説明

光触媒フィルムシート及びその製造方法

【課題】大量生産が可能な光触媒フィルムシートを提供する。
【解決手段】基材12の表面にチャンバーグラビア式塗工装置38によってプライマー層14を積層し、リバース式塗工装置34によって保護層16を積層し、チャンバーグラビア式塗工装置38によって光触媒層18を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒フィルムシート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、チタニア(TiO)等の光触媒材料を含有する光触媒作用が注目されている。光触媒作用のメカニズムとしては、チタニアが紫外線光を捉えた際の大気中の水または酸素からの活性酸素の形成される。この活性には、チタニアでコーティングされた材料の表面付近に存在する有機物質及び微生物を分解する能力がある。その結果、光触媒粒子によって覆われる表面は抗菌特性または殺菌特性を有する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
活性酸素は有機物質を分解するための親和力を備えるため、脱臭剤に用いることもできる。光触媒粒子及び結合剤を含有する水性分散液を原紙にコーティングすることにより、空気清浄機内または他のガス流での使用に好適な脱臭紙を製造することができる(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−47610号公報
【特許文献2】特開平11−279446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような光触媒層は、従来、1枚のシート状に形成されたものである。そのため、大量生産による製品価格の低下が困難であった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、大量生産が可能な光触媒フィルムシートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長尺状の基材の表面に保護層、光触媒層を順番に湿式の塗工装置によって積層したことを特徴とする光触媒フィルムシートである。
【0007】
また、本発明は、前記基材の表面にプライマー層を積層して前記保護層を湿式の塗工装置によって積層したことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長尺状の基材の表面に保護層、光触媒層を順番に湿式の塗工装置によって積層するため、大量生産を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態の光触媒フィルムシート10と、そのシート製造装置20について図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の光触媒フィルムシート10とそのシート製造装置20について図1〜図7に基づいて説明する。
【0011】
(1)光触媒フィルムシート10の構成
図1に基づいて光触媒フィルムシート10の構成について説明する。
【0012】
光触媒フィルムシート10は、基材12の上にプライマー層14が積層され、このプライマー層14の上に保護層16が積層され、この保護層16の上に光触媒層18が積層されている。
【0013】
基材12は、例えば2軸延伸ポリプロピレンより形成されている。
【0014】
1層目のプライマー層14は、2軸延伸ポリプロピレン等の基材12の表面平滑性が悪い基材に対して表面平滑性を向上させることを目的として積層する。但し、ポリエチレンテレフタレート等の表面平滑性の良い基材12に関しては、図2に示すようにプライマー層14を省いてもよい。このプライマー層14は、シリカ系溶液を用いる。
【0015】
2層目の保護層16は、有機物であるプライマー層14または基材12の表面と無機物である光触媒層18の密着性を向上させ、光触媒機能による基材12側の分解保護の役目を担っている。この保護層16としては、Si系または光触媒機能を持たないTi系を成分とし、無機系のバインダーを使用する。
【0016】
3層目の光触媒層は、酸化チタンよりなる。
【0017】
(2)シート製造装置20の構造
上記のような光触媒フィルムシート10を製造するためのシート製造装置20について図3〜図7を用いて説明する。
【0018】
シート製造装置20は、湿式の塗工装置22、第1乾燥装置24、第2乾燥装置26、第3乾燥装置28、巻き取り装置30によって構成されている。
【0019】
湿式の塗工装置22は、巻回された基材12を巻き出しロール32から巻き出し、塗工を行う。この塗工は、図4〜図7に示すように、4種類の湿式の塗工装置が好適である。第1は、リバース式塗工装置34であり、第2はダイ式塗工装置36であり、第3はチャンバーグラビア式塗工装置38であり、第4は毛細管式塗工装置40である。これら各塗工装置34〜40については後から詳しく説明する。
【0020】
第1乾燥装置24は、第1加熱室43内部の水平な搬送路の下方にノズル44が所定間隔毎に複数配され、これらノズル44から、上方を走行する基材12に熱風を当て乾燥を行う。このようにカウンターフロー方式で熱風を基材12に当てるのは、塗工直後においてゆっくりと乾燥させるためであり、熱風の風速は1〜3m/秒である。
【0021】
第2乾燥装置26は、第2加熱室45内部の水平な搬送路の上方と下方に上ノズル46と下ノズル48が所定間隔毎に複数それぞれ配され、上下ノズル46,48が千鳥状に配されている。そのため、搬送路を走行する基材12には上と下から熱風が交互に当てられるフローティング方式となる。このようにフローティング方式にするのは、基材12に対し高高率な乾燥を行うためである。
【0022】
第3乾燥装置28も、第2乾燥装置26と同様に、加熱室49内部の搬送路に複数の上ノズル50と複数の下ノズル52がそれぞれ配され、フローティング方式で基材12を高高率で乾燥させる。
【0023】
(3)リバース式塗工装置34の構成
リバース式塗工装置34について図4に基づいて説明する。
【0024】
リバース式塗工装置34は、バックアップロール54の下方にダイ56を設け、バックアップロール54の側方にロール58を設ける。
【0025】
基材12をバックアップロール54によって走行させ、ダイ56から保護層16を形成する塗工液を塗工し、ロール58によって不要な塗工液を掻き落とし、ロール58の表面上の塗工液をさらに掻き落とし片60によって回収皿61に掻き落とす。この場合に、膜厚は、ロール58とバックアップロール54との間隙によって決定される。
【0026】
(4)ダイ式塗工装置36の構成
次に、ダイ式塗工装置36について図5に基づいて説明する。
【0027】
基材12は4本の案内ロール62〜68を走行し、ダイ70が案内ロール64,66の間に設置されている。基材12が案内ロール64と案内ロール66との間を通るときに、ダイ70によってプライマー層14または光触媒層18を形成する塗工液が塗工される。
【0028】
(5)チャンバーグラビア式塗工装置38の構成
次に、チャンバーグラビア式塗工装置38について図6に基づいて説明する。
【0029】
(5−1)構成
チャンバーグラビア式塗工装置38の構成について説明する。
【0030】
チャンバーグラビア式塗工装置38は、グラビアロール72の上流と下流にそれぞれ案内ロール74,76が配され、グラビアロール72の下方に塗工液を溜めるための液溜め部78がある。
【0031】
液溜め部78の底面には塗工液の注入口80と注出口82があり、注入口80と注出口82の間には隔壁84があり、この隔壁84によって液溜め部78は、第1液溜め部86と第2液溜め部88に分割されている。この隔壁84の上端部とグラビアロール72の間には若干の隙間がある。
【0032】
第1液溜め部86の上流側には、第1閉塞片90が設けられ、外部とほぼ閉塞されている。即ち、第1閉塞片90の先端部がグラビアロール72に当たり、この第1液溜め部86をほぼ閉塞している。
【0033】
第2液溜め部88の下流側にも同様に、第2閉塞片92が設けられ、その第2閉塞片92の先端部がグラビアロール72に当たり第2液溜め部88を閉塞している。
【0034】
グラビアロール72の直径としては、40〜100mmであり、好適には62mmである。このグラビアロール72は、1インチ当たり100本〜200本の溝、好適には150本の溝を有し、その溝の深さは20〜60μm、好適には45μmである。これによって、厚みが0.1〜0.2μmの光触媒層18を平滑に塗工できる。
【0035】
第1液溜め部86と第2液溜め部88の内部は鏡面加工またはフッ素加工が施され、光触媒層18を塗工するための塗工液がその内部に付着しないようになっている。
【0036】
(5−2)塗工方法
上記のチャンバーグラビア式塗工装置38によって塗工液を塗工について説明する。
【0037】
塗工する場合は、注入口80から一定の圧力で塗工液を注入し、グラビアロール72を図6において時計回りの方向に回転させる。一方、基材12を20m/分で走行させる。すると、隔壁84の先端部とグラビアロール72の間隙の部分によって、グラビアロール72の溝及び表面に塗工液が塗工され、第2閉塞片92を通って基材12に塗工される。そして、余った塗工液は第2液溜め部88に至り、注出口82から外部に搬出される。
【0038】
(6)毛細管式塗工装置40の構成
次に、毛細管式塗工装置40について図7に基づいて説明する。
【0039】
この毛細管式塗工装置40は、バックアップロール94とその下方に配されたノズル96と、塗工液供給部98とより構成されている。ノズル96は、バックアップロール94の下方に配され、基材12の幅方向に沿って毛細管現象が起こるほど細いスリット100を有する。このスリット100の下方にある液溜め部102に、塗工液供給部98から塗工液が供給される。
【0040】
塗工を行う場合は、塗工液タンク98を上下動させてその高さを調整し、その液高さの圧力と毛細管現象によって、スリット100の上端から吐出する塗工液の量を調整し、バックアップロール94を走行する基材12に塗工液を塗工する。
【0041】
(9)各層の塗工方法
上記のような各塗工装置34〜40をシート製造装置20に交互に取り付けて、それぞれプライマー層14、保護層16、光触媒層18を順番に積層する。
【0042】
すなわち、第1の工程としては、基材12が巻き出しロール32に巻き取られており、これを10〜30m/分(好適には20m/分)の走行速度で引き出して湿式の塗工装置22によってプライマー層14を塗工する。次に、第1乾燥装置24、第2乾燥装置26、第3乾燥装置28によって100℃〜150℃(好適には120℃)で10〜40秒間(好適には20〜25秒間)それぞれの乾燥装置24、26、28で熱処理して乾燥させ、巻き取り装置30の巻き取りロール31に巻き取らす。
【0043】
第2の工程としては、プライマー層14が積層された基材12が巻き出しロール32に巻き取られており、これを引き出して湿式の塗工装置22によって保護層16を塗工して、第1乾燥装置24、第2乾燥装置26、第3乾燥装置28によって40℃〜80℃(好適には60℃)で合計3〜8時間(好適には5時間)熱処理して乾燥させ、巻き取り装置30の巻き取りロール31に巻き取らす。
【0044】
第3の工程としては、プライマー層14と保護層16が積層された基材12が巻き出しロール32に巻き取られており、これを10〜30m/分(好適には20m/分)の走行速度で引き出して湿式の塗工装置22によって光触媒層18を塗工して、第1乾燥装置24、第2乾燥装置26、第3乾燥装置28によって100℃〜150℃(好適には120℃)で10〜40秒間(好適には20〜25秒間)それぞれの乾燥装置24、26、28で熱処理して乾燥させ、巻き取り装置30の巻き取りロール31に巻き取らして、光触媒フィルムシート10が完成する。
【0045】
なお、1層目のプライマー層14は、0.1〜0.2μmで±2%の誤差で塗工する必要があるため高精度な塗工を行う必要がある。そのため、湿式の塗工装置22としては、上記で説明したチャンバーグラビア式塗工装置38や毛細管方式の塗工装置40を用いて塗工する。
【0046】
2層目の保護層16は、1〜2μmで±2%の誤差で塗工するため、湿式の塗工装置22としては、リバース式塗工装置34、または、従来からあるリップコータ式塗工装置を用いて塗工する。
【0047】
3層目の光触媒層18は、0.1〜0.2μmで±2%の誤差で塗工する必要があるため、湿式の塗工装置22としては、チャンバーグラビア式塗工装置38やダイ式塗工装置36や、毛細管式塗工装置40を用いて塗工する。
【0048】
(10)効果
上記のように本実施形態の光触媒フィルムシート10の製造方法であると、湿式の塗工装置22を有するシート製造装置20を用いて製造するため、連続生産することでイニシャルコスト及びランニングコストの大幅な低減が計れ、低価格で製品の販売が可能となる。そのため、光触媒機能である汚れの防止、抗菌、消臭効果を食品包装や壁紙、台所の水回り用といった様々な分野で発揮することができる。
【0049】
(第2の実施形態)
本実施形態と第1の実施形態の異なる点は、基材12に耐光性を持たせる点である。
【0050】
即ち、PETフィルム等の基材12においては、価格性能面で優れており扱い易いフィルムであるが、紫外線に当たると経時変化により黄ばんでくるという欠点がある。
【0051】
そのため、基材12の片面または両面に耐光性の処理を施す。片面処理の場合、光触媒層18は紫外線に当たる面と光触媒機能を発揮させる面を考慮して、例えば、窓ガラスの外側に光触媒フィルムシート10を貼り付ける場合には耐光性処理を施した面に光触媒層18等を塗工し、消臭等を目的として窓ガラスの内側に光触媒フィルムシート10を貼り付ける場合は、耐光性処理を施した面と反対側に光触媒層18等を塗工する。
【0052】
(第3の実施形態)
第3の実施形態と第1の実施形態の異なる点は、紫外線カット機能を持たせる点にある。
【0053】
光触媒フィルムシート10には、基材12である有機物と酸化チタン膜である無機物の密着性の向上、有機物分解という光触媒機能からのフィルム保護の目的で保護層16は必ず必要である。この保護層16に、紫外線カット機能を持たせる。
【0054】
具体的には、光触媒機能がないルチル型構造の酸化チタンを主成分とした薄膜を用いる。これにより、光触媒機能がない紫外線カット機能を有することができる。そして、光触媒フィルムシート10全体としては、光触媒機能と紫外線カット機能の両方の機能を備えることができる。
【0055】
このような紫外線カット機能を有する光触媒フィルムシート10であると、野菜等から発生するエチレンを光触媒機能で分解できることから食品賞味期限の延長、紫外線による変色防止、室内の日焼け防止と汚れ防止、消臭等に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態を示す光触媒フィルムシートの縦断面図である。
【図2】同じく変形例の光触媒フィルムシートの縦断面図である。
【図3】シート製造装置の側面図である。
【図4】リバース式塗工装置の説明図である。
【図5】ダイ式塗工装置の説明図である。
【図6】チャンバーグラビア式塗工装置の説明図である。
【図7】毛細管方式の塗工装置の説明図である。
【符号の説明】
【0057】
10 光触媒フィルムシート
12 基材
14 プライマー層
16 保護層
18 光触媒層
20 シート製造装置
22 塗工装置
24 第1乾燥装置
26 第2乾燥装置
28 第3乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の基材の表面に保護層、光触媒層を順番に湿式の塗工装置によって積層した
ことを特徴とする光触媒フィルムシート。
【請求項2】
前記基材の表面にプライマー層を積層して前記保護層を湿式の塗工装置によって積層した
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項3】
前記基材に耐光処理を施した
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項4】
前記保護層が酸化チタンを主成分としている
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項5】
前記保護層の厚みが、1〜2μmである
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項6】
前記光触媒層の厚みが、0.1〜0.2μmである
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項7】
前記プライマー層の厚みが、0.1〜0.2μmである
ことを特徴とする請求項1記載の光触媒フィルムシート。
【請求項8】
請求項1または2記載の前記保護層は、リバース式塗工装置によって前記基材または前記プライマー層に塗工する
ことを特徴とする光触媒フィルムシートの製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の前記光触媒層は、チャンバーグラビア式塗工装置によって前記保護層が積層された前記基材に塗工する
ことを特徴とする光触媒フィルムシートの製造方法。
【請求項10】
請求項2記載の前記プライマー層は、リバース式塗工装置によって前記基材に塗工する
ことを特徴とする光触媒フィルムシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−62117(P2008−62117A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239391(P2006−239391)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000240341)株式会社ヒラノテクシード (58)
【Fターム(参考)】