説明

光学要素

【課題】有機ガラス基材とシリコーン系硬化膜(ハード膜)との間にプライマー膜を備えた光学要素において、有機ガラス基材が光学要素屈折率1.60以上であっても、曇りや干渉縞等の外観不良が発生し難い光学要素を提供すること。
【解決手段】有機ガラス基材12とハード膜14との間に、プライマー膜16を備えた光学要素。基材12、ハード膜14およびプライマー膜16の各屈折率が1.60以上であるとともに、ハード膜14及びプライマー膜16は、金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有するハード膜塗料及びプライマー膜塗料で形成されている。前記プライマー膜塗料のベースポリマーが非晶性のエステル系熱可塑性エラストマー(エステル系TPE)から実質的になるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ガラス基材とシリコーン系硬化膜(ハード膜)との間にプライマー膜を備えた光学要素に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、眼鏡用レンズの材料としては、無機ガラスに比して、軽くかつ割れにくい有機ガラスが普及してきている。しかし、一般的に有機ガラスは、無機ガラスに比して耐擦傷性が格段に低い。そこで、通常、レンズの表面に、ハード膜が形成されている。更に眼鏡用レンズの場合、美観上等の理由から、ハード膜上に、無機物質の蒸着等の乾式メッキによる無機反射防止膜が形成されていることが多い。
【0003】
しかし、上記のように有機ガラス基材上に、ハード膜と無機反射防止膜の双方を設けたレンズは、耐衝撃性に劣るという不具合があった。そこで、耐衝撃性を向上させるために、有機ガラス基材とハード膜の間にポリウレタン系塗料からなるプライマー膜を介在させる技術的思想が種々提案されている(特許文献1・2・3等)。
【0004】
近年、薄型、軽量化の観点から有機ガラス基材の材料が、脂肪族ポリアリルカーボネート系(CR−39、屈折率1.50)や芳香族ポリアリルカーボネート系(屈折率1.57)から、より高屈折率の、ポリチオウレタン系(屈折率1.60〜1.70)、エピスルフィド系(1.70〜)等に代わりつつある。
【0005】
このような場合でも耐衝撃性、耐擦傷性を確保するため、プライマー膜及びハード膜を形成するが、これらプライマー膜及びハード膜の屈折率も光による干渉縞の発生を防ぐため基材と同等の屈折率を有するものとする必要がある。ここで言う干渉縞とは、基材と屈折率の異なるコート膜を成膜したときに生じる各コート膜の膜厚バラツキ(設定膜厚からの差)によるもので、膜の上面で反射する光と下面で反射する光が干渉し膜の厚さに応じた波長色が虹色に見える現象である。干渉縞低減対策として、膜厚バラツキを無くすことについては、両面への機能付与および量産性の見地からデップコートを採用しているため実現性に乏しい。このため、一般的には基材とプライマー膜、ハード膜の屈折率を近づけることで干渉縞の発生を軽減している。したがって、各コート膜を形成する塗料に、金属酸化物微粒子等を添加し屈折率を上げる手法が取り入れられている。
【0006】
そこで、本発明者らは、ウレタンエラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、無機微粒子及びオルガノアルコキシシランの加水分解物よりなり、基材が高屈折率であっても、干渉縞を発生させないプライマー組成物(プライマー膜塗料)を提案した(特許文献4・5等)。
【0007】
なお、特許文献4の実施例のプライマー膜塗料に使用されている高松油脂社製の「ぺスレジンA−160P」は、結晶性ポリエステル系TPE(結晶性TPEE)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−87223号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭63−141001号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平3−109502号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開平9−291227号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2000−144048号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、有機ガラス基材とハード膜との間にプライマー膜を備えた光学要素において、有機ガラス基材が屈折率1.60以上の場合、曇りや干渉縞等の外観不良が生じやすいことが分かった。
【0010】
特に、プライマー膜の屈折率を高くするために、ハード膜の高屈折率化と同様に非晶性のエステル系TPEとチタニア系金属酸化物微粒子を組み合わせるが、調合液状態では均一分散しているものの、乾燥時に海島構造となり、曇りが生じ易いことが分かった。
【0011】
本発明の課題は、上記にかんがみて、有機ガラス基材とハード膜との間にプライマー膜を備えた光学要素において、有機ガラス基材が光学要素屈折率1.60以上であっても、曇りや干渉縞等の外観不良が発生し難い光学要素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題(問題点)を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、有機ガラス基材(基材)とシリコーン系硬化膜(ハード膜)との間にプライマー膜を備えた光学要素において、エステル系TPEとして非晶性のものを使用すれば、プライマー膜に金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有させても、光学要素に曇りが発生せず、干渉縞も低減することを知見して下記構成の光学要素に想到した。
【0013】
有機ガラス基材(以下「基材」という。)とシリコーン系硬化膜(以下「ハード膜」という。)との間に、プライマー膜を備えた光学要素であって、
前記基材、前記ハード膜および前記プライマー膜の各屈折率をn、nおよびnとしたとき、前記n、nおよびnが全て1.60以上であると共に、前記ハード膜及び前記プライマー膜は、金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有するハード膜塗料及びプライマー膜塗料で形成されてなる光学要素において、
前記プライマー膜塗料のベースポリマーが非晶性のエステル系熱可塑性エラストマー(以下「非晶性エステル系TPE」という。)から実質的になるものであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した光学要素のモデル断面図である。
【図2】実施例1〜3の各分光反射率曲線(波長帯530〜628nm)である。
【図3】実施例4〜6の各分光反射率曲線(波長帯530〜620nm又は530〜628nm)である。
【図4】実施例7・8及び比較例1の各分光反射率曲線(波長帯530〜628nm又は530〜628nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各構成について詳細に説明する。以下の説明で配合比・単位は特に断らない限り、質量比および質量単位である。
【0016】
本発明は、有機ガラス基材(基材)12とシリコーン系硬化膜(ハード膜)14との間にプライマー膜16を備えた光学要素であって、適宜、ハード膜14の表面には、反射防止膜18を備えている。(図1参照)。
【0017】
上記において、基材12、ハード膜14およびプライマー膜16の各屈折率をn、nおよびnとしたとき、前記n、nおよびnが全て1.60以上であるとともに、ハード膜14及びプライマー膜16は、金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有するハード膜塗料及びプライマー膜塗料で形成されてなることを前提とする。
【0018】
ここで、基材およびプライマー膜の屈折率が1.60未満であれば、外観不良(干渉縞や曇り)が発生しがたく、本発明の構成にする必然性がない。同様に、プライマー膜が金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有しなければ、曇りも発生せず、本発明の構成とする必然性がない。
【0019】
さらに、前記nが1.70以上で、nおよびnが1.65以上の構成に本発明を適用した場合には、上記外観不良がより発生し易く、本発明の効果がより顕著となる。
【0020】
そして、上記構成の光学要素において、本発明は、プライマー膜の形成ポリマーが、非晶性エステル系TPEから実質的になることを第一特徴とする。TPEを非晶性とすることにより、結晶性の場合と異なり、プライマー膜の乾燥時に海島構造となり難い。したがって、より高屈折率のプライマー膜を得易く、かつ、分光反射率振幅(波長帯530〜620nm)が小さくなって、光学要素に曇りが発生しがたくなるとともに、干渉縞目立ちも小さくなる。また、TPEを非晶性とすることにより、結晶性に比して耐衝撃性が向上する。
【0021】
ここで、非晶性エステル系TPEとしては、エステル系TPEを構成するジカルボン酸成分がナフタレンジカルボン酸類からなる又は主体とすることが望ましい。高屈折率のプライマー膜を形成しやすい。
【0022】
より具体的には、非晶性エステル系TPEとしては、高松油脂株式会社から、「ぺスレジンMY−038」の商品名で上市されているもの、又は、「ぺスレジンMY−038」相当樹脂を好適に使用できる(後述の表1参照)。
【0023】
当該構成層である基材12、ハード膜14およびプライマー膜16の各屈折率n、nおよびnの関係が、
0.05≧n−n≧−0.02(望ましくは0.03≧n−n>0.00)
0.06≧n−n>0.00(望ましくは0.03≧n−n>0.00)
の要件を満たすものとする。
【0024】
そして、分光反射率振幅(波長帯530〜620nm)が1.5以下(望ましくは1.0以下)を示すものとされている。
【0025】
ここで、後述の実施例で示す如く、上記範囲内では、干渉縞が従来例(比較例1)に比して目立ちが低減乃至殆ど見えないようになる。
【0026】
なお、波長530〜620nmは、外観検査で用いる3波長型昼白色蛍光灯で特徴的な分光特性を有している波長帯である。
【0027】
上記特性は、本発明者らが、多数の実験から、帰納したものである。
【0028】
上記有機ガラスとしては、前記の如く、屈折率1.60以上(望ましくは1.70以上)ものなら特に限定されない。
【0029】
例えば、ポリメチルメタクリレート、脂肪族ポリアリルカーボネート、芳香族ポリアリルカーボネート、ポリスルフォン、ポリチオウレタン(チオウレタン樹脂)、ポリチオエポキシ(チオエポキシ樹脂)等を挙げることができる。これらの内で、高屈折率のものが得易い芳香族アリルポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリチオウレタン、エピスルフィドが望ましい。
【0030】
上記ハード膜は、シリコーン系のものならば特に限定されない。
【0031】
例えば、オルガノアルコキシシランの加水分解物に、触媒、金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む)を加え、希釈溶剤にて塗布可能な粘度になるように調節する。さらに、このハード膜塗料には、適宜界面活性剤、紫外線吸収剤等の添加も可能である。
【0032】
上記オルガノアルコキシシランとしては、下記一般式で示されるものが使用可能である。
【0033】
Si(OR4−(a+b)
(但し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリルオキシ基、フェニル基であり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールアルキル基である。また、a=0または1、b=0、1または2である)。
【0034】
具体的には、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独使用の他に、2種以上を併用することも可能である。
【0035】
上記触媒としては、トリメリト酸、無水トリメリト酸、イタコン酸、ピロメリト酸、無水ピロメリト酸等の有機カルボン酸、メチルイミダゾール、ジシアンジアミド等の窒素含有有機化合物、チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトン鉄等の金属錯体、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩を使用できる。
【0036】
屈折率調節剤としての金属酸化物微粒子としては、平均粒径が5〜50mμのコロイダルシリカ、コロイダルチタニア、コロイダルジルコニア、コロイダル酸化セリウム(IV)、コロイダル酸化タンタル(V)、コロイダル酸化スズ(IV)、コロイダル酸化アンチモン(III)、コロイダルアルミナ、コロイダル酸化鉄(III)等を使用でき、これらは、単一使用の他に、2種以上を併用、または複合微粒子として使用することも可能である。
【0037】
希釈溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類及びセロソルブ類(エチレングリコールのモノアルキルエーテル)等の極性溶剤を好適に使用できる。
【0038】
コーティング方法としては、ディッピング法、スピンコート法等の汎用方法から適宜選択する。硬化条件は、80〜130℃×1〜4hとする。
【0039】
このハード膜14の膜厚は、0.5〜10μm、望ましくは1〜4μmとする。ここで、薄いと耐擦傷性を得難く、厚いと面精度(レベリング性)を得がたいので、両特性のバランスからハード膜の膜厚を適宜設定する。
【0040】
上記ハード膜の上には、通常、反射防止膜を形成する。該反射防止膜の形成は、通常、金属、金属酸化物、金属フッ化物等の無機微粒子を、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法により行う。
【0041】
反射防止膜を形成する無機物としては、シリカ、チタニア(IV)、酸化タンタル(V)、酸化アンチモン(III)、ジルコニア、アルミナ等の金属酸化物や、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物を好適に使用できる。
【0042】
上記プライマー膜塗料は、本実施形態では、塗膜形成ポリマーが非晶性エステル系TPE(以下「非晶性TPEE」という。)であって、金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有するものを使用する。
【0043】
非晶性TPEEとしては、ポリエステル・ポリエーテル型及びポリエステル・ポリエステル型の双方を使用可能である。
【0044】
上記非晶性TPEEは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルまたはポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。
【0045】
以下に、非晶性TPEEのハードセグメント構成成分とソフトソフトセグメント構成成分の具体例を挙げる。
【0046】
ハードセグメント構成成分としてのポリエステル:
基本的には、ジカルボン酸類と低分子グリコールよりなる。
【0047】
ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキソカルボン酸(下記一般式参照)、ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらのうちで、芳香族ジカルボン酸類、さらには、2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類を使用することが、高屈折率のものを得易くて望ましい。
【0048】
一般式 RCO(CHCOOH
但し、R:アルキル基またはH、n:0〜19。
【0049】
低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが使用に際して望ましい。
【0050】
ソフトセグメント構成成分としてのポリエステル:
ジカルボン酸類と長鎖グリコールよりなり、ジカルボン酸類としては、前記のものが挙げられる。
【0051】
長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びその水素添加物等が挙げられる。
【0052】
また、ε−カプロラクトン(C6)、エナントラクトン(C7)及びカプロリロラクトン(C8)もポリエステル成分として有用である。これらの中でε―カプロラクトンが使用に際して望ましい。
【0053】
ソフトセグメント構成成分としてのポリエーテル:
ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられ、これらの中でポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが使用に際して望ましい。
【0054】
上記非晶性TPEEは、慣用の方法で製造が可能である。具体的には、ジカルボン酸の低級アルキルエステルを脂肪族長鎖グリコール及び過剰の低分子グリコールをテトラブチルチタネート等の触媒の存在下で150〜200℃の温度で加熱し、エステル交換反応を行い、まず低重合体を形成し、さらにこの低重合体を高真空下、200〜240℃で加熱攪拌し、重縮合を行い非晶性TPEEとする。前記低重合体は、ジカルボン酸と長鎖グリコール及び低分子グリコールとの直接エステル化反応によっても得ることができる。
【0055】
上記において、非晶性TPEEを塗膜形成ポリマーの全部とせず主体とする場合に組み合わせ可能なポリマーとしては、非晶性TPEEと混和可能なポリマーなら特に限定されず、通常のエステル系樹脂(PBT、PET等)、アミド系樹脂、さらには、アミド系TPE等任意であり、通常、ポリマー全体に占める割合は、50%未満、望ましくは30%未満とする。
【0056】
このような非晶性TPEEは、溶液タイプの形態で添加してもよいが、加工性及び環境保護の観点より水性エマルションの形態で添加することが望ましい。
【0057】
この水性エマルション化は慣用の方法により行うことができるが、具体的には、ポリマーを界面活性剤(外部乳化剤)の存在下、高い機械的剪断をかけて強制的に乳化させる強制乳化法が望ましい。
【0058】
上記界面活性剤としては、1)アニオン系界面活性剤;ラウリルベンゼンスルホン酸Na等のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ類、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、2)カチオン系界面活性剤;第4級アンモニウム塩、3)ノニオン系界面活性剤;ポリエチレングリコール、長鎖アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。これらの中でラウリルベンゼンスルホン酸Naが使用に際して望ましい。
【0059】
また、ポリマーにイオン性の親水基を導入し、乳化剤の助力なしに水中に分散安定させる自己乳化法で行う又は併用してもよい。
【0060】
該プライマー膜塗料(プライマー組成物)は、屈折率の調整や強度の向上等を目的として金属酸化物微粒子(複合微粒子を含む。)を含有させることが望ましい。
【0061】
この金属酸化物微粒子は、前述のハード膜塗料に使用したものを使用でき、取扱性の見地から金属酸化物微粒子(コロイド粒子)をコロイド溶液(ゾル)の形態で添加することが望ましい。このコロイド溶液は、適宜、その分散媒を後述のプライマーに使用する極性溶剤の置換として使用することが望ましい。
【0062】
例えば、平均粒径が1〜100μm、望ましくは5〜50μmのコロイダルシリカ、コロイダルチタニア、コロイダルジルコニア、コロイダル酸化セリウム(IV)、コロイダル酸化タンタル(V)、コロイダル酸化スズ(IV)、コロイダル酸化アンチモン(III)、コロイダルアルミナ、コロイダル酸化鉄(III)等を使用でき、これらは、単一使用の他に、2種以上を併用、または複合微粒子として使用することも可能である。
【0063】
このとき、金属酸化物微粒子の配合比率(質量)は、金属酸化物微粒子/非晶性TPEE=1/99〜80/20、望ましくは2/98〜70/30、より望ましくは4/96〜60/40とする。金属微粒子が1%未満では屈折率調整作用を奏し難く、80%を超えると耐衝撃性に劣り、また、光の散乱により曇りが目立つようになる。
【0064】
そしてこれらの各成分からなる本発明のプライマー膜塗料は、通常、前記ハード膜塗料に使用したのと同様の極性溶剤、即ち、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類及びセロソルブ類(エチレングリコールのモノアルキルエーテル)等の1種または2種以上を併用して希釈して使用する。
【0065】
また、本発明のプライマー膜塗料は、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びフェノール系等の紫外線吸収剤の配合や、塗膜の平滑性を向上させるためにシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を含むレベリング剤、その他改質剤の配合も可能である。
【0066】
塗布(コーティング)方法としては、ディッピング法、スピンコート法の公知の方法から選ばれる。プライマー膜の硬化は、予備硬化と本硬化とからなる。予備硬化の条件は、室温〜150℃×3分〜2h、望ましくは80〜110℃×5分〜1hとする。本硬化はハード膜と同時に行うため、条件は前述のハード膜の硬化条件(80〜130℃×1〜4h)となる。高温長時間にて予備硬化を進めすぎると、上層のハード膜との密着性が低下し、また、予備硬化が不十分なときは、塗膜の白化を招くおそれがある。
【0067】
このプライマー膜の膜厚は、0.2〜3μm、望ましくは0.5〜2μmとする。薄いと耐衝撃性を得難く、厚いと面精度を得がたいので、両特性のバランスからプライマー膜の膜厚を適宜設定する。
【0068】
その他の改質剤として、ポリビニルブチラールが、耐衝撃性を低下させることなく膜厚を向上させる増粘剤として使用できる。添加量は5%(固形分換算)以下が望ましい。5%を超えると面精度に問題が生じたり、プライマー膜の耐水性が低下したりする。
【0069】
メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を、塗膜硬度を調節するのに使用できる。添加量は、20%(固形分換算)以下とする。20%を超えると耐衝撃性に支障をきたす。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の効果を確認するために、比較例とともに行った実施例について説明する。
【0071】
なお、各塗料に使用した酸化チタン系複合微粒子は、下記のものを使用した。
【0072】
・酸化チタン系複合微粒子(a)…「オプトレイク1120Z(S−7,G)」(日揮触媒化成株式会社:ZrO/TiO=0.02、SiO/TiO=0.22、粒径:10mμ、固形分濃度:20%、分散溶媒:メチルアルコール、表面改質剤:γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
【0073】
酸化チタン系複合微粒子(b)…「オプトレイク1130F−2(A−8)」(日揮触媒化成株式会社:Fe/TiO=0.02、SiO/TiO=0.11、粒径:10mμ、固形分濃度:30%、分散溶媒:メチルアルコール、表面改質剤:テトラメトキシシラン)
【0074】
A.プライマー膜塗料の調製
なお、プライマー膜塗料に使用した各薬剤及びその代表的物性は、下記の通りである。
【0075】
水性エマルションTPEE(非晶性)…「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社、水分散エマルション、固形分濃度20%、ブチルセロソルブ12%)。
【0076】
水性エマルションTPEE(結晶性)…「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社、固形分濃度25%)。
【0077】
なお、「ペスレジンMY−038」と「ペスレジンA−160P」の各特性値を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
<プライマー膜塗料:P−1>
市販の非晶性TPEE「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:20%)268部に、希釈溶剤としてメチルアルコール319部、純水43部、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)107部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.68)
【0080】
<プライマー膜塗料:P−2>
市販の非晶性TPEE「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:20%)234部に、希釈溶剤としてメチルアルコール296部、純水66部、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)141部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.70)
【0081】
<プライマー膜塗料:P−3>
市販の非晶性TPEE「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:20%)208部に、希釈溶剤としてメチルアルコール278部、純水83部、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)167部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.72)
【0082】
<プライマー膜塗料:P−4>
市販の非晶性TPEE「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:20%)179部に、希釈溶剤としてメチルアルコール258部、純水104部、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)196部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.74)
【0083】
<プライマー膜塗料:P−5>
市販の非晶性TPEE「ペスレジンMY−038」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:20%)163部に、希釈溶剤としてメチルアルコール248部、純水114部、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)212部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.76)
【0084】
<プライマー膜塗料:P´>
市販の結晶性TPEE「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社製、固形分濃度:25%)150部に、希釈溶剤としてメチルアルコール287部、純水113部、前述の酸化チタン系複合微粒子「1120Z(S−7.G)」(日揮触媒化成株式会社製、固形分濃度:20%)187部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWET L−77」)1部を混合し、均一な状態になるまで攪拌し、これをプライマー膜塗料とした。(n:1.68)
【0085】
B.ハード膜塗料の調製
<ハード膜塗料:H−1>
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン169部、メチルアルコール55部を加え、攪拌しながら、0.01Nの塩酸45部を滴下して一昼夜加水分解を行った。
【0086】
該加水分解物に、酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」(日揮触媒化成株式会社)390部、メタノール181部、硬化触媒としてアセチルアセトンアルミニウム3部、及びレベリング剤「SILWET L−7001」1部を加え、一昼夜攪拌し、ハード膜塗料を調製した。(n:1.68)
【0087】
<ハード膜塗料:H−2>
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン160部、メチルアルコール52部を加え、攪拌しながら0.01Nの塩酸43部を滴下して一昼夜加水分解を行った。
【0088】
該加水分解物に、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」419部、メタノール166部、硬化触媒としてアセチルアセトンアルミニウム2部、及びレベリング剤1部を加え、一昼夜攪拌し、ハード膜塗料を調製した。(n:1.70)
【0089】
<ハード膜塗料:H−3>
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン146部、メチルアルコール47部を加え、攪拌しながら0.01Nの塩酸39部を滴下して一昼夜加水分解を行った。
【0090】
該加水分解物に、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」467部、メタノール141部、硬化触媒としてアセチルアセトンアルミニウム2部、及びレベリング剤1部を加え、一昼夜攪拌し、ハード膜塗料を調製した。(n:1.72)
【0091】
<ハード膜塗料:H−4>
γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン129部、メチルアルコール42部を加え、攪拌しながら0.01Nの塩酸35部を滴下して一昼夜加水分解を行った。
【0092】
該加水分解物に、前述の酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8)」525部、メタノール111部、硬化触媒としてアセチルアセトンアルミニウム2部、及びレベリング剤1部を加え、一昼夜攪拌し、ハード膜塗料を調製した。(n:1.74)
【0093】
C.試験片の作成
表2の組み合わせにて表示の膜厚のプライマー膜、ハード膜および反射防止膜を両面に形成した。なお、有機ガラス基材(プラスチックレンズ)は、下記のものを使用した。
【0094】
屈折率(n)1.74 「MR−174」(三井化学株式会社)
【0095】
(1)プライマー膜の形成
表2に示す各屈折率の基材(プラスチックレンズ)を40℃のNaOH水溶液(10wt%)に2分間浸漬してエッチング処理を行った。各エッチング処理後、水洗、乾燥させた各レンズ基材を、各実施例及び比較例のプライマー膜塗料をディッピング法(引き上げ速度150mm/min)により塗布し、90℃×10分の条件で硬化させた。
【0096】
(2)ハード膜の形成
上記プライマー膜を形成した基材の上に、ハード膜塗料をディッピング法(引き上げ速度:180mm/min)で塗布し、100℃×3hの条件で硬化させて、ハード膜を形成した。
【0097】
(3)反射防止膜の形成
上記ハード膜を形成した基材の上に、真空蒸着法によって以下に示す構成の蒸着膜を形成した。
【0098】
膜構成:SiO/ZrO:1/4λ、ZrO:1/4λ、SiO:1/4λ、
【0099】
D.物性試験及び評価
<試験項目>
前記のごとく調製した各試験片について、以下の各項目の試験を行った。
【0100】
(1)外観
1)光干渉縞
背景を黒くした中に蛍光灯「商品名:メロウ5N」(東芝ライテック株式会社製、3波長型昼白色蛍光灯)を置き、蛍光灯の光を試験片の反射防止膜表面で反射させ、対象物表面にできる光干渉縞(虹模様)の有無を目視により判定した。同時に、波長帯530〜620nm又は530〜628nmにおける分光反射率曲線も求めた。
【0101】
判定基準は、
◎:殆ど見えない、○:目立たない、△:目立つ、×:非常に目立つ
とした。
【0102】
2)曇り
試験片を蛍光灯下にかざし、曇りの有無の判定を行った。
【0103】
(2)耐擦傷性試験
スチールウール(#0000)に600gの荷重を加え、各試験片の反射防止膜の表面を30回/15sにて擦り、傷の入り具合にて判定した。
【0104】
評価基準は、
○:傷の入った面積が10%以内、
△:傷の入った面積が10%を超えて30%以内、
×:傷の入った面積が30%を超える、
とした。
【0105】
(3)密着性試験
試験片に1cm四方に1mm間隔で100個のマス目を形成し、セロハン製粘着テープを強く押し付けた後、90°方向に急激に剥がし、剥離しないマス目の数を数えた。
【0106】
(4)耐温水性試験
80℃の湯中に試験片を10分間浸漬させ、外観(クラックの有無)と上記密着性試験を行った。
【0107】
(5)耐衝撃性試験
剛球(A.16g、B.50g)を127cmの高さから試験片の中心部に落下させ、割れるか否かで判定をした。
【0108】
<試験結果の評価>
試験結果を示す表2および図2〜4から、下記事項の確認ができた。
【0109】
本発明の特徴である基材とプライマー膜、プライマー膜とハード膜の屈折率差が小さく、且つプライマー膜よりもハード膜の屈折率が低い組み合わせである実施例1〜5は、いずれも、干渉縞が殆ど見えないか又は目立たず、かつ、曇りも発生せず外観に優れている。
【0110】
基材とプライマー膜との屈折率差(n−n)が小さいが、プライマー膜とハード膜との屈折率差(n−n)が大きい実施例6は、干渉縞が目立つ。また、基材とプライマー膜との屈折率差(n−n)が大きい実施例7・8は、干渉縞が非常に目立つが、結晶性エステル系TPEを用いた比較例1に比して、曇りが目立たず、かつ、耐衝撃性にも優れている。
【0111】
【表2】

【符号の説明】
【0112】
12 有機ガラス基材
14 シリコーン系硬化膜(ハード膜)
16 プライマー膜
18 反射防止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ガラス基材(以下「基材」という。)とシリコーン系硬化膜(以下「ハード膜」という。)との間に、プライマー膜を備えた光学要素であって、
前記基材、前記ハード膜および前記プライマー膜の各屈折率をn、nおよびnとしたとき、前記n、nおよびnが全て1.60以上であると共に、前記ハード膜及び前記プライマー膜は、金属酸化物微粒子を屈折率調整剤として含有するハード膜塗料及びプライマー膜塗料で形成されてなる光学要素において、
前記プライマー膜塗料のベースポリマーが非晶性エステル系熱可塑性エラストマー(以下「非晶性エステル系TPE」という。)から実質的になるものであることを特徴とする光学要素。
【請求項2】
前記非晶性エステル系TPEを構成するジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸からなる又は主体とするものであることを特徴とする請求項1記載の光学要素。
【請求項3】
前記芳香族ジカルボン酸が実質的にナフタレンジカルボン酸であることを特徴とする請求項2記載の光学要素。
【請求項4】
前記各屈折率n、nおよびnの関係が、
0.05≧n−n≧−0.02、および、
0.06≧n−n>0.00
の要件を満たすものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の光学要素。
【請求項5】
分光反射率振幅が1.50以下であることを特徴とする請求項4記載の光学要素。
【請求項6】
前記各屈折率n、nおよびnの関係が、
0.03≧n−n>0.00、および、
0.03≧n−n>0.00
の要件を満たすものであることを特徴とする請求項4記載の光学要素。
【請求項7】
分光反射率振幅が1.0以下であることを特徴とする請求項6記載の光学要素。
【請求項8】
前記ハード膜の表面に反射防止膜を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一記載の光学要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−256751(P2010−256751A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108842(P2009−108842)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(391007507)伊藤光学工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】