説明

光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び光輝性塗装物

【課題】優れた深み感及び耐候性を有し、彩度が高く鮮やかなキャンディトーンを有する塗膜が得られる光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物を提供すること。
【解決手段】ビヒクル及び光輝性顔料を含有する塗料において、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有することを特徴とする光輝性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物に関する。さらに詳しくは、深み感に優れ、鮮やかなキャンディトーンを有し、耐候性に優れた塗膜を提供可能な光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属や銅のコロイドは、化学的に非常に安定であり、各コロイド特有の色を発色する。この特性を活かして、従来より、ベネチアガラスやステンドグラス等の着色に利用されている。
【0003】
貴金属コロイドのなかでも、金コロイドは、粒径に応じて、青、青紫、赤紫等の色を示すが、この金コロイドによる発色は、「カシウスの紫」として古くより知られており、陶磁器の絵つけ等の発色に利用されている。
【0004】
金コロイド等の貴金属コロイドによる発色は、電子のプラズマ振動に起因し、プラズモン吸収と呼ばれる発色機構によるものである。このプラズモン吸収による発色は、金属中の自由電子が光電場により揺さぶられ、粒子表面に電荷が現れ、非線形分極が生じるためであるとされている。この貴金属コロイドによる発色は、彩度や光線透過率が高く、耐久性等に優れている。このような貴金属コロイドによる発色は、粒径が数nm〜数十nm程度の、いわゆるナノ粒子において見られるものであり、着色材としては、粒径分布が狭いコロイドであることが有利である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗料においても、ガラス等の発色と同様の彩度や濃度を再現できるものが望まれており、上述した貴金属コロイドや銅コロイドを着色材として利用することが期待されている。
【0006】
貴金属や銅のコロイドは、特開昭63−283743号公報において、分散媒、金属及び特定の高分子を使用した高分子保護金属コロイドが開示されている。しかしながら、この技術により得られる高分子保護金属コロイドは、0.5mMと濃度が非常に低いために塗料の着色材としては充分ではない。
【0007】
ジャーナル・オブ・サーフィス・サイエンス・アンド・テクノロジー(J.Surface Sci.Technol.)8巻、209頁(1992年)には、保護コロイドと還元剤とを一つの薬剤で兼用して貴金属コロイドを製造する方法が開示されている。特開昭62−121640号公報には、特定の界面活性剤と還元剤とを用いてヒドロゾルを作製した後、水分を除去して有機溶媒を加えることにより貴金属コロイドのオルガノゾルを調製する方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの技術では、使用される還元剤が高価であるため、貴金属コロイドを安価に製造することができない。また、得られる貴金属コロイドは、樹脂等と混合すると凝集しやすく、コロイド溶液の濃度も低く高濃度の貴金属コロイドを製造することができず、塗料としての応用は困難なものであった。
【0009】
一方、染料を用いた鮮やかなキャンディトーンを有する塗膜の需要はあるもの、耐候性の点で問題があり、自動車用の塗装には使用されていなかった。
【0010】
本発明者等は上述の課題に鑑み鋭意研究した結果、ビヒクル及び光輝性顔料を含有する塗料において、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有させると、驚くべきことに、深み感に優れ、鮮やかなキャンディトーンを有し、耐候性に優れた塗膜を提供可能な光輝性塗料組成物が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、深み感に優れ、彩度が高く鮮やかなキャンディトーンを有し、耐候性に優れた塗膜を提供可能な光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、ビヒクル及び光輝性顔料を含有する塗料において、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有することを特徴とする光輝性塗料組成物を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、前記貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液の含有量がコロイドゾル固形分として1〜10固形分重量%であることを特徴とする前記の光輝性塗料組成物を提供するものである。
【0014】
さらに、本発明は、被塗基材上に前記の光輝性塗料組成物によるベースコート塗膜形成後、クリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、被塗基材上にベースコート塗膜形成後、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有するクリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0016】
さらに、本発明は、前記貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液の含有量がコロイドゾル固形分としてトップコート塗膜中0.01〜5固形分重量%であることを特徴とする前記の光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、被塗基材上に前記の光輝性塗料組成物によるベースコート塗膜形成後、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有するクリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0018】
さらに、本発明は、前記貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液の含有量がコロイドゾル固形分としてトップコート塗膜中0.01〜5固形分重量%であることを特徴とする前記の光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、前記クリヤー塗料が、カルボキシル基含有ポリマー及びエポキシ基含有ポリマーを含有することを特徴とする前記の光輝性塗膜形成方法を提供するものである。
【0020】
さらに、本発明は、前記の光輝性塗膜形成方法により塗装されたことを特徴とする光輝性塗装物を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた深み感、耐候性を有し、彩度が高く鮮やかなキャンディトーンを有する塗膜が得られる光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の構成について、以下に順次詳述する。
【0023】
「ビヒクル」
本発明に用いるビヒクルは、光輝性顔料等が分散するものであって塗膜形成用樹脂と必要に応じて架橋剤とから構成される。
【0024】
ビヒクルを構成する塗膜形成用樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、特に、アクリル樹脂及びポリエステル樹脂が好ましく用いられる。また、常温乾燥で硬化可能な熱可塑性アクリル樹脂、2液型ウレタン樹脂やシリコン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることも出来る。以下に塗膜形成用樹脂及び架橋剤について説明する。
【0025】
<塗膜形成用樹脂>
(イ)アクリル樹脂
アクリル樹脂は、(1)(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミド等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル系単量体、(2)(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体、及び、(3)(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロビル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の少なくとも1種を通常の方法により重合することにより得ることができる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。さらに、共重合可能な(メタ)アクリロニトリル、スチレン、(メタ)アクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、n−プトキシメチルアクリルアミド等を配合してもよい。アクリル樹脂の数平均分子量は、1,800〜100,000とするのが好ましく、5,000〜20,000がさらに好ましい。
【0026】
(ロ)ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂は、多価アルコールと多塩基酸又はその無水物とを重縮合(エステル化)して得られる。
【0027】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオベンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ベンタエリトリット、ジペンタエリトリット等が挙げられ、これらの多価アルコールを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
多塩基酸又はその無水物としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水トリメリット酸等が挙げ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
ポリエステル樹脂の数平均分子量は、200〜10,000であるのが好ましく、300〜6,000がより好ましい。
【0030】
<架橋剤>
架橋剤としては、メラミン樹脂等のアミノ樹脂やブロックポリイソシアネート化合物等が挙げられる。また、常温乾燥により硬化することができる2液型ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等も使用することができる。
【0031】
(イ)アミノ樹脂
アミノ樹脂としては、例えば、メラミン、尿素、ベンソグアナミン等のアミノ化合物の1種又は2種以上の混合物をホルムアルデヒドと反応させた縮合物及びその縮合物にメタノール、ブタノール等の低級アルコールを反応させたアルキルエーテル化メラミン樹脂等が挙げられる。このようなアルキルエーテル化メラミン樹脂の数平均分子量は、400〜1,200であるのが好ましい。
【0032】
特に、トリアジン環1個当たり平均で0〜1個のイミノ基を有するアミノ樹脂が好ましく、平均で0〜0.2個のイミノ基を有するアミノ樹脂が好ましい。イミノ基以外の部分はアルキルエーテル基等が結合している。なお、このトリアジン環1個当たりのイミノ基の平均個数は、元素分析により求めた炭素、水素及び窒素の重量比と、1H−NMRから求めたNH/−NCH2ORのモル比とから算出する。
【0033】
(ロ)ブロックポリイソシアネート化合物
ブロックプリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等の脂肪族多官能イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族多官能イソシアネート及びジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)や水添MDI等のポリイソシアネート化合物の官能基をブロック剤によって部分的に又は完全にブロックしたものが挙げられる。
【0034】
<配合割合>
塗膜形成用樹脂と架橋剤の配合割合としては、固形分換算で塗膜形成用樹脂が90〜50重量%、好ましくは85〜60重量%であり、架橋剤が10〜50重量%、好ましくは15〜40重量%である。架橋剤が10重量%未満では(塗膜形成用樹脂が90重量%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない。一方、架橋剤が50重量%を超えると(塗膜形成用樹脂が50重量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる。
【0035】
「光輝性顔料」
本発明に用いる光輝性顔料は、従来から塗料用として常用されているものが用いられ、例えば、リーフィン型アルミニウム顔料、ノンリーフィン型アルミニウム顔料、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、板状酸化鉄、フタロシアニンフレーク、グラファイト、二酸化チタン被覆マイカ、着色マイカ、金属メッキマイカ、金属メッキガラスフレーク等が挙げられる。
【0036】
「貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液」
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液は、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含むものである。上記貴金属又は銅のコロイド粒子は、貴金属又は銅の化合物から形成される。
【0037】
上記貴金属としては特に限定されず、例えば、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等を挙げることができる。なかでも、金、銀、白金が好ましい。
【0038】
上記貴金属又は銅の化合物としては上記貴金属又は銅を含むものであれば特に限定されず、例えば、塩化金酸、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)等を挙げることができる。
【0039】
上記高分子量顔料分散剤は、高分子量重合体に顔料表面に対する親和性の高い官能基が導入されている両親媒性の共重合体である。このものは、ビヒクルに対して充分な相溶性を有することから、有機顔料又は無機顔料の分散剤として好適であり、通常は、顔料ペーストの製造時に顔料分散剤として使用されているものである。
【0040】
上記高分子量顔料分散剤としては特に限定されないが、以下に説明するものを好適に使用することができる。すなわち、(1)顔料親和性基を主鎖及び/又は複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子(2)主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子(3)主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子
【0041】
ここで、上記顔料親和性基とは、顔料の表面に対して強い吸着力を有する官能基をいい、例えば、オルガノゾルにおいては、第3級アミノ基、第4級アンモニウム、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基;ヒドロゾルにおいては、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等を挙げることができる。上記顔料親和性基は、貴金属又は銅に対して強い親和力を示す。上記高分子量顔料分散剤は、上記顔料親和性基を有することにより、貴金属又は銅の保護コロイドとして充分な性能を発揮することができる。
【0042】
上記櫛形構造の高分子(1)は、上記顔料親和性基を有する複数の側鎖とともに、溶媒和部分構成する複数の側鎖を主鎖に結合した構造のものであり、これらの側鎖があたかも櫛の歯のように主鎖に結合されているものである。本明細書中、上述の構造を櫛形構造と称する。上記櫛形構造の高分子(1)において、上記顔料親和性基は、側鎖末端に限らず、側鎖の途中や主鎖中に複数存在していてもよい。なお、上記溶媒和部分は、溶媒に親和性を有する部分であって、親水性又は疎水性の構造をいう。上記溶媒和部分は、例えば、水溶性の重合鎖、親油性の重合鎖等から構成されている。
【0043】
上記櫛形構造の高分子(1)としては特に限定されず、例えば、特開平5−177123号公報に開示されている1個以上のポリ(カルボニル−C3〜C6−アルキレンオキシ)鎖を有し、これらの各鎖が3〜80個のカルボニル−C3〜C6−アルキレンオキシ基を有しかつアミド又は塩架橋基によってポリ(エチレンイミン)に結合されている構造のポリ(エチレンイミン)又はその酸塩からなるもの;特開昭54−37082号公報に開示されているポリ(低級アルキレン)イミンと、遊離のカルボン酸基を有するポリエステルとの反応生成物よりなり、各ポリ(低級アルキレン)イミン連鎖に少なくとも2つのポリエステル連鎖が結合されたもの;特公平7−24746号公報に開示されている末端にエポキシ基を有する高分子量のエポキシ化合物に、アミン化合物と数平均分子量300〜7000のカルボキシル基含有プレポリマーとを同時に又は任意順に反応させて得られる顔料分散剤等を挙げることができる。
【0044】
上記櫛形構造の高分子(1)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、25〜1500個である。
【0045】
上記櫛形構造の高分子(1)は、溶媒和部分を構成する側鎖が1分子中に2〜1000存在するものが好ましい。2未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、5〜500である。
【0046】
上記櫛形構造の高分子(1)は、数平均分子量が2000〜1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、4000〜500000である。
【0047】
上記主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子(2)は、複数の顔料親和性基が主鎖にそって配置されているものであり、上記顔料親和性基は、例えば、主鎖にペンダントしているものである。本明細書中、上記顔料親和部分は、上記顔料親和性基が1つ又は複数存在して、顔料表面に吸着するアンカーとして機能する部分をいう。
【0048】
上記高分子(2)としては、例えば、特開平4−210220号公報に開示されているポリイソシアネートと、モノヒドロキシ化合物及びモノヒドロキシモノカルボン酸又はモノアミノモノカルボン酸化合物の混合物、並びに、少なくとも1つの塩基性環窒素とイソシアネート反応性基とを有する化合物との反応物;特開昭60−16631号公報、特開平2−612号公報、特開昭63−241018号公報に開示されているポリウレタン/ポリウレアよりなる主鎖に複数の第3級アミノ基又は塩基性環式窒素原子を有する基がペンダントした高分子;特開平1−279919号公報に開示されている水溶性ポリ(オキシアルキレン)鎖を有する立体安定化単位、構造単位及びアミノ基含有単位からなる共重合体であって、アミン基含有単量単位が第3級アミノ基若しくはその酸付加塩の基又は第4級アンモニウムの基を含有しており、該共重合体1g当たり0.025〜0.5ミリ当量のアミノ基を含有する共重合体;特開平6−100642号公報に開示されている付加重合体からなる主鎖と、少なくとも1個のC1〜C4アルコキシポリエチレン又はポリエチレン−コプロピレングリコール(メタ)アクリレートからなる安定化剤単位とからなり,かつ、2500〜20000の重量平均分子量を有する両親媒性共重合体であって、主鎖は、30重量%までの非官能性構造単位と、合計で70重量%までの安定化剤単位及び官能性単位を含有しており、上記官能性単位は、置換されているか又は置換されていないスチレン含有単位、ヒドロキシル基含有単位及びカルボキシル基含有単位であり、ヒドロキシル基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とスチレン基及びヒドロキシル基とプロピレンオキシ基又はエチレンオキシ基との比率が、それぞれ、1:0.10〜26.1;1:0.28〜25.0;1:0.80〜66.1である両親媒性高分子等を挙げることができる。
【0049】
上記高分子(2)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、25〜1500個である。
【0050】
上記高分子(2)は、数平均分子量が2000〜1000000であることが好ましい。2000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、4000〜500000である。
【0051】
上記主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状の高分子(3)は、主鎖の片末端のみに1つ又は複数の顔料親和性基からなる顔料親和部分を有しているが、顔料表面に対して充分な親和性を有するものである。
【0052】
上記直鎖状の高分子(3)としては特に限定されず、例えば、特開昭46−7294号公報に開示されている一方が塩基性であるA−Bブロック型高分子;米国特許第4656226号明細書に開示されているAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA−Bブロック型高分子;米国特許第4032698号明細書に開示されている片末端が塩基性官能基であるA−Bブロック型高分子;米国特許第4070388号明細書に開示されている片末端が酸性官能基であるA−Bブロック型高分子;特開平1−204914号公報に開示されている米国特許第4656226号明細書に記載のAブロックに芳香族カルボン酸を導入したA−Bブロック型高分子の耐候黄変性を改良したもの等を挙げることができる。
【0053】
上記直鎖状の高分子(3)は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものが好ましい。2個未満であると、分散安定性が充分ではなく、3000個を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、5〜1500個である。
【0054】
上記直鎖状の高分子(3)は、数平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではなく、1000000を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となり、また、コロイド粒子の粒度分布が広くなり、彩度が低下する。より好ましくは、2000〜500000である。
【0055】
上記高分子量顔料分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000(ゼネカ社製);ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190(ビックケミー社製);EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49(EFKAケミカル社製);ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製);アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPW911(味の素社製);フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−730W、フローレンG−700、フローレンTG−720W(共栄社化学社製)等を挙げることができる。
【0056】
上記高分子量顔料分散剤は、顔料親和性基が側鎖に存在し、溶媒和部分を構成する側鎖を有するグラフト構造のもの〔上記櫛形構造の高分子(1)〕;主鎖に、顔料親和性基を有するもの〔上記高分子(2)及び上記直鎖状の高分子(3)〕であるので、コロイド粒子の分散性が良好であり、貴金属又は銅のコロイド粒子に対する保護コロイドとして好適である。上記高分子量顔料分散剤を使用することにより、貴金属又は銅のコロイド粒子を高い濃度で含有する貴金属又は銅のコロイド粒子分散体を得ることができる。
【0057】
上記高分子量顔料分散剤の含有量は、上記貴金属又は銅100重量部に対して50〜1000重量部が好ましい。50重量部未満であると、上記貴金属又は銅のコロイド粒子の分散性が不充分であり、1000重量部を超えると、塗料に配合した際に、ビヒクルに対する高分子量顔料分散剤の混入量が多くなり、物性等に不具合が生じやすくなる。より好ましくは、100〜650重量部である。
【0058】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液において、着色性の観点から、上記貴金属又は銅のコロイド粒子は、上記高分子量顔料分散剤1kgあたり、50mmol以上含有されることが好ましい。上記貴金属又は銅のコロイド粒子が50mmol未満であると、着色性が不充分となる。より好ましくは、100mmol以上である。
【0059】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾルにおいて、貴金属又は銅のコロイド粒子は、体積平均粒径が5〜150nmであることが好ましい。5nm未満であると、着色力が低く、150nmを超えると、彩度が低くなる。また、本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾルは、狭い粒度分布を示すものであることが好ましい。粒度分布が広いものであると、彩度が低くなるので好ましくない。
【0060】
本発明に用いる貴金属又は銅のコロイド溶液において、コロイド粒子の平均粒径は、5〜30nmであることが好ましい。5nm未満であると、着色力が弱く、30nmを超えると、彩度が低くなる。また、上記コロイド粒子は、粒度分布が狭いので、濃色かつ彩度が高い。
【0061】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液は、彩度が高く、貴金属又は銅のコロイド粒子を高い濃度で含有しているので、着色性が良好であり、着色材として好適である。また、本発明に用いる貴金属又は銅のコロイド溶液は、ビヒクルとの相溶性が良好であり、ビヒクルに添加しても安定で凝集せず、充分な着色性を有しているので、塗料の着色材として好適である。なお、固体ゾルは、適当な溶媒に溶解して、ヒドロゾルやオルガノゾルとして利用することができる。
【0062】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液は、以下に述べる製造方法によって得ることができる。すなわち、貴金属又は銅の固体ゾルの製造方法は、貴金属又は銅の化合物を溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属又は銅に還元して上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子を形成し、その後、上記溶媒を除去することにより固体ゾルとするものである。また、貴金属又は銅のコロイド溶液の製造方法は、貴金属又は銅の化合物を溶媒に溶解し、高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属又は銅に還元するものである。
【0063】
上記の製造方法において、上記貴金属又は銅の化合物は、溶媒に溶解して使用される。上記溶媒としては上記貴金属又は銅を含む化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、水;アセトン、メタノール、エチレングリコール、酢酸エチル等の有機溶媒等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、水と有機溶媒とを混合して使用する場合には、上記有機溶媒としては水可溶性のものが好ましい。
【0064】
上記溶媒が水である場合、得られるコロイド溶液はヒドロゾルとなる。この場合、上記貴金属又は銅の化合物は、50mM以上の濃度となるように水で溶解されることが好ましい。50mM未満であると、高濃度のコロイド溶液を得ことができない。より好ましくは、100mM以上である。
【0065】
上記溶媒が有機溶媒である場合、得られるコロイド溶液は、オルガノゾルとなる。この場合、上記貴金属又は銅の化合物は、10mM以上の濃度となるように上記有機溶媒に溶解されることが好ましい。10mM未満であると、高濃度のコロイド溶液を得ることができない。より好ましくは、50mM以上である。
【0066】
上記溶媒が水及び水可溶性有機溶媒からなる混合溶液である場合、まず、上記貴金属又は銅の化合物を水に溶解した後、高分子量顔料分散剤を溶解した水可溶性有機溶媒を添加して溶液とすることが好ましい。上記貴金属又は銅の化合物を水に溶解することにより、オルガノゾルをより高濃度に調製することができる。このとき、上記貴金属又は銅の化合物は、50mM以上となるように水に溶解されることが好ましい。50mM未満であると、貴金属又は銅のコロイド粒子を高い割合で含有した高濃度の固体ゾル及びコロイド溶液を得ることができない。より好ましくは、100mM以上である。
【0067】
貴金属として銀を使用する場合、上記水溶液は、pH7以下であることが好ましい。pH7を超えると、例えば、銀の化合物として硝酸銀を用いる場合、銀イオンを還元する際に酸化銀等の副生成物が生成し、溶液が白濁するので好ましくない。上記水溶液のpHが7を超える場合には、例えば、0.1N程度の硝酸等を添加して、pHを7以下に調整することが好ましい。
【0068】
上記水可溶性有機溶媒は、上記貴金属又は銅の化合物を溶解する水に対して、体積比が1.0以上となるように添加することが好ましい。1.0未満であると、溶剤型塗料用の高分子量顔料分散剤が溶解しない。より好ましくは、5.0以上である。
【0069】
上記貴金属又は銅の化合物の溶液に高分子量顔料分散剤を添加する。上記高分子量顔料分散剤は、上記溶媒が水及び水可溶性有機溶媒からなる混合溶媒である場合には、水不溶性のものであることが好ましい。水溶解性であると、水可溶性有機溶媒を除去して固体ゾルを得る際に、コロイド粒子を析出させるのが困難となる。上記水不溶性の高分子量顔料分散剤としては、例えば、ディスパービック161、ディスパービック166(ビックケミー社製)、ソルスパース24000、ソルスパース28000(ゼネカ社製)等を挙げることができる。
【0070】
上記貴金属又は銅の化合物の溶液に上記高分子量顔料分散剤を添加した後、貴金属又は銅のイオンを還元する。上記還元の方法としては特に限定されず、例えば、化合物を添加して化学的に還元する方法、高圧水銀灯を用いて光照射する方法等を挙げることができる。
【0071】
上記化合物としては特に限定されず、例えば、従来より還元剤として使用されている水素化ホウ素ナトリウム等のアルカリ金属水素化ホウ素塩;ヒドラジン化合物;クエン酸又はその塩、コハク酸又はその塩等を使用することができる。また、上記還元剤のほかに、アルカノールアミンを使用することができる。
【0072】
上記アルカノールアミンは、通常は還元剤として使用されないものであるが、上記貴金属又は銅の化合物の溶液に上記アルカノールアミンを添加して撹拌、混合することによって、貴金属イオンや銅イオン等が常温付近で貴金属、銅に還元される。上記アルカノールアミンを使用することにより、危険性や有害性の高い還元剤を使用する必要がなく、加熱や特別な光照射装置を使用することなしに、貴金属又は銅の化合物を還元することができる。
【0073】
上記アルカノールアミンとしては特に限定されず、例えば、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等を挙げることができる。
【0074】
上記アルカノールアミンの添加量は、上記貴金属又は銅の化合物の溶液1molに対して1〜20molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、20molを超えると、生成したコロイド粒子の対凝集安定性が低下する。より好ましくは、2〜8molである。
【0075】
また、上記還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを使用する場合、上記水素化ホウ素ナトリウムは、高価であり、取り扱いにも留意しなければならないが、常温で還元することができるので、加熱や特別な光照射装置を用意する必要がない。
【0076】
上記水素化ホウ素ナトリウムの添加量は、上記貴金属又は銅の化合物1molに対して1〜50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5〜10molである。
【0077】
上記還元剤としてクエン酸又はその塩を使用する場合、アルコールの存在下で加熱還流することによって貴金属イオンや銅イオン等を還元することができる。上記クエン酸又はその塩は、非常に安価であり、入手が容易である利点がある。上記クエン酸又はその塩としては、クエン酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0078】
上記クエン酸又はその塩の添加量は、上記貴金属又は銅の化合物1molに対して1〜50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、耐凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5〜10molである。
【0079】
本発明に用いる固体ゾルは、上記貴金属又は銅のイオンを還元した後、上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子を沈殿させてから上記溶媒を除去する。上記溶媒として水及び水可溶性有機溶媒を使用する場合には、使用する高分子量顔料分散剤の性質に応じて以下の方法に従って上記溶媒を除去することができる。
【0080】
上記高分子量顔料分散剤が水不溶性のものである場合、まず、上記水可溶性有機溶媒を蒸発等により除去して、上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子を沈殿させた後、水を除去することが好ましい。上記高分子量顔料分散剤が水不溶性のものであるので、上記水可溶性有機溶媒を除去することにより、上記高分子量顔料分散剤により保護された貴金属又は銅のコロイド粒子が沈殿する。
【0081】
この場合において、上記水可溶性有機溶媒は、蒸発速度が水より大きいものであることが好ましい。蒸発速度が水より小さいものであると、上記高分子量顔料分散剤として水不溶性のものを使用した場合、溶媒を除去して固体ゾルとする際に、上記水可溶性有機溶媒を先に取り除くことができず、貴金属又は銅のコロイド粒子を沈殿させることができない。
【0082】
上記高分子量顔料分散剤が溶剤型のものである場合、該高分子量顔料分散剤を溶解しない非極性有機溶媒を過剰量添加して上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子を沈殿させた後、デカンテーション等により溶媒を除去することもできる。
【0083】
上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子は、残留イオンが存在すると、塗料中で凝集を引き起こすことがあるので、残留イオンが存在しないことが好ましい。上記残留イオンは、上記溶媒の除去の際に同時に除去されるが、上記溶媒を除去した後、上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子をイオン交換水で洗浄することが好ましい。上記高分子量顔料分散剤で保護された貴金属又は銅のコロイド粒子が過剰量の上記非極性溶媒により沈殿された場合は、上記非極性有機溶媒で洗浄することができる。
【0084】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾルは、上記溶媒を除去した後、乾燥させることにより得ることができる。得られる貴金属又は銅の固体ゾルは、従来の製造方法により得られる固体ゾルと比較して、高い濃度で貴金属又は銅のコロイド粒子を含有しているため、少量であっても充分な着色を行うことができるので、着色材として好適である。また、得られる貴金属又は銅の固体ゾルは、コロイド平均粒径が5〜150μmであり、粒度分布が狭いので、濃色かつ彩度の高いものとなる。
【0085】
本発明に用いる貴金属又は銅のコロイド溶液の製造方法によれば、ヒドロゾルの場合、濃度が50mM以上、オルガノゾルの場合、10mM以上の貴金属又は銅のコロイド溶液を得ることができる。また、得られた貴金属又は銅のコロイド溶液は、コロイド粒径が5〜30nmであり、粒度分布が狭いので、濃色かつ彩度の高いものとなる。
【0086】
上記の貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液の製造方法は、上記貴金属又は銅の化合物を溶剤に溶解して溶液とし、上記高分子量顔料分散剤を加えた後、貴金属又は銅に還元するといった少ない工程で簡便に行うことができ、しかも、彩度が高く、従来の貴金属の固体ゾル及びコロイド溶液と比較して高濃度の貴金属又は銅のコロイド粒子を含有する固体ゾル及びコロイド溶液を製造することができる。特に、アルカノールアミンを使用することにより、温和な条件で簡便に製造することができる。
【0087】
本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液は、従来より着色材として使用されている顔料や染料と比較して、彩度が高いものである。例えば、本発明に用いる貴金属又は銅の固体ゾル及びコロイド溶液のうち銀の固体ゾル及びコロイド溶液の彩度を、従来より使用されている顔料のなかでも、比較的堅牢で彩度が高いとされているイソインドリノンと比較すると、同じ光線透過率を有するものであれば、銀のコロイド溶液のほうが彩度の高い塗膜が得られることを確認することができる。
【0088】
本発明に用いる貴金属又は銅のコロイド溶液が貴金属又は銅の化合物の水溶液を用いて製造したものである場合、塗料化の際に、必要に応じて、水溶液中のイオンを除去することが好ましい。上記水溶液中のイオンを除去することによって、塗料組成物中で貴金属又は銅のコロイドがより凝集しにくくなり、塗料組成物としての貯蔵安定性や塗装作業性等を低下させることがない。
【0089】
本発明の光輝性塗料組成物は、上記貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を着色材として用いているので、得られる塗膜に鮮やかなキャンディトーンを付与することができ、付与されたキャンディトーンは化学的に安定であるので退色せず、自動車用塗料、建築外装用塗料等の耐候性、耐久性、耐熱性、美粧性が要求される分野に好適に使用することができる。
【0090】
「溶剤」
本発明の光輝性塗料組成物は、通常、溶剤に溶解した態様で提供される。溶剤としては、ビヒクルを溶解するものであればよく、塗料のタイプとしては、有機溶剤型、非水分散型、水溶液型又は水分散型の形態として使用し得るが、環境面の観点から有機溶剤の使用が規制されているので、水系とするのが好ましい。水系の場合には適量の親水性有機溶剤を含有させてもよい。なお、有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の炭化水素類、アセトン、メチルエテルケトン等のケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブ等のエステル類、アルコール類等が挙げられる。
【0091】
「その他の添加剤」
本発明の光輝性塗料組成物は、上記成分の他に、着色顔料、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜添加することができる。これらの添加剤を、通常、ビヒクル100重量部(固形分基準)に対して5重量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0092】
<沈降防止剤>
沈降防止剤としては、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや、酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックスが好ましい。沈降防止剤の配合割合は、光輝性顔料(A)100重量部に対して、固形分基準で1〜30重量部が好ましく、5〜25重量部がより好ましい。
【0093】
<着色顔料>
着色顔料としては、従来から塗料用として常用されているものが用いられ、有機顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジコ系顔料、ベリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等が挙げられ、また、無機顔料としては、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン等が挙げられる。着色顔料の添加量は、塗膜が光輝性を保持する限り色相に合わせて任意に設定できる。
【0094】
本発明の第一の光輝性塗膜形成方法は、上記の本発明の光輝性塗料組成物によるベースコート塗膜形成後、クリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法であり、ベースコートに貴金属又は銅のコロイドが含有される塗装系(I)を提供するものである。
【0095】
本発明の第二の光輝性塗膜形成方法は、被塗基材上にベースコート塗膜形成後、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有するクリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法であり、トップコートに貴金属又は銅のコロイドが含有される塗装系(II)を提供するものである。
【0096】
本発明の第三の光輝性塗膜形成方法は、被塗基材上に上記本発明の光輝性塗料組成物によるベースコート塗膜形成後、貴金属又は銅のコロイド粒子及び高分子量顔料分散剤を含む貴金属又は銅の固体ゾル及び/又はコロイド溶液を含有するクリヤー塗料によるトップコート塗膜を形成することを特徴とする光輝性塗膜形成方法であり、トップコート及びベースコートに貴金属又は銅のコロイドが含有される塗装系(III)を提供するものである。
【0097】
「塗装物(基材)」
本発明の光輝性塗料組成物及び光輝性塗膜形成方法により塗布する光輝性塗装物の被塗物(基材)としては、(1)鉄、アルミニウム、銅又はこれらの合金等の金属類、(2)ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料、(3)ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、エポキシ樹脂等の樹脂類や各種のFRP等のプラスチック材料、(4)木材、繊維材料等の天然材料等が挙げられる。被塗基材に直接又は下地塗膜を介して塗料組成物を塗装するが、自動車車体塗装の場合は予め化成処理、電着塗装、中塗り塗装等を施しておくのが好ましい。なお、本発明により得られる光輝性塗膜は鮮やかなキャンディトーンが得られ、耐候性が優れているので、美匠性が要求される自動車、オートバイ(特にガソリンタンク部分のデザイン)などの塗装物において特に好ましく使用される。
【0098】
「塗膜形成方法」
光輝性塗料組成物を基材上に塗布してベースコートの光輝性塗膜を形成し、得られた光輝性塗膜上にトップコートとして少なくとも一層のクリア−塗料を塗布する。
【0099】
<ベースコート:光輝性塗膜>
中塗り塗料等により下地塗装をした被塗基材を使用する場合には、下地塗膜の上にウェットオンウェット(W/W)法、又はベークオンウェット(B/W)法により光輝性塗料組成物を塗装する。W/W法とは下地塗膜の形成後風乾等により乾燥し、未硬化状態又は半硬化状態のうちに塗装する方法であり、B/W法とは下地塗膜を焼付けた後に塗装する方法である。塗装方法は特に限定されないが、スプレー法、ロールコーター法等が好ましい。光輝性塗膜の乾燥膜厚は5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。
【0100】
本発明の第一及び第三の光輝性塗膜形成方法において、ベースコート塗膜中の固体ゾル及びコロイド溶液の含有量は、塗料固形分中(塗膜中)にコロイドゾル固形分として1〜10固形分重量%、好ましくは、1〜5固形分重量%である.含有量が1固形分重量%未満であると光輝性塗膜の深み感が乏しく、また、10固形分重量%を越えると光輝感が不十分となる。
【0101】
<トップコート:クリヤー塗膜>
ベースコート塗膜上にトップコートのクリヤー塗膜を少なくとも1層形成する。ベースコート塗料中に光輝性顔料が多い場合に、クリヤー塗料を2層以上塗装すると、表面の光輝感が向上する。クリヤー塗料は上塗り用として一般に使用されているものでよい。本発明の塗膜上へのクリヤー塗料の塗装はウェット−オン−ウエット(W/W)方式で行うことができる。クリヤー塗料を複数回塗装する場合には、最終のクリヤーコート塗装の後で焼き付ければよく、下層のクリヤー塗装の形成段階ではW/W、プレート又は半硬化の状態でよい。クリヤー塗装後の焼き付け温度は120〜160℃でよい。クリヤー塗膜の乾燥膜厚は10〜80μmが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
【0102】
クリヤー塗料の組成としては、(i)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂及びこれらの変性樹脂等から選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂と上記架橋剤を混合したもの、又は(ii)カルボシキル基含有ポリマー及びエポキシ基含有ポリマーからなるビヒクルを用いることができるが、耐酸性雨対策及びベースコート塗料との溶解性の差を大きくするという観点から、(ii)カルボシキル基含有ポリマー及びエポキシ基含有ポリマーからなるビヒクルを含有する組成(特公平8−19315号公報参照)が好ましい。
【0103】
(イ)カルボシキル基含有ポリマー
上記カルボシキル基含有ポリマーとしては、酸無水物基を含有するラジカル重合性モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合体であって、酸無水物基が開環しハーフエステル化されたものが好ましい。酸無水物基を含有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、無水トリメット酸、無水ピロメリット酸、無水コハク酸等が挙げられ、これらを2種以上組み合わせて用いることができる。
【0104】
その他の共重合モノマーとしては、スチレン類(スチレン、α−メチルスチレン等)、アクリル酸エステル類((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸n−ドデシル等)、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0105】
カルボキシル基含有ポリマー中の上記モノマーの含有量としては、酸無水物基を含有するラジカル重合性モノマーを10〜40重量%とし、他の共重合性モノマーを90〜60重量%とすることが好ましい。さらに好ましくは、ラジカル重合性モノマーが15〜30重量%であり、他の共重合性モノマーが85〜70重量%である。
【0106】
酸無水物基を含有するラジカル重合性モノマーと他の共重合性モノマーとの共重合は、公知の方法、例えば、ラジカル重合法等により行うことができる。カルボキシル基含有ポリマーの数平均分子量は、500〜40,000であり、特に、1,000〜20,000であることが好ましい。
【0107】
ハーフエステル化は共重合の後で行う。ハーフエステル化剤は、低分子量のアルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)である。ハーフエステル化反応は、室温から120℃の温度で触媒(トリエチルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン類)の存在下で行う。
【0108】
(ロ)エポキシ基含有ポリマー
エポキシ基含有ポリマーとしては、エポキシ基を有するラジカル重合性モノマー30〜70重量%と、水酸基を有するラジカル重合性モノマー10〜50重量%と、その他のラジカル重合性モノマー残量との共重合体であって、エポキシ当量が100〜800、好ましくは200〜600で、ヒドロキシ当量が200〜1,200、好ましくは400〜1,000のものが好ましい。エポキシ基含有ポリマーは、分子中にエポキシ基を2〜10個、好ましくは3〜8個有し、水酸基を2〜12個、好ましくは4〜10個有する。
【0109】
エポキシ基を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキサニルメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0110】
水酸基を有するラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、N−メチロールアクリルアミン等のヒドロキシル基を有するラジカル重合性モノマーが挙げられる。
【0111】
その他のラジカル重合性モノマーは、上記カルボキシル基含有ポリマーに使用したものと同じものを用いることができる。
【0112】
(イ)カルボキシル基含有ポリマーと(ロ)エポキシ基含有ポリマーの配合比は、(イ)カルボキシル基含有ポリマー100重量部に対して(ロ)エポキシ基含有ポリマーを50〜250重量部とすることが好ましい。上記(イ)及び(ロ)の各ポリマーは、希釈剤を用いて必要な粘度にして用いる。
【0113】
クリヤー塗膜には、本発明の第二及び第三の光輝性塗膜形成方法においては、上述の貴金属又は銅のコロイドが含有される。トップコート塗膜中の固体ゾル及びコロイド溶液の含有量は、塗料固形分中(塗膜中)にコロイドゾル固形分として0.01〜5固形分重量%、好ましくは、0.5〜2固形分重量%である.含有量が0.01固形分重量%未満であると光輝性塗膜の深み感が乏しく、また、5固形分重量%を越えると光輝感が不十分となる。
【0114】
さらに、クリヤー塗料には、透明樹脂にその透明性を損なわない範囲で、顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を配合することが可能である。
【実施例】
【0115】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。なお、配合量は特に断りのない限り重量部を表す。
【0116】
「実施例1〜18,比較例1〜12」
1.被塗基材の調製
ダル鋼板(長さ300mm、幅100mm及び厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理剤(サーフダインSD2000、日本ペイント(株)製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(パワートップU−50、日本ペイント(株)製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗塗料(オルガS−90シーラーグレー(N-6)、日本ペイント(株)製)を乾燥膜厚が40・mとなるようにエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、中塗塗膜を作成した。
【0117】
2.光輝性塗料組成物の調製
アクリル樹脂(スチレン/メチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸の共重合体、数平均分子量約20,000、水酸基価45、酸価15、固形分50重量%)と、メラミン樹脂(商品名,ユーバン20SE、三井化学(株)製、固形分60重量%)とを80:20の固形分重量比で配合して得たビヒクルに対し、光輝性顔料、金コロイド、銀コロイド、着色顔料を「表1」〜「表4」に示す割合で配合した。次いで、有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルの重量比=70/15/10/5)とともにディゾルバーにより塗装適正粘度になるように撹拌混合し、光輝性塗料組成物を調製した。ただし、実施例18は、アミン中和型水溶性アクリル樹脂と水溶性メラミン樹脂(サイメル303、三井化学(株)製)とを80:20の固形分重量比で配合したビヒクルに対し、光輝性顔料、金コロイド(2)、着色顔料を「表2」に示す割合で配合した。次いで、脱イオン水とともにディゾルバーにより塗装適正粘度になるように撹拌混合し、光輝性塗料組成物を調製した。
【0118】
各表の実施例及び比較例において使用した配合成分は以下の通りである。なお、比較例においては、金コロイド、銀コロイド、銅コロイドの代りに、染料を使用した。
【0119】
「金コロイド(1)」:下記合成例1で得られた金の固体ゾル(金の有効成分:17%)。
「金コロイド(2)」:下記合成例2で得られた金コロイド溶液を電気透析装置(マイクロアナライザーS3:旭化成工業(株)製)に供してイオン成分を除去濃縮した赤色の金コロイド溶液(金の有効成分:20%)。
「銀コロイド」:下記合成例3で得られた銀の固体ゾル(銀の有効成分:10%)。
「銅コロイド」:下記合成例4で得られた銅の固体ゾル(銅の有効成分:6%)。
「光輝性顔料」:アルミペースト(アルペーストMH9901、旭化成工業(株)製)、着色マイカ(エクステリアマーリンラセット、マール社製)。
「着色顔料」:イルガジン20−5GLT(チバガイギー社製)、透明酸化鉄30−1005(ヒルトンデービス社製)、パリオゲンレッドL−3920(BASF社製)、シンカシャレッドY−759D(チバガイギ社製)、カーボンブラックFW−200P(デグサ社製)。
「染料」:オラゾールエローG(チバガイギー社製)、オラゾールレッド2B(チバガイギー社製)。
【0120】
「合成例1 金の固体ゾルの調製」
100mMの塩化金酸水溶液10mlをビーカーにとり、アセトン90mlで希釈した後、高分子量顔料分散剤(ソルスパース24000、ゼネカ社製)を1g溶解させた。高分子量顔料分散剤が完全に溶解してから、ジメチルアミノエタノールを5ml加えて、鮮やかで濃厚な赤色の金コロイド溶液を得た。得られた金コロイド溶液を減圧下に加熱し、アセトンを除去した。上記高分子量顔料分散剤は、水に不溶性なので、アセトン量の減少に伴い、高分子量顔料分散剤に保護された金コロイドが析出・沈殿した。上澄みの水層をデカンテーションで除去し、更にイオン交換水で沈殿物を洗浄した後、完全に乾燥させて金の固体ゾルを得た。得られた固体ゾルは、金属光沢を示した。濃度は、高分子量顔料分散剤1kgあたり、1000mmolであった。
【0121】
「合成例2 金コロイド溶液の調製」
100mMの塩化金酸水溶液100mlをビーカーにとり、高分子量顔料分散剤(ディスパービック180、ビックケミー社製)を5g溶解させた。高分子量顔料分散剤が完全に溶解してから、ジメチルアミノエタノールを5ml加えて、鮮やかで濃厚な赤色の金コロイド溶液を得た。この金コロイド溶液は、3カ月以上貯蔵しても、色の変化や沈殿の生成がなく、極めて安定であった。(金含有量2%)
【0122】
「合成例3 銀の固体ゾルの調製」
塩化金酸の代わりに、硝酸銀を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、鮮やかで濃厚な黄色の銀コロイド溶液を得た。得られた銀コロイド溶液を用いたこと以外は、合成例1と同様にして、銀の固体ゾルを得た。得られた固体ゾルは、金属光沢を示した。濃度は、高分子量顔料分散剤1kgあたり、1000mmolであった。
【0123】
「合成例4 銅の固体ゾルの調製」
100mMの塩化銅(II)水溶液10mlをビーカーにとり、アセトン90mlで希釈した後、高分子量顔料分散剤(ソルスパース28000、ゼネカ社製)を1g溶解させた。高分子量顔料分散剤が完全に溶解してから、2Mの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を10ml加えて、鮮やかで濃厚な赤色の銅コロイドを得た。得られた銅コロイド溶液を減圧下に加熱し、アセトンを除去した。上記高分子量顔料分散剤は、水に不溶性なので、アセトン量の減少に伴い、高分子量顔料分散剤に保護された銅コロイドが析出・沈殿した。上澄みの水層をデカンテーションで除去し、更にイオン交換水で沈殿物を洗浄した後、完全に乾燥させて銅の固体ゾルを得た。得られた固体ゾルの濃度は、高分子量顔料分散剤1kgあたり、1000mmolであった。
【0124】
3.光輝性塗膜の形成及び評価
基材の被塗面に、上記光輝性塗料組成物を乾燥膜厚が15μmになるように塗装した。塗装は静電塗装機(Auto REA、ランズバーグゲマ社製)を用い、霧化圧2.8kg/cm2で行った。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後3分間セッティングし、必要により金コロイド、銀コロイドを表に示す割合で配合したクリヤー塗料を乾燥膜厚が35・mになるように塗装し、室温で10分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼付けした。得られた塗膜の深み感、耐候性(色トビ)及び測色を下記評価基準で評価した。結果を各表に示す。使用したクリヤー塗料は、(1)アクリル/メラミン樹脂系クリヤー塗料(商品名:スーパーラック0−130クリヤー、日本ペイント(株)製)、または、(2)カルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーのブレンドからなるクリヤー塗料(マックフロー0−520クリヤー、日本ペイント(株)製)の2種類である。
【0125】
「評価基準」
深み感、耐候性(色トビ)、測色について、以下の方法及び評価基準により判定した。
【0126】
<深み感>
目視により以下の基準で判定を行った。
◎:コロイド、染料を含まない基準板に比べて彩度アップによる深み感が顕著である。
○:コロイド、染料を含まない基準板に比べて彩度アップによる深み感がある。
△:コロイド、染料を含まない基準板に比べて彩度アップによる深み感がわずかにある。
×:コロイド、染料を含まない基準板に比べて彩度アップによる深み感がない。
【0127】
<耐候性(色トビ)>
サンシャインウエザーオメーター(スガ試験機製)にて800時間テスト後の変褪色を、テストを行っていない基準板と対比して以下の基準で判定を行った◎:色トビがない。
○:極めて僅かに色トビがある。
△:僅かに色トビがある。
×:色トビが顕著にある。
【0128】
<測色>
CIE(L*,a*,b*)表示系における色の測定を行った。変角測色計(スガ試験機、VC−1型)を用い、塗膜形成した測定材料に対し垂線から45度の角度で光源を照明し、その照明角度の正反射方向から光源側に120度の角度で受光した。これを明度−彩度のL*,a*,b*表示系により測色し、彩度(C*)の値を測定した。彩度は、C*={(a*)2+(b*21/2の計算式により求め評価した。
【0129】
「塗装系」
各表における塗装系は以下の3種類である。
I:ベースコート塗膜に、金コロイド、銀コロイド若しくは銅コロイド(実施例)、又は染料(比較例)を含有する塗装系(I)。
実施例においては、本発明の光輝製塗料組成物及び第一の光輝製塗膜形成方法により得られる塗装系である。
II:トップコート塗膜に、金コロイド、銀コロイド若しくは銅コロイド(実施例)、又は染料(比較例)を含有する塗装系(II)。
実施例においては、本発明の第二の光輝製塗膜形成方法により得られる塗装系である。
III:ベースコート塗膜及びトップコート塗膜に、金コロイド、銀コロイド若しくは銅コロイドを含有する塗装系(III)。
実施例においては、本発明の光輝製塗料組成物及び第三の光輝製塗膜形成方法により得られる塗装系である。





















【0130】
【表1】











【0131】
【表2】











【0132】
【表3】











【0133】
【表4】

【0134】
「表1」〜「表4」の結果から明らかなように、本発明によれば、優れた深み感、耐候性を有し、彩度が高く鮮やかなキャンディトーンを有する塗膜が得られる光輝性塗料組成物、光輝性塗膜形成方法及び該方法により塗装された光輝性塗装物を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝性顔料を含有するベースコート塗膜と、
当該ベースコートの上に形成された、貴金属又は銅のコロイド粒子がビヒクル中に分散されたクリヤー塗膜とからなる光輝性塗膜であって、
当該クリヤー塗膜は、当該貴金属又は銅のコロイド粒子を高分子量顔料分散剤を用いて分散して得た、体積平均粒径が5〜150nmの固体ゾル及び/又は平均粒径が5〜30nmのコロイド溶液を着色材としてビヒクル中に加えてなるものであり、
当該高分子量顔料分散剤は、顔料親和性基を主鎖及び/又は複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造の高分子であること
を特徴とする光輝性塗膜。
【請求項2】
前記櫛形構造の高分子は、顔料親和性基が1分子中に2〜3000個存在するものである請求項1記載の光輝性塗膜。
【請求項3】
前記櫛形構造の高分子は、溶媒和部分を構成する側鎖が1分子中に2〜1000存在するものである請求項1又は2記載の光輝性塗膜。
【請求項4】
前記櫛形構造の高分子は、数平均分子量が2000〜1000000である請求項1〜3のいずれか記載の光輝性塗膜。
【請求項5】
前記クリヤー塗膜中の前記貴金属又は銅のコロイド粒子の含有量が、塗膜固形分中のコロイドゾル固形分として、0.01〜5固形分重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の光輝性塗膜。
【請求項6】
前記クリヤー塗膜が、カルボキシル基含有ポリマー及びエポキシ基含有ポリマーを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の光輝性塗膜。
【請求項7】
被塗基材上に、請求項1〜6記載の光輝性塗膜が塗装されていることを特徴とする光輝性塗装物。

【公開番号】特開2008−212928(P2008−212928A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95936(P2008−95936)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【分割の表示】特願平10−57480の分割
【原出願日】平成10年2月23日(1998.2.23)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】