説明

光応答性銅イオン吸着材料および銅イオン回収方法

【課題】金属イオンのうち銅(II)イオンのみを選択的に吸着し、脱離して回収することができる光応答性銅イオン吸着材料を提供する。
【解決手段】金属イオン溶液中で金属イオンの吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性化合物と、
四級化アミン化合物と
を含む単量体成分を共重合させてなる共重合体を含む光応答性銅イオン吸着材料であり、前記共重合体は、塩素イオン、ナトリウムイオンおよび銅(II)イオンを含む金属イオン溶液から、暗所下で銅(II)イオンを選択的に吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性銅イオン吸着材料と、それを用いた銅イオン回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場等から排出される産業廃液や産業廃棄物から、効率良く金属イオンを回収する方法が、環境汚染防止、産業廃棄物の減量、資源再利用の理由から望まれている。
金属イオンを含む廃液を浄化する方法として、中和凝集沈殿法・硫化ソーダ法・重金属捕集剤法・フェライト法等が実用化されている。これらの方法で廃液を処理した後、金属を回収するステップ、さらに再利用するステップが設けられている。
例えば、重金属捕集剤法は、重金属イオンと錯化合物を形成する捕集剤(例えばシアン化合物)を用いる。捕集処理後の捕集剤に吸着した金属イオンを回収するには、該捕集剤が一般に溶液に可溶なため、捕集剤を酸化処理等の化学反応処理を経て金属イオンから分離した後、金属を陽イオンとして溶液中に単離させて精製・回収している。
上記のような捕集剤による重金属捕集後の重金属回収ステップにおける化学反応処理の実施にあたっては、専門的な知識や技術が要求されるだけでなく、煩雑な操作と、それによる長い処理時間や多大な処理コストとを要した。
【0003】
そこで、化合物への光の照射の有無により可逆的に変色するフォトクロミック化合物とふっ化アルコールとのセグメントを有する共重合体を含み、光照射に応答して溶液中の金属イオンの吸着と脱離との両機能を備える金属イオン吸着材料が提案された(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−053185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の吸着材料は金属イオンが複数種含まれる溶液に使用すると、金属イオンの種類に依存せずに吸着される為、特定の金属イオンだけを回収するのは困難であった。
本発明の目的は、金属イオンのうち銅(II)イオンを選択的に、効率良く回収できる吸着材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(16)に関する。
(1) 金属イオン溶液中で金属イオンの吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性化合物と、
四級化アミン化合物と
を含む単量体成分を共重合させてなる共重合体を含むことを特徴とする光応答性銅イオン吸着材料。
【0006】
(2) 前記共重合体は、塩素イオン、ナトリウムイオンおよび銅(II)イオンを含む金属イオン溶液から、暗所下で銅(II)イオンを選択的に吸着する前記(1)記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【0007】
(3) 前記光応答性化合物は、下式(I)または(II)で示される基と、重合可能なエチレン性不飽和結合とを有する化合物である前記(1)または(2)記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化1】

(式(I)および(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、Rはアルキル基である。
(4) 前記四級化アミン化合物は、下式(IV)で示される基および重合可能なエチレン性不飽和結合を有する前記(1)〜(3)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化2】

(5) 前記四級化アミン化合物は、下式(V)で示される基および重合可能なエチレン性不飽和結合を有する前記(1)〜(3)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化3】

【0008】
(6) 前記共重合体が、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)または
1´,3´,3´−トリメチル−6−(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)と、
N,N,N−トリメチル−N−アクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリドまたは
N,N,N−トリメチル−N−メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド
とを含む単量体成分を共重合させてなる前記(1)〜(4)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
(7) 前記共重合体が、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)または
1´,3´,3´−トリメチル−6−(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)と、
[2−(アクリロイルオキシ)エチル]−ジメチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウムヒドロキシドまたは
[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−ジメチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウムヒドロキシドと
を含む単量体成分を共重合させてなる前記(1)〜(3)、(5)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【0009】
(8) 基体に前記共重合体が担持されている前記(1)〜(7)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
(9) 基体が、ガラス、酸化金属、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、スチレンの重合体、アクリル酸の重合体、メタクリル酸の重合体いずれかである前記(8)記載の光応答性銅イオン吸着材料。
(10) 前記単量体成分にさらに架橋剤またはカップリング剤を含む前記(1)〜(9)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
(11) 繊維、細粒、または細管に共重合体が担持されている前記(8)〜(10)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【0010】
(12) 前記(1)〜(11)のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料を用いて、銅(II)イオン、塩素イオンおよびナトリウムイオンを含む金属イオン溶液から、銅(II)イオンを選択的に、回収用溶媒中へ回収することを特徴とする銅イオン回収方法。
(13) 前記光応答性銅イオン吸着材料の共重合体と、銅(II)イオンとを、塩素イオンおよびナトリウムイオン存在下の暗所下で錯形成により吸着させる工程と、
回収用溶媒中で、銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程とを含む前記(12)記載の銅イオン回収方法。
(14) 金属イオン溶液中塩素イオンおよびナトリウムイオンが、塩化ナトリウム換算濃度で、10wt%以下である前記(12)または(13)記載の銅イオン回収方法。
(15) 銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程において、回収用溶媒が塩化ナトリウムを含まない水である前記(13)記載の銅イオン回収方法。
(16) 銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程において、回収用溶媒が塩化ナトリウムの水溶液であって可視光を照射して銅イオンを脱離させる前記(13)記載の銅イオン回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば金属イオンのうち銅イオンのみを選択的に吸着し、脱離して回収することができる。さらに銅イオンの吸着に必要な食塩は、生体に特に悪影響を及ぼさないため、銅イオン捕集時の溶液及び銅イオン回収後の廃液は取り扱いが安全である。また、吸着/脱離できる溶液の温度領域が広いので作業性が良い。
さらに本発明の銅イオン吸着材料は、銅イオンの回収だけでなく、色調変化や蛍光の有無による銅(II)イオンセンサーとしても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の光応答性銅イオン吸着材料に含まれる共重合体の単量体成分は、
光照射の有無に応答して金属イオンを可逆的に液中で吸着・脱離する、光応答性化合物と、
四級化アミン化合物とを含む。
光応答性化合物として、本発明では、下式(I)または(II)で示される基と、重合可能なエチレン性不飽和結合とを有する化合物が使用される。前記二種の基はメロシアニン構造を取り得る、スピロピラン化合物やスピロオキサジン化合物に由来する。
【化4】

式(I)および(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、Rはアルキル基である。また、アルキル基は、具体的にはメチル基、エチル基、ドデシル基等が例示され、メチル基が好ましい。
式(I)および(II)中、ベンゼン環に結合している水素原子は置換されていてもよい。この場合の置換基は例えばメチル基、メトキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基、シアノ基、等が例示され、金属イオンとの錯形成効率の点からは、置換しないかまたはメトキシ基、メチル基、アミノ基等の電子供与性の置換基が好ましい。置換する場合の置換基数は、1つのベンゼン環に1または2が好ましい。また、この置換基は、隣接する二つの炭素原子に環状に結合することにより、前記ベンゼン環と共にナフタレン環を形成してもよい。
なお、Xが炭素原子でYが酸素原子の場合がスピロピラン、Xが窒素原子でYが酸素原子の場合はスピロオキサジンである。以下、共重合体がスピロピランから得られる場合について具体的に説明するが、スピロオキサジンを用いても同様の光応答性を示す。
【0013】
光照射により分子量を変えずに吸収スペクトルの異なる2つの状態間を異性化する、フォトクロミズムの機構は下式(III)のように考えられている。スピロピランは、可視光(>420nm)照射によってスピロピラン構造体と、メロシアニン構造体とに可逆的に異性化する。可視光照射下であるスピロピラン構造体は水中で閉環しており、電気的に中性である。可視光照射を停止してスピロピラン構造体を暗所下に置くと、メロシアニン構造体へ転移する。これは、開環しており、分子内に双性イオンを有する。Yの原子は、電子密度が高く、この部位で、陽イオンと錯形成することができる。また、スピロピラン構造体と異なる色を呈する。この錯形成はメロシアニン構造体がスピロピラン構造体に戻ると解消する。
可視光照射を止めて暗所下とするには、紫外光の照射で代用しても良い。この場合次に可視光を照射するときは同時に紫外光照射を停止する。
以上のスピロピランの挙動はRやRの基でエステル結合してさらに共重合しても同様である。
【化5】

【0014】
式(III)中、R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、
とRは一方が水素または重合可能な1価の置換基であり、残りの一方がアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基である。ここで、単量体成分に用いるため、前記置換基は、重合可能なエチレン性不飽和結合を有するのが好ましく例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基が挙げられる。
【0015】
共重合体のための単量体成分として使用する、具体的な光応答性化合物は、スピロピラン化合物が好ましい。特に、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)が好ましく、以下、SPAAまたはスピロピランアクリレートともいう。また、前記SPAAのアクリロイルオキシ基がメタクリロイルオキシ基である化合物も好ましく、以下、SPMAとも、またはスピロピランメタクリレートともいう。
【0016】
もう一方の単量体成分の原料となる四級化アミンは、ハロゲン塩型であっても、ベタイン型やスルホベタイン型であってもよい。
四級化アミン化合物の窒素原子に結合する炭化水素基には特に制限はない。四級化アミン化合物は、例えば下式(IV)または式(V)で示される基、および重合可能なエチレン性不飽和結合を有するのが好ましい。
【化6】

【化7】

第一の実施態様として、式(IV)の基を含むN,N,N−トリメチル−N−アクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリドが挙げられる。以下、TMAEMAClともいう。
第二の実施態様として、式(V)の基を含む[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−ジメチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウムヒドロキシドが挙げられる。以下、MDSAともいう。
上記の、アクリロイル基とメタクリロイル基とはどちらでもよく、重合可能なエチレン性不飽和結合を有している。
【0017】
光応答性化合物と四級化アミン化合物との重合は、ブロック状の共重合であっても、ランダムな共重合であっても良く、特に限定されない。
重合比は、親水性に合わせて適宜選択される。光応答性化合物が多ければ、光応答性化合物内の銅イオンとの錯形成部位の数も単純に増加するので銅イオン吸着能が増加する。また、四級化アミン化合物が多ければ、銅イオン選択性が向上する傾向がある。
【0018】
例えばランダムな共重合の場合、光応答性化合物:四級化アミン化合物のモル分率(モル比)は、特に限定されないが、それぞれn、(1−n)とすると、0<n≦0.5が好ましい。それ以外のブロック状やグラフト状の共重合の場合は、前記モル分率は特に限定されない。
【0019】
以下、光応答性化合物がスピロピランアクリレート、四級化アミン化合物がTMAEMAClである場合を挙げて、本発明の銅イオン吸着材料を説明する。なお、以下のCu、Zn、Ni、Co、Cd、Pbのイオンとは、特に明記しない限り、二価のイオンを指すものとする。
SPAAとTMAEMAClとの共重合体を、P(SPAA−TMAEMACl)と表記する。この構造および挙動を下式(VI)に示す。
【化8】

Cu(II)イオン、およびZn(II)イオン、Ni(II)イオン等の任意の二価の金属イオンの水溶液に、さらに塩化ナトリウム(食塩)を溶解させた水溶液を用意する。これにP(SPAA−TMAEMACl)の粉末を溶解させ、暗所下で保持すると、各種金属イオンのうちCu(II)イオンのみが選択的にSPAAセグメントの開環部位と錯形成することができる。Cu(II)イオンを含まない金属イオン溶液の場合は、塩化ナトリウムを含んでいても、錯形成は殆ど生じない。
なお、塩化ナトリウムの代わりに同じハロゲン化ナトリウムである、臭素イオン及びナトリウムイオン、また、ヨウ素イオン及びナトリウムイオンの存在下でも、同様に暗所下でCu(II)イオンを選択的に吸着できるが、吸着率が低いので、塩化ナトリウムが好ましい。
【0020】
これを、図1の(a)の、塩化ナトリウムを含まないCu、Zn、Ni、Co、Cd各金属(II)イオン溶液、および金属を含まないブランクの液の紫外可視吸収スペクトル、また(b)の、塩化ナトリウムを含む各溶液の紫外可視吸収スペクトルを用いて説明する。これら溶液を暗所下に保持した場合のスペクトルが実線であり、可視光を照射すると、点線で示すようにスペクトルの吸収が減衰する。光照射を停止して暗所下に保持すると再度実線のスペクトルに戻る。
【0021】
図1の(a)のうち、暗所下の各溶液のスペクトルは、光照射下(点線)と異なる530nm付近の吸収帯を示す。ここでブランクのSPAAセグメントは開環しても、金属イオンがないので、この530nm付近の吸収帯はフリーの開環体(メロシアニン構造体)に基くものである。各金属塩化物を含む溶液も同様の吸収帯を示すことから、金属イオンはいずれもほとんど錯形成していない。
図1(b)の、塩化ナトリウムを含む場合、Cu以外の金属イオンは図1の(a)とほぼ類似した吸収帯のスペクトルである。すなわち、Zn、Ni、Co、Cdイオンは、塩化ナトリウムの存在下であっても錯形成できない。Cu(II)イオンだけが暗所下で410〜420nm付近にSPAAセグメントとの錯体に由来する吸収帯が得られる。
【0022】
金属イオン溶液中の好ましい塩素イオン(塩化物イオン、Cl)、ナトリウムイオン(Na)濃度は、塩化ナトリウム換算濃度では、SPAAセグメントとCu(II)イオンとのモル比にもよるが、SPAA:Cu(II)=1:10の場合は、10wt%以下で充分である。10wt%より濃くしても銅イオン吸着能は向上しない。5wt%であれば最多量(10wt%)の3/4程度の銅イオンを吸着できる。
共重合体中のSPAAセグメントと、溶液中のCu(II)イオンとの好ましいモル比は、食塩濃度にもよるが、飽和食塩水の場合、SPAAセグメント:Cu(II)=1:1以上が好ましい。
【0023】
本発明の吸着材料を、溶液の色の変化によるCu(II)イオンセンサーとして用いる際の塩化ナトリウム濃度は、錯形成の吸収帯が検出できる程度であれば特に制限はないが、約1wt%以上が好ましい。またSPAAセグメント:Cu(II)のモル比も、錯形成の吸収帯が検出できる程度であれば特に制限はないが、1:0.2以上が好ましい。
【0024】
共重合体には、水に不溶化して形状付与するために、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤は、一般に用いられる架橋剤を使用できる。含有量は共重合成分中、数モル%程度で充分である。これにより共重合体は不溶のゲル状になり、例えば金属イオン溶液槽の内部に投入したり、金属イオン溶液を流入させるカラム内に充填しておいたりすれば、銅イオンを選択的に吸着できる。
さらに、共重合体は、以上に挙げた以外の単量体成分を必要に応じて吸着材料の吸着・脱離作用を妨げない範囲で含んで重合しても良い。これには、例えば親水性を付与する単量体成分、光増感剤、可撓剤等が挙げられる。
共重合体は、以上の単量体成分に、重合開始剤、溶剤、反応停止剤などを適宜用いて、従来公知の重合反応で得られる。
TMAEMAClの代わりにMDSAを用いた場合も同様に銅イオンと反応するが、TMAEMAClの共重合体よりも、MDSAの共重合体が、形状付与しやすい傾向がある。
【0025】
上記の共重合体、またはそのゲルを、本発明の光応答性銅イオン吸着材料として使用してもよいが、他に、基体に共重合体を担持させたものを本発明の光応答性銅イオン吸着材料としてもよい。基体は、光応答性銅イオン吸着材料を担持することができるものであれば特に限定されないが、光応答性銅イオン吸着材料が、可逆的に銅イオンを吸着/脱離でき、繰り返し使用されることを考慮すると、担体である基体は、機械的安定性、化学的安定性の高い材料であることが重要である。また、多孔性であることが好ましい。
例えば、無機材料では、アルミナ、シリカ、シリカ・アルミナ、マグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛などの酸化金属、ガラス、結晶性アルミノシリケート、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、タルク、炭化珪素等の珪素化合物、粘土鉱物(層間化合物を含む)、活性炭等のカーボン及びこれらの混合物などが挙げられる。また、有機材料では、合成ポリマ、例えばスチレン、アクリル酸、メタクリル酸等を重合した透明なポリマが挙げられる。有機材料は強度が充分であり、無機材料は耐化学腐食性の点で好ましい。
銅イオンの吸着/脱離を溶液の色の変化で判定するため、また、吸着した銅イオンの脱離が可視光の照射によって行われるため、透明材料を材料とすることが好ましく、特にガラスが好ましい。
【0026】
さらに、光応答性銅イオン吸着材料の担持効率を高めるとの観点から、基体の単位量当たりの表面積は大きいほうがよく、また光の透過性能を高めるとの観点から、高い空隙率を有する基体が好ましい。これらから、例えばガラス繊維等の繊維で不織布を作製すれば、シート形状など任意の形状に基体を成形できる。繊維のほかに、ビーズのような細粒、中空の細管に成形した基体も好ましい。
また、金属イオン溶液との接触圧力による損傷を避けたり、溶液と接触する吸着材料の表面積を増加させたりするために、多孔性材料の空隙や孔は、ある程度残して吸着材料を担持させるのが好ましい。
【0027】
これらの基体に共重合体を担持させるには、共重合させる際に、基体を重合系に加えておいて、モノマーの重合と同時に基体に担持させる方法、共重合体の溶液を調製し、該溶液に基体を浸漬させる含浸法、さらに含浸させた後に溶媒を蒸発乾固させる方法、基体に上記溶液を塗布する方法などが挙げられる。特に管状の基体の管内壁に担持させるには、溶液の流入や浸漬が好ましい。
上記担持方法のうち、モノマーの重合と同時に基体に担持させる方法が、工程を簡略化できる点で好ましい。また、含浸法も簡便で効率的に担持できるので好ましい。
さらに、共重合体中に上記シランカップリングを形成する単量体成分を加える担持方法も、シランカップリング部がガラス等の基体と化学結合により強固に担持されるので、製造上効率的で好ましい。この場合、シランカップリング用の単量体成分は、重合時に加えてもよいし、又は基体に担持させた後、重合時に基体を重合系に加えておいて、重合と同時に基体に担持させてもよい。
【0028】
以上のように共重合体は、架橋剤、カップリング剤、基体と組みあわせて、ゲル状、担持されたシート、ビーズ、チューブなど金属イオンの溶液と接触させやすい任意の形状に成形することができる。例えばカラム内やフィルター内にゲルやビーズを充填して、金属イオンの溶液を注入、透過することができる。
さらに、銅イオン吸着用の塩化ナトリウムまたはその水溶液を、共重合体または担持された共重合体との、セットとしてもよい。
【0029】
本発明における銅イオンの回収方法は、
上記光応答性銅イオン吸着材料を用いて、銅(II)イオン、塩素イオンおよびナトリウムイオンを含む金属イオン溶液から、銅(II)イオンを選択的に、回収用溶媒中へ回収することを特徴とする。
例えば、前記光応答性銅イオン吸着材料の共重合体と、銅イオンとを、塩素イオンおよびナトリウムイオン存在下の暗所下で錯形成により吸着させる工程と、
回収用溶媒中で、銅イオンを共重合体から脱離させる工程とを含む。
具体的にはまず、前記光応答性銅イオン吸着材料と、銅イオン、塩素イオンおよびナトリウムイオンを含む金属イオン溶液とを、接触させる。
これを暗所下に保持して錯形成により銅イオンのみを共重合体の該当セグメントに吸着させる。
次いで、共重合体に銅イオンを吸着させたまま、バッチ式であれば光応答性銅イオン吸着材料を金属イオン溶液から取り出して回収用溶媒中へ投入する。連続式であれば、金属イオン溶液との接触終了後に回収用溶媒中と接触させる。
【0030】
回収用溶媒は水のように塩化ナトリウムを含まなければ、照射光の有無に関わらず銅イオンは錯形成できないので脱離する。もしくは、塩化ナトリウム水溶液として、可視光を中の吸着材料に照射して銅イオンを脱離させてもよい。このようにして銅イオンのみを回収用溶媒中に回収できる。
P(MDSA−SPMA)のような、MDSAを用いた共重合体は、相転移温度を有し、低温では疎水性、高温では親水性である。よって、温度差を利用して、金属イオン溶液から吸着材料を取り出すこともできる。この場合、基体や架橋剤なしでも不溶化できる。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本実施例により本発明を限定するものではない。なお、図中、紫外可視吸収スペクトルの実線表示は暗所の保存下であり、点線表示は可視光照射後である。また、特記しない限りスペクトル測定は室温で行った。
【0032】
<スピロピランメタクリレート(SPMA)の合成>
(1) スピロピランとして、1´,3´,3´−トリメチル−6−ヒドロキシスピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール) 4.72g(0.0161mol)(ACROS ORGANICS社製、純度99%、Fw 293.37、品番42192-0050)を、トルエン(関東化学株式会社製(蒸留後使用)、特級、純度99.5%、沸点110.625℃) 28.3ミリリットルに溶解させた。
(2) メタクリル酸クロライド(ACROS ORGANICS社製、760mmHgの沸点95〜96℃) 1.84g(0.0176mol)を、トルエン(同上) 14.2ミリリットルに溶解させた。
(3) 別に、トリエチルアミン(以下、TEAという。)(和光純薬工業株式会社製(蒸留後使用)、純度99%、品番202-02646) 1.79g(0.0114mol)を用意した。また、アンモニア(関東化学株式会社製、純度28.0〜30.0%、品番01266-00) 400ミリリットルの純水 100ミリリットル溶液を1単位として、5単位用意した。
【0033】
(4) 二口なすフラスコ内に上記(1)で得たスピロピランのトルエン溶液と、上記(3)のTEAとを投入し、二口なすフラスコの一つの口には球入冷却器、もう一方の口には円筒型分液ロートを装着した。二口なすフラスコを60℃に保温しながら円筒型分液ロートで上記(2)のメタクリル酸クロライドのトルエン溶液を少しずつ滴下した後、24時間反応させた。なお、この反応で発生した塩酸は、TEAで中和された。24時間後に、反応溶液から未反応のメタクリル酸クロライドとTEAを取り除くために、反応溶液をトルエン100ミリリットルで希釈し、次いで分液ロート内に移して上記(3)のアンモニア水溶液を1単位加えた。分液ロートを振り混ぜ、静置して下層のアンモニア水溶液を取り出し、残りの(3)のアンモニア水溶液の1単位を加え、同様にして分液を計5回繰り返した。
(5) アンモニア水溶液の代わりに純水を100ミリリットル加え、同様にしてpHが7になるまで計5回分液を繰り返した。
(6) 分液ロート上層の液を、エバポレータによりトルエンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させた。これによって得られた褐色固体をジクロロメタンに溶かしてカラムクロマトグラフィにかけ、不純物を分離した。カラムはシリカゲル(関東化学株式会社製、品番:9385-4M、Rf:0.86)、展開溶媒はジクロロメタンを使用した。
(7) カラムから排出した液を、エバポレータでジクロロメタンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させてSPMA単量体である、1´,3´,3´−トリメチル−6−(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)を1.11g(収率23.5%)得た。
【0034】
<スピロピランアクリレート(SPAA)の合成>
メタクリル酸クロライドの代わりに、アクリル酸クロライドを2.91g(0.0322mol)を用いたこと以外は同様にして、SPAA単量体である、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)を1.34g(収率24.0%)得た。
【0035】
TMAEACl(株式会社 興人、品名DMAEA-Q)およびMSDA(Aldrich社、品番:537284-50G)を用意した。
【0036】
<合成例1 共重合体P(TMAEACl−SPAA)の合成>
重合モル比98:2に対応するように、上記TMAEAClを4.9×10−3モル(657μl)、SPAA単量体を1.0×10−4モル(34.7mg)を、またエタノールを2ml、重合開始剤AIBN 13.7mg(8.3×10−5モル)用意した。
【0037】
TMAEACl、SPAAおよびエタノールをサンプルびんに入れ、びん内に純窒素を1時間フローしつつ攪拌してびん内から湿気および空気を除去した。AIBNを加えてさらに30分間窒素フローしつつ攪拌した。オイルバスでびん内温度を60℃に上げ窒素フローしつつさらに1.5時間反応させた後、重合禁止剤としてハイドロキノンを加えて反応を止めた。
【0038】
びん内の反応生成物を、大量のアセトン中に少しずつ滴下して沈殿精製した。この沈殿をろ紙で濾別し、減圧乾燥して共重合体P(TMAEACl−SPAA)(収率58.7%)を得た。この共重合体中の各セグメントのモル比を、H−NMRの積分値の結果から算出したところ、TMAEACl:SPAAは98:2であった。
【0039】
<合成例2 共重合体P(MDSA−SPMA)の合成>
SPMAを0.03×10−3モル、MDSAを2.97×10−3モル、2,2,2-トリフルオロエタノールを2.0ml、AIBNを5.0×10−5モル用意した。最初の攪拌を30分、60℃での反応を3.5時間とした以外は合成例1と同様にして共重合体P(MDSA−SPMA)を収率56%、重合モル比99:1で得た。
【0040】
<合成例3 共重合体P(MDSA−SPMA)ゲルの合成>
SPMAを0.05×10−3モル、MDSAを4.85×10−3モル、2,2,2-トリフルオロエタノールを2.0ml、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(以下、MBAAmという。)を0.1×10−3モル、AIBNを8.4×10−5モル用意した。60℃での反応を3時間とした以外は合成例2と同様に反応させた。
反応終了後のゲル状内容物を、型に注入し、60℃で加熱した。
加熱により固化して得られたゲルを型から剥離し、メタノールに1週間浸漬して精製し、さらに超純水中に一週間浸漬した後、真空乾燥させて共重合体P(MDSA−SPMA)のゲルを得た。重合モル比は、MDSA:SPMA:MBAAm=97:1:2であった。このゲルは水に不溶であった。
【0041】
(実施例1 共重合体の金属イオン選択性、光応答性)
上記合成例1で得た重合比98:2の共重合体P(TMAEACl−SPAA)の濃度0.1mMの水溶液を調製し、さらに、CuCl、ZnCl、NiCl、CoCl、CdClを、各金属のモル濃度1mMとなるように、別個に添加した。金属塩無添加を含むこれら6種類の水溶液の、暗所下および可視光照射後の、紫外可視吸収スペクトルをあわせて図1(a)に示す。暗所下で金属塩を添加していない共重合体水溶液には530nm付近にスピロピラン開環体(メロシアニン構造体)由来の吸収帯が観察された。各金属塩化物を含む溶液も同様の吸収帯を示すことから、金属イオンとほとんど錯形成していないことがわかった。これらに可視光を照射すると点線で示すように吸収帯は減衰したので閉環したのが確認できた。
【0042】
これら6種類の水溶液に、さらに塩化ナトリウムを3wt%溶液になるように添加した。それぞれの溶液の紫外可視吸収スペクトルを図1(b)に示す。これよりCu(II)溶液は暗所下で410〜420nm付近に開環したSPAAと銅イオンとの錯体に由来する吸収帯が観測されたが、他の4種の金属溶液では、図1(a)に類似する、金属イオンと錯形成していないフリーな開環体由来の吸収帯が観測された。
さらにこれら溶液に可視光を照射すると、図中の点線で示すように吸収が減衰した。可視光照射を停止して暗所下では再度吸収が現れた。これにより、可逆的なSPAAの光応答性が確認された。
【0043】
(実施例2 塩化ナトリウム濃度による共重合体の銅イオン吸着性)
SPAA:Cu(II)のモル濃度比が1:10になるようにP(TMAEACl−SPAA)とCuClの水溶液を調製した(Cu(II)モル濃度1mM)。これへ、塩化ナトリウムを、0、1、3、5、10および26wt%になるように添加した。暗所下での各紫外可視吸収スペクトルを図2に示す。塩化ナトリウムが10%までは濃度が高いほど銅錯体の吸収帯の強度も増大するが、10wt%と、飽和濃度の26wt%とでは、銅錯体の吸収帯の強度はほぼ同等であった。5wt%であっても10wt%の場合の3/4程度の銅イオンを吸着できること、また、塩化ナトリウム濃度1wt%であれば吸収帯を検知できることがわかった。
【0044】
(実施例3 銅イオン濃度による共重合体の銅イオン吸着性)
飽和食塩水(26wt%)に、P(TMAEACl−SPAA)とCuClとを、SPAA:Cu(II)のモル濃度比が1:1、1:1/3、1:1/5、1:1/10、1:0になるように添加した(SPAAモル濃度0.1mM)。暗所下での各紫外可視吸収スペクトルを図3に示す。Cu(II)濃度が低いと銅錯体の吸収帯も減衰し、Cu(II)イオンのモル濃度がSPAAの1/10以下では吸収帯の検知は困難だが、1/5程度より高ければ確実に検知できることがわかった。
【0045】
(実施例4 共重合体の金属イオン選択性)
上記合成例2で得た重合モル比99:1の共重合体P(MDSA−SPMA)を、塩化ナトリウム1wt%の水溶液に、濃度0.1mMで添加した溶液を調製した。さらに、CuCl、ZnCl、NiCl、CoCl、CdClを、各金属のモル濃度1mMとなるように、別個に添加した。金属塩無添加を含むこれら6種類の溶液のpHは8.5であった。これらの暗所下および可視光照射後の、紫外可視吸収スペクトルをあわせて図4に示す。これよりCu(II)溶液は暗所下で、416nm付近に開環したSPMAと銅イオンとの錯体に由来する吸収帯が観測されたが、他の4種の金属溶液では、金属イオンと錯形成していないほぼフリーな開環体由来の吸収帯が530nmに観測された。これから、食塩水中の暗所で開環したメロシアニン構造体へ、Cu(II)イオンのみが選択的に錯形成して吸着されることがわかる。
これら各溶液に可視光を照射すると点線で示すように吸収帯は減衰したので閉環したのが確認できた。可視光照射を停止すると再度吸収が現れた。これにより、可逆的なSPMAの光応答性が確認された。
【0046】
(実施例5 共重合体の金属イオン選択性)
本実施例では、金属イオンのなかでスピロピランとの錯形成能が高いことが知られているPb(II)イオンを用いて、Cu(II)イオンと錯形成能を比較した。
上記金属塩化物の代わりに、Pb(ClO及びCu(ClOを用いた以外は実施例4と同様にして溶液を調製した。金属塩無添加を含む3種類の溶液のpHは8.5であった。紫外可視吸収スペクトルを図5(a)に示す。
Pb(II)イオンを含む溶液は、Cu(II)イオンを含む溶液と同様に、暗所下で金属錯体に由来する415nm付近に吸収帯が観測されたが、吸光度比は1/2未満であった。これら溶液に可視光を照射すると点線で示すように吸収帯はいずれも減衰した。
【0047】
比較のために、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)とN−イソプロピルアクリルアミドとの共重合体(以下、P(SPA−NIPAAm)という。)の水溶液(食塩なし)を用いて、上記実施例5と同様に測定した紫外可視吸収スペクトルを図5(b)に示す。暗所下の金属錯体に由来する吸収帯は、Pb(II)溶液とCu(II)溶液とでほぼ同じ強度の吸光度であった。これにより、塩化ナトリウム水溶液中の共重合体P(MDSA−SPMA)は、ある程度選択的にCu(II)イオンを光可逆的に錯形成していることが考えられる。
【0048】
(実施例6 共重合体ゲルの金属イオン選択性)
合成例3で得たMDSA:SPMA:MBAAm=97:1:2のゲルを、スペクトル測定用セルの、測定光の当たる内壁の大きさに成形した。
a)(上記で成形したゲルに含まれるSPMA量):(測定用セルに注入される規定の量の液中のCuCl量)がモル比で1:10になるように、塩化ナトリウム1wt%の水溶液へCuClを溶解した。CuCl濃度は10mMであった。
b)同様にZnClを塩化ナトリウム1wt%の水溶液へ溶解した。ZnCl濃度は8.4mMであった。
c)比較のために金属イオンを入れない塩化ナトリウム1wt%の水溶液(ブランク)を用意した。
これら溶液のpHは8.5であった。
上記で成形したゲルを内壁に接着した三個のセルに、規定量のa)、b)、c)をそれぞれ注入して室温で、暗所下6時間、保持して平衡状態になった後、紫外可視吸収スペクトルを測定した。その後、可視光を照射した後のスペクトルも測定した。結果をあわせて図6(a)に示す。
これら各溶液に可視光を照射すると点線で示すように吸収帯は減衰した。可視光照射を停止すると再度吸収が現れた。これにより、可逆的なSPMA共重合体ゲルの光応答性が確認された。参考の為に、上記暗所下と光照射との、両スペクトル間の吸収度の差を算出した。これを図6(a)の内側の枠に示す。
よって、上記ゲルP(MDSA-SPMA-MBAAm)が図6(b)のように、銅イオンを選択的に吸着していると考えられる。
【0049】
(実施例7 共重合体の相転移温度)
P(MDSA−SPMA)は例えば図7のように低温では疎水性で濁りが生じるため、照射光が届きにくく環が閉じにくい。そこで、P(MDSA−SPMA)の相転移温度を以下のように濁度で検出した。
純水および塩化ナトリウム水溶液(0.1wt%および1wt%)にP(MDSA−SPMA)を濃度0.04wt%で溶解し、700nm(スピロピランの吸収に影響されない波長)における光透過率を測定し、光透過率の値が90%以下となる温度を相転移温度とした。
参考のためにP(MDSA)も同様に純水および塩化ナトリウム水溶液に溶解して測定した。なお、いずれもpHは未調整である。結果を合わせて表1に示す。相転移温度以上では、いずれの溶液も透明な親水性溶液であった。
【表1】

表1から、塩化ナトリウム0.1wt%の水溶液の場合、MDSA:SPMA重合モル比が99:1では45℃以上で親水性を示し、重合モル比が95:5では35℃以上であればよいので、より低温で銅(II)イオンを吸着できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施例1の各種金属イオンを含む溶液中の共重合体P(TMAEACl−SPAA)の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、(a)は溶液に塩化ナトリウム添加前、(b)は塩化ナトリウムを溶解した暗所下のスペクトルである。
【図2】本発明の実施例2の塩化ナトリウム濃度に対する、暗所下での共重合体P(TMAEACl−SPAA)の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフである。
【図3】本発明の実施例3のSPAA:銅(II)イオンの比率に対する、暗所下での共重合体P(TMAEACl−SPAA)の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフである。
【図4】本発明の実施例4において各種金属イオンおよび塩化ナトリウムを含む溶液中の共重合体P(MDSA−SPMA)の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフである。
【図5】本発明の実施例5においてPb(II)イオン及びCu(II)イオンを含む溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、(a)は共重合体がP(MDSA−SPMA)であり、塩化ナトリウムを含み、(b)はP(SPA−NIPAAm)である。
【図6】本発明の実施例6において(a)は各種金属イオンと塩化ナトリウムを含む溶液中の共重合体ゲルP(MDSA−SPMA−MBAAm)の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、(b)はその挙動を示す化学式である。
【図7】本発明のP(MDSA−SPMA)の相転移を示す化学式である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン溶液中で金属イオンの吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性化合物と、
四級化アミン化合物と
を含む単量体成分を共重合させてなる共重合体を含むことを特徴とする光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項2】
前記共重合体は、塩素イオン、ナトリウムイオンおよび銅(II)イオンを含む金属イオン溶液から、暗所下で銅(II)イオンを選択的に吸着する請求項1記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項3】
前記光応答性化合物は、下式(I)または(II)で示される基と、重合可能なエチレン性不飽和結合とを有する化合物である請求項1または2記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化1】

(式(I)および(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、Rはアルキル基である。
【請求項4】
前記四級化アミン化合物は、下式(IV)で示される基および重合可能なエチレン性不飽和結合を有する請求項1〜3のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化2】

【請求項5】
前記四級化アミン化合物は、下式(V)で示される基および重合可能なエチレン性不飽和結合を有する請求項1〜3のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【化3】

【請求項6】
前記共重合体が、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)または
1´,3´,3´−トリメチル−6−(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)と、
N,N,N−トリメチル−N−アクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリドまたは
N,N,N−トリメチル−N−メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド
とを含む単量体成分を共重合させてなる請求項1〜4のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項7】
前記共重合体が、1´,3´,3´−トリメチル−6−(アクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)または
1´,3´,3´−トリメチル−6−(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H−1−ベンゾピラン−2,2´−インドール)と、
[2−(アクリロイルオキシ)エチル]−ジメチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウムヒドロキシドまたは
[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]−ジメチル−(3−スルホプロピル)−アンモニウムヒドロキシドと
を含む単量体成分を共重合させてなる請求項1〜3、5のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項8】
基体に前記共重合体が担持されている請求項1〜7のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項9】
基体が、ガラス、酸化金属、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、スチレンの重合体、アクリル酸の重合体、メタクリル酸の重合体のいずれかである請求項8記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項10】
前記単量体成分にさらに架橋剤またはカップリング剤を含む請求項1〜9のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項11】
繊維、細粒、または細管に共重合体が担持されている請求項8〜10のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の光応答性銅イオン吸着材料を用いて、銅(II)イオン、塩素イオンおよびナトリウムイオンを含む金属イオン溶液から、銅(II)イオンを選択的に、回収用溶媒中へ回収することを特徴とする銅イオン回収方法。
【請求項13】
前記光応答性銅イオン吸着材料の共重合体と、銅(II)イオンとを、塩素イオンおよびナトリウムイオン存在下の暗所下で錯形成により吸着させる工程と、
回収用溶媒中で、銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程とを含む請求項12記載の銅イオン回収方法。
【請求項14】
金属イオン溶液中塩素イオンおよびナトリウムイオンが、塩化ナトリウム換算濃度で、10wt%以下である請求項12または13記載の銅イオン回収方法。
【請求項15】
銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程において、回収用溶媒が塩化ナトリウムを含まない水である請求項13記載の銅イオン回収方法。
【請求項16】
銅(II)イオンを共重合体から脱離させる工程において、回収用溶媒が塩化ナトリウムの水溶液であって可視光を照射して銅イオンを脱離させる請求項13記載の銅イオン回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64038(P2010−64038A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234892(P2008−234892)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月12日、社団法人日本化学会発行の「日本化学会第88春季年会2008年 講演予稿集I」に発表
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【Fターム(参考)】