説明

光海底ケーブル及びその製造方法

【課題】製造コストのかかる接着層を用いず導体層−絶縁層間の密着性を向上させ、光海底ケーブル製造の低コスト化が図れる新規な光海底ケーブル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバから構成される光ユニット2と、光ユニット2を被覆し外圧から保護する耐圧層4と、耐圧層4を被覆する電力供給用の導体層5と、導体層5を被覆する絶縁層6からなる光海底ケーブル1において、導体層5の外周面に凹凸部8aを形成することを特徴とする光海底ケーブルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光海底ケーブル、特に電力供給用の導体を内部構造として持つ光海底ケーブル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底に敷設される光海底ケーブルは高水圧環境にさらされるだけでなく、ケーブル外層を損傷させる外的要因や、敷設あるいは交換作業時の牽引によりケーブル長手方向に発生する高張力などにさらされることから、信頼性の高い構造が要求される。
【0003】
従来から光海底ケーブルの構造に関して様々な工夫がなされており、その構造は主として、光ファイバを内包し光通信を行う光ユニットと、光ユニットを水圧や張力などの外力から保護する耐圧層と、光海底ケーブルの状態を監視・保守する中継器へ電力を供給する導体層と、これら内部構造を外界から絶縁・保護する絶縁層からなる。
【0004】
浅海部に敷設される光海底ケーブルには、投錨や海洋生物からの損傷を回避するために、絶縁層の外側に高強度の保護層を設ける場合があるが、深海部に敷設される光海底ケーブルでは保護層を設けないことから、最外層となる絶縁層そのものにも、ある程度の強度が求められる。
【0005】
しかしながら高密度ポリエチレンなどの高強度絶縁材料は、耐圧層や導体層に用いられる金属材料との親和性が低く密着性に劣るため、金属層を直接に絶縁層で被覆する構造では、絶縁層−金属層界面に外力が作用すると、層間はく離(界面はく離)などの内部欠陥が光海底ケーブルに発生する懸念がある。
【0006】
そこで従来では、内部構造と絶縁層との間に接着層を設け、内部構造と絶縁層との密着性を高める構造が採用されてきた。
【0007】
図4(a)、(b)に示すように、従来の光海底ケーブル21の構造は、ケーブルの中心から順に光ユニット22、耐圧層24、導体層25、接着層26、絶縁層27からなる。
【0008】
光ユニット22はその内部に、光信号の送受信を行う一本以上の光ファイバを配置しており、その光ユニット22の外周は、水圧などの外圧から保護する目的で、鋼線などの高強度線材23からなる耐圧層24により被覆される構成となっている。
【0009】
さらに耐圧層24の外周には、光海底ケーブルの中継器への電力供給を目的とし、銅などの金属条で形成した導体層25を配している。
【0010】
導体層25の外周には、最外層となる絶縁層27との密着性を高める目的で、接着性ポリエチレンやエチレン共重合体などの接着コンパウンドを塗布して接着層26が形成される。
【0011】
すなわち、導体層25の外周は接着層26を介し、高密度ポリエチレンなどの絶縁体からなる絶縁層27により被覆され、導体層25が外界から絶縁される。
【0012】
従来の光海底ケーブル21の製造方法においては、光ユニット22の外周に耐圧層24と導体層25を形成した後、導体層25の表面洗浄を経て、その外側に接着層26と絶縁層27が図示しない押出ダイスによって一体的に形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述の接着層26は、導体層25と絶縁層27の密着性の向上のために設けられるが、接着層26の材料である接着コンパウンドは押出加工の際に用いられる金属製の押出ダイスとも親和性及び密着性が高く、押出加工後にはダイスの洗浄作業が必要不可欠となり、コンパウンド自身の費用とあわせて、光海底ケーブルの製造コストを押し上げている。
【0014】
一方、製造コストを下げるために接着層26を用いず光海底ケーブルを製造する場合、導体層−絶縁層間の密着性が低下し、層間はく離などの内部欠陥が形成されやすく、例えば事故などによりケーブルの1点で絶縁層27が外傷を受けた際に、外傷部より海水が浸水する。この場合、層間はく離などの空気層を介して高圧の海水がケーブル長手方向に移動し、被害部分が拡大する恐れがあることから、導体層−絶縁層間の密着性を十分に向上させる必要がある。
【0015】
本発明はこの課題を解決するために案出されたものであり、製造コストのかかる接着層を用いず導体層−絶縁層間の密着性を向上させ、光海底ケーブル製造の低コスト化が図れる新規な光海底ケーブル及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、光ファイバから構成される光ユニットと、前記光ユニットを被覆し外圧から保護する耐圧層と、前記耐圧層を被覆する電力供給用の導体層と、前記導体層を被覆する絶縁層からなる光海底ケーブルにおいて、前記導体層の外周面に凹凸部を形成することを特徴とする光海底ケーブルである。
【0017】
請求項2の発明は、光ファイバから構成される光ユニットと、前記光ユニットを被覆し外圧から保護する耐圧層と、前記耐圧層を被覆する電力供給用の導体層と、前記導体層を被覆する絶縁層からなる光海底ケーブルの製造方法において、前記導体層の外周面に凹凸部を形成し、その導体層上に直接絶縁層を形成することを特徴とする光海底ケーブルの製造方法である。
【0018】
請求項3の発明は、前記導体層の外周面にラセン状あるいはリング状の溝を形成し、前記導体層の外周面に凹凸部を形成する請求項2に記載の光海底ケーブルの製造方法である。
【0019】
請求項4の発明は、前記溝が、切削加工により形成される請求項3に記載の光海底ケーブルの製造方法である。
【0020】
請求項5の発明は、前記導体層の外周面を粗面化し、前記導体層の外周面に凹凸部を形成する請求項2に記載の光海底ケーブルの製造方法である。
【0021】
請求項6の発明は、前記導体層の外周面が、化学溶剤により粗面化される請求項5に記載の光海底ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光海底ケーブルおよびその製造方法によれば、導体層の外周面に凹凸部を形成することで、製造コストのかかる接着層を用いず導体層−絶縁層間の密着性を向上させ、光海底ケーブル製造の低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態を示す断面図および斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態を示す全体図および断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す全体図である。
【図4】従来の光海底ケーブルの構造を示す断面図および斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る光海底ケーブル1の構造は、ケーブルの中心に光通信を行うための光ユニット2を配し、光ユニット2の外周には、水圧などの外圧と、敷設・交換作業時の高張力とから光ユニット2を保護するための耐圧層4が形成される。
【0026】
耐圧層4は、鋼などの高強度金属からなる高強度線材3が、光ユニット2外周に撚り巻きされるようにして構成され、耐圧層4の外周はさらに、銅などの高導電性金属からなる導体層5により被覆される。
【0027】
導体層5の外周には、導体層5を直接に被覆する絶縁層6との密着性を向上させるための凹凸部8aが形成される。
【0028】
図2には、導体層5外周と、導体層5外周に形成される溝7とからなる凹凸部8aを形成する例を示す。
【0029】
図2(a)に示すように、光ユニット2と、耐圧層4と、導体層5までが形成された製造途中のケーブル9は、その表面を洗浄する工程の前段階で、溝7を形成するための加工工具10が装着される。
【0030】
図2(b)に示すように、加工工具10は導体層切削用の切削刃13を備えており、切削刃13を導体層5に押し当てながら、加工工具10をケーブル円周方向11に回転させることで導体層5外周が切削加工され、導体層5外周にリング状の溝7が形成される。
【0031】
溝7を形成されたケーブル9は、加工工具10を脱着させた後、所定の長さだけケーブル長手方向12へ移動され、再び加工工具10による切削加工を受けるようにされる。
【0032】
この工程を繰り返すことにより、導体層5外周には所定の間隔で溝7が設けられ、凹凸部8aが形成されることになる。
【0033】
溝7の形状は、ケーブル長手方向12に対して垂直にされることで、導体層5と絶縁層6の密着性を最も向上させるが、ケーブル長手方向12と垂直でない角度の溝とされてもよい。また、製造効率の観点から、加工工具10を回転させる際に、ケーブルを長手方向12に同時に移動させることで、ラセン状の溝を連続的に形成するようにしてもよい。さらには溝を非連続形状としてもよい。
【0034】
凹凸部8aの寸法および形状は、導体層5の電気的な機能、例えば電気抵抗やコロナ特性などに影響を与えない範囲で適宜決定される。
【0035】
本発明は凹凸部の形成を、導体層5外周に設けられる溝7に限定するものではなく、後述のように、ケーブル9の導体層5外周を粗面化することで、凹凸部8bが形成されるようにしてもよい。
【0036】
ケーブル9の導体層5外周を粗面化し、凹凸部8bを形成する例について図3に示す。
【0037】
ケーブル9は、導体層5を化学的に処理できる化学溶剤14で満たされた水槽15に浸漬される。化学溶剤14は導体層5外周を局所溶解させることで導体層5外周に粗面16を形成し、導体層5外周に粗面16からなる凹凸部8bが形成される。
【0038】
この際、ケーブル9を水槽15へ連続的に供給し、かつ水槽15に浸漬させたケーブル9が水槽15から連続的に排出されるようにすることで、すなわちケーブル9が水槽15を介してケーブル移動方向17へ連続的に移動するようにされることで、導体層5外周への凹凸部8bの形成を連続的に行うことが可能となる。
【0039】
導体層5が銅あるいは銅合金からなる場合、塩化第二鉄からなる化学溶剤14を使用することが好ましい。
【0040】
以上のような方法で導体層5外周に凹凸部8a、bが形成されたケーブル9は、導体層5外周に残存する金属屑や化学溶剤などの汚染を洗浄された後、押出加工により直接に絶縁層6で被覆され、光海底ケーブル1が製造される。
【0041】
本発明の光海底ケーブル1においては、導体層5表面に凹凸部8a、bが形成されることにより、導体層5−絶縁層6間の密着強度と接触面積が増加し、従来の光海底ケーブル21に用いられた接着層26を形成せずとも、層間はく離などの内部欠陥の発生を抑制できる。
【0042】
また、接着層26を用いず導体層5−絶縁層6間の密着性を向上させることができるため、接着層26自身のコストと、接着層26の形成にともなう押出ダイスの洗浄作業が不要となり、光海底ケーブルの製造コストを大幅に減ずることができる。
【0043】
本発明は溝7の形成手段を上述の実施形態に限るものではなく、例えば切削刃13にて溝7を形成する際に、加工工具10に複数の切削刃13を設け、複数の溝7が一度に形成されるようにしてもよい。また、切削刃13に換えて押圧ローラを設け、押圧加工による溝を形成するようにしてもよい。
【0044】
また本発明は、導体層5外周を粗面化する手段を、塩化第二鉄からなる化学溶剤14による腐食処理に限るものではない。例えば、塩化第二鉄による局所溶解ではなく、腐食生成物の局所析出を利用してもよい。あるいは、化学的手段ではなく、ブラスト加工などの物理的手段を用いてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 光海底ケーブル
2 光ユニット
3 高強度線材
4 耐圧層
5 導体層
6 絶縁層
7 溝
8a 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバから構成される光ユニットと、前記光ユニットを被覆し外圧から保護する耐圧層と、前記耐圧層を被覆する電力供給用の導体層と、前記導体層を被覆する絶縁層からなる光海底ケーブルにおいて、前記導体層の外周面に凹凸部を形成することを特徴とする光海底ケーブル。
【請求項2】
光ファイバから構成される光ユニットと、前記光ユニットを被覆し外圧から保護する耐圧層と、前記耐圧層を被覆する電力供給用の導体層と、前記導体層を被覆する絶縁層からなる光海底ケーブルの製造方法において、前記導体層の外周面に凹凸部を形成し、その導体層上に直接絶縁層を形成することを特徴とする光海底ケーブルの製造方法。
【請求項3】
前記導体層の外周面にラセン状あるいはリング状の溝を形成し、前記導体層の外周面に凹凸部を形成する請求項2に記載の光海底ケーブルの製造方法。
【請求項4】
前記溝が、切削加工により形成される請求項3に記載の光海底ケーブルの製造方法。
【請求項5】
前記導体層の外周面を粗面化し、前記導体層の外周面に凹凸部を形成する請求項2に記載の光海底ケーブルの製造方法。
【請求項6】
前記導体層の外周面が、化学溶剤により粗面化される請求項5に記載の光海底ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−249159(P2011−249159A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121683(P2010−121683)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】