説明

光触媒粒子、および該光触媒粒子を含有した塗料、並びに光触媒粒子の製造方法

【課題】 室内のように紫外線量の少ない場所においても十分な光触媒作用を発揮し、ホルムアルデヒドやタバコの臭い成分等を効果的に分解することのできる光触媒粒子を提供することを一の課題とする。また、塗料等に混ぜて使用しやすいように球状であり且つ粒径も均一であるような光触媒を提供することを他の課題とする。
【解決手段】 酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸が酸化されてなる表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子による。また、酸化チタン粒子の表面に、酸化タングステンおよび酸化ケイ素を含有してなる多孔質の表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒粒子、および該光触媒粒子を用いた塗料、並びに光触媒粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、その固有のバンドギャップ以上のエネルギーをもつ波長の光が照射されると励起し、伝導体に電子、価電子帯に正孔をそれぞれ生じ、生じた電子の持つ還元力および正孔の持つ酸化力により、有機物の分解等を行うものである。斯かる光触媒は、このような機能を利用して、近年、タバコの臭い成分やシックハウスの原因となるホルムアルデヒド等の分解、又は抗菌などを目的として広く使用されている。
【0003】
従来、このような光触媒として、アナターゼ結晶型酸化チタンが知られている。
しかし、該アナターゼ結晶型酸化チタンは、これを励起するために3.2eVのエネルギー、即ち、波長が387nm以下の紫外線を照射する必要があるが、このような紫外線は一般住宅の部屋に使用される蛍光灯の光の全エネルギー中、5〜8%ほどしか含まれていない。従って、該アナターゼ結晶型酸化チタン単体を塗料等に配合したり壁紙に添加して室内に用いた場合には、目的とするタバコの臭い成分やホルムアルデヒドの分解などといった光触媒作用を十分に発揮できないという問題がある。
【0004】
特許文献1(特開2004−38217号公報)には、Cr(クロム)やV(バナジウム)などの金属元素を酸化チタンにドーピングし、酸化チタンが吸収しうる光の波長を長波長側へシフトさせ、可視光による励起が可能な金属ドープ型酸化チタンを得る方法が開示されている。しかし、酸化チタンに金属をドーピングすると、該酸化チタンの結晶化が妨げられて得られる酸化チタン量が減少し、全体としての活性が低下することとなる。
【0005】
また、特許文献2(特開平9−262482号公報)には、これらの元素をイオン注入法によってドーピングする方法も開示されているが、このような方法は装置が大規模となり、酸化チタンの製造コストも増大するため、工業的には実用性に欠けるという問題がある。
【0006】
さらに、特許文献3(特開2001−205103号公報)のように、窒素原子(N)や硫黄原子(S)をイオン化して酸化チタンにドーピングし、酸化チタン結晶構造中の酸素元素をこれら窒素原子や硫黄原子に置換し、その構造体中にTi−O−N結合やTi−O−S結合を形成するようにしてなる窒素ドープ型酸化チタンや、硫黄ドープ型酸化チタンも検討されている。
該窒素ドープ型酸化チタンや硫黄ドープ型酸化チタンは、通常の酸化チタンの価電子帯よりも高いエネルギー準位の価電子帯が形成されるため、そのバンドギャップエネルギーが約2.4eVに低下するとにより、例えば430nmといった可視光領域の光により励起するものとなる。
【0007】
しかし、有機物質の分解や無害化は基本的に酸化反応であるところ、N原子やS原子をドープされた部分は酸化電位の高い正孔を保持しないため、結果的にみれば、紫外線を動作光とする通常の酸化チタン光触媒と比較して、有機物質の分解や無害化といった触媒性能に劣る結果となっている。
【0008】
また、特許文献4(特開2004−209472号公報)のように、GaP、GaAs、CdS、CdSeといったバンドギャップが2.0〜3.0eVである光半導体を酸化チタンと混合する光触媒も検討されている。
しかし、これらの光半導体は、初期には高い活性が得られるが、光吸収により自己解離しやすく安定性に劣るものであり、室内の浄化用光触媒のように永続的に効果が必要とされる用途には不向きであるという問題がある。また、Cdなどの重金属は、環境汚染の原因になる虞もあり、好ましくない。
【0009】
一方、このようなアナターゼ結晶型酸化チタンの触媒機能を補う方法として、特許文献5(特開平10−244166号公報)には、アナターゼ結晶型酸化チタンの表面に、光触媒として不活性なリン酸カルシウムの一種であるアパタイトの多孔質層を形成する方法が開示されており、この多孔質層によって分解対象物を吸着し、その後、光触媒の作用により分解を行う旨が記載されている。
【0010】
しかし、該方法によれば、吸着された分解対象物がアナターゼ結晶型酸化チタンの表面に到達して光触媒作用を受けるまでに時間がかかるため、次第に分解対象物やその他の物質が多孔質層に蓄積してしまい、酸化チタンへの光の到達を阻害して触媒活性が低下してしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献6(特開2004−283646号公報)には、酸化チタン等の表面を酸化鉄で被覆した光触媒が開示されており、酸化鉄のバンドギャップエネルギーは約2.2eVであって最大吸収波長が約620nmであるため、スペクトルデータによる理論上は可視光エネルギーの大半を使用でき、微弱な光であっても触媒活性を発揮させる旨が開示されている。
しかし、酸化鉄の伝導帯の位置はO2の還元電位よりも下方にあり、価電子帯の上端がH2O酸化電位よりも上方にある。一方、アナターゼ型酸化チタンをはじめとして通常光触媒として使用される光半導体は、伝導帯の位置はO2還元電位よりも上方にあり、価電子帯の上端がH2O酸化電位よりも下方にある。従って、酸化チタン光触媒によって生じた伝導帯の電子と価電子帯の正孔は、それぞれ酸化鉄(III)の伝導帯及び価電子帯に落ちることになる。これにより、Fe3+の光還元が起こり、Fe2+に変換されてしまう。ところが、この酸化鉄(II)のバンドギャップエネルギーは非常に近接しているため、電子と正孔の再結合を引き起こしてしまい、触媒の光活性を低下させるという問題がある。
加えて、このFe3+からFe2+への光還元によって照射された紫外線エネルギーの一部が消失して光変換効率が低下するため、室内などの光強度の低い場所にあっては極めて不都合となる。
【0012】
また、特許文献7(国際公開WO2002/024333号公報)には、導電性基材上に酸化タングステン層および酸化チタン層をそれぞれ順にコーティングおよび結晶化させてなる光触媒性部材が開示されており、微弱な光であっても光触媒作用により表面が親水化され、曇り防止や自己浄化といった効果を奏することが記載されている。
しかし、ここで開示された光触媒性部材は親水性の発現を目的とするものであり、ホルムアルデヒド等の分解作用という観点では十分な効果を得ることができないものである。
【0013】
【特許文献1】特開2004−38217号公報
【特許文献2】特開平9−262482号公報
【特許文献3】特開2001−205103号公報
【特許文献4】特開2004−209472号公報
【特許文献5】特開平10−244166号公報
【特許文献6】特開2004−283646号公報
【特許文献7】特開2002/024333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、室内のように紫外線量の少ない場所においても十分な光触媒作用を発揮し、ホルムアルデヒドやタバコの臭い成分等を効果的に分解することのできる光触媒粒子を提供することを一の課題とする。
また、本発明は、塗料等に混ぜて使用しやすいように球状であり且つ粒径も均一であるような光触媒を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記のような課題に鑑み、本発明者が鋭意研究したところ、酸化チタンの表面層として酸化タングステンを導入する際にヘテロポリ酸であるケイタングステン酸を用いてこれを焼成することにより、形成された表面層が数Å乃至数nmという極めて薄い層で且つ多孔質となり、更に光透過性にも優れ、しかもその表面層自体が光触媒作用を奏するものとなり、これらの相乗効果によって極めて優れた光触媒粒子となることを見出した。
【0016】
即ち、本発明は、酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸が酸化されてなる表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子を提供する。
また、酸化チタン粒子の表面に、酸化タングステンおよび酸化ケイ素を含有してなる多孔質の表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子を提供する。
好ましくは、前記表面層に、白金クラスターが担持されてなる。
【0017】
本発明に係る光触媒粒子によれば、ケイタングステン酸が酸化されてなる表面層が多孔質となるため、吸着作用によって分解対象物であるホルムアルデヒドやその他の臭い成分を捕捉し、これを光触媒作用によって分解することができる。また、該多孔質層は、単に多孔質であるだけでなく、酸化チタンと比べてバンドギャップエネルギーの低い酸化タングステン結晶が略均一に含有されているため、室内などの光量が少ない場所においても励起されやすく、微弱な光であっても該多孔質層自体が光触媒機能を発揮するものとなる。
【0018】
即ち、酸化チタンおよび酸化タングステンの両方が励起される紫外光が照射された場合には、酸化チタンおよび酸化タングステンの価電子帯に生じた正孔は酸化タングステン表面へと移動して物質の酸化に寄与し、また、酸化チタンおよび酸化タングステンの励起によって生じた励起電子は有機物の還元に寄与する。さらに、表面層に白金クラスターが担持されていれば、酸化チタン又は酸化タングステンの励起によって生じた励起電子が白金クラスターへと移行し、励起電子と正孔の再結合を防止することができ、該光触媒粒子による光触媒機能の向上を図ることができる。
【0019】
また、酸化タングステンのみが励起される可視光が照射された場合には、酸化タングステンの励起によって生じた正孔は単独で触媒表面へと移動して物質の酸化に寄与し、励起電子は有機物の還元に寄与する。さらに、表面層に白金クラスターが担持されていれば、酸化タングステンの励起によって生じた励起電子が白金クラスターへと移行し、励起電子と正孔の再結合を防止し、光触媒機能の向上を図ることができる。
【0020】
さらに、ケイタングステン酸が焼成されてなる表面層には透明度の高い酸化ケイ素が均一に含有されているため、該表面層は光の透過性に優れたものとなり、紫外光や可視光が酸化チタンや酸化タングステンといった光触媒に到達されやすくなり、光触媒機能を十分に発揮させることができる。
【0021】
また、従来、粒子表面に光触媒活性があると他の有機物に混ぜて使用した場合にこれらを劣化させるという問題があったが、本発明に係る光触媒粒子では、その表面層が多孔質となっているために他の有機物との実質的な接触面積が減少し、しかも該表面層が酸化タングステン以外に光触媒活性を有しない酸化ケイ素を含有するものであるため、他の有機物に対して大きな悪影響を及ぼすことがない。
【0022】
また、本発明は、酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸を酸化することによって酸化ケイ素と酸化タングステンを含有する表面層を形成することを特徴とする光触媒粒子の製造方法を提供する。
【0023】
酸化タングステンのような金属酸化物結晶は、巨大なバルク構造を有するものであるため、これを用いて酸化チタン表面に薄い層を形成することは困難であったが、本発明に係る光触媒粒子の製造方法によれば、酸化タングステンの導入に際してヘテロポリ酸であるケイタングステン酸を用いることにより、酸化チタンの表面に数Å乃至数nmという極めて薄い表面層を形成することができる。
そして、ケイタングステン酸を酸化することによって形成した表面層は多孔質となるため、吸着作用によって分解対象物であるホルムアルデヒドやその他の臭い成分を捕捉し、これを光触媒作用によって分解することのできる光触媒粒子を得ることができる。また、該多孔質層は、単に多孔質であるだけでなく、酸化チタンと比べてバンドギャップエネルギーの低い酸化タングステン結晶が含有されたものとなるため、室内などの光量が少ない場所においても励起されやすく、微弱な光であっても該多孔質層自体が光触媒機能を発揮する光触媒粒子となる。
さらに、ケイタングステン酸が焼成されてなる表面層には透明度の高い酸化ケイ素が含有されたものとなるため、該表面層は光の透過性に優れたものとなり、酸化チタンや酸化タングステンによる光触媒機能を十分に発揮しうる光触媒粒子を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明は、有機溶媒中に親水性溶媒が分散してなる逆ミセルを形成し、該逆ミセルの親水性溶媒相において酸化チタン粒子とケイタングステン酸とを接触させて酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を付着させ、ケイタングステン酸が付着した酸化チタン粒子を焼成することによって光触媒粒子を得ることを特徴とする光触媒粒子の製造方法を提供する。
【0025】
本発明に係る製造方法によれば、親水性溶媒が極めて微小な液滴となって有機溶媒中に分散してなる逆ミセルを採用し、この逆ミセルの親水性溶媒相(即ち、分散質)を反応場として利用することにより、酸化チタン粒子とケイタングステン酸とを容易に接触させることができ、表面層の厚み等を分子レベルで容易に制御することができる。
【0026】
さらに、本発明は、水中に酸化チタン粒子を分散させた酸化チタン水分散液と、界面活性剤と、疎水性の有機溶媒とを攪拌して逆ミセルを生成する第一工程、ケイタングステン酸水溶液と親水性の有機溶媒とを混合してケイタングステン酸溶液を調製する第二工程、前記逆ミセルと前記ケイタングステン酸溶液とを混合して酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を堆積させる第三工程、および表面にケイタングステン酸が堆積された酸化チタン粒子を焼成する第四工程を備えることを特徴とする光触媒粒子の製造方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、前記何れかに記載の光触媒粒子が含有されてなることを特徴とする光触媒塗料を提供する。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明に係る光触媒粒子は、酸化チタン粒子の表面に形成された表面層が、吸着機能、光触媒機能および光透過機能を兼ね備えたものであるため、該光触媒粒子および該光触媒粒子が含有されてなる光触媒塗料は、これらの相乗効果によって室内のように紫外線量の少ない場所においても十分な光触媒作用を発揮し、ホルムアルデヒドやタバコの臭い成分等を効果的に分解することができる。
また、本発明に係る光触媒粒子の製造方法によれば、酸化チタン粒子の表面が、酸化タングステンおよび酸化ケイ素が均一に含有されてなる多孔質性の表面層で覆われ、微細で且つ粒径分布のシャープな光触媒粒子を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明において用いる酸化チタン粒子としては、光触媒活性を有する酸化チタン粒子であれば特に限定されず、例えば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、又はこれらの酸化チタンにCr(クロム)、V(バナジウム)又はN(窒素)等がドーピングされてなるものを用いることができる。
中でも、光触媒活性に優れるだけでなく、結晶の熱に対する相安定性をはじめとする物理化学的安定性に富むという観点および安価に入手または製造できるという観点から、アナターゼ型酸化チタンを用いることが好ましい。
【0030】
該酸化チタン粒子の粒径については特に限定されず、用途に応じて種々の粒径のものを使用することができるが、中でも、平均一次粒子径が7〜25nmのものを用いることが好ましい。また、BET比表面積は、60〜280m2/gであるものを用いることが好ましく、更に、平均一次粒子径に基づいて下記式(1)より求めた比表面積Scalcと、BET比表面積SBETとの比(Scalc/SBET)が、1.0〜1.5であるものを用いるのが好ましい。
【0031】

calc(m2/g)= (25[nm]/平均一次粒子径[nm])×60 (1)
【0032】
平均一次粒子径に基づいて求めた比表面積ScalcとBET比表面積SBETとの比(Scalc/SBET)が1.0〜1.5であると、粒子の形状が球形に近くなり且つ均一な粒径を有するものとなる。粒径が均一であれば、後述するケイタングステン酸の焼成や白金クラスターの担持工程において凝集が起こりにくく、最終的に得られる光触媒粒子の比表面積低下を防止することができる。また、得られた粒子が凝集しにくいものとなるため、塗料等に混ぜて使用する場合に塗料中において良好なコロイド分散状態を保つことができ、これにより、分散媒が飛散して乾燥する際には多数の粒子が塗膜表面に露出された状態となる。
【0033】
尚、本発明において、酸化チタン粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて粒子の画像を撮影し、撮影された画像から任意の50個の粒子について測定した直径の平均値をいうものとする。
【0034】
また、該酸化チタン粒子としては、pHが7において負電荷を有していることが好ましい。斯かるチタン酸粒子は、中性又は弱アルカリ性領域では粒子表面が負に帯電しているため、該酸化チタン素表面にケイタングステン酸を容易に付着させやすくなり、ケイタングステン酸を付着した酸化チタン粒子の安定化を図ることができる。
【0035】
尚、酸化チタン粒子がpH7において負電荷を有していることは、水溶液のゼータ電位を測定することによって確認できる。より具体的には、酸化チタン粒子を水中に懸濁させ、pH7におけるゼータ電位が−(マイナス)10mV〜−(マイナス)70mVとなるものが好ましい。
【0036】
本発明において用いるケイタングステン酸は、一般式H4[SiW1240]・nH2O(n≒24)で表されるヘテロポリ酸であり、市販品としては、例えば、キシダ化学社製ケイタングステン酸(26水)等を使用できる。
酸化チタン粒子の表面に付着させる際には、該ケイタングステン酸、および水酸化ナトリウムや水酸化カルシウム等のアルカリとを水中に溶解させ、pHを7〜8程度に調整したケイタングステン酸水溶液を用いることが好ましい。
【0037】
次に、本発明に係る光触媒粒子の製造方法について説明する。
本発明に係る製造方法は、酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸を酸化することによって酸化ケイ素と酸化タングステンを含有する表面層を形成することを特徴とするものであり、好ましくは、逆ミセルの親水性溶媒相を反応場として酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を付着させる工程を採用するものである。
【0038】
以下、本発明の好ましい実施形態として、このような逆ミセルを用いる場合について詳述する。
まず、水中に酸化チタン粒子を分散させた酸化チタン水分散液と、界面活性剤と、疎水性の有機溶媒とを攪拌し、逆ミセルを生成する(本発明において、第一工程ともいう)。
界面活性剤としては、ビス(2−エチルヘキシル))スルホン酸ナトリウムや、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシレン(6)ソルビタンモノステアレートなどを用いることができる。
【0039】
また、疎水性の有機溶媒としては、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ペンタン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、n−オクタン、n−ヘプタン等の炭化水素であれば特に問題なく使用できるが、逆ミセル中へケイタングステン酸溶液を添加して反応させる際の温度および遠心分離後の乾燥工程を考慮すれば、シクロヘキサン又はn−ヘキサンが好適である。
【0040】
一方、ケイタングステン酸については、ケイタングステン酸を水に溶かしてpH7〜8に調整した水溶液を調製し、さらに親水性の有機溶媒と混合してケイタングステン酸溶液を調製する(本発明において、第二工程ともいう)。
親水性の有機溶媒としては、20℃における水への溶解度(g/水100g)が7〜20であるものを使用でき、例えば、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどを挙げることができる。
また、ケイタングステン酸としては、タングステン酸のH+が、Na+やK+などのアルカリ金属、又はCa2+やSr2+などのアルカリ土類金属に置き換えられたケイタングステン酸アルカリを使用してもよい。
【0041】
そして、前記第一工程において調製した逆ミセルと、前記第二工程において調製したケイタングステン酸溶液とを混合し、酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を堆積させる(本発明において、第三工程ともいう)。
逆ミセルとケイタングステン酸とを混合する際には、酸化チタンとケイタングステン酸とのモル比が、酸化チタン:ケイタングステン酸=1:0.005〜1:0.1、好ましくは酸化チタン:ケイタングステン酸=1:0.01〜1:0.05となる比率で混合することが好ましい。
【0042】
さらに、該第三工程においては、白金化合物を粒子表面に付着させておくことが好ましい。白金化合物としては、前記逆ミセルの親水性溶媒相へ導入し得るものであれば特に限定されないが、例えば、アセチルアセトン白金(II)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、ジシアノ(3,3−ビイソキノリン)白金(II)などを用いることができる。
親水性溶媒相へと導入された白金化合物は、有機アミン等を添加することによって析出させることにより、前記酸化チタン粒子又は、その表面に堆積したケイタングステン酸に付着させる。
【0043】
そして、上記第一乃至第三工程によって得られた粒子は、遠心分離およびろ過により固液分離され、さらに乾燥させた後、焼成することによって本発明の光触媒粒子となる(本発明において、第四工程ともいう)。
【0044】
焼成条件は、酸化チタン粒子の表面に堆積させたケイタングステン酸を酸化し、酸化ケイ素および酸化タングステンの結晶構造からなる表面層を形成しうる条件とすればよく、例えば、400〜600℃の温度にて行えばよい。
【0045】
本実施形態の製造方法のように、逆ミセルの親水性溶媒相を反応場として酸化チタンの表面にケイタングステン酸を堆積させ、さらに白金を付着させた後に焼成する方法によって得られた光触媒粒子は、酸化チタン粒子の表面が酸化ケイ素および酸化タングステンを均一に含有する多孔質な表面層によって覆われ、均一且つ微細な粒径を有するものとなる。
【0046】
該光触媒粒子としては、特に、平均一次粒子径が15〜50nmであり、BET比表面積が120〜500m2/gであり、しかも平均一次粒子径に基づく比表面積Scalcと、BET比表面積SBETとの比(Scalc/SBET)が、2.5〜3.5であるものが好ましい。
斯かる構成の光触媒粒子であれば、粒子表面には数Å〜数nmという非常に微細な孔径の多孔質層が形成されているため、大きな内部表面を有し、しかも、一旦吸着した分解対象物が分解されずに脱離するのを防止できる。よって、このような光触媒粒子であれば、表面層の光触媒作用との相乗効果がより一層顕著に発揮されることとなるため、従来の光触媒と比べて分解対象物の分解速度が大幅に増大することとなる。
【0047】
本発明に係る光触媒塗料は、例えば、上記のようにして得られた光触媒粒子を、任意の塗料ビヒクル中に分散させることによって得ることができる。塗料の形態としては、溶媒が存在しない無溶剤型塗料、溶媒が有機溶剤である溶剤型塗料、溶媒が水又は水と親水性溶剤との混合物である水系塗料など、用途に応じたあらゆる形態の塗料を採用することができる。
中でも、光触媒反応は水分子が必須であるという観点から、樹脂骨格にもカルボキシル基やポリアルキレンオキサイド鎖などの親水セグメントが必然的に存在する水性樹脂が好ましく、とくに実質的に溶剤フリーである樹脂エマルションに代表される水分散型樹脂からなる水性塗料が好ましい。
樹脂の組成に関しては、構成ポリマーの種別としてシリコーン樹脂やフッ素樹脂が好ましく、紫外線を十分に透過させることによって光触媒粒子の活性をさらに高めることができる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
光触媒粒子の調製
中性チタニアゾル(堺化学社製、商品名CSB−M、平均一次粒子径15nm、pH7におけるゼータ電位−11mV)40gに水を加えて1Lにし、約0.1mol/Lのチタニア水溶液を調製した。一方、ケイタングステン酸(26水和物)(キシダ化学社製)を80℃の水に溶かした後、1%水酸化ナトリウムにてpHを7〜7.5となるように調整し、さらにn−プロパノールを10ml加えた後、約0.1mol/Lのケイタングステン酸ナトリウム水溶液を調製した。
前記チタニア水溶液100mlと、シクロヘキサン200ml、界面活性剤としてビス(2−エチルヘキシル)スルホン酸ナトリウム0.03molおよびポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレート0.1molとをホモジナイザーにて5000rpmで3分間攪拌し、ほぼ透明な逆ミセルを得た。
さらに、該逆ミセルをスターラー上で50℃にて300rpmにて攪拌しながら、前記ケイタングステン酸ナトリウム水溶液2mlを0.01ml/分にて定量ポンプにて添加し、逆ミセル内に吸収させた。
次に、アセチルアセトン白金(II)をn−ブタノールに溶解させた溶液5mlを、同じく0.01ml/分にて定量ポンプにて添加した。
その後、モノエタノールアミンの1%シクロヘキサノール溶液10mlを、0.01ml/分にて添加し、ゆっくりと白金粒子を析出させた。
そして、室温にて24時間放置した後、遠心分離、ろ過を繰り返し、120℃にて5時間予備乾燥させた後、450〜500℃にて焼成し、光触媒粒子を得た。
【0049】
分析
得られた光触媒粒子をイソプロピルアルコールに混ぜ、該溶液を銅グリッドに保持されたカーボンフィルム上に滴下し、これを試験サンプルとして透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM−2100F、加速電圧200kV)を用いて撮影した。得られた透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0050】
図1より、光触媒粒子の構造、大きさおよび形態を観察したところ、光触媒粒子の平均一次粒子径は40nmであり、白金クラスターの表面占有率は、約25%であった。
尚、光触媒粒子の平均粒子径、および該粒子一つ当りに坦持された白金量は、粒子表面における白金の表面占有率によって求め、50個の平均値として求めた。
【0051】
また、光触媒粒子の組成については、エネルギー分散型X線分析装置(日本電子製、JED−2300T)によって測定した。組成分析の結果、チタン/タングステン/白金の元素モル比は、100/33/4.5であることが判った。
【0052】
光触媒塗料の調製
さらに、該光触媒粒子10gに、水100gおよび顔料分散剤(Disperbyk−190)1gを混合し、ロッキングミル(セイワ技研、RM−10)にて24時間振とうして光触媒分散液を得た。粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラック粒度分析計UPA−EX)にて該光触媒分散液の平均コロイド径を測定したところ、100nmであった。そして、該光触媒分散液10gにテトラアルコキシシラン加水分解縮合物・水分散液(三菱化学社製、MSH−7)20gを混合した後、1000rpmにて低速攪拌した後、300メッシュのナイロン網でろ過し、光触媒塗料を得た。粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラック粒度分析計UPA−EX)にて該光触媒塗料の平均コロイド径を測定したところ、40nmであった。
【0053】
(比較例1)
アパタイト被覆酸化チタン(昭和電工製、ジュピターF4−AP)を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光触媒塗料を調製した。
【0054】
(比較例2)
シリカ複合チタン(日本触媒社製、SX−T1)を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光触媒塗料を調製した。
【0055】
(比較例3)
酸素欠損型の可視光応答型酸化チタン光触媒(エコデバイス社製、ブルーアクティブPW−25)を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光触媒塗料を調製した。
【0056】
(比較例4)
窒素ドープ型の可視光応答型酸化チタン光触媒(住友化学社製、TP−S)を用いることを除き、他は実施例1と同様にして光触媒塗料を調製した。
【0057】
(光触媒活性試験その1 蛍光灯を光源とした場合)
密閉可能な一辺1mの立方体ガラス容器の天井面に、アルミニウム反射板と昼光色蛍光灯(東芝ライテック社製、20WFL20SS・EX−N/18−Z−2P、図2に示す分光分布のもの)を取り付け、底面での350nm紫外線強度が5μW/cm2になるように固定した。
光触媒塗料を、該ガラス容器の内面に、5g/m2の塗膜重量(塗膜厚にて約3〜5μm)となるようにスプレーコートし、80℃で24時間乾燥硬化させた。
ガラス容器の底面中央部にマグネチックスターラーを設置し、200rpmで回転させることにより内部空気を常に対流させながら容器を密閉し、アセトアルデヒドガスを初期濃度が100ppmになるように注入した後、暗黒状態で20℃の下16時間放置し、試験容器および光触媒粒子へアセトアルデヒドを吸着飽和させた。その後、再度、内部のアセトアルデヒドガスが50ppm濃度となるように調整した後、蛍光灯を点灯させて試験を開始した。
48時間が経過するまでのアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、光触媒による分解効果を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
(光触媒活性試験その2 紫外線の少ない蛍光灯を光源とした場合)
波長400nm未満の紫外線が少ない昼光色蛍光灯(東芝ライテック社製、FLR40S・EX−N/M・P・NUH 40W、図3に示す分光分布のもの)を用い、底面における紫外線強度を0.65μW/cm2としたこと以外は上記と同様にし、光触媒による分解効果を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表1に示した結果によれば、本発明に係る実施例1の光触媒塗料では、比較例の光触媒塗料と比較して、極めて短時間で光触媒作用によってホルムアルデヒドを分解していることが認められる。また、表2に示したように、本発明に係る光触媒塗料は紫外光のカットされた可視光のみであっても十分に光触媒作用を発揮し、比較例の光触媒塗料と比べて極めて短時間でホルムアルデヒドを分解しうることが認められる。
【0062】
(耐久性試験)
実施例および比較例1〜4の光触媒塗料、並びに、アナターゼ型酸化チタン(石原産業製、ST−01)を用いて同様に調製した比較例5の光触媒塗料を、ガラス板(70mm×150mm×2mm)に5g/m2の塗膜重量となるようにスプレーコートした後、80℃にて24時間、乾燥硬化させた。その塗膜をキセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、X75)にて標準条件(ブラックパネル温度63℃、降雨18分/120分)で1000時間の促進暴露を行った。
暴露後の試験板を、暴露しない試験板とともにシャーレに入れ、10ppmのメチレンブルー水溶液に浸漬させて20℃で24時間放置し、光触媒粒子にメチレンブルーを吸着飽和させた。そして、該10ppmのメチレンブルー水溶液を取り除いた後、5ppmのメチレンブルー水溶液を試験板の上1mmの深さとなるように注ぎ、さらに試験板の上に厚さ1mmの透明ガラス板を載せて水溶液の蒸発を防止する状態とし、昼光色蛍光灯(東芝ライテック社製、20WFL20SS・EX−N/18−Z−2P)を用い、350nm紫外線強度が150μW/cm2になるように調整し、24時間放置した際の透過率を測定した。結果を表3に示す
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示したように、本発明に係る実施例1の光触媒塗料では、比較例の光触媒塗料と比較して、極めて高い光触媒機能の耐久性を有していることが認められる。また、比較例3や比較例4のように、酸化チタンの一部に変性が加えられたものについては、比較例5のアナターゼ型酸化チタンよりも悪い結果となっており、外的な要因、つまり温度、湿度、紫外線などの影響により光触媒活性の低下を招き、長期の使用、特に屋外での使用には適さないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る光触媒粒子は、塗料や成形品マスターバッチなどの中間製品として使用できることは言うまでも無く、壁紙、シート、繊維、プラスチック成形品、フィルター、フィルム、陶磁器、セメント成形品などの製品に使用することができ、製造過程においては、混練り又はコーティングの何れをも採用できる。また、これらの製品は、室内用として使用できるのは勿論のこと、屋外用としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1の光触媒粒子の透過型電子顕微鏡写真を示した図面代用写真。
【図2】光触媒活性試験その1で用いた蛍光灯の分光分布図。
【図3】光触媒活性試験その2で用いた蛍光灯の分光分布図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸が酸化されてなる表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子。
【請求項2】
酸化チタン粒子の表面に、酸化タングステンおよび酸化ケイ素を含有してなる多孔質の表面層を備えたことを特徴とする光触媒粒子。
【請求項3】
前記表面層に、白金クラスターが担持されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の光触媒粒子。
【請求項4】
酸化チタン粒子の表面に、ケイタングステン酸を酸化することによって酸化ケイ素と酸化タングステンを含有する表面層を形成することを特徴とする光触媒粒子の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒中に親水性溶媒が分散してなる逆ミセルを形成し、該逆ミセルの親水性溶媒相において酸化チタン粒子とケイタングステン酸とを接触させて酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を付着させ、ケイタングステン酸が付着した酸化チタン粒子を焼成することによって光触媒粒子を得ることを特徴とする光触媒粒子の製造方法。
【請求項6】
水中に酸化チタン粒子を分散させた酸化チタン水分散液と、界面活性剤と、疎水性の有機溶媒とを攪拌して逆ミセルを生成する第一工程、ケイタングステン酸水溶液と親水性の有機溶媒とを混合してケイタングステン酸溶液を調製する第二工程、前記逆ミセルと前記ケイタングステン酸溶液とを混合して酸化チタン粒子の表面にケイタングステン酸を堆積させる第三工程、および表面にケイタングステン酸が堆積された酸化チタン粒子を焼成する第四工程を備えることを特徴とする光触媒粒子の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程において、逆ミセルと前記ケイタングステン酸溶液とを混合する際、酸化チタン:ケイタングステン酸のモル比を1:0.01〜1:0.05とすることを特徴とする請求項6記載の光触媒粒子の製造方法。
【請求項8】
前記第三工程において、前記ケイタングステン酸を堆積させた後、さらに白金化合物を粒子表面に付着させることを特徴とする請求項6又は7記載の光触媒粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3の何れかに記載の光触媒粒子が含有されてなることを特徴とする光触媒塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−305527(P2006−305527A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134301(P2005−134301)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(305020011)アルティス株式会社 (1)
【出願人】(305020033)
【Fターム(参考)】