説明

光導波路、及び光導波路の製造方法

【課題】光信号を用いたSi細線導波路から光ファイバなど光導波路外部との接続を行う場合において、光が伝送する径が異なるためにスポットサイズ変換器が必要であるが、光学的な結合効率が不充分で、かつ作製上のばらつきもあって製造が容易ではなかった。
【解決手段】光導波路の端面とSi細線光導波路のテーパ構造領域の先端の間にクラッド層と同じ材料で、クラッド層より突出した構造の光結合ブロック領域とを備えた。また、テーパ構造領域を作製し、その形成されたテーパ構造領域を参照して、光結合ブロック領域を形成するマスクの位置合わせを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路、及び光導波路の製造方法に関し、特にシリコン細線を用いた光導波路を光ファイバ等のより大きな光部品に接続する際に用いるスポットサイズ変換構造を有した光導波路と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化と量産性を目指してシリコン(Si:Silicon、珪素、以下Siと略すこともある。)を、光導波路材料として用いる技術が注目を集め始めている。光導波路の中でSiからなるコア(芯)の外周をすべて、より屈折率の低いクラッド、例えばシリカ(SiO)で覆った構造のものをSi細線光導波路と呼ぶ。
Si細線光導波路は、この材料からなる前記の構造では、コアとクラッドとの屈折率の差が極めて大きいために、光を強くコア中に閉じ込めることが可能であり、極めて微細なサブミクロンの断面構造を実現できる特徴がある。さらに、その大きな屈折率差で光を急激に曲げる、曲線構造を有する光導波路が実現可能であり、その曲げ半径は1ミクロン程度まで小型化できる。
これらのことから、このSi細線光導波路は、他の構造では不可能な、Si電子デバイスと同程度の大きさの光回路デバイスが実現可能であり、光と電子をデバイス(チップ)上で融合する有力な技術として注目されている。しかし、Si細線光導波路は、光ファイバ(概略の値として、コア8μmφ、外径125μmφ)などデバイス外部との接続を行うためには、微小な断面(光導波路コアの概略値は0.3μm□)を通る光のスポットサイズを拡大しなければならない。
【0003】
このため、様々なこの光を拡大するスポットサイズ変換器が考案され、これらが特許文献1〜7に開示されている。また、光のスポットサイズを拡大する方法として、光導波路コアをテーパ状(先端に向かって細くなる形状)に小さくする方法が従来から知られている。ここで光導波路コアの幅をテーパ状にすることについては、特許文献1、2、3、7に開示されており、光導波路コアの厚みをテーパ状にすることについては特許文献4、5、6に開示されている。このほかに、テーパ状に3次元構造で導波路断面積を拡大するものや、あるいはグレーティング(格子状パターンの形成)を使用したものが提案されている。
これらの中で、先細りのテーパは、作製が容易で、波長帯域が広い特徴を有している。また、特許文献6に開示された、光導波路コアを二重にしたものは拡大したスポットも導波されるため、波面が確定されていてロスの少ない光入出力を行うことができる。
【0004】
また、図4は、従来のSi細線を用いた光導波路40から光ファイバ5へ光信号を伝搬する際のスポットサイズ変換器(テーパ構造領域4)の構造図である。図4ではまず基板(Si層1とSiO層23(SiO層2(図2))と光導波路コア3Gに対応するSi層3(図2)を含む)としてSOI(Silicon on Insulator)基板を用いる。このSOI基板にSiをコアとする光導波路コア3Gを形成する。
光導波路40は、光入出射端面2s近傍にテーパ状のスポットサイズ変換器(テーパ構造領域4)が設けられている。ここでは、Si光導波路のコア3Gの幅を先端に向かって狭くし、厚みは一定の構造である。光ファイバ5及び光ファイバのコア5cの端面は、光導波路コア3Gを通る光を入力するために光導波路40の光入出射端面2sに接している。
光ファイバ5は、ここでは、簡単のため、単に光ファイバ5を光導波路40に突き合わせたバットジョイント型(Butt Joint型)の接合を示しているが、一般的には光学的な結合効率が良くなるように光ファイバ5の先端を加工して、先球光ファイバ(レンズ構造を持つ)とする方法が多く採用されている。光導波路コア3Gを伝搬する光のスポットサイズは、サブミクロンであり、光ファイバ5の伝搬光のスポットサイズが数ミクロンであるので、そのままではサイズのミスマッチングにより、光導波路40、もしくは光導波路コア3Gから光ファイバ5へ光が効率よく送り込まれない。しかしながら、テーパ構造領域4を設けると、この部分で光が広がっていくため、効率よく光ファイバ5へ送り込むことができる。ただし、テーパ構造領域4の先端(細い側)から光導波路40の光入出射端面2sの間で光は急速に広がっていくために、この距離を一定にしないと光学的な結合効率のばらつきが生じる構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−162528号公報
【特許文献2】特開2000−235128号公報
【特許文献3】米国特許6684011号明細書
【特許文献4】特開平9−15435号公報
【特許文献5】特開2005−326876号公報
【特許文献6】特開平7−63935号公報
【特許文献7】特開2003−207684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単にテーパ状にした図4や特許文献1〜5に開示されている技術は、製造工程上のばらつきでテーパ構造領域と光導波路の光入出射端面との間での距離が変化することがあり、その結果、光学的な結合効率が変動するという問題があった。
また、二重コアやステップ状に形成する特許文献6、7に開示されている技術は作製が容易でなく、製造コストが上昇するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は前記した問題を解決するためになされたものであり、テーパ構造領域と光導波路の入出射端面との間の距離による光学的な結合効率の変化が少ない光導波路、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、各発明を以下のような構成にした。
すなわち、コア層とその周囲を覆うクラッド領域を有する光導波路において、前記コア層の一端にコア幅が伝搬方向とともに狭く形成されたテーパ構造領域と、前記光導波路の光入出射端面と前記テーパ構造領域の先端との間に前記クラッド領域よりも法線方向に突出した構造の光結合ブロック領域と、を備えた。
【0009】
かかる構成により、光導波路から光ファイバへの光のスポットサイズの変換が効率よく行われ、光学的な結合損失が低減する。
【0010】
また、コア層とその周囲を覆うクラッド領域と、前記コア層の一端にコア幅が伝搬方向とともに狭く形成されたテーパ構造領域と、光導波路の光入出射端面と前記テーパ構造領域の先端との間に前記クラッド領域よりも法線方向に突出した構造の光結合ブロック領域と、を備える光導波路の製造方法において、前記テーパ構造領域を作製し、その後、形成された前記テーパ構造領域を参照して、前記光結合ブロック領域を形成するマスクの位置合わせを行う。
【0011】
かかる方法により、製造プロセスによる幅細りでテーパ構造領域の先端位置が変化してもマスク合わせの段階で光結合ブロック領域を形成する位置を調整できて、テーパ構造領域と光結合ブロック領域の位置関係を最適に保つ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、テーパ構造領域と光導波路の入出射端面との間の距離による光学的な結合効率の変化を少なくすることができる。
このため、スポットサイズ変換器を容易に低コストで作製でき、かつ、安定した特性の光導波路が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る光導波路の構造を示す構造図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光導波路の作製の仕方を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る光導波路の光結合ブロック領域を含むスポットサイズ変換器と光ファイバとの間の光学的な結合効率の特性図である。
【図4】従来の光導波路の構造を示す構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態の光導波路の構造図である。図1では基板(Si層1+SiO層23+Si層3G)としてSiOからなる絶縁層の両側をSiで挟んだ構造のSOI基板を用いている。また、光導波路10は、このSOI基板を加工して、Si層からなる光導波路コア3GとSiO層からなるクラッド領域23とによって形成される。また、光導波路コア3Gの先端にはSi層からなるテーパ構造領域4が同時に形成されている。なお、図1で光導波路コア3Gとテーパ構造領域4とを示した箇所は、Si層からなる領域であり、その周囲にはSiO層からなるクラッド領域がある。このクラッド領域の一部である下部のクラッド領域23はSiO層からなり、図1でも示されているが、上部と横の部分のSiO層からなるクラッド領域は図1では全体の構成を見やすくするために図示していない。ただし、後記する図2では図示している。
【0015】
このSiからなる光導波路コア3GとSiOからなるクラッド領域23による光導波路10においてはコアとクラッドとの光の屈折率の差が大きい(Siの屈折率は約3.5であり、またSiOの屈折率は概ね1.46である)ので、光は外部に洩れることなく、光導波路コア3Gの内部を伝搬する。
光導波路コア3Gの端部にはテーパ構造領域4が形成されている。テーパ構造領域4ではSi層からなるコアの幅を先端に向かって狭くしている。コア幅をある程度以上狭くしていくと光のスポットサイズが広くなる領域があり、その広がったスポットサイズを光ファイバのスポットサイズに合わせると両者の光学的な結合損失を低減できることが知られている。したがって、光導波路10には、テーパ構造領域4が設けられ、その中で光を進ませることによって先端で光のスポットサイズを変換しやすくなっている。
【0016】
ここまでの光導波路コア3Gとテーパ構造領域4の構造は、従来例であげた図4と同様の構造である。従来例の図4ではテーパ構造領域4の先端で光ファイバ5に結合させていた。
本実施形態ではさらに図1において、光導波路10は、クラッド領域23と同一の材料(SiO)による光結合ブロック領域21が、テーパ構造領域4と光導波路の光入出射端面2sとの間で、クラッド領域23の表面側に突出した構造として設けられている。この光結合ブロック領域21については、この後に詳細に述べる。
【0017】
なお、SiOの屈折率は結晶構造と結晶化するときの温度や圧力により異なり、前記屈折率1.46は石英(SiO)の代表的な値の例である。
また、前記コアとクラッドの屈折率の関係において、Siの屈折率は約3.5であり、またSiOの屈折率は概ね1.46とした例をあげた。このとき、クラッド(SiO)の屈折率に対してコア(Si)の屈折率は約2.4倍となっている。このように屈折率に大きな差があるときは光の閉じ込め効果が大きく、光は外部に洩れることなく、光導波路10の光導波路コア3Gのなかを伝搬する。しかし、このように大きな屈折率の差がなくとも、光導波路の光の閉じ込め効果は充分であることがある。概ねクラッドの屈折率に対してコアの屈折率が1.4倍以上(40%以上大きい)であれば寸法1ミクロン前後以下の光導波路として実用性がある。
【0018】
(光結合ブロック領域)
本実施形態の特徴である光結合ブロック領域21について説明する。
図1に示すように、光結合ブロック領域21は、クラッド領域23の上面から突出した直方体構造をしている。光導波路の光入出射端面2sは平面である。また、SiO層からなるテーパ構造領域4側の光結合ブロック領域21の端面21saは、クラッド領域23の上部の表面に垂直、かつ光導波路コア3Gの方向に垂直な平面となっている。光導波路コア3Gの延長方向に平行な結合ブロック領域21の側面の端面21sbは、クラッド23領域の上部の表面に垂直な平面となっている。光結合ブロック領域21の上部の端面21scはクラッド領域23の表面に平行な平面である。また、これら光結合ブロック領域21の各側面は、曲面であってもよく、あるいは垂直でなくてもよい。ただし、光結合ブロック領域21は、図1に示したように直方体構造であれば、製造工程が比較的に容易である。
【0019】
なお、光結合ブロック領域21の上部、および側面の外部は光導波路10の外部となり、通常は空気が充満している。したがって、光結合ブロック領域21は、屈折率約1.46のSiO層であり、周囲は屈折率約1.0の空気の層である。テーパ構造領域4の長さがある程度長ければ、テーパ構造領域4から出てくる光の広がり角は小さく、光ブロック領域21と周囲の空気層との屈折率差による光の全反射によって、光は光結合ブロック領域21から周囲の空気層に洩れることはない。
【0020】
次に、光結合ブロック領域21の役目について定性的に説明する。光導波路コア3Gからテーパ構造領域4に入射した光は、テーパの幅が狭まるにつれ、光のスポットサイズが変化し、光結合ブロック領域21のスポットサイズに適合した位置で光結合ブロック領域21の端面21saに接合されている。したがって、光はテーパ構造領域4から光結合ブロック領域21に効率よく伝搬する。光結合ブロック領域21に移った光は、光結合ブロック領域21内に広がり、光のスポットサイズも大きくなる。そして、光結合ブロック領域21の光は、スポットサイズがあまり差のなくなった光ファイバ5へ効率よく伝搬する。つまり、光結合ブロック領域21はテーパ構造領域4と光ファイバ5との間での光の伝搬を円滑に行う機能を果たす。
【0021】
以下、光結合ブロック領域21を設ける作用について説明する。光結合ブロック領域21が設けられていない場合には、光導波路コア3Gからテーパ構造領域4に入った光は、テーパ構造領域4の先端(細い側)に向かうと、光のスポットサイズが変化する。適切なテーパ幅においては、スポットサイズが広がる領域があり、テーパ構造領域4のなかにおける光のスポットサイズが光ファイバ5のスポットサイズに近づいたところで光ファイバ5に接合し、光学的にも結合させ、光を伝搬させる。
しかしながら、光ファイバ5は、光導波路10から見れば別の素子であり、外付けの部品である。したがって、光ファイバ5と光導波路10の接合の際における両者の間の距離はばらつく。この距離がばらつくと、テーパ構造領域4の先端から出た光のスポットサイズもこの距離によって変化し、光ファイバのスポットサイズと合わなくなり、光学的な結合効率もばらつくことになる。
【0022】
それに対して、本実施形態の光結合ブロック領域21は、光導波路10の中に光導波路コア3Gおよびテーパ構造領域4と同じ部品要素として含まれていて、同じ製作工程で作製される。したがって、テーパ構造領域4の先端と光結合ブロック領域21の端面21saとの距離は安定して製作できる。後記するテーパ構造領域4を作製するSiのエッチング工程のばらつきによって、テーパ構造領域4の先端の位置は多少ばらつくものの、外付け部品である光ファイバ5を位置合わせするときのばらつきに比較すれば、ウエハ(SOI基板)で一括して作製できるために非常に安定している。つまり、テーパ構造領域4の先端と光結合ブロック領域21の端面21saの距離が安定しているため、光学的な結合効率は安定して高い値に保てる。そして、光結合ブロック領域21に移った光は、光結合ブロック領域21の光のスポットサイズと光ファイバ5の光のスポットサイズとはあまり変わらないために光結合ブロック領域21と光ファイバ5の間の光の伝搬は円滑に行われる。したがって、製造上のばらつきがあっても、また、外付け部品(光ファイバ5)の取り付けの際においても、光学的な結合効率は安定して高い値に保てる。つまり、光結合ブロック領域21を設け、光の伝搬が光結合ブロック領域21を介することによって、高い光学的な結合効率を安定して得ることができるのである。
【0023】
以上により、光結合ブロック領域21を設けることによって、光導波路10から光ファイバ5への光の伝搬が円滑に行われる定性的な理由を説明した。また、光結合ブロック領域21がどのような形状で、どの程度の効果があるかについては、光学的な結合効率の特性という定量的な観点で後記する。
【0024】
(光結合ブロック領域を含む光導波路の作製方法の概略)
次に光結合ブロック領域21を含む光導波路10の作製の仕方を図1と図2とを参照して説明する。
図2において、(a)、(b)、(c)、(d)は製造工程を順に表したものである。また、前記(a)〜(d)の各図において、上段の図は光導波路10を上面から見た平面図であり、下段の図は光導波路10の光入出射端面2s近辺の断面を示した断面図である。なお、構造を理解しやすくするために、光導波路10を構成する材質のSiとSiOを半透明と仮定して、断面から少し離れた部分の構造も仮想的に図示している。
【0025】
光導波路10は以下のような工程で作製される。
(1)製造者は、まずSOI基板を用意する。なお、SOI基板は専用メーカから既に製品として用意されたものが購入できる。SOI基板は図2(a)に示したように下の層から順にSi層1とSiO層2とSi層3との構成をとっている。
(2)図2(b)における光導波路コア3Gとテーパ構造領域4の構造を形成するために、これらの構造を上面から見た形状のマスクを用いてレジストがパターニング(形成)される。そして、このレジストの上からドライエッチングにより、Si層3を前記マスクの形状にしたがって、不要部分が除去され、Siからなる導波路構造のコア部3Gとテーパ構造領域4とが図2(b)のように形成される。
(3)次に図2(c)において、前記した図2(b)の構造の上から、下部のクラッド領域2と同じ材料(SiO)で上部のクラッド領域となるSiO層22(図2(c))はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、SiOを堆積することによって形成される。
(4)図2(d)における突出した部分である光結合ブロック領域21の構造を形成するために、この構造を上面から見た形状のマスクを用いてレジストがパターニング(形成)される。そして、このレジストの上からドライエッチングにより、SiO層22は前記マスクの形状にしたがって、不要部分が除去され、突出部21が形成される。この突出部21が光結合ブロック領域21となる。なお、SiO層22から不要部分が除去された残りはSiO層23となる。
【0026】
以上によって、Si細線導波路構造のテーパ構造領域4と光導波路10の光入出射端面2sとの間に、光結合ブロック領域21が形成される。また、光結合ブロック領域21以外の部分は、下部のクラッドと上部のクラッドが一体となりクラッド領域23を構成する。これにより、光導波路コア3Gを下部のクラッドと上部のクラッドで覆ったSi細線による光導波路10を作製することができる。
なお、光結合ブロック領域21の位置はあらかじめ設定してもよいが、光結合ブロック領域21の端面21sa(図1)を、既に形成されたテーパ構造領域4の先端(細い側)に合わせるようにマスクを位置合わせして作製することも考えられる。プロセスによる幅細りでテーパ構造領域4の先端位置が変化する場合があるためである。
【0027】
なお、この光導波路10を作製する工程について説明を加えると、図2(b)を参照して説明したSi層からなる光導波路コア3Gは、縦横いずれかの寸法は、0.5ミクロン(μm)以下として単一モードにする。縦横が0.3ミクロンであれば、縦横方向で単一モードとなることが知られている。光学的な損失(ロス)を考えたときには、0.5ミクロン程度にして、コアへの基本モードの光閉じ込めを強化した方がよい。高次モードはロスが大きいので問題とならず、シングルモードとして動作する。また、Si光導波路10の光が基板のSi層1へ逃げるのを防止するためSi光導波路コア3GとSi層1との距離、つまりSiOからなる絶縁層(SiO層2)は1ミクロン以上にするのが良い。
【0028】
(光学的な結合効率の特性計算例)
次に、光結合ブロック領域21を用いる効果を定量的な観点で説明する。
図3に光結合ブロック領域21を有した光導波路10の構成おける光学的な結合効率の特性を計算した例を示す。図3で縦軸は後記する条件での光の結合効率を示し、横軸は光導波路10の光入出射端面2sとテーパ構造領域4の先端との間の距離として、特性をグラフ化している。
【0029】
伝搬する光の波長は、1.55ミクロンである。また、光導波路コア3Gの上部の残留クラッドの厚みは1ミクロンとし、光結合ブロック領域21は幅を6ミクロンとした。また、高さをTとして1ミクロンと2ミクロンとに場合分けをした。また、テーパ構造領域4の長さは200ミクロンとしている。なお、クラッド領域2、23と光結合ブロック領域21は、屈折率1.46の石英(SiO)を仮定している。光導波路コア3Gは0.3ミクロン角のSiであり、屈折率は3.5である。
【0030】
以上の条件のもとに、直径8ミクロンのスポットサイズの光ファイバ5の光をブロック21に光導波路10の光入出射端面2sで照射して、光導波路コア3G内にどれだけの割合の光が励起されるかを3次元BPM法(Beam Propagation Method)を用いて計算している。
【0031】
図3の特性図において、光結合ブロック領域21の高さによって、距離(光導波路10の光入出射端面2sとテーパ構造領域4の先端との間の距離)による影響が異なることが解る。光結合ブロック領域21が無い場合(T=0ミクロン)には前記距離が離れるにしたがって、ほぼ直線的に効率が下がっていく。また、光結合ブロック領域21がある場合(T=1もしくは2ミクロン)には、前記距離が200ミクロン離れても依然として最大(テーパ部の先端と光導波路端面間距離が0)に対して70%の効率を維持している。
【0032】
以上、光結合ブロック領域21を設けることにより、テーパ構造領域4の先端部より200ミクロン離れて光ファイバ5の結合を行っても、高い光学的な結合効率を保てる(最良値(テーパ構造領域4の先端部における値)の70%を確保)ので、本実施形態により、微小な断面積を有するSi細線の光導波路10と光ファイバ5などより大きな光部品を接続する際の、スポットサイズ変換器を容易に作製することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
小型化と量産性に優れたシリコンの光導波路、及びシリコン電子デバイスとの融合を図る分野は今後ますます有望な市場があると予測される。そのなかで、本発明はシリコンの光導波路から光ファイバへ光信号を効率よく伝送するスポットサイズ変換手段を安定した性能で容易な作製方法を提供でき、広く使用される可能性がある。
【符号の説明】
【0034】
1、3 Si層
2、22、23 SiO層(クラッド、クラッド領域)
2s 光導波路の光入出射端面
3G 光導波路コア、コア
4 テーパ構造領域
5 光ファイバ
5c 光ファイバのコア
10、40 光導波路
21 光結合ブロック領域
21sa、21sb、21sc 光結合ブロック領域を構成するSiO層の端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層とその周囲を覆うクラッド領域を有する光導波路において、
前記コア層の一端にコア幅が伝搬方向とともに狭く形成されたテーパ構造領域と、
前記光導波路の光入出射端面と前記テーパ構造領域の先端との間に前記クラッド領域よりも法線方向に突出した構造の光結合ブロック領域と、
を備えたことを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記コア層の屈折率は、前記クラッド領域の屈折率よりも40%以上大きいことを特徴とする請求項1記載の光導波路。
【請求項3】
前記光結合ブロック領域と前記クラッド領域が同一の材料で構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光導波路。
【請求項4】
前記光結合ブロック領域は、直方体の形状で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の光導波路。
【請求項5】
コア層とその周囲を覆うクラッド領域と、前記コア層の一端にコア幅が伝搬方向とともに狭く形成されたテーパ構造領域と、光導波路の光入出射端面と前記テーパ構造領域の先端との間に前記クラッド領域よりも法線方向に突出した構造の光結合ブロック領域と、を備える光導波路の製造方法において、
前記テーパ構造領域を作製し、その後、形成された前記テーパ構造領域を参照して、前記光結合ブロック領域を形成するマスクの位置合わせを行うことを特徴とする光導波路の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−75645(P2011−75645A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224549(P2009−224549)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】