説明

光学素子の製造方法

【課題】新しい成形金型を使用する場合であっても、光学素子の性能不良を防止することができる光学素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】新しい成形金型40を使用する場合であっても、所定回数のドライサイクル運転を行った後にレンズLPの生産開始を行うことにより、レンズLPの性能不良を防止することができる。つまり、予め所定回数のドライサイクル運転を行うことで初期摩耗状態を起こし、位置決め部材である凹状部材59及び凸状部材69の摩耗の進行が比較的緩やかになった後にレンズLPの生産を行うことでレンズLPの性能が安定する。これにより、レンズLPの歩留まりを向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法に関し、特に成形金型の位置決め精度が要求される光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子の製造方法として、射出成形装置を用いて製造する方法がある(例えば、特許文献1参照)。この射出成形装置は、第1金型と第2金型とを型合わせする成形金型を有する。第1及び第2金型の型合わせの際に、第1金型と第2金型とに設けられた位置決め部材が最初に当接する。その後、型締めによって第1金型と第2金型の型面が互いに当接する。
【0003】
ここで、新しい成形金型を使用する際に、第1及び第2金型の位置決め部材が接触すると、接触した互いの位置決め部材が急激に摩耗する初期摩耗という現象が生じる。初期摩耗が起きている状態では、急激な摩耗により成形金型の位置決めすなわち第1金型に対する第2金型の位置が安定しない。そのため、成形した光学素子に例えばコマ収差の不良等の性能不能が生じ、歩留まりが低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−327005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新しい成形金型を使用する場合であっても、光学素子の性能不良を防止することができる光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る光学素子の製造方法は、第1の位置決め部材を有する第1の金型と、第1の位置決め部材に嵌合する第2の位置決め部材を有する第2の金型とを型合わせすることによって光学素子を製造する方法であって、所定回数のドライサイクル運転を行う工程と、所定回数のドライサイクル運転を行った後、第1の金型と第2の金型とを型締めして射出成形を行う工程と、を備える。ここで、ドライサイクル運転とは、第1及び第2の金型で構成される成形金型に樹脂を流さずに成形金型の開閉を繰り返す運転をいう。
【0007】
上記光学素子の製造方法によれば、新しい成形金型を使用する場合であっても、所定回数のドライサイクル運転を行った後に光学素子の生産開始を行うことにより、光学素子の性能不良を防止することができる。つまり、所定回数のドライサイクル運転を行うことで予め初期摩耗状態を起こし、第1及び第2の位置決め部材の摩耗の進行が比較的緩やかになった後に光学素子の生産を行うことで光学素子の性能が安定する。これにより、光学素子の歩留まりを向上させることができる。
【0008】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記光学素子の製造方法において、ドライサイクル運転は、少なくとも第1の金型と第2の金型との基準位置からの変位量が比較的小さい値で安定する定常摩耗状態の開始まで行われる。なお、基準位置は、第1の金型と第2の金型との相対的な位置を含む。ここで、定常摩耗状態とは、第1及び第2の位置決め部材が摩耗しても成形金型の位置決めに影響がない程度である状態をいう。この場合、定常摩耗状態の開始後に光学素子の生産を行うことにより、第1及び第2の位置決め部材の摩耗を確実に低減させることができる。
【0009】
本発明の別の態様では、定常摩耗状態のサイクル数1000回当たりの変位量は、ドライサイクル運転の初期におけるサイクル数1000回当たりの変位量の3/5以下である。定常摩耗状態のサイクル数1000回当たりの変位量が上記範囲である場合、成形金型の位置決めがより安定した状態で光学素子を生産することができる。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、第1及び第2の位置決め部材は、ピンタイプ及びブロックタイプのいずれか一方である。この場合、第1及び第2の位置決め部材が多少摩耗しても成形金型の位置決めをすることができる。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、第1及び第2の位置決め部材の材料は、硬度がHv700以上の金属部材である。この場合、第1及び第2の位置決め部材の硬度が比較的高くなり、初期摩耗状態が終了するまでの時間がかかるものの、初期摩耗状態終了後の第1及び第2の位置決め部材の摩耗をより低減させることができる。これにより、第1及び第2の位置決め部材の精度を高くすることができる。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、第1及び第2の位置決め部材の材料は、冷間ダイス鋼及びステンレス工具鋼のいずれかである。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、第1及び第2の位置決め部材は、表面硬化処理がされている。この場合、第1及び第2の位置決め部材の硬度をより高くすることができる。
【0014】
本発明のさらに別の態様では、光学素子は、光ピックアップ装置の対物レンズである。この場合、成形金型の位置決めを安定させてから光学素子を生産することにより、光学素子の性能が安定し、高精度な対物レンズとすることができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、光学素子の開口数をNAとしたときに、開口数が0.75≦NA≦0.90の範囲を満たす。この場合、成形金型の位置決めを安定させてから光学素子を生産することにより、例えば光学素子の入射面と出射面間の偏芯によるコマ収差の感度が大きいBD(Blu-ray Disc)用の対物レンズにおいても、コマ収差を低減することができる。
【0016】
本発明のさらに別の態様では、光学素子の光軸に平行な方向の最大厚さをdとし、光学素子の使用波長での焦点距離をfとしたときに、0.8≦d/f≦2.0である。光学素子の光軸に平行な方向の最大厚さdが比較的大きなレンズの場合、成形時の成形金型の位置決め精度が光学素子の性能に大きな影響を及ぼす。そのため、成形金型の位置決めを安定させてから光学素子を生産することにより、光学素子の性能を安定させることがきる。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、光学素子は一対の光学面を有し、一対の光学面のうち少なくともいずれか一方に回折構造が設けられている。
【0018】
本発明のさらに別の態様では、光学素子は、3波長互換レンズである。3波長互換レンズの場合、成形金型の位置決め精度が光学素子の性能に大きな影響を及ぼす。そのため、成形金型の位置決めを安定させてから光学素子を生産することにより、光学素子の性能、特にコマ収差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態の成形金型を説明する側面図である。
【図2】図1の成形金型の部分拡大図である。
【図3】(A)は、図1の固定金型の平面図であり、(B)は、図1の可動金型の平面図である。
【図4】(A)は、図1の成形金型の型空間を説明する図であり、(B)は、図1の成形金型によって成形された成形品を説明する図である。
【図5】図1の成形金型のショット数と固定金型に対する可動金型の変位量を説明する図である。
【図6】図1の成形金型を組み込んだ成形装置を説明する概念図である。
【図7】図6の成形装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】第2実施形態の成形金型を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態である光学素子の製造方法について、図面を参照しつつ説明する。
図1、図2、及び図3に示すように、光学素子を成形するための成形金型40は、固定金型41と可動金型42とを備える。固定金型41と可動金型42とをパーティング面PS1,PS2で型合わせして型締めを行うことにより、図4(A)に拡大して示すように、複数の型空間CVと流路空間FCとが形成される。型空間CVは、成形品MPのうち製品部分であるレンズLPを成形するためのものである。流路空間FCは、型空間CVに樹脂を供給するためのものである。流路空間FCは、スプル流路、ランナ流路を含み、図4(B)に示す成形品MPのスプルSP及びランナRPを形成する。流路空間FCの先端部は、成形品MPのゲートGPを形成するゲート部分GSを介して各型空間CVにそれぞれ連通している。
【0021】
第1の金型である固定金型41は、図4(A)の流路空間FCを形成するための型板51と、型板51を背後から支持する取付板53とを備える。
【0022】
図2に拡大して示すように、型板51は、スプルSPを形成する金型部品であるスプルブッシュ71の先端側を挿入するスプルブッシュ孔51aと、成形品MPのランナRPを形成するランナ凹部58bと、ゲートGPを形成するゲート凹部58cと、レンズLPを形成するレンズ凹部58dとを備える。ゲート凹部58c及びレンズ凹部58dは、型板51に形成されたコア孔51bに挿入されて固定された転写部材55の先端面によって形成されている。
【0023】
型板51は、図2及び図3等に示すように、パーティング面PS1側の型面51dに、4つの第1の位置決め部材である凹状部材59を有する。4つの凹状部材59は、型板51の対角位置に配置されている。凹状部材59は、円柱状の外形を有する。凹状部材59は、パーティング面PS1側に円錐台状の凹嵌合部59aが形成されたものである。凹嵌合部59aは、テーパ状の内周面であり位置決めに利用される凹嵌合面59bと、凹嵌合面59bに隣接する平坦な底面59cとを有する。凹状部材59の直径は、金型の大きさや型締め力を考慮したものとなっている。凹状部材59の材料は、硬度がHv700以上の金属部材である。具体的には、冷間ダイス鋼及びステンレス工具鋼等である。なお、これらの金属部材に表面硬化処理がされていてもよい。これにより、凹状部材59の硬度をより高くすることができる。表面硬化処理としては、例えば窒化、浸炭、コート等の表面硬化処理を用いることができる。凹状部材59は、円柱状の穴である取付穴51eに挿入され、不図示のボルトによって着脱可能に固定されている。凹状部材59が劣化した場合は交換することができる。凹状部材59は、後述する可動金型42に設けた凸状部材69と型締め時に嵌合し、固定金型41と可動金型42との位置決めを可能とする。
【0024】
図1に示す取付板53は、スプルブッシュ71の根元側を挿入する貫通孔53aを有しており、型板51とともにスプルブッシュ71を支持し固定する。なお、射出成形時には、貫通孔53aすなわちスプルブッシュ71の根元側から、溶融して流体状の樹脂が流路71a内に導入される。この流路71aは、図4(A)の流路空間FCに連通するものとなっている。
【0025】
第2の金型である可動金型42は、パーティング面PS2を有するとともに図4(A)の流路空間FCを形成するための型板61と、型板61を背後から支持する受板62と、受板62を背後から支持する取付板63とを備える。
【0026】
図2及び図3に示すように、型板61は、ランナRPを形成するランナ凹部68bと、ゲートGPを形成するゲート凹部68cと、レンズLPを形成するレンズ凹部68dとを備える。レンズ凹部68dは、型板61に形成された転写部材孔61bに挿入されて固定された外筒状の周辺部材66の先端面と、周辺部材66の中心に形成されたコア孔61cに挿入されて軸AX方向に変位可能なコアロッド67の先端面とによって形成されている。
【0027】
型板61は、パーティング面PS2側の型面61dに、4つの第2の位置決め部材である凸状部材69を有する。4つの凸状部材69は、固定金型41に設けた4つの凹状部材59と協働して両金型41,42を相対的に位置決めするためのもので、これらの凹状部材59に対応して可動金型42の対角位置に配置されている。凸状部材69は、ピンタイプの位置決め部材であり、略円柱状の外形を有する。凸状部材69は、パーティング面PS2側に円錐台状の凸嵌合部69aが形成されたものである。凸嵌合部69aは、テーパ状の外周面であり位置決めに利用される凸嵌合面69bと、凸嵌合面69bに隣接する平坦な頂面69cとを有する。凸嵌合面69bは、両金型41,42の型締め時に凸状部材69と凹状部材59とが嵌合すると、凹状部材59の凹嵌合面59bに密着する。そのため、凸嵌合面69bの傾斜角は、凹嵌合面59bの傾斜角と略同じとなっている。凸状部材69の直径は、凹状部材59に嵌合可能であり、かつ金型の大きさや型締め力を考慮したものとなっている。凸状部材69の材料は、硬度がHv700以上の金属部材であり、凹状部材59の材料と同種のものとなっている。凸状部材69は、円柱状の穴である取付穴61eに挿入され、不図示のボルトによって着脱可能に固定されている。凸状部材69が劣化した場合は交換することができる。
【0028】
図2等に示すように、受板62の本体部分62aは、複数のランナエジェクタピン73をそれぞれ軸AX方向に進退させるための複数のピン孔62eと、コアロッド67を進退させる複数のコア用ロッド74をそれぞれ軸AX方向に進退させるための複数のロッド孔62fと有する。
【0029】
図1に示すように、受板62は、板状の本体部分62aを背後から支持する支持部62bを有しており、支持部62bの背面側に形成された凹部62hにエジェクタプレート76を収納している。エジェクタプレート76は、ランナエジェクタピン73とコア用ロッド74とを根元側から支持しており、これらの部材73,74とともに軸AX方向に進退する。
【0030】
エジェクタプレート76は、不図示の付勢手段によって取付板63側に付勢されている。エジェクタプレート76は、後方から外力を受けて固定金型41側に前進するように押された場合、上記付勢手段に抗して前進し、スプル用ロッド72とコア用ロッド74とを先端側に移動させ、コアロッド67とを先端側に移動させる。この結果、前進するコアロッド67を介してコアロッド67に当接するレンズLPがレンズ凹部68dから押し出される。この際、エジェクタプレート76に直接駆動されたランナエジェクタピン73によって、ランナRPがランナ凹部68bから押し出される。つまり、型板61から成形品MPが一様に外されることになる。
【0031】
図1に示す取付板63は、後述するエジェクタ駆動機構につながる開口63aを有し、当該エジェクタ駆動機構に設けた駆動部材によって、エジェクタプレート76に対して背後から軸AX方向に沿って前進させる適度な大きさの外力を適当なタイミングで与えることができるようにしている。
【0032】
なお、固定金型41の型板51の上部51hには、図2等に示すように、位置センサ81が設けられている。一方、可動金型42の型板61の上部61hには、位置センサ81に対向する位置に検出対象物82が設けられている。位置センサ81は、例えばレーザによって、検出対象物82との距離を検出する。検出対象物82との距離により、固定金型41に対する可動金型42の2次元上の位置がわかる。変位量Xは、固定金型41の軸AX1と可動金型42の軸AX2とが一致する位置を基準位置とし、この基準位置と検出時の固定金型41に対する可動金型42の位置との距離によって求める。なお、位置センサ81の検出部が可動金型42の上部61hに対向するようにし、位置センサ81と可動金型42の上部61hとの距離によって変位量Xを測定してもよい。
【0033】
位置センサ81の検出結果に応じて、後述する成形装置100の動作が切り替えられる。ここで、新しい成形金型40を使用すると、成形金型40は、使用開始から一定の期間において、凹状部材59及び凸状部材69が急激に摩耗する初期摩耗状態となる。その後、成形金型40は、型閉じ及び型開きを所定回数行うと、凹状部材59及び凸状部材69が摩耗しても成形された光学素子の性能に影響しない定常摩耗状態となる。図5に示すように、初期摩耗状態における変位量Xの傾きは、定常摩耗状態における変位量Xの傾きよりもかなり大きくなっている。定常摩耗状態では、凹状部材59及び凸状部材69の変位量Xが略安定している。なお、成形金型40の型閉じ及び型開きを1サイクル(サイクル数1回)又は1ショット(ショット数1回)としている。図5において、変位量Xは、サイクル数1000回当たりの変位量を示している。
【0034】
レンズLPが例えばBD用の対物レンズの場合、要求される位置決め精度における変位量Xは、1μmとなっている。ここで、初期摩耗状態のサイクル数1000回当たりの変位量Xは、例えば0.5μm〜2μmとなっている。そのため、成形金型40の位置決めの安定を考慮し、サイクル数1000回当たりの変位量が、例えば0.3μm以下になれば、初期摩耗状態が終了したと判断できる。つまり、定常摩耗状態のサイクル数1000回当たりの変位量Xは、例えば0.3μm以下となっている。なお、例えばDVD用の対物レンズの場合、要求される位置決め精度は、変位量Xが5μmとなっている。
【0035】
以下、図1に示す成形金型40を用いて成形されるレンズLPについて説明する。図4(B)に示す成形品MPのうち、本体であるレンズLPは、樹脂製であり、光学的機能を有する光学機能部OPと、光学機能部OPの外縁から半径方向外側に設けられた略環状のフランジ部FLとを備える。レンズLPのうち光学機能部OPにおいて、一方の第1光学面OS1は、レーザ光源側に配置される。他方の第2光学面OS2は、光情報記録媒体である光ディスク側に配置される。第1光学面OS1は、第2光学面OS2よりも大きく突出し曲率が大きくなっている。レンズLPは、レンズLPの光軸OA上の厚さをdとし、500nm以下の波長の光束におけるレンズLPの焦点距離をfとしたときに、0.8≦d/f≦2.0の範囲を満たしている。レンズLPは、例えば光ピックアップ装置用の対物レンズとして用いられる。具体的には、レンズLPは、例えば波長405nmで開口数(NA)0.85のBD(Blu-ray Disc)に対応した光情報の読み取り又は書き込みを可能にする。ここで、レンズLPの光学的な仕様については、NA0.85に限らず、例えばNA0.75以上具体的には0.75≦NA≦0.90の範囲の様々な光ピックアップ装置用の対物レンズの規格に対応するものとすることができる。また、レンズLPは、3波長互換レンズとすることもできる。この場合、第1光学面OS1には、回折構造等の微細構造が設けられている。
【0036】
フランジ部FLは、光学機能部OPの半径方向外側に略環状に設けられている。フランジ部FLは、第1光学面OS1側に光軸OAに垂直な方向に延びる第1フランジ面FLaと、第2光学面OS2側に光軸OAに垂直な方向に延びる第2フランジ面FLbとを有する。
【0037】
レンズLPの第1光学面OS1及び第2光学面OS2の偏芯が大きいと、コマ収差が発生し、レンズLPの性能不良となる。レンズLPの成形金型40では、第1光学面OS1を可動金型42、第2光学面OS2を固定金型41によって形成する。そのため、両金型41,42を精度良く位置決めしないと、レンズLPにコマ収差が発生する。ここで、固定金型41と可動金型42とは、凹状部材59の凹嵌合面59bと凸状部材69の凸嵌合面69bとの接触によって位置決めされている。この際、凹嵌合面59bと凸嵌合面69bに摩耗が発生する。凹嵌合面59bと凸嵌合面69bが摩耗すると、固定金型41に対する可動金型42の位置にずれが発生し、レンズLPにコマ収差が発生する。新しい成形金型40を使用する場合、初期摩耗状態のうちは、成形金型40の相対位置がずれ続けるため、レンズLPのコマ収差が安定せず、歩留まりが悪くなる。初期摩耗状態が終了し、摩耗の進行が比較的緩やかとなる定常摩耗状態に移行すると、レンズLPのコマ収差が安定するため、歩留まりが向上する。
【0038】
図6は、図1等に示す実施形態の成形金型40を組み込んだ射出成形装置の概念図である。図示の成形装置100は、射出成形を行って成形品MPを作製する本体部分である射出成形機10と、射出成形機10から成形品MPを取り出す付属部分である取出し装置20と、成形装置100を構成する各部の動作を統括的に制御する制御装置30とを備える。
【0039】
射出成形機10は、固定盤11と、可動盤12と、型締め盤13と、開閉駆動装置15とを備える。射出成形機10は、固定盤11と可動盤12との間に固定金型41と可動金型42とを挟持して両金型41,42を型締めすることにより成形を可能にする。
【0040】
固定盤11は、支持フレーム14の中央に固定されており、取出し装置20をその上部に支持する。固定盤11は、固定金型41を着脱可能に支持している。なお、固定盤11は、タイバーを介して型締め盤13に固定されており、成形時の型締めの圧力に耐え得るようになっている。
【0041】
可動盤12は、固定盤11に対向して配置され、スライドガイド15aによって固定盤11に対して進退移動可能に支持されている。可動盤12は、可動金型42を着脱可能に支持している。なお、可動盤12には、エジェクタ駆動機構45が組み込まれている。このエジェクタ駆動機構45は、図1に示すエジェクタプレート76を動作させる部分であり、ランナエジェクタピン73、及びコア用ロッド74を突出し動作させることによって、可動金型42に保持された成形品MPを固定金型41側に押し出して離型するためのものであり、取出し装置20による成形品MPの移送を可能にする。
【0042】
型締め盤13は、支持フレーム14の端部に固定されている。型締め盤13は、型締めに際して、開閉駆動装置15の動力伝達部15dを介して可動盤12をその背後から支持する。
【0043】
開閉駆動装置15は、スライドガイド15aと、動力伝達部15dと、アクチュエータ15eとを備える。スライドガイド15aは、可動盤12を支持して固定盤11に対する進退方向に関する滑らかな往復移動を可能にしている。動力伝達部15dは、制御装置30の制御下で動作するアクチュエータ15eからの駆動力を受けて伸縮する。これにより、型締め盤13に対して可動盤12が近接したり離間したり自在に進退移動し、結果的に、可動盤12と固定盤11とを互いに近接・離間して固定金型41と可動金型42との型締め及び型開きを行う。
【0044】
射出装置16は、不図示の原料貯留部、シリンダ、スクリュ駆動部等を備え、制御装置30の制御下で樹脂射出ノズル16aから温度制御された状態の溶融樹脂を射出することができる。射出装置16は、固定金型41と可動金型42とを型締めした状態で、図1に示すスプルブッシュ71に樹脂射出ノズル16aを接触させ、流路空間FC(図4(A)参照)内に適度な温度及び圧力に設定された溶融樹脂を所望のタイミングで供給することができる。
【0045】
取出し装置20は、成形品MPを把持することができるハンド21と、ハンド21を3次元的に移動させる3次元駆動装置22とを備える。取出し装置20は、制御装置30の制御下で適当なタイミングで動作するものであり、固定金型41と可動金型42とを離間させて型開きした後に、可動金型42に残る成形品MPを把持して外部に搬出する役割を有する。
【0046】
制御装置30は、開閉制御部31、成形制御部32、射出制御部33、エジェクタ制御部34、取出し装置制御部35等を備える。開閉制御部31は、アクチュエータ15eを動作させることによって両金型41,42の型締めや型開きを可能にする。成形制御部32は、位置センサ81の検出出力を監視しつつ検出結果に基づいて、開閉制御部31や射出制御部33と連携してドライサイクル運転及びレンズLPの生産のための運転の切り替えを行う。射出制御部33は、射出装置16の動作を制御して、樹脂射出ノズル16aからスプルブッシュ71を介して両金型41,42間に形成された型空間CV中に所望の圧力で樹脂を注入させる。エジェクタ制御部34は、エジェクタ駆動機構45を動作させることによって型開き時に可動金型42に残る成形品MPを可動金型42内から押し出させる。取出し装置制御部35は、取出し装置20を動作させることによって型開き及び離型後に可動金型42に残る成形品MPを把持して射出成形機10外に搬出させる。
【0047】
なお、以上では説明を省略したが、制御装置30は、不図示の金型温度調節機を適宜動作させることにより、固定盤11に取り付けられた固定金型41と、可動盤12に取り付けられた可動金型42との温度を適切な状態に保持する。
【0048】
以下、図7を参照しつつ、図1に示す成形装置100の動作について説明する。ここで、新しい成形金型40を用いる場合、所定回数のドライサイクル運転の後に、レンズLPの生産のための運転を行う。
【0049】
まず、新しい成形金型40を用いる場合(ステップS11のY)、所定回数のドライサイクル運転を行う(ステップS12)。ここで、ドライサイクル運転とは、成形金型40に樹脂を流さずに成形金型40の開閉を繰り返す運転をいう。ドライサイクル運転は、固定金型41と可動金型42との基準位置からの変位量Xが比較的小さい値で安定する定常摩耗状態まで行われる。ここで、定常摩耗状態とは、凹状部材59及び凸状部材69が成形金型40の位置決めに影響がない程度にわずかに摩耗している状態をいう。定常摩耗状態のサイクル数1000回当たりの変位量は、ドライサイクル運転の初期におけるサイクル数1000回当たりの変位量の3/5以下となっている。
【0050】
所定回数のドライサイクル運転(ステップS12)を行った後、成形制御部32において、位置センサ81の検出結果から変位量Xを測定し成形金型40が定常摩耗状態であるか否か判定する(ステップS13)。変位量Xが所定の範囲内であれば、成形金型40が定常摩耗状態であると判断し(ステップS13のY)、ドライサイクル運転終了してレンズLPの生産のための運転、すなわち実際の成形工程(ステップS14以降)に進む。一方、変位量Xが所定の範囲内にない場合(ステップS13のN)、さらに一定の回数(例えば、1000回)のドライサイクル運転を続ける。成形金型40が定常摩耗状態であるか否かの判断(ステップS13)は、試験等で予め設定された初期摩耗状態が終了するまでのサイクル数の直前から一定のサイクル数毎に行ってもよいし、ステップS13は、ドライサイクル運転の初期から一定のサイクル数毎に行ってもよい。なお、新しい成形金型40を使用しない場合にもステップS13が行われ、定常摩耗状態か否かを確認する。
【0051】
成形金型40が定常摩耗状態になった(ステップS13のY)後、レンズLPの生産のための運転を行う(ステップS14以降)。なお、両金型41,42は、レンズLPの生産のための運転の前に、不図示の金型温度調節機により成形に適する温度まで加熱されている。
【0052】
まず、開閉駆動装置15を動作させ、可動盤12を前進させて型閉じを開始させる(ステップS14)。開閉駆動装置15の閉動作を継続することにより、固定金型41と可動金型42とが接触する型当たり位置まで可動盤12が固定盤11側に移動して型閉じが完了し、開閉駆動装置15の閉動作を更に継続することにより、固定金型41と可動金型42とを必要な圧力で締め付ける型締めが行われる(ステップS15)。
【0053】
次に、射出成形機10において、射出装置16を動作させて、型締めされた固定金型41と可動金型42との間の型空間CV中に、必要な圧力で溶融樹脂を注入する射出を行わせる(ステップS16)。そして、射出成形機10は、型空間CV中の樹脂圧を保つ。この際、不図示の金型温度調節機により、型空間CVや流路空間FC(図4参照)が適度に加熱されており、射出装置16から供給される溶融樹脂が緩やかに冷却され、型空間CV内での樹脂の適度な除冷を達成することができる。なお、溶融樹脂を型空間CVに導入した後は、型空間CV中の溶融樹脂が放熱によって徐々に冷却されるので、かかる冷却にともなって溶融樹脂が固化し成形が完了するのを待つ(ステップS17)。
【0054】
次に、射出成形機10において、開閉駆動装置15を動作させて、可動盤12を後退させる型開きが行われる(ステップS18)。これに伴って、可動金型42が後退し、固定金型41と可動金型42とが離間する。この結果、成形品MPすなわちレンズLPは、可動金型42に保持された状態で固定金型41から離型される。
【0055】
次に、射出成形機10において、エジェクタ駆動機構45を動作させ、ランナエジェクタピン73及びコアロッド67等の前進によって、レンズLP等を含む成形品MPの突き出しを行わせる(ステップS19)。この結果、成形品MPのうちレンズLPは、コアロッド67の先端面に付勢されて固定金型41側に押し出されて、可動金型42から離型される。
【0056】
最後に、取出し装置20を動作させて、エジェクタ駆動機構45に駆動されて動作するランナエジェクタピン73及びコア用ロッド74によって突き出された成形品MPの適所をハンド21で把持して外部に搬出する(ステップS20)。
【0057】
以上説明した光学素子の製造方法によれば、新しい成形金型40を使用する場合であっても、所定回数のドライサイクル運転を行った後にレンズLPの生産開始を行うことにより、レンズLPの性能不良を防止することができる。つまり、予め所定回数のドライサイクル運転を行うことで初期摩耗状態を起こし、位置決め部材である凹状部材59及び凸状部材69の摩耗の進行が比較的緩やかになった後にレンズLPの生産を行うことでレンズLPの性能が安定する。これにより、レンズLPの歩留まりを向上させることができる。
【実施例1】
【0058】
以下、ドライサイクル運転のサイクル数の実施例について説明する。
表1は、位置決め部材である凹状部材59及び凸状部材69の材料と、初期摩耗状態終了までのドライサイクル運転のためのサイクル数との関係を示す。
【表1】

【0059】
表1に示すように、凹状部材59及び凸状部材69の材料が表面処理をしていない冷間ダイス鋼の場合、Hv900の硬度を有し、サイクル数6000回で初期摩耗状態から定常摩耗状態へ移行した。また、凹状部材59及び凸状部材69の材料が表面を窒化処理した冷間ダイス鋼の場合、Hv1000の硬度を有し、サイクル数8000回で初期摩耗状態から定常摩耗状態へ移行した。また、凹状部材59及び凸状部材69の材料が表面を窒化処理したステンレス工具鋼の場合、Hv1100の硬度を有し、サイクル数10000回で初期摩耗状態から定常摩耗状態へ移行した。
【0060】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係る光学素子の製造方法について説明する。なお、第2実施形態に係る光学素子の製造方法は、第1実施形態の光学素子の製造方法を変形したものであり、特に説明しない部分については、第1実施形態と同様であるものとする。
【0061】
図8(A)に示すように、第1の位置決め部材である凹状部材259は、直方体状の外形を有する。凹状部材259は、パーティング面PS2側に四角錐台状の凹嵌合部259aが形成されている。凹嵌合部259aは、テーパ状の外周面である4つの凹嵌合面259bと、凹嵌合面259bに隣接する平坦な底面259cとを有する。凹状部材259は、直方体状の穴である取付穴51eに挿入され、不図示のボルトによって着脱可能に固定されている。ここで、取付穴51eは、固定金型41の主面に沿って外まで突き抜けるように形成してもよい。換言すると、取付穴51eの長軸方向に向けて延び型板51の側面に露出するように取付穴51eを形成してもよい。
【0062】
図8(B)に示すように、各凹状部材259に対向する第2の位置決め部材である凸状部材269は、ブロックタイプとなっている。凸状部材269は、略直方体状の外形を有する。凸状部材269は、パーティング面PS2側に四角錐台状の凸嵌合部269aが形成されている。凸嵌合部269aは、テーパ状の外周面である4つの凸嵌合面269bと、凸嵌合面269bに隣接する平坦な頂面269cとを有する。凸嵌合面269bの傾斜角は、凹嵌合面259bの傾斜角と略同じとなっている。凸状部材269の形状は、凹状部材259に嵌合可能であり、かつ金型の大きさや型締め力を考慮したものとなっている。
【0063】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、凹状部材59,259及び凸状部材69,269をそれぞれ4つ設けたが、2つ又は5つ以上設けてもよい。この場合、凹状部材59,259及び凸状部材69,269は、対角位置に設けられる。
【0064】
また、上記実施形態において、凹状部材59,259及び凸状部材69,269の配置は例示であり、固定金型41と可動金型42との位置決めが安定すれば、対角位置でなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態において、レンズLPは、開口数NAが0.75≦NA≦0.90の範囲の例えばBD用の対物レンズとしたが、DVD用の対物レンズであってもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、位置センサ81を固定金型41の上部51hに設けたが、固定盤11に設けてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、新しい成形金型40を使用しない場合、定常摩耗状態か否かの確認(ステップS13)を行うとしたが、行わずに成形工程(ステップS14)以降の工程に進んでもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…射出成形機、 11…固定盤、 12…可動盤、 13…型締め盤、 15…開閉駆動装置、 16…射出装置、 20…取出し装置、 30…制御装置、 40…成形金型、 41…固定金型、 42…可動金型、 51…型板、 53…取付板、 55…転写部材、 59,259…凹状部材、 59a,259a…凹嵌合部、 59b,259b…凹嵌合面、 59c,259c…底面、 61…型板、 62…受板、 63…取付板、 66…周辺部材、 69,269…凸状部材、 69a,269a…凸嵌合部、 69b,269b…凸嵌合面、 69c,269c…頂面、 81…位置センサ、 100…成形装置、 AX…軸、 CV…型空間、 FC…流路空間、 FL…フランジ部、 FLa…フランジ面、 FLb…フランジ面、 GP…ゲート、 LP…レンズ、 MP…成形品、 OA…光軸、 OP…光学機能部、 OS1…光学面、 OS2…光学面、 PS1,PS2…パーティング面、 RP…ランナ、 SP…スプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の位置決め部材を有する第1の金型と、前記第1の位置決め部材に嵌合する第2の位置決め部材を有する第2の金型とを型合わせすることによって光学素子を製造する方法であって、
所定回数のドライサイクル運転を行う工程と、
前記所定回数のドライサイクル運転を行った後、前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めして射出成形を行う工程と、
を備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記ドライサイクル運転は、少なくとも前記第1の金型と前記第2の金型との基準位置からの変位量が比較的小さい値で安定する定常摩耗状態の開始まで行われることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記定常摩耗状態のサイクル数1000回当たりの前記変位量は、前記ドライサイクル運転の初期におけるサイクル数1000回当たりの前記変位量の3/5以下であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記第1及び第2の位置決め部材は、ピンタイプ及びブロックタイプのいずれか一方であることを特徴とする請求項1から3までに記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1及び第2の位置決め部材の材料は、硬度がHv700以上の金属部材であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1及び第2の位置決め部材の材料は、冷間ダイス鋼及びステンレス工具鋼のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の位置決め部材は、表面硬化処理がされていることを特徴とする請求項5及び6のいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記光学素子は、光ピックアップ装置の対物レンズであることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記光学素子の開口数をNAとしたときに、開口数が0.75≦NA≦0.90の範囲を満たすことを特徴とする請求項1から8までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記光学素子の光軸に平行な方向の最大厚さをdとし、前記光学素子の使用波長での焦点距離をfとしたときに、0.8≦d/f≦2.0であることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項11】
前記光学素子は一対の光学面を有し、
前記一対の光学面のうち少なくともいずれか一方に回折構造が設けられていることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
【請求項12】
前記光学素子は、3波長互換レンズであることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206338(P2012−206338A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73215(P2011−73215)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】