説明

光触媒膜およびそれを有する物品

【課題】 透明無機系基材上に形成されてなる光触媒膜であって、良好な親水性能を有すると共に、干渉縞の発生を抑え、かつ反射率を低減させた高い透明性を有する光触媒膜を提供する。
【解決手段】 透明無機系基材上に形成されてなる、チタンアルコキシド加水分解縮合物をバインダーとする光触媒膜であって、前記透明無機系基材の屈折率と、前記光触媒膜表面の屈折率の差が特定の関係にあると共に、シリカ粒子を含まないか、あるいは特定の粒径を有するシリカ粒子の1種または2種を、所定の割合で含む光触媒膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒膜およびそれを有する物品に関する。さらに詳しくは、本発明は、ガラス板などの透明無機系基材上に形成されてなる光触媒膜であって、良好な親水性能を有すると共に、高い透明性を有する光触媒膜、および透明無機系基材上に該光触媒膜を備えてなる物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、一般にそのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、伝導帯に電子が励起され、価電子帯に正孔が生じる。そして、励起されて生じた電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2−)を生成すると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒からなる膜の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
【0003】
このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去などが検討されている。
【0004】
また、光触媒のもう1つの機能として、該光触媒が光励起されると、例えば特許文献1に開示されているように、光触媒膜表面は、水との接触角が10度以下となる超親水化を発現することも知られている。このような光触媒の超親水化機能を応用して、例えば、防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的として、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類などに光触媒膜を用いることが検討されている。
【0005】
このような光触媒については、これまで数多く知られており、中でも酸化チタンは代表的なものの一つに挙げられる。酸化チタンには無定形のアモルファス型のほか、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3つの代表的な結晶系が存在し、これら3つの結晶系で光触媒活性を示し、有機物の分解能のほか、超親水性を発現することで有名である。これらの中でアナターゼ型が最も高い活性を示すことが一般に知られている。
【0006】
ところで、透明で優れた耐候性を有する外装材としてガラス材料がよく使われているが、透明であるが故に、昨今特に高層ビルの外装材などで、表面の防汚性・易洗性が強く求められるようになっている。
【0007】
一般的な板ガラス(ソーダ石灰ガラス)の屈折率は約1.52であるが、石英ガラスの屈折率は1.46、パイレックス(登録商標)ガラスは1.47と低屈折率なものもあれば、ガラス中に微量のFe、Ni、Co等の金属を加えた熱線吸収ガラスや放射線遮蔽機能を有する鉛ガラスの屈折率など、その添加量にもよるが最大で屈折率が1.92にまで及びガラスが存在する。また昨今、熱線反射機能の付与等を目的に、様々な屈折率の金属酸化物薄膜を成膜した高機能ガラス材料も多く開発されており、様々な分野で利用されている。
【0008】
これらに光触媒膜を成膜する場合、光触媒活性や光誘起親水化特性を考慮するとその厚みは、50nm〜100nm程度に設定されることが多い。その光触媒として代表的な材料である酸化チタン(アナターゼ型)はその屈折率がおおよそ2.5であるため、薄膜の光学厚みが125nm〜250nmと可視光領域(400〜800nm)の1/4波長の範囲に含まれることが多く、結果として干渉縞を発生させるという問題点を有する。またその表面が高屈折率材料で被われるため、反射率が上昇し、野外からみるとぎらつき感を感じるという問題点も指摘される。
【0009】
【特許文献1】国際特許公開96/29375号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情のもとで、ガラス板などの透明無機系基材上に形成されてなる光触媒膜であって、良好な親水性能を有すると共に、干渉縞の発生を抑え、かつ反射率を低減させた高い透明性を有する光触媒膜、および透明無機系基材上に該光触媒膜を備えてなる物品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
野外に施工するガラス材料に光触媒膜を塗工する場合、光触媒塗工前後で反射率を変えないようにするためには、光触媒膜表面の屈折率を、塗工するガラス表面と一致させればよい。例えば鉛ガラスのように屈折率が高い材料(1.92)においても、パイレックス(登録商標)ガラスのように屈折率が低い材料(1.47)においても、光触媒膜の屈折率を基材と同じに調整することによって、干渉色を生じさせることなく、その透明性を向上させることができる。
【0012】
また基材と比較して意図的に屈折率を下げた光触媒膜を設けることによって、その透明性を向上させることもできる。加えて、光触媒膜面に数十nm程度の凹凸構造をつけることによっても、ヘイズ値の上昇を引き起こすことなく、その反射率を低下させることができる。
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するために、上記事項について着目し、検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1] 透明無機系基材上に形成されてなる、チタンアルコキシド加水分解縮合物をバインダーとする光触媒膜であって、
(1)前記透明無機系基材の屈折率と、前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦透明無機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.20 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、シリカ粒子を含まないか、あるいは平均粒径40nm未満のシリカ粒子Aと、平均粒径40nm以上80nm未満のシリカ粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で、または前記シリカ粒子Aと、平均粒径80nm以上150nm未満のシリカ粒子Cとを、質量比100:0〜45:55の割合で含むこと、
を特徴とする光触媒膜、
[2] 構成成分として、光触媒活性粒子、チタンアルコキシドの加水分解縮合物からなるバインダーおよびシリカ粒子を含み、これらの混合比率を制御することにより、光触媒膜表面の屈折率を調整する上記[1]項に記載の光触媒膜、
[3] 光触媒活性粒子が、二酸化チタン系光触媒活性粒子である上記[2]項に記載の光触媒膜、
[4] シリカ粒子が、コロイダルシリカである上記[1]〜[3]項のいずれか1項に記載の光触媒膜、
[5] 透明無機系基材が、ガラス板である上記[1]〜[4]項のいずれか1項に記載の光触媒膜、
[6] 透明無機系基材の表面に、上記[1]〜[5]項のいずれか1項に記載の光触媒膜を有することを特徴とする物品、および
[7] 光触媒膜の表面に、さらに機能膜を有する上記[6]項に記載の物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス板などの透明無機系基材上に形成されてなる光触媒膜であって、良好な親水性能を有すると共に、干渉縞の発生を抑え、かつ反射率を低減させた高い透明性を有する光触媒膜、および透明無機系基材上に該光触媒膜を備えてなる物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の光触媒膜について説明する。
[光触媒膜]
本発明の光触媒膜は、透明無機系基材上に形成されてなる、チタンアルコキシド加水分解縮合物をバインダーとする光触媒膜であって、
(1)前記透明無機系基材の屈折率と、前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦透明無機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.20 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、シリカ粒子を含まないか、あるいは平均粒径40nm未満のシリカ粒子Aと、平均粒径40nm以上80nm未満のシリカ粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で、または前記シリカ粒子Aと、平均粒径80nm以上150nm未満のシリカ粒子Cとを、質量比100:0〜45:55の割合で含むこと、
を特徴とする。
【0017】
(透明無機系基材)
本発明の光触媒膜において、該光触媒膜が形成される基材として、透明無機系基材が用いられる。この透明無機系基材としては特に制限はないが、各種ガラス板、例えばパイレックス(登録商標)ガラス(屈折率1.47)、ソーダ石灰ガラス板(屈折率1.52)、鉛ガラス板(屈折率1.90)、石英ガラス板(屈折率1.46)などを用いることができる。
当該透明無機系基材は、その上に形成される光触媒膜へのNaなどの金属イオンの移動の防止や密着性を向上させる目的で、所望によりシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などのカップリング剤を用いて表面処理してもよい。当該無機系基材の厚さに制限はなく、用途に応じて適宜選定されるが、通常10〜2000μm程度、好ましくは50〜200μmである。
【0018】
(光触媒膜の形成)
本発明においては、前記の透明無機系基材上に、光触媒膜を形成する。
この光触媒膜は、例えば(A)光触媒活性粒子と、(B)無機系バインダーと、所望により用いられる(C)凹凸形成用シリカ粒子および(D)光触媒促進剤とを含む分散液からなる光触媒膜形成用コーティング剤を、透明無機系基材上に、公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗布し、自然乾燥または加熱乾燥することにより、形成することができる。
【0019】
前記(A)成分の光触媒活性粒子としては、二酸化チタン系光触媒活性粒子、例えばアナターゼ型、ルチル型およびブルッカイト型の結晶質二酸化チタンを好ましく挙げることができ、特にアナターゼ型二酸化チタンが好適である。このアナターゼ型二酸化チタンは、太陽光などの日常光に含まれる紫外線領域の特定波長の光を吸収することによって優れた光触媒活性を示す。また、窒化チタンや低次酸化チタンを一部含有するもの、窒素や硫黄原子がドープされたもの、あるいはV、W、Fe、Co、No、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Pt、Auの中から含まれる少なくとも1種の金属および/または金属酸化物をはじめとする金属化合物を担持させたものなど、高感度型および/または可視光応答型の酸化チタンなども好適である。
【0020】
本発明においては、(A)成分として用いられる光触媒活性粒子の平均粒径は、通常1〜500nm、好ましくは1〜100nmである。
【0021】
本発明においては、前記(B)成分である無機系バインダーとして、チタンアルコキシドの加水分解縮合物が用いられる。
【0022】
チタンアルコキシドとしては、アルコキシル基の炭素数が1〜4程度のチタンテトラアルコキシドが好ましく用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。上記チタンテトラアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記チタンテトラアルコキシドを加水分解−縮合させて、バインダー液を調製する。このチタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、好ましくは炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を溶媒として用い、酸性触媒の存在下でチタンテトラアルコキシドに水を作用させることにより行われる。
【0024】
上記炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にチタンテトラアルコキシドに対する相互作用が強いセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
このようなチタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤を溶媒として用いることにより、チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたバインダー液を安定化させることができ、縮合反応を進行させてもゲル化や粒子化が生じにくくなる。
【0026】
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モル程度、好ましくは5〜12倍モルの上記アルコール類と、0.5倍モル以上4倍モル未満程度、好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0027】
本発明において、所望により用いられる前記(C)成分である凹凸形成用のシリカ粒子は、光触媒膜表面の屈折率を低下させると共に、該光触媒膜の表面にナノレベルでのラフネスを設け、反射率を低減させる作用を有している。
【0028】
本発明においては、この凹凸形成用のシリカ粒子として、平均粒径40nm未満のシリカ粒子Aと、平均粒径40nm以上80nm未満のシリカ粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で含む混合物、または前記シリカ粒子Aと、平均粒径80nm以上150nm未満のシリカ粒子Cとを、質量比100:0〜45:55の割合で含む混合物が用いられる。前記シリカ粒子A〜Cとしては、コロイダルシリカが好適である。
【0029】
本発明で用いる光触媒膜形成用コーティング剤の固形分における、前記(C)成分のシリカ粒子の含有量は、前記シリカ粒子の作用が効果的に発揮されるには、10〜80質量%が好ましく、20〜65質量%がより好ましい。
【0030】
一方、所望により用いられる(D)成分である光触媒促進剤としては、例えば白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどの白金族金属が好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光触媒促進剤の添加量は、光触媒活性の点から、通常、光触媒活性粒子と光触媒促進剤との合計量に基づき、1〜20質量%の範囲で選ばれる。
【0031】
当該光触媒膜形成用コーティング剤には、バインダー成分であるチタンアルコキシドの加水分解縮合物の結晶生成を調整する物質として、無機金属塩、有機金属塩並びにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種の金属系化合物を含有させることができる。具体的には、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムや、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等の各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物が好適である。前記結晶生成調整物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明においては、光触媒膜形成用コーティング剤は、適当な溶媒中に、前記(A)光触媒活性粒子と、(B)無機系バインダーと、所望により用いられる(C)凹凸形成用のシリカ粒子、(D)光触媒促進剤およびその他添加成分とを加え、分散させることにより、調製することができる。
【0033】
また、このコーティング剤には、従来光触媒膜形成用コーティング剤に使用される公知の他の添加成分、例えばシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂、シランカップリング剤などを含有させることができる。
【0034】
当該コーティング剤中の固形分濃度としては、透明無機系基材上に塗布し、所望の膜厚の光触媒膜を形成し得る粘度を有するものであればよく、特に制限はない。
【0035】
(光触媒膜の性状)
本発明の光触媒膜は、用いる透明無機系基材の屈折率とその上に形成される光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦透明無機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.20 …(1)
を満たすことが必要である。
【0036】
透明無機系基材がガラス材料である場合、一般的な板ガラス(ソーダ石灰ガラス)の屈折率は約1.52であるが、石英ガラスの屈折率は1.46、パイレックス(登録商標)ガラスは1.47と低屈折率のものもあれば、ガラス中に微量のFe、Ni、Co等の金属を加えた熱線吸収ガラスや放射線遮蔽機能を有する鉛ガラスの屈折率など、その添加量にもよるが最大で屈折率が1.92にまで及びガラスが存在する。また昨今、熱線反射機能の付与等を目的に、様々な屈折率の金属酸化物薄膜を成膜した高機能ガラス材料も多く開発されており、本発明の対象となるガラス材料の表面屈折率は、概ね1.45〜1.95の間で様々な値をとると考えて良い。
【0037】
この基材上に屈折率の異なる薄膜を積層させると、塗工面の反射特性は薄膜の屈折率で決まるようになる。また薄膜の厚みによっては、薄膜表面の反射光と基材との界面からの反射光で干渉が生じ、結果として色がつくこともある。従って、薄膜を透明にするためには、基材と薄膜の屈折率をできるだけ一致させることが最も簡単で効果的である。
【0038】
光触媒膜として、二酸化チタン系光触媒と、チタンアルコキシドの加水分解縮合物からなる無機バインダーを基本構成とするものを用いる場合、該光触媒膜表面の屈折率が約1.92となり、ほとんどのガラス基材に対して、成膜することで干渉縞が生じるようになってしまう。そこで、シリカ粒子のような低屈折率粒子を光触媒膜に含有させ、屈折率を調整することにより、使用するガラス基材の屈折率に近づけることができる。例えば光触媒膜表面の屈折率を約1.45程度まで低下させることができる。
【0039】
本発明においては、「透明無機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率」を0以上0.20未満に制御する。前記の屈折率が0未満(光触媒膜表面の屈折率が、透明無機系基材の屈折率より大きい)では透明性が低下し、一方、0.20以上であれば干渉縞が発生しやすい。前記の屈折率差の好ましい値は0〜0.15の範囲である。
【0040】
一方、光触媒膜表面に、ナノレベルでのラフネスを設けることによっても、反射率を低減することが可能である。したがって、本発明においては、光触媒膜中に、平均粒径150nm未満のシリカ粒子を含有させることができる。この場合、該シリカ粒子として、平均粒径40nm未満のシリカ粒子Aと、平均粒径40nm以上80nm未満のシリカ粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で、または前記シリカ粒子Aと、平均粒径80nm以上150nm未満のシリカ粒子Cとを、質量比100:0〜45:55の割合で含有させる。
【0041】
このような条件を満たすことにより、本発明においては、干渉縞の発生を抑え得ると共に、JIS K 7361に準拠して測定される、光触媒膜形成前後のヘイズ値の上昇を0.3%以下に抑えることができ、かつ光触媒膜形成前後の全光線透過率を2%近く上昇させることが可能となる。
【0042】
前記の平均粒径を有するシリカ粒子の混合割合が、前記範囲を逸脱すると、光触媒膜形成前後のヘイズ値が0.3%を超えて上昇する場合があり、またシリカ粒子として、平均粒径が150nm以上の粒子を用いると、大幅なヘイズ値の上昇を招く。
【0043】
なお、透明無機系基材の屈折率および光触媒膜表面の屈折率は、下記の方法に従って測定した値である。
<屈折率の測定>
(1)透明無機系基材の屈折率
まず両面研磨された透明無機系基材について(特に注意のない限り、以下の透明無機系基材は全て両面研磨されたものを使用している。)、日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度計「V−600」を用い、400nm〜800nmの反射率スペクトルRおよび透過率スペクトルTを測定し、その後、基材の裏面をサンドブラスト処理し、次いで黒色の艶消し塗料を塗布したのち、同様にして表面の反射率スペクトルRoを測定する。
【0044】
次に、波長λの時の反射率R、Ro、透過率T及び基材の厚みd(単位:nm)から、以下の式を用いて消衰係数kmを求め、屈折率nmを求める。
【0045】
【数1】


最後にそれぞれの波長で得られたnmの平均値を持って、基材の屈折率とする。
【0046】
(2)光触媒膜表面の屈折率
まず光触媒膜を塗工した透明無機系基材の非塗工面をサンドブラスト処理し、次いで黒色の艶消し塗料を塗布したのち、日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度計「V−600」を用い、光触媒塗工面側の400nm〜800nmの反射率スペクトルRtを測定する。また薄膜の断面を日本電子社製の電子顕微鏡「JSM−6700F」を用いて観察し、その膜厚dを測定する。(設定厚みと同じであることを確認する。)
一方上記(1)にて既知となった透明無機系基材の消衰係数km、屈折率nm、薄膜の膜厚dと、光触媒薄膜のおおよその消衰係数kp、屈折率npを元に、以下の式を用いて光触媒塗工面側の400nm〜800nmの反射率スペクトルRsを算出する。
【0047】
【数2】

【0048】
実際の反射率スペクトルRtと測定の反射率スペクトルRsを比較しながら、計算に用いた光触媒膜のおおよその消衰係数kp、屈折率npを調整することで両スペクトルを一致させ、スペクトルが一致したときの屈折率npを光触媒膜の真の屈折率とした。なお、後述の実施例5〜8及び比較例4〜6の場合では、表面に凹凸構造があるため、この方法で屈折率を算出することはできない。これらの塗膜の屈折率は、シリカ粒子の平均粒径が異なるのみでその質量比が同一である実施例1及び実施例4の光触媒膜の屈折率と同じであると近似した。
【0049】
また、透明無機系基材のヘイズ値および光触媒膜が設けられた透明無機系基材のヘイズ値は、下記の方法に従って測定した値である。
【0050】
<ヘイズ値の測定>
(1)透明無機系基材のヘイズ値
所定の透明無機系基材について、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠してヘイズ値を求める。
(2)光触媒膜が設けられた透明無機系基材のヘイズ値
所定の透明無機系基材上に厚さ100nmの光触媒膜が設けられたものについて、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠してヘイズ値を求める。
このような性状を有する本発明の光触媒膜は、良好な親水性能を有すると共に、干渉縞の発生を抑え、かつ反射率を低減させた高い透明性を有している。
次に、本発明の物品について説明する。
【0051】
[物品]
本発明の物品は、透明無機系基材の表面に本発明の光触媒膜を有することを特徴とする。
さらに、本発明の物品は、本発明の光触媒膜の機能を害さない範囲で、前記光触媒膜の表面に、厚みが500nm以下である機能膜をさらに設けることができる。
【0052】
上記機能膜の機能としては、暗所での親水保持性、導電性、帯電性、ハードコート性、反射特性制御、屈折率制御などが挙げられる。また、上記機能膜の具体的な構成成分としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ITO、酸化亜鉛などの金属酸化物系化合物が挙げられる。特に、太陽光が当たらない夜間において、親水性を保持するためなどを目的として、シリカを含んでなるものであることが好ましい。
【0053】
本発明の物品において、光触媒膜が形成される透明無機系基材としては、前記で例示した各種ガラス板、例えばパイレックス(登録商標)ガラス板、ソーダ石灰ガラス板、鉛ガラス板、石英ガラス板、さらには熱線吸収ガラス板、放射線遮蔽ガラス板などを挙げることができる。これらの透明無機系基材は、前記と同様に、その上に形成される光触媒膜との密着性を向上させる目的で、所望によりシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などのカップリング剤を用いて表面処理してもよい。当該透明無機系基材の厚さは特に制限はなく、用途に応じて適宜選定されるが、10〜2000μm程度、好ましくは50〜200μmである。
【0054】
本発明の物品の用途としては、特に防汚性・易洗性が強く要求される高層ビルの外装材などとして有用であり、その他、窓ガラスや、照明、時計、表示媒体などのガラスカバー、防犯カメラのレンズやセンサー発光・受光部のカバー、死角視認用のミラーなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0056】
なお、各例で形成された光触媒膜の性能は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)無機系基材の屈折率および光触媒膜表面の屈折率
明細書本文記載の方法に従って測定した。
(2)ヘイズ値の差
明細書本文記載の方法に従って、無機系基材および光触媒膜が設けられた無機系基材のヘイズ値を測定し、光触媒膜形成前後のヘイズ値の差(光触媒膜形成後のヘイズ値−形成前のヘイズ値)を求めた。
(3)全光線透過率の差
無機系基材の全光線透過率および光触媒膜が設けられた無機系基材の全光線透過率を、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠して測定し、光触媒膜形成前後の全光線透過率の差(光触媒膜形成後の全光線透過率−形成前の全光線透過率)を求めた。
(4)比表面積
光触媒膜表面の比表面積を、原子間力顕微鏡AFM(キーエンス社製、「VN8000」)にて測定した。
(5)干渉色の有無
日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度計「V−600」を用い、光触媒膜を塗工した透明無機系基材の光触媒塗工面(表面)及び非塗工面(裏面)の400nm〜800nmの反射率スペクトルを測定する。
【0057】
それぞれの反射率スペクトルにおいて、400nm〜800nmの反射率の最大値と最小値を算出し、その差が3%未満であれば干渉がない、3%以上5%未満であれば干渉が僅かにあり、5%以上で干渉があるとした。
【0058】
合成例1:チタンアルコキシドの加水分解縮合液の調製
エチルセロソルブ14.9gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)7.6gを攪拌しながら滴下し、溶液(A)を得た。この溶液(A)にエチルセロソルブ5.8g、蒸留水0.46g、60質量%濃硝酸1.3gの混合溶液を攪拌しながら滴下し溶液(B)を得た。溶液(B)をその後、30℃で4時間攪拌することによってチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を得た。次に、エチルセロソルブ85gに上記記載のチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を30g加えた。続いてこの液に硝酸アルミニウム9水和物1.1gを混合し、無機バインダー(D)を得た。
【0059】
実施例1
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)1.33gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0060】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のパイレックス(登録商標)ガラス基板(屈折率:1.47)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)、ヘイズ値ともその差違は0.1%未満であった。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0061】
実施例2
エチルセロソルブ26.8gと1−プロパノール51.2gの混合溶媒に無機バインダー(D)12.6gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水6.79g、60質量%濃硝酸0.35gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)0.48gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)2.17gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0062】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.52であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)、ヘイズ値ともその差違は0.1%未満であった。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0063】
実施例3
エチルセロソルブ26.3gと1−プロパノール50.7gの混合溶媒に無機バインダー(D)15.2gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水4.61g、60質量%濃硝酸0.22gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)3.38gをゆっくりと滴下した。その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0064】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角の鉛ガラス基板(屈折率:1.90)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.89であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)、ヘイズ値ともその差違は0.1%未満であった。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0065】
実施例4
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)1.33gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0066】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)は0.5%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0000であった。
【0067】
実施例5
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)0.66g、コロイダルシリカB(商品名:IPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)0.66gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0068】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)は1.0%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0006であった。
【0069】
実施例6
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)0.23g、コロイダルシリカB(商品名:IPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)1.10gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0070】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)は1.5%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0008であった。
【0071】
実施例7
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカB(商品名:IPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)1.33gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0072】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値は0.3%上昇したが、全光線透過率(Tt)は2.0%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0024であった。
【0073】
実施例8
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)0.66g、コロイダルシリカC(商品名:IPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)0.66gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0074】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値は0.1%上昇したが、全光線透過率(Tt)は1.0%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0005であった。
【0075】
比較例1
エチルセロソルブ26.8gと1−プロパノール51.2gの混合溶媒に無機バインダー(D)12.6gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水6.47g、60質量%濃硝酸0.35gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)0.48gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)2.17gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0076】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のパイレックス(登録商標)ガラス基板(屈折率:1.47)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.52であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)は0.5%低下した。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0077】
比較例2
エチルセロソルブ18.7gと1−プロパノール43.0gの混合溶媒に無機バインダー(D)30.4gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水6.67g、60質量%濃硝酸0.15gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)0.48gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)1.00gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0078】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のパイレックス(登録商標)ガラス基板(屈折率:1.47)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.68であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であり、全光線透過率(Tt)は2.0%低下したが、干渉色の発生が認められた。
【0079】
比較例3
エチルセロソルブ21.0gと1−プロパノール45.4gの混合溶媒に無機バインダー(D)25.3gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水6.70g、60質量%濃硝酸0.21gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)0.48gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)1.33gを滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0080】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角の鉛ガラス基板(屈折率:1.90)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.61であった。得られたサンプルは、塗工前後でヘイズ値の差違は0.1%未満であり、全光線透過率(Tt)は1.5%向上したが、干渉色の発生が僅かに認められた。
【0081】
比較例4
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)0.23g、コロイダルシリカC(商品名:IPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)1.10gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0082】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)が1.5%向上したが、ヘイズ値も0.4%上昇した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0012であった。
【0083】
比較例5
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカC(商品名:IPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)1.33gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0084】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)が2.0%向上したが、ヘイズ値も0.8%上昇した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0036であった。
【0085】
比較例6
エチルセロソルブ30.8gと1−プロパノール55.1gの混合溶媒に無機バインダー(D)5.06gを滴下し、よく攪拌した状態で蒸留水5.40g、60質量%濃硝酸0.36gの混合溶液を攪拌しながら滴下し、次いで酸化チタンスラリー(PC201:住友化学(株)製)2.42gをゆっくりと滴下した。その後、攪拌しながらコロイダルシリカA(商品名:IPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)1.22g、コロイダルシリカD(商品名:MP−2040(平均粒径190nm)、日産化学工業(株)製)0.11gをそれぞれ滴下させ、その後、約30℃の温浴で4時間攪拌させて、光触媒トップコート液(E)を作製した。
【0086】
その後光触媒トップコート液(E)を、5cm角のソーダ石灰ガラス基板(屈折率:1.52)にスピンコーターを使用して約10μmのウエット厚みで塗布し、80℃で1分間乾燥させて、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。この時のコーティング膜の屈折率は1.47であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)が1.5%向上したが、ヘイズ値も0.8%上昇した。また、干渉色の発生は認められなかった。なお、その比表面積は、AFMにて測定した結果、1.0031であった。
前記実施例1〜8および比較例1〜6の結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
[注]
各例における光触媒膜中のTiO/SiO/バインダーの質量比は下記のとおりである。
50/40/10:実施例1、実施例4〜8、比較例4〜6
10/65/25:実施例2、比較例1
70/0/30 :実施例3
10/30/60:比較例2
10/40/50:比較例3
【0089】
表1から分かるように、本発明の光触媒膜(実施例1〜8)を形成した無機系基材は、該光触媒膜形成前後で、いずれもヘイズ値の上昇が0.3%以下に抑えられると共に、全光線透過率を、最大2.0%上昇させることができ、かつ干渉色の発生が認められない。
【0090】
これに対し、比較例1〜6の光触媒膜が形成された無機系基材は、該光触媒膜形成前後で、全光線透過率が低下するか、またはヘイズ値が0.4〜0.8%上昇するか、あるいは干渉色の発生が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の光触媒膜は、ガラス板などの透明無機系基材上に形成されたものであって、良好な親水性能を有すると共に、干渉縞の発生を抑え、かつ反射率を低減させることにより、高い透明性を有し、特に防汚性・易洗性が要求される高層ビルの外装材などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明無機系基材上に形成されてなる、チタンアルコキシド加水分解縮合物をバインダーとする光触媒膜であって、
(1)前記透明無機系基材の屈折率と、前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦透明無機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.20 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、シリカ粒子を含まないか、あるいは平均粒径40nm未満のシリカ粒子Aと、平均粒径40nm以上80nm未満のシリカ粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で、または前記シリカ粒子Aと、平均粒径80nm以上150nm未満のシリカ粒子Cとを、質量比100:0〜45:55の割合で含むこと、
を特徴とする光触媒膜。
【請求項2】
構成成分として、光触媒活性粒子、チタンアルコキシドの加水分解縮合物からなるバインダーおよびシリカ粒子を含み、これらの混合比率を制御することにより、光触媒膜表面の屈折率を調整する請求項1に記載の光触媒膜。
【請求項3】
光触媒活性粒子が、二酸化チタン系光触媒活性粒子である請求項2に記載の光触媒膜。
【請求項4】
シリカ粒子が、コロイダルシリカである請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒膜。
【請求項5】
透明無機系基材が、ガラス板である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒膜。
【請求項6】
透明無機系基材の表面に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒膜を有することを特徴とする物品。
【請求項7】
光触媒膜の表面に、さらに機能膜を有する請求項6に記載の物品。

【公開番号】特開2010−115608(P2010−115608A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291439(P2008−291439)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】