説明

光硬化性樹脂組成物とその硬化体の製造方法

【課題】表面硬化性が良好で、高い接着強さを有し且耐湿性、耐変色性を有する光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤とを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物であり、好ましくは、(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物の水素添加割合が、99%以上であることを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物であり、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤が、エポキシシクロヘキサン又はピネンオキシドであることを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物であり、更に、(4)シランカップリング剤を含有することを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面硬化性が良好で、高い接着強さ、耐湿性が得られるとともに、無黄変の硬化体を提供し得る光硬化性樹脂組成物と、当該硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオプトエレクトロニクス分野では、機器の高性能化に伴い、より高い接着性、耐湿性を有する接着剤の要求が高まっている。
【0003】
一般に、高い接着強さが得られる光硬化性組成物としては、アクリル系の原料を主体とする組成物が知られている。アクリル系光硬化性樹脂組成物は、空気中の酸素により硬化阻害を受けることが知られており、表面を良好に硬化させる目的で硬化時に窒素置換を行う等の配慮が必要である。
【0004】
また、表面硬化が良好な硬化性樹脂組成物として、特許文献1等に、ポリエン、ポリチオールを原料とする硬化性樹脂組成物が提案されている。しかし、このタイプの硬化樹脂のガラス転移温度は、一般的に、20℃未満である為、高い接着強さが得られないという課題がある。更に、接着剤等の硬化樹脂をそのガラス転移温度付近で使用される場合には、硬化樹脂の機械的性質が僅かな温度変化により著しく変わり接着強度の低下を生じる等の問題を起こすことがある。
【特許文献1】特公昭63−002055号公報。
【0005】
また 光カチオンを触媒とするエポキシ樹脂化合物も知られているが、ガラス転移点は高く、表面硬化性は良いものの、高温多湿条件下(プレッシャークッカーテスト、以下「PCT」と略す)後に、変色する問題があった。
【0006】
前記の変色現象は、例えば、短波長LEDや光ファイバー等のオプトエレクトロニクス部品用接着剤等の部材として用いようとすると、光の透過率を減少させることになるので、大きな問題となっている。
【0007】
尚、特許文献2には、ナフタレン骨格を有するエポキシ化合物を有効成分として含有するエポキシ樹脂が開示され、波長1300nmの赤外線領域での光透過性を評価しているものの、可視光領域での変色現象については触れられていない。
【特許文献2】特開2004−010676公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表面硬化性が良好で、高い接着強さと耐湿性が得られ、しかも変色の少ない1液型光硬化性樹脂組成物を提供することである。ここで、高い接着強さについては、7MPa以上の高い接着強度のものを得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤とを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物であり、好ましくは、(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物の水素添加割合が、99%以上であることを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物であり、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤が、エポキシシクロヘキサン又はピネンオキシドであることを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物であり、更に、(4)シランカップリング剤を含有することを特徴とする前記の光硬化性樹脂組成物である。
【0010】
また、本発明は、(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤と、(4)シランカップリング剤を含有する光硬化性樹脂組成物からなり、引っ張り剪断接着強さが7MPa未満の硬化体を、121℃2.1気圧100%相対湿度条件下で48時間処理することで、引っ張り剪断接着強さを7MPa以上とすることを特徴とする光硬化性樹脂組成物硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、高い接着強さ、優れた耐湿性を有し、更に耐変色性にも優れる硬化体を与えるので、短波長LEDや光ファイバー等のオプトエレクトロニクス分野での接着剤等の部材として有用である。
【0012】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物硬化体の製造方法に拠れば、引っ張り剪断接着強さが7MPa以上と高い、耐湿性と耐変色性に優れた硬化体を安定して提供できる特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物(以下、単に成分1という)としては、例えば、ジャパンエポキシレジン社製「YX−8000」((化1)参照)や「YX−8300」等が挙げられる。成分1は、他の芳香族エポキシに比べて、分子内に芳香環を持たないので、変色等のトラブルを防ぐことに有効であるばかりでなく、光カチオン重合に於いて重合反応速度が速く、生産性の面で好ましい。また、本発明に於いて、水素添加の割合は芳香環に付加出来る水素量を全量として、99モル%以上であることが好ましい。99モル%未満では、硬化体が変色したり、硬化反応速度が遅くなったりすることがある。
【化1】

【0014】
本発明に於いては、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤(以下、成分2という)として、エポキシ基を1分子中に1以上含有し本発明の趣旨に沿った耐湿性と耐変色性とを満足するものであればどのようなものでも構わないが、本発明者の実験的検討に基づけば、エポキシシクロヘキサン((化2)参照)、αピネンオキシド((化3)参照)、または2,3−エポキシノルボルナンが好ましく選択される。
【化2】

【化3】

【0015】
反応性希釈剤の量は、所望の接着剤粘度によって決められるが、通常は、成分1と成分2との合計に対して、1から40質量%程度、好ましくは5〜30質量%程度使用される。反応性希釈剤が多すぎると粘度低下をもたらすし、また、少なすぎると粘度が上昇する。また量が多いことによっては硬化不良をもたらす原因となり、用途が限定されることがある。
【0016】
(3)光カチオン系重合開始剤(以下、成分3という)としては、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホキソニウム塩、並びにそれらの化合物が好ましく、特に、芳香族ヨードニウム・ヘキサフルオロホスホネート化合物が、硬化性、接着性、アウトガスの観点から好ましい。これらの重合開始剤は、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の配合量は、成分1と成分2との合計量100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは0.1〜3質量部である。
【0017】
また、前記重合開始剤として、例えばチバガイギー社イルガキュア250((化4)参照)等が挙げられるが、その場合の配合量は、成分1と成分2との合計量、即ち、樹脂量の合計100質量部に対し、0.5質量部から5質量部、好ましくは1質量部から3質量部の範囲で用いられる。5質量部を超える場合には、硬化反応速度が早すぎることがあり、0.5質量部未満では硬化反応が遅くなることがあり、いずれの場合も実用的でないことがある。
【化4】

【0018】
前記成分1、成分2、及び成分3を配合するときに、当該樹脂組成物は250nmの波長の光により硬化し、得られる硬化体は、ガラス同士を強固に接合して高い接着強度を示し、しかも121℃0.12MPa100%RHの高温多湿条件下に晒されても接着強さの劣化のない、また変色することのない性質を示し、オプトエレクトロニクス分野での接着剤等の部材として有用である。
【0019】
本発明に於いて、硬化反応を促進する目的で、光増感剤を用いることができる。光増感剤としては、芳香族ケトン化合物を混合してもよく、このような芳香族ケトン化合物として、例えばチバガイギー社ダロキュア1173((化5)参照)等が挙げられる。
【化5】

【0020】
光増感剤の量としては光開始剤の半量程度が目安であり、好ましくは樹脂100質量部に対し0.1質量部から2.0質量部の範囲である。
【0021】
本発明に於いて、更に、シランカップリング剤を含有することができる。シランカップリング剤は、無機質と有機質との結合に関与し、無機質に対してはシランアルコキシレートが作用し、有機質に対してはグリシジル基、又はアミノ基が作用する。本発明に於いては、γグリシドキシプロピルトリメトキシキシシラン(日本ユニカ(株)社製「A−187」)((化6)参照)が好ましく選択される。
【化6】

【0022】
本発明に於いて、特に、成分1として、99%以上水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物を用いる場合、成分2として、エポキシシクロヘキサン又はピネンオキシドを用いる場合、更にシランカップリング剤を含有させる場合には、当該樹脂組成物は250nmの波長の光により硬化し、得られる硬化体は、ガラス同士を強固に接合して高い接着強度を示し、しかも121℃0.12MPa100%RHの高温多湿条件下に晒されても接着強さの劣化のない、また変色することの少ない性質が顕著であり、短波長LEDや光ファイバー等のオプトエレクトロニクス分野での接着剤等の部材として好適である。
【0023】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、1種類以上のフィラー、酸化防止剤、染料、充填剤、顔料、チキソトロピー付与剤、可塑剤、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤を加えることができる。
【0024】
更に、本発明者は、(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤と、(4)シランカップリング剤を含有する光硬化性樹脂組成物に関して、光硬化後の硬化体の引っ張り剪断接着強さが7MPa未満であっても、これを特定の環境条件に晒す時に、引っ張り剪断接着強さが7MPa以上に改質することができるということを見いだし、本発明に至ったものである。
【0025】
本発明に拠れば、引っ張り剪断接着強さが7MPa以上で、耐湿性に優れ、しかも変色しがたい硬化体を安定して得ることができるので、短波長LEDや光ファイバー等のオプトエレクトロニクス分野での接着剤等の部材として極めて有用である。
【実施例1】
【0026】
(実施例1〜5、比較例1、2)表1に示す割合で各物質を混合して、いろいろな光硬化性樹脂組成物を調製し、次に示す光硬化条件で硬化し、引っ張り剪断接着強さ、ガラス転移温度、表面硬化性を調べた。更に、硬化体を121℃0.12MPa100%RHの条件下48時間晒した後に、外観検査、べたつき、変色を評価し、引っ張り剪断接着強さを評価した(PCT試験)。ここで、外観検査としては、変色の程度を少しでも定量的に評価する目的で、分光光度計UV-1600(島津製作所製)を用いて、波長300nmの透過率を測定した。
【表1】

【0027】
(光硬化条件)光硬化に際しては、Hプラス無電極放電ランプを使用したフュージョン社製硬化装置により、250nmの波長の積算光量4000mJ/cmの条件にて硬化させた。
【0028】
(引っ張り剪断接着強さ)ガラス試験片(25×25×2mmの大きさの「パイレックス(登録商標)」耐熱ガラス)を12.5mm×25mmの接着面積になるように、光硬化性樹脂組成物を塗布し、前記光硬化条件にて硬化させた。ガラス試験片の接着面と反対側をサンドブラストをかけるとともに、別途用意した鉄試験片(100×25×1.6mmの大きさ)にもサンドブラストをかけ、光硬化性樹脂組成物にて、鉄試験片とガラス試験片のブラスト処理面(25mm×25mm)を張り合わせて、12.5mm×25mmの面積の引っ張り剪断接着強さ計測するための試験体とした。試験体は、上下ともに、軸中心合わせ板(厚み3.6mm)にて固定し、測定した。また、引っ張り剪断接着強さ(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%の環境下で、引張速度10mm/分の条件下で測定した。更に、繰り返し実験数は5としその平均値をもって結果とした。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、高い接着強さ、優れた耐湿性を有し、更に耐変色性にも優れる硬化体を与えるので、短波長LEDや光ファイバー等のオプトエレクトロニクス分野での接着剤等の部材として有用である。特に、過酷な条件下に晒されても波長300nmでの光吸収が少ない硬化体が得られるので、短波長LED用途の接着剤等の部材として好適である。
【0030】
また、本発明の光硬化性樹脂組成物硬化体の製造方法に拠れば、引っ張り剪断接着強さが7MPa以上と高い、耐湿性と耐変色性に優れた硬化体を安定して提供できる特徴がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤とを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物の水素添加割合が、99%以上であることを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤が、エポキシシクロヘキサン又はピネンオキシドであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
更に、(4)シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(1)水素添加されたビスフェノールA型ジグリシジルエーテル化合物と、(2)1分子中に1以上のエポキシ基を有する反応性希釈剤と、(3)光カチオン系重合開始剤と、(4)シランカップリング剤を含有する光硬化性樹脂組成物からなり、引っ張り剪断接着強さが7MPa未満の硬化体を、121℃2.1気圧100%相対湿度条件下で48時間処理することで、引っ張り剪断接着強さを7MPa以上とすることを特徴とする光硬化性樹脂組成物硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2006−8729(P2006−8729A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183469(P2004−183469)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】