説明

光重合性化合物、光アミン発生剤、感光性樹脂組成物及び感光性フィルム

【課題】一液若しくはフィルム状態での安定性と、絶縁信頼性を得るのに十分な硬化性とを両立する硬化システムの実現を可能とする光重合性化合物及び光アミン発生剤、並びに、感光性樹脂組成物及び感光性フィルムを提供すること。
【解決手段】光重合性化合物は、式(1)または(2)で表される化合物である。


[式(1)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、nは、1〜5の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性化合物、光アミン発生剤、並びに、これを用いた感光性樹脂組成物、及び感光性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種電気および電子部品の小型化、軽量化、多機能化に伴い、それを構成する半導体素子、半導体パッケージ、プリント配線板、フレキシブル配線板等は高密度化・高精細化しており、微細な開口パターンを形成できる感光性のソルダーレジストや層間絶縁膜が要求されている。
【0003】
プリント配線板の回路を保護するソルダーレジストや層間絶縁膜には、一般的に、現像性、高解像性、絶縁性、耐熱性、めっき耐性等の特性が求められる。また、特に半導体パッケージ基板用のソルダーレジストに対しては、上記の特性に加え、例えば、−65〜150℃の温度サイクル試験(TCT)に対する耐クラック性や、微細配線間での、超加速高温高湿寿命試験(HAST)に対するHAST耐性が要求されている。
【0004】
一方、フォトビアにより多層配線を形成する場合、めっき銅との密着を向上させるため、表面粗化を行う。従って、上述した特性の他、層間絶縁膜に対しては表面粗化(デスミア)処理を行う際のデスミア耐性等も要求される。
【0005】
ソルダーレジストや層間絶縁膜は、原料となる感光性樹脂組成物を基板上に塗布するか、又は予め成形された感光性樹脂組成物層を基板上に積層し、露光後、現像し画像形成することによって作製される。
【0006】
これらの感光性樹脂組成物を高解像度化するためには、未露光部の現像液への溶解性を高めること、即ち、コントラストを向上させることが必要である。未露光部の溶解性を高めるためには、感光性樹脂組成物中のポリマーに親水性基を導入する方法がある。このような親水性基としてカルボキシル基を適用した場合、親水性の高さは酸価によって表され、高酸価の樹脂であるほど現像液への溶解性が高くなる。
【0007】
近年、環境問題への配慮から、現像液として希アルカリ水溶液を用いるアルカリ現像タイプが主流となってきている。このアルカリ現像を行うためには、有機溶剤添加系の現像液を用いる場合よりもさらにポリマーの酸価を高める必要がある。
【0008】
しかしながら、ソルダーレジストや層間絶縁膜の場合、感光性絶縁材料に含まれるポリマーが高酸価であるほど吸水率が高くなるため、高温高湿条件下での絶縁抵抗(HAST耐性)の低下や耐熱性(はんだ耐熱性、あるいは耐クラック性)の低下が起こりやすくなる。
【0009】
そこで、高温高湿耐性を確保するため、ノボラック型エポキシ樹脂と不飽和カルボン酸との反応物を用いた液状レジストインキ組成物が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
ところで、ソルダーレジストや層間絶縁膜に用いられる感光性樹脂組成物は通常液状のものが用いられている。カルボキシル基はエポキシ基と室温で反応しやすいため、液状の感光性樹脂組成物としては、硬化性のエポキシ樹脂と、アルカリ現像性を付与するためのカルボン酸基を含有する感光性プレポリマーとを別々に分けた2液型からなるものが一般的である。
【0011】
しかしながら、2液型の感光性樹脂組成物は、2液を混合した後の保存安定性(ポットライフ)が数時間から一日と短いため、使用直前に混合しなければならない等、使用条件に制限が生じる。
【0012】
一方、近年では、膜厚の均一性、表面平滑性、薄膜形成性、取り扱い性を良好にする観点から、ドライフィルムタイプのソルダーレジストや層間絶縁膜が注目されているが、上記2液型の感光性樹脂組成物を予め混合してドライフィルム化した場合、フィルムの保存安定性が悪く、フィルム状態での保管が困難であった。
【0013】
このような問題が生じ難い1液型の感光性樹脂組成物として、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂と不飽和一塩基酸との反応物に脂環族二塩基酸無水物とを反応して得られる光硬化樹脂、光重合開始剤、希釈剤及びビニルトリアジン系化合物等の熱硬化促進剤からなる1液型液状フォトソルダーレジストインキ組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0014】
また、ドライフィルムタイプのソルダーレジストとして、熱架橋剤にブロックイソシアネート又はメチロールメラミンを用いることで、従来の2液型の感光性樹脂組成物では達成困難であった保存安定性に優れ、アルカリ現像可能で耐薬品性、耐熱性等に優れた感光性樹脂組成物が開発されている(例えば、特許文献3、4参照)。また、下記特許文献5には、低反応性エポキシを用いた保存安定性の改善が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭61−243869号公報
【特許文献2】特開平4−281454号公報
【特許文献3】特開平6−295060号公報
【特許文献4】特開2005−316431号公報
【特許文献5】特開2009−185181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献3及び4に記載の熱架橋剤は、フィルム状態での安定性は良好なものの、熱反応が十分に進行せず、耐薬品性、耐熱性がエポキシ系熱架橋剤と比べて劣るという問題があった。また、低分子量成分の脱離を伴う熱架橋系であるため、反応が完全に進行しないと、ダイボンディングやワイヤボンディングなどの実装工程において、半導体チップの電極表面やプリント配線板のボンディングパッド表面をアウトガスによる有機物が汚染する問題がある。
【0017】
上記特許文献5に記載の低反応性エポキシは、従来のエポキシと比べて硬化反応が十分進行しないため、実用特性が十分でない問題がある。
【0018】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、一液若しくはフィルム状態での安定性と、絶縁信頼性を得るのに十分な硬化性とを両立する硬化システムの実現を可能とする光重合性化合物及び光アミン発生剤、並びに、感光性樹脂組成物及び感光性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために本発明は、下記一般式(1)または(2)で表される光重合性化合物を提供する。
【0020】
【化1】



式(1)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、nは、1〜5の整数を示す。
【0021】
【化2】



式(2)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、mは、1又は2を示す。
【0022】
本発明の光重合性化合物は、光照射により光分解し、対応するアミンを発生することができることから、アミンと反応可能な架橋剤を共存させることにより、硬化度を向上させることができる。本発明の光重合性化合物によれば、一液若しくはフィルム状態での安定性と、絶縁信頼性を得るのに十分な硬化性とを両立する硬化システムの実現が可能となる。
【0023】
本発明はまた、本発明の光重合性化合物を含む光アミン発生剤を提供する。
【0024】
本発明はまた、本発明の光アミン発生剤と、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物とを含む感光性樹脂組成物を提供する。
【0025】
本発明の感光性樹脂組成物によれば、上記エポキシ化合物と本発明の光アミン発生剤とを併用することにより一液若しくはフィルム状態での安定性を損なうことなく硬化度を更に上げることが可能となり、膜強度や破断伸びに優れた硬化物を形成することができる。このように、本発明の感光性樹脂組成物は、十分な安定性と優れた硬化性を両立する光硬化性樹脂組成物として機能することができる。
【0026】
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)カルボキシル基を有するポリマーと、(B)エチレン性不飽和基結合を有する光重合性化合物と、(C)光重合開始剤とを更に含むことができる。
【0027】
上記の感光性樹脂組成物によれば、解像性、絶縁性、耐熱性、めっき耐性、耐クラック性、HAST耐性、デスミア耐性等の諸特性に優れ、良好なソルダーレジストや層間絶縁膜を形成できる。
【0028】
かかる効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、上記一般式(1)または(2)で示されるオキシム化合物は、光照射により光分解し、対応するアミンを発生することができる。このとき、上記オキシム化合物からの分解成分は何れもラジカル架橋可能な(メタ)アクリル基を有するため、分解成分も架橋系に取り込まれることが可能となる。これにより、硬化物中に容易に脱離する成分を十分少なくすることができ、上記の諸特性を満たすことが可能になったものと本発明者らは考えている。特に、アミンと反応可能な架橋剤を共存させた場合、硬化度を更に上げることができ、諸特性を一層向上させることができる。
【0029】
本発明はまた、本発明の感光性樹脂組成物を、光照射及び加熱を同時に行って硬化させるまたは光照射した後に加熱を行って硬化させることにより、硬化物を得る硬化物の製造方法を提供する。
【0030】
本発明の硬化物の製造方法によれば、本発明の感光性樹脂組成物が安定性及び硬化性の双方に優れていることから、膜強度や破断伸びに優れた硬化物を容易に得ることが可能となる。
【0031】
本発明はまた、支持体と、該支持体上に形成された本発明の感光性樹脂組成物からなる感光層とを備える感光性フィルムを提供する。
【0032】
本発明の感光性フィルムによれば、本発明の感光性樹脂組成物からなる感光層を基板上に転写して、ソルダーレジストや層間絶縁膜などに好適な膜強度及び破断伸びに優れた硬化膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、一液若しくはフィルム状態での安定性と、絶縁信頼性を得るのに十分な硬化性とを両立する硬化システムの実現を可能とする光重合性化合物及び光アミン発生剤、並びに、感光性樹脂組成物及び感光性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の感光性フィルムの好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、場合により図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面において同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0036】
また、本発明において、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸を示し、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味し、(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
【0037】
本発明の光重合性化合物は、下記一般式(1)または(2)で表されるオキシム化合物からなるものである。
【0038】
【化3】



式(1)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、nは、1〜5の整数を示す。
【0039】
【化4】



式(2)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、mは、1又は2を示す。
【0040】
エチレン性不飽和結合を有する光重合性基としては、例えば、ビニル基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。また、これらの基は、必要に応じてEO、POなどのスペーサーを持たせた、EO変性又はPO変性されたものであってもよい。なお、「EO」とは「エチレンオキシド」のことをいい、「PO」とは「プロピレンオキシド」のことをいう。また、「EO変性」とはエチレンオキシドユニット(−CH−CH−O−)のブロック構造を有することを意味し、「PO変性」とはプロピレンオキシドユニット(−CH−CH−CH−O−、−CH(CH)CH−O−、−CH(CH)CH−O−)のブロック構造を有することを意味する。
【0041】
上記式(1)中のRが炭素数1〜20の有機基である場合の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。Rは、光反応性と熱安定性の観点から、水素原子、メチル基、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0042】
上記式(1)中のRとしては、炭素数1〜20の鎖状の有機基及び炭素数3〜20の環状の有機基が挙げられる。炭素数1〜20の鎖状の有機基の好ましい具体例としては、炭素数1〜20のアルキレン基が挙げられる。炭素数3〜20の環状の有機基の好ましい具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセニル基が挙げられる
【0043】
が炭素数1〜20の鎖状の有機基である場合、硬化物の強度と柔軟性のバランスの点で、nは1〜3が好ましく、1〜2がより好ましい。また、Rが炭素数3〜20の環状の有機基である場合、硬化物の強度と柔軟性のバランスの点で、nは1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0044】
本発明の光重合性化合物は、硬化物の強度と柔軟性のバランスの観点から、下記一般式(3)で表されるオキシム化合物が好ましい。
【0045】
【化5】



式(3)中、R、R及びRは上記と同義であり、nは1〜5の整数を示し、sは0〜4の整数を示し(ただし、n+sは5以下である)、sが1以上のとき、R10はアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基を示し、R10が複数ある場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
更に、合成の簡便さの観点から、下記一般式(4)で表されるオキシム化合物が好ましい。
【0047】
【化6】



式(4)中、R、R及びRは上記と同義である。
【0048】
上記式(2)中のRとしては、炭素数1〜20のアルキレン基、フェニレン基及びナフチレン基が挙げられる。これらのうち、フェニレン基、ナフチレン基が熱安定性、光反応性の点で好ましい。
【0049】
上記式(2)中のRとしては、炭素数1〜20の炭化水素基が挙げられる。具体的には、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0050】
上記一般式(2)で表される化合物のうち、熱安定性と光反応性の点で、テトランロン環構造を有する化合物が好ましい。このような化合物として、例えば、下記一般式(5)で示される化合物が挙げられる。
【0051】
【化7】



式(5)中、R及びRは上記と同義であり、tは0〜3の整数を示し、tが1以上のときR12はアルキル基、アルコキシ基又はアルキルアミノ基を示し、R12が複数ある場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
上記一般式(1)又は(2)で表されるオキシム化合物は、例えば、対応するオキシム化合物とカルボン酸クロリドあるいはカルボン酸無水物との反応で合成することにより製造することができる。
【0053】
本発明の光重合性化合物は光アミン発生剤として用いることができる。この場合、本発明の光重合性化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の光アミン発生剤と、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物と、を含む。
【0055】
本発明で用いる分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型とエピクロルヒドリンを反応させて得られるビスフェノール型エポキシ化合物が適しており、チバ・ガイギ社製GY−260、255、XB−2615等のビスフェノールA型、ビスフェノールF型、水添ビスフェノールA型、アミノ基含有、脂環式あるいはポリブタジエン変性等のエポキシ化合物が好適に用いられる。また、フェノール、クレゾール、ハロゲン化フェノール及びアルキルフェノール類とホルムアルデヒドとを酸性触媒下で反応して得られるノボラック類と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるノボラック型エポキシ化合物も適している。このようなノボラック型エポキシ化合物としては、例えば、東都化成社製YDCN−701、704、YDPN−638、602、ダウ・ケミカル社製DEN−431、439、チバ・ガイギ社製EPN−1299、大日本インキ化学工業社製N−730、770、865、665、673、VH−4150、4240、日本化薬社製EOCN−120、BREN等が挙げられる。
【0056】
また、ビスフェノール型、ノボラック型エポキシ化合物以外にも、例えば、サリチルアルデヒド−フェノールあるいはクレゾール型エポキシ化合物(日本化薬社製EPPN502H、FAE2500等)が好適に用いられる。また、例えば、ジャパンエポキシレジン社製エピコート828、1007、807、大日本インキ化学工業社製エピクロン840、860、3050、ダウ・ケミカル社製DER−330、337、361、ダイセル化学工業社製セロキサイド2021、三菱ガス化学社製TETRAD−X、C、日本曹達社製EPB−13、27等が使用できる。これらの混合物あるいはブロック共重合物も使用できる。
【0057】
本発明の感光性樹脂組成物における、本発明の光アミン発生剤と、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物との含有割合は、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物100質量部に対して、光アミン発生剤が1〜50質量部の範囲が好ましい。上記の範囲を満たす場合、強度の高い硬化物を調製することができる。
【0058】
本発明の感光性樹脂組成物は、必要に応じて(A)カルボキシル基含有ポリマーを含有することができる。カルボキシル基含有ポリマーとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン、ビニル基含有エポキシ樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリカーボネート、メラミン樹脂、ポリフェニレンスルフィド、及びポリオキシベンゾイル等の公知の樹脂やその酸変性樹脂であって、分子内にカルボキシル基を有するものが挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
本発明の感光性樹脂組成物は、必要に応じて(B)エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物を含有することができる。上記光重合性化合物は、分子内に1つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物であればよく、例えば、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物、多価アルコールにα、β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、グリシジル基含有化合物にα、β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物、分子内にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物等のウレタンモノマー又はウレタンオリゴマー等が挙げられる。また、これら以外にも、ノニルフェノキシポリオキシエチレンアクリレート、γ−クロロ−β−ヒドロキシプロピル−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチル−o−フタレート、β−ヒドロキシアルキル−β’−(メタ)アクリロイルオキシアルキル−o−フタレート等のフタル酸系化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及びEO変性ノニルフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
【0060】
アルカリ現像性を良好にする観点から、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましい。ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリプロポキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリブトキシ)フェニル)プロパン、及び2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシポリプロポキシ)フェニル)プロパン等が挙げられる。
【0061】
上記光重合性化合物は、感度及び解像性を向上させる観点から、ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物を含むことが好ましく、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパンを含むことがより好ましい。
【0062】
2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシポリエトキシ)フェニル)プロパンとしては、例えば、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシジエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシトリエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシテトラエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシペンタエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシヘキサエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシヘプタエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシオクタエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシノナエトキシ)フェニル)プロパン、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシデカエトキシ)フェニル)、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシウンデカエトキシ)フェニル)、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシドデカエトキシ)フェニル)、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシトリデカエトキシ)フェニル)、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシテトラデカエトキシ)フェニル)、2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシペンタデカエトキシ)フェニル)、及び2、2−ビス(4−((メタ)アクリロキシヘキサデカエトキシ)フェニル)等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
上記化合物のうち、2、2−ビス(4−(メタクリロキシペンタエトキシ)フェニル)プロパンは、FA−321M(日立化成工業(株)製、商品名)又はBPE−500(新中村化学工業(株)製、商品名)として商業的に入手可能であり、2、2−ビス(4−(メタクリロキシペンタデカエトキシ)フェニル)は、BPE−1300(新中村化学工業株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0064】
本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて(C)光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤としては、露光する際の光源の波長にあわせたものを用いればよく、公知のものを使用することができる。例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4、4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、4、4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−メトキシ−4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−エチルアントラキノン、フェナントレンキノン等の芳香族ケトン、アルキルアントラキノン等のキノン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン、ベンジルジメチルケタール等のベンジル誘導体、9−フェニルアクリジン、1、7−ビス(9、9’−アクリジニル)ヘプタン等のアクリジン誘導体、N−フェニルグリシン、N−フェニルグリシン誘導体、クマリン系化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
本発明の感光性樹脂組成物が上記(A)〜(C)成分を更に含有する場合、(A)成分の含有量は、現像性とフィルム形成性の観点の点から、感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して30〜90質量部が好ましく、40〜80質量部がより好ましく、50〜70質量部が更により好ましい。また、(B)成分の含有量は、フィルム形成性の点から、感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して10〜70質量部が好ましく、20〜60質量部がより好ましく、30〜50質量部が更により好ましい。(C)成分の含有量は、光感度の観点から、感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して0.1〜10質量部とすることが好ましく、0.5〜8質量部とすることがより好ましく、1〜5質量部とすることが更により好ましい。
【0066】
また、本発明の感光性樹脂組成物が上記(A)〜(C)成分を更に含有する場合、(D)本発明の光アミン発生剤及び(E)分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物の含有量は、(D)成分が感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して1〜30質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましく、3〜15質量部が更により好ましく、(E)成分が感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して2〜60質量部が好ましく、4〜40質量部がより好ましく、6〜30質量部が更により好ましい。
【0067】
本発明の感光性樹脂組成物は熱重合開始剤を更に含有することができる。熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、ターシャリーブチルパーオキサイド等のアルキルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類等が挙げられる。熱重合開始剤の含有量は、硬化膜の絶縁性、耐熱性、めっき耐性、耐クラック性等の諸特性を向上させる観点から、感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜8質量部であることがより好ましく、0.5〜5質量部であることが更により好ましい。
【0068】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、硬化膜の絶縁性、耐熱性、めっき耐性、耐クラック性等の諸特性を向上させる目的でフィラーを更に添加してもよい。
【0069】
フィラーとしては、例えば、シリカ、溶融シリカ、タルク、アルミナ、水和アルミナ、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、エーロジル、炭酸カルシウム等の無機微粒子、粉末状エポキシ樹脂、粉末状ポリイミド粒子等の有機微粒子、粉末状テフロン(登録商標)粒子等が挙げられる。これらのフィラーには予めカップリング処理が施されていてもよい。上記のフィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
感光性樹脂組成物中にフィラーの分散させる方法としては、例えば、ニーダー、ボールミル、ビーズミル、3本ロール等公知の混練方法が挙げられる。
【0071】
本発明の感光性樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は、硬化膜の絶縁性、耐熱性、めっき耐性、耐クラック性等の諸特性を向上させる観点から、感光性樹脂組成物中の全固形分総量100質量部に対して、2〜20質量部であることが好ましく、3〜18質量部であることがより好ましく、5〜15質量部であることがさらに好ましい。
【0072】
また、本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて、マラカイトグリーン等の染料、ロイコクリスタルバイオレット等の光発色剤、熱発色防止剤若しくはp−トルエンスルホンアミド等の可塑剤、フタロシアニンブルー等のフタロシアニン系、アゾ系等の有機顔料若しくは二酸化チタン等の無機顔料、分散剤、消泡剤、安定剤、密着性付与剤、難燃剤、レベリング剤、酸化防止剤、香料又はイメージング剤などを含有させることができる。これらの成分は、感光性樹脂組成物の固形分総量100質量部を基準として、各々0.01〜20質量部程度含有させることが好ましい。また上記の成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
さらに、本発明の感光性樹脂組成物は、必要に応じて、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、キシレン、トルエン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチルエトキシプロピオネート等の溶剤又はこれらの混合溶剤に溶解し、不揮発分30〜70質量%程度の溶液として塗布することができる。
【0074】
また、感光性樹脂組成物は、硬化膜の耐熱性及び高温高湿耐性等の諸特性を向上させる観点から、後述する露光工程及び/又は後加熱工程による硬化後のガラス転移温度が、90℃以上であることが好ましく、100〜180℃であることがより好ましく、100〜150℃であることが更に好ましい。
【0075】
以上説明したような本発明の感光性樹脂組成物は、銅、銅系合金、鉄、鉄系合金等の金属面上に、液状レジストとして塗布してから乾燥後、必要に応じて保護フィルムを被覆して用いるか、後述する感光性フィルムの形態で用いることができる。
【0076】
次に、上述した本発明の感光性樹脂組成物を用いた感光性フィルムについて説明する。
【0077】
図1は、本発明の感光性フィルムの好適な一実施形態を示す模式断面図である。図1に示した感光性フィルム1は、支持体10と、支持体10上に設けられた感光層20と、感光層20上の支持体10とは反対側の面を被覆する保護フィルム30とで構成される。感光層20は、上述した本発明の感光性樹脂組成物からなる層である。感光性フィルム1は、保護フィルム30を省くこともできる。
【0078】
感光層20は、本発明の感光性樹脂組成物を上記溶剤又は混合溶剤に溶解して固形分30〜70質量%程度の溶液とした後に、かかる溶液を支持体10上に塗布して形成することが好ましい。
【0079】
感光層20の厚みは、用途により異なるが、製造の容易性と、感度及び解像性とをバランスよく向上させる観点から、加熱及び/又は熱風吹き付けにより溶剤を除去した乾燥後の厚みで、1〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0080】
感光性フィルム1が備える支持体10としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等の耐熱性及び耐溶剤性を有する重合体フィルムなどが挙げられる。
【0081】
支持体10の厚みは、5〜100μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。この厚みが5μm以上とすることで現像前に支持体を剥離する際に当該支持体が破れにくくなる傾向があり、また、100μm以下とすることで解像度及び可撓性がより良好となる傾向がある。
【0082】
上述したような支持体10と感光性樹脂組成物層20と保護フィルム30との3層からなる感光性フィルム1、又は、支持体10と感光層20との2層からなる感光性フィルムは、例えば、そのまま貯蔵してもよく、又は保護フィルム30を介在させた上で巻芯にロール状に巻き取って保管することができる。
【0083】
本発明に係るレジストパターンの形成方法の一実施形態は、基板上に本発明の感光性樹脂組成物の溶液を直接塗布するか、又は、上述した感光性フィルムから必要に応じて保護フィルムを除去し、該感光性フィルムを感光層、支持体の順に基板上に積層する積層工程と、必要に応じて支持体を通して、感光層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化する露光工程と、基板から感光層の露光部以外の部分を除去する現像工程と、を含むものである。
【0084】
本実施形態において、感光性樹脂組成物または感光層を構成する感光性樹脂組成物は、上述した(A)〜(C)成分を更に含むものを用いることができる。
【0085】
また、本実施形態においては、必要に応じて感光層の露光部をさらに熱硬化する後加熱工程を含むことが好ましい。
【0086】
本実施形態における上記基板とは、絶縁層と、絶縁層上に形成された導電体層(銅、銅系合金、ニッケル、クロム、鉄、ステンレス等の鉄系合金、好ましくは銅、銅系合金、鉄系合金からなる)とを備えた基板をいう。
【0087】
上記積層工程における積層方法としては、感光性樹脂組成物の溶液を公知の方法により塗布する方法、感光性フィルムの感光層を加熱しながら基板に圧着することにより積層する方法等が挙げられる。積層される表面は、通常、基板の導電体層の面であるが、当該導電体層以外の面であってもよい。
【0088】
密着性及び追従性等の見地から、感光性フィルムを積層する際の感光層の加熱温度は50〜130℃とすることが好ましく、圧着圧力は0.1〜1.0MPa程度とすることが好ましく、周囲の気圧は4000Pa以下とすることがより好ましいが、これらの条件には特に制限はない。また、感光層を上記のように50〜130℃に加熱すれば、予め基板を予熱処理することは必要ではないが、積層性をさらに向上させるために、基板の予熱処理を行うこともできる。
【0089】
このようにして積層が完了した後、露光工程において感光層の所定部分に活性光線を照射して露光部を光硬化せしめる。光硬化部の形成方法としては、アートワークと呼ばれるネガ又はポジマスクパターンを通して活性光線を画像状に照射する方法が挙げられる。また、LDI方式、DLP(Digital Light Processing)露光法等のマスクパターンを有さない直接描画法による露光も可能である。この際、感光性層上に存在する支持体が透明の場合には、そのまま活性光線を照射することができるが、不透明の場合には、支持体を除去した後に感光層に活性光線を照射する。
【0090】
活性光線の光源としては、公知の光源、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、YAGレーザー、半導体レーザー等の紫外線を有効に放射するものを用いることができる。また、写真用フラッド電球、太陽ランプ等の可視光を有効に放射するものを用いることもできる。
【0091】
次いで、露光後、感光層上に支持体が存在している場合には、支持体を除去した後、現像工程において、ウエット現像、ドライ現像等で光硬化部以外の感光層を除去して現像し、レジストパターンを形成させる。
【0092】
ウエット現像の場合は、アルカリ性水溶液等の現像液を用いて、例えば、スプレー、揺動浸漬、ブラッシング、スクラッピング等の公知の方法により現像する。現像液としては、安全かつ安定であり、操作性が良好なものが用いられ、例えば、20〜50℃の炭酸ナトリウムの希薄溶液(1〜5質量%水溶液)等が用いられる。
【0093】
上述の形成方法により得られたレジストパターンは、例えば、プリント配線板のソルダーレジストや層間絶縁膜として用いる場合は、上記現像工程終了後、耐熱性、耐薬品性、高温高湿耐性等の諸特性を向上させる目的で、高圧水銀ランプによる紫外線照射やオーブンによる加熱を行うことが好ましい。
【0094】
紫外線を照射させる場合は必要に応じてその照射量を調整することができ、例えば0.2〜10J/cm程度の照射量で照射を行うこともできる。また加熱する場合は、100〜170℃程度の範囲で15〜90分程行われることが好ましい。さらに紫外線照射と加熱とを両方実施してもよく、いずれか一方を実施した後、他方を実施することもできる。
【0095】
また、上述の形成方法により得られたレジストパターンを層間絶縁膜として用いる場合には、後述するめっき処理においてめっき銅の密着を向上させる目的で、表面粗化(デスミア)処理を行うことが好ましい。粗化は、表面に微細な凹凸形状が形成されるよう機械的又は化学的手段により行われる。微細形状の形成により、層間絶縁膜の上に形成されるめっき銅の密着性を向上することができる。
【0096】
粗化は、バフ研磨、ベルトサンダー研磨、サンドブラスト、液体ホーニング等の機械的な研磨、クロム酸や過マンガン酸等による化学粗化、及びこれらの併用が可能である。
【0097】
粗化を行った後は無電解めっきを行う際の析出核となるめっき触媒を表面に担持させる。めっき触媒としては、パラジウム等の金属コロイドを各種分散媒体に分散させた各種の処理液が公知であり、この処理液に清浄化のための前処理を行った基材を浸漬させることでめっき触媒の担持が達成される。
【0098】
触媒を担持させた後は無電解めっきを行うが通常の無電解めっき処理条件がそのまま適用される。
【0099】
無電解めっき後の基板は必要に応じて熱処理(ベーキング)を行うことができる。ベーキングを行うことで無電解めっきと層間絶縁膜の密着性が高まり、ピール強度を高めることができる。
【0100】
本実施形態においては層間絶縁膜上に回路を形成することができる。回路を形成する方法としては、パネルめっき法、セミアディティブ法など通常の回路形成プロセスがそのまま適用される。
【0101】
電気めっきでパターンを形成する場合、必要に応じて熱処理(アフターキュア)を行うことができる。これにより電気めっきと層間絶縁膜の密着性が高まり、ピール強度を高めることができる。
【0102】
また、上述の形成方法により得られたレジストパターンはプリント配線板上に形成されるソルダ−レジスト又は多層配線板の層間絶縁膜として使用されると好ましい。本発明の感光性樹脂組成物から形成される硬化膜は、優れた絶縁性、耐熱性、めっき耐性、耐クラック性、HAST耐性及びデスミア耐性を有するため、プリント配線板のソルダーレジスト又は層間絶縁膜として有効である。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
[合成例1:(6−アクリロイルオキシ)−1−テトラロン=0−アクリロイルオキシム(d1)の合成]
<6−ヒドロキシ−1−テトラロンオキシムの合成>
ナスフラスコ中に、塩酸ヒドロキシアミン(7.15g、1.03×10−1mol)、酢酸ナトリウム(14.3g、1.75×10−1mol)、6−ヒドロキシル−1−テトラロン(5.00g、3.08×10−2mmol)、及びイオン交換水35mlを入れ、撹拌しながら1時間還流した。反応溶液がpH6付近であることをpH試験紙によって確認した後、ジエルエーテルで抽出を行った。この抽出液に硫酸マグネシウムと活性炭を入れ、2時間撹拌した後、濾別を行い、溶媒を留去することにより生成物を得た。得られた生成物を再結晶(溶媒:トルエン)により精製して、目的物である下記式で表される化合物の白色結晶を得た。収量は3.25g(収率:60%)であった。得られた結晶の分析結果を以下に示す。
【0105】
融点:168.5〜172.0℃。
IR(KBr):3346cm−1(−OH)、1614cm−1(C=N)。
H−NMR(300MHz、DMSO−d):δ10.67(s、1H、Ha)、9.52(s、1H、Hh)、7.65(d、1H、Hc)、6.58(d、1H、Hb)、6.52(s、1H、Hd)、2.58(m、4H、Hg、He)、1.69(m、2H、Hf)。
13C−NMR(300MHz、DMSO−d):δ157.7、152.3、140.5、124.9、122.3、114.3、114.0、29.3、23.4、21.2。
元素分析装置(Yanaco MT−3 CHN Corder)による元素分析:C1011N(177.08):Calcd% C:67.78、H:6.26、N:7.90、Found% C:68.24、H:6.11、N:7.44。
【0106】
【化8】



【0107】
<(6−アクリロイルオキシ)−1−テトラロン=O−アクリロイルオキシム(ATAO)の合成>
四つ口フラスコに、上記で得られた6−ヒドロキシ−1−テトラロンオキシム3.25g(18.28mmol)、トリエチルアミン3.71g(36.56mmol)、及び脱水クロロホルム100mlを入れた。一方で、滴下ろうとに、アクリル酸クロリド3.88g(36.56mmol)、脱水クロロホルム30mlを入れた。氷浴中で溶液が−5℃以下になるように保ち、撹拌しながらアクリル酸クロリドを3時間かけて滴下した。滴下終了後、室温に戻し、6時間反応させた。反応溶液を、1.2N HCl/sat.NaCl水溶液/sat.NaHCO水溶液/sat.NaCl水溶液の順に分液処理を行った後、クロロホルム層に硫酸ナトリウムを入れ、1晩乾燥させた。濾別を行った後、濾液から溶媒を留去し、シリカゲルカラム(溶媒:クロロホルム)で粗精製を行った。その後、再結晶(クロロホルム:n−ヘキサン1:4)によって精製し、目的物である下記式で表される化合物(d1)の白色固体を得た。収量は3.94g(収率:75%)であった。得られた結晶の分析結果を以下に示す。
【0108】
融点:113.7〜115.2℃。
熱分解開始温度(Td):171℃。
IR(KBr):1748cm−1(C=O)、1144cm−1(C−O−C)。
H−NMR(300MHz、CDCl):δ8.25(d、1H、He)、7.04(d、1H、Hd)、7.00(s、1H、Hf)、6.62(d、1H、Hb)、6.58(d、1H、Hk)、6.31(dd、J=10.5、17.3Hz、1H、Hc)、6.30(dd、J=10.5、17.3Hz、1H、Hj)、6.03(d、1H、Ha)、5.95(d、1H、Hl)、2.91(t、2H、Hi)、2.81(t、2H、Hg)、1.92(m、2H、Hh)。
13C−NMR(300MHz、CDCl):δ164.1、163.6、161.3、152.3、142.5、132.9、131.8、127.6、127.3、126.66、126.0、121.3、120.0、29.5、25.4、21.1。
元素分析装置(Yanaco MT−3 CHN Corder)による元素分析:C1011N(177.08):Calcd% C:67.36、H:5.30、N:4.91、Found% C:67.56、H:5.03、N:4.83。
【0109】
【化9】



【0110】
[合成例2:(アクリロイルオキシ)アセトフェノン=O−アクリロイルオキシム(d2)の合成]
<p−ヒドロキシアセトフェノンオキシムの合成>
p−ヒドロキシアセトフェノン30.1g(0.221mol)、塩化ヒドロキシアンモニウム51.4g(0.74mol)、及び酢酸ナトリウム102.5g(1.25mol)に、水260mlを加え、水溶液とした。その後、水溶液を油浴中で75分間、120℃で還流しながら撹拌した。反応後の液体を溶媒抽出、再結晶の操作の後、白色固体4−ヒドロキシアセトフェノンオキシム27.28g(200mmol)を得た。収率は81.6%、融点は144.0℃〜146.0℃であった。
【0111】
<(アクリロイルオキシ)アセトフェノン=O−アクリロイルオキシムの合成>
500mlの四つ口フラスコ及び100mlの滴下漏斗を組み立て、合成前にヒートガンで一旦加熱し、ガラス器具内部の水分を取り除いた。上記で得られたp−ヒドロキシアセトフェノンオキシム15.1g(100mmol)、トリエチルアミン(TEA)33ml(240mmol)、クロロホルム(脱水、アミレン入り)約250ml、重合禁止剤(2、6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)0.65gを500mlの四つ口フラスコに入れた。塩化アクリロイル16.3ml(200mmol)を100mlの滴下漏斗に入れた後、これをクロロホルム約50mlで希釈した。氷浴中で溶液が−5℃となるように保ちながら、3時間かけて滴下した。その後、氷浴を取り除き、常温に戻した。生成物を含んだクロロホルム層を1.2N HCl(50ml)で3回抽出、飽和NaHCO水溶液(50ml)で3回抽出、飽和NaCl水溶液(50ml)で1回抽出した。有機層にNaSOを加えて暗所で一晩乾燥させた。次に有機層を減圧濾過してNaSOを取り除いた後、エバポレーター、ダイヤフラムで、溶媒であるクロロホルムを留去した。後には、粘調な茶褐色の液体が31.9g残った。これを−25℃で3日間放置して固体化した。この固体から、カラムクロマトグラフィーによる精製、メタノールによる再結晶を経て、目的物である下記式で表される化合物(d2)の白色粉末を6.34g(24.5mmol)回収した。この他にも、約4gのやや黄味を帯びた未精製の固体を回収した。収率は26%であった。
【0112】
融点:69.5〜70.0℃。
IR(KBr)1735、1745cm−1(C=O)、1600、1635cm−1(C=C)。
H−NMR(CDCl):δ 7.81〜7.84(2H、d、Ha)、7.19〜7.26(2H、m、Hb)、6.56〜6.66(2H、m、Hd)、6.27〜6.38(2H、m、He)、5.95〜6.06(2H、m、Hf)、2.42(3H、s、Hg)。
13C−NMR(CDCl):δ 164.10、163.55、162.30、152.40、133.01、132.40、132.07、128.35、127.62、126.50、121.73、14.40。
元素分析装置(Yanaco MT−3 CHN Corder)による元素分析:C1413NO(259.26):Calcd% C:64.86、H:5.05、N:5.40、Found% C:64.64、H:4.50、N:5.14。
【0113】
【化10】



【0114】
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
<感光性樹脂組成物の調製>
表1に示す材料を、表1及び表2に示す配合量で混合し、感光性樹脂組成物の溶液を作製した。
【0115】
【表1】



【0116】
【表2】



【0117】
<感光性フィルムの作製>
次に、上記で得られた感光性樹脂組成物の溶液を、支持体である16μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人社製、商品名「HTF01」)上に均一に塗布した。次いで、95℃の熱風対流式乾燥機で10分間乾燥することにより、支持体上に感光層を形成した。感光層の乾燥後の膜厚は30μmであった。
【0118】
続いて、感光層の支持体と接している側と反対側の表面上に、25μm厚のポリエチレンフィルム(タマポリ(株)製、商品名「T−5N」)を保護フィルムとして貼り合わせ、感光性フィルムを得た。
【0119】
<配線基板の作製>
上記と同様にして得られた感光性フィルムを用い、下記の手順にしたがってレジストパターンを形成した配線基板を作製した。
【0120】
ガラス布基材エポキシ樹脂両面銅張積層板(銅箔の厚さ18μm、両面に銅箔層を有する日立化成工業株式会社製、商品名「MCL−E−679FG」)の銅表面を、#600相当のブラシを持つ研磨機(三啓(株)製)を用いて研磨し、水洗後、空気流で乾燥した。得られた銅張り積層板の銅表面上に、感光性フィルムのポリエチレンフィルムを剥し、プレス式真空ラミネータ(名機製作所製、商品名MVLP−500)を用いて、上板温度50℃、下板温度50℃、真空度5hPa以下、プレス時間30秒で熱圧着した。こうして、基板上に感光層、支持体がこの順に積層された評価基板を作製した。
【0121】
ラミネート後の評価基板を常温(25℃)で1時間静置した後、高圧水銀灯ランプを有する露光機(オーク(株)製)EXM―1201を用いて所定の露光量で、支持体を介して露光した。
【0122】
露光した評価基板を室温で10分間放置した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを除去し、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で60秒間スプレー現像して未露光部の感光層を除去した。
【0123】
スプレー現像後、(株)オーク製作所製紫外線照射装置を使用して1J/cmの紫外線照射を行い、さらに160℃で60分間加熱処理を行い、レジストパターンを形成した配線基板を得た。
【0124】
<感光性フィルムの評価>
上記と同様にして得られた評価基板を用い、感光性フィルムについて、下記評価方法にしたがって、感度、解像性、保管安定性を評価した。また、感光性フィルムから得られた硬化物について、下記評価方法にしたがって、膜強度、破断伸び及び弾性率を評価した。
【0125】
[感度]
感度は、イーストマンコダック(株)製、21段ステップタブレットにて8/21段を得るために必要な露光エネルギー量(mJ/cm)として評価した。
【0126】
[解像性]
ステップタブレットの8/21段の露光エネルギー量で得られたレジストパターンを光学顕微鏡により観察し、未露光部が完全に除去できた開口パターンのビア径(直径)(μm)から解像性(μm)を評価した。
【0127】
[膜強度、破断伸び、弾性率]
PETフィルムをラミネートした基板に、感光性フィルムを上記と同様の条件でラミネートして評価基板を得た。この評価基板を、常温(25℃)で1時間静置した後、高圧水銀灯ランプを有する露光機(オーク(株)製)EXM―1201を用いて100mJ/cmの露光量で、支持体を介して露光した。次に、露光した評価基板を室温で10分間放置した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを除去し、30℃の1質量%炭酸ナトリウム水溶液で60秒間スプレー現像して未露光部の感光層を除去した。スプレー現像後、(株)オーク製作所製紫外線照射装置を使用して1J/cmの紫外線照射を行い、さらに160℃で60分間加熱処理を行うことにより、硬化物を得た。この硬化物を長さ70mm、幅10mmに切り出し、島津製作所(株)製オートグラフAGS−100NHを用いて、チャック間距離50mm、引張り速度20mm/分、室温の条件で初期弾性率、破断伸び、破断強度を測定した(n=5)。
【0128】
[感光性フィルムの保管安定性]
感光性フィルムを50℃、暗所に保管し、経時で現像時間を調べた。72時間後の現像時間がフィルム作製直後の現像時間と比較して30%未満であったものを使用可「A」、30%以上長くなったものを使用不可「C」とし、フィルムの保管安定性を評価した。
【0129】
<配線基板の評価>
上述した方法により得られたレジストパターンを形成した配線基板に、表3の条件で表面粗化(デスミア)、無電解銅めっき、電解銅めっきを施し、多層配線板を得たときの、デスミア耐性及びめっき耐性について評価した。
【0130】
【表3】



【0131】
[デスミア耐性]
表3の粗化条件で基板を粗化した後に硬化膜の浮き膨れ、剥れを目視により観察し、デスミア耐性を以下の評価基準で判定した。
A:浮き、膨れ及び剥れが発生しないもの
C:浮き、膨れ及び剥れが発生したもの
【0132】
[めっき耐性]
表3のめっき条件でレジストパターン上に無電解銅めっきを施した後に硬化膜の浮き膨れ、剥れを目視により観察し、めっき耐性を以下の評価基準で判定した。
A:浮き、膨れ及び剥れが発生しないもの
C:浮き、膨れ及び剥れが発生したもの
【0133】
【表4】



【0134】
表4から明らかなように、本発明に係る光アミン発生剤と、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物と、(A)〜(C)成分とが含まれる感光性樹脂組成物を用いて得られた実施例1〜2の感光性フィルムは、フィルム状態での保管安定性に優れ、なおかつ、膜強度、破断伸びに優れた硬化物を形成することができることが確認された。また、実施例1〜2の感光性フィルムは、良好な感度及び解像性を示し、形成されたレジストパターンがデスミア耐性、めっき耐性といった諸特性にも優れることが分かった。
【符号の説明】
【0135】
1…感光性フィルム、10…支持体、20…感光層、30…保護フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)または(2)で表される光重合性化合物。
【化1】



[式(1)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、水素原子又は炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、nは、1〜5の整数を示す。]
【化2】



[式(2)中、R及びRは、エチレン性不飽和結合を有する光重合性基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、Rは、炭素数1〜20の有機基を示し、mは、1又は2を示す。]
【請求項2】
請求項1に記載の光重合性化合物を含む、光アミン発生剤。
【請求項3】
請求項2に記載の光アミン発生剤と、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物と、を含む、感光性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)カルボキシル基を有するポリマーと、(B)エチレン性不飽和基結合を有する光重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、を更に含む、請求項3に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の感光性樹脂組成物を、光照射及び加熱を同時に行って硬化させるまたは光照射した後に加熱を行って硬化させることにより、硬化物を得る、硬化物の製造方法
【請求項6】
支持体と、該支持体上に形成された請求項3又は4に記載の感光性樹脂組成物からなる感光層と、を備える、感光性フィルム。


【図1】
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【公開番号】特開2012−36117(P2012−36117A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176559(P2010−176559)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】