説明

光測定装置および方法

【課題】 紫外領域の光、特に遠紫外、真空紫外領域において、測定精度の優れた光測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】 光源11から受光部22までの光路中に試料が無い時の光エネルギーと試料23を光路中に入れたときの光エネルギーを計測し、その対比により該試料の透過率、吸収率または反射率を算出するための測定を行う。その際、試料の材質、形状および該試料を前記光路中に配置したときの配置状態に基づいて試料23が前記光路中に無い時と有る時との光軸ずれを算出する。そして、その算出結果に基づいて受光部22を移動させ、光路中に試料が無い時とある時の光束を該受光部の同一部分で受けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光のエネルギー強度を測定する光測定装置および方法に関する。本発明は、特に紫外領域、中でも従来測定が困難で精度の低かった真空紫外領域での光の測定評価に有効な光測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体露光装置等の光学装置における光学素子を評価するために、光の分光エネルギー強度および分布を測定する分光測定が行われる。この分光測定では、分光エネルギー分布、分光透過率、分光反射率などの測定が行なわれるが、従来、これ等の測定は可視領域が主体で行われていた。
【0003】
分光測定装置においては、光源から発せられた光線を分光器によって単色光とし、該単色光はセクターミラーにより参照光と試料光に分割する。参照光は反射ミラーによって直接受光センサに導かれ、一方、試料光は反射ミラーによって試料(光学素子または光学材料)を介して受光センサに導かれ、各々の光の光束を比較することにより光のエネルギーの測定が行なわれる。
【0004】
従来のこの種の分光測定装置として、積分球を用いた測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、分光測定装置における分光に使用される受光素子は、シリコンフォトダイオード、光電子増倍管、CCD等が用途、使用波長、精度によって使い分けられてきた。
【特許文献1】特開2000−321126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近、半導体の製造においては、紫外領域の光線を利用した装置が各方面で使用されるようになってきている。特に半導体の製造に用いられるステッパ等の光源は水銀灯のg線(λ=4358Å)からi線(λ=3650Å)、ガスレーザのKrF(λ=2486Å)レーザ、真空紫外領域のArF(λ=1934Å)レーザへと移行して来ている。更には、将来F(λ=1570Å)レーザを使うことも検討されている。
【0006】
ここで大きな問題となっているのがそこに使用される光学系である。レンズ硝材及びレンズ表面に形成する反射防止膜の特性等を評価・開発していかなければならず、これらの評価・開発検討ツールとして、真空紫外波長領域で硝材及び光学膜の特性を精度良く計測・評価できる分光スペクトル測定装置が必要になる。しかし、これまでの測定評価に用いていた分光スペクトル測定装置は、真空紫外領域には対応しておらず、精度良い測定評価が望めなかった。
【0007】
本発明は、上述の従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、特に紫外領域の光、特に遠紫外、真空紫外領域において、測定精度の優れた光測定装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の光測定装置は、光源から受光部までの光路中に配置された試料の透過率、吸収率、または反射率を計測するために前記試料が前記光路中に無い時と有る時との前記受光部に照射される光束のエネルギー強度を測定する光測定装置であって、前記試料の材質、形状および該試料を前記光路中に配置したときの配置状態に基づいて前記試料が前記光路中に無い時と有る時との光軸ずれを算出する制御部と、該制御部の算出結果に基づいて前記受光部を駆動する駆動部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明において、試料の材質は例えば屈折率である。試料の形状は例えば平行平板である。試料を光路中に配置したときの配置状態は、例えば、光路に対する傾き角である。
【0010】
また、本発明の光測定方法は、光源から受光部までの光路中に試料が無い時の光エネルギーと試料を光路中に入れたときの光エネルギーを計測し、その対比により該試料の透過率、吸収率または反射率を算出するための光測定方法であって、前記受光部に可動機構を設け、前記試料が光路中に無い時と有る時の光軸ずれに相当する分、該受光部を移動させ、光路中に試料が無い時とある時の光束を該受光部の同一部分で受けるようにすることを特徴とする。
ここで、前記受光部の移動は、前記試料の材質、形状および該試料を前記光路中に配置したときの配置状態に基づいて前記光軸ずれを算出し、この算出結果に基づいて、前記受光部を移動することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料が光路中に無い時と有る時の光軸ずれに相当する分、該受光部を移動させ、光路中に試料が無い時とある時の光束を該受光部の同一部分で受けるようにする。そのため、場所ムラの影響を受けない、精度の良い測定が可能となる。また、光源に160nm付近に強いピークを持つ重水素ランプを使用しての真空紫外領域の計測においても、その測定光の強度分布の影響を受けず、精度良い測定を実現することができる。本発明は、特に真空紫外波長領域の光の測定に最適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、特に、光の分光エネルギー強度及び分布を測定する分光測定装置及び方法に適用することが好ましい。すなわち、本発明に係る分光測定装置及び該装置を用いた測定方法は、試料が光路中に無い時の光エネルギーと試料を光路中に入れたときの光エネルギーを計測し、その対比により試料の透過、吸収率、または反射率を算出する。そして、可動機構を備えた受光部を具備し、試料が光路中に無い時と有る時の光軸ずれに相当する分、該受光部を移動して位置を制御し、光路中に試料が無い時とある時の光束を受光部の同一部分で受けるようにすることを特徴とする。
【0013】
本発明において好ましくは、前記光源からの前記試料を介さない光束(参照光)のエネルギー強度を測定する第2受光部を設けることが好ましい。第2受光部への光束と第1受光部への光束を反射ミラーで切り替えることにより、この光束切り替えを光路への試料の挿抜時間より短くすることができる。したがって、この第2受光部による測定値を参照することにより、直接光の測定と試料を通過した光束の測定との時間差による光源の温度変化または経時変化が測定精度へ与える影響を防止または軽減することができる。
前記受光部の受光センサは、シリコンフォトダイオードであっても良い。また、前記受光部が、積分球と光電子増倍管とから成るようにしても良い。
【0014】
光のエネルギー強度を精度良く測定するためには、試料が光路中に無い時の100%測定と、試料を光路中に入れた時の測定が正確に対比されなければならない。しかしながら、受光部の場所による受光特性が完全に均一であるということは無い。シリコンフォトダイオードの場合であれば、光電変換を行う受光面内に、製造プロセス、或いは使用時間による劣化によって、場所による感度ムラが存在する。また、積分球の場合であれば、積分球内壁塗料の塗布ムラや劣化によって場所による反射率ムラが存在する。そのため、試料が光路中に無い時の100%測定と、試料を光路中に入れた時の測定時に受光面内の同一部分で受光しないと正確な対比ができないという問題があった。特に、試料を光線に対して傾けた測定を行う場合、試料の屈折率及び厚みと入射角度によって、試料が光路中に無い時の100%測定時と、試料を光路中に入れた時の測定時で光軸がずれる。しかし、受光部が固定されているために受光面内の同一部分で受光することができず、正確な対比ができないという問題があった。
【0015】
また、真空紫外波長域の分光測定装置の光源としては重水素ランプが適しており、それを用いることが多いが、このランプの出力波長特性は図6に示す如く160nm付近に強いピークを持つ。そのため、分光された単色光とは言えある波長幅を有した光束中に強度差が有る。これと、受光面が光学的な結像位置に近いことが多いこともあり、受光光束内に場所による強度の差が生じ、受光面内の感度ムラ、または積分球の反射率ムラと相まって測定精度の悪化を助長する問題があった。
【0016】
以下に、分光測定装置によって厚みのあるガラスを傾けた時の透過率測定において、受光センサが感度ムラを有している場合の一例を模式的に説明する。
図7は、上方からの分光された単色の測定入射光を、受光面が正方形の受光センサ(シリコンフォトダイオード)で受けている様子を側面から見た模式図である。まず、試料23が光路中にない時に測定スポットがセンサ22の受光面の中心になるようにセンサの位置が調整されている(実線)。次に、厚さを持った測定試料23を傾けて測定する場合、試料22の屈折率、入射角と厚みによって測定光(試料透過光)は破線で示すように紙面右方向にシフトするため、センサ受光面内の中心からずれた位置で測定光を受けることになる。この時、センサ受光面内の位置による感度ムラがあると、試料23が光路中に無い時と有る時の測定値が正確に対比されず、結果として試料の正しい透過率測定値が得られないという問題が生ずる。
【0017】
例えば、センサ感度の分布が、センサ受光エリアの中心付近が感度が低く、厚みのある試料を傾けて測定する場合に光束がシフトする方向に向かって受光感度が高くなっていくような感度分布を有していたとする。すると、光路中に試料が無い時に比べ、試料を入れた時の方が相対的にセンサ受光感度の高い部分で受光することになり、センサからの出力が、センサ感度が均一である場合に比べて高くなってしまう。結果として試料の透過率測定値が真値より高い値となってしまう。
【0018】
逆にセンサ受光エリアの中心付近が感度が高く、厚みのある試料の屈折による光束シフトの方向に向かうに従って受光感度が低くなっていくような感度分布を有していたとする。すると、光路中に試料が無い時に比べ、試料を入れた時の方が相対的にセンサ受光感度の低い部分で受光することになり、センサからの出力が、センサ感度が均一である場合に比べて低くなってしまう。結果として試料の透過率測定値が真値より低い値となってしまう。つまり、本来、センサ感度が一様であれば試料の透過率の真値が算出されるが、センサの感度分布と試料有無時の光束シフトにより、真値よりも高くなる場合や低くなる場合が生じ、正確なデータが得られないと言う問題があった。
【0019】
次に、重水素ランプを光源とする分光測定装置によって厚さを持ったガラスを傾けた時の透過率測定において、受光センサが感度ムラを有していて、尚且つ、受光面上の測定スポット内光強度分布が一様でない場合の一例を模式的に説明する。
この場合も、試料が光路中にない時に測定スポットがセンサ受光面の中心になるようにセンサの位置が調整されているとする。測定試料を図7のように傾けて測定する場合、試料の屈折率、入射角と厚みによって測定光(試料透過光)は図中破線で示すように紙面右方向にシフトするため、センサ受光面内の中心からずれた位置で測定光を受けることになる。このセンサに入射する光は、分光された単色光とは言え、一定以上の光量を得るためにある波長幅を有している。この場合は5nm程度の幅を有し、例えば160nmであれば158.5〜162.5nmの波長範囲の光がセンサに入射する。重水素ランプを光源としたこの分光器のセンサ入射光の波長による強度分布は図6に示すように、160nmに強いピークを持つ。そして、傾きの最も急峻な、即ち隣り合う波長の強度差が最も大きい155nm付近と165nm付近の光はセンサ受光面上で位置による強度差が大きく、尚且つ155nmと165nmでは強度の強弱の位置関係が逆となる。この時、センサ受光面内の位置による感度ムラがあると、その分布と入射光の強度分布とによって、試料が光路中に無い時とある時の測定値が正確に対比されず、結果として試料の正しい透過率測定値が得られないという問題が生ずる。
【0020】
特に、センサに光を当てて使用し続けると、センサ感度の分布が、受光エリア周辺は比較的フラットで、より強い光を受けるセンサ受光エリアの中心付近のみが感度が劣化して低くなり、中心が最も低い感度分布を有する様になることがある。それに対して155nm付近と165nm付近の、測定光の位置により強度差が大きい分布を持つ波長の測定をした場合、特異な測定結果となることがある。これを模式的に説明する。
【0021】
受光センサの2次元的な位置による感度分布が図8のグラフの点線cに示すような、周辺がフラットで中心付近が低く凹んだような分布だとする。これに対し、測定光の波長155nm付近の位置による強度分布は図8のグラフの太線aに示すように、右上がりの直線で表されるとする。今、測定試料として厚さを有する硝子を傾けて測定する場合を考え、この硝子の透過率は波長に対しても位置に対しても均一で、一様に80%とする。すると、光路中に試料がある場合の位置による強度分布は図8のグラフの細線bに示すように、試料が無い時の直線が一律に80%の値になり、尚且つ紙面右側に位置がシフトした様な分布になる。この時、センサ受光感度と入射光エネルギー強度との積の位置による分布は図9のグラフに示すようになり、センサ出力はこの分布の積分値になる。本来、受光エリア内の感度が均一であれば、試料が無い時のセンサ出力に対する試料がある時のセンサ出力値が80%にならなければならないが、この例の場合、約79%になる。これに対し、位置に対する光の強度分布が左右逆となる165nm付近の場合、測定光の波長165nm付近の位置による強度分布は図10のグラフの太線aに示すように、右下がりの直線で表されることとなる。
【0022】
同様に、測定試料として厚さを有する硝子を傾けて測定する場合を考え、この硝子の透過率は波長に対しても位置に対しても均一で、一様に80%とする。すると、光路中に試料がある場合の位置による強度分布は図10のグラフの細線bに示すように、試料が無い時の直線が一律に80%の値になり、尚且つ紙面右側に位置がシフトした様な分布になる。この時、センサ受光感度と入射光エネルギー強度との積の、位置による分布は図11のグラフに示すようになり、センサ出力はこの分布の積分値になる。本来、受光エリア内の感度が均一であれば、試料が無い時のセンサ出力に対する試料がある時のセンサ出力値が80%にならなければならないが、この例の場合、約81%になる。つまり、本来センサ感度が一様であれば試料の透過率の真値が算出されなければならないが、この例では、155nmは真値よりも低く、165nmは真値よりも高くなってしまう。感度ムラの状態と強度分布の組み合わせにより、真値とのズレ方は様々である。特にFレーザ波長である157nm付近の測定精度が求められているのに対し、使用光源である重水素ランプのピークが160nm付近にあり、上記のような理由から誤差を生じやすく、特に問題である。
【0023】
実際に長期使用によってセンサ受光面内の位置による感度ムラを生じたセンサと感度ムラの殆ど無いセンサとで同一試料の透過率を測定したデータを図12に示す。この場合は先述の説明例と試料を傾ける方向が逆のため光束のシフト方向も反対になる。したがって、155nm付近では実際よりも高く測定され、165nm付近では実際よりも低く測定されるため、160nm付近を中心にうねったようなデータとなってしまい、正確なデータが得られないと言う問題があった。
【0024】
本発明に係る上述の構成によれば、計測時は常に光束を受光部の同一部分で受けるように受光部を位置合わせするので、場所ムラの影響を受けない、精度の良い測定が可能となる。特に分光測定の際は、光路中に試料が無い時と入れた時に受光部の同一部で受光できるため、受光面内に場所による感度ムラがある場合でもその影響を受けず、精度良い測定を実現することができる。また測定光束内に強度差を有している場合でも、測定値に影響を及ぼす事がない。
【0025】
また、真空紫外波長域の分光測定装置の光源としては重水素ランプを用いることが多い。このランプの出力波長特性は前述の如く160nm付近に強いピークを持つが、受光光束内に場所による強度差が生じても、受光面内の感度ムラ、または積分球の反射率ムラと相まって測定精度の悪化を助長するような事がないという格別の効果がある。
【実施例】
【0026】
本発明の一実施例に係る分光測定装置は、紫外領域の光、特に遠紫外、真空紫外と呼ばれる300〜130nmの波長領域において、硝子基板等の試料の分光透過率及び分光反射率を測定する分光測定装置である。光源から発せられた光線を分光器によって単色光とし、該単色光はセクターミラーにより参照光と試料光に分割され、参照光は反射ミラーによって直接受光センサに導かれ、一方、試料光は反射ミラーによって試料を介して受光センサに導かれる。各々の光の光束を比較することにより光のエネルギーの測定が行なわれる。
【0027】
[第1実施例]
以下、図1を参照して本発明の第1実施例について詳細を説明する。なお、図は本発明を理解できる程度に各構成成分の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示してあるに過ぎず、したがって本発明を図示例に限定するものではない。
第1実施例における分光に使用される分光器は、光分散素子として反射型の平面回折格子14と2枚の軸外し方物面ミラー13、15とからなる所謂ツェルニターナー型のモノクロメーターである。光源11には、真空紫外域から可視域まで連続した波長の光を放射する重水素ランプを用いている。参照光、測定光の各受光センサ20、22にはシリコンフォトダイオードを使用している。本実施例においては、光量と波長分解能の関係から出口スリット16面上での単位長さあたりの波長差である逆線分散は2nm/mmとした。
【0028】
この実施例の分光測定装置の構成について、光源から出射する光の光路に沿ってより詳しく説明する。分光器部は、第1軸外し方物面ミラー13、反射型平面回折格子14、第2軸外し方物面ミラー15、出口スリット16からなる。光源11には、重水素ランプを用いる。光源11から出射した光は第1平面ミラー12によって90°方向を変え、第1軸外し方物面ミラー13によって平行光となり、回折格子14に入射する。回折格子14によって分光された光は第2軸外し方物面ミラー15によって再び集光され、出口スリット16面上で結像し、前述の特定波長のみが通過するようになっている。出口スリット16を通過した光は第3軸外し方物面ミラー17によって平行光となり、半円形の平面ミラー(セクターミラー)18を回転させることで参照光と測定光とに時間分割される。セクターミラー18が光路上にある時は90°方向を変えられて第4軸外し方物面ミラー19に入射し集光されて参照センサ20に入射する。ミラー18が光路上に無い時は、そのまま第5軸外し方物面ミラー21に入射し、集光されて受光センサ22に入射する。
【0029】
次に図2を参照して、受光センサ22付近の詳細を説明する。
本実施例においては、試料が光路中に無い時の光エネルギーと試料を光路中に入れた時の光エネルギーを不図示の制御部で計測し、その対比により試料の透過率を算出するように構成している。図2(a)が光路中に試料が無い100%測定時を表している。これに対して図2(b)が試料23を光路中に傾けて挿入した図であり、受光センサ22を試料23の屈折率と厚み及び入射角度によって生ずる光軸のズレに相当する量だけ移動させている。
【0030】
光軸のズレ量dは次式により算出される。
d=(t/Cosθ’)・Sin(θ−θ’)
ここで、θ’=Sin−1(n・Sinθ/n’)
θ:入射角度
t:板厚
n:媒質屈折率
n’:試料屈折率
【0031】
例えば、板厚t=20mmの蛍石(157nmの屈折率n’=1.56)の、入射角θ=30°での透過率を窒素(n=1)中で測定する場合、d=0.41と計算される。センサの駆動には、駆動部としてのパルスモーターを使用する。測定機を制御する制御部は、予めプログラムされた計算式に基づいて、測定波長毎にセンサ移動量dを算出し、その算出結果に基いてセンサをパルスモーターで駆動する。
【0032】
このような分光光度計の構成によって、まず試料23の無い状態での光量を測定し、次に試料23が光路中に挿入された状態で光量を測定し、その比と各状態の時の参照光の光量によって補正された値をもって試料23の透過率が算出される。
【0033】
上記構成により、センサ受光面内に場所による感度ムラを有した場合であっても、光路中に試料の有無による光束シフトに相当する分、センサを移動させることで、光路中に試料の有無に関わらず、光束を受光部の同一部分で受けることができる。これにより、感度ムラの影響を受けず正確な対比ができ、精度良い測定を可能となる。また、光源に160nm付近に強いピークを持つ重水素ランプを使用しての真空紫外領域の計測においても、その測定光の強度分布の影響を受けず、精度良い測定を実現することができ、真空紫外波長領域の測定に最適である。
【0034】
図3に、試料として蛍石を用い、センサ位置補正をした場合(細線b)としない場合(太線a)の、150〜200nmの波長範囲における測定結果のグラフを示す。センサ位置補正をした場合(細線b)、センサに位置による感度ムラがない場合(破線c)と比較して、最大でも±0.25%以内の差を実現している。また、センサの長期使用による感度劣化による影響も受けにくい事から、センサの交換頻度も少なくできる。そして、交換に要するデッドタイムも少なくすることができ、生産性の向上が図れるばかりでなく、多少の感度ムラを有したセンサであっても使用可能となり、センサの低コスト化にも繋がる。
【0035】
[第2実施例]
次に、図4を参照して本発明の第2実施例について説明する。なお,第1実施例同様、図はこの発明を理解できる程度に各構成成分の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示してあるに過ぎず、したがってこの発明を図示例に限定するものではない。
第2実施例における分光に使用される分光器も、第1実施例同様に、光分散素子として反射型の平面回折格子14と2枚の軸外し方物面ミラー13、15とからなる所謂ツェルニターナー型のモノクロメーターを用いている。他の構成も第1実施例とほぼ同じであり、異なるのは受光部だけなので、セクターミラー18以降のみ説明する。
【0036】
セクターミラー18が光路上にある時は、光束は90°方向を変えられて第4軸外し放物面ミラー19に入射し集光されて積分球24に入射する。ミラー18が光路上に無い時は、そのまま第5軸外し方物面ミラー21に入射し、集光されて積分球24に入射する。積分球24内面には、測定域が可視光であれば一般に硫酸バリウム等が塗布され、本実施例では真空紫外波長に発光する特性を有する蛍光体が塗布されている。検知器としては光電子増倍管(フォトマル)が用いられ、積分球24内の破線で示すよう、積分球の紙面手前側開口部に取り付けられている。積分球24に入射した真空紫外光は積分球内壁に塗布された蛍光体を照射し、発光した蛍光光線は積分球の内面の蛍光体被膜の表面を拡散反射しながら光電子増倍管(フォトマル)からなる検知器に達して測定に供される。
【0037】
次に図5を参照して、積分球と検知器とからなる受光部付近の詳細を説明する。
本実施例においては、試料が光路中に無い時の光エネルギーと試料を光路中に入れた時の光エネルギーを計測し、その対比により試料の透過率を算出するように構成している。図5(a)が光路中に試料が無い100%測定時を表している。これに対して図5(b)が試料23を光路中に傾けて挿入した図であり、受光部を試料23の屈折率と厚み及び入射角度によって生ずる光軸のズレに相当する量だけ移動させている。光軸のズレ量dは、第1実施例同様に、次式により算出される。
【0038】
d=(t/Cosθ’)・Sin(θ−θ’)
ここで、θ’=Sin−1(n・Sinθ/n’)
θ:入射角度
t:板厚
n:媒質屈折率
n’:試料屈折率
センサの駆動には、駆動部としてのパルスモーターを使用する。測定機を制御する制御部は、予めプログラムされた計算式に基づいて、測定波長毎にセンサ移動量dを算出し、その算出結果に基づいてセンサをパルスモーターで駆動する。
【0039】
このような分光光度計の構成によって、まず試料23の無い状態での光量を測定し、次に試料23が光路中に挿入された状態で光量を測定し、その比と各状態の時の参照光の光量によって補正された値をもって試料23の透過率が算出される。
【0040】
上記構成によると、積分球受光面内に場所による反射率ムラ、及び蛍光体の場合は発光強度ムラを有する場合であっても、光路中の試料の有無による光束シフトに相当する分、受光部を移動させる。すると、光路中に試料の有無に関わらず、光束を受光部の同一部分で受けることができ、場所ムラの影響を受けず正確な対比ができ、精度良い測定を可能とする。なお、試料有無の光束シフト分受光部を移動することで、参照光受光部は僅かに遠ざかる方向に移動されるが、光束は平行光に近い収束光(NA=約0.04)であり光束の変化は測定精度に影響しない程度であり、無視できる。
【0041】
また、光源に160nm付近に強いピークを持つ重水素ランプを使用しての真空紫外領域の計測においても、その測定光の強度分布の影響を受けず、精度良い測定を実現することができ、真空紫外波長領域の測定に最適である。受光部位置補正をした場合、センサに位置による反射率ムラ、及び蛍光体の場合は発光強度ムラがない場合と比較して、最大でも0.1%以内の差を実現している。
【0042】
また、積分球内塗料の長期使用による反射率劣化、及び蛍光体の場合は発光強度劣化による影響も受けにくい事から、塗料の再塗布頻度も少なくでき、再塗布及び積分球の取り付け取り外しに要する測定装置のデッドタイムも少なくすることができる。そして、生産性の向上が図れるばかりでなく、多少の反射率ムラ、及び蛍光体の場合は発光強度ムラを有した場合であっても使用可能となり、塗料の低コスト化、塗布作業の工数減少にも繋がる。
【0043】
受光部が場所による感度ムラを有する場合として、センサ受光面内に感度ムラを有する場合、積分球が反射率ムラを有する場合、及び積分球内の蛍光体塗料が発光強度ムラを有する場合等がある。
上述の実施例によれば、このような場合であっても、光路中の試料の有無による光束シフトに相当する分、受光部を移動させることで、光路中の試料の有無に関わらず、光束を受光部の同一部分で受けることができる。これにより、場所ムラの影響を受けず正確な対比ができ、精度良い測定が可能となる。
また、光源に160nm付近に強いピークを持つ重水素ランプを使用しての真空紫外領域の計測においても、その測定光の強度分布の影響を受けず、精度良い測定を実現することができ、真空紫外波長領域の測定に最適である。
【0044】
図3に、試料として蛍石を用い、センサ位置補正をした場合(細線b)としない場合(太線a)の、150〜200nmの波長範囲における測定結果のグラフを示す。様々な条件での実験の結果、センサ位置補正をした場合(細線b)は、センサに位置による感度ムラがない場合(破線c)と比較して、最大でも0.05%以内の差を実現することができた。
【0045】
また、フォトダイオード等の素子で直接受光する場合、センサの長期使用による感度劣化による影響も受けにくい。その事から、センサの交換頻度も少なくでき、交換に要するデッドタイムも少なくすることができ、生産性の向上が図れるばかりでなく、多少の感度ムラを有したセンサであっても使用可能となり、センサの低コスト化にも繋がる。
また、積分球を用いた受光部である場合、積分球内塗料の長期使用による反射率劣化、及び積分球内塗料が蛍光体の場合は発光強度劣化による影響も受けにくい。その事から、塗料の再塗布頻度も少なくでき、再塗布及び積分球の取り付け取り外しに要する測定装置のデッドタイムも少なくすることができる。よって、生産性の向上が図れるばかりでなく、多少の反射率ムラ、及び蛍光体の場合は発光強度ムラを有した場合であっても使用可能となり、塗料の低コスト化、塗布作業の工数減少にも繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施例に係る分光測定装置の構成を示す図である。
【図2】図1における受光センサ部分の詳細を説明するための受光部詳細図である。
【図3】本発明の第1実施例の効果示すための、測定結果を比較するためのグラフである。
【図4】本発明の第2実施例に係る分光測定装置の構成を示す図である。
【図5】図4における受光部の詳細図である。
【図6】真空紫外波長分光器の光源として使用される重水素ランプの出力波長特性を示すグラフである。
【図7】従来技術の問題点を説明するための図である。
【図8】従来技術の問題点を説明するためのグラフである。
【図9】従来技術の問題点を説明するためのグラフである。
【図10】従来技術の問題点を説明するためのグラフである。
【図11】従来技術の問題点を説明するためのグラフである。
【図12】従来技術の問題点を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0047】
11:重水素ランプ
12:平面ミラー
13、15、17、19、21:軸外し方物面ミラー
14:回折格子
16:スリット
18:セクターミラー
20:参照センサ
22:受光センサ
23:試料
24:積分球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から受光部までの光路中に配置された試料の透過率、吸収率、または反射率を計測するために前記試料が前記光路中に無い時と有る時との前記受光部に照射される光束のエネルギー強度を測定する光測定装置であって、
前記試料の材質、形状および該試料を前記光路中に配置したときの配置状態に基づいて前記試料が前記光路中に無い時と有る時との光軸ずれを算出する制御部と、
該制御部の算出結果に基づいて前記受光部を駆動する駆動部とを備えることを特徴とする光測定装置。
【請求項2】
前記光源からの前記試料を介さない光束のエネルギー強度を測定する第2受光部と、前記光源からの光束を前記試料および前記受光部に向かう方向と、前記第2受光部に向かう方向とに切り替える反射ミラーとをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の光測定装置。
【請求項3】
前記受光部の受光センサが、シリコンフォトダイオードであることを特徴とする請求項1または2に記載の光測定装置。
【請求項4】
前記受光部が、積分球と光電子増倍管とから成ることを特徴とする請求項1または2に記載の光測定装置。
【請求項5】
光源から受光部までの光路中に試料が無い時の光エネルギーと試料を光路中に入れたときの光エネルギーを計測し、その対比により該試料の透過率、吸収率または反射率を算出するための光測定方法であって、
前記受光部に可動機構を設け、前記試料が光路中に無い時と有る時の光軸ずれに相当する分、該受光部を移動させ、光路中に試料が無い時とある時の光束を該受光部の同一部分で受けるようにすることを特徴とする光測定方法。
【請求項6】
前記試料の材質、形状および該試料を前記光路中に配置したときの配置状態に基づいて前記光軸ずれを算出することを特徴とする請求項5に記載の光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−315760(P2007−315760A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142367(P2006−142367)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】