説明

光波長変換装置

【課題】入力信号光パワーのダイナミックレンジを拡大した光波長変換装置を提供する。
【解決手段】第1の半導体光増幅器と第2の半導体光増幅器からなる2つの半導体光増幅器が光導波路上に並列に配置されてなるマッハシェンダ干渉計を1つ以上搭載し、前記マッハシェンダ干渉計毎に、信号光を入射するために一端が前記マッハシェンダ干渉計に接続された透明導波路上に、信号光パワーの増幅及び減衰を行う第3の半導体光増幅器、および前記第3の半導体光増幅器よりも前記マッハシェンダ干渉計側に、信号光を透過させかつ前記第3の半導体光増幅器が増幅する他の光波長帯域の自然放出光を除去する光波長フィルタ素子を配置した光波長変換装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光波長変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全光ネットワークにおけるノードでの光波長変換装置として半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)を用いた光波長変換装置がある。従来の光波長変換装置はインジウムと燐(リン)の化合物結晶で形成された半導体基板上に形成され、第1のSOAと第2のSOA(5)が並列に配置され、透明導波路でそれらSOAが接続されることで干渉計が構成され、第1のSOAと接続される透明導波路上に電極を蒸着することで作製された第1の位相調整導波路、第2のSOAと接続される透明導波路上に電極を蒸着することで作製された第2の位相調整導波路、第1のSOAと透明導波路により接続された信号光入力端子、第1のSOAと第2のSOAに透明導波路により接続されたプローブ光入力端子、第1のSOAと第2のSOAに透明導波路により接続され、プローブ光入力端子の対極に位置する光出力端子を有する。プローブ光入力端子からプローブ光(CW)が入力され、信号光入力端子から信号光(ON−Off信号)が入力され、光出力端子より波長変換光が出射される(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
波長1550nm帯の信号光が信号光入力端子に入力されると透明導波路を進行し、第1のSOAに入力される。第1のSOAのバイアス電流を調整することにより、入力信号光は第1のSOAにおいて増幅作用を受けるが、同時にSOAのキャリア密度は入力信号光パワーの増減と同期し変調されるため、入力信号光に同期して第1のSOAにおける利得及び第1のSOAの屈折率も変調される。一方、信号光と光波長が異なるプローブ光がプローブ光入力端子より入力されると透明導波路上で分岐され、第1のSOAと第2のSOAに入力される。第1のSOAに入力されるプローブ光は第1のSOAにおいて信号光に同期した利得及び位相変調を受ける。一方、第2のSOAのバイアス電流を調整することにより、プローブ光は第2のSOAにおいて増幅作用を受ける。第1のSOAと第2のSOAを通過したプローブ光は干渉することにより位相変調から強度変調に変換され、プローブ光は波長変換光となり出力端子から出射する。出射する波長変換光は第1の位相調整導波路と第2の位相調整導波路によりプローブ光の位相差を調整することができ、高い消光比を得ることができる。理想的に位相だけを変化させることができる位相調整導波路ができれば、いずれか一方の位相調整導波路だけでよいが、実際には増減するキャリアにより導波路内の光損失が増減するため、両方に電流を流し位相差を調整することで、損失を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−224862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のようなSOAを用いた従来の波長変換器では、第1のSOAのキャリア密度変化を利用し、プローブ光の振幅及び位相を変調し、第1のSOAと第2のSOAを通過したプローブ光の干渉により位相変調を強度変調に変換するため、振幅、位相の両方のパラメータを最適化する必要があり、入力信号光のパワーが変動した場合、第1のSOAのキャリア密度が変動し、第1のSOAを通過するプローブ光の振幅、位相が変動するため、波長変換動作する入力信号光のパワー許容範囲が狭いという課題があった。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたもので、入力信号光パワーのダイナミックレンジを拡大した光波長変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、第1の半導体光増幅器と第2の半導体光増幅器からなる2つの半導体光増幅器が光導波路上に並列に配置されてなるマッハシェンダ干渉計を1つ以上搭載し、前記マッハシェンダ干渉計毎に、信号光を入射するために一端が前記マッハシェンダ干渉計に接続された透明導波路上に、信号光パワーの増幅及び減衰を行う第3の半導体光増幅器、および前記第3の半導体光増幅器よりも前記マッハシェンダ干渉計側に、信号光を透過させかつ前記第3の半導体光増幅器が増幅する他の光波長帯域の自然放出光を除去する光波長フィルタ素子を配置したことを特徴とする光波長変換装置にある。
【発明の効果】
【0008】
この発明では、入力信号光パワーのダイナミックレンジを拡大した光波長変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による光波長変換装置の構成図である。
【図2】図1の方向性結合部の一例の構造図である。
【図3】図1の方向性結合部の両側の透明導波路の信号光の伝搬の様子をビーム伝播法によりシミュレーションした結果を示す図である。
【図4】図1の方向性結合部における波長に対する結合効率を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2による光波長変換装置の構成図である。
【図6】この発明の実施の形態3による光波長変換装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明では、入力信号光のパワー許容範囲が狭いという課題を解消するために、第3のSOAを第1のSOAと信号光入力端子との間に配置する。信号光入力端子から第3のSOAに入力される入力信号光パワーは第3のSOAのキャリア密度を操作することで増幅及び吸収を行い、第1のSOAに入力される信号光パワーを一定に保つことで、入力信号光パワーのダイナミックレンジを拡大することができる。
【0011】
しかしながらこの場合、入力信号光パワーが小さいとき、第3のSOAにおいて入力信号光パワーを増幅させるが、入力信号光パワーの増幅と共に第3のSOAにおいて増幅された自然放出光(ASE:Amplified spontaneous emission)が発生するため、このASEがノイズとなり、S/N比が劣化し波長変換波形が劣化する問題がある。ASEは広い光波長帯域に渡り放射されるため、この点を解消するために、第3のSOAと第1のSOAの間に光波長フィルタを入れる。
【0012】
この発明では、第3のSOAと第1のSOAの間に光波長フィルタ機能を有する導波路構造を形成し、このフィルタ機能において信号光を効率よく透過させ、その他の広い光波長帯域に発生するASEを除去する。
【0013】
以下、この発明による光波長変換装置を各実施の形態に従って図面を用いて説明する。なお、各実施の形態において、同一もしくは相当部分は同一符号で示し、重複する説明は省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による光波長変換装置の構成図である。半導体基板上に各素子が形成される光波長変換装置は、信号光を入力する信号光入力端子1とプローブ光を入力するプローブ光入力端子2及び、波長変換された光を出力する光出力端子3を有している。プローブ光入力端子2は第1のSOA4および第2のSOA5と、途中で2つに分岐したY字型の透明導波路により接続されている。Y字型の透明導波路の透明導波路8と透明導波路12により第1のSOA4の一端とプローブ光入力端子2が接続され、透明導波路8と透明導波路13により第2のSOA5の一端とプローブ光入力端子2が接続されている。
【0015】
同様に光出力端子3は第1のSOA4および第2のSOA5と途中で2つに分岐したY字型の透明導波路により接続されている。Y字型の透明導波路の、透明導波路の一部に電極を蒸着することで製作された第1の位相調整導波路17を有する透明導波路14と透明導波路16により第1のSOA4の他端と光出力端子3が接続され、透明導波路の一部に電極を蒸着することで製作された第2の位相調整導波路18を有する透明導波路15と透明導波路16により第2のSOA5の他端と光出力端子3が接続されている。
【0016】
従って、透明導波路8、透明導波路12、透明導波路13、第1のSOA4、第2のSOA5と、透明導波路14、透明導波路15および透明導波路16でマッハシェンダ干渉計(MZI:Mach-Zehnder Interferometer)を構築し、そのうち透明導波路8,12,13,14,15,16が光導波路を構成している。
【0017】
信号光入力端子1と第3のSOA7の一端は透明導波路6により接続されており、また、方向性結合部10において、第3のSOA7の他端に接続された透明導波路9を伝搬する信号光が透明導波路11に結合するように構成されており、透明導波路11は透明導波路12と接続されている。
【0018】
次に動作について説明する。光波長1550nmの入力信号光が信号光入力端子1に入射されると、透明導波路6を通過して第3のSOA7に入射する。第3のSOA7のバイアス電流を調整することで、第3のSOA7のキャリア密度が変化し、第3のSOA7において信号光の増幅及び減衰が行われる。第3のSOA7を通過した信号光は方向性結合部10において、透明導波路9から透明導波路11に結合し、信号光以外のASE光は方向性結合部10において減衰する。第1のSOA4のバイアス電流を調整することで、第3のSOA7を通過した信号光が透明導波路11から透明導波路12に進行し、第1のSOA4に入射したとき、入力信号光のパワーの増減に同期し信号光の利得及び第1のSOA4の屈折率が変化する。
【0019】
光波長1553nmのような信号光とは異なるプローブ光がプローブ光入力端子2より入射されると、透明導波路8を進行し途中、透明導波路12と透明導波路13に分岐し進行する。透明導波路12を進行し、第1のSOA4に入射されたプローブ光は第1のSOA4により増幅及び位相変調を受ける。第2のSOA5のバイアス電流を調整することで、透明導波路13を進行し、第2のSOA5に入射するプローブ光は増幅される。第2のSOA5を通過し透明導波路15を進行するプローブ光と第1のSOA4を通過して透明導波路14を進行するプローブ光は透明導波路16で干渉する。この干渉効果により、プローブ光は位相変調から強度変調に変換され波長変換光として光出力端子3から出射される。
【0020】
MZIの両アームで発生するプローブ光の位相差を調整する目的で第1の位相調整導波路17と第2の位相調整導波路18が設けられており、それら位相調整導波路のバイアス電流を調整することで、大きな消光比を得ることができる。理想的に位相だけを変化させることができる位相調整導波路ができれば、いずれか一方の位相調整導波路だけでよいが、実際には増減するキャリアにより導波路内の光損失が増減するため、両方に電流を流し位相差を調整することで、損失を抑制することができる。
【0021】
この発明では、第3のSOA7において発生するASEを方向性結合部10で減衰させ、信号光のみを透過させるものであり、透明導波路9を進行する信号光を効率良く透明導波路11に結合させ、信号光波長以外の広い帯域で発生するASEの透明導波路9から透明導波路11への結合損失を発生させ減衰さるものである。
【0022】
図2に方向性結合部10の一例の構造図を示す。導波路の幅、高さ及び導波路間隔は波長1550nmの信号光が透明導波路内をシングルモード伝搬し、透明導波路9から透明導波路11に結合するように幅0.75μm、高さ0.25μm、導波路間隔1.5μmとしている。
【0023】
透明導波路9及び透明導波路11の信号光の伝搬の様子をビーム伝播法(BPM:Beam Propagation Method)によりシミュレーションした結果を図3に示す。図3の横軸は伝播距離、縦軸は伝播垂直方向位置を示す。信号光は透明導波路9と透明導波路11間を往復しながら進行する。そのため、透明導波路9と透明導波路11の干渉長Lを選択することで、透明導波路9から透明導波路11への信号光の結合効率を選択することができる。
【0024】
図4に方向性結合部10における波長に対する結合効率を示す。図4は透明導波路9から透明導波路11に信号光が効率よく結合し、ASEの結合を抑制することができる干渉長Lを617.7μmとしたときの計算結果であり、信号光波長1550nmから波長がずれることで結合損失が大きくなるため、ASEのような広帯域な波長を含む光は方向性結合部10において減衰することになる。
【0025】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2による光波長変換装置の構成図である。図5の光波長変換装置は、図1の実施の形態1の光波長変換装置における方向性結合部10を、多モード干渉カプラ19に置換えたものである。第3のSOA7において発生するASEを多モード干渉カプラ19により減衰させ、信号光のみ透明導波路11に結像させるものである。光波長及び多モード干渉カプラ19の導波路幅に依存して多モード干渉カプラ内では高次モードが発生する。信号光波長1550nmにおいて多モード干渉カプラ19の長さを0次モード(モードの重ね合わせ)の像が励起される長さとすることで、透明導波路11に最もよく結合する。波長に対し励起されるモードが変わり、結像する位置も変化するため、第3のSOA7において発生する広帯域な光波長を持つASEは多モード干渉カプラ19において減衰し、信号光のみ透明導波路11に効率よく結合する。
【0026】
実施の形態3.
図6はこの発明の実施の形態3による光波長変換装置の構成図である。図6の光波長変換装置は、図1の実施の形態1の光波長変換装置における方向性結合部10を、グレーティング部20に置換えたものである。第3のSOA7において発生するASEをグレーティング部20により減衰させ、信号光のみグレーティング部20を通過させるものである。グレーティング部20は導波路の等価屈折率とグレーティング周期に依存し逆方向結合(反射)する波長が決定し、反射波長は2Λnで求めることがでる。ここで、Λは周期、nは導波路内の等価屈折率である。例えば、屈折率を3.2とし、周期を481nmとすると、反射波長は1540nmとなる。周期Λを変化させることで反射波長帯域を広げることができる。従って、信号光波長1550nmを透過させ、第3のSOA7において発生する広帯域な光波長を持つASEを減衰させることができる。
【0027】
なお、上記各実施の形態では半導体基板上に1つの光波長変換装置を形成した場合について説明したが、一つの半導体基板上にそれぞれ同一の構成の複数の光波長変換装置を形成してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 信号光入力端子、2 プローブ光入力端子、3 光出力端子、4 第1のSOA、5 第1のSOA、6,8,9,11〜16 透明導波路、7 第3のSOA、10 方向性結合部、17 第1の位相調整導波路、18 第2の位相調整導波路、19 多モード干渉カプラ、20 グレーティング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体光増幅器と第2の半導体光増幅器からなる2つの半導体光増幅器が光導波路上に並列に配置されてなるマッハシェンダ干渉計を1つ以上搭載し、前記マッハシェンダ干渉計毎に、信号光を入射するために一端が前記マッハシェンダ干渉計に接続された透明導波路上に、信号光パワーの増幅及び減衰を行う第3の半導体光増幅器、および前記第3の半導体光増幅器よりも前記マッハシェンダ干渉計側に、信号光を透過させかつ前記第3の半導体光増幅器が増幅する他の光波長帯域の自然放出光を除去する光波長フィルタ素子を配置したことを特徴とする光波長変換装置。
【請求項2】
光波長フィルタ素子が方向性結合器からなることを特徴とする請求項1に記載の光波長変換装置。
【請求項3】
光波長フィルタ素子が多モード干渉カプラからなることを特徴とする請求項1に記載の光波長変換装置。
【請求項4】
光波長フィルタ素子が透明導波路上に形成されたレーティング部からなることを特徴とする請求項1に記載の光波長変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−247911(P2011−247911A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117654(P2010−117654)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】