説明

光記録媒体及び光記録媒体の製造方法

【課題】記録用レーザ光の焦点位置でのみ反射型ホログラム層のホログラム回折条件が変化して、非焦点位置ではホログラムが維持されるようにされた光記録媒体を提供する。
【解決手段】光記録媒体10は、複数の反射型ホログラム層12が形成されてなる記録層14を有し、各反射型ホログラム層12の間にはそれぞれスペーサ層16が設けられていて、反射型ホログラム層12は、記録用レーザ光照射時における吸収熱によって、焦点位置でのホログラム回折条件が変化し、非焦点位置ではホログラムが維持される熱閾値を有する材料により構成され、スペーサ層16は、記録波長のレーザ光に対して不感、且つ、反射型ホログラム層12よりも小さい消衰係数を有する材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型ホログラム層内における微小局所変性として、情報を記録するようにした光記録媒体及び光記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、記録層内の複数の深さ位置に形成されたフォーマットホログラム層を有するホログラフィ書込み媒体に対して、所望書込み位置に高パワーのレーザビームを焦点合わせすることによってフォーマットホログラム層の選択的な局所変性領域を形成して情報を記録できるようにしたデバイスが開示されている。
【0003】
この情報の記録は、高パワーの記録用レーザ光を照射して、フォーマットホログラム層の局所における反射型ホログラムの回折条件を破壊することによって、周囲部分よりも反射特性が悪い局所変性領域を形成するものである。
【0004】
ところが、フォーマットホログラム層における、記録用レーザ光の焦点位置以外の箇所においても、反射型ホログラムの回折条件が破壊されてしまうことがあり、正確に情報を記録することができない場合があるという問題点があった。
【0005】
【特許文献1】特表2002−502057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、内部に、複数の反射型ホログラム層が形成されている光記録媒体であって、記録用レーザ光照射時におけるその焦点位置での吸収が、他の部分よりも大きくなる吸収コントラストを有し、焦点位置での局所吸収熱分解により回析条件が変化するようにした光記録媒体及びその光記録媒体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次のような実施例によって解決される。
【0008】
(1)情報記録層が複数の反射型ホログラム層により形成されていて、記録用レーザ光の照射により、反射型ホログラム層内における局所変性として情報が記録される光記録媒体であって、前記複数の反射型ホログラム層が、スペーサ層を介して積層されてなり、前記スペーサ層は、記録波長のレーザ光に対して不感、且つ、前記反射型ホログラム層に比較して、小さい消衰係数を有することを特徴とする光記録媒体。
【0009】
(2)前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光を集光照射した際に、焦点位置では、局所吸収熱によって回折条件が変化する局所変性が形成されて情報が記録され、非焦点位置では、回折条件が維持される熱閾値を有する材料により構成されていることを特徴とする(1)に記載の光記録媒体。
【0010】
(3)前記反射型ホログラム層の数、厚み、材料及び前記スペーサ層の数及び消衰係数は、各反射型ホログラム層に、再生用レーザ光を集光照射したときに得られる回折光の反射率が全て0.01%より大きく、且つ、記録用レーザ光の集光照射位置での反射型ホログラム層の温度上昇が100℃より大きくなるように選択されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光記録媒体。
【0011】
(4)前記反射型ホログラム層及びスペーサ層は、片面にサーボ用ピット若しくはグルーブを有する支持基板の、前記片面側に、交互に積層され、最も外側の反射型ホログラム層の外側に保護層が形成されていることを特徴とする(1)乃至(3)に記載の光記録媒体。
【0012】
(5)前記支持基板における前記サーボ用ピット若しくはグルーブの表面に、反射層を形成したことを特徴とする(4)に記載の光記録媒体。
【0013】
(6)前記反射型ホログラム層は、前記片面側が前記サーボ用ピット若しくはグルーブに沿う断面形状とされ、且つ、その反対側面は平面形状とされていることを特徴とする(4)又は(5)に記載の光記録媒体。
【0014】
(7)前記支持基板はディスク形状であって、前記サーボ用ピット若しくはグルーブのトラックピッチは0.32μm及び0.74μmの一方であることを特徴とする(4)乃至(6)のいずれかに記載の光記録媒体。
【0015】
(8)支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、この感光層を干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層を形成する工程と、前記反射型ホログラム層上に、記録波長のレーザ光に対して不感、且つ、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するスペーサ層を形成する工程と、このスペーサ層上に、前記と同様に、感光層、反射型ホログラム層、スペーサ層を順次形成する工程を繰返すことにより、反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、を有してなり、前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【0016】
(9)支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、前記感光層上に、記録波長のレーザ光に対して不感のスペーサ層を形成する工程と、前記感光層を前記スペーサ層を介して干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層を形成する工程と、前記スペーサ層上に、前記と同様に、感光層、スペーサ層を順次形成し、且つ、干渉縞露光により反射型ホログラム層を形成する工程を繰返すことにより、反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、を有してなり、前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【0017】
(10)支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、前記感光層上に、記録波長のレーザ光に対して不感のスペーサ層を形成する工程と、このスペーサ層上に、前記と同様に、感光層、スペーサ層を順次形成する工程を繰返すことにより、感光層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、前記積層された複数の感光層を一括して干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層とする工程と、を有してなり、前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【0018】
(11)前記支持基板は、サーボ用グルーブを有していて、この支持基板の、前記サーボ用グルーブ上に、予め誘電体材料により反射層を形成する工程を有し、前記感光層が形成される一方の面は、前記反射層の面であり、反射層に形成される前記感光層の上側にスペーサ層、反射層、感光層を、この順で繰返し積層する工程と、前記各スペーサ層上に反射層を形成する前に、該スペーサ層上に前記サーボ用グルーブと同様のサーボ用グルーブを形成する工程を有することを特徴とする(8)乃至(10)のいずれかに記載の光記録媒体の製造方法。
【0019】
(12)支持基板の一方の面に反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層してなる積層体における前記支持基板の他方の面に、接着層を介してランド・グルーブ面に反射層が形成されたランド・グルーブ基板の一方の面を接着する工程を有してなり、前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る光記録媒体は、スペーサ層が記録波長のレーザ光に対して不感であり、かつ反射型ホログラム層に比較して小さい消衰係数を有するので、反射型ホログラム層とスペーサ層での吸収コントラストが形成され、反射型ホログラム層における局所吸収熱変形による回折条件の変化を容易に得ることができ、情報を正確に記録することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に示されるように、この発明の実施例に係る光記録媒体10は、ディスク状に形成され、その内部には、図2に示されるように、厚さ方向に複数の反射型ホログラム層12が形成されてなる記録層14を有している。
【0022】
複数の反射型ホログラム層12の間には、それぞれスペーサ層16が設けられている。
【0023】
また、これらの、交互に積層された反射型ホログラム層12とスペーサ層16とは、図2に示されるように、支持基板18上に形成され、最も外側(図において上側)の反射型ホログラム層12の更に外側には、保護層20が形成されている。
【0024】
支持基板18は、ブルーレイ(商標)ディスクにおける支持基板と同様に、トラックピッチ0.32μmのグルーブ19を有し、又、そのグルーブ19側の表面に、SiO2などの誘電体材料をスパッタリングなどの手段によって成膜した反射層22が設けられている。
【0025】
反射型ホログラム層12を構成する材料は、記録用レーザ光照射時における吸収熱によって、焦点位置でのホログラム回折条件が変化し、非焦点位置ではホログラムが維持される熱閾値を有する感光性材料であり、例えば、記録用レーザ光の波長に吸収を有するモノマーを導入したフォトポリマーから構成されている。ここで、前記モノマーは、記録用レーザ光照射時における吸収熱により熱分解する成分因子が修飾され、あるいは、熱分解し易い色素が導入されている。
【0026】
スペーサ層16を構成する材料は、記録波長のレーザ光に対して不感、かつ、反射型ホログラム層12と比較して小さい消衰係数を有する材料、例えば、光硬化樹脂、熱硬化樹脂、あるいはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂などがある。
【0027】
支持基板18としてはガラス基板等が、又、保護層20としては透明な光硬化樹脂やポリカーボネートのシート等が、それぞれ用いられる。なお、保護層20の材料として、スペーサ層16の材料を用いることができるので、最も外側の反射型ホログラム層12の更に外側にスペーサ層を設け、その外側をスペーサ層と同一材料で被う場合は、スペーサ層と保護層の材料層とを加えたものが保護層となる。
【0028】
次に、図3及び図4を参照して、上記光記録媒体10の製造工程について説明する。
【0029】
まず、ステップ101(図4参照)において、グルーブ19を有する支持基板18に、誘電体材料をスパッタリング等によって成膜して反射層22を形成する(図3(A)参照)。
【0030】
次のステップ102においては、反射層22の上に、スピンコートやスロットコート、スクリーン印刷等の方法で、透明な光硬化樹脂23等を成膜し、光硬化させて、平面状とする(図3(B)参照)。
【0031】
ステップ103では、前記平面の上に、上記と同様にスピンコート等の方法によって、感光性材料を塗布してアニール等で可塑成分を調整し、これを固定することにより感光層を形成する(図3(C)参照)。
【0032】
ステップ104においては、上記固定された感光層11を、図2に符号15A、15Bで示されるように2束干渉定在波により干渉縞露光して反射型ホログラム層12を形成・さらにポストキュアを施すことで固定化する(図3(D)参照)。
【0033】
ステップ105では、光もしくは熱硬化樹脂等の透明なスペーサ材料を、スピンコートやスロットコート、スクリーン印刷等の方法によって上記反射型ホログラム層12上に成膜後、これを硬化したり、あるいはポリカーボネートシートを貼り合わせる等して、透明なスペーサ層16(図3(E)参照)を形成する。
【0034】
ステップ106では、上記ステップ103、104、105を繰り返して、所定の数の反射型ホログラム層12及びスペーサ層16を積層し、更に、ステップ107では、最上段の反射型ホログラム層12上に保護層20を形成して、光記録媒体10を完成させる(図3(F)参照)。
【0035】
この実施形態においては、支持基板18が、ブルーレイディスクにおける支持基板と同様に、トラックピッチ0.32μmのグルーブ19及び反射層22を有しているので、既にあるブルーレイディスク用の製造設備、情報記録機器及び再生機器を転用して、製造、あるいは記録・再生することができる。支持基板18のトラックピッチは0.74μmであっても良い。この場合、DVD用の製造設備、記録・再生機器を利用することができる。
【0036】
又、記録再生用レーザ光の波長と異なる波長のサーボ用レーザ光を用いる場合、トラックピッチはDVD用の0.74μmとしてもよい。具体的には、図5に示されるように、赤色レーザ光RLで、開口数NA=0.65の光学系により、ランド19A及びグルーブ19を交互に(トラックは0.32μmとなる)走査し、同時に青色レーザ光BLで、NA=0.85の光学系により、ランド及びグルーブの手前(図5において上方)の反射型ホログラム層12を走査することになる。なお、ランド19Aとグルーブ19の段差は、反射型ホログラム層12の厚さよりも小さくする必要がある。
【0037】
この第1実施形態では、グルーブ19上に感光層11を形成していくので、グルーブ19は、2光束干渉による反射型ホログラム層12のフォーマットを行う際に、サーボ層として、更に反射型ホログラム層12からの回折光の再生、熱変形による局所変性の記録(反射型ホログラム層12消去)を行う際にも利用することができる。
【0038】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の光記録媒体の製造方法の第2実施形態について説明する。
【0039】
この第2実施形態は、上記グルーブ19を有する支持基板18に代えて、凹凸のない平板状の支持基板18Aを用いたものである。
【0040】
この第2実施形態の光記録媒体10Aの製造過程は、まず図7に示されるステップ201において、支持基板18A上に、感光性材料を塗布し、且つこれを固定して感光層11を形成する(図6(A)参照)。
【0041】
次に、ステップ202において、感光層11を干渉縞露光して、反射型ホログラムを形成し、これを固定化することによって、反射型ホログラム層12を形成する(図6(B)参照)。
【0042】
ステップ203においては、図3(C)に示されるように、上記のステップ105と同様のスペーサ材料をスピンコートなどの方法によって、上記形成された反射型ホログラム層12上に成膜し、あるいはポリカーボネートシートを貼り合わせることによって、透明なスペーサ層16を形成する。
【0043】
ステップ204では、上記スペーサ層16上に、ステップ201と同様に、感光性材料を塗布して固化し、感光層11を形成する(図6(D)参照)。
【0044】
ステップ205では、上記ステップ202〜203の工程を繰返して、所定数の反射型ホログラム層12とその間のスペーサ層16とを形成する(図6(E)参照)。
【0045】
ステップ206では、最上段の反射型ホログラム層12上に、保護層20を形成して、この第2実施形態の製造方法による光記録媒体10Aの製造を完了する(図6(F)参照)。
【0046】
次に、図8及び図9を参照して、本発明の光記録媒体の製造方法の第3実施形態について説明する。
【0047】
この第3実施形態は、支持基板18A上に感光層11及びスペーサ層16を交互に積層しておき、所定数積層後、全ての感光層11を一括して干渉縞露光し、反射型ホログラム層12とするものである。
【0048】
詳細には、図8(A)に示されるように、ステップ301では、支持基板18A上に、感光性材料を塗布し、且つ、これを固化して感光層11とする。次のステップ302では、感光層11の上にスペーサ層16を形成(図8(B)参照)する。ステップ303では、スペーサ層16上に、感光性材料を塗布・固化して、感光層11を形成し、ステップ304では、ステップ302、303を繰返して感光層11とスペーサ層16を交互に所定数積層する(図8(C)参照)。
【0049】
次に、ステップ305において、全ての感光層11を一括して干渉縞露光し、反射型ホログラム層12とする(図8(D)参照)。
【0050】
最後に、ステップ306において、最も外側(図において上側)の反射型ホログラム層12上に、図8(E)に示されるように、保護層20を形成して、光記録媒体10Bを完成させる。
【0051】
次に、図10及び図11を参照して、本発明の光記録媒体の製造方法の第4実施形態について説明する。
【0052】
この第4実施形態は、感光層上にスペーサ層を形成した後、このスペーサ層を介して、感光層を干渉縞露光し、反射型ホログラム層を形成するものである。
【0053】
詳細には、ステップ401において、図10(A)に示されるように、支持基板18A上に、感光性材料を塗布・固化して感光層11を形成し、次のステップ402において、その上にスペーサ層16を形成し(図10(A)参照)、ステップ403において、図10(B)に示されるように、感光層11をスペーサ層16を介して干渉縞露光して、反射型ホログラムを形成し、これを固定化して反射型ホログラム層12とする。
【0054】
ステップ404では、図10(C)に示されるように、スペーサ層16上に感光層11及びスペーサ層16を積層し、ステップ405では、感光層11をスペーサ層16を介して干渉縞露光して反射型ホログラム層12とする(図10(D)参照)。
【0055】
ステップ406では、上記を繰返すことによって、反射型ホログラム層12とスペーサ層16を所定数交互に積層し、ステップ407では、図10(E)に示されるように、最も外側(図において上側)の反射型ホログラム層12に保護層20を形成して、第4実施形態にかかる光記録媒体10Cを完成させる。
【0056】
次に、図12(A)、(B)を参照して、本発明の光記録媒体の製造方法の第5実施形態について説明する。
【0057】
この第5実施形態は、第2〜第4実施形態のいずれかの製造方法により製造された反射型ホログラム層12とスペーサ層16との積層体30を用いて、図12に示される、図5に示した光記録媒体と同様の光記録媒体10Eを製造するものである。
【0058】
この第5実施形態は、支持基板18A上に、反射型ホログラム層12とスペーサ層16とを交互に形成して、且つ保護層20を設けた状態での積層体30に、金属膜などの反射層22を設けたランド・グルーブ基板32を、接着層34を介して支持基板18A側に接着するものである。
【0059】
なお、図12(A)に示されるように、ランド・グルーブ基板32の、反射層22側を下向きとして、グルーブと反対側の面を接着層34により支持基板18Aに接着してもよく、又、図12(B)に示されるように、ランド・グルーブ基板32の、反射層22側を接着層34によって支持基板18Aに接着するようにしてもよい。接着層34は、例えばUV樹脂を用いる。
【0060】
第2〜第4実施形態およびグルーブ層を後で接着する第5実施形態において、グルーブは、フォーマットされた反射型ホログラム層の再生、熱変形による局所変性の記録の際のみにサーボ層として使用できる。
【0061】
次に、図13、14を参照して、本発明の光記録媒体の製造方法の第6実施形態について説明する。
【0062】
この第6実施形態は、第1実施形態に用いたと同様のグルーブ19などが形成されている支持基板18の上に、反射型ホログラム層12Aを、スペーサ層16Aを間にして積層するものである。
【0063】
詳細には、図13(A)に示されるように、ステップ601(図14参照)において、反射層22が形成された支持基板18上に、上面が平面となるように、感光性材料を塗布、固化して感光層11Aを形成する。
【0064】
ステップ602では、図13(B)に示されるように、感光層11Aを干渉縞露光して、反射型ホログラムを形成し、固定化して、反射型ホログラム層12Aを形成する。
【0065】
ステップ603においては、上記反射型ホログラム層12Aの上に、スペーサ材料をスピンコートなどの方法によって成膜、必要であればUV硬化し、その時、2Pプロセスなどによるグルーブ転写・剥離を行って、図13(C)に示されるように、支持基板18A上の凹凸と同様のグルーブを有するスペーサ層16Aを形成する。
【0066】
更に、ステップ604では、スペーサ層16Aのグルーブの上に、支持基板18と同様に反射層22を形成し、次のステップ605において、上記凹凸を埋めるようにして、ステップ601と同様に、感光層11Aを形成し、又、ステップ602と同様に干渉縞露光による反射型ホログラム層12Aの形成をする(図13(C)参照)。
【0067】
以後、ステップ606では同様の工程の繰返しにより、反射型ホログラム層12A及びスペーサ層16Aを所定数積層し、ステップ607では、図13(D)に示されるように、最も外側の反射型ホログラム層12Aの上側に保護層20Aを形成して、この第6実施形態にかかる光記録媒体10Dを完成させる。
【実施例】
【0068】
本発明者は、20層の反射型ホログラム層が形成されている光記録媒体について、各層からの反射率、及び各層の温度上昇についてシミュレーションした。
【0069】
詳細には、表1に示されるように、反射型ホログラム層の屈折率及びスペーサ層の屈折率を共にn=1.62、反射型ホログラム層の消衰係数k=3.0E−04、スペーサ層は0、反射型ホログラム層における吸収の結果の屈折率の変化Δniを、反射型ホログラム層ではΔn=3.0E−03、スペーサ層では0、反射型ホログラム層及びスペーサ層の厚みはそれぞれ3μm、9μmとした。又、具体的な材料として、上記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の波長に吸収を有するモノマーを導入したフォトポリマーとされている。また、スペーサ層はポリカーボネートを用いた。
【0070】
【表1】

【0071】
図15の左欄に示されるように、20層の反射型ホログラム層とその間のスペーサ層を積層した光記録媒体に、開口数NA=0.85の光学系から、波長405nm、記録パワー20mWのレーザ光を各反射型ホログラム層毎に集光(合焦)照射した場合の各反射型ホログラム層毎の反射率と温度上昇は、図15の中央欄及び右欄に示されるようになった。図15の左端の数字は、反射型ホログラム層の、レーザ光入射側からの順番を示す。
【0072】
シミュレーションの結果、スペーサ層がレーザ光に不感であり、且つ、消衰係数が小さいのでレーザ光入射側から最も遠い20番目の反射型ホログラム層においても反射率は0.01%を超えて、且つ、最も入射側の反射型ホログラム層における反射率は0.45%程度となり、いずれも再生検知に必要な0.01%以上を満たしており、更に、レーザ光照射時における各反射型ホログラム層の温度上昇は、最も遠い20番目の反射型ホログラム層でも150℃を超え、全ての層において100℃を超えていた。
【0073】
レーザ光入射側から1番目、10番目及び20番目の反射型ホログラム層における温度上昇と時間との関係は、図16に示す。図16からは、光入射側から最も遠い反射型ホログラム層における温度上昇は、照射開始から約500nSで100℃を超えることが分かる。
【0074】
なお、レーザ光の焦点位置以外の反射型ホログラム層では、図17、図18に示されるように、殆ど温度上昇がなく、従って100℃を超えることがなかった。図17は、レーザ光の焦点位置のおける反射型ホログラム層の、パワー20mWのレーザ光照射時間と温度上昇との関係を曲線Aで示し、又、前記焦点位置の反射型ホログラム層と隣接する反射型ホログラム層における、温度上昇とレーザ光照射時間との関係を、レーザパワーが20mWのとき▼印の曲線B、100mWのとき△印の曲線Cで示している。
【0075】
なお、焦点位置でのレーザ光のビーム半径を、レーザ強度分布の1/eとなる0.14μm、隣接する反射型ホログラム層の位置におけるレーザ光のビーム半径を、スペーサ層厚との関係から、19.00μmとしている。
【0076】
図17からは、100mWのパワーで照射した場合でも、焦点位置の反射型ホログラム層に隣接する反射型ホログラム層の温度上昇が殆どないことが分かる。
【0077】
図18は、レーザ光入射側から第1〜3の反射型ホログラム層及びそれらの間のスペーサ層における温度上昇をレーザ光入射面からの深さZとの関係においてシミュレーションした結果を示す。曲線aは、レーザ光のパワーを20mWとした場合の焦点位置における反射型ホログラム層での温度上昇とZとの関係を示し、曲線bは、焦点位置の反射型ホログラム層と隣接する反射型ホログラム層におけるレーザ光のパワーを20mWとした場合の温度上昇とZとの関係、又、曲線cはレーザ光のパワーを100mWに増大した場合の、隣接する反射型ホログラム層での温度上昇とZとの関係をそれぞれ示す。
【0078】
図18からは、隣接する反射型ホログラム層及びスペーサ層での温度上昇が殆どゼロであることが分かる。
【0079】
上記のように、20層の各反射型ホログラム層のいずれにおいても、レーザ光の焦点位置での温度上昇が100℃以上となっているので、レーザ光の照射によって、吸収熱による回析条件の変化を得ることが出来る。また、焦点位置の反射型ホログラム層に隣接する反射型ホログラム層、スペーサ層及び焦点位置の反射型ホログラム層のレーザ光のビームより外側ではほとんど温度上昇が見られないので、記録用レーザ光の非焦点位置では、ホログラム回折条件が変化するほどの温度上昇がないことが分かる。さらに、20層全部の反射型ホログラム層における反射率が0.01%よりも大きいので、再生用レーザ光の照射によって、各層ごとの再生をすることができる。
【0080】
図19は、レーザ光入射側から第1番目の反射型ホログラム層における、レーザ光のビームスポットを中心としたX−Y方向(深さZと直交する方向)の位置と温度上昇との関係のシミュレーション結果を示す。また、図20は、レーザ光入射側から第20番目の反射型ホログラム層における、レーザ光のビームスポットを中心としたX−Y方向の位置と温度上昇との関係のシミュレーション結果を示す。
【0081】
図19、20では、レーザ光のパワーを20mW、照射時間を5μSとしたときの、200℃、150℃、100℃および50℃の点を結んで曲線としている。
【0082】
図19および図20からは、第1層において100℃以上の領域は直径が約900nm、また、図20からは、100℃以上の領域の直径が約500nmであることが分かる。
【0083】
青色レーザー光BL、NA=0.85の光学系によって形成される最短マーク長2Tは149nmであるので、記録パワーと時間を選択することによって、任意に温度上昇の広がりを制御すれば、最短マーク長2Tが149nmの場合でも、これよりも外側の領域において、記録波長のレーザ光照射による回折条件の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の実施の形態の例にかかる光記録媒体を示す斜視図
【図2】図1のII−II線に沿う断面を拡大して模式的に示す断面図
【図3】本発明の第1実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程を模式的に示す断面図
【図4】同第1実施形態の製造方法を示すフローチャート
【図5】同第1実施形態の光記録媒体において、記録再生用とサーボ用とで異なる波長のレーザ光を用いる場合を模式的に示す断面図
【図6】本発明の第2実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程を模式的に示す断面図
【図7】同第2実施形態の製造方法を示すフローチャート
【図8】本発明の第3実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程を模式的に示す断面図
【図9】同第3実施形態の製造方法を示すフローチャート
【図10】本発明の第4実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程を模式的に示す断面図
【図11】同第4実施形態の製造方法を示すフローチャート
【図12】本発明の第5実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程の要部を模式的に示す断面図
【図13】本発明の第6実施形態にかかる製造方法による光記録媒体の製造過程を模式的に示す断面図
【図14】同第5実施形態の製造方法を示すフローチャート
【図15】本発明の実施例に係る光記録媒体の反射率と温度上昇を各反射型ホログラム層毎に示す線図
【図16】同温度上昇と時間との関係を示す線図
【図17】同実施例での、焦点位置の反射型ホログラム層及びこれに隣接する反射型ホログラム層での温度上昇とレーザ光照射時間との関係を示す線図
【図18】同実施例での、焦点位置の反射型ホログラム層及びこれに隣接するスペーサ層での温度上昇とレーザ光入射面からの深さとの関係を示す線図
【図19】同実施例での、光入射側から1番目の反射型ホログラム層におけるビームスポットからの距離と温度上昇との関係を示す線図
【図20】同実施例での、光入射側から20番目の反射型ホログラム層におけるビームスポットからの距離と温度上昇との関係を示す線図
【符号の説明】
【0085】
10、10A、10B、10C、10D、10E…光記録媒体
12、12A…反射型ホログラム層
14…記録層
16、16A…スペーサ層
18、18A…支持基板
19…グルーブ
20…保護層
22…反射層
30…積層体
32…ランド・グルーブ基板
34…接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録層が複数の反射型ホログラム層により形成されていて、記録用レーザ光の照射により、反射型ホログラム層内における局所変性として情報が記録される光記録媒体であって、前記複数の反射型ホログラム層が、スペーサ層を介して積層されてなり、前記スペーサ層は、記録波長のレーザ光に対して不感、且つ、前記反射型ホログラム層に比較して、小さい消衰係数を有することを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】
請求項1において、前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光を集光照射した際に、焦点位置では、局所吸収熱によって回折条件が変化する局所変性が形成されて情報が記録され、非焦点位置では、回折条件が維持される熱閾値を有する材料により構成されていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記反射型ホログラム層の数、厚み、材料及び前記スペーサ層の数及び消衰係数は、各反射型ホログラム層に、再生用レーザ光を集光照射したときに得られる回折光の反射率が全て0.01%より大きく、且つ、記録用レーザ光の集光照射位置での反射型ホログラム層の温度上昇が100℃より大きくなるように選択されていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記反射型ホログラム層及びスペーサ層は、片面にサーボ用ピット若しくはグルーブを有する支持基板の、前記片面側に、交互に積層され、最も外側の反射型ホログラム層の外側に保護層が形成されていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項5】
請求項4において、
前記支持基板における前記サーボ用ピット若しくはグルーブの表面に、反射層を形成したことを特徴とする光記録媒体。
【請求項6】
請求項4又は5において、
前記反射型ホログラム層は、前記片面側が前記サーボ用ピット若しくはグルーブに沿う断面形状とされ、且つ、その反対側面は平面形状とされていることを特徴とする光記録媒体。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかにおいて、
前記支持基板はディスク形状であって、前記サーボ用ピット若しくはグルーブのトラックピッチは0.32μm及び0.74μmの一方であることを特徴とする光記録媒体。
【請求項8】
支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、
この感光層を干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層を形成する工程と、
前記反射型ホログラム層上に、記録波長のレーザ光に対して不感、且つ、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するスペーサ層を形成する工程と、
このスペーサ層上に、前記と同様に、感光層、反射型ホログラム層、スペーサ層を順次形成する工程を繰返すことにより、反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、
を有してなり、
前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【請求項9】
支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、
前記感光層上に、記録波長のレーザ光に対して不感のスペーサ層を形成する工程と、
前記感光層を前記スペーサ層を介して干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層を形成する工程と、
前記スペーサ層上に、前記と同様に、感光層、スペーサ層を順次形成し、且つ、干渉縞露光により反射型ホログラム層を形成する工程を繰返すことにより、反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、
を有してなり、
前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【請求項10】
支持基板の一方の面に感光層を形成する工程と、
前記感光層上に、記録波長のレーザ光に対して不感のスペーサ層を形成する工程と、
このスペーサ層上に、前記と同様に、感光層、スペーサ層を順次形成する工程を繰返すことにより、感光層とスペーサ層とを交互に複数層積層する工程と、
前記積層された複数の感光層を一括して干渉縞露光し、且つ、前記干渉縞露光により形成された反射型ホログラムを固定することにより反射型ホログラム層とする工程と、
を有してなり、
前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項8乃至10のいずれかにおいて、
前記支持基板は、サーボ用ピット若しくはグルーブを有していて、この支持基板の、前記サーボ用ピット若しくはグルーブ上に、予め誘電体材料により反射層を形成する工程を有し、前記感光層が形成される一方の面は、前記反射層の面であり、この反射層上に形成される前記感光層の上側にスペーサ層、反射層、感光層を、この順で繰返し積層する工程と、前記各スペーサ層上に反射層を形成する前に、該スペーサ層上に前記サーボ用グルーブと同様のサーボ用グルーブを形成する工程を有することを特徴とする光記録媒体の製造方法。
【請求項12】
支持基板の一方の面に反射型ホログラム層とスペーサ層とを交互に複数層積層してなる積層体における前記支持基板の他方の面に、接着層を介してランド・グルーブ面に反射層が形成されたランド・グルーブ基板の一方の面を接着する工程を有してなり、
前記反射型ホログラム層は、記録用レーザ光の照射により、その焦点位置での、局所変性として回折条件が変化する材料から構成され、前記スペーサ層は、前記反射型ホログラム層と比較して小さい消衰係数を有するように形成されていることを特徴とする光記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−19886(P2010−19886A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177666(P2008−177666)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】