説明

光学素子、露光装置及びデバイス製造方法

【課題】スループットを良好に維持できる光学素子、露光装置、及びこれらを用いたデバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】基板と、前記基板上に各層の層厚の比率が一定になるように複数層積層され、極端紫外線及び軟X線の少なくとも一方を含む露光光を反射する反射領域を有し、当該反射領域で反射される前記露光光の入射角の分布に応じて前記反射領域内に前記層厚の分布が形成された多層膜とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、露光装置及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路の微細化に伴い、光の回折限界によって達成される光学系の解像度を向上させるため、従来の紫外線に代えてこれより短い波長(例えば11〜14nm)の極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)を用いた露光技術が開発されている。このような極端紫外線(以下、「EUV光」という。)等を用いた露光装置では、投影用や照明用の光学素子として反射ミラーが用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、露光装置においては、より解像度を高める手段として光学系の高NA化が進められている。このような光学系を実現するためには、光線入射角の範囲が従来以上に拡大された光学素子の適用が不可欠である。そこで従来のEUV露光装置では、光学素子表面に形成される多層反射膜の周期膜厚を最大反射率が得られる値より若干厚めに設定することで上記のような光学系に対応していた。
【0004】
NAがさらに拡大され概ね0.26〜0.30程度となった光学系では、一般的な周期構造の多層膜で対応可能な入射角の範囲を超えるような光学素子が必要となる。このような光学素子に対しては、例えば、特許文献1に示すような不等周期構造を有する広帯域多層膜を用いて反射率を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/038886号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような広帯域多層膜を用いると、入射角範囲を拡大するほどに得られる反射率は低くなり、露光光の光量のロスが大きくなると共に、スループットが低下してしまうという問題があった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、露光光の光量のロスを抑えると共に、スループットを良好に維持できる光学素子、露光装置、及びこれらを用いたデバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光学素子は、基板と、前記基板上に各層の層厚の比率が一定になるように複数層積層され、極端紫外線及び軟X線の少なくとも一方を含む露光光を反射する反射領域を有し、当該反射領域で反射される前記露光光の入射角の分布に応じて前記反射領域内に膜厚の分布が形成された多層膜とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明者は、多層膜に入射した露光光が反射する際、反射領域内の所定位置ごとに入射角の分布が形成される点を見出した。本発明では、この入射角の分布に応じて多層膜の膜厚の分布が形成されているので、多層膜に入射される露光光は反射領域の全体に亘って高い反射率で反射されることとなる。
【0010】
本発明に係る露光装置は、上記の光学素子を備えることを特徴とする。
本発明によれば、高い反射率を得られる光学素子を備えるので、露光精度が向上することとなる。
【0011】
本発明に係るデバイス製造方法は、上記の露光装置を用いて、感光剤が形成された基板の前記感光剤に対して露光を行うことを特徴とする。
本発明によれば、露光精度に優れた露光装置を用いて露光を行うので、感光剤に高精度のパターンが形成されることとなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、露光光の光量のロスを抑え、スループットを良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る露光装置の概略構成図。
【図2】本実施形態に係る光学素子の構成を示す断面図。
【図3】光学素子に入射する露光光の入射角と光学素子上の位置との関係を示すグラフ。
【図4】光学素子に入射する露光光の入射角と反射率との関係を示すグラフ。
【図5】光学素子の構成を模式的に示す断面図。
【図6】広帯域多層膜に入射する露光光の入射角と反射率との関係を示すグラフ。
【図7】半導体デバイスの製造工程の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である露光装置の構成を説明するための図である。この露光装置10は、光学系として、露光光であるEUV光(波長11〜14nm)を含む光源光を発生する光源装置50と、EUV光を照明用のマスクMAに導く照明光学系60と、マスクMAのパターン像を感応基板であるウエハWA上に形成する投影光学系70とを備えている。また、露光装置10は、機械機構として、マスクMAを支持するマスクステージ81と、ウエハWAを支持するウエハステージ82とを備えている。なお、ウエハWAは、感応基板を具体化して、レジスト等の感光層を表面コートしたものである。
【0015】
光源装置50は、例えば、プラズマ励起用のレーザ光を発生するレーザプラズマ光源51と、ターゲット材料であるキセノン等のガスを筐体SC中に供給するチューブ52とを備えている。レーザ光としては、近紫外光や遠紫外光等が適宜使用できる。例えば、248nmに発振波長を持つKrFレーザ等のエキシマレーザや、波長1064nmで発振するYAGレーザの4倍波(波長266nm)を用いることができる。また、波長1064nmで発振するYAGレーザそのものを用いても構わないし、波長10.6μmのCOレーザなどの赤外光を用いることもできる。また、この光源装置50には、コンデンサ54やコリメータミラー55が取り付けられている。光源装置50では、チューブ52の先端から射出されるキセノンに対しレーザプラズマ光源51からのレーザ光を集光させることにより、その部分のターゲット材料をプラズマ化してEUV光を発生させる。コンデンサ54は、チューブ52の先端Sで発生したEUV光を集光する。コンデンサ54を経たEUV光は、収束されつつ筐体SC外に射出し、コリメータミラー55に入射するようになっている。なお、以上のようなレーザプラズマタイプの光源装置50からの光源光に代えて、放電プラズマ光源からの光源光、シンクロトロン放射光源からの放射光等を使用することができる。
【0016】
照明光学系60は、反射型のオプティカルインテグレ一タ61、62、コンデンサミラー63、折曲ミラー64等により構成される。照明光学系60では、光源装置50からの光源光を、多数の小ミラーを含むオプティカルインテグレ一タ61、62によって照明光として均一化しつつコンデンサミラー63によって集光し、折曲ミラー64を介してマスクMA上の所定領域(例えば帯状領域)に入射させる。これにより、マスクMA上の所定領域を適当な波長のEUV光によって均一に照明することができる。
【0017】
なお、EUV光の波長域で十分な透過率を有する物質は存在せず、マスクMAには透過型のマスクではなく反射型のマスクすなわちパターン状のミラーが使用されている。
【0018】
投影光学系70は、多数のミラー71、72、73、74で構成される縮小投影系である。図1においてはミラーの枚数が4枚配置された構成が示されているが、例えばミラーの枚数が6枚配置された構成としても構わない。マスクMA上に形成されたパターン像である回路パターンは、投影光学系70によってレジストが塗布されたウエハWA上に結像してこのレジストに転写される。この場合、回路パターンが一度に投影される領域は、直線状又は円弧状のスリット領域であり、例えばマスクMAとウエハWAとを同期して移動させる走査露光によって、マスクMA上に形成された矩形の回路パターンをウエハWA上の矩形領域に無駄なく転写することができる。
【0019】
マスクステージ81は、制御装置の制御下で、マスクMAを支持しマスクMAの位置や速度等を精密に監視しつつ所望の位置に移動可能な構成となっている。また、ウエハステージ82は、制御装置の制御下で、ウエハWAを支持しウエハWAの位置や速度等を精密に監視しつつ所望の位置に移動可能な構成となっている。
【0020】
以上の光源装置50のうちEUV光の光路上に配置される部分と、照明光学系60と、投影光学系70とは、真空容器84内に配置されており、露光光の減衰が防止されている。つまり、EUV光は大気に吸収されて減衰するが、装置全体を真空容器84によって外部から遮断するとともに、EUV光の光路を所定の真空度(例えば、1.3×10−3Pa以下)に維持することで、EUV光の減衰すなわち転写像の輝度低下やコントラスト低下を防止している。
【0021】
真空容器84内においてEUV光の光路上に配置されるミラー54、55、61、62、63、64、71、72、73、74やマスクMA等の光学素子は、下地となる例えば石英ガラス製の基板上に反射用の多層膜を形成したものである。この光学素子等の光学面の形状は、典型的には凹面であるが、凹面に限らず、平面、凸面、多面等組み込む場所によって適宜調整する。本実施形態では、これら露光装置10の光学系を構成するミラー54、55、61、62、63、64、71、72、73、74やマスクMA等の光学素子として、図2に例示される光学素子100を用いる。
【0022】
図2は、光学素子100の構造を示す断面図である。この光学素子100は、基板101及び多層膜103を有している。基板101は、多層膜構造を支持する母材である。基板101は、例えば合成石英ガラスや低膨張ガラスを加工することによって形成されたものであり、その上面は、所定精度の鏡面に研磨されている。
【0023】
多層膜103は、基板上に各層の層厚の比率が一定になるように複数層積層され、極端紫外線及び軟X線の少なくとも一方を含む露光光を反射する反射領域104を有する反射膜である。基板101及び多層膜103は、例えば平面視で円形に形成されている。本実施形態では、反射領域104は多層膜103の上面の例えば全面に設定されている。したがって、反射領域104は、例えば多層膜103の形状に対応するように平面視で円形に形成されている。なお、反射領域104を多層膜103の一部の領域上に設ける構成としても構わない。本実施形態では、図2において、図中左右方向の中央に反射領域104の中心104aが位置し、図中左右方向の左右端部に反射領域104の外周が位置する構成になっている。
【0024】
多層膜103は、基板101上に真空に対する屈折率が異なる2種類の物質を例えば交互に積層することで形成した数層から数百層の多層膜である。この多層膜103を構成する2種類の薄膜層L1、L2については、例えば、薄膜層L1をMo層とし、薄膜層L2をSi層とすることができる。多層膜103は、薄膜層L2(Si層)が最表面となるよう形成してもよいし、薄膜層L1(Mo層)が最表面となるよう形成しても構わない。また、薄膜層L1、L2の組み合わせは、Mo/Siの他にも、例えばMo/Beといった組み合わせ等も可能である。
【0025】
基板101上の多層膜103については、反射鏡である光学素子100の反射率を高めるために、吸収の少ない物質を多数積層させ、反射面上の各位置ごとに光線入射角の範囲内で反射波の位相が合うように光干渉理論に基づいて膜厚分布を調整する。つまり、投影露光装置内で使用されるEUV光の波長領域に対して、比較的屈折率の大きな薄膜層L1(具体例ではMo層)と比較的屈折率の小さない薄膜層L2(具体例ではSi層)とを、基板101上に、反射波の位相が合うよう所定の膜構成、膜厚分布で交互もしくは任意順序に積層させることで多層膜103が形成されている。なお、多層膜103の形成にあたって、薄膜層L1と薄膜層L2との間にさらに境界膜を設けることもできる。境界膜の材料としては、例えばBC、炭素(C)、炭化モリブデン(MoC)、酸化モリブデン(MoO)等が用いられる。また、多層膜103の表面に少なくとも1層からなるキャッピングレイヤーを設けることも可能である。
【0026】
多層膜103は、反射領域104内に膜厚の分布が形成されている。膜厚の分布は、反射領域104で反射される露光光の入射角の分布に応じて形成されている。本発明者らは、露光光の入射角の分布が上記反射領域104内の位置に応じて変化することを見出した。以下、露光光の入射角の分布、膜厚の分布に関して説明する。
【0027】
図3は、露光光の入射角と反射領域104内の位置との関係を示すグラフである。図中横軸は反射領域104内の位置を示しており、具体的には反射領域104の中心104a(図2参照。以下同様とする。)からの距離を示している。図中縦軸は、入射光の入射角を示している。同図に示すように、反射領域104に入射する露光光の入射角は、反射領域104内の位置(反射領域の中心104aからの距離)に応じて変化している状態になっている。つまり、反射領域104内の位置に応じて入射角の分布が形成されていることがわかる。
【0028】
図3に示すように、反射領域104内の各位置における入射角の最小値は、反射領域104の中心104aからの距離が大きくなるにつれて一定の割合で減少している。反射領域104内の各位置における入射角の最大値は、反射領域104の中心104aから離れるにつれて一旦増加して極大値をとり、当該極大値をとる位置から更に離れるにつれて減少している。反射領域104の中心及び外周端部では、入射角の最大値と最小値とが一致している。
【0029】
図3に示すように、反射領域104の中心104aから例えば31mm程度離れた位置(位置C)において、入射角の最大値と最小値との差が最も大きくなっている。このような位置Cは、本実施形態の多層膜103においては反射領域104の中心104aを中心とする円の軌道上となる。本実施形態では、位置Cにおいて高い反射率が得られるように多層膜103の膜厚が最適化されるようにする。したがって、薄膜層L1と薄膜層L2の厚さの比率を維持したまま反射領域104内の異なる各位置において所望の入射角に対応できるように、この位置Cを基準として各位置における膜厚が調整されている。
【0030】
膜厚の調整について具体的に説明する。図4は、多層膜103に入射する露光光の入射角と反射率との関係を多層膜103の膜厚(相対膜厚)ごとに示すグラフである。グラフの縦軸は、反射率を示している。グラフの横軸は、露光光の入射角を示している。多層膜103の相対膜厚については、相対膜厚1.00(図4のグラフ(3))を基準として、1.02(図4のグラフ(2))、1.04(図4のグラフ(1))と膜厚を増加させた場合、0.98(図4のグラフ(4))、0.96(図4のグラフ(5))と膜厚を減少させた場合のそれぞれについて例をあげて示している。
【0031】
図5に示すように、相対膜厚を1.04とした場合には、グラフ(1)に示すように、20°よりも大きい入射角の露光光に対する反射率が上昇し、22°〜27°の範囲において反射率がほぼ50%を超えた値となっている。
【0032】
相対膜厚を1.02とした場合には、グラフ(2)に示すように、15°よりも大きい入射角の露光光に対する反射率が上昇し、19°〜26°の範囲において反射率がほぼ50%を超えた値となっている。
【0033】
相対膜厚を1.00とした場合には、グラフ(3)に示すように、10°よりも大きい入射角の露光光に対する反射率が上昇し、15°〜25°の範囲において反射率がほぼ50%を超えた値となっている。
【0034】
相対膜厚を0.98とした場合には、グラフ(4)に示すように、5°よりも大きい入射角の露光光に対する反射率が上昇し、10°〜22°の範囲において反射率がほぼ50%を超えた値となっている。
【0035】
相対膜厚を0.96とした場合には、グラフ(5)に示すように、0°〜19°の範囲において反射率がほぼ50%を超えた値となっている。
【0036】
以上のことから、相対膜厚が大きくなると、反射率がほぼ50%を超えるような入射角の範囲が高角度側にシフトすることがわかる。また、相対膜厚が小さくなると、反射率が略50%を超えるような入射角の範囲が低角度側にシフトすることがわかる。
【0037】
この結果と、図3に示すグラフとを用いて、反射領域内の所定位置ごとに膜厚の調整を行う。具体的には、入射角の最大値と最小値との差が最も大きい位置、すなわち、本実施形態では反射領域の中心から31mm程度離れた位置Cにおいてまず膜厚の調整を行う。この場合、入射角が12°〜21°の範囲に分布していることから、この入射角の範囲において反射率がほぼ50%を超える値となる相対膜厚とすることが好ましいといえる。このような相対膜厚としては、例えば図4のグラフ(4)で示される相対膜厚0.98が該当する。
【0038】
また、他の位置の膜厚については、例えば任意の位置A、B及びDについてそれぞれ調整を行う。例えば位置Aについては、入射角が約21°〜約25°の範囲に分布していることから、この入射角の範囲において反射率がほぼ50%を超える値となる相対膜厚とすることが好ましいといえる。このような相対膜厚としては、例えば図4のグラフ(2)で示される相対膜厚1.02とすることができる。
【0039】
例えば位置Bについては、入射角が約17°〜約23°の範囲に分布していることから、この入射角の範囲において反射率がほぼ50%を超える値となる相対膜厚とすることが好ましいといえる。このような相対膜厚としては、例えば図4のグラフ(3)で示される相対膜厚1.00とすることができる。
【0040】
例えば位置Dについては、入射角が約7°〜約15°の範囲に分布していることから、この入射角の範囲において反射率がほぼ50%を超える値となる相対膜厚とすることが好ましいといえる。このような相対膜厚としては、例えば図4のグラフ(5)で示される相対膜厚0.96とすることができる。
【0041】
また、位置Aよりも反射領域の中心側の位置においては、例えば図4のグラフ(2)で示される相対膜厚1.02とすることによって入射角の分布をカバーすることができる。位置Dよりも反射領域の外周側の位置においては、例えば図4のグラフ(5)で示される相対膜厚0.96とすることによって入射角の分布をカバーすることができる。
【0042】
図5は、多層膜103の構成を模式的に示す断面図である。図5では、図をより直感的に理解しやすくするため、膜厚の縮尺を実際の縮尺とは異なるように示している。同図においては、図中左側から右側に掛けて膜厚が徐々に小さくなっていく例が示されている。この図に示すように、膜厚が小さくなっていく場合であっても、多層膜103の各層の層厚の比率は一定になっている。
【0043】
図5に示すように、位置Aと位置Bとの間の位置については、例えば位置Aの相対膜厚1.02と位置Bの相対膜厚1.00との間で連続的に変化するように相対膜厚を設定することができる。位置Bと位置Cとの間の位置についても同様に、例えば位置Bの相対膜厚1.00と位置Cの相対膜厚0.98との間で連続的に変化するように相対膜厚を設定することができる。位置Cと位置Dとの間の位置についても同様に、例えば位置Cの相対膜厚0.98と位置Dの相対膜厚0.96との間で連続的に変化するように相対膜厚を設定することができる。
【0044】
以上のように、反射領域104内の所定位置(位置A、B、C、D及びそれぞれの間の位置)ごとに膜厚が調整されることで、反射領域104全体において膜厚の分布が形成されている。上記の手法で多層膜103の相対膜厚を調整すると、多層膜103の反射領域104の中心104aでは相対膜厚が大きく、中心104aから外周104bにかけて徐々に相対膜厚が小さくなるように調整されることになる。
【0045】
図6は、多層膜103の膜厚に分布を形成せず、従来の広帯域多層膜のように多層膜の膜厚を大きく形成した場合において、露光光の入射角と反射率との関係を示すグラフである。同図に示すように、従来の多層膜では、本実施形態の各相対膜厚についての個々の場合の入射角と反射率との関係に比べて、高い反射率で反射可能な露光光の入射角の範囲は10°〜25°程度と広くなっている一方、当該反射率が40%程度と低くなっている。
【0046】
これに対して、本実施形態では、多層膜103の膜厚に分布を形成することにより、高反射率で反射可能な露光光の入射角の範囲は、相対膜厚ごとにみると従来の広帯域多層膜に比べて狭くなるものの、露光光の反射率はそれぞれ50%程度となり、従来の多層膜に比べて10%程度高くなる。
【0047】
次に、上記のように構成された露光装置10の全体的動作について説明する。この露光装置10では、照明光学系60からの照明光によってマスクMAが照明され、マスクMAのパターン像が投影光学系70によってウエハWA上に投影される。これにより、マスクMAのパターン像がウエハWAに転写される。
【0048】
以上のように、本実施形態では、露光光の入射角の分布に応じて多層膜103の膜厚の分布が形成されているので、多層膜103に入射される露光光は反射領域104の全体に亘って高い反射率で反射されることとなる。これにより、露光光の光量のロスを抑えると共に、スループットを向上させることができる。
【0049】
以上は、露光装置10の説明であったが、このような露光装置10を用いることによって、半導体デバイスその他のマイクロデバイスを高い集積度で製造するためのデバイス製造方法を提供することができる。具体的には、マイクロデバイスは、図7に示すように、マイクロデバイスの機能や性能、パターンの設計等を行う工程(S101)、この設計工程に基づいてマスクMAを作製する工程(S102)、デバイスの基材であるウエハWAを準備する基板製造工程(S103)、前述した実施形態の露光装置10によりマスクMAのパターンをウエハWAに露光する露光処理工程(S104)、一連の露光やエッチング等を繰り返しつつ素子を完成するデバイス組立工程(S105)、組立後のデバイスの検査工程(S106)等を経て製造される。なお、デバイス組立工程(S105)には、通常ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程等が含まれる。
【0050】
なお、上記実施形態では、光源光としてEUV光を用いる露光装置について説明したが、本発明は、光源光として軟X線を用いる軟X線顕微鏡、軟X線分析装置等の軟X線光学機器にも適用可能である。具体的には、この軟X線光学機器を構成する光学素子として、図2に示すような光学素子100を組み込むことにより、光学機器の光学特性を、コストを増大させることなく良好に維持することが可能となる。
【0051】
また、露光装置10の光学系を構成するミラー54、55、61、62、63、64、71、72、73、74やマスクMAの全てを図2に例示される光学素子100とする必要はなく、照明光学系60、及び投影光学系70のうち少なくともいずれか1つが、図2の光学素子100を含むように各光学系を構成することとしてもよい。例えば、照明光学系60を構成する各光学素子として、図2の光学素子100を用いれば、露光装置10の上流側においても高い反射率を確保することができ、スループットをより確実に向上させることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、本発明に係る光学素子を凹面鏡として用いるミラーに適用する例を説明したが、これに限られることは無く、例えば平面鏡として用いられるミラーに適用する構成であっても構わない。
【0053】
また、本発明は、非露光光の吸収に起因する熱負荷の影響が小さく、低真空でも気体を介した熱交換に有利な照明系フラットミラー等の光学素子に、より好適に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
10…露光装置 L1、L2…薄膜層 A〜D…位置(所定位置) 70…投影光学系 71〜74…ミラー 100…光学素子 101…基板 103…多層膜 104…反射領域 104a…中心 104b…外周

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に各層の層厚の比率が一定になるように複数層積層され、極端紫外線及び軟X線の少なくとも一方を含む露光光を反射する反射領域を有し、当該反射領域で反射される前記露光光の入射角の分布に応じて前記反射領域内に膜厚の分布が形成された多層膜と
を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記入射角の分布は、前記反射領域内の所定位置ごとに形成され、
前記所定位置ごとに前記入射角の分布に応じて前記層厚が調整されることで、前記反射領域全体で前記層厚の分布が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記所定位置の一つは、前記入射角の最大値と最小値との差が最も大きくなる前記反射領域内の位置である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記多層膜は、前記平面視円形に形成されており、
前記層厚は、前記多層膜の中心部から周縁部にかけて徐々に小さくなるように調整されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記所定位置で反射される前記露光光の入射角の分布の範囲は、前記層厚が均一である場合に比べて狭くなっている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の光学素子を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項7】
請求項6に記載の露光装置を用いて、感光剤が形成された基板の前記感光剤に対して露光を行うことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−199503(P2010−199503A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45797(P2009−45797)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】