説明

光操作用の光学装置

本発明は試料(1)を光操作するための光学装置に関するものである。この装置は、試料(1)を収容する試料ホルダ(2)と、照明装置とを有し、照明装置は照明光源(3)と、試料(1)を光シートにより照明する照明ビーム路とを有する。さらにこの装置は、試料(1)から放射された光を検知する検知装置と、試料(1)を結像ビーム路にある結像対物レンズ(7)により検知装置に少なくとも部分的に結像する結像光学系とを有する。ここで光シートは結像対物レンズ(7)の焦点において実質的に平坦であり、結像対物レンズ(7)は光軸を有し、この光軸は光シートの平面とゼロとは異なる角度で、好ましくは垂直に交差する。この装置はさらに制御ユニット(8)と、試料(1)を光操作する手段も有する。このような光学装置では、光操作する手段が第1の操作光学系を有し、この第1の操作光学系によって、実質的に平坦な操作光シートを形成するために第1の操作光源(10)の光が照明ビーム路に入力結合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料を光操作するための光学装置に関するものであり、この装置は、試料を収容する試料ホルダと、照明光源、及び試料を光シートによって照明する照明ビーム路を有し照明装置と、試料から放射された光を検知する検知装置と、結像光学系と、制御ユニットと、試料を光操作する手段とを有し、この結像光学系は結像ビーム路中にある結像対物レンズによって試料を少なくとも部分的にこの検知装置に結像し、ここでこの光シートは結像対物レンズの焦点において実質的に平坦であり、この結像対物レンズは光軸を有し、この光軸は光シートの平面とゼロとは異なる角度で、好ましくは垂直に交差する。
【背景技術】
【0002】
本発明の光学装置は試料観察に関係して、とりわけ単一平面照明顕微鏡法(SPIM)、選択的平面照明顕微鏡法とも称されるものと関連して使用することができる。共焦点レーザー走査顕微鏡法により、試料を深さの異なる複数の平面で点ごとに走査し、そこから試料の3次元画像情報を獲得するが、一方、SPIM技法は広視野顕微鏡法に基づくものであり、試料の種々異なる平面での光学的断層を基礎にして試料を3次元画像表示することができる。
【0003】
ここでSPIM技法等の利点は、とりわけ画像検出を行う速度が比較的高く、生物学的試料の退色が小さく、試料への焦点の浸透深さが拡大されていることである。
基本的にSPIM技法では、試料に含まれる蛍光体(Fluorophore)または試料に取り込まれた蛍光体がレーザー光によって励起され、レーザー光がいわゆる光シート(Lichtblatt)に成形されるか、または効率的に、すなわち観察期間にわたって光シートの形態が得られるように試料上に導かれる。ここではそれぞれの光シートによって平面が試料の深さ方向で照明され、この照明によってこの平面における試料の画像が獲得される。重要なことは、光シート平面にあるエレメントが検知器平面に結像されること、または光シート平面と検知器平面とが相互に共役であることである。検知器平面が検知ビーム路の光軸に対して垂直である従来の顕微鏡構造では、光が検知される方向が、照明される平面に対して垂直または少なくともほぼ垂直である。
【0004】
SPIM技法は、例えばシュテルツァーら(Stelzer et al.)、Optics Letter 31、1477(2006)、シュテルツァーら(Stelzer et al.)、Science 305、1007(2004)、独国特許出願公開第10257423号明細書および国際公開第2004/0530558号パンフレットに記載されている。
【0005】
試料の観察の他に、生物学的物質、生体物質、または非生体物質、ならびに無機物質を顕微鏡法で操作することも大きな意義を持つ。いくつかの試料を、例えば光活性化、光不活性化または加熱することができる。操作は、試料の加工、すなわち例えば試料の重合、または例えば試料領域を残りの試料からレーザーメスによって分離することも含む。操作すべき試料と光との相互作用に基づく操作方法、例えばレーザー切除、ブリーチング、光活性化は、試料との機械的接触を回避すべき場合にとくに適する。相応に構成された光学系では、顕微鏡分解能により非常に精確に領域を操作することができる。
【0006】
実質的に平坦な形状を有する試料、例えば接着された細胞または境界面に対しては、軸方向に高い分解能を提供しない光学系によっても操作を非常に精確に実行することができる。
【0007】
しかし空間的に広がった3次元試料については、空間的に精確な操作が非常に困難であり、操作光ビームと試料との非線形相互作用にもしばしば基づく、技術的に複雑な構造によってのみ解決される。
【0008】
光操作の標準技術の例をいくつか挙げる。フォトブリーチングでの蛍光損失(fluorescence loss in photobleaching;FLIP)、光活性化(PA GFP)、可逆的光活性化(Dronpa)、光変換(Kaede)、フォトブリーチング後の蛍光位置測定(fluorescence localisation after photobleaching:FLAP)、顕微解剖(Mikrodissektion)、アンケージング(Uncaging)が、顕微鏡法ですでにここ数十年来公知になり、確立された一部である。通例、相応の出力と波長を有するレーザービームが観察対物レンズを介してフォーカスされ、試料に偏向される。レーザービームは、相応の出力変調により、励起のためにも蛍光顕微鏡法で適用することができる。眼科学でも操作技術が使用されており、例えばLASEC法がある。
【0009】
しかし、3次元試料で所期の操作を実行することができ、試料の空間的画像表示を同時に行うことのできる装置の使用は制限されている。そのために通例、共焦点レーザー走査顕微鏡が使用される。とりわけ操作は、これが結像に該当するものであっても励起側では共焦点でない。したがって本来必要であるよりも格段に大きな試料領域が照明される。ここでの対策は、例えば2光子励起のような非線形相互作用を利用する走査顕微鏡だけである。このような顕微鏡では励起側でも共焦点操作領域が形成され、この操作領域を試料内にある程度の精度で位置決めすることができる。しかしこのような解決手段は技術的に非常に複雑である。この解決手段は例えば短パルスレーザーの使用を必要とし、波長選択に関して制限されている。
【0010】
顕微鏡法を用いた試料の操作は、例えば独国特許出願公開第10233549号明細書に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の課題は、実質的に顕微鏡の焦点面内にある制限された試料領域で簡単に操作を実行することのできる装置を開発することである。とりわけ共焦点の試料操作を、多光子効果を使用せずに可能とすべきである。有利にはこの装置は、試料の空間的等方性結像が、操作の前、後、または操作中でも可能であるようにすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は冒頭に述べた形式の光学装置において、光操作する手段が第1の操作光学系を有し、該第1の操作光学系によって第1の操作光源の光が、実質的に平坦な操作光シートを形成するために照明ビーム路に入力結合されることによって解決される。
【0013】
したがって光操作のために、SPIM検査に適した、光シートに成形される光によって試料が通例のように照明されるのではなく、特別の操作光源の光によって照明される。しかしこの操作光源の光は同じ照明ビーム路に入力結合され、したがってSPIM法で観察にも使用される光シートに成形される。ここで光はレーザー光を試料へ導くことによっても効率的に、すなわち操作の期間にわたって光シートに成形することができる。光の入力結合は制御ユニットにより制御される。この制御ユニットは、絞り、半透明ミラー、空間的光変調器、例えばガルバノミラーのような相応の入力結合素子を制御する。操作光源は、本来の照明光源とは別の波長または別の波長領域の光を送出するレーザーとすることができる。しかし実験の形式に応じて、照明光源自体を操作光源として使用することもできる。この場合、操作光学系と入力結合素子を省略することができる。複数のレーザーを1つの光源モジュールに統合することも考えられる。この場合では、選択された照明方法または操作方法に応じて1つまたは複数の光源が選択され、照明ビーム路に入力結合される。
【0014】
選択された操作光源を使用する他に、光シートを構造化する手段を第1の操作光学系がさらに有することができる。光シート自体は顕微鏡対物レンズ光軸に対して実質的に垂直に座標XとY方向に延在し、被検試料野に適合された長さおよび幅と、結像対物レンズの光軸方向に延在する数μmの領域の厚さを有する。この光シートは例えばスリット絞りを用いて空間的に構造化される。このスリット絞りは、空間的構造化のために1つまたは複数のスリットを有する。このスリット絞りは検知対物レンズの対象面に対して共役の平面に、照明ビーム路中で取り付けられ、それから光シートが画像面でグリッド状に変調される。例えば蛍光試料が光シートの領域に存在するならば、蛍光が相応にして画像野にわたり変調される。スリット絞りの代わりにグリッドを使用することもできる。
【0015】
光シートを構造化する手段は好ましくは、同じ光シートを時間的に変調する手段も含む。例えば照明強度を時間的に変調することができる。光の偏光を調整することもできる。
レーザー光を試料上に観察期間中に導くことによって、光シートが効率的に成形されるならば、同じようにして照明光を時間的に変調する手段を、空間的構造化を達成するために使用することもできる。
【0016】
本発明の別の実施形態では、構造化のための手段が択一的にまたは補完的に、相互に重なった複数の光シートを形成する手段を有することもできる。
グリッド、絞りまたは類似物による光シートの構造化によって、例えば明るい領域に制限してフォトブリーチングプロセスをトリガすることができ、引き続きFRAPプロセスを観察することができる。なぜなら暗い領域ではブリーチングプロセスがトリガされていないからである。
【0017】
上記の装置を使用することの利点は、操作が焦点面に制限されたままであり、焦点面の外では試料が損なわれないことである。この装置の別の利点は、光操作する手段を、SPIM分析のための既存の構造に簡単に、例えばモジュール構造で組み込むことができることである。
【0018】
しかし焦点面ではストライプまたはラインの全体の拡がりにわたって試料が操作され、比較的小さな領域に制限することは不可能である。ただし、光操作する手段が第2の操作光学系を有し、この第2の操作光学系によって第2の操作光源の光が結像ビーム路に入力結合され、結像対物レンズを介して試料に偏向されるようにすれば、試料中の操作すべき領域、または操作された領域がさらに制限される。
【0019】
したがって本発明のこの実施形態では試料が操作光シートによって照明されるだけではなく、付加的に結像対物レンズを介して、この光シートの平面に対して実質的に垂直の方向からも照明される。
【0020】
第1の操作光源の他に、少なくとも1つのレーザーを含む第2の操作光源をレーザー光源として構成することもできる。ここでももちろん、複数のレーザーを1つのモジュールにまとめ、1つまたは複数のレーザーを選択的に選択することができる。ここで第1と第2の操作光源は、好ましくは異なる波長または異なる波長領域の光を放射する。しかしこれらの光源は、所要の適用に応じて同じ波長または同じ波長領域の2つの光を放射することもできる。
【0021】
とりわけ第2の操作光学系は、レーザー走査顕微鏡として構成することができる。このような顕微鏡ユニットとして、例えばカール ツァイス社(Firma Carl Zeiss)のモジュール式LSM−DUOスキャンがある。さらにただ1つの操作光源によって、光源のビームを相応に分割することにより2つの操作光学系に供給することができる。この場合、第1と第2の操作光源は同じである。したがってもっとも好適な場合、照明のためにも、2つの操作ビーム路の1つまたは両方を介して操作するためにも照明光源を用いることができる。
【0022】
したがってすぐ上に説明したように2つの操作光学系を使用し、それらのビーム路が試料中で実質的に相互に垂直に交わる場合、構造およびコストに関して大きな費用を掛けずに、操作を試料の小さな領域に制限することができる。すなわち操作光学系の光ビームが交差する領域に制限することができる。このようにして共焦点の試料操作が可能となり、その際に多光子効果を利用するために複雑な配置構成を必要としない。しかし2つの操作光ビームを使用すれば、検査の際に多光子効果を利用することも簡単に可能である。
【0023】
SPIM技法の格別の利点は、試料の空間的画像を形成することができることであり、したがって本装置でも試料および試料ホルダの少なくとも一方は適切には可動であり、好ましくは回転可能およびスライド可能に支承されている。このようにして試料のすべての領域に操作を適用することができ、とりわけ空間的に厳密に位置決めされた操作でも適用することができる。ここで制御ユニットは適切には、2つの操作光学系を制御するように構成されている。さらにこの装置は適切には評価ユニットを有し、この評価ユニットは、例えば平面状のCCD検知器上でピクセルごとに検知された光をデータ、すなわちデジタル信号に変換し、評価もする。この信号変換はしばしば検知装置自体でも行われる。制御ユニットは試料および試料ホルダの少なくとも一方の運動を、好ましくはデータの評価に依存して制御する。しかし試料が例えば完全に透過照明され、常に同じ操作プロシージャが反復して実行される所定のプログラムによる制御も相応の制御部により可能である。
【0024】
とりわけ本発明の光学装置は、FRAP、iFRAP、FLIP、FLAP、光変換、光活性化、光不活性化、顕微解剖、重合、切除、溶解、加熱、ならびに色素の励起特性および放射特性の操作の、1つまたは複数の操作方法による光操作のために使用される。空間的に広がった試料に対して空間的に位置決めされた操作を行うためにも、本発明の装置が簡単に使用される。
【0025】
本発明を以下に、本発明の特徴を有する図面に基づいて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】通常の照明光源と操作光源とによる光操作のための光学装置を示す図である。
【図2】照明光源が操作光源として使用される類似の光学装置を示す図である。
【図3】追加的に第2の操作光学系と2つの操作光源を備えた、図1の光学装置を示す図である。
【図4】第2の操作ビーム路と共通の操作光源を備えた、図1の光学装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1には、試料1を光操作するための光学装置が図示されている。試料1は試料ホルダ2に収容されている。この試料1は例えばアガロースからなるゲルシリンダに埋め込むことができ、このゲルシリンダが試料ホルダ2に固定される。好ましくは、試料ホルダ2は回転可能に支承されており、このことはここで矢印により示されている。さらに好ましくは、試料ホルダ2はスライド可能に支承されている。すなわち3つの空間方向すべてに走行可能である。これにより試料1のすべての領域を照明し、検知することができる。その代わりに、試料1を可動に支承し、試料ホルダ2を固定的に構成することもできる。これにより試料1と試料ホルダ2の運動が分離される。この装置は、照明光源3を備える照明装置と、2つのレンズ4と5により示された照明ビーム路とを有する。照明装置を用いて試料1を光シートにより、SPIM技法にしたがって照明することができる。本実施事例では、試料ホルダ2の回転軸に対して好ましくは平行に光が試料1へ偏向される。さらにこの装置は、試料1から放射される光を検知する検知装置を有する。検知装置の主要な構成部材は、ライン型またはフラット型の検知器であり、この検知器は本実施例ではCCDカメラ6として構成されている。記録された強度信号が簡単にデジタル情報に変換されるならば、例えばCMOSベースの他の検知器も使用することができる。試料1または試料1から到来する光が、結像ビーム路中にある結像対物レンズ7を備える結像光学系により少なくとも部分的に検知装置、すなわちCCDカメラ6上に結像される。照明のための光シートは、結像対物レンズ7の焦点内で実質的に平坦である。さらに結像対物レンズ7の光軸は光シートの平面とゼロとは異なる角度で、図1に示すように好ましくは垂直に交差する。さらに光学装置は制御ユニット8を有し、この制御ユニットは本実施例ではオプションの評価ユニット9と組み合わされている。評価ユニット9では、検知された光がデータに変換され、評価される。光が検知される方向は、結像対物レンズ7とCCDカメラ6との間にある「D」により示された矢印によって図示されている。
【0028】
さらにこの光学装置は、試料1を光操作する手段を有する。この光操作する手段は第1の操作光学系を含み、この第1の操作光学系によって実質的に平坦な操作光シートを形成するために、第1の操作光源10の光が照明ビーム路に入力結合される。操作光が試料に偏向される方向は、レンズ5と試料ホルダ2との間にある「M」により示された矢印によって図示されている。本実施事例では操作光学系が、同様にレンズ4および5と同じように複数のレンズの配置構成を象徴することができるレンズ11の他に、偏向ミラー12と、照明ビーム路に入力結合する相応の入力結合素子13とを含む。この入力結合素子13は、例えば半透明ミラーまたは偏光ビームスプリッタ、またはガルバノミラーとして構成することもできる。さらに補完的に、シャッターとして構成された絞り14、例えばアイリス絞りを設けることができ、このアイリス絞りは、制御ユニット8による制御に応じて光を透過または阻止する。入力結合素子13または偏向ミラー12も場合により制御ユニット8により制御することができる。これは例えば入力結合素子13がガルバノミラーとして構成されている場合、または絞り14の代わりに偏向ミラー12が、光を光トラップに偏向および阻止するために回転される場合である。重要なことは、照明ビーム路へ入力結合する手段が設けられており、この手段を制御できることだけである。制御ユニット8から光学装置の被制御素子への接続は、分かりやすくするために図示されていない。第1の操作光源10は、例えばレーザー光源として構成することができる。このレーザー光源は、波長の種々異なるレーザーを個別に複数含むことも、または共通に切換可能な波長の種々異なるレーザーを含むこともできる。
【0029】
この装置はさらに光シートを構造化する手段も有する。図示の例で光シートを構造化する手段は、ビーム路に挿入可能なスリット絞り15を有し、このスリット絞り15は光シートを空間的に構造化するために1つまたは複数のスリットを備える。
【0030】
図1に示した装置により、試料の観察と試料の操作を交互に、または場合により同時に行うこともできる。一方、図2に示した装置は図1に示した装置と実質的に同じエレメントを有するが、より単純に構成されている。第1の操作光源10として、ここでは照明光源3が設けられている。ここで試料1をこの光により通常のように観察することもできるのか、またはこの装置により操作だけが可能であるのかは、それぞれの適用、すなわち第1の操作光源10が放射する光の波長または波長領域に依存するものである。ここにも光シートを構造化する手段が設けられており、この手段はスリット絞り15の他に、さらに光シートを時間的に変調する手段、例えば強度または波長の制御部を有することができ、または相互に重なった複数の光シートを形成する手段を有することもできる。
【0031】
図3には図1と類似の装置が示されているが、ここでは試料1を光操作する手段が、付加的に第2の操作光学系をさらに有する。第2の操作光源16の光は結像ビーム路に入力結合され、結像対物レンズ7を介して試料1に偏向される。ここでは入力結合のために偏向ミラー12と絞り14、ならびに操作光を結像ビーム路に最終的に入力結合するビームスプリッタ17も設けられている。しかしこのビームスプリッタは検知方向で試料1から到来する光をCCDカメラ6に向かって透過する。第2の操作光源16も、少なくとも1つのレーザーを含むレーザー光源として構成することができる。ここで第1の操作光源と第2の操作光源16は、波長または波長領域の異なる光を放射することができる。さらに第2の操作光学系は、レーザー走査顕微鏡として構成することができる。これにより試料を、結像ビーム路を介して共焦点照明することができる。偏向ミラー12が全反射ミラーとしてではなく、部分透過ミラーとして構成されているならば、第1の操作光源10の光も、破線で示したように結像ビーム路へ入力結合することができる。入力結合素子13が相応に構成されていれば、照明光源3からの光であっても結像ビーム路に入力結合することができ、これにより入射光での通常の観察も可能になる。さらに図3に示した第2の操作光学系を、図2の装置と組み合わせることもできる。
【0032】
別の変形実施形態が図4に示されている。ここでは第1の操作光源10と第2の操作光源16とが同じである。しかしここでは偏向ミラー12の代わりに別の入力結合素子13が使用されている。この別の入力結合素子13は例えばビームスプリッタとして構成することができ、これにより両方の操作ビーム路に同時に光を供給することができる。または別の入力結合素子13は切換可能なミラーとしても構成することができ、このミラーは交互に、または必要に応じて2つのビーム路の一方を供給する。照明光源3を備える照明ビーム路を、図3に示された装置でも場合により省略することができる。これは照明が必要なく、この装置を純粋な操作だけに制限すべき場合である。その代わりに、すべての光源をただ1つの光源に、または少なくとも1つの光源モジュールにまとめることもできる。これにより構造がさらに簡単になる。
【0033】
図示の装置により、試料の制限された領域で光操作を実行することができる。その際、費用は構造に関しても、コストに関しても、空間的に制限されて光操作する他の装置に比べてわずかに低下する。操作光を光シートに成形する操作光学系を備える装置の場合、操作される試料1の領域は結像対物レンズ7の焦点面に制限されたままである。しかしこの領域は比較的大きく、融通が利かない。なぜならライン全体か、または光シートが空間的に構造化されている場合にはストライプを操作できるだけだからである。
【0034】
それぞれ2つの操作光学系または2つの操作ビーム路が設けられている、図3と4に示した装置により、試料中に空間的に厳密に位置決めされた領域も操作される。その際に例えば複雑な多光子効果に頼る必要がない。試料と操作技術を相応に選択すれば、試料中の操作領域を、重なり部分で2つの操作ビーム路の光により捕捉される領域に制限することができる。
【0035】
例えば応答特性(レスポンス)が入射される出力密度を基準にして非線形である色素により、試料を着色することができる。例えばその応答特性が入射される出力密度に対して2乗で反応する色素を使用することができる。出力密度が2倍であると信号の強度は4倍になる。2つの操作光学系が同じ出力密度で試料を照射する場合、観察者はビームが交差する試料1の領域では4倍の信号強度を観察することになり、その他の領域では1倍の信号強度を観察するだけである。ここで選択は多光子効果により行われるのではなく、出力密度の加算により行われる。もちろん多光子技術を組み合わせることも考えられる。
【0036】
別の適用例は、出力密度に対する閾値より下方ではまったく応答せず、この閾値の上方で初めて励起される試料の場合である。2つの操作光源の光の出力密度が、試料に当たる際にそれぞれ閾値よりも小さいが、しかし合計ではこの閾値よりも上にある場合、このようにして局所的に非常に狭く制限された領域を選択することもできる。操作光源の加算された出力密度の領域に試料が絶対的融点を有している場合、この融点で例えば2つのビームの重畳によって試料1が切開される。これは例えば顕微解剖に使用することができる。光源は上記両者の場合とも、それぞれ同じでよい。
【0037】
種々異なる光源ももちろん使用することができる。タイプDronpa3の色素によりマーキングされた試料を照射すると、例えば波長405nmの光による照射も、波長488nmの光による照射も放射を励起しない。2つの励起波長を同時に組み合わせる場合に初めて明るい放射が示される。しかしこの放射は、操作光学系自体がそれぞれ比較的大きな領域を照明したとしても、試料1内の、2つのビームが重なる領域、または交差する領域、すなわち空間的に非常に制限された領域にしか発生しない。
【0038】
この光学装置は上記の例の他に多数の他の操作方法、とりわけ蛍光を分析する、例えばFRAP、FLIP、FLAP等の方法に適用することもできる。
光操作のための上記光学装置により、多光子効果を利用するための装置の使用を省略できるだけではなく(このことは手間が掛からず、コスト的に有利である)、さらに多光子技術を使用する場合よりも小さな試料容積を検査することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 試料
2 試料ホルダ
3 照明光源
4、5 レンズ
6 CCDカメラ
7 結像対物レンズ
8 制御ユニット
9 評価ユニット
10 第1の操作光源
11 レンズ
12 偏向ミラー
13 入力結合素子
14 絞り
15 スリット絞り
16 第2の操作光源
17 ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(1)を光操作するための光学装置であって、
前記試料(1)を収容する試料ホルダ(2)と、
照明光源(3)と、前記試料(1)を光シートにより照明する照明ビーム路とを含む照明装置と、
前記試料(1)から放射される光を検知する検知装置と、
前記試料(1)を結像ビーム路にある結像対物レンズ(7)により、前記検知装置に少なくとも部分的に結像する結像光学系であって、前記光シートは前記結像対物レンズ(7)の焦点において実質的に平坦であり、前記結像対物レンズ(7)は光軸を有し、該光軸は前記光シートの平面とゼロとは異なる角度で、好ましくは垂直に交差する、前記結像光学系と、
制御ユニット(8)と、
前記試料(1)を光操作する手段と
を備え、前記光操作する手段が第1の操作光学系を有し、該第1の操作光学系によって、実質的に平坦な操作光シートを形成するために第1の操作光源(10)の光が照明ビーム路に入力結合されることを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記光操作する手段が第2の操作光学系を有し、該第2の操作光学系によって第2の操作光源(16)の光が前記結像ビーム路に入力結合され、前記結像対物レンズ(7)を介して前記試料(1)に偏向されることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
第1および第2の操作光源(10、16)の少なくとも一方が、少なくとも1つのレーザーを含むレーザー光源として構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学装置。
【請求項4】
第1と第2の操作光源(10、16)が、波長または波長領域の異なる光を放射することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項5】
第1の操作光源(10)として、前記照明光源(3)が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項6】
第1の操作光源(10)と第2の操作光源(16)とが同一であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項7】
第2の操作光源(16)が、レーザー走査顕微鏡として構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記試料(1)および前記試料ホルダ(2)の少なくとも一方が可動に、好ましくは回転可能およびスライド可能に支承されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記制御ユニット(8)が、第1と第2の操作光学系を制御するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項10】
前記制御ユニットが評価ユニット(9)を有し、該評価ユニットは、検知された光をデータに変換し、評価することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項11】
前記制御ユニット(8)が、前記試料(1)および前記試料ホルダ(2)の少なくとも一方の運動を制御し、該制御は好ましくはデータの評価に依存して行われることを特徴とする請求項10に記載の光学装置。
【請求項12】
前記第1の操作光学系が、前記光シートを構造化する手段を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項13】
前記光シートを構造化する手段が、空間的に構造化するための1つまたは複数のスリットを備えるスリット絞り(15)を含むことを特徴とする請求項12に記載の光学装置。
【請求項14】
前記光シートを構造化する手段が、前記光シートを時間的に変調する手段を含むことを特徴とする請求項12または13に記載の光学装置。
【請求項15】
前記光シートを構造化する手段が、相互に重なった複数の光シートを形成する手段を含むことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項16】
FRAP、iFRAP、FLIP、FLAP、光変換、光活性化、光不活性化、顕微解剖、重合、切除、溶解、加熱、ならびに色素の励起特性および放射特性の操作のうち、1つまたは複数の操作方法を用いて試料を光操作するための、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の光学装置の使用。
【請求項17】
空間的に広がった試料(1)を空間的に位置決めして操作するための、請求項1から15のいずれか1項に記載の光学装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−540995(P2010−540995A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526193(P2010−526193)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007690
【国際公開番号】WO2009/043473
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(506151659)カール ツァイス マイクロイメージング ゲーエムベーハー (71)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss MicroImaging GmbH
【Fターム(参考)】