説明

光転送アレイ装置およびその製造方法、発光装置ならびに画像形成装置

【課題】 隣接する2つの光転送用発光素子間においてより確実に発光状態を転送することのできる光転送アレイ装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 光転送アレイ装置1は、相互に間隔をあけて配置される複数のスイッチ素子Tと、隣接する2つのスイッチ素子T間に設けられ、隣接する2つのスイッチ素子Tのうち、一方のスイッチ素子Tからの光を他方のスイッチ素子Tに導く導波体17とを含んで構成される。導波体17の表面103は反射集光領域104を有し、反射集光領域104は、外方に凸となった凸曲面状に形成され、一方のスイッチ素子Tからの光が反射集光領域104で反射されると、他方のスイッチ素子Tに入射するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光状態を転送する光転送アレイ装置およびその製造方法、光転送アレイ装置を備える発光装置、および発光装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置たとえば電子写真方式のプリンタは、感光体ドラムを帯電した後露光して静電潜像を形成し、現像剤で現像してトナー像を形成し、記録シートに転写して定着することによって画像を形成する。電子写真方式の画像形成装置における露光装置の1つである光プリントヘッドの光源として用いられる発光装置として、複数の発光素子が列状に配置される発光素子アレイを用いる発光装置がある(たとえば、特許文献1,2参照)。
【0003】
発光素子としては、たとえばPNPN構造を有する負性抵抗素子である発光サイリスタが用いられる。発光サイリスタが発光素子列として配置される発光装置では、発光状態を転送することによって発光を走査することができる。前述の特許文献2には、発光素子とは別に、発光状態を転送するための光転送用発光素子が設けられた発光装置が開示されている。発光素子または光転送用発光素子による発光状態の転送によって発光を走査する光転送方式の発光装置を光プリンタヘッドとして用いることによって、基板への実装が簡便となり、また発光素子アレイをコンパクトに作製することができる。
【0004】
光転送方式の発光装置において、発光状態を転送する発光素子または光転送用発光素子(以後、総じて「光転送用発光素子」ということがある)が配列された光転送アレイは、光転送用発光素子として、たとえばメサ構造を有する凸状の発光素子を複数備える。これらの発光素子は、基板に相互に間隔をあけて配置される。光転送アレイを備える光転送アレイ装置において、隣接する2つの光転送用発光素子間には、2つの光転送用発光素子を電気的に絶縁するために絶縁体が設けられる。絶縁体は、透光性を有する材料で形成され、隣接する2つの光転送用発光素子のうち、一方の光転送用発光素子からの光を他方の光転送用発光素子に導く導波体として働く。絶縁体の材料としては、たとえばポリイミド樹脂が用いられる(たとえば、特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開昭49−124992号公報(第2頁,第3−4図)
【特許文献2】特開平9−92885号公報(第5−6頁,第9図)
【特許文献3】特開平6−338634号公報(第2−3頁,第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリイミド樹脂のような硬化性樹脂によって絶縁体である導波体を形成する場合、導波体は、たとえば硬化性樹脂の前駆体を溶剤に溶解または分散させた硬化性樹脂材料を塗布し、溶剤を除去して硬化性樹脂層を形成した後、硬化性樹脂層を硬化させることによって形成される。硬化性樹脂材料は、隣接する2つの光転送用発光素子によって形成される凹部に充填されるように塗布されるので、硬化性樹脂層の厚み方向における基板と反対側の表面は、表面張力の影響によって基板側に凹む。また硬化性樹脂層は硬化によって収縮し、その厚みが減少するので、硬化性樹脂層の前記表面はさらに基板側に凹む。したがって従来の光転送アレイ装置において、硬化性樹脂層の前記表面である導波体の厚み方向の一表面(以後、単に「表面」ということがある)は、たとえば後述する図19(b)に示す導波体124のように基板31側に凹んだ凹曲面状に形成される。
【0007】
導波体の表面が凹曲面状であると、光転送用発光素子から出射されて導波体の表面で反射された光のうち、隣接する光転送用発光素子に入射する光は、導波体の表面が平面状である場合に比べて少なくなるので、導波損失が大きくなる。また発光状態にある光転送用発光素子寄りの部分の導波体の表面では、導波体の表面が平面状である場合に比べて、導波体の表面への入射角θ’が小さくなる。これによって、入射光の全てが導波体の内側に反射される全反射が生じる角度である臨界角よりも小さい入射角θ’で導波体の表面に入射する光が多くなり、導波体の内側に反射されずに導波体の外側に透過する光が多くなるので、導波損失が大きくなる。したがって、導波体の表面が平面状である場合に比べて、隣接する光転送用発光素子への光の導波量が少なくなるので、隣接する光転送用発光素子に、受光状態における値として予め求められるしきい電圧よりも大きい電圧を印加またはしきい電流よりも大きい電流を供給しても、隣接する光転送用発光素子が発光せず、隣接する光転送用発光素子に発光状態を転送することができない場合が生じる。
【0008】
光転送アレイ装置において発光状態が転送されないと、光転送アレイ装置を用いて発光状態を走査する発光装置の場合、発光すべき発光素子が発光しないことになる。したがってこのような発光装置を用いた画像形成装置では、感光体ドラムの露光されるべき部分が露光されず、画像欠陥たとえばトナー層が形成されるべき部分にトナー層が形成されない白抜けが生じる。
【0009】
本発明の目的は、隣接する2つの光転送用発光素子間においてより確実に発光状態を転送することのできる光転送アレイ装置およびその製造方法、この光転送アレイ装置を備える発光装置、ならびにこの発光装置を備える画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光転送アレイ装置は、基板と、
前記基板に相互に間隔をあけて配置される複数の光転送用発光素子を備え、各前記光転送用発光素子は、隣接する前記光転送用発光素子からの光を受光する受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい光転送用発光素子アレイと、
隣接する2つの前記光転送用発光素子間に設けられ、一方の前記光転送用発光素子からの光を、他方の前記光転送用発光素子に導く導波体であって、前記導波体の表面は、反射集光領域を有し、前記反射集光領域は、外方に凸となった凸曲面状に形成され、前記一方の光転送用発光素子からの光が前記反射集光領域で反射されると、前記他方の光転送用発光素子に入射するように形成される導波体とを備えることを特徴とする。
【0011】
また本発明の光転送アレイ装置は、前記構成において、各前記光転送用発光素子は、発光部および前記受光部を有し、
前記発光部および前記受光部は、前記基板に前記受光部および前記発光部の順に積層されて設けられることを特徴とする。
【0012】
また本発明の光転送アレイ装置は、前記各構成において、各前記光転送用発光素子は、
第1のN型半導体層と、
前記第1のN型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第1のP型半導体層と、
前記第1のP型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第2のN型半導体層と、
前記第2のN型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第2のP型半導体層とを含む発光サイリスタであり、
前記第1のP型半導体層または前記第2のN型半導体層の積層方向に垂直な断面が、前記第1のP型半導体層と前記第2のN型半導体層との界面から積層方向に離反するに連れて減少するように形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明の光転送アレイ装置の製造方法は、複数の光転送用発光素子であって、隣接する光転送用発光素子からの光を受光する受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい複数の光転送用発光素子を、基板に相互に間隔をあけて配置して、光転送用発光素子アレイを形成するアレイ形成工程と、
ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料を、前記光転送用発光素子間に充填するとともに各前記光転送用発光素子を覆うように塗布し、前記溶剤を除去することによって第1透光層を形成する第1透光層形成工程と、
前記第1透光層を露光して現像することによって、前記第1透光層における前記光転送用発光素子を覆う部分を部分的に除去して、凹部を形成する凹部形成工程と、
前記第1透光層を硬化させる第1硬化工程と、
前記透光性材料を、前記凹部に充填するとともに硬化された前記第1透光層を覆うように塗布し、前記溶剤を除去することによって第2透光層を形成する第2透光層形成工程と、
前記第2透光層を硬化させる第2硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
また本発明の光転送アレイ装置の製造方法では、前記構成において、前記透光性材料は、前記固形成分の含有率が25重量%以上80重量%以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の発光装置は、前記光転送アレイ装置であって、各前記光転送用発光素子に前記受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ前記非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する走査信号を伝送する走査信号伝送手段を備え、各光転送用発光素子は前記受光状態にありかつ前記走査信号が与えられたときに予め定める部位にトリガ信号を発生する光転送アレイ装置と、
相互に間隔をあけて配置される複数の発光素子を備え、各前記発光素子は、予め定める部位にトリガ信号が与えられる選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さく、前記選択状態にあり、かつ前記選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ前記非選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する発光信号が与えられたときに発光する発光素子アレイと、
各前記発光素子に前記発光信号を伝送する発光信号伝送手段と、
前記発光素子の予め定める部位と、前記光転送用発光素子の予め定める部位とを接続する接続手段とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の画像形成装置は、前記発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
帯電した感光体ドラムに前記発光装置の前記発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに前記現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光転送アレイ装置によれば、基板に相互に間隔をあけて設けられる複数の光転送用発光素子のうち、1つの光転送用発光素子が発光したときに、この発光した光転送用発光素子からの光は、導波体によって導かれ、隣接する光転送用発光素子に受光される。導波体の表面は反射集光領域を有するので、発光状態にある光転送用発光素子からの光は反射集光領域で反射されると、隣接する光転送用発光素子に入射する。反射集光領域は外方に凸となった凸曲面状に形成されるので、凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて、導波体の表面に占める反射集光領域の割合を大きくすることができる。また発光状態にある光転送用発光素子寄りの部分の反射集光領域では、発光状態にある光転送用発光素子からの光が反射集光領域に入射するときに、入射位置における接平面の法線と入射光線との成す角度である入射角を、反射集光領域が凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて大きくすることができる。これによって、発光状態にある光転送用発光素子からの光が臨界角を超える入射角で反射集光領域に入射しやすくなり、全反射が起こりやすくなるので、反射集光領域に入射する光のうち、反射集光領域で反射される光の比率を高めて導波損失を低減することができる。したがって、発光した光転送用発光素子からの光のうち、隣接する光転送用発光素子に導波体によって導かれる光の比率である導波率を高くすることができる。
【0018】
このように導波体による光の導波率が高いので、光転送用発光素子を同じ発光強度で発光させた場合に、その光転送用発光素子に隣接する光転送用発光素子に転送される光の量を多くすることができ、光転送アレイ装置の光転送効率を向上させることができる。これによって、受光した光転送用発光素子のしきい電圧またはしきい電流を非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりもより確実に小さくすることができる。したがって発光状態にある光転送用発光素子に隣接する光転送用発光素子に対して、受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する走査信号を与えたときに、発光状態にある光転送用発光素子に隣接する光転送用発光素子のしきい電圧またはしきい電流を、より確実に走査信号の信号電圧または信号電流よりも小さくし、発光させることができる。たとえば発光状態にある光転送用発光素子の発光強度が少しだけ変動したとしても、走査信号を与えたときに、より確実に隣接する光転送用発光素子を発光させることができ、従来の技術よりも確実に発光状態を転送することができる。したがって、光転送アレイ装置における発光状態の転送の信頼性を高めることができる。
【0019】
また本発明の光転送アレイ装置によれば、光転送用発光素子の発光部からの光は、導波体によって導かれ、隣接する光転送用発光素子の受光部に受光される。光転送用発光素子の発光部および受光部は、受光部および発光部の順に基板に積層して設けられるので、導波体の表面の反射集光領域は、発光部および受光部の積層方向における発光部寄りの部分に形成される。これによって光転送用発光素子の発光部からの光を、反射集光領域で反射させて、隣接する光転送用発光素子に入射させることができるので、前述のように導波体による光の導波率を高め、より確実に発光状態を転送することができる。また光転送用発光素子の発光部および受光部は基板に積層して設けられるので、たとえば発光部および受光部が導波方向に平行な方向に並べて設けられる場合に比べて、光転送用発光素子を導波方向に関して小形化することができる。したがって光転送用アレイにおける光転送用発光素子の集積密度を高めることが可能になるので、光転送用アレイの設計の自由度を高めることができる。
【0020】
また本発明の光転送アレイ装置によれば、光転送用発光素子は、PNPN型の発光サイリスタとして機能する。「サイリスタ」とは、PNPNダイオードを含む。光転送用発光素子に順方向の電圧を印加すると、第1のN型半導体層と第1のP型半導体層との接合部、および第2のN型半導体層と第2のP型半導体層との接合部から光が発生する。また光転送用発光素子に順方向の電圧を印加すると、第1のN型半導体層と第1のP型半導体層と第2のN型半導体層との積層体、または第1のP型半導体層と第2のN型半導体層と第2のP型半導体層との積層体は、フォトトランジスタとして機能する。
【0021】
また第1のP型半導体層または第2のN型半導体層の積層方向に垂直な断面は、第1のP型半導体層と第2のN型半導体層との界面から積層方向に離反するに連れて減少するように形成される。したがって光転送用発光素子の側面に沿って光転送用発光素子の積層方向の一表面と他表面とを結ぶ曲線の距離は、光転送用発光素子の積層方向の一表面と他表面とを積層方向に平行な直線で結んだ距離よりも長くなる。電位差は電界強度を距離で積分した値であるので、同じ電位差であれば距離が長いほど電界強度は弱くなる。したがって光転送用発光素子に順方向の電圧を印加したときの積層方向の電界強度は、前記最短距離で結ぶ直線上において最も強くなり、側面部において最も弱くなる。これによって光転送用発光素子の側面部に発生する積層方向の電界強度を、積層方向に垂直な方向の中央部に比べて小さくすることができる。
【0022】
光転送用発光素子の側面部は結晶構造が不連続となるので、側面部には未結合手が存在し、表面準位が形成される。この表面準位に電子が捕獲されると、光転送用発光素子の側面部は負に帯電するので、第1のP型半導体層の側面部には、反転層が形成される。すなわち光転送用発光素子の側面部は、PNPN型の発光サイリスタとして機能しなくなる。光転送用発光素子の側面部には捕獲された電子が存在するので、側面部の電気抵抗が小さくなる。光転送用発光素子の側面部は、電流が流れ易い状態になっているが、側面部の積層方向の電界強度を弱くすることができるので、側面部を流れる暗電流の発生を抑制することができる。
【0023】
暗電流は、フォトトランジスタとして機能する部分に入射した光に対してノイズとして作用し、入射光による電流が光転送用発光素子のしきい電圧を低下させる機能を妨げる。この暗電流の発生を抑制することができるので、入射光によって生成される電流によって、光転送用発光素子のしきい電圧を効率的に下げることができる。したがって第1のP型半導体層または第2のN型半導体層の積層方向に垂直な断面が第1のP型半導体層と第2のN型半導体層との界面から積層方向に離反するに連れて減少するように形成されない場合に比べて、弱い光を入射することによって光転送用発光素子をターンオンすることができ、光転送用発光素子の受光効率を向上させることができる。
【0024】
本発明の光転送アレイ装置の製造方法によれば、アレイ形成工程において、受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい複数の光転送用発光素子が、基板に相互に間隔をあけて配置され、光転送用発光素子アレイが形成される。第1透光層形成工程において、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料が、光転送用発光素子間に充填されるとともに各光転送用発光素子を覆うように塗布され、溶剤が除去されて第1透光層が形成される。形成された第1透光層が露光されて現像されることによって、第1透光層における光転送用発光素子を覆う部分が部分的に除去され、凹部が形成される。凹部が形成された第1透光層は第1硬化工程において硬化される。第2透光層形成工程では、前記透光性材料が凹部に充填されるとともに硬化された第1透光層を覆うように塗布され、溶剤が除去されて第2透光層が形成される。形成された第2透光層は、第2硬化工程において硬化される。第1透光層および第2透光層によって、隣接する2つの光転送用発光素子のうち、一方の光転送用発光素子からの光を、他方の光転送用発光素子に導く導波体が形成される。
【0025】
第1透光層形成工程では、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料が用いられる。ポリベンゾオキサゾール前駆体は、例えば、溶剤としてγ−ブチロラクトンに溶解しやすいので、このような溶剤を選択することによって、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分の含有率を高めることができる。これによって、溶剤を除去して形成される第1透光層に生じる凹凸を小さくすることができる。また第1透光層は、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含有する透光性材料によって形成されるので、たとえばベンゾシクロブテン化合物を含有する透光性材料によって形成される場合に比べて、凹部形成工程において現像されるときに第1透光層の内部から溶出する量を少なくし、光転送用発光素子間に形成された第1透光層の厚みの減少量を少なくすることができる。これによって光転送用発光素子間における第1透光層の基板側への凹み量を少なくすることができる。
【0026】
また第2透光層形成工程において、前記透光性材料は凹部に充填されるとともに硬化された第1透光層を覆うように塗布されるので、溶剤を除去して形成される第2透光層は第1透光層の凹部において基板側に凹むように形成される。また前述のように光転送用発光素子間における第1透光層の基板側への凹み量は少ないので、第2透光層では凹凸の逆転が起こり、光転送用発光素子間に形成された第1透光層を覆う部分が、第1透光層の凹部に形成された部分よりも基板から離反する方向に膨出する形状に形成される。これによって、第1透光層および第2透光層によって形成される導波体の表面には、外方に凸となった凸曲面状に形成される反射集光領域であって、隣接する2つの光転送用発光素子のうち、一方の光転送用発光素子からの光が反射集光領域で反射されると、他方の光転送用発光素子に入射するように形成される反射集光領域が形成される。したがって、隣接する2つの光転送用発光素子間に、外方に凸となった凸曲面状に形成される反射集光領域を表面に有する導波体を備える光転送アレイ装置を得ることができる。
【0027】
また本発明の光転送アレイ装置の製造方法によれば、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分の含有率が25重量%以上80重量%以下である透光性材料が用いられるので、第1透光層に生じる凹凸をより確実に小さくすることができる。
【0028】
本発明の発光装置によれば、発光装置は、従来の技術の光転送アレイ装置よりも導波体による光の導波率が高く、光転送効率の高い光転送アレイ装置を含んで構成される。光転送アレイ装置の光転送アレイに設けられる光転送用発光素子が受光状態にあるときに走査信号が与えられると、この光転送用発光素子の予め定める部位にトリガ信号が発生し、このトリガ信号は接続手段を介して対応する発光素子の予め定める部位に与えられる。発光素子は、その予め定める部位にトリガ信号が与えられ、選択状態になると、しきい電圧またはしきい電流が、非選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも低下する。この選択状態にある発光素子に対して、選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する発光信号を与えることによって、各発光素子を選択的に発光させることができる。トリガ信号を発生する光転送アレイ装置は、従来の技術に比べてより確実に光転送用発光素子を配列方向に順番に発光させ、トリガ信号を配列方向に順番に伝送することができるので、従来の技術に比べて各発光素子をより正確に選択的に発光させることができる。
【0029】
本発明の画像形成装置によれば、画像情報に基づいて前記発光装置を駆動手段によって駆動して、発光装置からの光を集光手段によって、帯電した感光体ドラムに集光することによって、感光体ドラムは露光され、その表面に静電潜像が形成される。静電潜像が形成された感光体ドラムに、現像剤供給手段によって現像剤を供給すると、感光体ドラムに現像剤中のトナーが付着して画像が形成される。転写手段によって、感光体ドラムに現像剤によって形成された画像を記録シートに転写して、定着手段によって記録シートに転写された現像剤を定着させることによって、記録シートに画像が形成される。発光装置は、従来の技術に比べて各発光素子をより正確に選択的に発光させることができるので、白抜けなどの画像欠陥のない優れた品質の記録画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、本発明の実施の一形態の発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。図2および図3は、発光装置10の基本的構成を示す一部の平面図である。図1は、図2および図3の切断面線I−Iから見た断面図である。図1では、図2および図3に示すスイッチ素子Tは、配列方向Xの長さW4を縮小して示す。図2および図3は、各発光素子Lの光の出射方向を紙面に垂直手前側として配置された発光装置10の平面を示す。図3は、図2に示す遮光層18を取除いた状態を示す平面図である。図2および図3において、発光信号伝送路12、発光素子のゲート19、スイッチ素子のゲート24、走査スタート用スイッチ素子のゲート26、発光素子遮光部23およびオーミックコンタクト層25は、図解を容易にするため、斜線を付して示されている。
【0031】
発光装置10は、発光素子アレイ11と、発光信号伝送路12と、光転送用発光素子アレイであるスイッチ素子アレイ13と、接続手段14と、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、走査スタート用スイッチ素子T0と、スタート信号伝送路16と、導波体17と、遮光層18と、発光素子遮光部23とを含んで構成される。スイッチ素子アレイ13と、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、駆動手段73とを含んで光転送アレイ装置1が構成される。駆動手段73は、光転送アレイ装置1の外部に設けられてもよい。
【0032】
発光素子アレイ11は、複数の発光素子L1,L2,…,Li−1,Li(記号iは、2以上の正の整数)を含んで構成され、各発光素子L1,L2,…,Li−1,Liが、相互に間隔W1をあけて配列される。以後、各発光素子L1,L2,…,Li−1,Liを総称する場合、および発光素子L1,L2,…,Li−1,Liのうち不特定のものを示す場合、単に発光素子Lと記載する場合がある。発光素子Lは、たとえば後述する図18に示す画像形成装置87において感光体ドラム90の露光に用いられる露光用の発光素子である。本実施の形態では、各発光素子Lは、等間隔に配列され、かつ直線状に配列される。各発光素子Lの配列方向Xは、図3において左右方向である。以後、各発光素子Lの配列方向Xを、単に配列方向Xと記載する場合がある。各発光素子Lの光の出射方向に沿う方向を厚み方向Zとし、前記配列方向Xおよび厚み方向Zに垂直な方向を幅方向Yとする。発光素子Lは、600nm〜800nmの波長の光を発光可能に形成される。
【0033】
発光素子Lは、P型半導体層とN型半導体層とが交互に積層されて構成されるPNPN構造を有する発光サイリスタを含んで実現される。発光素子Lは、逆阻止3端子サイリスタと同様の負性抵抗特性を有する。発光素子Lは、予め定める部位であるゲート19にトリガ信号が与えられる選択状態にあるときのしきい電圧が非選択状態にあるときのしきい電圧よりも小さい、または選択状態にあるときのしきい電流が非選択状態にあるときのしきい電流よりも小さい。
【0034】
発光素子Lが、選択状態にあるときのしきい電圧が非選択状態にあるときのしきい電圧よりも小さい場合、発光素子Lは、選択状態にあり、かつ選択状態にあるときのしきい電圧よりも大きくかつ非選択状態にあるときのしきい電圧よりも小さい信号電圧を有する発光信号φEが与えられたときに、しきい電圧が発光信号φEの信号電圧よりも小さくなり、発光する。発光素子Lが、選択状態にあるときのしきい電流が非選択状態にあるときのしきい電流よりも小さい場合、発光素子Lは、選択状態にあり、かつ選択状態にあるときのしきい電流よりも大きくかつ非選択状態にあるときのしきい電流よりも小さい信号電流を有する発光信号φEが与えられたときに、しきい電流が発光信号φEの信号電流よりも小さくなり、発光する。
【0035】
このように発光素子Lは、選択状態にあり、かつ発光信号φEが与えられたときに、しきい電圧が発光信号φEの信号電圧よりも小さくなって、またはしきい電流が発光信号φEの信号電流よりも小さくなって、発光する。「発光信号φEの信号電圧」とは、発光信号φEが与えられることによって、発光素子Lのアノードおよびカソード間に印加される電圧のことである。「発光信号φEの信号電流」とは、発光信号φEが与えられることによって発光素子Lに与えられる電流のことである。
【0036】
配列方向Xの各発光素子Lの間隔W1と、発光素子Lの配列方向Xの長さW2とは、発光装置10が搭載される後述する画像形成装置87において形成すべき画像の解像度によって決定される。たとえば画像の解像度が600ドットパーインチ(dpi)の場合、前記間隔W1は、約24μm(マイクロメートル)に選ばれ、前記長さW2は、約18μmに選ばれる。また前記長さW2は、隣接する発光素子Lの間に、発光素子遮光部23を形成可能に選ばれる。発光素子Lの配列方向Xの寸法は、発光素子Lの幅方向Yの寸法よりも小さく選ばれる。これによって、各発光素子Lを配列方向Xに近接させて、集積密度を高めたときに、発光素子Lの光量が不足してしまうことを防止することができる。
【0037】
発光信号伝送路12は、各発光素子Lに接続され、各発光素子Lに発光信号φEを伝送する。発光信号伝送路12は、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって、発光素子Lが発する波長の光を反射するように形成される。具体的には発光信号伝送路12は、導電性を有する配線から成り、たとえば金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)またはアルミニウム(Al)によって形成される。
【0038】
発光信号伝送路12は、各発光素子Lの幅方向Yに隣接して、発光素子アレイ11に沿って延びる信号路延在部21と、前記配列方向Xに相互に間隔をあけて信号路延在部21から幅方向の一方の方向である第3方向Y1に突出して、各発光素子Lの厚み方向一端部に接続される素子接続部22とを有する。発光信号伝送路12は発光信号伝送手段に相当する。
【0039】
スイッチ素子アレイ13は、複数の光転送用発光素子であるスイッチ素子T1,T2,…,Tj−1,Tj(記号jは、2以上の正の整数)を含んで構成される。各スイッチ素子T1,T2,…,Tj−1,Tjは、隣接するスイッチ素子T1,T2,…,Tj−1,Tjからの光を受光するように相互に間隔W3をあけて配列される。以後、各スイッチ素子T1,T2,…,Tj−1,Tjを総称する場合、およびスイッチ素子T1,T2,…,Tj−1,Tjのうち不特定のものを示す場合、単にスイッチ素子Tと記載する場合がある。スイッチ素子Tは、発光スイッチ素子であり、言い換えればスイッチ用の発光素子である。本実施の形態では、各スイッチ素子Tは、等間隔に配置される。各スイッチ素子Tは、発光素子アレイ11の幅方向Yに隣接し、この発光素子アレイ11に沿って、複数の発光素子Lに対向した状態で直線状に配列される。したがって、各スイッチ素子Tの配列方向は、前記各発光素子Lの配列方向Xと同じである。スイッチ素子Tの配列方向Xの寸法は、スイッチ素子Tの幅方向Yの寸法よりも小さく選ばれる。これによって、各スイッチ素子Tを配列方向Xに近接させて、集積密度を高めたときに、スイッチ素子Tの光量が不足してしまうことを防止することができる。
【0040】
スイッチ素子Tは、P型半導体層とN型半導体層とが交互に積層されて構成されるPNPN構造を有する発光サイリスタ20を含んで実現される。スイッチ素子Tは、逆阻止3端子サイリスタと同様の負性抵抗特性を有する。スイッチ素子Tは、隣接するスイッチ素子Tからの光を受光する受光状態にあるときのしきい電圧が非受光状態にあるときのしきい電圧よりも小さい、または受光状態にあるときのしきい電流が非受光状態にあるときのしきい電流よりも小さい。
【0041】
スイッチ素子Tが、受光状態にあるときのしきい電圧が非受光状態にあるときのしきい電圧よりも小さい場合、スイッチ素子Tは、受光状態にあり、かつ受光状態にあるときのしきい電圧よりも大きくかつ非受光状態にあるときのしきい電圧よりも小さい信号電圧を有する走査信号φが走査信号伝送路15を介して与えられたときに、しきい電圧が走査信号φの信号電圧よりも小さくなって発光し、また予め定める部位であるゲート24にトリガ信号を発生する。スイッチ素子Tが、受光状態にあるときのしきい電流が非受光状態にあるときのしきい電流よりも小さい場合、スイッチ素子Tは、受光状態にあり、かつ受光状態にあるときのしきい電流よりも大きくかつ非受光状態にあるときのしきい電流よりも小さい信号電流を有する走査信号φが与えられたときに、しきい電流が走査信号φの信号電流よりも小さくなって発光し、また予め定める部位であるゲート24にトリガ信号を発生する。
【0042】
このようにスイッチ素子Tは、受光状態にあり、かつ走査信号φが与えられたときに、しきい電圧が走査信号φの信号電圧よりも小さくなって、またはしきい電流が走査信号φの信号電流よりも小さくなって、発光するとともにゲート24にトリガ信号を発生する。「走査信号φの信号電圧」とは、走査信号φが与えられることによって、スイッチ素子Tのアノードおよびカソード間に印加される電圧のことである。「走査信号φの信号電流」とは、走査信号φが与えられることによってスイッチ素子Tに与えられる電流のことである。
【0043】
本実施の形態では、発光素子Lとスイッチ素子Tとの数は等しく、すなわち前記iと記号jとは等しい数に選ばれる。
【0044】
配列方向Xの各スイッチ素子Tの間隔W3は、製造工程における制限を受けるので、スイッチ素子Tの厚み方向Zの高さh1の2倍以上に形成されるが、25μm以下に選ばれ、好ましくは10μm以下に選ばれる。本実施の形態では、スイッチ素子Tの高さh1を約4μmとしており、この場合には間隔W3はたとえば22μmに選ばれる。前記間隔W3が25μmを超えると、光転送効率が大きく低下してしまう。
【0045】
スイッチ素子Tの配列方向Xの長さW4は、前記配列方向Xの各発光素子Lの間隔W1と、発光素子Lの配列方向Xの長さW2と、配列方向Xの各スイッチ素子Tの間隔W3とによって決定される。すなわち配列方向Xの各発光素子Lの間隔W1と、発光素子Lの配列方向Xの長さW2とを加算した長さと、配列方向Xの各スイッチ素子Tの間隔W3とスイッチ素子Tの配列方向Xの長さW4とを加算した長さとが、等しく選ばれる。
【0046】
接続手段14は、各発光素子Lの前記予め定める部位であるゲート19と、各発光素子Lに対応する各スイッチ素子Tの前記予め定める部位であるゲート24とを、電気的に接続する。接続手段14は、具体的には発光素子Lkのゲート19と、スイッチ素子Tkのゲート24とを電気的に接続する。記号kは自然数である。
【0047】
接続手段14は、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される導電路によって実現される。具体的には接続手段14は、たとえば金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)またはアルミニウム(Al)によって形成される。
【0048】
第1,第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cは、各スイッチ素子Tに接続され、配列方向Xに隣接するスイッチ素子T毎に、異なるタイミングで与えられる前記第1〜第3走査信号φ1〜φ3を伝送する。本実施の形態において、第1走査信号伝送路15aは、第1走査信号φ1を伝送し、第2走査信号伝送路15bは、第2走査信号φ2を伝送し、第3走査信号伝送路15cは、第3走査信号φ3を伝送する。第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cを総称する場合、および第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cのうち不特定のものを示す場合、単に走査信号伝送路15と記載し、第1〜第3走査信号φ1,φ2,φ3を総称する場合、および第1〜第3走査信号φ1,φ2,φ3のうち不特定のものを示す場合、単に走査信号φと記載する場合がある。走査信号伝送路15は走査信号伝送手段に相当する。走査信号伝送路15は、導電性を有する配線から成り、たとえば金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)またはアルミニウム(Al)によって形成される。
【0049】
第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cは、各スイッチ素子Tの厚み方向Z一方である第5方向Z1で絶縁層17を介して各スイッチ素子Tに重なって形成され、配列方向Xに沿って延びる。第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cは、幅方向Yに予め定める間隔W5をあけて配置される。予め定める間隔W5は、第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15c間で短絡が発生しない距離に選ばれ、たとえば10μmに選ばれる。
【0050】
前記各スイッチ素子Tは、厚み方向Zの第5方向Z1の端部、すなわち図3の紙面に垂直な方向手前側に、オーミックコンタクト層25を有する。第1、第2および第3走査信号伝送路15a,15b,15cは、各スイッチ素子Tの前記オーミックコンタクト層25に順次1つずつ接続され、配列されるスイッチ素子Tに沿って、それぞれが3つおきにスイッチ素子Tに接続される。すなわち、第1走査信号伝送路15aは、スイッチ素子T1,T4,…,Tj−2に接続され(記号jは、整数かつ3×mであり、記号mは自然数)、第2走査信号伝送路15bは、スイッチ素子T2,T5,…,Tj−1に接続され、第3走査信号伝送路15cは、スイッチ素子T3,T6,…,Tjに接続される。したがって、スイッチ素子Tのうち、配列方向Xのn番目(記号nは、2以上j以下となる正の整数)に配置されるスイッチ素子Tnと、このスイッチ素子Tnの配列方向Xの一方の方向である第1方向X1側に隣接するスイッチ素子Tn−1と、スイッチ素子Tnの配列方向Xの他方の方向である第2方向X2側に隣接するスイッチ素子Tn+1とは、それぞれ異なる走査信号伝送路15に接続される。
【0051】
走査スタート用スイッチ素子T0は、P型半導体層とN型半導体層とが交互に積層されて構成されるPNPN構造を有する発光サイリスタ20によって実現される。走査スタート用スイッチ素子T0は、逆阻止3端子サイリスタと同様の負性抵抗特性を有する。走査スタート用スイッチ素子T0は、発光素子Lと同様、予め定める部位であるゲート26にトリガ信号が与えられる選択状態にあるときのしきい電圧が非選択状態にあるときのしきい電圧よりも小さい、または選択状態にあるときのしきい電流が非選択状態にあるときのしきい電流よりも小さい。走査スタート用スイッチ素子T0は、選択状態にあり、かつ選択状態にあるときのしきい電圧よりも大きくかつ非選択状態にあるときのしきい電圧よりも小さい信号電圧を有する走査信号φが与えられたときに、しきい電圧が走査信号の信号電圧よりも小さくなって発光する。また走査スタート用スイッチ素子T0は、選択状態にあり、かつ選択状態にあるときのしきい電流よりも大きくかつ非選択状態にあるときのしきい電流よりも小さい信号電流を有する走査信号φが与えられたときに、しきい電流が走査信号φの信号電流よりも小さくなって発光する。
【0052】
走査スタート用スイッチ素子T0は、スイッチ素子アレイ13の前記配列方向Xの端部に配置されるスイッチ素子Tに光を照射するように配置される。本実施の形態では、走査スタート用スイッチ素子T0は、スイッチ素子T1に光を照射するように配置される。したがって、走査スタート用スイッチ素子T0が配置される配列方向一方である第1方向X1が、光走査装置における光の走査方向の上流側となる。
【0053】
スタート信号伝送路16は、走査スタート用スイッチ素子T0のゲート26に接続され、走査スタート用スイッチ素子T0にトリガ信号となるスタート信号φSを伝送する。スタート信号伝送路16は、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的にはスタート信号伝送路16は、導電性を有する配線から成り、たとえば金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、金と亜鉛との合金(AuZn)、ニッケル(Ni)またはアルミニウム(Al)によって形成される。
【0054】
前述した発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0は、絶縁層17によって覆われる。隣接するスイッチ素子T間、および走査スタート用スイッチ素子T0とそれに隣接するスイッチ素子T1との間に設けられる絶縁層17は、導波体17である。隣接するスイッチ素子T間に設けられる絶縁層17である導波体17は、スイッチ素子Tからの光を、導波方向である配列方向Xの第2方向X2に隣接するスイッチ素子Tに導く。走査スタート用スイッチ素子T0とスイッチ素子T1との間に設けられる絶縁層17である導波体17は、走査スタート用スイッチ素子T0からの光を導波方向に隣接するスイッチ素子T1に導く。
【0055】
遮光層18は、各スイッチ素子Tの厚み方向Zの一方側、すなわち各スイッチ素子Tの図3の紙面に垂直手前側から、各スイッチ素子Tを覆い、発光素子Lが発する光に、スイッチ素子Tが発する光が干渉しないように、スイッチ素子Tが発する光を遮光する。
【0056】
発光素子遮光部23は、各発光素子Lの間と、発光素子アレイ11の配列方向Xの両端部の発光素子Lの配列方向Xの外方とに、信号路延在部21から幅方向一方である第3方向Y1に突出して設けられ、発光素子Lから配列方向Xに向かう光を遮光する。
【0057】
前述した発光素子L、発光信号伝送路12、スイッチ素子T、接続手段14、走査信号伝送路15、走査スタート用スイッチ素子T0、スタート信号伝送路16、絶縁層17、遮光層18および発光素子遮光部23は、1つの基板31に集積されて形成される。
【0058】
以下、発光装置10の各構成について、さらに具体的に説明する。
図4は、図3の切断面線IV−IVから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。発光素子Lは、基板31の厚み方向Zの一表面31a上に形成される第1のN型半導体層32、第1のP型半導体層33、第2のN型半導体層34および第2のP型半導体層35を含む。
【0059】
基板31は、本実施の形態では、N型半導体材料から成る。さらに具体的には、基板31は、III−V族化合物半導体層およびII−VI族化合物半導体層などの結晶成長が可能な半導体基板であり、たとえば、ガリウム砒素(GaAs)、インジウムリン(InP)、ガリウムリン(GaP)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの半導体材料によって形成される。基板31の厚み方向Zの他表面31b上には、裏面電極層36が形成される。裏面電極層36は、基板31の厚み方向Zの他表面31bの全面にわたって形成される。裏面電極層36は、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には裏面電極層36は、金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)および金と亜鉛との合金(AuZn)などによって形成される。基板31の厚み方向Zの一表面31aは、平面に形成される。
【0060】
発光素子Lは、基板31の厚み方向Zの一表面31a上に、第1のN型半導体層32が積層され、第1のN型半導体層32の厚み方向Zの一表面32a上に第1のP型半導体層33が積層され、第1のP型半導体層33の厚み方向Zの一表面33a上に第2のN型半導体層34が積層され、第2のN型半導体層34の厚み方向Zの一表面34a上に第2のP型半導体層35が積層されて構成される。
【0061】
第1のN型半導体層32は、ガリウム砒素(GaAs)、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびインジウムガリウムリン(InGaP)などの半導体材料によって形成される。第1のN型半導体層32のキャリア密度は、1×1018cm-3程度のものが望ましい。
【0062】
第1のP型半導体層33は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第1のP型半導体層33を形成する半導体材料には、第1のN型半導体層32を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のN型半導体層32を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが小さいものが選ばれる。第1のP型半導体層33のキャリア密度は1×1017cm-3程度のものが望ましい。
【0063】
第2のN型半導体層34は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第2のN型半導体層34を形成する半導体材料には、第1のP型半導体層33を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のP型半導体層33を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが小さいものが選ばれる。第2のN型半導体層34のキャリア密度は、第1のN型半導体層32、第1のP型半導体層33、第2のN型半導体層34および第2のP型半導体層35の全層の中で最も小さく1×1016cm-3〜1×1017cm-3程度のものであることが望ましい。第2のN型半導体層34は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成することによって、高い内部量子効率を得ることができる。
【0064】
第2のP型半導体層35は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第2のP型半導体層35を形成する半導体材料には、第1のP型半導体層33および第2のN型半導体層34を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のP型半導体層33および第2のN型半導体層34を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが大きいものが選ばれる。第2のP型半導体層35のキャリア密度は、1×1018cm-3程度のものであることが望ましい。
【0065】
第1のN型半導体層32、第1のP型半導体層33、第2のN型半導体層34および第2のP型半導体層35が積層された積層体は、略直方体形状を有する。第1のN型半導体層32、第1のP型半導体層33、第2のN型半導体層34および第2のP型半導体層35は、絶縁層17によって覆われる。絶縁層17は、電気絶縁性および透光性を有する樹脂材料、たとえばポリベンゾオキサゾール、ポリイミドまたはベンゾシクロブテン樹脂によって形成される。本実施形態において絶縁層17は、後述するようにスイッチ素子T間に設けられる導波体17としての絶縁層17と同時に形成されるので、ポリベンゾオキサゾールによって形成される。
【0066】
絶縁層17のうち、隣接する発光素子Lの間の部分には、幅方向Yに垂直な仮想一平面において、V字形状となり、基板31の一表面31aまで近接する溝部38が形成され、この溝部38に前記発光素子遮光部23が形成される。発光素子遮光部23は、溝部38の表面に沿って形成され、第2のP型半導体層35の配列方向Xの側方から基板31の一表面31aに近接する位置にわたって設けられる。発光素子遮光部23は、厚み方向Zにおいて、少なくとも第2のN型半導体層34の厚み方向Zの一端部から第2のN型半導体層34と、第2のP型半導体層35とによって形成される発光部よりも基板31側まで延びるように形成される。発光素子遮光部23と基板31とは、絶縁層17によって電気的に絶縁される。発光素子遮光部23は、信号路延在部21から発光素子Lの幅方向Yの一端部にわたって形成され、発光素子Lの幅方向Yの端部よりも発光素子Lの幅方向一方である第3方向Y1まで延びる。このような発光素子遮光部23を形成することによって、隣接する発光素子Lが発光したときにこの光を受光することが防止され、隣接する発光素子Lが発光しても、この発光に伴って発光素子Lのしきい電圧またはしきい電流が変化してしまうことがないので、発光素子Lを選択的に安定して発光させることができる。
【0067】
第2のP型半導体層35の厚み方向Zの一表面35a上には、発光信号伝送路12の素子接続部22が接続される。絶縁層17のうち、第2のP型半導体層35の厚み方向Zの一表面35a上に形成される部分には、貫通孔39が形成され、この貫通孔39に前記素子接続部22の一部が形成されて、素子接続部22が第2のP型半導体層35に接触している。前記貫通孔39は、発光素子Lの配列方向Xの中央で、かつ発光素子Lの幅方向Yの中央が絶縁層17から露出するように形成されており、発光信号伝送路12からの電流を、発光素子Lの中央部に効率的に供給して、発光させることができる。発光素子Lでは、主に第2のN型半導体層34と、第2のP型半導体層35との界面付近で、第2のN型半導体層34寄りの領域において光が発生する。
【0068】
発光信号伝送路12の素子接続部22の配列方向Xの長さW6は、発光素子Lの配列方向Xの長さW2の3分の1(1/3)以下に形成される。素子接続部22は、発光素子Lの光の出射方向の一部を覆うが、長さW6を前述したように選ぶことによって、発光素子Lから発せられ、厚み方向一方である第5方向Z1に向かう光を、遮ってしまうことを可及的に防止する。また発光素子Lから発せられ、第5方向Z1に向かい、発光信号伝送路12によって反射された光の一部は、発光素子遮光部23および基板31などによって反射されることによって、厚み方向Z一方である第5方向Z1へと向かう。
【0069】
前述の図1に示すように、スイッチ素子Tは、裏面電極層36と、基板31と、本発明の実施の一形態の発光サイリスタ20とを含んで構成される。スイッチ素子Tは、基板31の厚み方向Zの一表面31a上に発光サイリスタ20が積層され、基板31の厚み方向Zの他表面31b上に裏面電極層36が積層されて構成される。
【0070】
発光サイリスタ20は、第1のN型半導体層42と、第1のP型半導体層43と、第2のN型半導体層44と、第2のP型半導体層45と、オーミックコンタクト層25とを含んで構成される。発光サイリスタ20は、基板31の厚み方向Zの一表面31aに第1のN型半導体層42が積層され、第1のN型半導体層42の厚み方向Zの一表面42aに第1のP型半導体層43が積層され、第1のP型半導体層43の厚み方向Zの一表面43aに第2のN型半導体層44が積層され、第2のN型半導体層44の厚み方向Zの一表面44aに第2のP型半導体層45が積層され、第2のP型半導体層45の厚み方向Zの一表面45aにオーミックコンタクト層25が積層されて構成される。発光サイリスタ20の積層方向は、厚み方向Zと同じ方向である。
【0071】
発光サイリスタ20は、第2のN型半導体層44の積層方向に垂直な断面が、第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との界面に対して積層方向に離反するにつれて減少するように形成される。第2のN型半導体層44は、第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との界面から厚み方向Z一方である第5方向Z1に予め定める間隔W7をあけて想定される前記界面に平行な仮想一平面40の第5方向Z1側の退避部46と、前記仮想一平面40の厚み方向他方である第6方向Z2側の突出部47とから成る。退避部46は、第5方向Z1から見て、突出部47の内側に退避して形成される。本実施の形態では、退避部46および突出部47は、略直方体形状を有する。退避部46および突出部47の配列方向一方である第1方向X1の側面の間隔W8と、退避部46および突出部47の配列方向他方である第2方向X2の側面の間隔W8と、退避部46および突出部47の幅方向他方である第4方向Y2の側面の間隔W8とは、それぞれ等しい間隔に選ばれる。また後述する図8に示す退避部46および突出部47の幅方向一方である第3方向Y1の側面の間隔W9は、後述する接続手段14を形成するために前記間隔W8よりも広く設定される。
【0072】
第1のN型半導体層42と第1のP型半導体層43とは、略直方体形状を有し、各側面が突出部47の側面に連なるように形成される。すなわち第1のN型半導体層42と、第1のP型半導体層43と、突出部47とによって構成される積層体は、略直方体形状を有する。第2のP型半導体層45とオーミックコンタクト層25とは、略直方体形状を有し、各側面が退避部46の側面に連なるように形成される。すなわち退避部46と、第2のP型半導体層45と、オーミックコンタクト層25とによって構成される積層体は、略直方体形状を有する。
【0073】
スイッチ素子Tの、第1のN型半導体層42、第1のP型半導体層43、第2のN型半導体層44、第2のP型半導体層45、およびオーミックコンタクト層25の各半導体層を構成する半導体材料のエネルギーギャップおよびキャリア密度は、スイッチ素子Tの受光効率、および外部への光の取り出し効率、ならびに発光効率を高めるように設計することが好ましい。
【0074】
第1のN型半導体層42は、ガリウム砒素(GaAs)、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびインジウムガリウムリン(InGaP)などの半導体材料によって形成される。第1のN型半導体層42のキャリア密度は、1×1018cm-3程度であることが望ましい。
【0075】
第1のP型半導体層43は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第1のP型半導体層43を形成する半導体材料には、第1のN型半導体層42を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のN型半導体層42を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが小さいものが選ばれる。第1のP型半導体層43のキャリア密度は1×1017cm-3程度であることが望ましい。
【0076】
第2のN型半導体層44は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第2のN型半導体層44を形成する半導体材料には、第1のP型半導体層43を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のP型半導体層43を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが小さいものが選ばれる。第2のN型半導体層44のキャリア密度は、第1のN型半導体層42、第1のP型半導体層43、第2のN型半導体層44、第2のP型半導体層45およびオーミックコンタクト層25の全層の中で最も小さく、1×1016cm-3〜1×1017cm-3程度であることが望ましい。第2のN型半導体層44は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成することによって、高い内部量子効率を得ることができる。
【0077】
第2のP型半導体層45は、アルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)およびガリウム砒素(GaAs)などの半導体材料によって形成される。第2のP型半導体層45を形成する半導体材料には、第1のP型半導体層43および第2のN型半導体層44を形成する半導体材料のエネルギーギャップと同じ、もしくは第1のP型半導体層43および第2のN型半導体層44を形成する半導体材料のエネルギーギャップよりもエネルギーギャップが大きいものが選ばれる。第2のP型半導体層45のキャリア密度は、1×1018cm-3程度であることが望ましい。
【0078】
オーミックコンタクト層25は、本実施形態ではP型半導体層であり、走査信号伝送路15であるクロックライン15とのオーミック接合を行うためのものである。オーミックコンタクト層25を設けることによって走査信号伝送路15と発光サイリスタ20とのオーミック性を向上することができる。オーミックコンタクト層25は、ガリウム砒素(GaAs)およびインジウムガリウムリン(InGaP)などの半導体材料によって形成される。オーミックコンタクト層25のキャリア密度は、1×1019cm-3以上であることが望ましい。
【0079】
スイッチ素子Tの第1のN型半導体層42と、発光素子Lの第1のN型半導体層32とは、同じ半導体材料によって形成され、厚みが等しく形成される。またスイッチ素子Tの第1のP型半導体層43と、発光素子Lの第1のP型半導体層33とは、同じ半導体材料によって形成され、厚みが等しく形成される。またスイッチ素子Tの第2のN型半導体層44と、発光素子Lの第2のN型半導体層34とは、同じ半導体材料によって形成され、厚みが等しく形成される。またスイッチ素子Tの第2のP型半導体層45と、発光素子Lの第2のP型半導体層35とは、同じ半導体材料によって形成され、厚みが等しく形成される。
【0080】
スイッチ素子Tの第1のN型半導体層42の厚みは、100nm〜500nmに選ばれる。スイッチ素子Tの第1のP型半導体層43の厚みは、5nm〜200nmに選ばれる。このように第1のP型半導体層43の厚みを選ぶことによって、第1のN型半導体層42と第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層34とによって形成されるフォトトランジスタ部の電流増幅率が大きくなり、効率よく外部からの光を受光することができる。スイッチ素子Tの第2のN型半導体層44の厚みは、500nm〜1000nmに選ばれる。またスイッチ素子Tの第2のP型半導体層45の厚みは、200nm〜1000nmに選ばれる。スイッチ素子Tのオーミックコンタクト層25の厚みは、10nm〜20nmに選ばれる。
【0081】
表面電極層25は、金属材料および合金材料などの導電性を有する材料によって形成される。具体的には表面電極層25は、たとえば金(Au)、金とゲルマニウムとの合金(AuGe)、または金と亜鉛との合金(AuZn)によって形成される。
【0082】
第1のN型半導体層42、第1のP型半導体層43、第2のN型半導体層44、第2のP型半導体層45、およびオーミックコンタクト層25は、絶縁層17によって覆われ、隣接するスイッチ素子Tと電気的に絶縁される。前述したように絶縁層17は、透光性を有するので、スイッチ素子Tが発光すると、この光は絶縁層17を透過して、配列方向Xに隣接するスイッチ素子Tに入射する。このように隣接する2つのスイッチ素子T間に設けられる絶縁層17は、一方のスイッチ素子Tからの光を、配列方向Xに隣接する他方のスイッチ素子Tに導く導波体17として働く。絶縁層17は、スイッチ素子Tが発する波長の光の95%以上を透過する樹脂材料によって形成される。
【0083】
発光サイリスタ20にしきい電圧以上の順方向の電圧を印加すると、第1のN型半導体層42と第1のP型半導体層43との接合部、および第2のN型半導体層44と第2のP型半導体層45との接合部から光が発生する。いずれの接合部からの光の強度を強くするかは、各層の層厚および不純物濃度などを調節することによって選択される。本実施の形態では、各層の層厚および不純物濃度などを調節することによって、図1の矢符で示すように第2のN型半導体層44および第2のP型半導体層45の界面付近で、第2のN型半導体層44寄りの領域から主に発光する。この第2のN型半導体層44および第2のP型半導体層45の界面付近で、第2のN型半導体層44寄りの領域が、発光部100に相当する。また発光サイリスタ20に順方向の電圧を印加すると、第1のN型半導体層42と第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44とによって主として受光する受光部101、言い換えればフォトトランジスタ部が形成される。したがって本実施の形態では、発光部100および受光部101は、導波方向X2に垂直な方向である厚み方向Zの一方の方向である第5方向Z1に積層されて設けられる。
【0084】
図5は、図1に示す光転送アレイ装置1の導波体17の部分を拡大して示す断面図である。図5では、図1に示す遮光層18は記載を省略する。本実施形態において導波体17は、基板31から離反する方向である第5方向Z1に向かって突出して形成され、導波体17の表面、より詳細には導波体17の基板31と反対側の表面である第1表面103は、隣接する2つのスイッチ素子T間において、導波方向X2の全体にわたって外方に凸となった凸曲面状に形成される。このように本実施形態において導波体17は、隣接する2つのスイッチ素子T間において、導波方向X2における両端部間の中間部が、両端部よりも膨出するように形成される。
【0085】
導波体17の表面103は、反射集光領域104として機能する部分を有する。反射集光領域104は、外方に凸となった凸曲面状、より詳細には基板31と反対側に向かって凸となった凸曲面状に形成される。本実施形態では、スイッチ素子Tの発光部100および受光部101は、受光部101および発光部100の順に基板31に積層されるので、反射集光領域104は、受光部101および発光部100の積層方向である第5方向Z1における発光部100寄りの部分に形成される。
【0086】
反射集光領域104は、スイッチ素子Tからの光151がこの反射集光領域104で反射されると、導波方向X2において、そのスイッチ素子Tに隣接するスイッチ素子Tに入射するように形成される。したがって、発光状態にあるスイッチ素子Tからの光151は反射集光領域104で反射されると、隣接するスイッチ素子Tに入射する。反射集光領域104は外方に凸となった凸曲面状に形成されるので、凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて、導波体17の表面103に占める反射集光領域104として機能する部分の割合を大きくすることができる。
【0087】
図6は、スイッチ素子T間において表面124aが凹曲面状に形成される導波体124を模式的に示す断面図である。導波体124の表面124aが凹曲面状に形成される場合、発光側のスイッチ素子T寄りの部分において導波体124の表面124aに入射する光153は、導波体124の表面124aで反射されても、受光側のスイッチ素子Tには入射しにくい。たとえば発光側のスイッチ素子Tからの光の一部は、導波体124の表面124aで基板31に向かって反射され、受光側のスイッチ素子Tには入射しない。したがって、導波体124の表面124aが凹曲面状である場合には、凸曲面状である場合に比べて、導波体124の表面124aのうち、反射された光が受光側のスイッチ素子Tに入射するように形成される領域、すなわち反射集光領域として機能する部分の割合は小さくなる。
【0088】
また導波体の表面が平面状に形成される場合にも、凸曲面状に形成される場合に比べて、導波体の表面のうち、反射された光が受光側のスイッチ素子Tに入射するように形成される反射集光領域として機能する部分は小さくなる。
【0089】
本実施形態では、導波体17の表面103は凸曲面状に形成され、反射集光領域104は凸曲面状に形成されるので、導波体の表面、ひいては反射集光領域が凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて、導波体17の表面103のうち、反射集光領域104として形成される領域を大きくすることができる。これによって、発光側のスイッチ素子Tからの光のうち、受光側のスイッチ素子Tに入射する光の量を増加させることができるので、導波損失を低減することができる。
【0090】
また発光側のスイッチ素子T寄りの部分で反射される光は、図6に示す導波体124の表面124aが凹曲面状に形成される場合には、基板31側に向かって反射され、受光側のスイッチ素子Tには入射しないが、本実施形態では、このような光についても受光側のスイッチ素子Tに向かって反射させ、受光側のスイッチ素子Tに入射させることが可能である。
【0091】
また反射集光領域104が凸曲面状に形成されることによって、発光側のスイッチ素子T寄りの部分の反射集光領域104において、発光側のスイッチ素子Tからの光151が反射集光領域104に入射するときに、入射位置における接平面の法線150と入射光線151との成す角度である入射角θを、反射集光領域が凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて大きくすることができる。
【0092】
図7は、導波体の表面の形状と入射角との関係を模式的に示す断面図である。図7では、導波体17の表面103が凸曲面状に形成される場合を実線で示し、導波体の表面が凹曲面状に形成される場合を二点鎖線で示し、導波体の表面が平面状に形成される場合を破線で示す。発光側のスイッチ素子Tの同じ位置から出射した光151が導波体17の表面103に入射するときの入射角θは、導波体17の表面103が凸曲面状に形成され、反射集光領域104が凸曲面状に形成される場合の入射角θaの方が、参照符160で示される凹曲面状の場合の入射角θcよりも大きく、また参照符161で示される平面状の場合の入射角θbよりも大きくなる。このように反射集光領域104を凸曲面状にすることによって、反射集光領域が凹曲面状に形成される場合および平面状に形成される場合に比べて、発光側のスイッチ素子Tからの光の入射角θを大きくすることができる。
【0093】
したがって、発光側のスイッチ素子Tからの光を、臨界角を超える入射角θで反射集光領域104に入射させやすくなるので、全反射を起こさせやすくなる。これによって、反射集光領域104に入射する光のうち、反射集光領域104で反射される光の比率を高めて導波損失を低減することができる。たとえば図6に示すように導波体124の表面124aが凹曲面状である場合に導波体124を透過していた光154を、反射集光領域104で反射させることができるので、導波体124の表面124が凹曲面状である場合に比べて、導波損失を低減することができる。
【0094】
このように本実施形態では、導波損失を低減し、発光側のスイッチ素子Tからの光のうち、導波方向X2に隣接するスイッチ素子Tに入射する光の量を増加させることができるので、導波体17による光の導波率を高くすることができる。したがって、スイッチ素子Tを同じ発光強度で発光させた場合に、そのスイッチ素子Tに隣接するスイッチ素子Tに転送される光の量を多くすることができるので、光転送アレイ装置1の光転送効率を向上させることができる。
【0095】
図5に示す反射集光領域104は、反射集光領域104のすべての点において、以下の条件(i)および(ii)を満たすように形成される。
【0096】
(i)反射集光領域104の点P0と、隣接する2つのスイッチ素子Tのうち、導波方向X2の上流側に設けられる一方の光転送用発光素子である発光側スイッチ素子Tの出射面の1点P1と、他方の光転送用発光素子である受光側スイッチ素子Tの受光面の1点P2とを結んだ平面Gに、前記点P0における反射集光領域104の法線Q0が含まれる。
【0097】
(ii)前記点P0における法線Q0と、前記点P0と前記発光側スイッチ素子Tの出射面の点P1とを結ぶ直線Q1との成す角度θ1と、前記点P0における法線Q0と、前記点P0と前記受光側スイッチ素子Tの受光面の点P2とを結ぶ直線Q2との成す角度θ2とが等しい。
【0098】
前記条件(i)を満たさない場合、すなわち前記点P0における法線Q0が前記平面Gにない場合、反射集光領域104で反射された光が、受光側のスイッチ素子Tの受光面から幅方向Yにずれて入射し、受光面に入射しないことになる。
【0099】
前記条件(ii)を満たさない場合、すなわち前記角度θ1と前記角度θ2とが等しくない場合、反射集光領域104で反射された光が、受光側スイッチ素子Tの受光面から厚み方向Zにずれて入射し、受光面に入射しないことになる。
【0100】
また反射集光領域104は、反射集光領域104の全ての点において、前記点P0における法線Q0と、前記点P0と前記発光側スイッチ素子Tの出射面の点P1とを結ぶ直線Q1との成す角度θ1が、臨界角よりも大きくなるように形成されることが好ましい。このように前記点P0における法線Q0と前記直線Q1との成す角度θ1が臨界角よりも大きくなるように反射集光領域104を形成することによって、反射集光領域104の全体にわたって全反射を起こすことができる。これによって、反射集光領域104で反射される光の量をさらに増加させることができるので、光転送効率を一層向上させることができる。
【0101】
反射集光領域104における臨界角は、導波体17の屈折率、および導波体17の表面に接する層の屈折率たとえば遮光層18または走査信号伝送路15の屈折率に依存する。したがって導波体17の屈折率は、反射集光領域104の全ての点が、前記点P0における法線Q0と、前記点P0と前記発光側スイッチ素子Tの出射面の点P1を通る直線Q1との成す角度θ1が臨界角よりも大きくなるように選ばれることが好ましい。
【0102】
本実施形態において導波体17の第1表面103の高さd2は、隣接するスイッチ素子T間の配列方向Xにおける間隔W3、スイッチ素子Tの高さh1、ならびにスイッチ素子Tの発光部100および受光部101の位置などに応じて選ばれる。また導波体17の第1表面103の高さd2は、第1表面103のうち、反射集光領域104として機能する部分の割合が可及的に大きくなるように選ばれることが好ましい。「導波体17の第1表面103の高さd2」とは、スイッチ素子Tの上面である発光サイリスタ20の上面から、導波体17の第1表面103の基板31から最も離隔した部分までの距離のことである。たとえばスイッチ素子T間の配列方向Xの間隔W3が20μmである場合、導波体17の第1表面103の高さd2は0μmより大きく5μm以下に選ばれる。導波体17の第1表面103の高さd2は、これに限定されないが、前記間隔W3が20μmである場合には0μmより大きく5μm以下であることが好ましい。導波体17の第1表面103の高さd2が5μmを超えると、スイッチ素子Tから導波体17の第1表面103に向かって出射され、第1表面103で反射された光が、隣接するスイッチ素子Tの受光部101に入射しにくくなるので、反射集光領域104の割合が小さくなり、導波率の向上効果が充分に発揮されない。
【0103】
また本実施形態では、厚み方向の一方の方向である第5方向Z1から見て、突出部47は、周縁部が全周にわたって退避部46から突出して形成されるので、発光サイリスタ20の絶縁層17と接する側面に沿って発光サイリスタ20の厚み方向Zの一表面20aと他表面20bとを結ぶ曲線の距離は、発光サイリスタ20の厚み方向Zの一表面20aと他表面20bとを、厚み方向Zに平行な直線で結ぶ最短距離よりも長くなる。電位差は、電界強度を距離で積分した値であるので、同じ電位差であれば距離が長いほど電界強度は弱くなる。したがって発光サイリスタ20に順方向の電圧を印加したときの厚み方向Zの電界強度は、前記最短距離で結ぶ直線上において最も強くなり、発光サイリスタ20の側面部において最も弱くなる。これによって発光サイリスタ20の側面部に発生する厚み方向Zの電界強度を、厚み方向Zに垂直な方向の中央部に比べて小さくすることができる。
【0104】
発光サイリスタ20の絶縁層17に接する側面は結晶構造が不連続となるので、側面部には未結合手が存在し、表面準位が形成される。この表面準位に電子が捕獲されると、発光サイリスタ20の側面部は負に帯電するので、第1のP型半導体層43の側面部には、反転層が形成される。すなわち発光サイリスタ20の側面部は、PNPN型の発光サイリスタ20として機能しなくなる。発光サイリスタ20の側面部には捕獲された電子が存在するので、側面部の電気抵抗が小さくなる。発光サイリスタ20の側面部は、電流が流れ易い状態になっているが、側面部の厚み方向Zの電界強度を弱くすることができるので、側面部を流れる暗電流の発生を抑制することができる。特に厚み方向Z一方である第5方向Z1から見て、突出部47は、周縁部が全周にわたって退避部46から突出して形成されるので、暗電流の発生を全ての側面部において抑制することができる。
【0105】
第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との接合部に形成される空乏層に光が入射すると、入射した光の強度に応じて発光サイリスタ20に電子と正孔との対が発生し、電流が流れる。この電流によってスイッチ素子Tのしきい電圧が低下するが、発生した正孔が暗電流の元となる反転層のキャリアと再結合して消費され、発生する電流が小さくなるので、しきい電圧がそれほど低下しなくなる。すなわち暗電流が入射光に対してノイズとして作用する。この暗電流の発生を抑制することができるので、入射光によって生成される電流によって、発光サイリスタ20のしきい電圧を効率的に下げることができる。したがって、第2のN型半導体層44の積層方向Z1に垂直な断面が第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との界面から積層方向Z1に離反するに連れて減少するように形成されない場合に比べて、弱い光を入射することによって発光サイリスタ20をターンオンすることができ、発光サイリスタ20の受光効率を向上することができる。
【0106】
前記間隔W7、すなわち突出部47の厚みは、薄い方がより効率的に暗電流の発生を抑制することができ、発光サイリスタ20の受光効率を向上することができる。前記間隔W7は、好ましくは第2のN型半導体層44の厚み方向Zの厚みの2分の1(1/2)以下に選ばれ、たとえば0.5μm以下に選ばれる。
【0107】
前記間隔W8およびW9は、発光サイリスタ20に順方向電圧を印加したときに暗電流の発生を抑制することができる範囲に選ばれ、たとえば1μm以上に選ばれる。また前記間隔W8および間隔W9の上限は、発光サイリスタ20から放射される光の強度が低下し過ぎない程度に選ばれ、たとえば退避部46の配列方向Xの寸法が突出部47の配列方向Xの寸法の2分の1(1/2)程度となり、退避部46の幅方向Yの寸法が突出部47の幅方向Yの寸法の2分の1(1/2)程度となるように選ばれる。前記間隔W8およびW9は、好ましくは受光効率が最も高くなる範囲に選ばれ、2μm以上かつ5μm未満に選ばれる。
【0108】
オーミックコンタクト層25の厚み方向Zの一表面25aには、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cのうちの、いずれか1つが接続される。絶縁層17のうち、オーミックコンタクト層25の厚み方向Zの一表面25a上に形成される部分には、貫通孔49が形成される。この貫通孔49を介して第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cのうちの、いずれか1つが接続され、スイッチ素子Tと第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cのうちの他の2つの走査信号伝送路15とは、絶縁層17によって電気的に絶縁される。スイッチ素子Tは絶縁層17によって覆われているので、スイッチ素子Tの厚み方向一方である第5方向Z1側に、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cを積層することができる。
【0109】
本実施の形態では、スイッチ素子Tにおいては、走査信号伝送路15のオーミックコンタクト層25との接続部がアノード端子として機能し、裏面電極層36がカソード端子として機能する。また発光素子Lにおいては、発光信号伝送路12の第2のP型半導体層35との接続部が発光素子Lのアノード端子として機能し、裏面電極層36が発光素子Lのカソード端子としても機能する。カソード電位を0ボルト(V)にすると、発光素子Lおよびスイッチ素子Tに電圧または電流を印加する電源に、正電源を用いることができるので好ましい。
【0110】
各スイッチ素子Tの厚み方向Zの一方側において、絶縁層17および走査信号伝送路15は遮光層18によって覆われる。遮光層18の材料としては、電気絶縁性を有し、スイッチ素子Tから発せられる波長の光を、2μm〜3μm程度の厚みでほぼ完全に吸収するようなものであれば種々のものが使用可能である。本実施の形態では遮光層18は、緑色のポリイミドによって形成される。遮光層18の厚みは、5μm〜10μm程度に選ばれる。
【0111】
スイッチ素子Tから発せられ、厚み方向一方である第5方向Z1へ向かう光は、導波体17である絶縁層17と走査信号伝送路15との界面、走査信号伝送路15、絶縁層17と遮光層18との界面などによって反射されるか、遮光層18によって吸収される。各走査信号伝送路15および絶縁層17によって反射手段が形成される。これによって、スイッチ素子Tからの光が、発光素子Lから第5方向Z1に出射される光に干渉してしまうことが防止される。したがって発光装置10を、後述する画像形成装置87の露光装置として用いた場合に、スイッチ素子Tからの漏れ光によって、画像の劣化が発生せず、優れた品質の画像を形成することができる。
【0112】
また本実施形態では、導波体17の表面103は反射集光領域104を有し、反射集光領域104は外方に凸となった凸曲面状に形成されている。これによってスイッチ素子Tから出射される光のうち、導波体17の反射集光領域104と遮光層18との界面において反射されて、導波方向X2に隣接するスイッチ素子Tに入射する光の量を増加させることができる。したがって、遮光層18に吸収される光の量を減少させ、スイッチ素子Tから出射される光をより有効に利用することができる。
【0113】
図8は、図3の切断面線V−Vから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。発光素子Lと、スイッチ素子Tとは、幅方向Yに隣接して配置される。発光素子Lの第1のN型半導体層32と、第1のP型半導体層33と、第2のN型半導体層34とのスイッチ素子T寄りの端部は、第2のP型半導体層35のスイッチ素子T寄りの端部よりも、スイッチ素子Tに向かって突出し、発光素子接続部51を構成する。発光素子接続部51の配列方向Xの長さは、前述した長さW2よりもわずかに小さい。
【0114】
またスイッチ素子Tの、第1のN型半導体層42と、第1のP型半導体層43と、第2のN型半導体層44との発光素子L寄りの端部は、第2のP型半導体層45の発光素子L寄りの端部よりも、スイッチ素子Tに向かって突出し、スイッチ素子接続部52を構成する。スイッチ素子接続部52の配列方向Xの長さは、発光素子接続部51の配列方向の長さと等しく選ばれる。
【0115】
絶縁層17は、発光素子Lおよびスイッチ素子Tの表面に沿って形成されており、発光素子Lとスイッチ素子Tとの間にも形成され、発光素子Lとスイッチ素子Tとが絶縁層17によって電気的に絶縁される。発光素子Lとスイッチ素子Tとの間に設けられる絶縁層17の厚みは、基板31から発光素子接続部51およびスイッチ素子接続部52の厚みとほぼ等しい。絶縁層17のうち、発光素子Lとスイッチ素子Tとの間に設けられる部分には、基板31側が底部となり、配列方向Xに沿って延びる凹部53が形成される。絶縁層17のうち、前記発光素子接続部51の第2のN型半導体層34の厚み方向Zの一表面34aに積層されている部分には貫通孔54が形成され、前記スイッチ素子接続部52の第2のN型半導体層44の厚み方向Zの一表面44aに積層される部分には貫通孔55がそれぞれ形成される。
【0116】
発光素子Lのゲート19と、この発光素子Lに対応するスイッチ素子Tのゲート24とを接続する接続手段14は、発光素子接続部51とスイッチ素子接続部52とにわたって、発光素子Lとスイッチ素子Tとの間で、絶縁層17に積層して設けられる。接続手段14は、前記貫通孔54,55に接続手段14の一部が形成され、発光素子接続部51の第2のN型半導体層34の厚み方向Zの一表面34aと、前記スイッチ素子接続部52の第2のN型半導体層44の厚み方向Zの一表面44aとに接続される。接続手段14の抵抗値は、1kΩ(オーム)以下に選ばれる。抵抗値が高すぎると、スイッチ素子Tから発光素子Lへのトリガ信号が減衰してしまう恐れがあるが、接続手段14の抵抗値を前記範囲に選ぶことによって、トリガ信号がスイッチ素子Tから発光素子Lへ伝達される際に減衰することを抑制できる。
【0117】
発光素子Lの第2のN型半導体層34は、発光素子Lのゲート19であり、スイッチ素子Tの第2のN型半導体層44は、スイッチ素子Tのゲート24である。したがって、接続手段14は、発光素子Lとスイッチ素子Tのゲート同士を電気的に接続している。
【0118】
発光素子Lの第2のP型半導体層35のスイッチ素子T寄りの端部は、絶縁層17を介して前述した発光信号伝送路12によって覆われる。これによって、発光素子Lから、スイッチ素子Tに向かう光を遮光することができる。発光信号伝送路12の信号路延在部21は、第2のP型半導体層35のスイッチ素子Tに対向する側部に臨んで設けられ、また発光素子接続部51の第2のP型半導体層35寄りの端部を覆う。
【0119】
またスイッチ素子Tの第2のP型半導体層45の発光素子L寄りの端部は、絶縁層17に積層される遮光層18によって覆われる。これによって、スイッチ素子Tから、発光素子Lに向かう光を遮光することができる。またスイッチ素子Tの、発光素子Lとは反対側の端部は、絶縁層17を介して遮光層18によって覆われる。遮光層18は、スイッチ素子接続部52の厚み方向Zの一方を覆い、前記発光素子Lとスイッチ素子Tとの間に形成される凹所53付近まで延びる。
【0120】
図9は、図3の切断面線VI−VIから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。走査スタート用スイッチ素子T0と、スイッチ素子Tとは、同様な構成であるので、同様の部分には、同様の参照符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0121】
走査スタート用スイッチ素子T0は、基板31の厚み方向Zの一表面31a上に、第1のN型半導体層42が積層され、第1のN型半導体層42の厚み方向Zの一表面42上に第1のP型半導体層43が積層され、第1のP型半導体層43の厚み方向Zの一表面43a上に第2のN型半導体層44が積層され、第2のN型半導体層44の厚み方向Zの一表面44a上に第2のP型半導体層45が積層され、第2のP型半導体層45の厚み方向Zの一表面45a上にオーミックコンタクト層25が形成されて構成される。
【0122】
また走査スタート用スイッチ素子T0の、第1のN型半導体層42と、第1のP型半導体層43と、第2のN型半導体層44との発光素子L寄りの端部は、第2のP型半導体層45の発光素子L寄りの端部よりも、発光素子アレイ11側に向かって突出し、走査スタート用スイッチ素子接続部68を構成する。
【0123】
走査スタート用スイッチ素子T0は、絶縁層17および遮光層18に覆われる。走査スタート用スイッチ素子T0の厚み方向一方である第5方向Z1に積層される絶縁層17に積層して走査信号伝送路15が形成され、絶縁層17のうち走査スタート用スイッチ素子T0の第5方向Z1に積層される部分に形成される貫通孔69に第3走査信号伝送路15cの一部が形成されて、貫通孔69を介して第3走査信号伝送路15cが走査スタート用スイッチ素子T0のオーミックコンタクト層25に接続される。また絶縁層17のうち、走査スタート用スイッチ素子接続部68の積層される部分には、貫通孔71が形成され、この貫通孔71にスタート信号伝送路16の一部が形成され、貫通孔71を介して、絶縁層17に積層して形成されるスタート信号伝送路16が接続される。走査スタート用スイッチ素子T0、走査信号伝送路15およびスタート信号伝送路16とは、遮光層18によって覆われる。
【0124】
走査スタート用スイッチ素子T0の第2のN型半導体層44は、走査スタート用スイッチ素子T0のゲート26である。
【0125】
光転送アレイ装置1は、本発明の実施の一形態である光転送アレイ装置の製造方法によって製造される。図10は、本発明の実施の一形態である光転送アレイ装置の製造方法の手順を示すフローチャートである。図11は、光転送アレイ装置1を製造する様子を示す模式的に示す断面図である。本実施形態の光転送アレイ装置の製造方法は、アレイ形成工程(ステップs1)と、第1透過層形成工程(ステップs2)と、凹部形成工程(ステップs3)と、第1硬化工程(ステップs4)と、第2透光層形成工程(ステップs5)と、貫通孔形成工程(ステップs6)と、第2硬化工程(ステップs7)と、伝送路形成工程(ステップs8)と、遮光層形成工程(ステップs9)とを含む。
【0126】
ステップs1のアレイ形成工程では、図11(a)に示すように、基板31に複数のスイッチ素子Tを相互に間隔をあけて配置して、スイッチ素子アレイ13を形成する。スイッチ素子Tは、発光素子Lおよび走査スタート用スイッチ素子T0と同時に形成される。より詳細には、各発光素子L、各スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0は、基板31の一表面31aに、第1のN型半導体層32,42、第1のP型半導体層33,43、第2のN型半導体層34,44、第2のP型半導体層35,45、およびオーミックコンタクト層25を、それぞれ形成するための半導体材料を、エピタキシャル成長および化学気相成長(CVD)法などによって順次積層した後、フォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングして形成される。このように本実施形態では、一連の製造プロセスにおいて、発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0を同時に形成することができるので、製造コストを低減することができる。
【0127】
ステップs2の第1透光層形成工程では、導波体17となる第1透光層110を形成する。より詳細には、まず第1透光層110を形成する透光性材料を、スイッチ素子T間に充填するとともにスイッチ素子Tを覆うように塗布し、第1塗布層111を形成する。本実施形態では透光性材料は、発光素子L間および走査スタート用スイッチ素子T0とそれに隣接するスイッチ素子Tとの間に充填されるとともに、発光素子Lおよび走査スタート用スイッチ素子T0を覆うように塗布される。
【0128】
透光性材料としては、ポリベンゾオキサゾール(polybenzooxazole;略称PBO)前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料が用いられる。より詳細には、露光によって現像液に対して可溶性に変化するポジ型、または露光によって現像液に対して不溶性に変化するネガ型の感光性を有する透光性材料が用いられる。ポリベンゾオキサゾール前駆体はたとえばγ−ブチロラクトンなどのラクトン類またはN−メチル−2−ピロリドンなど、特にγ−ブチロラクトンに溶解しやすいので、このような物質を溶剤として選択することによって、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分の含有率を高めることができる。本実施形態では、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分の含有率は、25重量%以上80重量%以下であり、より詳細には30重量%以上40重量%以下である。
【0129】
透光性材料に含有される固形成分は、PBO前駆体と感光剤とを含む。PBO前駆体としては、たとえば1分子中にo−アミノフェノール構造と安息香酸構造とを有する化合物、たとえば3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸が挙げられる。1分子中にo−アミノフェノール構造と安息香酸構造とを有する化合物としては、下記一般式(1)で表される繰返し単位を有するポリベンゾオキサゾール前駆体も挙げられる。
【0130】
【化1】

【0131】
一般式(1)において、R1は下記一般式(2)で表される基の中から選ばれる少なくとも1種の基を示し、R2は2価の有機基を示し、mは2〜1000の整数を示す。
【0132】
【化2】

【0133】
一般式(2)において、R3は水素原子、トリアルキルシリル基または下記一般式(3)で表される活性エステル基またはカルボキシル基を示す。R3は同一のベンゼン環に1〜4個付いていてもよい。一般式(2)で表される基に含まれるベンゼン環の水素原子は、アルキル基、芳香環基、エーテル基、ヒドロキシル基、フッ素原子およびトリフルオロメチル基の中から選ばれる、少なくとも1個の基で置換されていてもよい。
−COOR4 …(3)
【0134】
一般式(3)において、R4はアルキル基、ピリジル基、キノリル基、芳香環基またはベンゾトリアゾール基を示し、これらの基における水素原子は、少なくとも1個の有機基で置換されていてもよい。また前記アルキル基、ピリジル基、キノリル基、芳香環基およびベンゾトリアゾール基に含まれる水素原子は、少なくとも1個の有機基で置換されていてもよい。
【0135】
一般式(3)において符号R4で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。ピリジル基としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基などが挙げられる。キノリル基としては、2−キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基などが挙げられる。芳香環基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。ベンゾトリアゾール基としては、1−ベンゾトリアゾール基などが挙げられる。
【0136】
一般式(2)において符号R3で示されるトリアルキルシリル基としては、たとえばトリメチルシリル基などが挙げられる。
【0137】
一般式(1)において符号R2で示される2価の有機基としては、たとえば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ジフェニルスルホン基、ジフェニルエーテル基、フルオレニル基、フェニルフルオレニル基、ビフェニレン基などが挙げられる。これらの基はエチニル基、フェニルエチニル基などの置換基を有していてもよい。
【0138】
一般式(1)で表されるPBO前駆体は、たとえば特開2005−247997号公報に開示されている。一般式(1)で表されるPBO前駆体のように、1分子中にo−アミノフェノール構造と安息香酸構造とを有するPBO前駆体は、たとえば、芳香族ジアミン化合物とジカルボン酸化合物とを、公知の酸クロリド法、活性化エステル法、またはポリリン酸もしくはジシクロヘキシルカルボジイミドなどの脱水縮合剤の存在下での脱水縮合反応などによって反応させることによって合成することができる。芳香族ジアミン化合物としては、たとえば3,5−ジアミノ安息香酸(3−ピリジル)エステル、2,4−ジアミノレゾルシノールなどが挙げられる。ジカルボン酸化合物としては、5−(3−ピリジルオキシカルボニル)イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。PBO前駆体としては、前述の芳香族ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との混合物を用いてもよい。
【0139】
導波体17である絶縁層17を形成するポリベンゾオキサゾール樹脂は、たとえばPBO前駆体を縮合反応または架橋反応などによって脱水閉環させて得られる。より詳細には、ポリベンゾオキサゾール樹脂は、PBO前駆体を150℃〜240℃で5分〜24時間加熱する方法、PBO前駆体に紫外線を照射する方法、PBO前駆体に電子線を照射する方法などによって得られる。PBO前駆体は、たとえば下記反応式(4)で示されるように加熱によって脱水閉環反応して硬化し、ポリベンゾオキサゾール樹脂になる。
【0140】
【化3】

【0141】
透光性材料がたとえばポジ型の感光性を有する場合、感光剤としては、たとえばナフトキノンジアジド化合物またはジアゾキノン化合物などが用いられる。PBO前駆体としては、感光性のPBO前駆体が用いられてもよい。PBO前駆体が感光性を有する場合、固形成分は感光剤を含まなくてよい。透光性材料の溶剤としては、たとえばγ−ブチロラクトンなどのラクトン類、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤が用いられる。
【0142】
透光性材料は、たとえばスピンコータによって塗布される。第1塗布層111の厚みS1は、スイッチ素子Tの基板31の第1表面31aからの高さ(以後、単に「高さ」ということがある)h1の1倍〜1.5倍程度に選ばれ、たとえば3μm〜5μm程度である。
【0143】
このようにして第1塗布層111を形成した後、第1塗布層111が形成された基板31を、たとえば180℃に加熱してプリベークすることによって、第1塗布層111から溶剤を除去する。これによって第1透光層110が形成される。形成された第1透光層110は、厚み方向の一方の表面である第1表面110aが、隣接する2つのスイッチ素子T間において基板31側に凹むように凹曲面状になる。
【0144】
ステップs3の凹部形成工程では、形成された第1透光層110におけるスイッチ素子Tを覆う部分を部分的に除去し、凹部112を形成する。本実施形態では、図11(c)に示すように、第1透光層110のスイッチ素子Tを覆う部分をスイッチ素子Tが露出するように除去し、凹部112として貫通孔112を形成する。凹部112は、形成された第1透光層110を露光して現像液で現像する、いわゆるフォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングすることによって形成される。現像液としては、たとえば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(Tetramethylammoniumhydoxide;略称TMAH)などのアルカリおよび水を含有する水性アルカリ現像液が用いられる。
【0145】
導波方向X2における凹部112の幅W10は、スイッチ素子Tの基板31から最も離隔した部分である上部におけるスイッチ素子T間の幅W11の0.8倍〜1.2倍程度に選ばれ、たとえば11μm〜20μm程度である。凹部112の積層方向Z1における深さh2は、0.5μm〜2μm程度に選ばれる。
【0146】
凹部112は、第1透光層110のスイッチ素子Tを覆う部分だけでなく、走査スタート用スイッチ素子T0を覆う部分にも形成される。凹部形成工程において第1透光層110は、凹部112が形成されるように露光されるとともに、目的とする絶縁層17のパターンが得られるように露光される。
【0147】
ステップs4の第1硬化工程では、凹部112が形成された第1透光層110を硬化させる。第1透光層110を構成するPBO前駆体が熱硬化性である場合、第1透光層110は、たとえば第1透光層110が形成された基板31を加熱することによって硬化される。PBO前駆体が光硬化性である場合には、第1透光層110に光を照射することによって第1透光層110を硬化させることができる。硬化された後の状態において、スイッチ素子T間における第1透光層110の第1表面110aの凹み量、すなわち基板31の第1表面31aと第1透光層110の第1表面110aとの距離の最大値から、基板31の第1表面31aと第1透光層110の第1表面110aとの距離の最小値を差引いた値d1は、たとえば0.85μmである。
【0148】
ステップs5の第2透光層形成工程では、導波体17となる第2透光層113を形成する。より詳細には、まず第2透光層113を形成する透光性材料を、第1透光層110に形成された凹部112に充填するとともに第1透光層110を覆うように塗布し、第2塗布層114を形成する。透光性材料としては、第1透光層110と同様に、PBO前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料、より詳細にはPBO前駆体を含む固形成分および溶剤を含有し、PBO前駆体を含む固形成分の含有率が25重量%以上80重量%以下である透光性材料が用いられる。透光性材料は、たとえばスピンコータによって塗布される。第2塗布層114の厚みS2は、スイッチ素子Tの高さh1の1倍〜2倍程度に選ばれ、たとえば3μm〜6μm程度である。「第2塗布層114の厚みS2」とは、スイッチ素子Tの厚み方向Zの第1表面20aを覆う部分における第2塗布層114の厚みのことである。
【0149】
次いで、第2塗布層114が形成された基板31を、たとえば180℃に加熱してプリベークすることによって、第2塗布層114から溶剤を除去する。これによって第2透光層113が形成される。第2透光層113では凹凸の逆転が起こり、形成された第2透光層113は、厚み方向における基板31とは反対側の表面である第1表面113aが、第1透光層110の凹部112に形成された部分において基板31側に凹み、スイッチ素子T間に形成された第1透光層110を覆う部分において基板31から離反する方向に突出する凸曲面状になる。
【0150】
ステップs6の貫通孔形成工程では、形成された第2透光層114をフォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングすることによって、第2透光層114におけるスイッチ素子Tを覆う部分をスイッチ素子Tが露出するように部分的に除去し、貫通孔115を形成する。貫通孔115は、スイッチ素子Tと走査信号伝送路15との接続に使用される。
【0151】
凹部形成工程において第2透光層113は、貫通孔116が形成されるように露光されるとともに、目的とする絶縁層17のパターンが得られるように露光される。より詳細には、第2透光層113には、発光信号伝送路12と、接続手段14と、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、スタート信号伝送路16と、発光素子L、スイッチ素子Tまたは走査スタート用スイッチ素子T0との接続に必要な各貫通孔39,49,54,55,69,71が、フォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングして形成される。
【0152】
ステップs7の第2硬化工程では、貫通孔115が形成された第2透光層114を、第1透光層110と同様にして硬化させる。これによって第1透光層110と第2透光層114とを含む導波体17が形成される。形成された導波体17は、スイッチ素子T間に形成された部分の第1表面103が基板31から離反する方向に突出する凸曲面状になる。したがって本実施形態によれば、外方に凸となった凸曲面状の反射集光領域104を表面103に有する導波体17が形成される。第2透光層114の硬化後の状態において、スイッチ素子T間における導波体17の突出量d2は、たとえば0.66μmである。「スイッチ素子T間における導波体17の突出量d2」とは、前述の導波体17の表面103の高さd2のことであり、スイッチ素子T間に形成された導波体17の第1表面103とスイッチ素子Tの第1表面20aを含む仮想平面116と距離の最大値のことである。
【0153】
ステップs8の伝送路形成工程では、硬化された第2透光層113の表面に蒸着法などによって導電性材料からなる導電層を積層して、フォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングして、走査信号伝送路15を形成する。導電層は、貫通孔116および他の貫通孔に充填されるように形成される。伝送路形成工程では、発光信号伝送路12と、接続手段14と、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、スタート信号伝送路16と、発光素子遮光部23とが、同時に形成される。したがって、発光信号伝送路12と、接続手段14と、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、スタート信号伝送路16と、発光素子遮光部23とは、厚みがほぼ等しく形成される。また伝送路形成工程では、基板31の第2表面31bに蒸着法などによって導電性材料からなる裏面電極層36が形成される。
【0154】
ステップs9の遮光層形成工程では、走査信号伝送路15などを形成する導電層および露出する導波体17である絶縁層17の表面に、たとえば遮光層18となる遮光性材料を塗布してフォトリソグラフィによってパターニングおよびエッチングして、遮光層18を形成する。このようにして光転送アレイ装置1が製造される。本実施形態では、光転送アレイ装置1を含む発光装置10が製造される。
【0155】
本実施形態において、導波体17の表面104を凸曲面状に形成できることには、透光性材料として、PBO前駆体を含む固形成分および溶剤を含有し、PBO前駆体を含む固形成分の含有率が25重量%以上80重量%以下である透光性材料を用いていることが、大きく寄与しているものと考えられる。図12は、PBO前駆体を含有する透光性材料を用いて導波体17を形成する様子を模式的に示す断面図である。図13は、シクロベンゾブテン(benzocyclobuten;略称BCB)化合物を含有する透光性材料を用いて導波体を形成する様子を模式的に示す断面図である。図14は、ポリイミド前駆体を含有する透光性材料を用いて導波体を形成する様子を模式的に示す断面図である。図12〜14では、図11に示すスイッチ素子Tと基板31とを一体的に示す。
【0156】
BCB化合物としては、たとえば下記構造式(5)で表されるBCB化合物が挙げられる。BCB化合物は、たとえば下記反応式(6)で表されるように、加熱によるディールス−アルダー(Diels−Alder)反応を繰返すことによって架橋して硬化し、BCB樹脂となる。このようにBCB化合物の硬化反応では、極性基は関与せず、PBO前駆体の硬化反応のときに生じる水などの副生成物は発生しない。
【0157】
【化4】

【0158】
ポリイミド前駆体としては、たとえば下記反応式(7)で示されるように、ジアミン化合物(7a)と酸無水物(7b)との反応によって得られるポリアミド酸(7c)が用いられる。ポリアミド酸(7c)は、加熱によってイミド化されて硬化し、ポリイミド樹脂(7d)となる。ポリイミド前駆体の硬化反応では、ポリアミド酸(7c)の点線で囲まれる部分の水素原子とヒドロキシル基とが脱離し、PBO前駆体の硬化反応と同様に、副生成物として水(H2O)が発生する。
【0159】
【化5】

【0160】
式(7)において、R5は有機ジアミンを構成する2価の有機基を示し、R6はテトラカルボン酸またはその誘導体を構成する4価の有機基を示し、nは重合度を示す。ジアミン化合物(7a)としては、たとえばフェニレンジアミンなどが挙げられる。酸無水物(7b)としては、たとえば無水ピロメリット酸などが挙げられる。
【0161】
ステップs2の第1透光層形成工程では、図12(a)、図13(a)および図14(a)に示すように、スイッチ素子T間に充填するとともにスイッチ素子Tを覆うように透光性材料が塗布され、第1塗布層111,120,130が形成される。第1塗布層111,120,121から溶剤を除去することによって、図12(b)、図13(b)および図14(b)に示すように第1透光層110,121,131が形成される。
【0162】
第1透光層110,121,131は、第1塗布層111,120,130から溶剤を除去した層であるので、透光性材料中の固形成分から成る。第1透光層110,121,131は、表面張力の影響を受け、厚み方向の一方の表面である第1表面110a,121a,131aが、隣接する2つのスイッチ素子T間において基板31側に凹み、凹状に形成される。透光性材料中の固形成分の含有率が25重量%未満であると、溶剤の除去によって第1透光層110,121,131の厚みが大きく減少するので、第1透光層110,121,131の第1表面110a,121a,131aが基板31側に大きく凹むことになる。
【0163】
たとえばポリイミド前駆体を含有する透光性材料としては、固形成分であるポリイミド前駆体の含有率がたとえば17重量%程度と低い透光性材料が用いられるが、このように固形成分の含有率が25重量%未満と低い透光性材料を用いた場合、溶剤の除去によって厚みが大きく減少する。たとえば第1透光層131の厚みは、第1塗布層131の厚みから30〜40割程度減少した値になる。したがって図14(b)に示すように第1透光層131はスイッチ素子Tの形状に沿って形成され、第1透光層131の厚み方向の基板31と反対側の表面である第1表面131aは、スイッチ素子T間において基板31側に大きく凹んで形成される。
【0164】
本実施形態では、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含有する透光性材料が用いられるので、ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分を25重量%以上80重量%以下とすることができ、溶剤の除去による第1透光層110の厚みの減少を抑えることができる。これによって、固形成分の含有率が25重量%未満である透光性材料が用いられる場合たとえばPBO前駆体の含有率が25重量%未満である透光性材料が用いられる場合に比べて、溶剤の除去による厚みの減少量を少なくすることができる。したがって、第1透光層110の第1表面110aの基板31側への凹み度合、たとえば第1表面110aの曲率を小さくすることができるので、第1透光層110に生じる凹凸を小さくすることができる。BCB化合物を含有する透光性材料を用いる場合にも、固形成分であるBCB化合物の含有量が25重量%以上80重量%以下である場合には、本実施形態と同様に図13(b)に示すように第1透光層131に生じる凹凸を小さくすることができる。
【0165】
このようにして形成される第1透光層110,131は、ステップs3の凹部形成工程において露光されて現像液で現像され、図12(c)および図13(c)に示すように凹部112,122が形成される。現像液によって現像するときには、透光性材料がポジ型の感光性を有していれば露光された部分が現像液に溶解して除去され、透光性材料がネガ型の感光性を有していれば露光された部分が残存し、露光されていない部分が溶解して除去される。このとき、残存すべき部分も現像液に曝されるので、現像液に溶出し、厚みが減少することがある。
【0166】
たとえば第1透光層122が、ベンゾシクロブテン構造を有する化合物であるベンゾシクロブテン化合物を含有する透光性材料(以後、「BCB系透光性材料」ということがある)によって形成される場合には、図13(c)に示すように、残存すべき部分であるスイッチ素子T間に形成された第1透光層122の厚みが大きく減少する。これは、BCB系透光性材料によって形成された層は、露光によって現像液に可溶になった部分以外の部分においても、内部からの溶出が生じやすいためであると考えられる。したがってBCB系透光性材料によって形成される場合、第1透光層121は、現像によって厚みが大きく減少する。たとえばスイッチ素子T間における現像後の第1透光層121の厚みL2は、現像前の第1透光層121の厚みL1の30%程度の厚みに減少する。
【0167】
これに対し、本実施形態のように第1透光層110が、PBO前駆体を含有する透光性材料によって形成される場合、露光によって現像液に可溶になった部分以外の部分では、内部からの溶出は起こらない。したがってBCB系透光性材料によって形成される場合に比べて、現像による第1透光層110の厚みの減少量を少なくすることができるので、スイッチ素子T間における第1透光層110の基板31側への凹み量の増加を抑えることができる。
【0168】
現像後の第1透光層110,121は、ステップs4の第1硬化工程で硬化される。第1透光層110,121を硬化させるときには、硬化反応に伴って体積の減少が生じ、厚みの減少が生じる。たとえばPBO前駆体の場合、脱水環化反応によって硬化する。ベンゾシクロブテン化合物の場合、加熱によるディールス−アルダー(Diels−Alder)反応によって硬化する。Diels−Alder反応では、脱水縮合反応に比べて硬化による体積の減少は少ないが、前述の現像による体積の減少量が多いので、その影響を大きく受け、第1透光層121は、図13(d)に示すようにスイッチ素子T間において基板31側に大きく凹んで形成される。
【0169】
これに対し、本実施形態のようにPBO前駆体を用いた場合、硬化による体積の減少量はBCB系透光性材料を用いる場合よりも多くなるが、現像による体積の減少量が少ないので、BCB系透光性材料を用いる場合に比べて、スイッチ素子T間における基板31側への凹み量を小さくすることができる。
【0170】
硬化された第1透光層110,121の表面には、第2透光層113,123が形成される。第2透光層113,123は、第1透光層120,121と同様に透光性材料を塗布して溶剤を除去することによって形成される。本実施形態のように第1透光層110がPBO前駆体を含有する透光性材料によって形成される場合、スイッチ素子T間に形成される第1透光層110の厚みは、スイッチ素子Tの高さh1に近く、スイッチ素子Tは第1透光層110によって平坦化されたような状態になっている。このような状態の第1透光層110およびスイッチ素子Tを覆うように第2透光層113を形成する透光性材料が塗布されることになるので、スイッチ素子T間における第2透光層113の基板31側への凹み量は少なくなる。
【0171】
また溶剤が除去されるときには表面張力の影響を受けるが、透光性材料は凹部112に充填されるとともに第1透光層110を覆うように塗布されているので、第2透光層113は第1透光層110の凹部112において基板31側に凹むように形成される。また前述のようにスイッチ素子T間における第2透光層113の基板31側への凹み量は少ないので、第2透光層113では図12(e)に示すように凹凸の逆転が起こる。これによってスイッチ素子T間に形成された第1透光層110を覆う部分が、第1透光層110の凹部112に形成された部分よりも突出し、基板31から離反する方向に膨出する形状に形成される。したがって第2透光層113の厚み方向における基板31とは反対側の表面である第1表面113aは、基板31から離反する方向に突出する凸曲面状になる。
【0172】
これに対し、第1透光層121がBCB系透光性材料によって形成される場合、スイッチ素子T間における第1透光層121の凹み量が多いので、本実施形態と同様に凹部122に充填されるように透光性材料を充填しても、第1透光層121の凹み量が多いことの影響が大きく、第2透光層123での凹凸の逆転は起こらない。したがってスイッチ素子T間に形成される導波体は、図13(e)に示すように基板31側に凹んだ形状になる。
【0173】
また第2透光層113,123には、フォトリソグラフィによって貫通孔115などが形成されるが、このときの現像によってBCB系透光性材料で形成された第2透光層123ではさらに厚みが減少し、基板31側に凹んだ形状になる。これに対し、本実施形態では、第2透光層113はPBO前駆体を含有する透光性材料によって形成されるので、BCB系透光性材料によって形成される場合に比べて、現像による第2透光層113の厚みの減少量は少ない。したがって貫通孔115などの形成後にも、スイッチ素子T間では凸状の形状が維持される。また第2透光層113は、貫通孔115が形成された状態において第1表面114aが基板31から離反する方向に突出する凸曲面状に形成されているので、第2透光層114の硬化によって形成される導波体17は、第1表面103が基板31から離反する方向に突出する凸曲面状に形成される。
【0174】
以上のように、本実施形態ではPBO前駆体を含有する透光性材料を用いるので、スイッチ素子T間において基板31から離反する方向Z1に突出した凸曲面状の表面103を有し、表面103が凸曲面状に形成される反射集光領域104を有する導波体17を形成することができる。
【0175】
第1透光層110および第2透光層113は、PBO前駆体の種類または固形成分中の割合などの異なる透光性材料によって形成してもよいが、同一の透光性材料によって形成することが好ましい。第1透光層110および第2透光層113を同一の透光性材料によって形成することによって、第1透光層110および第2透光層113の屈折率を等しくすることができるので、第1透光層110と第2透光層113との界面における屈折および反射を防ぐことができる。本実施形態では、第1透光層110および第2透光層113の屈折率は1.5以上2.0以下に選ばれる。
【0176】
導波体17の形成方法は、以上に述べた本実施形態に限定されず、図1に示すように外方に凸となった凸曲面状の反射集光領域104を有する導波体17を形成できるものであればよい。たとえば透光性材料をスイッチ素子T間に充填するとともにスイッチ素子Tを覆うように塗布し、溶剤を除去して透光層を形成した後、グレーマスクを用いて透光層を露光して現像し、さらに硬化させることによって導波体17を形成することもできる。「グレーマスク」とは、各部分において光の透過率が異なるマスクのことである。
【0177】
グレーマスクとしては、たとえば透光性材料がポジ型の感光性を有する場合、スイッチ素子T間に形成された透光層のうち導波方向X2の上流側の部分を覆う部分が、導波方向X2の下流側に向かうにつれて光の透過率が小さくなるようなマスクが用いられる。本実施形態では、導波体17は第1表面103がスイッチ素子T間において基板31から離反する方向に突出する凸曲面状に形成されるので、グレーマスクとしては、たとえばスイッチ素子T間に形成された透光層を覆う部分が、スイッチ素子T間における両端部から中央部に向かうにつれて光の透過率が小さくなるように形成されるマスクが用いられる。このようにグレーマスクを用いて導波体17を形成する場合、透光性材料としては、PBO前駆体を含有する透光性材料に限定されず、たとえばBCB化合物またはポリイミド前駆体を含有する透光性材料などを用いてもよい。これらの透光性材料は、BCB化合物またはポリイミド前駆体などの樹脂前駆体が感光性を有しない場合には、感光剤を含有する。
【0178】
またドライエッチングを用いることによって、導波体17をPBO樹脂に限らず、たとえばBCB樹脂によって形成することができる。ドライエッチングを用いる場合、たとえば透光性材料を塗布して溶剤を除去することによって透光層を形成し、さらに硬化させた後、グレーマスクを用いてドライエッチングすることによって、外方に凸となった凸曲面状の反射集光領域104を形成することができる。
【0179】
図15は、発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0の、アノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。図15では、横軸をアノード電圧とし、縦軸をアノード電流として示されている。また図15には、負荷線72も示されている。発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0は、電圧電流特性を表す特性曲線と負荷線72とが交わるオフ状態のb点と、特性曲線と負荷線72とが交わるオン状態のa点とを遷移する。アノード電圧は、カソードの電位を0(零)ボルト(V)としたときのアノードの電位を表し、アノード電流は、アノードに流れる電流を表す。
【0180】
発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0の初期のしきい電圧(ブレークオーバ電圧)をVBOとする。初期のしきい電圧とは、発光素子Lでは、ゲート19にトリガ信号が与えられていない非選択状態のしきい電圧であり、スイッチ素子Tでは受光していない非受光状態のしきい電圧であり、走査スタート用スイッチ素子T0では、ゲート26にトリガ信号が与えられていない非選択状態のしきい電圧である。
【0181】
発光素子Lおよび走査スタート用スイッチ素子T0では、ゲート19,26にトリガ信号を与えることによって、しきい電圧がVBOから、図15の矢符P1で示すように、このVBOよりも小さな電圧であるVTHへとしきい電圧が低下する。スイッチ素子Tでは、受光することによって、しきい電圧が、VBOから、図15の矢符P1で示すように、このVBOよりも小さな電圧であるVTHへと低下する。光転送アレイ装置1は、導波体17による光の導波率が高いので、スイッチ素子Tから同じ強度の光が出射された場合、従来の光転送アレイ装置に比べて、より確実にしきい電圧を所定の値まで低下させることができる。またより短時間でしきい電圧を所定の値まで低下させることができる。
【0182】
また本実施形態では、スイッチ素子Tは、第2のN型半導体層44の積層方向Z1に垂直な断面が第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との界面から積層方向Z1に離反するに連れて減少するように形成される受光効率の高い発光サイリスタ20を含んで構成されるので、しきい電圧の低下幅が第2のN型半導体層44の積層方向Z1に垂直な断面が第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との界面から積層方向Z1に離反するに連れて減少するように形成されない場合に比べて大きくなる。したがって一層確実にしきい電圧を所定の値まで低下させることができる。
【0183】
図16は、図3に示される発光装置10の基本的構成を示す一部の等価回路を示す回路図である。発光装置10は、駆動手段73をさらに含む。駆動手段73は、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cと、発光信号伝送路12と、スタート信号伝送路16とに接続され、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cに走査信号φを与え、スタート信号伝送路16にスタート信号φSを与え、発光信号伝送路12に発光信号φEをそれぞれ与える。駆動手段73は、駆動用ドライバーIC(Integrated Circuit)によって実現される。
【0184】
駆動手段73は、外部から入力され、基準となるクロックパルス信号に基づいて、第1〜第3走査信号φ1〜φ3およびスタート信号φSを同期して出力し、走査信号伝送路15およびスタート信号伝送路16にそれぞれ与える。前記クロックパルス信号は、後述する画像形成装置87の制御手段96から与えられる。クロックパルス信号のクロック周期は、後述する画像形成装置87の制御手段96における制御周期よりも長く選ばれる。また駆動手段73は、クロックパルス信号とともに与えられる画像情報に基づいて、発光信号φEを出力して、発光信号伝送路12に与える。
【0185】
第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cには、各スイッチ素子Tと直列に接続される抵抗素子Rφがそれぞれ接続され、駆動手段73は、抵抗素子Rφを介して第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cに接続される。抵抗素子Rφは、駆動手段73から走査信号伝送路15に過電流が流れてしまうことを防止するとともに、各スイッチ素子Tに印加される電圧を分圧する分圧抵抗としての機能を有する。
【0186】
また発光信号伝送路12にも、各発光素子Lと直列に接続される抵抗素子Rφがそれぞれ接続され、駆動手段73は、抵抗素子Rφを介して発光信号伝送路12に接続される。抵抗素子Rφは、駆動手段73から発光信号伝送路12に過電流が流れてしまうことを防止するとともに、各発光素子Lに印加される電圧を分圧する分圧抵抗としての機能を有する。
【0187】
図17は、駆動手段73が、スタート信号伝送路16に与えるスタート信号φS、第1走査信号伝送路15aに与える第1走査信号φ1、第2走査信号伝送路15bに与える第2走査信号φ2、第3走査信号伝送路15cに与える第3走査信号φ3および発光信号伝送路12に与える発光信号φEと、発光素子L1の発光強度と、走査スタート用スイッチ素子T0およびスイッチ素子T1〜T4の発光強度とを示す波形図である。発光素子L1および走査スタート用スイッチ素子T0ならびにスイッチ素子T1〜T4の発光強度は、ハイ(H)レベルのとき発光していることを表し、ロー(L)レベルのとき発光していないことを表す。図17において、横軸は時間であって、基準時刻からの経過時間を表す。
【0188】
またスタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEについて、縦軸は、信号レベルを表す。信号レベルは、電圧または電流の大きさを表し、スタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEがハイ(H)レベルのとき、高電圧または高電流が信号伝送路に供給され、スタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEがロー(L)レベルのとき、低電圧または低電流が信号伝送路に供給される。スタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEがLレベルのとき、伝送路に供給される電圧または電流は、各素子の受光状態または選択状態におけるしきい電圧またはしきい電流よりも小さい。電圧の場合では、ハイレベルは、たとえば3ボルト(V)〜10ボルト(V)である。電圧の場合では、ローレベルは、たとえば0(零)ボルト(V)である。
【0189】
本実施の形態では、Hレベルのときのスタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEの電圧をたとえば5ボルト(V)とし、Lレベルのスタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEの電圧をたとえば0ボルト(V)とする。第1〜第3走査信号φ1〜φ3の波形は同じであり、それぞれ位相が異なる。
【0190】
発光装置10では、発光させるべき発光素子Lのしきい電圧またはしきい電流を低下させるために、スイッチ素子Tの発光状態を、配列方向Xに沿って転送する。
【0191】
以後、駆動手段73の動作について説明する。まず時刻t0で、駆動手段73は、スタート信号φS、第1〜第3走査信号φ1〜φ3および発光信号φEをローレベルとする。スタート信号φSをローレベルにしておくことによって、走査スタート用スイッチ素子T0のしきい電圧またはしきい電流は、第3走査信号φ3のハイレベルよりも小さくなる。駆動手段73は、発光信号φE、スタート信号φSおよび走査信号φについて、信号レベルをローレベルからハイレベルにすると、次に信号レベルをハイレベルからローレベルにするまで、信号レベルをハイレベルとなるように維持する。また駆動手段73は、発光信号φE、スタート信号φSおよび走査信号φについて、信号レベルをハイレベルからローレベルにすると、次に信号レベルをローレベルからハイレベルにするまで、信号レベルをローレベルとなるように維持する。
【0192】
時刻t1で、駆動手段73は、第3走査信号φ3のみをローレベルからハイレベルに変化させる。時刻t1において、スタート信号φS、第1,第2走査信号φ1,φ2および発光信号φEは、ローレベルである。これによって、走査スタート用スイッチ素子T0が、オン状態になり、すなわちターンオンし、発光する。
【0193】
走査スタート用スイッチ素子T0の光は、隣接するスイッチ素子アレイ13の配列方向Xの端部に配置されるスイッチ素子T1に最も強く入射する。スイッチ素子アレイ13の他のスイッチ素子Tでは、配列方向Xに走査スタート用スイッチ素子T0から離間した位置に配置されるスイッチ素子Tほど、走査スタート用スイッチ素子T0から照射される光の強度が小さくなる。スイッチ素子Tでは、受光すると光励起によって各半導体層に、受光強度に応じたキャリアが生成される。キャリアの生成によって、第2のN型半導体層44に蓄積される電子が、第2のN型半導体層44のフェルミ準位を下げ、これによって第1のP型半導体層43と第2のN型半導体層44との接合部分において、なだれ現象が発生しやすくなる。このため、スイッチ素子Tは、光を受光することによってしきい電圧またはしきい電流が低下し、また受光する光強度が大きくなるほど、しきい電圧またはしきい電流の降下が大きくなるという特性を有する。
【0194】
次に走査スタート用スイッチ素子T0からスイッチ素子T1への発光状態の転送について説明する。走査スタート用スイッチ素子T0が発光すると、この光をスイッチ素子T1が受光し、スイッチ素子T1のしきい電圧が低下する。
【0195】
時刻t2において、スイッチ素子T1のしきい電圧はVTH(T1)となっている。第1走査信号伝送路15aには、スイッチ素子T1,T4,…,Tj−2が接続されているが、スイッチ素子T4,…,Tj−2は、走査スタート用スイッチ素子T0から十分に離れているので、走査スタート用スイッチ素子T0からの光を受光しても、その光は微弱であるので、しきい電圧はほとんど変化しない。
【0196】
時刻t2で、駆動手段73は、第1走査信号φ1をローレベルからハイレベルにする。時刻t2において、スタート信号φS、第2走査信号φ2、発光信号φEはローレベルであり、第3走査信号φ3は、ハイレベルである。第1走査信号φ1のハイレベルは、第1走査信号伝送路15aに接続されるスイッチ素子T1を除く他のスイッチ素子T4,…,Tj−2のしきい電圧またはしきい電流のうちの最低値よりも、高い電圧または高い電流に選ばれる。
【0197】
隣接するスイッチ素子Tからの光を受光することによってしきい電圧またはしきい電流が低下したスイッチ素子Tが接続される前記走査信号伝送路15に、この走査信号伝送路15に接続される他のスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流の最低値よりも高い電圧または電流の走査信号φを与えると、走査信号φは抵抗素子Rφを介して、走査信号伝送路15に与えられ、スイッチ素子Tには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が与えられる。各スイッチ素子Tには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が徐々に印加されることとなり、同じ走査信号伝送路15に接続される複数のスイッチ素子Tのうち、隣接しているスイッチ素子Tからの光を受光したスイッチ素子Tに与えられる電圧または電流が、最も早くこのスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくなる。これによって、しきい電圧またはしきい電流が最も低いスイッチ素子Tのみが発光し、他のスイッチ素子Tは、発光しない。
【0198】
これによって、時刻t2で、スイッチ素子T1がオン状態となり、すなわちターンオンし、発光する。
【0199】
スイッチ素子T1がオン状態となった後、時刻t3で、駆動手段73は、第3走査信号φ3をローレベルにする。これによって、走査スタート用スイッチ素子T0は、オフ状態、すなわちターンオフして、消灯する。
【0200】
このようにして、走査スタート用スイッチ素子T0から、スイッチ素子T1へと発光状態が遷移する。また時刻t3において、駆動手段73は、スタート信号φSをローレベルからハイレベルにし、以後、ハイレベルを維持させることによって、時刻t3以降に、第3走査信号φ3をローレベルからハイレベルにしても、走査スタート用スイッチ素子T0はオフ状態を維持する。
【0201】
時刻t2と時刻t3との間の時間は、第1走査信号φ1がハイレベルとなる時間の10分の1(1/10)程度に選ばれる。このように、隣接するスイッチ素子Tにおいて与えられる走査信号φがハイレベルとなる時間が重なるように駆動手段73が走査信号φを与えることによって、隣接するスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流が確実に低下している間に、走査信号φをハイレベルとすることができ、光走査を確実に行うことができる。
【0202】
本実施の形態では、第1〜第3走査信号φ1〜φ3がハイレベルとなる時間は、1μ秒(μ second)程度に選ばれる。したがって、時刻t2と時刻t3との間の時間は、0.1μ秒(μ second)程度に選ばれる。
【0203】
スイッチ素子T1は、受光によってゲート24にトリガ信号を発生し、時刻t2においてオン状態となると、ハイレベルとされた走査信号φがローレベルになるまでは、オン状態を維持する。オン状態となると、スイッチ素子T1のゲート24の電圧は、ほぼ0(零)ボルト(V)になる。ここで前記スイッチ素子T1のゲート24の電圧とは、このゲート24と接地される裏面電極層36との電位差である。スイッチ素子T1のゲート24は、発光素子L1のゲート19に接続されているので、スイッチ素子T1のゲート24の電圧は、発光素子L1のゲート19の電圧と等しくなる。このようにスイッチ素子T1は、発光素子L1のゲート19と裏面電極層36とに印加される電圧を変化させることができる。
【0204】
発光素子L1を発光させる場合、駆動手段73は、第3走査信号φ3をハイレベルからローレベルにした時刻t3が経過した後、時刻t4で、発光信号φEをローレベルからハイレベルにする。
【0205】
発光素子L1は、スイッチ素子T1がオン状態であるので、前述したように発光素子L1のゲート19は、ほぼ0(零)ボルト(V)となる。このときスイッチ素子T2,…,Tj−1,Tjは、オフ状態であり、時刻t4における発光素子L1のしきい電圧をVTH(L1)とし、時刻t4における発光素子L2,…,Li−1,Liのしきい電圧をそれぞれVTH(L2),…,VTH(Li−1),VTH(Li)とすると、発光信号φEのハイレベルVHを、発光素子Lのしきい電圧以上であって、発光素子L2,…,Li−1,Liのしきい電圧のうち、最低値のものよりも小さな値に選ぶことによって、発光素子L1のみを選択的にオン状態として、発光させることができる。
【0206】
時刻t5において、駆動手段73が発光信号φEをローレベルにすると、発光素子L1は、オフ状態となり、消灯する。後述する感光体ドラム90への露光量は、発光素子Lの発光強度は一定として、発光素子Lの発光する時間によって調整される。すなわち、発光信号φEがハイレベルとなる時刻t4から時刻t5までの間の時間を決定することによって、露光量が決定される。発光素子Lの発光強度によって露光量を変更する場合、発光素子L1に与える電圧または電流を細かく制御する必要があるので困難であるが、発光時間によって露光量を変更することによって、発光信号φEがハイレベルとなる時間を調整するだけでよいので、露光量の制御がしやすく、また定電圧または定電流が発光素子Lに与えられるので、発光素子L1を安定して発光させることができる。発光素子Lが発光する時間、言い換えれば発光信号φEがハイレベルとなる時間は、走査信号φがハイレベルとなる時間の80%以下に選ばれる。
【0207】
時刻t5が経過した後、駆動手段73は、時刻t6で第2走査信号φ2をハイレベルにすると、スイッチ素子T2が発光し、時刻t6が経過した後、時刻t7で、第1走査信号φ1をローレベルにすると、スイッチ素子T1が消灯する。これによって、スイッチ素子T1からスイッチ素子T2へと発光状態が移る。
【0208】
時刻t7が経過した後、駆動手段73は、時刻t8で第3走査信号φ3をハイレベルにすると、スイッチ素子T3が発光し、時刻t8が経過した後、時刻t9で、第2走査信号φ2をローレベルにすると、スイッチ素子T2が消灯する。これによって、スイッチ素子T2からスイッチ素子T3へと発光状態が移る。
【0209】
時刻t9が経過した後、駆動手段73は、時刻t10で再び第1走査信号φ1をハイレベルにすると、スイッチ素子T4が発光する。
【0210】
時刻t6と時刻t7との間の時間は、第2走査信号φ2がハイレベルとなる時間の10分の1(1/10)程度に選ばれ、時刻t8と時刻t9との間の時間は、第3走査信号φ3がハイレベルとなる時間の10分の1(1/10)程度に選ばれる。
【0211】
このように駆動手段73が、第1〜第3走査信号φ1〜φ3を繰り返して与えることによって、スイッチ素子T4,…,Tj−1,Tjにおいても、オン状態が配列方向Xに沿って順次転送される。スイッチ素子Tが発光しているとき、発光信号伝送路12の発光信号φEをローレベルからハイレベルにすることによって、この発光しているスイッチ素子Tに対応する、すなわち発光しているスイッチ素子Tに接続されている発光素子Lのみを選択的に発光させることができる。
【0212】
発光しているスイッチ素子Tの配列方向Xの両側に位置するスイッチ素子Tは、いずれも励起状態となってしまうが、第1〜第3走査信号伝送路15a,15b,15cによって、前述したように第1〜第3走査信号φ1〜φ3を伝送させて、各スイッチ素子Tに第1〜第3走査信号φ1〜φ3を与えることによって、配列方向Xの第2方向X2の上流側から下流側へと、スイッチ素子Tの発光状態の転送を行うことができ、言い換えれば光走査することができる。
【0213】
以上述べた光転送アレイ装置1によれば、隣接する2つのスイッチ素子T間に設けられる導波体17による光の導波率が高いので、スイッチ素子Tから出射される光の強度が同じ場合に、しきい電圧を従来の光転送アレイ装置に比べてより大きく低下させることができる。これによって、より確実にしきい電圧を走査信号φの信号電圧よりも低下させることができるので、走査信号φを与えることによって、スイッチ素子Tを確実にターンオンさせ、発光させることができる。したがって、各スイッチ素子Tから出射される光の強度が多少変動したとしても、スイッチ素子Tの発光状態を確実に転送することができるので、発光装置10は、より確実に光走査を行なうことができる。
【0214】
また発光装置10によれば、スイッチ素子Tは、受光効率が高く、弱い光を短時間照射しただけで従来のスイッチ素子に比べてしきい電圧がより低下するので、各スイッチ素子Tが発光状態を維持する時間(t3−t1,t7−t2,t9−t6)を短くすることができる。これによって、発光装置10は、光走査を高速で行うことができる。
【0215】
またスイッチ素子Tは、受光効率が高いので、発光状態を転送すべきスイッチ素子Tに照射する光の強度を弱い値に設定することができ、各スイッチ素子Tが放射すべき光の強度を弱い値に設定することができる。したがって各スイッチ素子Tに与える負荷を小さくすることができ、スイッチ素子Tの長寿命化を図ることができる。これによって、このスイッチ素子Tを備える光転送アレイ装置および発光装置10の長寿命化を図ることができる。
【0216】
図18は、発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。画像形成装置87は、電子写真方式の画像形成装置であり、発光装置10を、感光体ドラム90への露光装置に使用している。発光装置10は、駆動手段17が設けられる回路基板に実装される。
【0217】
画像形成装置87は、Y(イエロ)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の4色のカラー画像を形成するタンデム方式を採用した装置であり、大略的に、4つの発光装置10Y,10M,10C,10Kと、集光手段である4つのレンズアレイ88Y,88M,88C,88Kと、前記発光装置10および駆動手段17が実装された回路基板と、レンズアレイ88を保持する4つの第1ホルダ89Y,89M,89C,89Kと、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kと、4つの現像剤供給手段91Y,91M,91C,91Kと、転写手段である転写ベルト92と、4つのクリーナ93Y,93M,93C,93Kと、4つの帯電器94Y,94M,94C,94Kと、定着手段95と制御手段96とを含んで構成される。
【0218】
各発光装置10は、駆動手段17によって各色のカラー画像情報に基づいて駆動される。たとえば、4つ発光装置10の配列方向Xの長さは、たとえば200mm〜400mmに選ばれる。
【0219】
各発光装置10の発光素子Tからの光は、レンズアレイ88を介して各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに集光して照射される。レンズアレイ88は、たとえば発光素子の光軸上にそれぞれ配置される複数のレンズを含み、これらのレンズを一体的に形成して構成される。
【0220】
発光装置10が実装される回路基板およびレンズアレイ88は、第1ホルダ89によって保持される。第1ホルダ89によって、発光素子Tの光照射方向と、レンズアレイ88のレンズの光軸方向とがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0221】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、たとえば円筒状の基体表面に感光体層を被着して成り、その外周面には各発光装置10Y,10M,10C,10Kからの光を受けて静電潜像が形成される静電潜像形成位置が設定される。
【0222】
各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの周辺部には、各静電潜像形成位置を基準として回転方向下流側に向かって順番に、露光された感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに現像剤を供給する現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写ベルト92、クリーナ93Y,93M,93C,93K、および帯電器94Y,94M,94C,94Kがそれぞれ配置される。感光体ドラム90に現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写ベルト92は、4つの感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kに対して共通に設けられる。
【0223】
前記感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、図示しない第2ホルダによって保持され、この第2ホルダと第1ホルダ89とは、相対的に固定される。各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの回転軸方向と、各発光装置10の前記配列方向Xとがほぼ一致するようにして位置合わせされる。
【0224】
転写ベルト92によって、記録シートを搬送し、現像剤によって画像が形成された記録シートは、定着手段95に搬送される。定着手段95は、記録シートに転写された現像剤を定着させる。感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kは、回転駆動手段によって回転される。
【0225】
制御手段96は、前述した駆動手段17にクロック信号および画像情報を与えるとともに、感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kを回転駆動する回転駆動手段、現像剤供給手段91Y,91M,91C,91K、転写手段92、帯電手段94Y,94M,94C,94Kおよび定着手段95の各部を制御する。
【0226】
画像形成装置87は、確実に発光サイリスタ20を配列方向X2に順番に発光させ、トリガ信号を配列方向X2に順番に伝送することができる発光装置10を備えるので、各感光体ドラム90Y,90M,90C,90Kの所定の位置に正確に光を照射することができる。これによって、画像形成装置87は、白抜けなどの画像欠陥のない優れた品質の記録画像を形成することができる。
【0227】
また画像形成装置87は、高速に発光サイリスタ20を配列方向X2に順番に発光させ、トリガ信号を配列方向X2に順番に伝送することができる発光装置10を備えるので、前述のように画像欠陥のない優れた品質の画像を短時間で形成することができる。また画像形成装置87は、寿命の長い発光装置10を備えるので、装置の長寿命化を図ることができる。
【0228】
また発光装置10によれば、各スイッチ素子Tは、隣接するスイッチ素子Tから発せられる光を受光することによって、そのしきい電圧またはしきい電流を低下させることができ、各スイッチ素子Tのゲート24に、転送方向指定のためのダイオードおよび電源との間に接続される負荷抵抗などを接続する必要がない。したがって発光装置10の構造を複雑にすることなく、可及的に少ない信号伝送路によって、複数配列される発光素子Lのうち所定の発光素子Lのみを選択的に発光させることができる。
【0229】
また走査スタート用スイッチ素子T0は、走査信号伝送路15に接続され、走査信号伝送路15を介して走査信号φが与えられることによって発光するので、スイッチ素子Tの発光に必要な電力を供給する伝送路と、走査スタート用スイッチ素子T0が発光するために必要な電力を供給する伝送路とを共通化することができ、走査スタート用スイッチ素子T0に必要な電力を供給する伝送路を特別に設ける必要がない。
【0230】
走査スタート用スイッチ素子T0は、スイッチ素子Tに接続される走査信号伝送路15からの走査信号φに基づいて発光するので、駆動手段73は、スイッチ素子アレイ13のスイッチ素子Tと発光のタイミングを同期させやすい。また走査スタート用スイッチ素子T0は、予め定める部位にトリガ信号を与え、さらに走査信号φを与えなければ発光しないので、不所望にトリガ信号が与えられたとしても、発光してしまうことを防止することができる。
【0231】
またP型半導体とN型半導体とが交互に積層される単純な構成で、スイッチ素子Tおよび発光素子Lならびにスタート用スイッチ素子T0を実現することによって、発光装置10の作製が容易である。スイッチ素子Tと発光素子Lとスタート用スイッチ素子T0とを基板31上に同一の製造プロセスによって形成することができ、発光装置10の製造工程を可及的に少なくすることができる。
【0232】
さらに、同一の基板31上にスイッチ素子Tおよび発光素子Lならびにスタート用スイッチ素子T0が集積されて構成されるので、各素子を高密度に形成することができ、スイッチ素子アレイ13では配列方向Xに隣接するスイッチ素子T同士を密接させることができる。これによって各スイッチ素子Tは、隣接するスイッチ素子Tからの光を効率的に受光することができ、隣接するスイッチ素子Tの発光強度が小さい場合であっても、発光したスイッチ素子Tに隣接するスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流を低下させることができる。したがって、スイッチ素子Tを発光させるために必要な電力を小さくすることができ、より消費電力の小さな発光装置10を実現することができる。また発光素子Lにおいても、配列方向に隣接する発光素子L同士を密接させることができるので、画像形成装置87に用いて画像の解像度を向上させることができる。
【0233】
また各スイッチ素子Tは、配列方向Xに沿って順番に発光するので、この光を遮光層18によって遮光し、発光素子Lが発する光に干渉しないようにすることによって、発光素子Lが発光しているときには、発光素子Lの光量が小さくなったり大きくなったりしてしまうことを防止することができ、安定した光量を得ることができる。また遮光層18によって、バイアス光が漏れることが防止されるので、画像形成装置87では、画像の品位を低下させることがなく、良好な品質の画像を形成することができる。
【0234】
また絶縁層17は、各発光素子Lおよび各スイッチ素子Tと各走査信号伝送路15および発光信号伝送路12との間に設けられ、各発光素子Lおよび各スイッチ素子Tと各走査信号伝送路15および発光信号伝送路12が短絡してしまうことを防止する。
【0235】
また本実施形態の光転送アレイ装置1によれば、スイッチ素子Tの発光部100および受光部101は導波方向X2に垂直な方向である第5方向Z1に積層して設けられるので、たとえば発光部100および受光部101が導波方向X2に平行な方向に並べて設けられる場合に比べて、スイッチ素子Tを導波方向X2に関して小形化することができる。したがってスイッチ素子アレイ13におけるスイッチ素子Tの集積密度を高めることが可能になるので、スイッチ素子アレイ13の設計の自由度を高めることができる。
【0236】
以上に述べた本実施形態の光転送アレイ装置1では、光転送用発光素子であるスイッチ素子Tは発光サイリスタ20であるが、光転送用発光素子は発光サイリスタに限定されない。本発明の他の実施の形態の光転送アレイ装置では、光転送用発光素子は、発光ダイオード(略称LED)、レーザダイオード(略称LD)、フォトダイオード(略称PD)またはフォトトランジスタなどの他の半導体素子であってもよい。これらの半導体素子を適宜組み合わせることによって、光転送用発光素子が実現される。たとえば光転送用発光素子は、発光部として発光ダイオードを備え、受光部としてフォトダイオードを備えてもよい。
【0237】
また本実施形態の光転送アレイ装置1では、光転送用発光素子であるスイッチ素子Tの発光部100および受光部101は導波方向X2に垂直な方向である第5方向Z1に積層して設けられるが、本発明のさらに他の実施の形態の光転送アレイ装置では、光転送用発光素子の発光部および受光部は、導波方向X2に平行な方向に並べて配置されてもよい。この場合、各光転送発光素子は、発光部が、導波方向X2に隣接する光転送用発光素子の受光部に隣接するように配置され、受光部が、導波方向X2と反対側の方向である第2方向X1に隣接する光転送用発光素子の発光部に隣接するように配置される。発光部および受光部が導波方向X2に平行な方向に並べて配置される場合、光転送用発光素子は、たとえば発光部である発光素子と、受光部である受光素子とを含んで構成される。発光素子としては、たとえば発光ダイオードまたはレーザダイオードなどが用いられる。受光素子としては、たとえばフォトダイオードまたはフォトトランジスタなどが用いられる。
【0238】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、基板31と発光素子Lの第1のN型半導体層32との間、基板31とスイッチ素子Tの第1のN型半導体層42との間、基板31と走査スタート用スイッチ素子T0の第1のN型半導体層42との間に、N型半導体から成るバッファ層を設ける構成としてもよい。このような構成とすることによって、基板31上により結晶性の向上された半導体層を形成することができ、発光素子Lおよびスイッチ素子Tならびに走査スタート用スイッチ素子T0の特性をより均一にすることができる。
【0239】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、発光信号伝送路12と第2のP型半導体層35との間にP型半導体から成るオーミックコンタクト層を設ける構成としてもよい。このオーミックコンタクト層を設けることによって発光信号伝送路12と第2のP型半導体層35とのオーミック性を向上することができる。
【0240】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、退避部は、厚み方向Zに垂直な断面が、突出部47との界面から厚み方向一方Z1に離反するに連れて段階的に小さくなるような形状であってもよい。また退避部は、厚み方向Zに垂直な断面が、突出部47との界面から厚み方向一方である第5方向Z1に離反するに連れて連続的に小さくなるような形状であってもよい。
【0241】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、退避部46および突出部47の配列方向一方である第1方向X1の側面の間隔と、退避部46および突出部47の配列方向他方である第2方向X2の側面の間隔Wと、退避部46および突出部47の幅方向他方である第4方向Y2の側面の間隔W8とは、それぞれ互いに異なる間隔に選ばれてもよい。
【0242】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、基板31として、絶縁性を有する基板または半絶縁性を有する基板を用いてもよい。前記基板は、たとえば半絶縁性のガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、サファイアなどによって形成される。このような基板を用いる場合には、前述した裏面電極層36を基板31の厚み方向Zの他表面31bに形成しないで、発光素子Lの第1のN型半導体層32、スイッチ素子Tの第1のN型半導体層42、走査スタート用スイッチ素子T0の第1のN型半導体層42に、カソード電極を形成する。このような構成であっても、同様な効果を達成することができる。
【0243】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、スイッチ素子Tのオーミックコンタクト層25に積層して、走査信号伝送路15とともにアノード端子として機能する金属層を形成してもよい。このような構成とすると、スイッチ素子Tの各半導体層への電界を均一化することができ、スイッチ素子Tから放射される光の発光強度を増加させることができる。これによって隣接するスイッチ素子Tをより確実にターンオンさせることができるので、発光すべき発光素子Lをより確実に発光させることができる。
【0244】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、発光素子Lの第2のP型半導体層35に積層して、発光信号伝送路12とともにアノード端子として機能する金属層を形成してもよい。このような構成とすると、発光素子Lの各半導体層への電界を均一化することができ、発光素子Lから放射される光の発光強度を増加させることができる。
【0245】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、遮光層18を、スイッチ素子Tが発する波長の光の反射率が高く、導波体17である絶縁層17よりも屈折率の低い材料によって形成してもよい。このような材料で形成される場合、スイッチ素子Tからの光のうち、導波体17を透過した光は、遮光層18によって吸収されずに反射される。これによって隣接するスイッチ素子Tに入射する光量をより多くすることができるので、スイッチ素子Tの受光効率を高めることができる。したがってスイッチ素子Tをより確実にターンオンさせることができる。
【0246】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、各半導体層の導電型を逆にし、P型半導体層をN型半導体層とし、N型半導体層をP型半導体層としてもよい。この場合、基板31に近い3層が受光部101であるPNP型のフォトトランジスタ部として機能し、発光信号伝送路12または走査信号伝送路15に近い2層がPN型の発光部として機能する。各半導体層の導電型を逆にしても、バイアス電圧の極性を、反対にすることによって、前述の実施の形態の発光装置と同様の効果を得ることができる。この場合、基板31には、P型半導体材料から成るP型半導体基板が用いられる。
【0247】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、前記駆動手段73が出力する発光信号φEのハイレベルの電圧または電流は、発光信号伝送路12に接続されるスイッチ素子Tによってトリガ信号が与えられた発光素子Lを除く他の発光素子Lのしきい電圧またはしきい電流のうちの最低値よりも、高い電圧または高い電流に選ばれてもよい。発光信号伝送路12は、抵抗素子Rφを介して接続手段14に接続されており、トリガ信号が与えられることによってしきい電圧またはしきい電流が低下した発光素子Lが接続される発光信号伝送路12に、この発光信号伝送路12に接続される他の発光素子Lのしきい電圧またはしきい電流の最低値よりも高い電圧または電流の発光信号φEを与えると、発光信号φEは、抵抗素子Rφを介して、発光信号伝送路12に与えられ、発光素子Lには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が与えられる。各発光素子Lには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が徐々に印加されることとなり、発光信号伝送路12に接続される複数の発光素子Lのうち、トリガ信号が与えられた発光素子Lに与えられる電圧または電流が、最も早くこの発光素子Lのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくなる。これによって、しきい電圧またはしきい電流が最も低い発光素子Lのみが発光し、他の発光素子Lは、発光しない。このため駆動手段73による発光信号φEの制御が容易となる。
【0248】
本発明のさらに他の実施の形態では、前記駆動手段73が出力する走査信号φのハイレベルは、隣接するスイッチ素子Tからの光を受光することによってしきい電圧またはしきい電流が低下したスイッチ素子Tが接続される走査信号伝送路15に接続される他のスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流の平均値よりも高い電圧または電流に選ばれる。隣接するスイッチ素子Tからの光を受光することによってしきい電圧またはしきい電流が低下したスイッチ素子Tが接続される前記走査信号伝送路15に、この走査信号伝送路15に接続される他のスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流の平均値よりも高い電圧または電流の走査信号φを与えると、走査信号φは抵抗素子Rφを介して、走査信号伝送路15に与えられ、スイッチ素子Tには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が与えられる。各スイッチ素子Tには、抵抗素子Rφによって分圧された電圧が徐々に印加されることとなり、同じ走査信号伝送路15に接続される複数のスイッチ素子Tのうち、隣接しているスイッチ素子Tからの光を受光したスイッチ素子Tに与えられる電圧または電流が、最も早くこのスイッチ素子Tのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくなる。これによって、しきい電圧またはしきい電流が最も低いスイッチ素子Tのみが発光し、他のスイッチ素子Tは、発光しない。
【0249】
駆動手段73が出力する走査信号φのハイレベルを前述のように前記平均値よりも高い電圧または電流にするので、しきい電圧またはしきい電流が低下したスイッチ素子Tに、より高電圧または高電流を与えて、オン状態に移行させることができ、光走査の速度を向上させることができる。
【0250】
本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、前記駆動手段73が出力する走査信号φのハイレベルは、走査信号伝送路15に接続される全てのスイッチ素子Lのしきい電圧またはしきい電流よりも高く選ばれてもよい。このような構成であっても、同様の効果を達成することができ、さらに駆動手段73によって走査信号φのハイレベルの電圧または電流を、スイッチ素子Tの変動するしきい電圧またはしきい電流に関係なく決定することができるので、駆動手段73の設計が容易となる。
【0251】
本発明の実施の形態の発光装置では、発光素子Liと、スイッチ素子Tjとの数を等しく構成しているが、本発明のさらに他の実施の形態の発光装置では、スイッチ素子Tに複数の発光素子Lを対応させてもよい。すなわち、1つのスイッチ素子Tのゲート24と、複数の発光素子Lのゲート19を接続してもよい。このような構成とすることによって、複数の発光素子Lを同時に発光させることができる。
【0252】
本発明のさらに他の実施の形態では、各半導体層は、それぞれが多層に形成されてもよい。たとえば、第1のN型半導体層42は、N型の半導体層が複数積層されて構成されてもよく、第1のP型半導体層43は、P型の半導体層が複数積層されて構成されてもよく、第2のN型半導体層44は、N型の半導体層が複数積層されて構成されてもよく、第2のP型半導体層45は、P型の半導体層が複数積層されて構成されてもよく、オーミックコンタクト層25は、P型の半導体層が複数積層されて構成されてもよい。
【実施例】
【0253】
(実施例)
図1に示す光転送アレイ装置1を以下のようにして製造した。まず基板31に、メサ構造を有するスイッチ素子Tを作製した。隣接する2つのスイッチ素子T間の間隔W3は、20μmとした。略直方体形状の退避部46と第2のP型半導体層45とオーミックコンタクト層25とから成る積層体の配列方向Xの寸法を24μmとし、幅方向Yの寸法を34μmとした。また第1のN型半導体層42と第2のP型半導体層45と突出部47とから成る積層体の配列方向Xの寸法を30μmとし、幅方向Yの寸法を40μmとした。退避部46は、突出部47の配列方向Xおよび幅方向Yの中央部から厚み方向一方である第5方向Z1に延びるように形成した。また第1のN型半導体層42の厚み方向Zの厚みを500nmとし、第1のP型半導体層43の厚み方向Zの厚みを200nmとし、突出部47の厚み方向Zの厚みを500nmとし、退避部46の厚み方向Zの厚みを500nmとして第2のN型半導体層44の厚み方向Zの厚みを1000nmとし、第2のP型半導体層45の厚み方向Zの厚みを800nmとした。
【0254】
次いで、図11に示すように、スピンコータを用いて透光性材料を塗布し、厚みS1が5μmの第1塗布層111を形成した。透光性材料には、3,3’−ジヒドロキシベンジジンとイソフタル酸とを酸クロリド法によって反応させて得たポリベンゾオキサゾール前駆体を20重量%含有し、感光剤としてβ,β−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのビスナフトキノン−(1,2)−ジアジド−(2)−5−スルホン酸エステルを20重量%含有するポジ型の感光性の透光性材料(溶剤:γ−ブチロラクトン、固形成分含有率40重量%)を用いた。スピンコータの回転速度は3000回転/分とした。第1塗布層111が形成された基板31を、180℃に加熱されたホットプレート上で3分間プリベークして溶剤を除去し、第1透光層110を形成した。
【0255】
第1透光層110のスイッチ素子Tを覆う部分のうち凹部112となるべく予め定める部分を、マスクを用いて照射強度17mW/cm2で13秒間露光した。露光された第1透光層110を含む基板31を、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドを2.38重量%含有する水溶液であるアルカリ現像液(商品名:TMAH2.38%、多摩化学工業株式会社製)中に浸漬して90秒間揺動し、現像した。これによってスイッチ素子Tが部分的に露出し、貫通孔として凹部112が形成された。導波方向X2における凹部112の幅W10は12μmとした。現像された第1透光層110を350℃に加熱して硬化させた。硬化後の第1透光層110のスイッチ素子T間における凹み量d1は、0.85μmであった。
【0256】
次いで、硫酸と過酸化水素水との混合液によるウェットエッチングによって、電極を形成する部分の半導体層を露出させて電極層形成した後、第1塗布層111と同様にして、前述の透光性材料をスピンコータによって塗布し、厚みS2が5μmの第2塗布層114を形成した。第1塗布層111と同様にしてプリベークして溶剤を除去し、第2透光層113を形成した。形成された第2透光層113の貫通孔115となるべく予め定める部分を、前述の第1透光層110と同様にして露光した後現像し、貫通孔115を形成した。貫通孔115が形成された第2透光層113を350℃に加熱して硬化させ、導波体17を形成した。形成された導波体17は、図19(a)に示すように第1表面103がスイッチ素子T間において凸状に転じて基板31から離反する方向に突出する凸曲面状、すなわち外方に凸となった凸曲面状に形成されていた。スイッチ素子T間における導波体17の突出量d2は0.66μmであった。貫通孔115にアノード端子として導電層を形成し、さらに基板31の第2表面31bに裏面電極層36を形成し、光転送アレイ装置を得た。得られた光転送アレイ装置を以後「光転送アレイ装置A」という。
【0257】
(比較例)
本発明の光転送アレイ装置の特性を比較するための比較用として、導波体の形成方法のみを変更し、他の作製条件を実施例の光転送アレイ装置Aと同一にして、比較例光転送アレイ装置を製造した。導波体の材料としては、前述の構造式(5)で表されるベンゾシクロブテン(BCB)化合物を20重量%含有し、感光剤としてβ,β−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのビスナフトキノン−(1,2)−ジアジド−(2)−5−スルホン酸エステルを20重量%含有するポジ型の感光性のBCB系透光性材料(固形成分含有率40重量%、ダウケミカル社製)を用いた。この透光性材料によって形成された層の熱硬化収縮率は8%程度である。本比較例で得られた光転送アレイ装置を以後「比較用光転送アレイ装置B」という。
【0258】
光転送アレイ装置Bは、具体的には以下のようにして製造した。まず光転送アレイ装置Aと同様にしてスイッチ素子Tを作製した。次いで、BCB用密着増強剤(商品名:AP3000、ダウケミカル社製)を用いて、スイッチ素子Tおよび基板31を覆うように厚み10nm(100Å)の密着層を形成した。前述のBCB用密着増強剤は、下記構造式(8)で表される構造単位を有するシロキサン化合物を主成分として含有し、このシロキサン化合物が半導体層表面のヒドロキシル基(−OH)または酸素原子(O)と結合することによって半導体層とBCB化合物との密着性を向上させる。
【0259】
【化6】

【0260】
形成された密着層の表面に、スピンコータを用いて前述のBCB系透光性材料を塗布し、図13(a)に示すように厚み5μmの第1塗布層120を形成した。スピンコータの回転速度は5000回転/分とした。第1塗布層120が形成された基板31を、70℃に加熱されたクリーンオーブン中で20分間プリベークして溶剤を除去し、第1透光層121を形成した。形成された第1透光層121の凹部122となるべく予め定める部分を、照射強度10mW/cm2で10秒間露光した。露光された第1透光層121を、BCB系透光性材料用の現像液(商品名:DS2100、ダウケミカル社、グリコールエーテルと合成イソパラフィン系炭化水素の混合溶液)を用いてパドル現像した。これによって、スイッチ素子Tが部分的に露出するパターンが形成された。導波方向X2における凹部122の幅W12は、前述の実施例において第1透光層110に形成した凹部112の幅W10と同一にした。現像された第1透光層121を300℃に加熱して硬化させた。硬化後の第1透光層121のスイッチT間における凹み量L3は、1.8μmであった。
【0261】
次いで、硫酸と過酸化水素水との混合液によるウェットエッチングによって、電極を形成する部分の半導体層を露出させて電極層形成した後、第1透光層121と同様にして厚み5μmの第2透光層123を形成した後、露光および現像して貫通孔115を形成し、さらに加熱して硬化させ、導波体124を形成した。形成された導波体124は、図19(b)に示すように第1表面124aがスイッチ素子T間において基板31側に凹んでおり、その凹み量L4は0.7μmであった。貫通孔115にアノード端子として導電層を形成し、さらに基板31の第2表面31bに裏面電極層36を形成し、比較用光転送アレイ装置Bを得た。
【0262】
〔評価〕
光転送アレイ装置Aおよび比較用光転送アレイ装置Bの光転送効率を比較するために、光を出射する側のスイッチ素子Tである発光側スイッチ素子の発光強度と、発光側スイッチ素子Tに隣接するスイッチ素子Tである受光側スイッチ素子において受光によって発生する光起電流との相間関係を調べた。具体的には、発光側スイッチ素子に所定の強度の光を入射させた状態で、アノード端子と裏面電極層36との間に印加する電圧を上げることによって発光側スイッチ素子の発光強度を上げていき、受光側スイッチ素子に流れる光起電流の大きさを測定した。発光側スイッチ素子のアノード端子と裏面電極層36との間の電圧および受光側スイッチ素子に流れる光起電流は、電流電圧計のプローブをアノード端子と裏面電極層36とに当接させて測定した。
【0263】
図20は、光転送アレイ装置Aおよび比較用光転送アレイ装置Bにおける発光側スイッチ素子の発光強度と、受光側スイッチ素子に流れる光起電流との関係の測定結果を表すグラフを示す図である。図20に示すグラフにおいて、横軸は発光側スイッチ素子の発光強度を表し、縦軸は受光側スイッチ素子に流れる光起電流を表す。また図20に示すグラフにおいて、発光強度は所定の値Eを基準とした相対的な大きさで表し、光起電流は所定の値Iを基準とした相対的な大きさで表す。また図20に示すグラフにおいて、本発明の光転送アレイ装置Aにおける発光側スイッチ素子の発光強度と受光側スイッチ素子の光起電流との関係の測定結果を実線で表し、比較用光転送アレイ装置Bにおける発光側スイッチ素子の発光強度と受光側スイッチ素子の光起電流との関係の測定結果を破線で表している。
【0264】
図20に示す測定結果から、本発明の光転送アレイ装置Aは、比較用光転送アレイ装置Bに比べて、発光側スイッチ素子から同じ強度で光が出射されたときに受光側スイッチ素子で生じる光起電流の大きさが20%程度大きいことが判った。このことから、本発明の光転送アレイ装置Aは、比較用光転送アレイ装置Bに比べて、導波体による光の導波率が高く、光転送効率が高いことが判る。これは、本発明の光転送アレイ装置Aでは、発光側スイッチ素子寄りの部分において、図19(a)に示す導波体17の第1表面103の法線150と入射光151との成す角度である入射角θが、図19(b)に示す比較用光転送アレイ装置Bの導波体124の第1表面124aの法線152と入射光153との成す角度である入射角θ’よりも大きくなるためであると考えられる。
【0265】
以上のように本発明によれば、導波体による光の導波率が向上された光転送アレイ装置、この光転送アレイ装置を備える発光装置および画像形成装置を提供することができる。
【0266】
本発明は上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0267】
【図1】本発明の実施の一形態の発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図2】発光装置10の基本的構成を示す一部の平面図である。
【図3】発光装置10の基本的構成を示す一部の平面図である。
【図4】図3の切断面線IV−IVから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図5】図1に示す光転送アレイ装置1の導波体17の部分を拡大して示す断面図である。
【図6】スイッチ素子T間において表面124aが凹曲面状に形成される導波体124を模式的に示す断面図である。
【図7】導波体の表面の形状と入射角との関係を模式的に示す断面図である。
【図8】図3の切断面線V−Vから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図9】図3の切断面線VI−VIから見た発光装置10の基本的構成を示す一部の断面図である。
【図10】本発明の実施の一形態である光転送アレイ装置の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図11】光転送アレイ装置1を製造する様子を示す模式的に示す断面図である。
【図12】PBO前駆体を含有する透光性材料を用いて導波体17を形成する様子を模式的に示す断面図である。
【図13】シクロベンゾブテン化合物を含有する透光性材料を用いて導波体を形成する様子を模式的に示す断面図である。
【図14】ポリイミド前駆体を含有する透光性材料を用いて導波体を形成する様子を模式的に示す断面図である。
【図15】発光素子L、スイッチ素子Tおよび走査スタート用スイッチ素子T0の、アノード電圧とアノード電流との関係である順方向電圧−電流特性を示すグラフである。
【図16】図3に示される発光装置10の基本的構成を示す一部の等価回路を示す回路図である。
【図17】駆動手段73が、スタート信号伝送路16に与えるスタート信号φS、第1走査信号伝送路15aに与える第1走査信号φ1、第2走査信号伝送路15bに与える第2走査信号φ2、第3走査信号伝送路15cに与える第3走査信号φ3および発光信号伝送路12に与える発光信号φEと、発光素子L1の発光強度と、走査スタート用スイッチ素子T0およびスイッチ素子T1〜T4の発光強度とを示す波形図である。
【図18】発光装置10を有する画像形成装置87の基本的構成を示す側面図である。
【図19】光転送アレイ装置Aおよび比較用光転送アレイ装置Bの基本的構成を示す断面図である。
【図20】光転送アレイ装置Aおよび比較用光転送アレイ装置Bにおける発光側スイッチ素子の発光強度と、受光側スイッチ素子に流れる光起電流との関係の測定結果を表すグラフを示す図である。
【符号の説明】
【0268】
1 光転送アレイ装置
10 発光装置
11 発光素子アレイ
13 スイッチ素子アレイ(光転送用発光素子アレイ)
17 導波体(絶縁層)
18 遮光層
20 発光サイリスタ
31 基板
36 裏面電極層
42 第1のN型半導体層
43 第1のP型半導体層
44 第2のN型半導体層
45 第2のP型半導体層
46 退避部
47 突出部
100 発光部
101 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に相互に間隔をあけて配置される複数の光転送用発光素子を備え、各前記光転送用発光素子は、隣接する前記光転送用発光素子からの光を受光する受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい光転送用発光素子アレイと、
隣接する2つの前記光転送用発光素子間に設けられ、一方の前記光転送用発光素子からの光を、他方の前記光転送用発光素子に導く導波体であって、前記導波体の表面は、反射集光領域を有し、前記反射集光領域は、外方に凸となった凸曲面状に形成され、前記一方の光転送用発光素子からの光が前記反射集光領域で反射されると、前記他方の光転送用発光素子に入射するように形成される導波体とを備えることを特徴とする光転送アレイ装置。
【請求項2】
各前記光転送用発光素子は、発光部および前記受光部を有し、
前記発光部および前記受光部は、前記基板に前記受光部および前記発光部の順に積層されて設けられることを特徴とする請求項1に記載の光転送アレイ装置。
【請求項3】
各前記光転送用発光素子は、
第1のN型半導体層と、
前記第1のN型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第1のP型半導体層と、
前記第1のP型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第2のN型半導体層と、
前記第2のN型半導体層の厚み方向の一表面部に積層される第2のP型半導体層とを含む発光サイリスタであり、
前記第1のP型半導体層または前記第2のN型半導体層の積層方向に垂直な断面が、前記第1のP型半導体層と前記第2のN型半導体層との界面から積層方向に離反するに連れて減少するように形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の光転送アレイ装置。
【請求項4】
複数の光転送用発光素子であって、隣接する光転送用発光素子からの光を受光する受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい複数の光転送用発光素子を、基板に相互に間隔をあけて配置して、光転送用発光素子アレイを形成するアレイ形成工程と、
ポリベンゾオキサゾール前駆体を含む固形成分および溶剤を含有する透光性材料を、前記光転送用発光素子間に充填するとともに各前記光転送用発光素子を覆うように塗布し、前記溶剤を除去することによって第1透光層を形成する第1透光層形成工程と、
前記第1透光層を露光して現像することによって、前記第1透光層における前記光転送用発光素子を覆う部分を部分的に除去して、凹部を形成する凹部形成工程と、
前記第1透光層を硬化させる第1硬化工程と、
前記透光性材料を、前記凹部に充填するとともに硬化された前記第1透光層を覆うように塗布し、前記溶剤を除去することによって第2透光層を形成する第2透光層形成工程と、
前記第2透光層を硬化させる第2硬化工程とを含むことを特徴とする光転送アレイ装置の製造方法。
【請求項5】
前記透光性材料は、前記固形成分の含有率が25重量%以上80重量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の光転送アレイ装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の光転送アレイ装置であって、各前記光転送用発光素子に前記受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ前記非受光状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する走査信号を伝送する走査信号伝送手段を備え、各光転送用発光素子は前記受光状態にありかつ前記走査信号が与えられたときに予め定める部位にトリガ信号を発生する光転送アレイ装置と、
相互に間隔をあけて配置される複数の発光素子を備え、各前記発光素子は、予め定める部位にトリガ信号が与えられる選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流が、非選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さく、前記選択状態にあり、かつ前記選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも大きくかつ前記非選択状態にあるときのしきい電圧またはしきい電流よりも小さい信号電圧または信号電流を有する発光信号が与えられたときに発光する発光素子アレイと、
各前記発光素子に前記発光信号を伝送する発光信号伝送手段と、
前記発光素子の予め定める部位と、前記光転送用発光素子の予め定める部位とを接続する接続手段とを含むことを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項6に記載の発光装置と、
画像情報に基づいて前記発光装置を駆動する駆動手段と、
帯電した感光体ドラムに前記発光装置の前記発光素子からの光を集光する集光手段と、
前記発光装置からの光が前記集光手段によって前記感光体ドラムに集光されて露光された感光体ドラムに現像剤を供給する現像剤供給手段と、
前記感光体ドラムに前記現像剤によって形成された画像を記録シートに転写する転写手段と、
前記記録シートに転写された現像剤を定着させる定着手段とを含むことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−273627(P2007−273627A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95789(P2006−95789)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】