説明

光波長多重化伝送システム

【課題】40Gbpsの位相変調光信号と10Gbps又はそれ以下の強度変調光信号とを波長多重化して伝送する光波長多重化伝送システムに関し、非線形光学効果による影響を緩和する。
【解決手段】伝送速度が高速の位相変調光信号と、この位相変調光信号より伝送速度が低速の強度変調光信号とを波長多重化して光伝送路により伝送する光波長多重化伝送システムであって、波長多重化光信号を波長対応に分波する分波器3と、波長対応の光減衰器6−1〜6−nと、波長対応の光信号が、高速の位相変調光信号であるか又は強度変調光信号であるかにより、位相変調光信号の光強度に比較して強度変調光信号の光強度を低減するように、光減衰器6−1〜6−nを制御し、光減衰器6−1〜6−nを介して出力される光信号を合波器7により合波した波長多重化光信号を光伝送路に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれ異なる波長の強度変調した光信号と位相変調した光信号とを多重化して高速大容量伝送を行う光波長多重化伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
データ伝送速度が10Gbps程度以下の場合、送信データにより光信号を強度変調して光伝送路により伝送する場合が一般的であり、又複数系列の送信データについては、それぞれ異なる波長の光信号を強度変調して多重化して伝送する光波長多重化伝送方式が適用されている。又データ伝送速度が40Gbps程度の高速伝送を行う場合、RZ−DQPSK(Return to Zero−Differential Quadrature Phase Shift Keying)方式や、NRZ−DPSK(Non Return to Zero Differential Phese Shift Keying)方式等の位相変調方式が適用されている。
【0003】
光伝送路を構成する光ファイバは、非線形光学効果を有することにより、長距離伝送の場合の波形劣化が問題となる。この非線形光学効果として、自己位相変調効果、相互位相変調効果、4光波混合効果等が知られている。自己位相変調効果は、光信号の強度に依存して、光ファイバの屈折率が変化し、光信号の位相変化が生じる現象であり、相互位相変調効果は、異なる波長の光信号が同時に同一方向に伝送された場合に、一方の光信号の強度が、他方の光信号の強度に依存した位相変化を受ける現象である。又4光波混合効果は、波長が異なる光信号を同一方向に伝送する場合に、それぞれの波長差に相当する光信号成分が生じる現象である。何れも長距離高速伝送に於けるS/N劣化の原因となる。
【0004】
又伝送速度が2.5Gbpsの強度変調による光信号と、10Gbpsの強度変調による光信号とを波長多重化して伝送する場合、それぞれの送信光信号レベルを同一とすると、10Gbpsの光信号のS/Nが劣化する。そこで、高速の10Gbpsの光信号のS/N劣化を避ける為に、送信光強度を増加すると、非線形光学効果が大きくなって、何れの伝送速度の光信号もその伝送特性が劣化する。このような伝送特性の劣化を回避する為に、伝送速度が1:nの場合、低速の光信号の送信光強度を、高速の光信号の送信光強度の1/nとして伝送する光波長多重化伝送を行うシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3769172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
データ伝送速度が10Gbps又はそれ以下のデータ伝送速度の光信号は、従来、前述のように、強度変調と光波長多重化とを適用した光波長多重化伝送システムを構成しているものであるが、このような伝送システムを利用し、位相変調方式により光信号を変調した前述の40Gbpsの伝送速度の光信号を波長多重化して伝送する伝送システムが考えられている。即ち、既設の光伝送路を利用して、位相変調方式による40Gbpsの光信号を波長多重化により伝送し、経済的に高速大容量通信を可能とするシステムが考えられている。
【0007】
しかし、非線形光学効果の特に相互位相変調効果により、位相変調方式を適用した40Gbpsの光信号に対して、強度変調方式を適用した10Gbps又はそれ以下の伝送速度の光信号の強度が大きく影響を与えるもので、40Gbpsの伝送速度の光信号の位相変調特性が大きく劣化し、S/N低下が大きくなる問題がある。この場合、10Gbpsの光信号波長と、40Gbpsの光信号波長との波長間隔を広くすれば、位相変調方式の40Gbpsの光信号に対する強度変調方式の10Gbpsの光信号強度による影響を低減することが可能である。しかし、10Gbpsの光信号に割当てる光波長群と、40Gbpsの光信号に割当てる光波長群との波長間隔を広くすることは、不使用波長数が多くなって、光信号の波長帯域の有効利用を図ることができなくなる問題がある。更に、10Gbpsの光信号に対する光信号波長の割当てと、40Gbpsの光信号に対する光信号波長の割当てとを予め設定する必要が生じ、光信号波長の割当制限の問題がある。従って、相互位相変調効果の影響を受けないように、強度変調方式の光信号と位相変調方式の光信号とを別個の光伝送路により伝送することになるが、この場合は、二重の光伝送路を敷設することになり、コストアップとなる問題がある。
【0008】
又前記特許文献1には、光信号を同一の強度変調方式により変調して光波長多重化伝送する場合の10Gbps以下の伝送速度の相違に基づく問題点とその解決手段とを示すものであるが、10Gbps以下の伝送速度の強度変調方式により変調した光信号に、40Gbpsの高速の位相変調方式により変調した光信号を波長多重化して、同一の光伝送路により伝送を行う場合の問題点並びにその解決手段については、全く示唆されていない。
【0009】
本発明は、前述の問題点を解決するもので、任意の光波長を選択して強度変調方式による10Gbps又それ以下の伝送速度の光信号と、位相変調方式による40Gbpsの伝送速度の光信号とを光波長多重化方式に従って多重化伝送し、且つ両変調方式の光信号の伝送品質を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光波長多重化伝送システムは、伝送速度が高速の位相変調光信号と、この位相変調光信号より伝送速度が低速の強度変調光信号とを波長多重化して光伝送路により伝送する光波長多重化伝送システムであって、波長多重化光信号を波長対応に分波する分波器と、波長対応の光減衰器と、波長対応の光信号が、高速の位相変調光信号であるか又は強度変調光信号であるかの情報を基に、位相変調光信号の光強度より強度変調光信号の光強度を低減するように、光減衰器を制御する制御部と、光減衰器を介して出力される光信号を合波して波長多重化光信号として出力する合波器とを含む構成を備えている。
【0011】
又波長多重化光信号に重畳して伝送された波長対応の位相変調光信号であるか又は強度変調光信号であるかの情報を受信分離し、この受信分離した情報に基づいて位相変調光信号の光強度より強度変調光信号の光強度を低減するように、光減衰器を制御する制御部を備えている。
【0012】
又分波器により波長対応に分波された光信号が、位相変調光信号であるか又は強度変調光信号であるかを判定する判定部と、この判定部によって判定した位相変調光信号の光強度より、強度変調光信号の光強度を低減するように、光減衰器を制御する制御部を備えている。
【0013】
又判定部は、光フィルタの入力側と出力側との光信号のレベルを検出してレベル比較し、レベル差が所定値以下の時に強度変調光信号と判定し、レベル差が前記所定値を超える大きい値の時に位相変調光信号と判定する比較判定手段を備えている。
【発明の効果】
【0014】
位相変調光信号は、40Gbpsの伝送速度で伝送し、強度変調光信号は、10Gbpsの伝送速度又はそれ以下の伝送速度で伝送する為の変調方式に従ったものであり、位相変調光信号の送信レベルに比較して、強度変調光信号の送信レベルを、光減衰器により低減して、波長多重化により伝送することにより、同一の光伝送路により波長多重化によって伝送する場合の相互位相変調効果による位相変調光信号の特性劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1の説明図である。
【図2】本発明の実施例2の説明図である。
【図3】本発明の実施例2の伝送速度判定部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光波長多重化伝送システムは、伝送速度が高速の位相変調光信号と、この位相変調光信号より伝送速度が低速の強度変調光信号とを波長多重化して光伝送路により伝送する光波長多重化伝送システムであって、波長多重化光信号を波長対応に分波する分波器3と、波長対応の光減衰器6−1〜6−nと、波長対応の光信号が、高速の位相変調光信号であるか又は強度変調光信号であるかの情報を基に、位相変調光信号の光強度より強度変調光信号の光強度を低減するように、光減衰器6−1〜6−nを制御する制御部と、光減衰器6−1〜6−nを介して出力される光信号を合波して波長多重化光信号として出力する合波器7とを含む構成を備えている。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1の説明図であり、1,9は制御信号としてのOSC(Optical Supervisor Channel)信号の送受信を行う信号処理部、2,8は光増幅器、3は光波長λ1〜λnに分波する分波器、4−1〜4−nは光信号のドロップ・インサート又はスルーの状態に切替える光スイッチ回路(2×2SW)、5−1〜5−nは光信号の復調及び変調手段を含む光送受信機、6−1〜6−nは光減衰器、7は波長λ1〜λnの光信号を合波する合波器、9はOSC信号の送受信を行う信号処理部、10は制御処理部、11は分波器、12は合波器を示し、送信光信号の挿入及び受信光信号の分離(OADM;Optical Add/Drop Multiplexer)の機能を有する光波長多重化伝送システムの中継装置の要部を示す。この中継装置は、例えば、リング状の光伝送路により順次複数接続し、各中継装置に接続した光送受信機間の光信号による送受信を行い、且つ各光送受信機間の光信号を波長多重化して中継伝送するシステムを構成するものである。
【0018】
受信側の信号処理部1は、分波器11により分波されたOSC(Optical Supervisor Channel)信号による光波長多重化信号の波長対応の変調方式や伝送速度の情報を制御処理部10へ転送し、制御処理部10は、波長対応の変調方式や伝送速度の情報をメモリ(図示を省略)に保持し、それらの変更に従ってメモリ内容も更新する。又OSC信号を分波器11により分波した後の光波長多重化信号を、光増幅器2により増幅し、分波器3により波長λ1〜λn対応に分波する。制御処理部10は、信号処理部1からのOSC信号による情報を基に、波長λ1〜λn対応の光信号をドロップするかスルーするかを識別し、スルーの場合は、光スイッチをスルー状態に切替え、ドロップの場合は、光スイッチをドロップ・インサートの状態に切替え、光スイッチによりドロップした光信号を光送受信機へ転送し、又その光送受信機からの光信号をインサートして、光減衰器6−1〜6−n側へ転送する。
【0019】
又制御処理部10は、波長λ1〜λn対応の光信号の10Gbpsや40Gbpsの伝送速度、強度変調信号か位相変調信号かの変調方式を示す情報を信号処理部1により受信し、その情報に対応して、光減衰器6−1〜6−nの減衰量を、図示を省略した制御径路を介して制御する場合を示す。そして、合波器7により波長λ1〜λnの光信号を合波し、光増幅器8により増幅し、信号処理部10からの制御に従った信号処理部9から次の中継装置に通知する波長対応の変調方式や伝送速度の情報をOSC信号として、合波器12により合波して送出する。
【0020】
伝送速度と変調方式とについて、40Gbpsの位相変調信号に対して、10Gbpsの強度変調信号の光強度を、6dB程度低くしても、同一の伝送距離を同等の特性で伝送可能である。そこで、光減衰器6−1〜6−nを、制御処理部10に於いて認識した波長λ1〜λn対応の変調方式即ち伝送速度に従って制御するもので、40Gbpsの位相変調信号に対して、10Gbpsの強度変調信号を6dB程度減衰させる。それにより、10Gbpsの光信号と40Gbpsの光信号とを同程度のS/N耐力で伝送可能となる。この場合、n個の波長λ1〜λnの中の任意の波長の所要数を、位相変調方式による伝送速度40Gbpsの伝送用に割当て、他の波長を、強度変調方式による伝送速度10Gbps又はそれ以下の伝送用に割当てることができる。
【実施例2】
【0021】
図2は、本発明の実施例2の説明図であり、図1と同一符号は同一名称部分を示し、21は伝送速度判定部、22は制御部を示す。この実施例2は、中継装置間で、OSC信号等による波長対応の伝送速度や変調方式の情報を伝送することなく、伝送速度判定部21により波長λ1〜λn対応の光信号の伝送速度を判定し、その判定結果に応じて、制御部22により、各光減衰器6−1〜6−nの減衰量を制御する。即ち、伝送速度40Gbpsの位相変調方式による光信号に対して、10Gbps程度以下の強度変調方式による光信号を6dB程度減衰させるように制御する。それにより、それぞれの伝送速度の光信号を同程度のS/N耐力で伝送することができる。
【0022】
又伝送速度判定部21は、波長λ1〜λn対応の伝送速度の判定手段を備えた構成として、波長λ1〜λn対応の伝送速度の情報を制御部22に通知する。この場合の伝送速度が40Gbpsであれば、位相変調光信号であり、又10Gbps又はそれ以下の伝送速度であれば、強度変調光信号である。又伝送速度の変更が頻繁に発生しない場合は、伝送速度判定部21に於いて時分割的に波長λ1〜λn対応の伝送速度を判定し、その結果を制御部22に通知し、制御部22内のメモリ(図示を省略)に記憶させ、伝送速度変更を検出した場合は、そのメモリ内容を更新し、メモリ内容に応じて光減衰器6−1〜6−nの減衰量を制御する構成とすることも可能である。
【0023】
図3は、伝送速度判定部の説明図であり、31は分岐部(CPL)、32はフィルタ、33,35は光検出部(PD;Phot Diode)、35は光強度検出器を示す。フィルタ32に入力される光信号を光検出部33により検出し、フィルタ32を介して出力される光信号を光検出部34により検出し、光強度検出器35により比較する。40Gbpsの位相変調信号のスペクトルは、10Gbpsの強度変調信号のスペクトルに比較して広がっているものであり、フィルタ32の通過特性を10Gbpsの強度変調信号のスペクトルについては、殆ど通過可能とすると、40Gbpsの位相変調信号のスペクトルは広がっているので、フィルタ32の入出力レベル差が大きくなる。光強度検出器35は、このような入出力レベル差の大小関係を光強度検出器35により判定する。即ち、入出力レベル差が大きい場合は、40Gbpsの伝送速度の位相変調光信号、入出力レベル差が小さい場合は、10Gbps又はそれ以下の伝送速度の強度変調光信号と判定することができる。このような伝送速度の判定結果に従って、制御部22(図2参照)により、波長λ1〜λn対応の光減衰器6−1〜6−nの減衰量を制御する。即ち、40Gbpsの伝送速度の位相変調光信号を入力する光減衰器に比較して、10Gbps又はそれ以下の伝送速度の強度変調光信号を入力する光減衰器による減衰量を、例えば、前述のように、6dB程度減衰させるように制御する。それにより、40Gbpsの位相変調光信号が、10Gbps又はそれ以下の伝送速度の強度変調光信号により受ける伝送特性劣化を回避することが可能となる。
【符号の説明】
【0024】
1,9 信号処理部
2,8 光増幅器
3 分波器
4−1〜4−n 光スイッチ回路
5−1〜5−n 光送受信機
6−1〜6−n 光減衰器
7 合波器
10 制御処理部
11 分波器
12 合波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送速度が高速の位相変調光信号と該位相変調光信号より伝送速度が低速の強度変調光信号とを波長多重化して光伝送路により伝送する光波長多重化伝送システムに於いて、
波長多重化光信号を波長対応に分波する分波器と、
波長対応の光減衰器と、
前記波長対応の前記高速の位相変調光信号であるか又は前記強度変調光信号であるかの情報を基に、前記位相変調光信号の光強度より前記強度変調光信号の光強度を低減するように前記光減衰器を制御する制御部と、
前記光減衰器を介して出力される光信号を合波して波長多重化光信号として出力する合波器と
を備えたことを特徴とする光波長多重化伝送システム。
【請求項2】
前記波長多重化光信号に重畳して伝送された前記波長対応の前記位相変調光信号であるか又は前記強度変調光信号であるかの情報を受信分離し、該情報に基づいて前記位相変調光信号の光強度より前記強度変調光信号の光強度を低減するように前記光減衰器を制御する制御部を備えたことを特徴とする請求項1記載の光波長多重化伝送システム。
【請求項3】
前記分波器により波長対応に分波された光信号が前記位相変調光信号であるか前記強度変調光信号であるかを判定する判定部と、該判定部によって判定した位相変調光信号の光強度より前記強度変調光信号の光強度を低減するように前記光減衰器を制御する制御部を備えたことを特徴とする請求項1記載の光波長多重化伝送システム。
【請求項4】
前記判定部は、光フィルタの入力側と出力側との光信号のレベルを検出してレベル比較し、レベル差が所定値以下の時に強度変調光信号と判定し、前記レベル差が前記所定値を超える大きい値の時に位相変調光信号と判定する比較判定手段を有することを特徴とする前記請求項3記載の光波長多重化伝送システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−278592(P2010−278592A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127181(P2009−127181)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000237662)富士通テレコムネットワークス株式会社 (682)
【Fターム(参考)】