説明

光拡散フィルムおよびその製造方法

【課題】光拡散性に優れ、しかも、生産性良く製造することができる光拡散フィルムを提供する。
【解決手段】高分子材料を有機溶媒に溶解させて、25℃における粘度が0.5〜100Pa・sである溶液を調製して、該溶液を支持体上にキャストし、相対湿度が60%以上である雰囲気下においてキャストした溶液の有機溶媒を蒸発させることによりキャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより、開口面が歪んだ円形である孔により構成される多孔構造を有し、該多孔構造を構成する孔の開口面の、直径の平均値が0.1〜50μmであり、直径の変動係数が25%以上であり、アスペクト比の平均値が1.2以上である、高分子材料製の多孔質フィルムを得て、この多孔質フィルムを用いて光拡散フィルムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散フィルムおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、特に光拡散性に優れることから、液晶表示装置のバックライトユニットの光を拡散させる目的や、有機EL素子の光取り出し効率を向上させる目的などに好適に使用される光拡散フィルムと、その光拡散フィルムを製造するために好適な光拡散フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置では、発光体として用いられるバックライトユニットの光の均一性を高める目的で、光源の光を拡散させる光拡散フィルムが一般的に用いられている。また、例えば、特許文献1に記載されるように、表示装置や照明などに用いられる有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子において、光取り出し面に光拡散性を有する層を設けることにより、有機EL素子の光取り出し効率が向上することが知られており、その光拡散性を有する層を構成する部材としても光拡散フィルムが用いられている。
【0003】
フィルムに光拡散性を付与する手法としては、多くの手法が知られているが、その一つとして、例えば、特許文献2に記載されるように、フィルムの表面に不規則な凹凸を設ける手法が知られている。しかしながら、特許文献2に記載された光拡散フィルムでは光拡散性が不十分な場合があり、また、特許文献2に記載されるようなサンドブラスト法により不規則な凹凸を形成した成形型を用いて、フィルムの表面に不規則な凹凸を設ける方法では、フィルムの生産性が著しく劣るという問題があった。
【0004】
一方、生産性良く製造することができる光拡散フィルムとしては、特許文献3や特許文献4に記載されるような、高分子材料の有機溶媒溶液をキャストして、そのキャストした溶液から有機溶媒を蒸発させることにより、キャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより得られる、規則性の高い多孔構造を有する多孔質フィルムが知られている。この多孔質フィルムからなる光拡散フィルムは、簡便なキャスト法により製造することができるので、生産性に優れるものであるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載されたフィルムは、その光拡散性能が不十分であることから、より光拡散性に優れ、しかも生産性良く製造することができる光拡散フィルムが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−296429号公報
【特許文献2】特開2001−159703号公報
【特許文献3】特開2007−41074号公報
【特許文献4】特開2007−41573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光拡散性に優れ、しかも、生産性良く製造することができる光拡散フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、特定範囲の粘度を有する高分子材料の有機溶媒溶液を支持体上にキャストし、相対湿度が60%以上である雰囲気下においてキャストした溶液の有機溶媒を蒸発させることによりキャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより得られる、特定の多孔構造を有する多孔質フィルムが、優れた光拡散性を発揮することを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
かくして、本発明によれば、開口面が歪んだ円形である孔により構成される多孔構造を有し、該多孔構造を構成する孔の開口面の、直径の平均値が0.1〜50μmであり、直径の変動係数が25%以上であり、アスペクト比の平均値が1.2以上である、高分子材料製の多孔質フィルムを用いてなる光拡散フィルムが提供される。
【0010】
上記の光拡散フィルムでは、多孔質フィルムの多孔構造を構成する孔が有底孔であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、高分子材料を有機溶媒に溶解させて、25℃における粘度が0.5〜100Pa・sである溶液を調製して、該溶液を支持体上にキャストし、相対湿度が60%以上である雰囲気下においてキャストした溶液の有機溶媒を蒸発させることによりキャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより高分子材料製の多孔質フィルムを得て、該多孔質フィルムを用いて光拡散フィルムを構成する上記の光拡散フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光拡散性に優れ、しかも、キャスト法による製造が可能であることから生産性良く製造することができる光拡散フィルムが提供される。また、本発明によれば、その光拡散フィルムを生産性良く製造することができる光拡散フィルムの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で用いた多孔質フィルムの電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で用いた多孔質フィルムの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光拡散フィルムは、以下のような特定の多孔構造を有する高分子材料製の多孔質フィルムを用いてなるものである。すなわち、本発明で用いられる多孔質フィルムは、開口面が歪んだ円形である孔により構成される多孔構造を有してなる高分子材料製のフィルムであって、該多孔構造を構成する孔の開口面の直径の平均値は0.1〜50μmであり、該開口面の直径の変動係数は25%以上であり、該開口面のアスペクト比の平均値が1.2以上であるものである。
【0015】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造は、開口面が歪んだ円形である孔により構成されるものであり、その孔の開口面の直径の平均値は0.1〜50μmであり、0.2〜40μmであることが好ましく、0.3〜30μmであることがより好ましい。このような大きさの孔により構成される多孔構造を有する多孔質フィルムを用いることにより、得られる光拡散フィルムの光拡散性が優れたものとなる。ここで、本発明において、「孔の開口面の直径」とは、多孔構造を構成するそれぞれの孔の開口面に内接する最大の円の直径を指すものとし、「孔の開口面の直径の平均値」とは、対象とする多孔質フィルムの多孔構造から無作為に抽出された50個以上の孔についての「孔の開口面の直径」の算術平均の値を指すものとする。
【0016】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔の開口面の直径の変動係数は、25%以上であり、27〜50%であることが好ましく、30〜45%であることがより好ましい。このように大きさにバラツキを有する孔により構成される多孔構造を有する多孔質フィルムを用いることにより、多孔質フィルムを通過する光が良好なランダム性を伴って拡散され、得られる光拡散フィルムの光拡散性が優れたものとなる。ここで、本発明において、「孔の開口面の直径の変動係数」とは、対象とする多孔質フィルムの多孔構造から無作為に抽出された50個以上の孔についての「孔の開口面の直径」の変動係数を指すものとし、「孔の開口面の直径の変動係数」(%)=「孔の開口面の直径」の標準偏差÷「孔の開口面の直径の平均値」×100として求められる値である。
【0017】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔の開口面のアスペクト比の平均値は、1.2以上であり、1.3〜5.0であることが好ましく、1.4〜4.0であることがより好ましい。このようなアスペクト比である歪んだ円形の開口面を有する孔により構成される多孔構造を有する多孔質フィルムを用いることにより、多孔質フィルムを通過する光が良好なランダム性を伴って拡散され、得られる光拡散フィルムの光拡散性が優れたものとなる。ここで、本発明において、「孔の開口面のアスペクト比」とは、多孔構造を構成するそれぞれの孔の開口面に外接する最小の長方形の短辺の長さに対する、その長方形の長辺の長さの比を指すものとし、「孔の開口面のアスペクト比の平均値」とは、対象とする多孔質フィルムの多孔構造から無作為に抽出された50個以上の孔についての「孔の開口面のアスペクト比」の算術平均の値を指すものとする。
【0018】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔の中心間距離の変動係数は、特に限定されるものではないが、通常15%以上であり、17〜50%であることが好ましく、18〜45%であることがより好ましい。このように孔の間隔にバラツキを有する多孔構造を有する多孔質フィルムを用いることにより、多孔質フィルムを通過する光が良好なランダム性を伴って拡散され、得られる光拡散フィルムの光拡散性が優れたものとなる。ここで、本発明において、「孔の中心」とは、多孔構造を構成するそれぞれの孔の開口面に内接する最大の円の円心を指すものとし、「孔の中心間距離」とは、多孔構造を構成する隣り合う2つの孔の「孔の中心」の距離を指すものとする。そして、「孔の中心間距離の変動係数」とは、対象とする多孔質フィルムの多孔構造から無作為に抽出された50個以上の孔について、「孔の中心間距離」が最小となる孔との「孔の中心間距離」の変動係数を指すものとし、「孔の中心間距離の変動係数」(%)=「孔の中心間距離」の標準偏差÷「孔の中心間距離」の平均値(算術平均)×100として求められる値である。
【0019】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造の空孔率は、特に限定されるものではないが、通常30%以上であり、32〜90%であることが好ましく、33〜88%であることがより好ましい。このような範囲の空孔率を有する多孔構造を有する多孔質フィルムを用いることにより、多孔質フィルムを通過する光が良好に拡散され、得られる光拡散フィルムの光拡散性が優れたものとなる。ここで、本発明において、「空孔率」とは、対象とする多孔質フィルムの面積(多孔構造が存在する部分全体の面積)に対する、その多孔構造を構成する全ての孔の開口面の面積の総和の割合である。
【0020】
本発明で用いられる多孔質フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常10〜200μmであり、20〜150μmであることが好ましい。薄すぎる多孔質フィルムでは機械的強度が不足するおそれがあり、また、厚すぎる多孔質フィルムは、製造が困難である場合が多い。
【0021】
本発明で用いられる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔は、有底孔および貫通孔のいずれであっても良く、これらの孔が混在するものであっても良いが、多孔質フィルムの機械的強度を確保する観点からは、多孔質フィルムの多孔構造を構成する孔が有底孔であることが好ましい。多孔質フィルムの多孔構造を構成する孔が有底孔である場合の孔の深さ(平均値)は、フィルムの厚さより小さいものであれば特に限定されるものではないが、3〜50μmであることが好ましく、4〜40μmであることがより好ましい。
【0022】
本発明で用いられる多孔質フィルムを構成する高分子材料は、特に限定されないが、透明性が高く、有機溶媒に可溶な有機高分子材料であることが好ましい。そのような高分子材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィンなどの樹脂、ポリブタジエンなどのエラストマー、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトンなどの生分解性樹脂を挙げることができる。これらのなかでも、光学特性の観点から、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、およびポリシクロオレフィンからなる群から選択される樹脂が好適に用いられ、ポリシクロオレフィンが特に好適用いられる。
【0023】
多孔質フィルムを構成する高分子材料として用いられ得るポリシクロオレフィンは、シクロオレフィンの開環重合体およびシクロオレフィンの付加重合体のいずれであっても良いが、目的とする多孔構造を形成し易くする観点や多孔質フィルムの耐熱性を良好とする観点からは、シクロオレフィンの付加重合体であることが好ましく、なかでも、ノルボルネン化合物の付加重合体であることが特に好ましい。
【0024】
多孔質フィルムを構成する高分子材料として用いられ得るノルボルネン化合物の付加重合体は、単量体であるノルボルネン構造を含有する化合物を付加重合させることにより得ることができる。単量体として用いられ得るノルボルネン構造を含有する化合物の具体例としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン);5−メチル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エンなどの炭化水素置換基を有するビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン誘導体;5−メトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−シアノ−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミドなどの官能基を有するビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン誘導体;トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)などの3環以上のノルボルネン誘導体;8−メチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンなどの炭化水素置換基を有する3環以上のノルボルネン誘導体;8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン、8−カルボキシ−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エンなどの官能基を有する3環以上のノルボルネン誘導体;を挙げることができる。
【0025】
ノルボルネン化合物の付加重合体は、常法に従って重合触媒によりノルボルネン化合物を付加重合させることにより得ることができる。用いられ得る重合触媒としては、特表平11−505880号公報記載の[6−メトキシノルボルネン−2−イル−5−パラジウム(シクロオクタジエン)]ヘキサフルオロホスフェートなどの重合触媒;国際公開第2000/20472号パンフレット記載の(アリル)パラジウムクロリドダイマー/トリシクロヘキシルホスフィン/リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート・2.5エーテルなどの重合触媒;特開2001−098035号公報記載の(フェニル)パラジウムビス(トリフェニルホスフィン)イオダイド/メチルアルミノキサンなどの重合触媒;などの第10族遷移金属触媒からなる重合触媒を好適なものとして例示することができる。
【0026】
多孔質フィルムを構成する高分子材料の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、通常10,000〜1,000,000の範囲で選択され、20,000〜800,000の範囲であることが好ましい。また、高分子材料のガラス転移温度(Tg)も、特に限定されないが、多孔質フィルムの耐熱性の観点からは、通常60℃以上の範囲で選択され、80〜400℃の範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明で用いられる多孔質フィルムを構成する高分子材料には、老化防止剤を添加することが好ましい。用いる老化防止剤の種類は特に限定されず、例えば、ヒンダードフェノール系老化防止剤、リン系老化防止剤、ラクトン系老化防止剤、アミン系老化防止剤、イオウ系老化防止剤などを用いることができる。老化防止剤の添加量も特に限定されないが、高分子材料100重量部に対して、通常0.1〜5重量部であり、0.2〜4重量部であることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる多孔質フィルムを構成する高分子材料には、必要に応じて、さらに、老化防止剤以外の各種の添加剤を添加しても良い。老化防止剤以外の添加剤の例としては、光安定剤、可塑剤、滑剤、染料、顔料、充填剤、蛍光剤、帯電防止剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤を挙げることができる。これらの添加剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることができ、その含有量は本発明の目的を損ねない範囲で選択すれば良い。
【0029】
以上のような高分子材料を用いて、本発明で用いる特定の多孔構造を有する多孔質フィルムを得る方法は特に限定されないが、以下に述べる方法によれば、目的とする多孔質フィルムを容易に得ることが可能となる。すなわち、高分子材料を有機溶媒に溶解させて、25℃における粘度が0.5〜100Pa・sである溶液を調製して、該溶液を支持体上にキャストし、相対湿度が60%以上である雰囲気下においてキャストした溶液の有機溶媒を蒸発させることによりキャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより高分子材料製の多孔質フィルムを得る方法である。
【0030】
目的とする多孔質フィルムを得るためには、まず、前述したような高分子材料を有機溶媒に溶解させて溶液を調製する。高分子材料を溶解させるために用いる有機溶媒は、特に限定されるものではないが、溶液上で水蒸気を凝結させて微小水滴を生じさせる必要があることから、疎水性有機溶媒であることが好ましい。用いられ得る有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;n−ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロルメタン、ジクロルエチレン、テトラクロルエタン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどの含窒素炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルメチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどの含酸素炭化水素類を挙げることができる。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの有機溶媒なかでも、芳香族炭化水素類、脂環族炭化水素類、およびハロゲン化炭化水素類からなる群から選択される有機溶媒が、疎水性が高く、高分子材料の溶解性に優れることから好ましく用いられる。
【0031】
高分子材料を有機溶媒に溶解させて調製する溶液の粘度は、25℃における粘度として、0.5〜100Pa・sの範囲とする。この溶液の粘度が低すぎると、得られる多孔質フィルムの多孔構造が規則性の高いものとなってしまい、多孔構造を構成する孔の開口面の直径の変動係数が小さくなりすぎたり、該孔の開口面のアスペクト比の平均値が小さくなりすぎたりするおそれがある。一方、溶液の粘度が高すぎると、溶液のキャストが困難となったり、多孔構造の形成が困難となったりするために、多孔質フィルム自体が得られないおそれがある。調製する溶液の粘度は、25℃における粘度として、1〜80Pa・sであることが好ましく、2〜50Pa・sであることがより好ましい。なお、溶液の粘度は、用いる高分子材料と有機溶媒の種類に応じて、高分子材料の濃度を調節することにより、容易に調節することができ、また、溶液の粘度を調節することにより、得られる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔の開口面の直径や、該孔の深さを調節することができる。具体的には、用いる溶液の粘度を小さくすることにより、孔の直径や深さが大きくなる。
【0032】
以上のようにして得られる溶液は、支持体上にキャストする。支持体の材質は、特に限定されず、例えば、ガラス、金属、シリコンウエハーなどの無機基板;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐有機溶剤性に優れた有機基板;水、流動パラフィン、液状ポリエーテルなどの液体の液面を用いることができる。また、後述するように、多孔質フィルムを他のフィルム(基材フィルム)と積層させて、光拡散フィルムとして用いる場合には、その他のフィルム(基材フィルム)を支持体として用いても良い。また、支持体として、可撓性を有する材質のロール状のものを用いることにより、いわゆるロールツーロール方式で連続的に多孔質フィルムを製造することも可能である。
【0033】
溶液を支持体上にキャストする手法も特に限定されず、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延製膜法、バーコート法、ダイコート法、グラビア印刷法などを用いることができる。また、キャストする溶液の厚さも特に限定されず、目的とする多孔質フィルムの厚さなどに応じて決定すればよく、通常5〜2000μmの範囲で選択される。なお、キャストする溶液の厚さを生じさせる微小水滴の直径より大きくすると、得られる多孔質フィルムの孔は有底孔となり、キャストする溶液の厚さを生じさせる微小水滴の直径より小さくすると、得られる多孔質フィルムの孔を貫通孔とすることが可能となる。
【0034】
以上のように支持体上に溶液をキャストした後は、相対湿度が60%以上である雰囲気下において、キャストした溶液から有機溶媒を蒸発させる。このように、相対湿度が比較的に高い雰囲気下において、キャストした溶液から有機溶媒を蒸発させることにより、気化熱が奪われ、キャストした溶液の液面上で水蒸気が凝結し、微小水滴が生じる。そして、この微小水滴が蒸発すると、その微小水滴が存在していた部分には、高分子材料が存在していないため、多孔質フィルムの多孔構造を形成する孔が形成されることとなる。キャストした溶液から有機溶媒を蒸発させる雰囲気の湿度は、60%以上であれば特に限定されないが、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。雰囲気の湿度が低すぎると、水蒸気の凝結が十分に行われず、目的とする多孔構造を有する多孔質フィルムが得られないおそれがある。なお、雰囲気の相対湿度を調節することにより、生じる微小水滴の大きさを調節することが可能であり、その結果として、得られる多孔質フィルムが有する多孔構造を構成する孔の開口面の直径や、該孔の深さを調節することができる。具体的には、雰囲気の相対湿度を高くすることにより、生じる微小水滴が大きくなり、孔の直径や深さが大きくなる。
【0035】
また、キャストした溶液から有機溶媒を蒸発させる手法は、特に限定されず、室温下で自然に蒸発させても良いし、加熱手段を用いて、加熱雰囲気下で蒸発させても良い。用いる加熱手段は、特に限定されるものではないが、例えば、スチームヒーター、温水加熱、遠赤外線ヒーター、セラミックヒーター、熱風、誘導加熱を用いることができる。加熱を行う場合の雰囲気の温度は、特に限定されないが、30〜250℃であることが好ましい。さらに、雰囲気に気流を生じさせることにより、蒸発した有機溶媒を雰囲気から除去しながら、有機溶媒を蒸発させることも好ましい。有機溶媒を蒸発によって多孔質フィルムを得るために要する時間は、通常1分間〜100時間であり、好ましくは1分間〜20時間である。
【0036】
以上のようにすれば、支持体上に目的とする多孔質フィルムを生じさせることができる。得られた多孔質フィルムは、支持体から剥がし取った後に、または支持体と積層させたまま、さらに乾燥させることにより、残留溶媒を低減させることが好ましい。この乾燥の条件は特に限定されず、例えば、30〜200℃に加熱しても良いし、雰囲気を減圧することにより乾燥させても良い。さらに、乾燥させたフィルムには、例えば、不活性ガスの雰囲気下で100〜300℃に加熱したり、空気雰囲気下で100〜250℃に加熱したりすることにより、アニール処理を施しても良い。アニール処理の時間は、特に限定されないが、通常、1分間〜180分間である。
【0037】
以上のようにして得ることができる多孔質フィルムは、それ1枚のみで、光拡散フィルムとして用いることができる。また、多孔質フィルムを複数枚、または他のフィルム(基材フィルム)と積層させて、光拡散フィルムとして用いることもできる。基材フィルムの例としては、上述の多孔質フィルムの材料として用いられる高分子材料からなる、多孔構造を有さない平滑なフィルムを挙げることができる。なお、多孔質フィルムと基材フィルムとを積層させる場合に、これらのフィルムの材質は、同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
【0038】
以上のように、特定の多孔構造を有する多孔質フィルムにより、本発明の光拡散フィルムを構成することができる。本発明の光拡散フィルムでは、多孔質フィルムが有する多孔構造を光が通過する際に、その通過光が、良好なランダム性を伴って拡散されるため、本発明の光拡散フィルムは、優れた光拡散性を有するものとなる。また、本発明の光拡散フィルムは、キャスト法による製造が可能であるから、生産性良く製造することが可能である。
【0039】
なお、本発明の光拡散フィルムを構成するために用いる多孔質フィルムは、延伸処理後に上述のような多孔構造を有するものであれば、延伸処理を行ったものであっても良いが、延伸処理を行わない非延伸のフィルムであることが好ましい。多孔質フィルムに延伸処理を行うと、多孔質フィルムを通過する光が干渉色を呈してしまうおそれがある。
【0040】
以上のように、特定の多孔構造を有する多孔質フィルムにより、本発明の光拡散フィルムを構成することができる。本発明の光拡散フィルムでは、多孔質フィルムが有する多孔構造を光が通過する際に、その通過光が、良好なランダム性を伴って拡散されるため、本発明の光拡散フィルムは、優れた光拡散性を有するものとなる。また、本発明の光拡散フィルムは、キャスト法による製造が可能であるから、生産性良く製造することが可能である。
【0041】
本発明の光拡散フィルムは、JIS K7136に準拠して測定されるヘイズの値が、80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。また、JIS K7361−1に準拠して測定される全光線透過率の値が、78%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0042】
本発明の光拡散フィルムは、光の拡散が必要となる用途に特に制限無く用いることができる。なかでも、液晶表示装置のバックライトユニットの光拡散フィルムとして好適に用いることができる。また、有機EL表示装置や有機EL照明などに用いられる有機EL素子の光取り出し効率を向上させるためのフィルム(いわゆる光取り出しフィルム)としても好適に用いることができる。さらに、LED照明装置の光散乱フィルムとしてや太陽電池の光取り込みフィルムとしても好適に用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各種の測定は、以下に示す方法より行った。
【0044】
(1)重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
テトラヒドロフランまたはクロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値として測定した。
(2)重合体の共重合比
H−NMR測定により求めた。
(3)重合体のガラス転移温度(Tg)
試験片として用いた多孔質フィルムについて、動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率E´の屈曲点の温度を重合体のガラス転移温度とした。動的粘弾性の測定においては、粘弾性スペクトロメーター(セイコーインスツルメント社製、商品名「EXSTAR DMS6100」)を用い、測定周波数が10Hz、昇温速度が5℃/分、加振モードが単一波形、加振振幅が5.0μmのものを用いて貯蔵弾性率E´の屈曲点の温度を測定した。
(4)溶液の粘度
ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド社製、型式「LVDV−II+Pro」)を用いてスピンドルCPE−52を使用し、25℃で、回転速度0.5〜30rpmの間で4点以上高分子化合物溶液の粘度を測定し、粘度と回転速度の関係式を算出し速度ゼロへの外挿値から粘度を求めた。
(5)フィルムの厚さ
デジマチックインジケータ(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
(6)孔の開口面のアスペクト比の平均値
多孔質フィルムの周縁部を除いた多孔構造が存在する部分の表面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、商品名「S3000N」)で倍率500倍にて観察し、視野中に開口面全体が存在する全ての孔について、画像解析ソフト(オリンパス社製、商品名「analySIS」)を用いて、開口面に外接する最小の長方形の短辺および長辺の長さを計測し、短辺の長さに対する長辺の長さの比(アスペクト比)を求めた。その値の算術平均値を孔の開口面のアスペクト比の平均値として求めた。
(7)孔の中心間距離の変動係数
多孔質フィルムの周縁部を除いた多孔構造が存在する部分の表面を走査型電子顕微鏡で倍率500倍にて観察し、画像解析ソフトを用いて、視野中に開口面全体が存在する全ての孔について、孔の中心間距離が最小となる孔との中心間距離を計測した。その計測値に基づいて、孔の中心間距離の変動係数を求めた。
(8)孔の開口面の直径の平均値および変動係数
多孔質フィルムの周縁部を除いた多孔構造が存在する部分の表面を走査型電子顕微鏡で倍率500倍にて観察し、画像解析ソフトを用いて、視野中に開口面全体が存在する全ての孔について、孔の開口面の直径(孔の開口面に内接する最大の円の直径)を計測した。その計測値に基づいて、孔の開口面の直径の平均値および変動係数を求めた。
(9)多孔構造の空孔率
多孔質フィルムの周縁部を除いた多孔構造が存在する部分の表面を走査型電子顕微鏡で倍率500倍にて観察し、画像解析ソフトを用いて、多孔構造の空孔率(視野中の全面積に対する多孔構造を構成する孔の開口面の面積の総和の割合)を求めた。
(10)孔の深さ(平均値)
多孔質フィルムをクロスセクションポリッシャー(日本電子データム社製、商品名「SM−09010」)を用いて切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡で倍率500倍にて観察し、画像解析ソフトを用いて、視野中に存在する全ての孔について、孔の開口面から最深部までの距離を計測し、その算術平均値を求めた。
(11)光拡散性(ヘイズおよび全光線透過率)
JIS K7136およびJIS K7361−1に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製、商品名「NDH2000」)を用い、試験片としての多孔質フィルムについて、ヘイズおよび全光線透過率を測定した。
(12)光取り出し効率の増加率
多孔質フィルムを有機EL素子上に貼り付け、外部に出てくる光量を測定し、得られた光量の、表面多孔フィルムを貼り付けていない有機EL素子の外部に出てくる光量に対する増加率を求めた。なお、光量の測定は、以下のように行った。すなわち、有機EL素子の正面(法線方向)に分光放射輝度計(BM−5、トプコン社製)を設置し、有機EL素子に定電流を印加し、白色光を出光させた。そして、有機EL素子の出光面を回転させ、出光面に対する分光放射輝度計の観察方向を変化させて輝度(cd/m)を測定した。観察方向は、出光面に平行な方向へ、正面(法線方向)を0°としたときに−90〜90°の範囲で変更させた。そうして得られた測定結果から、単位面積あたりの光量を算出した。また、用いた有機EL素子は、以下のように作製した。すなわち、ガラス基板の一方の主面に、反応性スパッタリング法により、錫添加酸化インジウムの層を形成し、透明電極層とした。次いで、そのガラス基板を真空蒸着装置に入れ、ホール輸送層(4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、黄色発光層(ルブレンを1.5重量%添加した4,4‘−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、青色発光層(イリジウム錯体を10重量%添加した4,4’−ジカルバゾリル−1,1’−ビフェニル)、電子輸送層(フェナンスロリン誘導体)、電子注入層(フッ化リチウム)、および反射電極層(アルミニウム)をこの順で、抵抗加熱式により蒸着させた。そして、電極層に通電のための配線を取り付け、さらにホール輸送層から反射電極層までを封止部材により封止することにより、ガラス基板側から白色光を出光しうる有機EL素子を得た。
【0045】
〔合成例〕
窒素置換したガラス反応器に、(アリル)パラジウム(トリシクロヘキシルホスフィン)クロリド0.77重量部及びリチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート1.14重量部を入れ、続けてトルエン2部を加え触媒液を調製した。次いで、窒素置換した攪拌機付きの耐圧ガラス反応器に、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(NB;分子量=94)1,650重量部、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(EtNB;分子量=122)915重量部、分子量調整剤としてスチレン1,300重量部および重合溶媒としてトルエン7,200重量部を仕込み、上記の触媒液を添加して重合を開始した。45℃で4.5時間反応させた後、重合反応液を多量のメタノールに注いでポリマーを完全に析出させ、濾別洗浄後、50℃で18時間減圧乾燥して、NBおよびEtNBの付加重合体である共重合体2,462重量部を得た。共重合体の数平均分子量(Mn)は140,000、重量平均分子量(Mw)は502,000、共重合体中のNB単位/EtNB単位組成比は71/29(モル/モル)で、後述する実施例1の多孔質フィルムを試験片として用いて測定したガラス転移温度(Tg)は281℃であった。
【0046】
〔実施例1〕
合成例で得た共重合体の12.5重量%トルエン溶液を調製し、ヒンダードフェノール系老化防止剤であるオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを共重合体に対して3.0重量%の割合で溶液に添加して溶解させた。さらに、可塑剤として、フタル酸ジイソノニルを、共重合体に対して3.0重量%の割合で溶液に添加して溶解させた。得られた溶液の粘度を測定したところ、29.6Pa・sであった。この溶液を平滑なポリテトラフルオロエチレン製のシート上に、バーコーターを用いて600μmの厚さでキャストし、これを、相対湿度100%の空気を送りこむことで温度38.7℃、相対湿度96%に調節されたオーブン内に移して30分間静置し、トルエンを蒸発させることによって、表面に有底孔からなる多孔構造を有するキャストフィルムを得た。次いで、このキャストフィルムを、ポリテトラフルオロエチレン製のシートから剥がしとり、窒素を流通させたオーブン内で、160℃で5時間加熱乾燥させることで、ノルボルネン化合物付加重合体製の多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの多孔構造を走査型電子顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、多孔構造は開口面が歪んだ円形である孔により構成されていることが確認された(図1参照)。また、得られた画像について画像解析を行うことにより、多孔構造を構成する孔の開口面のアスペクト比の平均値、該孔の中心間距離の変動係数、該孔の開口面の直径の平均値、該孔の開口面の直径の変動係数、該孔の深さ、および多孔構造の空孔率を求めた。さらに、この多孔質フィルムについて、厚さ、光拡散性(ヘイズと全光線透過率)および光取り出し効率の増加率を測定した。これらの結果は表1にまとめて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
〔実施例2〕
キャストした溶液の静置を、温度32.0℃、相対湿度100%の条件下で行ったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの多孔構造を走査型電子顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、多孔構造は開口面が歪んだ円形である孔により構成されていることが確認された。また、得られた多孔質フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。これらの結果は表1にまとめて示す。
【0049】
〔実施例3〕
キャストした溶液の静置を、温度40.0℃、相対湿度80%の条件下で行ったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの多孔構造を走査型電子顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、多孔構造は開口面が歪んだ円形である孔により構成されていることが確認された。また、得られた多孔質フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。これらの結果は表1にまとめて示す。
【0050】
〔実施例4〕
キャストする溶液の共重合体の濃度を10.0重量%に変更し、その粘度を2.1Pa・sとしたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの多孔構造を走査型電子顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、多孔構造は開口面が歪んだ円形である孔により構成されていることが確認された。また、得られた多孔質フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。これらの結果は表1にまとめて示す。
【0051】
〔比較例1〕
キャストする溶液の共重合体の濃度を5.0重量%に変更し、その粘度を0.2Pa・sとしたこと以外は実施例1と同様にして、多孔質フィルムを得た。得られた多孔質フィルムの多孔構造を走査型電子顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、多孔構造は開口面が略円形である孔により構成されていることが確認された(図2参照)。また、得られた多孔質フィルムについて、実施例1と同様の測定を行った。これらの結果は表1にまとめて示す。
【0052】
表1から分かるように、比較的に粘度が高い溶液を用いて得られた、開口面が歪んだ円形である孔により構成される多孔構造を有し、該多孔構造を構成する孔の開口面の、直径の変動係数およびアスペクト比の平均値が比較的に高い多孔質フィルムは、光拡散フィルムとして用いると、ヘイズの値が高いことから光拡散性に優れたものであるといえ、また、光取り出し効率の増加率も高いものであると言える。これに対して、比較的に粘度が低い溶液を用いて得られた、開口面が略円形である孔により構成される規則性の高い多孔構造を有し、該多孔構造を構成する孔の開口面の、直径の変動係数およびアスペクト比の平均値が比較的に低い多孔質フィルムは、ヘイズの値が低いことから光拡散性に劣るものであるといえ、また、光取り出し効率の増加率が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口面が歪んだ円形である孔により構成される多孔構造を有し、該多孔構造を構成する孔の開口面の、直径の平均値が0.1〜50μmであり、直径の変動係数が25%以上であり、アスペクト比の平均値が1.2以上である、高分子材料製の多孔質フィルムを用いてなる光拡散フィルム。
【請求項2】
多孔質フィルムの多孔構造を構成する孔が有底孔である請求項1に記載の光拡散フィルム。
【請求項3】
高分子材料を有機溶媒に溶解させて、25℃における粘度が0.5〜100Pa・sである溶液を調製して、該溶液を支持体上にキャストし、相対湿度が60%以上である雰囲気下においてキャストした溶液の有機溶媒を蒸発させることによりキャストした溶液の液面上で水蒸気を凝結させ、生じた微小水滴を蒸発させることにより高分子材料製の多孔質フィルムを得て、該多孔質フィルムを用いて光拡散フィルムを構成する請求項1または2に記載の光拡散フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−17797(P2011−17797A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161180(P2009−161180)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】