折によって生じる位相差の高度な補償が可能なので、それ単独または他の部材と組み合わせて、位相差板、視野角補償板、輝度向上フィルムなどとして、液晶表示装置、有機EL表示装置などの装置に広く応用可能である。
【実施例】
【0061】
本発明を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行なった。
(1)分子量
シクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を溶媒にしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン又はポリイソプレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0062】
(2)ガラス転移温度(Tg)
JIS K7121に基づいて示差走査熱量分析法(DSC)を用いて測定した。
(3)積層体の厚み、積層体各層の厚み及びそのばらつき
接触式卓上型オフライン厚み計測装置、TOF−4R(山文電気社製)を用いて、測定間隔1mmで測定した。厚みは、その測定値の算術平均値Tとした。厚みのばらつきは、前記測定した厚みの内最大値をTMAX(μm)、最小値をTMIN(μm)として以下の式から算出した。
厚みのばらつき(%)=(TMAX−TMIN)/T×100
なお、積層体各層の厚みは、積層体断面をカッターで切り出し、光学顕微鏡で断面層を観察し、その比率から各層の厚みを求めた。
(4)ヘイズ
ASTM D1003に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、「NDH−2000」)を用いて測定した。
(5)波長548.6nmにおける積層体の厚み方向の屈折率(n)、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率(n、n)、位相差(正面位相差Re、厚み方向の位相差Rth)及び正面位相差Reのばらつき
自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。なお、正面位相差Reのばらつきは、積層体の中心から上下左右に30mm間隔で5点ずつの20点と中心部の合計21点で正面位相差Reを測定して、その算術平均値を正面位相差Reとし、測定値の最大値−最小値を正面位相差Reのばらつきとした。
(6)波長548.6nmにおける光入射角が40°のときの位相差R40及びそのばらつき
自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
なお、R40のばらつきは、積層体の中心から上下左右に30mm間隔で5点ずつの20点と中心部の合計21点でR40を測定して、その算術平均値をR40とした。各測定値のR40に対するばらつきをR40のばらつきとした。
(7)波長548.6nmにおける光学積層体中の透明な樹脂を含有してなる層(B層)の正面位相差Re及び厚み方向の位相差Rth
積層体から透明な樹脂を含有してなる層を剥がして、自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−21ADH)を用いて測定した。
【0063】
(8)輝度ムラ
市販の液晶ディスプレイ(富士通社製、VL−152VA)の偏光板と液晶パネルとの間に積層体を配置し、ディスプレイの背景を黒表示にし、暗室内で目視により輝度ムラ(白抜け)がないか確認した。評価は、正面方向、上下左右40°で行なった。
【0064】
(製造例1)未延伸積層体1の製造例
ノルボルネン系重合体(日本ゼオン社製、ZEONOR1020、ガラス転移温度は105℃)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(ノヴァ・ケミカル社製、商品名「Daylark D332」、ガラス転移温度130℃、オリゴマー成分含有量3重量%)をそれぞれ50mmの単軸押出機(L/D=28)に導入し、押出機出口温度260℃で溶融樹脂をマルチマニホールドダイに供給した。一方、変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体(三菱化学社製、商品名「モディックAPA543」、ビカット軟化点80℃)を40mmの単軸押出機(L/D=28)に導入し、押出機出口温度180℃で溶融樹脂を上記マルチマニホールドダイに供給した。そして、溶融状態のノルボルネン系重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、及び変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体それぞれをマルチマニホールドダイから260℃で吐出させ、130℃に温度調整されたキャストロールにキャストし、その後、50℃に温度調整された冷却ロールに通して、ノルボルネン系重合体からなるB層、スチレン−無水マレイン酸共重合体からなるA層、及び変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤層(C層)を有する、B層(90μm)−C層(10μm)−A層(200μm)−C層(10μm)−B層(90μm)の3種5層からなる幅600mm、厚み400μmの未延伸積層体1を共押出成形により得た。なお、ダイスから吐出する際に、ダイスの両側とダイスの裏側をアルミニウム製の囲い部材で、ダイスから囲い部材までの距離を200mm、シート状の未延伸積層体から囲い部材までの距離を250〜300mmの間になるように覆った。この未延伸積層体の両端50mmずつをトリミングして幅300mmとした。
この未延伸積層体1のA層の厚みのばらつきは、厚み200μmに対して±0.5%、B層の厚みのばらつきは厚み90μmに対して±1.4%であった。
【0065】
(製造例2)未延伸積層体2の製造
ノルボルネン系重合体のかわりに、ポリメチルメタクリレート系重合体(旭化成社製、商品名「デルペット」80NH、ガラス転移温度は102℃)を用いた他は、製造例1と同様にしてポリメチルメタクリレート系重合体からなるB層、スチレン−無水マレイン酸共重合体からなるA層、及び変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤層(C層)を有する、B層(90μm)−C層(10μm)−A層(200μm)−C層(10μm)−B層(90μm)の3種5層からなる幅600mm、厚み400μmの未延伸積層体2を得た。
この未延伸積層体2のA層の厚みのばらつきは、厚み200μmに対して±0.5%、B層の厚みのばらつきは厚み90μmに対して±1.7%であった。
【0066】
(製造例3)未延伸積層体3の製造
ノルボルネン系重合体のかわりに、スチレン−メチルメタクリレート共重合体(電気化学工業社製、商品名「TXポリマー」、TX−100−300S、ガラス転移温度は100℃)を用いた他は、製造例1と同様にしてスチレン−メチルメタクリレート系共重合体からなるB層、スチレン−無水マレイン酸共重合体からなるA層、及び変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる接着剤層(C層)を有する、B層(91μm)−C層(10μm)−A層(198μm)−C層(10μm)−B層(91μm)の3種5層からなる幅600mm、厚み400μmの未延伸積層体3を得た。
この未延伸積層体3のA層の厚みのばらつきは、厚み198μmに対して±0.5%、B層の厚みのばらつきは厚み91μmに対して±1.9%であった。
【0067】
(製造例4)未延伸積層体4の製造
ダイスの両側及び裏側を囲い部材で覆わない他は、製造例1と同様に未延伸積層体4を得た。
この未延伸積層体4のA層の厚みのばらつきは厚み201μmに対して±1%、B層の厚みのばらつきは厚み92μmに対して±3.3%であった。
【0068】
(実施例1)光学積層体1の製造
製造例1で得られた未延伸積層体1を縦210mm×横160mmのシートに切断し、これを同軸二軸延伸機(市金工業社製、高機能薄膜装置FITZ)を用いて、オーブン温度(予熱温度、延伸温度、熱固定温度)136℃、フィルム繰り出し速度1m/分、チャックの移動精度±1%以内、V/V=0.67、未延伸積層体の中心部の温度に対する左右の温度差を1℃以内、左右のチャックがオーブン入り口で未延伸積層体を挟むときの時間差を0.2秒以内として、縦延伸倍率1.5倍、横延伸倍率1.5倍で同時二軸延伸を行い、B層(40μm)−C層(5μm)−A層(89μm)−C層(5μm)−B層(40μm)からなる厚み179μm、幅450mmの延伸積層体を得た。そして得られた延伸積層体の両端を50mmずつトリミングして、厚み179μm、幅350mmの光学積層体1を得た。
得られた光学積層体1の測定結果を表1に示す。
また、この光学積層体1を用いて輝度ムラを評価したところ、正面方向、上下左右40°いずれの方向から見ても輝度ムラは見られなかった。
【0069】
(実施例2)光学積層体2の製造
未延伸積層体1のかわりに製造例2で得られた未延伸積層体2を用い、延伸倍率を縦、横共に2倍とした他は、実施例1と同様にして、B層(45μm)−C層(5μm)−A層(100μm)−C層(5μm)−B層(45μm)からなる厚み200μm、幅350mmの光学積層体2を得た。
得られた光学積層体2の測定結果を表1に示す。
また、この光学積層体2を用いて輝度ムラを評価したところ、正面方向、上下左右40°いずれの方向から見ても輝度ムラは見られなかった。
【0070】
(実施例3)光学積層体3の製造
未延伸積層体1のかわりに製造例3で得られた未延伸積層体3を用い、延伸倍率を縦、横共に2.8倍とした他は、実施例1と同様にして、B層(33μm)−C層(5μm)−A層(72μm)−C層(5μm)−B層(33μm)からなる厚み148μm、幅350mmの光学積層体3を得た。
得られた光学積層体3の測定結果を表1に示す。
また、この光学積層体3を用いて輝度ムラを評価したところ、正面方向、上下左右40°いずれの方向から見ても輝度ムラは見られなかった。
【0071】
(比較例1)光学積層体4の製造
製造例4で得られた未延伸積層体4を用い、オーブン温度(予熱温度、延伸温度、熱固定温度)152℃、未延伸積層体の中心部の温度に対する左右の温度差を5℃、V/V=0.4、左右のチャックがオーブン入り口で未延伸積層体を挟むときの時間差を0.5秒、延伸倍率を縦横共に2倍とした他は、実施例1と同様にして、光学積層体4を得た。
得られた光学積層体4の測定結果を表1に示す。
また、この光学積層体4を用いて輝度ムラを評価したところ、正面、左右40°からみたところ輝度ムラ(白抜け)が見られた。しかし、文字の反転は見られなかった。上下40°からみたところ輝度ムラが見られ、文字の反転が見られた。
【0072】
【表1】

【0073】
本実施例及び比較例の結果から以下のことがわかる。本発明の光学積層体は、実施例に示すように、積層体の厚み方向の屈折率をn、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn、nとしたとき、n>(n+n)/2、(n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきが10nm以内nm、光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±20nm以内である。そのため、この光学積層体を液晶表示装置に用いると、正面方向だけでなく、上下左右40°の方向から見たときの輝度ムラもなく、良好な表示を提供することができる。
一方、比較例の光学積層体は、n>(n+n)/2は満たしているが、(n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきが12.8nm、光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±23nmである。このため、この光学積層体を液晶表示装置に用いると、正面方向、左右40°方向からみたときに輝度ムラが見られ、さらに上下40°の方向からみたときは文字の反転が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折値が負である樹脂を含有してなる層(A層)、及び前記A層の少なくとも片面に設けられた透明な樹脂を含有してなる層(B層)を含む光学積層体であって、
前記固有複屈折が負である樹脂のガラス転移温度をTg、前記透明な樹脂のガラス転移温度をTg、前記積層体の厚みをd、波長548.6nmの光で測定した厚み方向の屈折率をn、厚み方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn、n(n、nの直交軸はn−nが最大となるように定められる)としたとき以下の[1]〜[5]の要件を満たすことを特徴とする光学積層体:
[1]Tg>Tg
[2]n>n、n>n、n≒n
[3]n>(n+n)/2;
[4](n−n)×dで表される正面位相差Reのばらつきが10nm以内である;
[5]光入射角が40°のときの位相差R40のばらつきが±20nm以内である。
【請求項2】
ヘイズが3%以下である請求項1記載の光学積層体。
【請求項3】
前記固有複屈折値が負である樹脂が、ビニル芳香族系重合体である請求項1又は2記載の光学積層体。
【請求項4】
前記ビニル芳香族系重合体が、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体である請求項3に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記透明な樹脂が、脂環式構造を有する重合体樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学積層体。
【請求項6】
固有複屈折値が負でありガラス転移温度Tgを有する樹脂を含有してなる樹脂材料(a)と、Tgよりも20℃以上低いガラス転移温度Tgを有する透明な樹脂を含有してなる樹脂材料(b)とを共押出して、未延伸積層体を得る工程、及び前記未延伸積層体を前記(Tg−10)〜(Tg+20)℃の温度で延伸する工程を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学積層体の製造方法。
【請求項7】
前記延伸工程が、未延伸積層体を温風で加熱することを含み、未延伸積層体上部における未延伸積層体に直角に吹き出す温風の温度をT(℃)、温風の風速をU(m/秒)、未延伸積層体から温風の吹き出し口までの最短距離をL(m)、未延伸積層体下部における未延伸積層体に直角に吹き出す温風の温度をT(℃)、温風の風速をU(m/秒)、未延伸積層体から温風の吹き出し口までの最短距離をL(m)としたとき、下式(1)で計算されるVの、未延伸積層体の上部におけるVに対する下部におけるVの比(V/V)が、0.5<V/V<2を満たすことを特徴とする請求項6記載の製造方法。
式(1):V=(T×U)/L
【請求項8】
前記未延伸積層体の各層の厚みのばらつきが±3%以内である請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
前記延伸工程において、未延伸積層体の流れ方向の中心部から左右の領域の温度を中心部の温度に対して±1.5℃以内とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/019883
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513350(P2005−513350)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012194
【国際出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】