説明

光学素子

【課題】 基板1と光導波路3との間に応力緩和層2を設けることにより、電気光学効果膜からなる光導波路3にバルク状の電気光学効果材料に匹敵する高い電気光学効果を生ぜしめ、微細化・高性能化の要請に十分答える信頼性の高い光偏向素子を実現する。
【解決手段】 光導波路3は電気光学効果膜11,12,13が積層形成されてなるものであり、基板1と光導波路3との間に、熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属材料、例えばAu、Ag又はこれらの合金を主成分とする金属材料からなり、基板1に起因する光導波路3への拘束力を緩和する機能を有する応力緩和層2が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信及び光信号処理等の技術分野において用いられる光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電体結晶、又は強誘電体結晶に電場を印加すると屈折率が変化する。この現象は電気光学効果と称されており、この効果を利用して、光変調器、光偏向素子、光スイッチなど様々な光学素子が開発されている。
【0003】
ここで、結晶中を伝播する光のTM−Modeと平行に電場Eを印加したときを考える。このときの屈折率変化は、TE−Mode及びTM−Modeでそれぞれ以下のように表される。
ΔnTE=−(1/2)nTE313E (1)
ΔnTM=−(1/2)nTM333E (2)
【0004】
TE,nTMはTE−Mode及びTM−Modeの屈折率を、r13,r33は電気光学定数をそれぞれ表す。屈折率変化量ΔnTE,ΔnTMは、電圧の強さ、電気光学定数及び屈折率の3乗に比例する。光学素子、例えば光偏向素子において、電気光学効果の大きな材料を用いて光導波路を構成すれば、低電圧でも大きな角度の光偏向を得ることができる。そのため、各種の光学素子に電気光学定数及び屈折率の大きい材料の使用が検討されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−177262号公報
【特許文献2】特開2001−117059号公報
【特許文献3】特開2001−249311号公報
【特許文献4】特開平6−67130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いわゆるバルク状の電気光学材料等の特性として、一般に使用される電気光学効果rcは、
c=r33−(nTE/nTM313 (3)
で表される。バルク状の(Pb1-yLa(3/2)y)(Zr1-xTix)O3、いわゆるPLZT(8/65/35)では、rc=500pm/Vと大きい値が記録されている。
【0007】
一方、薄膜状のPLZT、例えばエピタキシャル成長により形成されるPLZTのエピタキシャル膜の特性について報告がなされている(石井雅俊 他:第51回応用物理学会関係連合講演会29p-ZL-1)。ここでは、PLZTを材料として主成長面の結晶方位が{001}のエピタキシャル膜を成膜したときの特性について記載されており、r13,r33=30pm/V〜40pm/V、rc=0pm/Vとされている。このように、バルク状のPLZTでは高い電気光学効果を示すことに対して、薄膜状のPLZTではバルク状のPLZTに比較して電気光学効果が著しく劣る。
【0008】
近年では、光学素子の更なる微細化・高性能化の要請が高まりつつあり、この要請に応えるには薄膜状の電気光学材料を用いることが必須である。しかしながら現在のところ、上述のように薄膜状の電気光学材料を光学素子に適用するための好適な方策は得られておらず、模索されている現況にある。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、薄膜状の電気光学効果膜を有し、この電気光学効果膜がバルク状の電気光学効果材料に匹敵する高い電気光学効果を示して、微細化・高性能化の要請に十分答える信頼性の高い光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光学素子は、基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属からなる高熱膨張率膜とを含む。
【0011】
本発明の光学素子は、基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、前記基板よりも電歪定数の大きい材料からなる高電歪膜とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄膜状の電気光学効果膜を有し、この電気光学効果膜がバルク状の電気光学効果材料に匹敵する高い電気光学効果を示して、微細化・高性能化の要請に十分答える信頼性の高い光学素子が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
−本発明の基本骨子−
本発明者らは、主成長面の結晶方位が{111}であるPLZTのエピタキシャル膜を成膜し、その特性を調査した。その結果、r13=−10pm/V、r33=110pm/V、rc=120pm/Vであり、結晶方位が{001}のエピタキシャル膜よりはバルク状のPLZTに近い振る舞いをした。しかしながら、依然としてバルク状のPLZTのrc=500pm/Vに比べると電気光学効果は未だ低い。
【0014】
一般に、電気光学効果は分極による効果と歪みによる効果とがある。なかでもPLZTは歪みによる効果が大きく、電気光学効果全体の60%にもなるとの報告がある(C. J. Kirkby, Ferroelectrics, 37 567 1981)。本発明者は、この事実に鑑みて、PLZTのエピタキシャル膜の電気光学効果について、歪みによる効果の割合がどの程度であるのかを調査した。
【0015】
先ず、PLZTのエピタキシャル膜に電場を印加したときの歪み量から電気光学効果を見積もる。屈折率は密度にほぼ比例するので(ρ=V/M(ρ:密度,V:体積,M:質量))、密度は電場を印加したときの印加方向による歪み量に比例して変化する。
【0016】
0,V0を電場印加前の屈折率及び体積、n,Vを電場印加後の屈折率及び体積とすると、
00=nV (4)
となる。この式を用いて、電気光学定数を計算すると、
n−n0=−(1/2)n0333E (5)
となる。ここでr33は電場と平行方向の電気光学定数、Eは電場を表す。
【0017】
そして、実際に成膜したエピタキシャル膜について、(5)式を用いてr33を計算した計算値と、電気光学定数の実測値とを比較する。
ここでは、結晶方位が{001}であるPZTのエピタキシャル膜を使用する。結果として、計算値、実測値ともに23pm/Vとなった。歪み量のデータは文献(Shintaro Yokoyama et.al. Appl.Phys.Letter 83 (2003) 2408)から引用して計算した。因みに、結晶方位がそれぞれ{001},{111}であるPLZTのエピタキシャル膜の計算値は38pm/V、112pm/Vであり、結晶方位が{111}であるPZTのエピタキシャル膜の実測値は121pm/V〜231pm/Vであった。
【0018】
このように、計算値と実測値とがほぼ一致することが確認された。以上の結果から、エピタキシャル膜の電気光学定数はほぼ歪みの影響のみで説明できることが判る。本発明者は、この事実に着目し、基板上に上述したエピタキシャル膜等の電気光学効果膜を形成する場合、基板に起因する電気光学効果膜への拘束力を緩和することにより、電気光学効果膜の電気光学効果を向上させることに想到した。
【0019】
本発明では、基板に起因する電気光学効果膜への拘束力を緩和する具体的構成として、
(1)熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属からなる高熱膨張率の応力緩和膜(高熱膨 張率膜)を、基板と電気光学効果膜との間に形成する。
(2)基板よりも電歪定数の大きい材料からなる高電歪定数の応力緩和膜(高電歪膜)を 、基板と電気光学効果膜との間に形成する。
の2つの構成を提示する。
【0020】
(1)の構成について
本発明に適用する応力緩和膜としては、熱膨張率の高い薄膜(高熱膨張率膜)が考えられる、この場合、高熱膨張率であり、成膜の容易性・確実性等の観点に加え、電気光学効果膜の上下にはそれぞれ電極(上部電極及び下部電極)を配することを考慮して、当該高熱膨張率膜(ここではこの表現)を下部電極と兼用し、素子の微細化及び製造工程の短縮化を実現するという観点から、金属材料、特に金(Au)、銀(Ag)又はこれらの合金を主成分とする金属材料等から応力緩和膜を形成する。
【0021】
図1は、電気光学効果膜の電気光学効果rc(pm/V)と、応力緩和膜の熱膨張率(/℃)との関係について調べた結果を示す特性図である。図1では、横軸を熱膨張率の逆数(℃)、縦軸をrc(pm/V)としている。
このように、熱膨張率が大きいほどrcも大きい値を示しており、Au(熱膨張率:19.2×10-6/℃),Ag(熱膨張率:14.1×10-6/℃)は共に光学素子の基板材料として多用されているSrTiO3(STO)よりもrcが大きく、バルク状の電気光学材料(ここでは500pm/V)に近いrcを示すことが判る。
【0022】
実際に、Au又はAgを材料として応力緩和膜を形成し、電気光学効果膜としてPLZTを材料としてなる主成長面の結晶方位が{111}のエピタキシャル膜のrcを測定したところ、200pm/V程度という大きなrcを示した。この値は、応力緩和膜を有しない場合のrc=120pm/Vに比して大幅に向上している。
【0023】
(2)の構成について
(1)では、応力緩和膜として金属膜を挙げたが、ここでは本発明に適用する応力緩和膜として絶縁膜を提示する。本発明では、基板に起因する電気光学効果膜への拘束力の緩和を志向することから、基板よりも電歪定数の大きい材料から応力緩和膜(高電歪膜)を形成する。具体的な材料としては、上述のように基板材料としてはSTOが多用されていることから、基板材料にSTOを用いる場合には、これよりも電歪定数の大きい材料、例えばPbMg0.50.53又はKTaO3を主成分とする材料を用いる。ここでは、STO、PbMg0.50.53、KTaO3の各電歪定数は、この順で4.7×10-24/C2、6.2×10-24/C2、5.2×10-24/C2である。
【0024】
この場合、下部電極は基板と高電歪膜(ここではこの表現)との間に形成する。これは、応力緩和膜と電気光学効果膜との間に下部電極を形成すると、応力緩和膜による基板の拘束力の緩和という効果が阻害されてしまうことを考慮したものであり、応力緩和膜と電気光学効果膜との間にはできるだけ余計なものは形成しないことが望ましい。
【0025】
実際に、基板材料にSTOを用い、PbMg0.50.53又はKTaO3を材料として応力緩和膜を形成し、電気光学効果膜としてPLZTを材料としてなる主成長面の結晶方位が{111}のエピタキシャル膜のrcを測定したところ、220pm/V程度という大きなrcを示した。この値は、応力緩和膜を有しない場合のrc=120pm/Vに比して大幅に向上している。
【0026】
なお、特許文献1〜4には、それぞれ基板と電気光学効果膜との間にバッファー膜を形成することが開示されているが、本発明の如き熱膨張率の観点、電歪定数の観点は何等示唆すらされておらず、従ってバッファー膜の材質・材料も本発明とは全く異なるものである。
【0027】
−本発明を適用した具体的な諸実施形態−
以下、本発明を適用した具体的な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
(第1の実施形態)
本実施形態では、本発明を光学素子である光偏向素子に適用した例を開示する。光偏向素子とは、入射光を所望の角度で偏向させて出力する光学素子である。
【0029】
図2は、第1の実施形態による光偏向素子の主要構成を示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が(a)の線分I−Iに沿った断面図である。
この光偏向素子は、基板1上に形成された金属材料からなる応力緩和層2と、応力緩和層2上に積層された電気光学材料からなる光導波路3と、光導波路3を介して応力緩和層2と対向するように光導波路3上に設けられた偏向電極4とを備えて構成されている。
【0030】
基板1は、絶縁材料、ここではSrTiO3(STO)を主成分しており、例えばNbを1%含有するSTOを材料として構成されている。
【0031】
光導波路3は、いわゆるスラブ型導波路であり、電気光学効果膜が2層以上、ここでは3層積層されてなるものであり、具体的には、下部クラッド層11と上部クラッド層13との間に光路が形成されるコア層12が挟持されて構成されている。光導波路3の電気光学材料としては、大きな電気光学効果を持つ強誘電体である例えば単純ペロブスカイト構造のPb(Zr1-xTix)O3(PZT:0≦x≦1)、(Pb1-yLa(3/2)y)(Zr1-xTix)O3(PLZT:0≦x,y≦1)、Pb(B'1/3B"2/3xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は2価の遷移金属、B"は5価の遷移金属)、Pb(B'1/2B"2/2xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は2価の遷移金属、B"は5価の遷移金属)、及びPb(B'1/3B"2/3xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は6価の遷移金属、B"は3価の遷移金属)のうちから選ばれた1種を含むものが好ましい。ここで、光導波路3の各電気光学効果膜は、エピタキシャル成長により形成されるエピタキシャル膜であり、主成長面の結晶方位が例えば{100}とされてなるものである。
【0032】
また、タングステンブロンズ構造の電気光学材料、例えば(Sr1-xBax)Nb26(0≦x≦1)、(Sr1-xBax)Ta26(0≦x≦1)、PbNb26、及びBa2NaNb515のうちから選ばれた1種を含むものや、ビスマス層状構造の電気光学材料、例えば(Bi1-xx)Ti312(Rは希土類元素:0≦x≦1)、SrBi2Ta29、及びSrBi4Ti415のうちから選ばれた1種を含むものを用いても好適である。これらの中から任意の屈折率を持つ材料を選択し、光導波路3の材料とする。
【0033】
応力緩和層2は、熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属材料、例えばAu、Ag又はこれらの合金を主成分とする金属材料からなり、基板1に起因する光導波路3への拘束力を緩和する機能を有する。応力緩和層2を形成することにより、光導波路3が高い電気光学効果、例えばrc=200pm/V程度を奏する。この応力緩和層2は、高い導電率の金属材料であることから、光導波路3へ電圧を印加する際の下部電極としても機能する。
【0034】
偏向電極4は、応力緩和層2と光導波路3を挟持して対向する三角形状に形成されており、所期の電圧を印加することにより、入射光を所望の角度に偏向させて出力する機能を有するものである。
【0035】
ここで、本実施形態による光偏向素子の製造方法について説明する。
図3は、第1の実施形態による光偏向素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
先ず、基板1上に応力緩和層2を形成する。
具体的には、図3(a)に示すように、主成長面の結晶方位が{100}であるNb1%−STOからなる基板1上に、例えばAu、Ag又はこれらの合金を主成分とする金属材料、ここではAgをスパッタ法により堆積し、膜厚100nm程度の応力緩和層2を形成する。
【0036】
続いて、応力緩和層2上に光導波路3を形成する。
先ず、PLZTのゾル−ゲル溶液(前駆体)を作製する。PLZTのゾル−ゲル溶液としては、構成金属元素の有機化合物であるPb(CH3COO)2・3H2O〔酢酸鉛〕、La(i−OC373[ランタンイソプロポキシド]、Ti(i−OC374[チタニウムイソプロポキシド]、Zr(OC374[ジルコニウムプロポキシド]、及び安定剤としてのCH3COCH2COCH3[2,4−ペンタンジオン]を溶剤であるCH3OC24OH[2−メトキシエタノール]で還流することにより合成した。PLZTの(8/65/35)組成を作製する場合には、Pb(CH3COO)2・3H2O/La(i−OC373のモル比を102/8とし、Zr(OC374/Ti(i−OC374のモル比を65/35とすれば良い。
【0037】
上記の方法で作製したゾル−ゲル溶液を用いて、図3(b)に示すように、屈折率の異なる下部クラッド層11、コア層12及び上部クラッド層13をエピタキシャル成長させる。
具体的には、応力緩和層2上にPLZT(11/65/35)組成のゾル−ゲル溶液をスピンコート法により塗布する。続いて、ゾル−ゲル溶液の塗布された基板1をホットプレート上にて、例えば140℃で5分間、350℃で5分間、ベークする。続いて、赤外線炉を使用して、酸素雰囲気中において700℃で焼成する。以上の工程により膜厚100nm〜200nm程度の電気光学効果膜が形成される。この工程を繰り返し行い、例えば膜厚が3μm程度の下部クラッド層11を形成する。
【0038】
続いて、下部クラッド層11上に、同様の手法でPLZT(8/65/35)のゾル・ゲル前駆体を塗布して、例えば膜厚が4μm程度のコア層12を形成する。
そして、コア層12上に、同様の手法でPLZT(11/65/35)のゾル・ゲル前駆体を塗布して、例えば膜厚が3μm程度の上部クラッド層13を形成する。
【0039】
PLZT(11/65/35)組成の下部及び下部クラッド層11,13の屈折率は、1.55μmの波長に対して2.39となる。また、PLZT(8/65/35)組成のコア層12の屈折率は、1.55μmの波長に対して2.40となる。
【0040】
続いて、上部クラッド層13上に偏向電極4を形成する。
具体的には、図3(c)に示すように、上部クラッド層13上に、例えばCu/W膜を三角形状にマスク蒸着することにより、偏向電極4を形成する。
以上の工程により、本実施形態の光偏向素子を完成させる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板1と光導波路3との間に応力緩和層2を設けることにより、電気光学効果膜からなる光導波路3にバルク状の電気光学効果材料に匹敵する高い電気光学効果を生ぜしめ、微細化・高性能化の要請に十分答える信頼性の高い光偏向素子が実現する。
【0042】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態と同様に、本発明を光学素子である光偏向素子に適用した例を開示するが、応力緩和層等が異なる点で相違する。なお、第1の実施形態の光偏向素子と同一の構成部材等については同符号を付す。
【0043】
図4は、第2の実施形態による光偏向素子の主要構成を示す模式図であり、(a)が平面図、(b)が(a)の線分I−Iに沿った断面図である。
この光偏向素子は、基板1上に形成された下部電極5と、絶縁材料からなる応力緩和層6と、応力緩和層6上に積層された電気光学材料からなる光導波路3と、光導波路3を介して応力緩和層6と対向するように光導波路3上に設けられた偏向電極4とを備えて構成されている。
【0044】
ここで、基板1、光導波路3、偏向電極4は、構成材料、形状、形成位置等について、第1の実施形態で説明した光偏向素子と同様である。
【0045】
応力緩和層6は、基板よりも電歪定数の大きい絶縁材料、ここでは基板1がSTOを主成分としてなるため、STOの電歪定数である4.7×10-24/C2よりも大きい電歪定数の絶縁材料、例えばPbMg0.50.53又はKTaO3を主成分とする絶縁材料からなり、基板1に起因する光導波路3への拘束力を緩和する機能を有する。応力緩和層6を形成することにより、光導波路3が高い電気光学効果、例えばrc=220pm/V程度を奏する。
【0046】
下部電極5は、例えばSrRuO3、CaRuO3、LaNiO3、(LaxSr1-x)CoO3(0≦x≦1)、(LaxSr1-x)MnO3(0≦x≦1)から選ばれた1種を主成分とする少なくとも1層から構成されている。下部電極5を基板1と応力緩和層6との間に形成することにより、下部電極5により妨げされることなく、応力緩和膜6により光導波路3に対する基板1の拘束力が十分に緩和される。
【0047】
ここで、本実施形態による光偏向素子の製造方法について説明する。
図5は、第2の実施形態による光偏向素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
先ず、基板1上に下部電極5を形成する。
具体的には、図5(a)に示すように、主成長面の結晶方位が{100}であるNb1%−STOからなる基板1上に、例えばPLD法によりSrRuO3を堆積した後、形成されたSrRuO3膜に所望のパターニングを施すことにより、例えば膜厚が100nm程度の下部電極5を形成する。
【0048】
続いて、下部電極5上に応力緩和層6を形成する。
具体的には、図5(b)に示すように、第1の実施形態と同様のゾル−ゲル法により、例えばPbMg0.50.53のゾル−ゲル溶液(前駆体)を作製する。そして、このゾル−ゲル溶液を下部電極5上に塗布し、所定温度・所定時間のベーク及び焼成を繰り返し行い、例えば膜厚が100nm程度の応力緩和層6を形成する。
【0049】
しかる後、応力緩和層6上に第1の実施形態と同様のゾル−ゲル法による下部クラッド層11、コア層12及び上部クラッド層13の形成(図5(c))、及び第1の実施形態と同様に上部クラッド層13上の偏向電極4の形成(図5(d))を経て、本実施形態の光偏向素子を完成させる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板1上の下部電極5と光導波路3との間に応力緩和層6を設けることにより、電気光学効果膜からなる光導波路3にバルク状の電気光学効果材料に匹敵する高い電気光学効果を生ぜしめ、微細化・高性能化の要請に十分答える信頼性の高い光偏向素子が実現する。
【0051】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0052】
(付記1)基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、
前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属からなる高熱膨張率膜と
を含むことを特徴とする光学素子。
【0053】
(付記2)前記高熱膨張率膜は、金(Au)、銀(Ag)又はこれらの合金を主成分とする金属材料からなることを特徴とする付記1に記載の光学素子。
【0054】
(付記3)前記電気光学効果膜上に形成された上部電極を更に含み、
前記上部電極と前記電気光学効果膜を介して対向する前記高熱膨張率膜が下部電極を兼用することを特徴とする付記1又は2に記載の光学素子。
【0055】
(付記4)基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、
前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、前記基板よりも電歪定数の大きい材料からなる高電歪膜と
を含むことを特徴とする光学素子。
【0056】
(付記5)前記高電歪膜は、PbMg0.50.53又はKTaO3を主成分とする材料からなることを特徴とする付記4に記載の光学素子。
【0057】
(付記6)前記電気光学効果膜上に形成された上部電極と、
前記上部電極と前記電気光学効果膜及び前記高電歪膜を介して対向するように前記基板上に形成された下部電極と
を更に含むことを特徴とする付記4又は5に記載の光学素子。
【0058】
(付記7)前記下部電極は、SrRuO3、CaRuO3、LaNiO3、(LaxSr1-x)CoO3(0≦x≦1)、(LaxSr1-x)MnO3(0≦x≦1)から選ばれた1種を主成分とする少なくとも1層からなることを特徴とする付記6に記載の光学素子。
【0059】
(付記8)前記基板は、SrTiO3を主成分とする材料からなることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の光学素子。
【0060】
(付記9)前記電気光学効果膜は、2層以上の積層構造を有する光導波路を構成することを特徴とする付記1〜8のいずれか1項に記載の光学素子。
【0061】
(付記10)前記電気光学効果膜はエピタキシャル成長されてなることを特徴とする付記1〜9のいずれか1項に記載の光学素子。
【0062】
(付記11)前記電気光学効果膜は、主成長面の結晶方位が{100}であることを特徴とする付記10に記載の光学素子。
【0063】
(付記12)前記電気光学効果膜は、単純ペロブスカイト構造を有することを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の光学素子。
【0064】
(付記13)前記単純ペロブスカイト構造は、Pb(Zr1-xTix)O3(0≦x≦1)、(Pb1-yLa(3/2)y)(Zr1-xTix)O3(0≦x,y≦1)、Pb(B'1/3B"2/3xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は2価の遷移金属、B"は5価の遷移金属)、Pb(B'1/2B"2/2xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は2価の遷移金属、B"は5価の遷移金属)、及びPb(B'1/3B"2/3xTiyZr1-x-y3(0≦x,y≦1、B'は6価の遷移金属、B"は3価の遷移金属)のうちから選ばれた1種を含むことを特徴とする付記12に記載の光学素子。
【0065】
(付記14)前記電気光学効果膜は、少なくとも1層がタングステンブロンズ構造を有することを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の光学素子。
【0066】
(付記15)前記タングステンブロンズ構造は、(Sr1-xBax)Nb26(0≦x≦1)、(Sr1-xBax)Ta26(0≦x≦1)、PbNb26、及びBa2NaNb515のうちから選ばれた1種を含むことを特徴とする付記14に記載の光学素子。
【0067】
(付記16)前記電気光学効果膜は、少なくとも1層がビスマス層状構造を有することを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の光学素子。
【0068】
(付記17)前記ビスマス層状構造は、(Bi1-xx)Ti312(Rは希土類元素:0≦x≦1)、SrBi2Ta29、及びSrBi4Ti415のうちから選ばれた1種を含むことを特徴とする付記16に記載の光学素子。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】電気光学効果膜の電気光学効果rc(pm/V)と、応力緩和膜の熱膨張率(/℃)との関係について調べた結果を示す特性図である。
【図2】第1の実施形態による光偏向素子の主要構成を示す模式図である。
【図3】第1の実施形態による光偏向素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【図4】第2の実施形態による光偏向素子の主要構成を示す模式図である。
【図5】第2の実施形態による光偏向素子の製造方法を工程順に示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 基板
2,6応力緩和層
3 光導波路
4 偏向電極
5 下部電極
11 下部クラッド層
12 コア層
13 上部クラッド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、
前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、熱膨張率が10×10-6/℃以上の金属からなる高熱膨張率膜と
を含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記高熱膨張率膜は、金(Au)、銀(Ag)又はこれらの合金を主成分とする金属材料からなることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記電気光学効果膜上に形成された上部電極を更に含み、
前記上部電極と前記電気光学効果膜を介して対向する前記高熱膨張率膜が下部電極を兼用することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
基板の上方に形成されており、電気光学効果を有する少なくとも1層の電気光学効果膜と、
前記基板と前記電気光学効果膜との間に形成されており、前記基板よりも電歪定数の大きい材料からなる高電歪膜と
を含むことを特徴とする光学素子。
【請求項5】
前記高電歪膜は、PbMg0.50.53又はKTaO3を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記電気光学効果膜上に形成された上部電極と、
前記上部電極と前記電気光学効果膜及び前記高電歪膜を介して対向するように前記基板上に形成された下部電極と
を更に含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記下部電極は、SrRuO3、CaRuO3、LaNiO3、(LaxSr1-x)CoO3(0≦x≦1)、(LaxSr1-x)MnO3(0≦x≦1)から選ばれた1種を主成分とする少なくとも1層からなることを特徴とする請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記基板は、SrTiO3を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記電気光学効果膜は、2層以上の積層構造を有する光導波路を構成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記電気光学効果膜はエピタキシャル成長されてなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−133308(P2006−133308A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319439(P2004−319439)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】