説明

光標識部材

【課題】反射粒子体及び蓄光粒子体をビヒクル中に高濃度で均一に分散させて十分な光量を乱反射させ、且つ十分な光量の光を発光することが可能な光標識部材を提供する。
【解決手段】反射粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された反射性組成物からなる反射層3と、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の被膜によってコーティングされた蓄光粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された蓄光組成物からなる蓄光層4とを備える。反射層3及び蓄光層4はベースシート2上に区分けされて設けられている。ハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体を用いることにより、反射粒子体、蓄光粒子体の分散性が増大し、これらを高濃度で配合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反射による標示機能と燐光等の残光の発光による標示機能とを備えた光標識部材に関する。
【背景技術】
【0002】
反射光と残光の発光とによって所定の標示を行う光標識部材は、昼夜や明暗所のいずれにおける標示を行うために使用される。このような光標識部材は、昼間中や、ネオン、街灯等が点灯する明るい場所においては、入射する光を乱反射し、その反射光によって標示を行う一方、夜間や暗所においては、外光を吸収して残光を発し、発した残光によって標示を行う機能を有している。そして、この機能を備えることにより、例えば、非常階段、避難用梯子や消火器の設置場所を昼夜にわたって示したり、駐車場における車止めブロックを昼夜兼用で表示するために用いられる。
【0003】
従来の光標識部材としては、特許文献1に記載の構造が開示されている。この標示部材は、光を反射する反射層と、残光を発する蓄光層とが基板の表面に設けられた構造となっている。反射層及び蓄光層は基板上に区分けされて形成されており、反射層は基板上に塗布したアクリル樹脂等の樹脂材料の表面にガラスビーズを分散させることにより形成され、蓄光層は上記樹脂材料に蓄光顔料を混合した後、基板上に塗布することにより形成される。この構造では、反射層のガラスビーズが光を乱反射する一方、蓄光層の蓄光顔料が残光を発するため、昼夜兼用及び明暗所兼用での標示が可能となる。
【特許文献1】特開2004−332369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の光標識部材では、ガラスビーズを樹脂材料に分散させる一方、蓄光顔料は樹脂材料に混合した後に塗布することにより形成されるため、反射層と蓄光層とはその形成手法が異なっており、工程が煩雑となる欠点がある。このような製造の煩雑性を回避するためには、反射層及び蓄光層のいずれも基板への塗布や印刷によって形成することが好ましい。すなわち、ガラスビーズ等の反射粒子体をインキや塗料のビヒクルに混合する一方、蓄光顔料をインキや塗料のビヒクルに混合し、これらを基板上に塗布したり、印刷する手法を用いるものである。
【0005】
しかしながら、インキや塗料のビヒクルを用いる場合、ガラスビーズ等の反射粒子体及び蓄光顔料は、ビヒクルよりも比重が大きいため、ビヒクル中に均一に分散させることが難しいばかりでなく、短時間でビヒクル内で沈殿する。さらには、これらをビヒクル中に高濃度に配合することが難しい問題がある。このため、十分な量で且つ十分な分散状態で反射粒子体や蓄光顔料をビヒクル中に混合できないことから、反射層においては、視認可能な十分な量の光を乱反射できず、蓄光層においては、明るい輝度の光を発光できないものとなる。
【0006】
ところで蓄光顔料としては、従前の硫化亜鉛銅蛍光体等の金属硫化物からなる蓄光顔料に比べ、残光輝度が大きくしかも残光時間が長く、実用的な視認度を確保できることからアルミン酸ストロンチウムが多用されている。しかしながら、アルミン酸ストロンチウムをインキや塗料のビヒクルに混合すると、アルミン酸ストロンチウムがビヒクル中の水と反応して水酸化アルミニウムとなり、発生した水酸化アルミニウムがビヒクル中の樹脂を加水分解し、ビヒクルを劣化させる。このため、水性のインキや塗料に対しては用いることができない不便なものとなっている。
【0007】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたものであり、反射粒子体及び蓄光顔料をビヒクル中に均一に分散させることができると共にこれらを高濃度で配合させることができ、これにより、十分な光量を乱反射させることができると共に十分な光量の光を発光することができる光標識部材を提供することを目的とする。又、本発明は、蓄光顔料としてアルミン酸ストロンチウムを用いても、安定した残光の発光が可能な光標識部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明の光標識部材は、反射粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された反射性組成物からなる反射層と、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の被膜によってコーティングされた蓄光粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された蓄光組成物からなる蓄光層とを備え、前記反射層及び蓄光層がベースシート上に区分けされて設けられていることを特徴とする。
【0009】
光標識部材においては、反射粒子体が有機高分子及び多孔質の無機粉体と共にビヒクルに混合されることにより反射性組成物が構成され、蓄光粒子体が有機高分子及び多孔質の無機粉体と共にビヒクルに混合されることにより蓄光性組成物が構成される。ここで、有機高分子は、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造ものが使用される。このような反射性組成物、蓄光性組成物のそれぞれの内部では、膨潤したハニカム構造の有機高分子が反射粒子体や蓄光粒子体をハニカム構造中に取り込む、或いは反射粒子体や蓄光粒子体を吸着力によって吸着する。この取り込みや吸着によって反射粒子体や蓄光粒子体が有機高分子に捕捉されるため、これらの粒子はビヒクル内で良好に均一に分散し、分散性が増大する。
【0010】
多孔質の無機粉体は嵩比重が小さいため、ビヒクル内で浮遊してビヒクル内で分散した状態を維持する。ビヒクル内で分散している多孔質の無機粉体は、ビヒクルを増粘させると共に、ビヒクル内で浮遊している粒子を相互に接近させて浮遊するように作用する。さらに、多孔質の無機粉体は、膨潤した有機高分子の間やフリーの反射粒子体や蓄光粒子体の間に入り込む。この場合における膨潤した有機高分子には、反射粒子体、蓄光粒子体が取り込みや吸着によって捕捉されている。
【0011】
このようにビヒクルを増粘させ、しかも粒子を相互に接近させて浮遊させる多孔質の無機粉体を反射性組成物及び蓄光性組成物に用いることにより、これらの組成物中では、反射粒子体や蓄光粒子体を捕捉している有機高分子及びフリーの反射粒子体や蓄光粒子体が沈殿することなくビヒクル内で浮遊した状態を安定的に維持する。これにより、ビヒクルに対して比重が大きな反射粒子体や蓄光粒子体をビヒクル内で均一に分散させることができるばかりでなく、これらの粒子体のビヒクル内での分散性がさらに増大する。従って反射粒子体や蓄光粒子体を高濃度に配合しても、これらの粒子体がビヒクル内で均一に分散して沈殿することがない。
【0012】
蓄光性組成物に用いる蓄光粒子体は、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の皮膜によってコーティングされている。このため蓄光顔料が周囲の水と接触することを防止でき、蓄光顔料として、アルミン酸ストロンチウムを用いても、水との反応による劣化や蓄光力の低下がないと共にビヒクルを劣化させることがない。アルミン酸ストロンチウムの劣化がなく、しかも蓄光力の低下がないことにより、蓄光粒子体を用いた蓄光層では、十分な残光輝度を長時間保持でき、さらには十分な発光が可能となる。
【0013】
以上のように、反射性組成物によって形成される反射層においては、反射粒子体を高濃度としても、均一に分散し、且つ分散性が増大している。又、蓄光性組成物によって形成される蓄光層においては、蓄光粒子体を高濃度としても、均一に分散し、且つ分散性が増大している。従って、反射層では、入射した光を十分に乱反射させることができ、蓄光層では、入射光に基づく残光を十分な光量で発光させることができる。これにより、昼夜及び明暗所を問わず、適切な標示を行うことができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の光標識部材であって、前記反射組成物及び/又は蓄光組成物に紫外線硬化樹脂が混合されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記反射層及び蓄光層を含む領域が透明なトップコート層によって被覆されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記蓄光顔料はアルミン酸ストロンチウムであることを特徴とする。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記ハニカム構造の有機高分子は、ポリグルタミン酸であることを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記ハニカム構造の有機高分子は、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質であることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記多孔質の無機粉体は、嵩比重が0.05〜0.4の粉体であることを特徴とする。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記蓄光粒子体は、前記ビヒクル100重量部に対して1〜65重量部配合されていることを特徴とする。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記反射粒子体は、前記ビヒクル100重量部に対して1〜70重量部配合されていることを特徴とする。
【0022】
請求項10記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記有機高分子は、前記蓄光粒子体又は反射粒子体100重量部に対して、0.001〜5重量部配合されることを特徴とする。
【0023】
請求項11記載の発明は、請求項1又は2記載の光標識部材であって、前記多孔質の無機粉体は、前記蓄光粒子体又は反射粒子体100重量部に対して、0.1〜20重量部配合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光標識部材では、反射層の反射粒子体を高濃度としても、均一に分散し且つ分散性が増大する。従って、反射層では、入射した光を十分に乱反射させることができる。又、蓄光層の蓄光粒子体を高濃度としても、均一に分散し且つ分散性が増大する。さらに蓄光粒子体としてアルミン酸ストロンチウムを用いても、劣化や蓄光力の低下がない。従って、蓄光層では、入射光に基づく残光を十分な輝度で長時間発光させることができる。以上により、本発明の光標識部材は、昼夜及び明暗所を問わず、常に適切な標示が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の光標識部材は、反射粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された反射性組成物からなる反射層と、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の被膜によってコーティングされた蓄光粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された蓄光組成物からなる蓄光層とを備える。そして、反射層及び蓄光層がベースシート上に区分けされて設けられていることにより構成される。
【0026】
図1及び図2は、本発明の一実施形態の光標識部材1を示す。この光標識部材1は、例えば非常階段の縁部、駐車場の車止めブロック、室内の柱や壁、消火器置き場その他の箇所に貼り付けられて所定の標示を行う。光標識部材1はベースシート2上に反射層3と、蓄光層4とが形成されて構成される。反射層3及び蓄光層4は、相互に区分けされた所定幅の帯状となっている。これらは例えば、幅が1〜100mm等であり、長さ500〜10000mm等の帯状に形成される。この形態において、反射層3が中央部分に、蓄光層4が反射層3を挟んだ両側部分に配置されている。なお、反射層3及び蓄光層4の厚さは略同じとなっている。
【0027】
ベースシート2の材質としては、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、PET等のエステル樹脂、ナイロン等のアミド樹脂を始めとした合成樹脂、布、紙、合成紙が用いられる。これに限らず、屋外で使用する場合においては、アルミニウム、ステンレス等の金属板を用いることができる。ベースシートの厚さは、0.05〜5mm等の範囲で適宜変更することができる。設置場所への貼り付けを行うため、ベースシート2の下面には両面粘着テープ5が適宜貼り付けられる。両面粘着テープ5は光標識部材1と別体としても良い。
【0028】
反射層3及び蓄光層4を含む領域には、透明なトップコート層6が設けられる。トップコート層6は反射層3及び蓄光層4の形成領域を被覆するように設けられるものであり、トップコート層6を設けることにより耐候性を有した光標識部材1とすることができる。トップコート層6としては、紫外線硬化樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、その他の透明な樹脂を使用することができる。トップコート層6の厚さとしては、10〜100μmの範囲で適宜選択することができる。
【0029】
図3は本発明の別の実施形態の光標識部材10を示す。この光標識部材10は、四角形状のベースシート2の中央部分に円形の反射層3が形成され、反射層3の周囲を蓄光層4が囲むように形成されている。光標識部材10は、例えば漁船の船体、トラック荷台の側面等に貼り付けられることにより、衝突事故を未然に防止するように用いられる。光標識部材としては、図1,図3以外の外形、デザインとすることが可能である。
【0030】
反射層3は外光の入射により、その入射光を乱反射するものであり、その乱反射によって所定の標示を行う。蓄光層4は外光を吸収して残光を発し、発光した光によって所定の標示を行う。
【0031】
反射層3及び蓄光層4は、反射性組成物及び蓄光性組成物をベースシート2に対して塗布又は印刷することにより形成される。塗布や印刷の順序は、特に限定されない。反射性組成物は、反射粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合されて作成される。蓄光性組成物は、蓄光粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合されて作成される。従って、反射性組成物及び蓄光性組成物は、粒子体が異なるだけであり、有機高分子及び多孔質の無機粉体は共通のものを使用することができる。この場合、蓄光粒子体としては、蓄光顔料の表面が高分子樹脂の被膜によってコーティングされた粒子体を用いるものである。
【0032】
反射性組成物における反射粒子体としては、ガラスビーズやエステル樹脂等の合成樹脂からなる粒子に金属薄膜をコーティングした後、粉砕することにより形成することができるが、粉砕しなくても良い。金属薄膜のコーティングは、蒸着によってなされ、例えば、0.001〜0.1mmの膜厚となるようにコーティングが行われる。コーティング用の金属としては、アルミニウム、銀等の光沢を有した金属を用いることが好ましいが、その他の金属であっても良い。又、ガラスビーズのようにそれ自体で光沢を有する材料の場合には、金属薄膜をコーティングすることなく用いても良い。反射粒子体としては、粒径0.001〜0.5mm程度の粒子が良好であり、その比重は反射性組成物に用いるビヒクルよりも大きなものである。
【0033】
蓄光性組成物における蓄光粒子体は、蓄光顔料の表面を高分子樹脂の皮膜によってコーティングされることにより作製される。蓄光顔料は光の吸収に基づいて発光を繰り返す顔料であり、アルミン酸ストロンチウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸バリウム等のアルカリ土類金属のアルミン酸塩を選択できる。本発明においては、アルミン酸ストロンチウムを用いる。アルミン酸ストロンチウムは、高い残光輝度及び長い残光時間を有した蛍光体である。例えば、100ルクス程度の低照度の光照射でも、実用的な視認度を維持した状態で一晩中発光を継続する特性を有している。
【0034】
アルミン酸ストロンチウムは水と反応して水酸化アルミニウムに変化したり、炭酸ガスと反応してアルミナゲルに分解する不安定要素を有している。本発明では、アルミン酸ストロンチウムからなる蓄光顔料に対して高分子樹脂の皮膜をコーティングするものである。高分子樹脂としては、透明性を有し、且つビヒクルに対して安定な樹脂が選択され、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂等の内の一種又は複数を混合して使用することができる。
【0035】
アルミン酸ストロンチウムからなる蓄光顔料への樹脂皮膜のコーティングは、上述した高分子樹脂を溶融して融液とし、この融液中に蓄光顔料を投入して混合することによりなされる。高分子樹脂の融液中での混合により、蓄光顔料の表面の全体に皮膜が形成されて蓄光粒子体となる。
【0036】
蓄光顔料へのコーティングは、高分子樹脂を有機溶剤に溶解した溶液中に蓄光顔料を投入し混合して蓄光顔料の表面全体に樹脂皮膜を形成しても良く、これによっても蓄光粒子体を得ることができる。
【0037】
有機溶剤としては、脂肪族を除く有機溶剤を使用する。脂肪族の有機溶剤は、OH基を有しており、蓄光顔料であるアルミン酸ストロンチウムがOH基と反応して水酸化アルミニウムに変化して発光能が消失するため用いることができない。有機溶剤としては、グリセリン、トルオール、キシロール等の芳香族、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン、イソホロン、エチルベンゼン、エチレングリコール或いはエチレングリコールエーテル等のエチレングリコールのエーテル化合物等の内の一種又は複数を混合して用いることができる。
【0038】
蓄光顔料の表面に高分子樹脂の皮膜がコーティングされることにより、蓄光顔料が水や炭酸ガス等と接触することが回避される。このため、蓄光顔料としてアルミン酸ストロンチウムを用いても、蓄光顔料がインキや塗料のビヒクルに含有されている水と反応したり、炭酸ガスと接触しないため、蓄光力が低下することなく、アルミン酸ストロンチウム自体が有している大きな残光輝度及び長い残光時間を保持することができる。
【0039】
蓄光顔料の表面に高分子樹脂の皮膜がコーティングされた蓄光粒子体は、適宜粉砕して蓄光性組成物に用いる。粉砕後の蓄光粒子体の粒径としては、1μm〜800μm程度が良好である。かかる蓄光粒子体の比重はビヒクルよりも大きなものである。
【0040】
上述した反射性組成物及び蓄光性組成物に用いるハニカム構造の有機高分子は、液体との接触によって膨潤する性質を有した有機高分子である。この有機高分子としては、ポリグルタミン酸或いは長鎖型アミノ酸を選択することができる。
【0041】
ポリグルタミン酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を高分子化することによりハニカム構造となった化合物である。ポリグルタミン酸は一般に保湿剤として汎用されている。これに加えて、ポリグルタミン酸は分散剤及び乳化剤として使用できる特性を有している。ポリグルタミン酸は、水や有機溶剤に分散させてこれらと接触することにより膨潤する性質を有している。ポリグルタミン酸の粉末は、水1重量部に対し、0.01〜10.0重量部、より好ましくは0.01〜1.0重量部程度分散させることによって良好に膨潤する。有機溶剤としては、トリオールや酢酸エチルを用いることができる。ポリグルタミン酸の粉末は、これらの溶剤1重量部に対し0.01〜10重量部、より好ましくは0.01〜1.0重量部程度を分散させることにより膨潤する。
【0042】
本発明において、ビヒクルが含有する水や有機溶剤にポリグルタミン酸を分散させて膨潤させる。膨潤したポリグルタミン酸はハニカム構造となっており、内部に反射粒子体や蓄光粒子体を取り込む、或いは吸着力によって反射粒子体や蓄光粒子体を吸着する。これにより、これらの粒子体がポリグルタミン酸に捕捉される。かかる粒子体の捕捉は、水素結合等の化学結合、粘着力、電気吸引力等の物理吸着、その他の機構或いはこれらが複合することによりなされると思われる。さらに、ポリグルタミン酸が膨潤することにより、そのハニカム構造が大きくなっており、ポリグルタミン酸と粒子体との接触頻度が大きく、粒子体の捕捉率が大きくなる。例えば、水に対して0.01重量%のポリグルタミン酸を膨潤させた膨潤液においては、粒子体を膨潤液の40〜70重量%程度まで捕捉することが可能となり、ポリグルタミン酸の濃度を大きくすることにより捕捉効果がさらに大きくなる。
【0043】
ポリグルタミン酸の配合比は、反射粒子体や蓄光粒子体に対して以上の作用を行う範囲で設定されるものであり、反射粒子体又は蓄光粒子体100重量部に対し、ポリグルタミン酸は0.001〜5重量部、より好ましくは、0.02〜0.1重量部の範囲で適宜選定される。
【0044】
以上のハニカム構造の有機高分子として、ポリグルタミン酸に代えて或いはポリグルタミン酸と併用して、長鎖型アミノ酸を用いることができる。長鎖型アミノ酸はそのままで用いるものではなく、化学反応を行ってハニカム構造化させると共に重合して高分子化した後に用いる。高分子化により長鎖型アミノ酸は、水や有機溶剤に対して分散して膨潤する性質を備えたものとなる。これにより、上述したポリグルタミン酸と同様に、ビヒクル中に分散している粒子体を良好に捕捉する。捕捉は、粒子体をハニカム構造内に取り込んだり、吸着することにより行われる。
【0045】
長鎖型アミノ酸としては、L−バリン、L−フェニルアラニン、L−リシン酸、L−メチオニン、L−アスパラギン酸、L−イソロイシン、L−アラニン、L−アルギニン、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸−L−リジン複合体、L−セリンの内の一種又は複数種を組み合わせて用いることができる。また、これらの長鎖型アミノ酸の化学反応処理物と上述したポリグルタミン酸とを組み合わせて用いることができる。
【0046】
長鎖型アミノ酸の配合比は、反射粒子体及び蓄光粒子体に対して有効に作用する範囲内で設定される。この配合比は、上述したポリグルタミン酸と同様な範囲となる。
【0047】
多孔質の無機粉体は、粒子に多くの孔が形成された多孔質となっていることにより大きな嵩比重(嵩密度)を有している。従って、同じ粒径の真粒子に比べて極めて軽量な粒子となっており、ビヒクルに混合した場合には、自らがビヒクル内で良好に分散した状態となる。又、ビヒクル内で多孔質の無機粉体が分散することにより、ビヒクルの粘度を増大させるように作用する。これに加えて、ビヒクル内で分散している多孔質の無機粉体は、近くに存在する他の粒子を接近させてこれらが浮遊するように作用する。
【0048】
多孔質の無機粉体をビヒクルに混合して分散させることにより、多孔質の無機粉体は、膨潤している有機高分子の間やフリーの粒子体の間に入り込んで粒子体が均一に分散するように作用する。又、粒子体のビヒクル内での分散性が増大する。これにより、粒子体を捕捉している有機高分子やフリーの粒子体が沈殿することなく、ビヒクル内で均一に分散した状態を安定的に維持することができる。従って、ビヒクルよりも比重が大きな反射粒子体や蓄光粒子体を高濃度にビヒクルに配合しても、これらの粒子体がビヒクル内で均一に分散した状態となっており沈殿することがない。このような作用を行うための無機粉体の嵩比重としては、0.05〜0.4の範囲、より好ましくは0.05〜0.2の範囲が良好である。嵩比重が0.05未満の場合には、ビヒクルとの濡れ性が小さくなってビヒクルへの分散が難しくなり、0.4を超える場合には、上述した作用が極端に小さくなるためである。
【0049】
上述したハニカム構造の有機高分子を単独で用いる場合には、反射粒子体や蓄光粒子体をビヒクル内で均一に分散させることが難しいが、本発明では、ハニカム構造の有機高分子に加えて多孔質の無機粉体を併用し、多孔質の無機粉体を上述した粒子体だけでなく、粒子体を捕捉する有機高分子にも作用させている。このことにより、比重の大きな反射粒子体や蓄光粒子体であっても、さらにはこれらの粒子体が高濃度であっても、これらの粒子体のビヒクル内での分散状態を安定して継続できる。
【0050】
多孔質の無機粉体の配合比は、反射粒子体、蓄光粒子体に対して以上の作用を行う範囲で設定されるものであり、これらの粒子体100重量部に対し、0.1〜20重量部、より好ましくは、0.1〜10重量部の範囲で適宜選定される。
【0051】
本発明に用いる多孔質の無機粉体としては、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化亜鉛(ZnO)と銅(Cu)との混合物、白艶華、石炭灰等の内のいずれかの多孔質を選択でき、これらの多孔質の複数を組み合わせて用いることも可能である。白艶華は、膠質炭酸カルシウムの微粉末である。
【0052】
ビヒクルは、インキ又は塗料のベースを構成するための基材である。ビヒクルとしては、樹脂、溶媒、補助剤、その他の材料が用いられる。樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、PVC樹脂、その他の樹脂が適宜選択される。これらの樹脂は、水性、エマルジョンなどの形態で使用することもできる。溶媒は、樹脂の溶解、濡れの向上、乾燥性の向上、その他のために使用される。溶媒としては、水、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、その他の材料が選択される。補助剤は消泡剤、はじき防止剤、流動性調整剤、顔料分散剤、艶消し剤など適宜使用される。これらの材料は、インキ、塗料によって異なると共に、これらの水性、油性の種類によっても異なるものである。
【0053】
ビヒクルに対する粒子体の配合比は、蓄光粒子体の場合、ビヒクル100重量部に対して1〜65重量部、より好ましくは40〜60重量部である。1重量部未満では、蓄光粒子体の発光が肉眼で視認できなくなる一方、65重量部を超える場合には、ビヒクルの流動性が小さくなり、ベースシートへの塗布や印刷ができないためである。一方、反射粒子体の場合の配合比は、ビヒクル100重量部に対して1〜70重量部、より好ましくは40〜60重量部である。1重量部未満では、乱反射効果が小さくなって所定の標示ができない一方、70重量部を超える場合には、ビヒクルの流動性が小さくなり、ベースシートへの塗布や印刷ができないためである。
【0054】
本発明では、以上の配合物に加えて、紫外線硬化樹脂をさらに混合することができる。紫外線硬化樹脂は、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等のオリゴマーと、ラジカル反応基を有するモノマーと、光重合開始剤と、増感剤と、重合禁止剤、その他の配合剤とによって構成される。そして、紫外線を照射することにより短時間で硬化する。この紫外線硬化樹脂を反射性組成物及び/又は蓄光性組成物に配合することにより、ベースシートに塗布した後の紫外線照射によって、これらの組成物が短時間で硬化する。従って、反射粒子体や蓄光粒子体がビヒクル内で沈殿する前に硬化させることができると共に光標識部材を短時間で製造できる。なお、本発明では、反射性組成物及び蓄光性組成物に対して、他の顔料を混合して着色させても良い。
【0055】
以上の光標識部材では、反射層の反射粒子体を高濃度としても、反射粒子体が均一に分散し且つ分散性が増大するため、反射層では、入射した光を十分に乱反射させることができる。又、蓄光層の蓄光粒子体を高濃度としても、蓄光粒子体が均一に分散し且つ分散性が増大する。しかも、蓄光粒子体としてアルミン酸ストロンチウムを用いても、劣化や蓄光力の低下がない。従って、蓄光層では、入射光に基づく残光を十分な発光輝度で長時間発光させることができる。これらにより光標識部材は、昼夜及び明暗所を問わず、常に適切な標示を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態の光標識部材を示す正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】別の実施形態の光標識部材を示す正面図である。
【符号の説明】
【0057】
1,10 光標識部材
2 ベースシート
3 反射層
4 蓄光層
6 トップコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された反射性組成物からなる反射層と、
蓄光顔料の表面が高分子樹脂の被膜によってコーティングされた蓄光粒子体、液体との接触によって膨潤する性質を有したハニカム構造の有機高分子及び多孔質の無機粉体がビヒクルに混合された蓄光組成物からなる蓄光層とを備え、
前記反射層及び蓄光層がベースシート上に区分けされて設けられていることを特徴とする光標識部材。
【請求項2】
前記反射組成物及び/又は蓄光組成物に紫外線硬化樹脂が混合されていることを特徴とする請求項1記載の光標識部材。
【請求項3】
前記反射層及び蓄光層を含む領域が透明なトップコート層によって被覆されていることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項4】
前記蓄光顔料はアルミン酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項5】
前記ハニカム構造の有機高分子は、ポリグルタミン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項6】
前記ハニカム構造の有機高分子は、長鎖型アミノ酸を化学反応によって高分子化及びハニカム構造化した物質であることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項7】
前記多孔質の無機粉体は、嵩比重が0.05〜0.4の粉体であることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項8】
前記蓄光粒子体は、前記ビヒクル100重量部に対して1〜65重量部配合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項9】
前記反射粒子体は、前記ビヒクル100重量部に対して1〜70重量部配合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項10】
前記有機高分子は、前記蓄光粒子体又は反射粒子体100重量部に対して、0.001〜5重量部配合されることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。
【請求項11】
前記多孔質の無機粉体は、前記蓄光粒子体又は反射粒子体100重量部に対して、0.1〜20重量部配合されることを特徴とする請求項1又は2記載の光標識部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−2990(P2009−2990A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161184(P2007−161184)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(507204752)有限会社サンクスアート (1)
【出願人】(505416843)エム・アイ・エイ企画株式会社 (3)
【Fターム(参考)】