説明

光学素子および画像表示装置

【課題】散乱による光利用効率の低下を招くことなく、より確実にスペックルノイズを低減することが可能な照明装置、画像表示装置及び偏光変換板を提供すること。
【解決手段】レーザー光を射出するレーザー光源50と、該レーザー光源50から射出されたレーザー光を滑らかな位相差により0度から90度までのすべての偏光方向に変換して射出させる光学素子である偏光変換板Lとを備え、レーザー光源50から射出され偏光変換板Lを透過したレーザー光を、被投射面の一例としてのスクリーン40に重畳して照明することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、照明装置により空間光変調装置を照明し、その空間光変調装置から射出された画像光を投射レンズ等の投射光学系によりスクリーンに拡大投射するプロジェクターが広く知られている。
そのプロジェクターの照明装置として、従来はメタルハライドランプやハロゲンランプ等が利用されていたが、近年では照明装置およびプロジェクターの小型化を図るため、半導体レーザー(LD)の利用が提案されている。レーザー光源の利点として、小型化以外にも、色再現性がよいことや、輝度およびコントラストの高い映像表示が可能であること、瞬時点灯が可能であることなどが挙げられる。
【0003】
しかしながら、レーザー光はコヒーレント光であるため、拡大投射された映像光には、明点および暗点がランダムに分布したスペックルパターンが生じる。スペックルパターンは、投射光学系の各点からの出射光が不規則な位相関係で干渉することによって生じるものである。このスペックルパターンを有する映像は、観察者にぎらぎらとしたちらつき感を与えるため問題である。
【0004】
この問題を解決するため、光源から射出された光を拡散板により拡散させ、スペックルノイズを低減させる画像表示装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。特許文献1に記載のディスプレー装置では、レーザー光源から射出された光は拡散素子により拡散され、拡散された光はレンズにより空間光変調器に集束される。そして、空間光変調器によって画像に変換された光は観察面に表示される。
【0005】
また、特許文献2に記載の投射型画像表示装置では、第1次元表示素子から射出された光はガルバノミラーにより走査され、走査された光は振動しているディフューザーを通過する。これにより、ディフューザーから射出された光は拡散されて、投射レンズによりスクリーン上に拡大投射される。
【0006】
また、特許文献3に記載の画像表示システムでは、第1の光学系により、光源から射出された光による中間像が光拡散角変換素子上に形成され、光拡散角変換素子に入射する入射角より光拡散角変換素子から射出される射出角を大きくする。そして、光拡散角変換素子を振動させることにより、スペックルパターンの時間的変化が人間の眼において積分され、スペックルノイズを低減することが可能となる。
【0007】
【特許文献1】特開平6−208089号公報
【特許文献2】特開2005−84117号公報
【特許文献3】特開2006−53495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載の技術では、拡散板により光源から射出された光を拡散させてスペックルノイズを低減させているが、拡散板を配置した場合、拡散光のすべての成分を空間光変調装置または投射レンズに集光することはできないため、光利用効率が低下する。
また、特許文献3の技術では、拡散板で拡散した光のすべての成分を投射レンズに集光できないことによる光利用効率の低下だけではなく、中間像形成レンズを新たに配置することによるシステムの大型化という問題も発生する。
【0009】
これらの問題点に顧みて、拡散板を用いずにスペックルを低減する方法として複数の偏光を利用する方法が考えられる。例えば、被投射面の同一点に複数の偏光が重畳されて照明されることにより、各々の偏光は互いに干渉しないためスペックルを低減することが可能である。
【0010】
これを実現する方法として、投射レンズの瞳位置または開口絞り位置に、領域ごとに位相差の異なる複屈折性の部材を配置する方法が考えられる。
投射レンズの瞳位置または開口絞り位置は、空間光変調装置および被投射面のフーリエ変換面であるため、空間光変調装置のある一点から射出された光は、瞳位置または開口絞り位置で瞳または開口絞りの全領域に渡り拡がった後、被投射面の一点に向けて収束される。
よって、投射レンズの瞳位置または開口絞り位置に、領域ごとに位相差の異なる複屈折性の部材を配置することにより、被投射面の同一点に複数の偏光を重畳することが可能なため、スペックルを低減することが可能である。
【0011】
しかし、領域ごとに位相差の異なる複屈折性の部材は、例えば半導体プロセスを用いたエッチングなどにより、複屈折性の部材の厚みを領域ごとに変化させることにより作成されるが、厚みが異なる領域には段差が発生するため、これが散乱を引き起こす原因となり、本目的を達成するための部材としは、光利用効率の低下、フーリエ変換面での拡散に起因する映像品質の低下などの理由により適切ではない。また、半導体プロセスを用いることにより、部品価格の高騰を招く。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するように、以下の形態または適用例として実現される。
【0013】
〔適用例1〕本適用例の光学素子は、透明部材上に略同心円状のラビングを施した2枚の基板と、前記2枚の基板に挟持される液晶層とを備え、前記2枚の基板はラビング面が向き合う形で前記液晶層を挟持していることを特徴とする。
液晶性材料を略同心円状に配向させることにより、平面方向に滑らかに位相差の変化を与えることができるため、位相差の境界の発生がなく、これにより散乱を発生させないことが可能となる。
また、液晶性材料の厚さや配向のさせ方を変えることにより位相差を任意に変えることができるため、容易に偏光を制御することが可能となる。
また光学素子は液晶性材料とラビングを施した基板のみで構成可能であるため安価に提供可能となる。
【0014】
〔適用例2〕また、上記適用例に記載の光学素子であって、前記2枚の基板の間に、ギャップを維持するためのスペーサーを介して前記液晶層を挟持していてもよい。
このようにすれば、液晶材料の厚さを容易に所望の厚さにすることが可能なため、容易に所望の位相差を得ることが可能となる。
【0015】
〔適用例3〕また、本適用例の光学素子は、透明部材上に略同心円状のラビングを施した1枚の基板と、前記基板上に塗布された光重合型液晶性モノマーと、からなることを特徴とする。
このようにすれば、光重合型液晶性モノマーはスピン塗布などで容易に所望の厚さを得ることが可能であるため、スペーサーを用いることなく所望の位相差を得ることが可能となる。
【0016】
〔適用例4〕また、上記適用例に記載の光学素子であって、複屈折層の最大位相差がπであってもよい。ここで、最大位相差とは、常光線と異常光線との最大の位相差のことである。
このようにすれば、ひとつの光学素子内で、入射位置により最大で90度偏光の異なる光を出射可能となる。
【0017】
〔適用例5〕本適用例の画像表示装置は、空間光変調装置と、前記空間光変調装置から射出された光を被投射面に投影するための投射レンズと、前記投射レンズの瞳位置または開口絞り位置に配置された上記適用例に記載の光学素子と、を備えることを特徴とする。
このようにすれば、変調された光は投射手段により被投射面に投射されるが、空間光変調装置により変調された光は、投射手段の瞳位置、または開口絞り位置に配置された光学素子により入射位置ごとに偏光方向が変換される。
このとき、投射手段の瞳位置、または開口絞り位置は、空間光変調装置のフーリエ変換面であるため、空間光変調装置の任意の一点から出射した光は、瞳位置、または開口絞り位置で全領域に渡って拡がりをもった空間に変換される。このフーリエ変換面に、入射位置ごとに異なる位相差をもつ光学素子が配置されているため、任意の1点から出射した光は、あらゆる偏光情報をもつ光に変換された後、被投射面に向けて再び収束する。したがって、被投射面にはあらゆる偏光情報が重畳された光が投射されるため、被投射面に投射される画像のスペックルノイズを低減することが可能となる。
【0018】
〔適用例6〕また、本適用例の画像表示装置は、空間光変調装置としてミラースイッチングデバイスを備え、前記画像表示装置の光源から空間光変調装置の光路上に、上記適用例に記載の光学素子を備えることを特徴とする。
このようにすれば、光学素子が、光源と空間光変調装置としてミラースイッチングデバイスとの間の光路上に配置されているため、例えば、光学素子により領域ごとに偏光方向の異なった光が空間光変調装置に入射する。そして、偏光方向の異なる光が被投射面に投射される。このとき、偏光方向の異なる光同士は干渉しないので、被投射面に投射される画像のスペックルノイズを低減することが可能となる。
すなわち、本適用例では、投射手段の瞳位置、または開口絞り位置に光学素子を配置する構成に比べ、被投射映像の解像度劣化が生じにくくなる。
【0019】
〔適用例7〕また、本適用例の画像表示装置は、空間光変調装置と、前記空間光変調装置から被投射面との間の光路上であって、前記空間光変調装置の中間像が形成される位置に配置された上記適用例に記載の光学素子と、を備えることを特徴とする。
このようにすれば、空間光変調装置により変調された光は、中間像に形成された光学素子により、被投射面に投射される光の偏光方向は、入射位置ごとに異なるため、偏光方向の異なる光同士は干渉しないので、被投射面に投射される画像のスペックルノイズを低減することが可能となる。また、空間光変調装置の種類によりスペックル低減性能が左右されることもない。
【0020】
〔適用例8〕また、上記適用例に記載の画像表示装置であって、光源がレーザー光源であることを特徴とする。
このようにすれば、光源がレーザー光源であることに起因するスペックルノイズを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る光学素子、および画像表示装置の実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0022】
[第1実施形態]
本発明にかかる光学素子を、第1実施形態として図1から図4を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係る光学素子としての複屈折光学素子1では、図1に示すように、2枚の透明部材としてのガラス基板11、ガラス基板11上の配向膜12、およびその間に挟持される複屈折層としての液晶層13からなる。
【0024】
配向膜12は、ガラス基板11の中心軸Cを中心に同心円状にラビングされている。この配向膜12を塗布した面を対向させ、2枚のガラス基板11の中心軸Cを一致させた状態で液晶層13を挟持させると、図1に示すとおり、液晶層13は配向膜12にならったかたちで配向される。
【0025】
このとき、液晶層13の厚みを、最大位相差がπとなるように設定しておけば、任意の一方向の振動方向をもつ偏光に対し入射位置によって滑らかに0からπまでの位相差を変化させることが可能である。図2に示すように、ある特定の振動方向に振動する偏光が入射すると、入射位置によって滑らかに0度から90度まで偏光状態が変化した出射側偏光を出射可能な複屈折光学素子1が作成可能となる。
【0026】
図3から図4を参照して、本複屈折光学素子1の作成方法を説明する。
2枚の0.1mm厚の無アルカリガラス基板を一例とするガラス基板11に配向膜12をスピン塗布し、乾燥させる。その後、円柱状の棒31の中心軸とガラス基板11の中心とを対向する位置で合わせたのち、ラビング布32を介して、ラビング布32を互いの中心軸Cを中心にガラス基板11の上で回転させる。すると、ガラス基板には同心円状のラビング痕が形成される。
【0027】
つぎに図4に示すように、ガラス基板11の間にいれる液晶分子の常光線と異常光線の屈折率差Δn1に合わせ、最大でπの位相差が得られる厚みとなるように、ガラス基板11上にギャップ材33を撒布する。その後、図1のように、配向膜12が設けられた面が向かい合う形で、かつお互いの中心が合うように2つのガラス基板11を貼り合わせる。ギャップ材33の直径d1は、用いる液晶の常光線と異常光線の屈折率差をΔn1、対象とする光線の波長をλとすると、d1=Δn1/(λ/2)で表される。
その後、所望のギャップを介して貼り合わせたガラス基板11に液晶分子を注入すると、液晶分子は配向膜12にならって整列されるため、同心円状の配向をもち、最大位相差がπとなる複屈折光学素子1が作成可能となる。
【0028】
図2に示すように、この複屈折板にある一方向の偏光方向の光を入射させると、入射した光の偏光の軸と液晶分子のもつ複屈折の軸が一致または90ずれている場合には位相差の影響を受けないため入射時と同様の偏光が出射され、45度傾いている場合には液晶層13を通過し終えるまでに90度回転した偏光が出射される。
また、その間の角度の場合は、滑らかに偏光が回転した状態で出射されるため、散乱の原因となる位相の境界面が発生しない。
よって、散乱がほとんど発生しない複屈折光学素子1が作成可能となる。
【0029】
[第2実施形態]
本発明にかかる光学素子を、第2実施形態として図5から図6を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態の図面において、上述した第1実施形態に係る光学素子と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
【0030】
本実施形態に係る複屈折光学素子2では、図5に示すように、1枚のガラス基板11と、ガラス基板11上の配向膜12、および配向膜12の上に塗布した複屈折層としての光重合型液晶性モノマーからなる。
【0031】
配向膜12は、ガラス基板11の中心軸Cを中心に同心円状にラビングされている。この配向膜12の上に光重合型液晶性モノマーをスピン塗布し、光硬化させると、図5に示すとおり、液晶層13は配向膜12にならったかたちで上層まで配向される。
【0032】
このとき、光重合型液晶性モノマー34の厚みを、最大位相差がπとなるように設定しておけば、領域によって滑らかに0からπまでの位相差を変化させることが可能であり、第1実施形態と同様に図2に示すように、ある特定の振動方向に振動する偏光が入射すると、入射位置によって滑らかに0度から90度まで偏光状態が変化した出射光が得られる複屈折光学素子2が作成可能となる。
【0033】
図3および図6を参照して、本複屈折板の作成方法を説明する。
図3に示すように、1枚の0.1mm厚の無アルカリガラス基板を一例とするガラス基板11に配向膜12をスピン塗布し、乾燥させる。その後、円柱状の棒31の中心軸とガラス基板11の中心とを対向する位置で合わせたのち、ラビング布32を介して互いの中心軸Cを中心に回転させる。すると、第1実施形態と同様にガラス基板11には同心円状のラビング痕が形成される。
【0034】
つぎに図6に示すように、ガラス基板11上に形成する光重合型液晶性モノマー34の常光線と異常光線の屈折率差Δn2に合わせ、最大でπの位相差が得られる厚みとなるように、光重合型液晶性モノマー34をスピン塗布し、UV光35により光硬化する。ここで用いる光重合型液晶性モノマー34の常光線と異常光線の屈折率差をΔn2、対象とする光線の波長をλとすると、形成する光重合型液晶性モノマー34の厚みd2は、第1実施形態と同様の式で表され、d2=Δn2/(λ/2)となる。
これにより、光重合型液晶性モノマー34は配向膜12にならって空気界面まで配列されるため、同心円状の配向をもち、最大位相差がπとなる複屈折光学素子2が作成可能となる。
【0035】
この複屈折光学素子2にある一方向の偏光方向の光を入射させると、図2に示したときと同様に、入射した光の偏光の軸と液晶分子のもつ複屈折の軸が一致または90度ずれている場合には位相差の影響を受けないため入射時と同様の偏光が出射され、45度傾いている場合には液晶層13を通過し終えるまでに90度回転した偏光が出射される。
また、その間の角度の場合は、滑らかに偏光が回転した状態で出射されるため、散乱の原因となる位相の境界面が発生しない。
【0036】
また第1実施形態では、液晶層13と同時にギャップ材33も挟持しているため、ギャップ材33が僅かな散乱の原因となることがある。
また、第1実施形態では、ガラス基板11/配向膜12/(液晶層13・ギャップ材33)/配向膜12/ガラス基板11、と屈折率界面が多数存在することにより、フレネル反射が発生し、複屈折光学素子1の透過率が低下することがある。
【0037】
これに対し第2実施形態では、ギャップ材33が存在せず、また屈折率界面も少ないため、第1実施形態に比べ、より散乱が少なく、透過率の高い複屈折光学素子2が作成可能となる。
【0038】
[第3実施形態]
本発明にかかる画像表示装置を、第3実施形態として図7および図8を参照して説明する。本実施形態においては、プロジェクターとして空間光変調装置で生成された画像情報を含む色光を投射系を介してスクリーン上に投射する投射型のプロジェクターを例に挙げて説明する。
【0039】
本実施形態に係るプロジェクター(画像表示装置)3では、図7に示すように、被投射面の一例として反射型のスクリーン40を用い、スクリーン40の正面側からスクリーン40上に画像情報を含む光を投射する。
プロジェクター3は、光源装置(レーザー光源)と、空間光変調装置と、ダイクロイックプリズム(色光合成手段)43と、投射装置(投射手段)44とを備えている。また、以下の説明においては、空間光変調装置を液晶ライトバルブ42とする。
【0040】
光源装置は、赤色のレーザー光を射出する赤色光源装置(レーザー光源)41Rと、緑色のレーザー光を射出する緑色光源装置(レーザー光源)41Gと、青色のレーザー光を射出する青色光源装置(レーザー光源)41Bとからなる。
また、液晶ライトバルブ(空間光変調装置)42は、赤色光源装置41Rから射出されたレーザー光を画像情報に応じて光変調する2次元の透過型の赤色用空間光変調装置42Rと、緑色光源装置41Gから射出されたレーザー光を画像情報に応じて光変調する2次元の透過型の緑色用空間光変調装置42Gと、青色光源装置41Bから射出されたレーザー光を画像情報に応じて光変調する2次元の透過型の青色用空間光変調装置42Bとからなる。さらに、ダイクロイックプリズム43は、各空間光変調装置42(42R,42G,42B)により変調された各色光を合成するものである。
また、投射装置44は、ダイクロイックプリズム43で合成されたレーザー光をスクリーン(被投射面)40上に投射するものである。
【0041】
各光源装置(41R,41G,41B)は、レーザー光を射出する光源45と、光源45から射出されたレーザー光を回折する回折光学素子46と、回折光学素子46において回折したレーザー光の射出角度を調整する角度調整用光学素子47とを備えている。なお、各光源装置41R,41G,41Bの構成はこれに限るものではない。
【0042】
投射装置44について図8を用いて説明する。なお、図8は、液晶ライトバルブ42R,42G,42Bに入射したレーザー光がスクリーン40に投射される光路図を見易くするために、液晶ライトバルブ42R,42G,42B、投射装置44、スクリーン40を直線配置として示し、また、ダイクロイックプリズム43を省略している。
投射装置44は、図8に示すように、光路上の開口絞り位置44Pに、第1実施形態、または第2実施形態で示した複屈折光学素子(偏光変換板)Lを備えている。偏光変換板Lは、中心部が開口絞り位置44Pの中心に一致するように設置されている。
【0043】
投射装置44の開口絞り位置44Pは、空間光変調装置42およびスクリーン40のフーリエ変換面を形成する面となる。つまり図8に示すように、空間光変調装置42のある一点から射出された光は、開口絞り位置44Pで開口絞りの全領域に渡り拡がった後、スクリーン40の一点に向けて収束される。
よって、投射装置44の開口絞り位置44Pに、入射位置ごとに位相差の異なる複屈折性の部材を配置することにより、スクリーン40の同一点に複数の偏光を重畳することが可能となる。
【0044】
本実施形態記載のプロジェクター3では、同一点に複数の偏光を重畳することが可能であり、異なる偏光をもつ光は互いに干渉しないため、スペックルを低減することが可能である。
【0045】
またここで、用いる偏光変換板Lは第1実施形態、または第2実施形態で示したように位相差が滑らかに変化する複屈折光学素子であるため、位相差の急激な段差による散乱を引き起こすことがない。
開口絞り位置44Pにおける散乱は著しい解像感の劣化に繋がるため、開口絞り位置44Pにおける散乱が生じ難くなることにより、スペックルを低減できるだけでなく、解像感の劣化という問題を引き起こすことなく、偏光変換板Lを配置する前と同様な解像感を得ることが可能である。
【0046】
また、投射装置44も偏光変換板Lを配置する前とほぼ同じ大きさで形成可能なため、装置の大型化を招くことがない。
【0047】
空間光変調装置として、透過型の液晶ライトバルブを用いたが、反射型の液晶ライトバルブ、DMD(Digital Mirror Device),LCOS(Liquid Crystal On Silicon)のいずれであっても良い。
【0048】
[第4実施形態]
本発明にかかる画像表示装置を、第4実施形態として図9を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施形態の図面において、上述した第3実施形態に係るプロジェクター3と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係るプロジェクター4では、第3実施形態と同様の偏光変換板Lが光源(レーザー光源)50と反射型ライトバルブ51との光路の間に配置されている点において第3実施形態と異なる。その他の構成においては第3実施形態と同様である。
【0049】
プロジェクター(画像表示装置)4は、図9に示すように、光源50と、回折光学素子52と、偏光変換板Lと、平行化レンズ53と、反射型ライトバルブ(反射型空間光変調装置)51と、投射装置(投射手段)54とを備えている。
光源50は、レーザー光を射出するLD(Laser Diode)である。回折光学素子52は、光源50から射出されたレーザー光を矩形上の照明光に変換する素子である。
偏光変換板Lは、第3実施形態と同様に、入射したレーザー光を入射位置ごとに異なる偏光方向の光を出射させるものであり、回転軸Pを中心に回転可能となっている。したがって、回折光学素子52から射出されたレーザー光が偏光変換板Lを通過することにより、複数種の偏光方向を有するレーザー光が射出される。
【0050】
平行化レンズ53は、偏光変換板Lから射出されたレーザー光を略平行光にして、反射型ライトバルブ51に入射させる。
反射型ライトバルブ(空間光変調装置)51は、平行化レンズ53から射出された平行なレーザー光を画像信号に応じて変調する。反射型ライトバルブ51としては、例えば、ミラースイッチングデバイスであるDMD(Digital Mirror Device)を用いることが可能である。
投射装置54は、複数のレンズにより構成されており、反射型ライトバルブ51において変調された画像をスクリーン40に向かって投射するものである。
【0051】
次に、以上の構成からなる本実施形態のプロジェクター4により、スクリーン40に画像を表示する方法について説明する。
まず、光源50から射出されたレーザー光は、回折光学素子52により矩形状のレーザー光に変換され、偏光変換板Lに入射する。偏光変換板Lに入射するレーザー光の偏光方向は、直線偏光となっている。そして、偏光変換板Lにおいて、入射位置ごとに偏光方向が変換されたレーザー光は、複数種の直線偏光や楕円率の異なる楕円偏光となり、反射型ライトバルブ51に入射する。そして、反射型ライトバルブ51で反射された入射位置ごとに偏光方向の異なる画像が、投射装置54によりスクリーン40に投射される。このとき、スクリーン40に投射されるレーザー光も、入射位置ごとに偏光方向の異なるレーザー光となる。
【0052】
本実施形態に係るプロジェクター4では、第3実施形態のプロジェクター3と同様の効果を得ることができる。さらに、本実施形態のプロジェクター4では、反射型ライトバルブ51の前段に偏光変換板Lが配置されているため、入射位置ごとに偏光方向の異なるレーザー光が反射型ライトバルブ51に入射する。すなわち、本実施形態では、散乱による映像の劣化が生じない。
【0053】
なお、反射型ライトバルブ51を照明する手段として、回折光学素子52を用いたがこれに限るものではなく、反射型ライトバルブ51を照明できるものであれば良い。
また、空間光変調装置として、DMDを用いたが、これに限るものではなく、特定の偏光方向のみを利用する空間光変調装置でなければ良い。
また、カラーの画像をスクリーン40に投射するには、光源50として、赤色光(R)、緑色光(G)、青色光(B)のレーザー光源をダイクロイックプリズムなどで合成し、回折光学素子52に入射させる。ことのきRGBの光源それぞれを時分割で駆動させる。この構成により、カラーの画像をスクリーン40に投射することができる。
【0054】
[第5実施形態]
本発明にかかる画像表示装置を、第5実施形態として図10を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態の図面において、上述した第3および第4実施形態に係るプロジェクター3およびプロジェクター4と構成を共通とする箇所には同一符号を付けて、説明を省略することにする。
本実施形態に係るプロジェクター5では、第3および第4実施形態と同様の偏光変換板Lが、空間光変調装置と被投射面の間にある投射系の光路にあり、空間光変調装置の中間像を形成する位置に配置されている点において第3および第4実施形態と異なる。その他の構成においては第3および第4実施形態と同様である。
【0055】
プロジェクター(画像表示装置)5は、図7に示すプロジェクター3と同様な構成を示すが、投射装置の構成がプロジェクター3と異なる。
【0056】
本実施形態の投射装置60について図10を用いて説明する。なお、図10は、液晶ライトバルブ42R,42G,42Bに入射したレーザー光がスクリーン40に投射される光路図を見易くするために、液晶ライトバルブ42R,42G,42B、投射装置60、スクリーン40を直線配置として示し、また、図7に示すダイクロイックプリズム43を省略している。
投射装置60は、図10に示すように、光路上に第1レンズ群61と、偏光変換板(偏光変換部)Lと、第2レンズ群62とをこの順に備えている。偏光変換板Lは、中心部である回転軸Pを中心にアクチュエーター(図示略)により回転される。なお、偏光変換板Lの中心部を回転軸Pとしたが、これに限らず、偏光変換板Lの端部を回転軸Pとしても良い。
【0057】
第1レンズ群(中間像形成光学系)61は、ダイクロイックプリズムにおいて合成されたレーザー光を偏光変換板L上またはその近傍に中間像として形成する。また、第1レンズ群61は、開口絞り63に対して略対称に配置された前段レンズ群61a、後段レンズ群61bからなる等倍結像レンズである。また、前段レンズ群61a、後段レンズ群61bは、液晶ライトバルブ42R,42G,42Bの視野角特性を考慮して両側テレセントリック特性を有することが望ましい。前段レンズ群61a、後段レンズ群61bは、複数の凸レンズおよび凹レンズを含んで構成されているが、レンズの形状、大きさ、配置間隔および枚数、テレセントリック性、倍率その他のレンズ特性は、要求される特性によって適宜変更されるものである。
【0058】
偏光変換板Lは、第1または第2実施形態で説明したように、滑らかに位相差が変化するように作られており、散乱を発生させることなく0度から90度までの様々な偏光が射出されるようになっている。
さらに、偏光変換板Lは、図10に示すように、第1レンズ群61により形成された中間像が形成される位置に配置されている。第1レンズ群61は等倍結像レンズであるため、液晶ライトバルブ42R,42G,42Bの画像形成領域の大きさが中間像と略同じ大きさである。
【0059】
次に、以上の構成からなる本実施形態のプロジェクター5により、スクリーン40に画像を表示する方法について説明する。
まず、各光源装置41R,41G,41B(図10では図示しない)から射出された赤色光、緑色光、青色光は、それぞれ液晶ライトバルブ42R,42G,42Bに入射し、ダイクロイックプリズム43(図10では図示しない)で合成される。
合成されたレーザー光は、第1レンズ群61を介して偏光変換板Lに入射する。偏光変換板Lに入射するレーザー光の偏光方向は、直線偏光となっている。そして、偏光変換板Lにおいて、入射位置ごとに偏光方向が変換された後、射出される。したがって、偏光変換板Lからは、偏光方向の異なる複数種の直線偏光や楕円率の異なる楕円偏光が射出される。そして、入射位置ごとに偏光方向の異なる画像が、第2レンズ群62によりスクリーン40に投射される。このとき、スクリーン40に投射されるレーザー光も、入射位置ごとに偏光方向の異なるレーザー光となる。
【0060】
本実施形態に係るプロジェクター5では、偏光変換板Lから射出された複数種の偏光方向のレーザー光がスクリーン40に投射される。したがって、偏光方向の異なるレーザー光同士は干渉しないため、スクリーン40に投射される画像のスペックルノイズを低減することが可能となる。
また、中間像が形成される位置に偏光変換板Lが配置されているため、中間像において入射位置ごとに偏光方向を変換するため、より確実にスペックルノイズを低減することが可能となる。また、第1レンズ群61により中間像を形成するため、より確実に偏光変換板Lの位置に中間像を形成することが可能となる。
【0061】
また、偏光変換板Lが散乱を発生させないため、中間像を形成するために入射した光を確実に投射レンズに飲み込むことが可能なため、高い光利用効率を得ることが可能である。
【0062】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、色光合成手段として、ダイクロイックプリズムを用いたが、これに限るものではない。色光合成手段としては、例えば、ダイクロイックミラーをクロス配置とし色光を合成するもの、ダイクロイックミラーを平行に配置し色光を合成するものを用いることができる。
また、液晶ライトバルブを備えずに、例えば、画像情報を含むスライド(ポジフィルム)の面を照明装置で照明し、スクリーン上に画像情報を含む光を投射する、所謂スライドプロジェクターに、上述の実施形態の照明装置を適用することも可能である。
また光源は、レーザー光源ではなく、LEDや超高圧水銀ランプなどを用いて、スペックルを低減したい場合にも、本構成を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の第1実施形態に係る複屈折光学素子を示す図である。
【図2】光学素子の偏光変換の様子を示す平面図である。
【図3】光学素子の形成方法の例を示す説明図である。
【図4】図1の光学素子の形成方法の例を示す説明図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る複屈折光学素子を示す図である。
【図6】図5の光学素子の形成方法の例を示す説明図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係るプロジェクターを示す構成図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係るプロジェクターの投射装置を示す構成図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係るプロジェクターを示す構成図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係るプロジェクターの投射装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0064】
C…中心軸、L…複屈折光学素子(偏光変換板)、P…回転軸、1,2…複屈折光学素子、3,4,5…プロジェクター(画像表示装置)、11…透明部材としてのガラス基板、12…配向膜、13…液晶層、31…円柱棒、32…ラビング布、33…ギャップ材、34…光重合型液晶性モノマー、35…UV光、40…被投射面としてのスクリーン、41R,41G、41B…光源装置、42,42R,42G、42B…液晶ライトバルブ(空間光変調装置)、43…ダイクロイックプリズム、44…投射装置、44P…開口絞り位置、45…光源(レーザー光源)、46…回折光学素子、47…角度調節用光学素子、50…光源、51…反射型ライトバルブ(反射型空間光変調装置)、52…回折光学素子、53…平行化レンズ、54,60…投射装置、61…第1レンズ群、61a…前段レンズ群、61b…後段レンズ群、62…第2レンズ群、63…開口絞り。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材上に略同心円状のラビングを施した2枚の基板と、
前記2枚の基板に挟持される液晶層とを備え、
前記2枚の基板はラビング面が向き合う形で前記液晶層を挟持していることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、
前記2枚の基板の間に、ギャップを維持するためのスペーサーを介して前記液晶層を挟持していることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
透明部材上に略同心円状のラビングを施した1枚の基板と、
前記基板上に塗布された光重合型液晶性モノマーと、からなることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学素子において、
複屈折層の最大位相差がπであることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
空間光変調装置と、
前記空間光変調装置から射出された光を被投射面に投影するための投射レンズと、
前記投射レンズの瞳位置または開口絞り位置に配置された請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学素子と、を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項6】
画像表示装置であって、
空間光変調装置としてミラースイッチングデバイスを備え、
前記画像表示装置の光源から空間光変調装置の光路上に、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学素子を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項7】
空間光変調装置と、
前記空間光変調装置から被投射面との間の光路上であって、前記空間光変調装置の中間像が形成される位置に配置された請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光学素子と、を備えることを特徴とする画像表示装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の画像表示装置において、
光源がレーザー光源であることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−160307(P2010−160307A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2247(P2009−2247)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】