説明

光電変換用酸化物半導体電極、その作製方法及びこれを備えた色素増感太陽電池

【課題】樹脂材料のような耐熱温度の低い材料を基板として用いても、酸化物半導体層と導電性基板との間の密着強度が十分にあり、該酸化物半導体層につき高い耐剥離性を有する光電変換用酸化物半導体電極の提供。
【解決手段】導電性表面を有する基板と、該導電性表面上に形成された酸化物半導体層とを有する光電変換用酸化物半導体電極であって、前記導電性表面と前記酸化物半導体層との間に、硬化樹脂層が散在して形成されていることを特徴とする光電変換用酸化物半導体電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に好適な光電変換用酸化物半導体電極およびこれを作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年、グレッツェルらによるアモルファスシリコン太陽電池に匹敵する性能を有する色素増感型太陽電池が報告されて以来、光電変換効率のより高い色素増感型太陽電池の研究が活発になされている。
【0003】
かかる色素増感太陽電池に好適に使用される光電変換用の酸化物半導体電極としては、一般的にはガラス基板上に酸化物半導体ペーストを塗布後、400℃以上といった高温で焼成することによって、酸化物半導体膜を形成するのが通常であった。しかし、かかる高温焼成では、耐熱温度の関係で基板として樹脂を用いることができないため用途が限定されるという問題、あるいは高温が必要であることからエネルギー消費の面でも好ましくないものであることが指摘されてきた(たとえば特許文献1参照)。他方、低温焼成では、酸化物半導体層と導電性基板表面との結合性が不十分となる傾向があり、特にフレキシブルな樹脂フィルムを基板として使用した場合、酸化物半導体層の剥離が生じやすいという問題があった(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
そこで、樹脂等の材料を基板として用いることのできる低温焼成の可能な作製方法が種々、検討されてきた。
【0005】
たとえば、特許文献1では、光導電性を発現するフタロシアニン等の有機金属錯体、トリフェニルアミン等の低分子型有機導電性物質、ポリピロール等の高分子型有機導電性物質といった、有機導電性物質からなる有機薄膜を接合プロモート膜として用い、基板の導電性表面と酸化物半導体膜との間に介在させることで接合性を向上させることができたと報告している。該特許文献1の実施例では焼成温度として180〜200℃程度の比較的低い温度を採用している。
【0006】
また、特許文献2では、酸化物半導体微粒子を分散させた結着剤(ヒドロキシエチルセルロース等)を含むペーストを、常温より高い温度(30℃以上で、好ましくは50℃以上120℃以下の低温)においてプレス工程にかけることで、電極基板に対する密着性、柔軟性の向上、光電変換効率の向上に有効であったと報告している。また、この特許文献2では、プラスチック基板上に酸化物半導体層を形成した場合でも、該プラスチック基板を湾曲させても、クラックや剥離が起こらず、耐久性に優れていると報告している。
【0007】
また、特許文献3では、酸化物半導体微粒子とバインダー樹脂とを含有する分散液を塗布・焼成後、該バインダー樹脂を紫外線照射、煮沸処理、プラズマ処理等の処理により脱脂することで酸化物半導体層を形成する工程を採用すれば、基板と酸化物半導体層との間の密着性を確保しつつも、焼成工程において150℃以下の低温で焼成可能であると報告している。
【0008】
また、特許文献4では、金属有機化合物(チタンアセチルアセトネートやチタンテトライソプロポキシドなど)と有機高分子材料(ポリエチレングリコール、ジアゾアミノベンゼン等)の混合物を、溶媒を用いて溶液状とし、基板上に塗布・乾燥後、紫外線を照射することで有機成分を分解して酸化物半導体薄膜の結晶を形成させれば、200℃以下の低温焼成が可能であり、基板として高分子フィルムを用いても光電変換効率の高い光電変換素子を形成できると報告している。
【0009】
【特許文献1】特開2003−297443号公報
【特許文献2】特開2004−214120号公報
【特許文献3】特開2007−103310号公報
【特許文献4】特開2002−231326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
導電性基板の表面は極めて平滑であるのに対して、酸化物半導体層は粒径20nm程度の微粒子(たとえば酸化チタン)から構成されていることから、それ相応の凹凸を有している。そして、この両者の界面を、高温焼成を施すことなく密着させたものは、焼結による結合がないため、密着強度が非常に弱く、接合界面の剥離が起こりやすくなる。このため、(i)樹脂フィルム等を基板として採用することが可能なほどの比較的低い温度での焼成でも、酸化物半導体層と導電性基板との間の密着強度が十分にあること、(ii)該酸化物半導体層につき高い耐剥離性を有すると共に、これを光電変換素子に用いても高い光電変換効率を得ることのできること、を満たす光電変換用酸化物半導体電極に関する、新たな技術がさらに求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、導電性表面であるITO面に薄い酸化チタンの凹凸面を予め施すことで、酸化物半導体層と導電性表面との接触面積を増加させる等の方法を試みたが、改善効果は殆ど認められなかった。
【0012】
しかし、硬化性樹脂を適度に希釈したものを導電性表面であるITO面に塗布し、この上に酸化物半導体層を形成すると、硬化性樹脂自体は必ずしも導電性であるとはいえないにも拘らず、驚いたことに電気特性は維持されたまま、密着強度が数倍程度増加することが見出された。
【0013】
すなわち、本発明の第一の態様は、導電性表面を有する基板と、該導電性表面上に形成された酸化物半導体層とを有する光電変換用酸化物半導体電極であって、
前記導電性表面と前記酸化物半導体層との間に、硬化樹脂層が散在して形成されていることを特徴とする光電変換用酸化物半導体電極である。
【0014】
本発明の第二の態様は、光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(3)前記溶液中の混合有機溶媒及び前記ペースト中の分散媒を除去するとともに前記硬化性樹脂を硬化して、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の、前記導電性表面を有する基板上での接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法である。
【0015】
本発明の第三の態様は、光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)前記硬化性樹脂層中の混合有機溶媒を除去するとともに、必要に応じて前記硬化性樹脂の一部を硬化する工程、
(3)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(4)前記ペースト中の分散媒を除去するとともに、前記硬化性樹脂の硬化を完了させて、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の、前記導電性表面を有する基板上での接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法である。
【0016】
本発明の第四の態様は、上記第一の態様の光電変換用酸化物半導体電極を備えた色素増感太陽電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光電変換用酸化物半導体電極は、基板材料として樹脂シートのようなフレキシブルな基板を用いても酸化物半導体が剥離しにくく、密着強度が高い。
【0018】
また、本発明の光電変換用酸化物半導体電極の作製方法によれば、低温焼成でも酸化物半導体層と導電性基板との間の十分な密着強度を得ることができるため、樹脂材料等、高温焼成では用いることのできない材料を基板として用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
1.本発明の第一の態様について
1)本発明の第一の態様は、導電性表面を有する基板(以下、「導電性基板」と呼ぶこともある)と、該導電性表面上に形成された酸化物半導体層とを有する光電変換用酸化物半導体電極であって、
前記導電性表面と前記酸化物半導体層との間に、硬化樹脂層が散在して形成されていることを特徴とする光電変換用酸化物半導体電極である。
【0020】
本態様の光電変換用酸化物半導体電極では、前記硬化樹脂層が酸化物半導体層と導電性基板との間の密着強度を向上させる機能を果たしていると考えられる。もっとも、必ずしも導電性であるわけではない硬化樹脂層が介在するにも拘わらず、前記酸化物半導体層と前記導電性基板との電気的接触が妨げられることがないことは大きな驚きであった。これは、前記硬化樹脂層が導電性基板上、散在して形成されているため、前記硬化樹脂層の散在した領域(散在領域)以外の領域(非散在領域)で、前記酸化物半導体層が前記導電性表面と電気的に接触することが可能なためと考えられる(図1参照)。このことは、本発明の硬化樹脂層が、特許文献1に開示される導電性の接合プロモート膜とは全く異なるものであることを示すものである。
【0021】
2)本発明の硬化樹脂層は、硬化した硬化性樹脂からなり、硬化性樹脂とは、光や熱等の作用により固化する性質を有する樹脂のことをいう。該硬化性樹脂のうちでも耐電解液の点から熱硬化性樹脂が好ましい。
【0022】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができ、その中でもポリウレタン樹脂が好ましい。
【0023】
より具体的には、ポリウレタン樹脂であるバイエル(Bayer)社のDesmotherm1270などを用いることができる。
【0024】
3)本発明の「硬化樹脂層」は、導電性基板上に「散在して形成」されている。
ここで、「散在」とは、前記酸化物半導体層と前記導電性基板との接着に寄与する硬化樹脂が、導電性基板上に島状に散在して存在していることをいう。該島状構造(散在領域)は電子顕微鏡によって観察することができる(図2参照)。
【0025】
このような散在領域の全面積は、導電性基板の表面上、好ましくは15〜30%、より好ましくは17〜25%の程度の割合で存在することが電池性能維持の点で好ましい。かかる割合は、たとえば図2の電子顕微鏡写真を画像処理し、二値化による面積比較によって見積もることが可能である。
【0026】
また、このような島状構造における各島の大きさや分布については、均一な密着強度の確保の観点からは、非散在領域での前記酸化物半導体層と前記導電性基板との間の電気的な接触を阻害しない限り、できるだけ細かく、かつ均一に分布されるのが好ましい。散在領域における硬化樹脂の厚みは、密着強度の観点から、好ましくは0.1 〜20μm、より好ましくは1〜10μmである。
【0027】
前記非散在領域においては、前記酸化物半導体層と前記導電性基板とが電気的な接触界面を形成していると考えられる。このことは、電子顕微鏡によって、集束イオンビーム加工による境界面の断面部を観察することで確認できる(図4参照)。この非散在領域においては、実質的に硬化樹脂が存在しないことが好ましいが、前記酸化物半導体層と前記導電性基板とが電気的な接触界面を形成できる範囲において、多少の硬化樹脂が残存していてもよい。具体的には、仮に硬化樹脂が残っていても、その厚みは100nm以下であることが好ましい。該硬化樹脂は必ずしも導電性というわけではないが、たとえば100nm以下の厚みしかない場合には、酸化物半導体層の凹凸の存在により、その凸部が上記残存する硬化樹脂の層を貫通することができ、導電性表面との電気的な接触が依然として十分に残されていると考えられる(図2参照)。
【0028】
4)前記酸化物半導体層は、酸化物半導体粒子からなり、その表面に有機色素をより多く吸着させるとともに、電解液の移動度の観点から多孔質であることが好ましく、その多孔度の指標となる酸化物半導体層の孔隙率[ガス吸着測定(窒素等温吸着法)で測定される]が40%以上であることが好ましい。ここで、酸化物半導体層の孔隙率は以下の式によって定義される。
孔隙率=ρV/(ρV+1)×100(%)
ρ:酸化チタンの理論密度(単結晶の密度g/cm
V:ガス吸着分析による単位重量当たりの細孔容積(cm/g)
【0029】
また、該結晶性酸化物半導体粒子の個数平均粒径は、色素吸着量の観点から、10〜30nmであることが好ましく、15〜25nmであることが特に好ましい。また、該酸化物半導体層の厚みは、電子の拡散長の観点から、5〜30μmが好ましく、8〜16μmが特に好ましい。さらに酸化物半導体層の孔隙率、平均粒子径、及び厚みを総合的に評価したラフネスファクター(投影面積に対する実効表面積の割合)が定義されており、以下の式で計算できるが、
ラフネスファクター=(酸化物半導体層の全表面積*1)/(酸化物半導体層の投影面積*2
*1 窒素等温吸着測定においてBET式により求める。
*2 実効面積である。
これが1000以上であることが好ましい。
【0030】
好ましい酸化物半導体粒子としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムからなる群から選択される1種の化合物または2種以上の混合物が例示できるが、その中でも光電変換効率の観点から、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズからなる群から選択される1種または2種以上が好ましく、特に酸化チタンが好ましい。
【0031】
該酸化物半導体粒子は、クラック発生抑止の観点から、単結晶の方が好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で他の結晶系が少量混在した多結晶体や、非晶質体が少量混入したものでもよい。たとえば、本発明の酸化物半導体粒子として好適に用いることのできる日本エアロジル社のP25は、基本的にアナターゼの結晶であるが、ルチルも少量混在している。また、多くの酸化チタンは完全なアナターゼの結晶ではなく、非晶質な部分も含んでいるが、これらも用いることができる。また、該結晶性酸化物半導体粒子が酸化チタンの場合、ルチル、アナタース、ブルッカイトの3種類の結晶系が知られているが、このうちアナタースまたはブルッカイト、特にアナタースが好ましい。
【0032】
また、本発明に用いる酸化物半導体粒子として、酸化物半導体粒子同士が既に結合している塊状粒子のペーストを用いると、焼成温度をより低温、たとえば150℃程度の低温でもかなりの程度のネッキングを達成できるため好ましい。このような塊状粒子形態の酸化物半導体粒子として、昭和電工(株)製SP210を挙げることができる。この塊状粒子は四塩化チタンを原料とする気相合成法により得られ、一次粒子を15〜30nmに制御し、これらが三次元的にネッキングしている構造を有している。
【0033】
5)導電性表面を有する基板(導電性基板)としては、チタンや炭素のようにそれ自身、導電性のある材料を用いてもよいし、ガラスや樹脂フィルム等の絶縁性材料の基板上に透明導電膜として酸化チタン、酸化亜鉛(アンチモンまたはアルミニウムをドープしたものでもよい)、酸化インジウム(スズまたは亜鉛をドープしたものでもよい)、酸化スズ[アンチモンをドープしたもの(ATO)、またはフッ素をドープしたもの(FTO)でもよい]等の導電膜を形成したものでもよい。色素増感太陽電池に応用し、アノード側から採光する場合、耐熱性、耐薬品性、透光性の観点から、好ましくは透明ガラスや透明樹脂フィルムといった透明基板上に、酸化インジウムにスズをドープしたもの(ITO)等の透明導電膜を備えた電極を用いるのが好ましい。
【0034】
本発明の光電変換用酸化物半導体電極では、材料として、400℃程度以上の高温焼成に耐えうる程度の耐熱性は必ずしも必要ではなく、樹脂等、広範囲の材料を用いることができる利点がある。
【0035】
2.本発明の第二の態様について
1)本発明の第二の態様は、光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(3)前記溶液中の混合有機溶媒及び前記ペースト中の分散媒を除去するとともに前記硬化性樹脂を硬化して、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の、前記導電性表面を有する基板上での接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法である。
【0036】
本態様の作製方法は、前記第一の態様の光電変換用酸化物半導体電極の作製方法の一つに相当する。
【0037】
2)工程(1)について
本工程のポイントは、散在した硬化樹脂層の形成に結びつくことが可能な硬化性樹脂層を導電性表面上に形成することである。
【0038】
硬化性樹脂溶液に用いる混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の接触角が25°を超える。
【0039】
前記低沸点有機溶媒は、希釈溶媒として用いるもので、かつ導電性基板との濡れ性向上の作用を有する。好ましい低沸点有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコールなど、より好ましくはエタノール等の低沸点極性溶媒や、トルエン等の低沸点非極性溶媒が挙げられ、溶解性向上の観点から、前記低沸点極性有機溶媒と前記低沸点非極性有機溶媒を体積比で1:3〜3:1とするような割合で、より好ましくは、体積比でおよそ1:1の割合で混合して用いることが好ましい。
【0040】
前記低沸点有機溶媒は、導電性表面との濡れ性を向上させるものであることから、導電性表面との接触角は好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下であり、さらにそれよりも小さいほど好ましい。
【0041】
前記高沸点極性溶媒は、硬化性樹脂の溶解剤として機能するほどに極性の高い溶剤であり、かつ前記硬化性樹脂の高濃度溶解溶液の導電性基板との濡れ性が低く、散在した硬化樹脂層を形成するのに役立つ。前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は9倍重量以上溶解し、より溶解性の高いことが溶解剤としての機能の点で好ましい。前記混合有機溶媒中の高沸点極性溶媒の量としては、前記高沸点極性溶媒単独で、用いるべき硬化性樹脂を室温で全部溶解させるのに必要な量以上用いるが、基板への均一塗布の観点からは、好ましくは溶解に必要な最低量よりも5〜30倍重量用いるのが好ましい。又、前記高沸点極性溶媒単位重量当たりに溶解する前記硬化性樹脂の重量は、溶液の濡れ性の低下及び溶液の散在化の点で、より大きいことが好ましい。好ましい高沸点極性溶媒としては、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、DMSO(ジメチルスルホキシド)など、より好ましくはNMPが挙げられる。
【0042】
前記高沸点極性溶媒は硬化性樹脂を高濃度で溶解した際の溶液の導電性表面との濡れ性が低いものを選択することにより、散在した硬化樹脂層の形成を行いやすくするものである。このため、単位重量の高沸点極性溶媒単独に対して、9倍重量の硬化性樹脂を溶解させて得られた高濃度溶液の導電性表面に対する接触角は25°を超え、さらにそれよりも大きいほど好ましい。前記高濃度溶液は、後記する工程(3)において生成すると考えられる硬化性樹脂の高濃度溶液に対応するものである。
【0043】
また、前記高沸点極性溶媒の沸点は前記低沸点有機溶媒の沸点(低沸点有機溶媒として複数の低沸点有機溶媒の混合溶媒を用いる場合には、そのうちの最も高い沸点)よりも、少なくとも60℃、より好ましくは60〜80℃高いことが、前記高沸点溶媒の散在度合いを高める点で好ましい。
【0044】
前記低沸点有機溶媒と前記高沸点有機溶媒の組み合わせ、及びその体積比については硬化性樹脂を効率的に散在させるという観点から最適な組み合わせ及び体積比を選択するのが好ましい。
【0045】
また、硬化性樹脂の濃度については、樹脂濃度を上げることで酸化物半導体層の導電性基板に対する密着強度を向上させることができるが、他方で一定以上の樹脂濃度では、酸化物半導体層と導電性基板との間の電気的な接触が低下することにより、電気的性能が低下する傾向がある。そこで、酸化物半導体層の導電性基板に対する密着強度と電気的な接触とを両方満足な範囲にするための適切な樹脂濃度を選択すべきである。たとえば、硬化性樹脂として、バイエル(Bayer)社のウレタン系熱硬化性樹脂であるDesmotherm2170を用い、分散媒としてNMP(N−メチル−2−ピロリドン)/トルエン/エタノールの混合溶媒(1/40/40の混合体積比)を用いた場合、0.05〜0.5重量%の濃度が好ましい。
【0046】
該分散液を塗布する方法としては、スピンコート法、スプレー法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法等を挙げることができるが、操作の簡便さの観点からはスピンコート法、スプレー法、ディッピング法が、量産化の観点からはスクリーン印刷法によるのが好ましい。
【0047】
3)工程(2)について
本工程において、酸化物半導体ペーストとは、酸化物半導体粒子を、分散媒を用いてゾルまたはスラリーの形態で得たものであり、使用される分散媒としては、水、有機溶媒、またはそれらの混合液を挙げることができる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、ピリジン等の塩基性溶媒などから選ばれる1種または2種以上の溶媒が挙げられる。これらの中でも特に水、エタノール等が密着性の観点から好ましい。
【0048】
また、前記高沸点有機溶媒との関係では、前記高沸点有機溶媒よりも沸点が60℃低いものを用いるのが、硬化樹脂の島状構造を形成するのに有利なため好ましい。
【0049】
また、これら溶媒中の上記酸化物半導体粒子等の含有量は、塗布後の厚みの観点から、例えばスピンコート法の場合、10〜30重量%であることが好ましい。前記ペーストにはその他、硝酸、アセチルアセトン等の分散助剤、ポリエチレングリコール等の粘度調整剤を添加することもできる。pHは分散の観点から、1〜4の範囲にあることが好ましい。
【0050】
該ペーストを塗布する方法としては、スピンコート法、スプレー法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法等を挙げることができるが、操作の簡便さの観点からはスピンコート法、スプレー法、ディッピング法が、量産化の観点からはスクリーン印刷法によるのが好ましい。
【0051】
4)工程(3)について
本工程においては、上記混合有機溶媒及び分散媒の除去及び硬化性樹脂の硬化を行う。硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合、熱処理により上記混合有機溶媒及び分散媒の除去と同時に硬化性樹脂の硬化も同時に行うことができるので好ましい。本発明においては、基板の導電性表面と酸化物半導体層との間に散在した硬化樹脂層が介在することになるため、該酸化物半導体層と導電性基板との間の密着強度が飛躍的に向上し、従来のように400℃程度以上の高温を用いて熱処理する必要はなく、好ましくは150℃程度の比較的低温での熱処理でも、密着強度を十分維持できる。このため、樹脂等、広範囲の材料を用いることができる利点がある。より具体的には、基板の耐熱温度未満で、かつ混合有機溶媒及び分散媒の除去及び硬化性樹脂の硬化を可能にする最低限の温度での処理も可能である。
【0052】
たとえば、前記混合有機溶媒として、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)/トルエン/エタノールの混合溶媒(1/40/40の混合体積比)、前記分散媒としてイソプロピルアルコール、基板材料としてITO−PENを用いた場合、120〜150℃程度の比較的低い温度でも熱処理することができる。
【0053】
島状構造は以下のようにして形成されるものと考えられる。すなわち、まず、上記混合有機溶媒中の低沸点有機溶媒及び酸化物半導体ペースト中の分散媒が熱処理により揮発すると、高沸点極性溶媒、たとえばNMPに濃縮されるが、硬化性樹脂を高濃度に溶解している高沸点極性溶媒溶液は基板との濡れ性が低いために、導電性基板上に不均一に分散される。次いで、この状態でさらに熱処理が続くと該高沸点極性溶媒も揮発し、硬化性樹脂が結果的に散在して形成されることになると考えられる。
【0054】
3.本発明の第三の態様について
1)本発明の第三の態様は、光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)前記硬化性樹脂層中の混合有機溶媒を除去するとともに、必要に応じて前記硬化性樹脂の一部を硬化する工程、
(3)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(4)前記ペースト中の分散媒を除去するとともに、前記硬化性樹脂の硬化を完了させて、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法である。
【0055】
2)本態様は、前記第二の態様の作製方法の変法であり、酸化物半導体ペーストを塗布する工程の前に、硬化性樹脂層中の混合有機溶媒を除去する工程を追加したものである。
【0056】
本態様の作製方法は、たとえば硬化性樹脂ではあるが、硬化後も加熱により多少の可塑性を示すような硬化性樹脂、たとえばバイエル(Bayer)社のウレタン系熱硬化性樹脂であるDesmotherm2170を用いるような場合に特に好適に用いることができる。
【0057】
3)工程(1)及び工程(3)について
これらの工程はそれぞれ、前記本発明の第二の態様における工程(1)及び工程(2)にそれぞれ準じて行うことができる(上記2.2)及び2.3)参照)。
【0058】
4)工程(2)について
基板材料の耐熱温度以下で、かつ混合有機溶媒を除去できる温度において熱処理を行う。具体的には、高沸点極性溶媒除去の観点から、120〜160℃が好ましく、130〜150℃がより好ましい。
【0059】
この結果、硬化性樹脂層が導電性表面上に散在して形成される。
【0060】
この工程において硬化可能な温度以上で熱処理して、その一部を硬化させてもよい。
【0061】
5)工程(4)について
この工程は、前記本発明の第二の態様における工程(3)に準じて行うことができる(上記2.4)参照)。
【0062】
なお、この工程で硬化を完了させる。
【0063】
4.本発明の第四の態様について
本態様においては、前記本発明の第一の態様において説明した酸化物半導体電極を含む色素増感太陽電池を提供する。常法に従い、前記第一の態様の酸化物半導体電極の酸化物半導体層上にRu増感色素等の増感色素を吸着担持させ、対極と重ね合わせた後、各種イオンの添加剤や、レドックス剤としてヨウ素を含んだ有機溶媒やイオン性液体等を溶媒とする電解液、あるいは導電性高分子のようなP型ホール輸送層を電極間に充填して完成させることができる。
【0064】
なお、対極としては、導電性基板上に触媒として白金、炭素等の元素、あるいはPEDOT[ポリ(エチレンジオキシ)チオフェン]等の導電性高分子を薄く多孔質状に積層させたものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例により、より具体的に説明する。もっとも、これらはあくまで本発明の例示であって、これらに限定されることを意図するものではない。
【0066】
[実施例1]
1)熱硬化性樹脂としてポリウレタン系熱硬化性樹脂であるDesmotherm1270[バイエル社(Bayer)製]を用い、その0.05重量%混合有機溶媒溶液[NMP(N−メチルピロリドン):トルエン:エタノールの体積比1:40:40の混合溶媒]を調製した。この際、該熱硬化性樹脂は完全に溶解していた。
2)次いで、ITO−PEN基板(トービ社製、厚さ200μmで大きさが2×5cmの大きさのポリエチレンナフタレート基板に導電膜としてITO膜を形成したもの)を準備し、これに上記熱硬化性樹脂溶液0.2mlを滴下し、スピンコート法(2000rpm、60秒)により塗布した。
3)その後、150℃で30分間熱処理することで混合有機溶媒を除去した。
4)次いで、酸化チタンペースト(昭和電工製SP210、溶媒イソプロパノール、含量40%)をスキージ法により成膜した後(膜の厚みは10μm)、150℃で30分間加熱して酸化物半導体電極1を作製した。該酸化物半導体電極における酸化物半導体層の導電性表面に対する密着強度を以下のような手順で測定した結果、33N/cmであった。
【0067】
(接触角の測定方法)
JIS R3257の静滴法に準拠して測定を行った。
【0068】
すなわち、接触角計(協和界面科学株式会社製CA−A型)を用いて液滴法により次のように行った。
【0069】
試料溶液を基板に滴下し、液滴の基板との接触点と液滴頂点とを結んだ線の基板に対する角度を、光学顕微鏡で観測しながら内蔵した目盛りにより読み取った。
【0070】
この方法により各種の溶媒のITO−PEN基板に対する接触角を測定したところ、トルエン、エタノールといった低沸点有機溶媒、あるいはNMPといった高沸点有機溶媒は測定不能なほどに濡れ性が良く、接触角をあえて表示するならば5°以下であった。
【0071】
しかし、高沸点有機溶媒であるNMP単位重量当たりDesmotherm1270を9倍重量溶解させた溶液の接触角は34°であった。
【0072】
(密着強度の測定方法)
作製した酸化物半導体電極の酸化物半導体膜表面に、密着力の強い接着テープ(ニチバン(株)製、ナイスタック)を接着面積が1cmとなるように接着した。そして、これらの両端部を引っ張り試験機(サン科学製サンレオメーター コンパック100)のチャックに固定し、送引速度50mm/分で図5に示すように、基板平面に対して平行な方向に引っ張り、破壊時の強度を測定し、これを密着強度とした。
【0073】
5)次いで、該酸化物半導体電極を用いて色素増感太陽電池1を作製し、その変換効率を測定した。変換効率は5.6%であった。
【0074】
なお、対極は、ITOガラスに白金を20nmの厚さにスパッタしたものを使用した。電解液としては、0.4MのLiI、0.4MのTBAI(ヨウ化テトラブチルアンモニウム)、0.04MのI、0.3MのtBP(4−tert−ブチルピリジン)のアセトニトリル溶液を用いた。上記酸化物半導体電極(作用極)と上記対極にセパレータ(厚さ 20μm)をはさんだ構造体をクリップで保持し、この隙間に上記電解液を注入して、セルを作製した。
【0075】
また、変換効率は、以下によって測定した。すなわち、上記セルをソーラーシュミレーターに設置し、AM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を照射しながら、セルに印加する電流を変化させることにより、電流−電圧曲線を得た。次いで、この曲線より、開放電圧(V)、短絡電流密度(mA/cm)、曲線因子(%)を求め、次式より変換効率を算出した。
変換効率(%)=開放電圧×短絡電流密度×曲線因子
【0076】
[比較例1]
上記実施例1において熱硬化性樹脂を用いた処理を行わない以外は同様の手順で、比較品の酸化物半導体電極11及び色素増感太陽電池11を作製した。
【0077】
得られた比較品の酸化物半導体電極11の密着強度、及びそれを備えた色素増感太陽電池11の変換効率を上記実施品と同様に測定したところ、それぞれ5N/cm2、及び5.6%であった。
【0078】
これにより、本発明品の酸化物半導体電極では酸化物半導体層の導電性表面に対する密着強度を6倍以上向上させることができたと共に、それを備えた色素増感太陽電池の変換効率を低下させることもないことがわかった。
【0079】
[実施例2及び3]
実施例1と同様の手順により、但し、熱硬化性樹脂の混合有機溶媒中の濃度を、それぞれ0.005重量%、0.5重量%にかえて、発明品の酸化物半導体電極2及び3、色素増感太陽電池2及び3を作製した。
【0080】
酸化物半導体電極2及び3の密着強度、及び色素増感太陽電池2及び3の電気性能についてはそれぞれ表1、表2にまとめた。
【0081】
[実施例4]
実施例1と同様の手順により、但し、NMP(N−メチルピロリドン)を樹脂の含有量に対して2.5倍量添加にかえて、発明品の酸化物半導体電極4、色素増感太陽電池4を作製した。
【0082】
酸化物半導体電極4の密着強度、及び色素増感太陽電池4の電気性能については、それぞれ表1、表2にまとめた。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1からわかるように、密着強度は一般的に樹脂濃度を上げれば向上する傾向にある。
【0086】
また、表2からわかるように、変換効率は一定樹脂濃度までは変わらないが、それを越えると多少低下する傾向が見られる。
【0087】
酸化物半導体電極4及び色素増感太陽電池4は、有機溶剤であるNMPの量を樹脂に対して相対的に減らすことで、樹脂の混合有機溶媒中の均一性の程度を低下させたものであるが、変換効率の低下の傾向が認められる。この場合、溶媒の加熱蒸発に伴い、樹脂が全てNMPに溶解できなくなり、その結果、低沸点有機溶媒に溶解させられた樹脂は散在できず、基板表面に均一に析出して被覆し、導電性表面を覆うことにより、電気的接触面積を低下させるためと考えられる。
【0088】
実施例では第三の態様の作製方法を示したが、これは樹脂の分散度合を調べながら実験を行うことが可能で、開発を進める上で好都合の態様であったためである。しかし、第二の態様とは大きな差はなく、第二の態様においても同様な結果が得られることは、当業者であれば十分理解できる。すなわち、第二の態様の方がより電気的接触を確保しやすい態様(樹脂層を加熱する機会がより少ないため、電気的接触もより確保しやすい)であり、第三の態様で電気的接触を確保できるのであれば、第二の態様でも電気的接触を確保できるのは当然と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は色素増感電池に用いるための酸化物半導体電極として好適に用いることができる。特に本発明の酸化物半導体電極では、基板材料として広範囲のものが使用可能なため、樹脂シート、特にフレキシブルな樹脂シートを基板として用いた色素増感電池に好ましく応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の酸化物半導体電極の分解図である。
【図2】本発明の酸化物半導体電極の断面の模式図である。
【図3】硬化性樹脂が導電性表面上で散在して形成された状態を示す電子顕微鏡写真(300倍)である。
【図4】本発明の酸化物半導体電極の断面の電子顕微鏡写真(10万倍)である。
【図5】酸化物半導体電極の密着強度を測定する方法に関する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性表面を有する基板と、該導電性表面上に形成された酸化物半導体層とを有する光電変換用酸化物半導体電極であって、
前記導電性表面と前記酸化物半導体層との間に、硬化樹脂層が散在して形成されていることを特徴とする光電変換用酸化物半導体電極。
【請求項2】
前記導電性表面上、前記硬化樹脂層の散在した領域の全面積が、前記導電性表面の面積の15〜30%を占めることを特徴とする請求項1に記載の光電変換用酸化物半導体電極。
【請求項3】
前記硬化樹脂層が硬化した熱硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換用酸化物半導体電極。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、ポリウレタン系の熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換用酸化物半導体電極。
【請求項5】
前記基板が樹脂フィルム基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換用酸化物半導体電極。
【請求項6】
光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(3)前記溶液中の混合有機溶媒及び前記ペースト中の分散媒を除去するとともに前記硬化性樹脂を硬化して、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の、前記導電性表面を有する基板上での接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法。
【請求項7】
前記工程(1)の硬化性樹脂が熱硬化性樹脂からなり、前記工程(3)が、基板の耐熱温度以下であって前記混合有機溶媒及び前記分散媒を除去できるとともに、前記硬化性樹脂を硬化することのできる温度以上で熱処理することにより行われることを特徴とする請求項6に記載の光電変換用酸化物半導体電極の作製方法。
【請求項8】
光電変換用酸化物半導体電極の作製方法であって、
(1)導電性表面を有する基板上に、硬化性樹脂を混合有機溶媒に溶解させた硬化性樹脂溶液を塗布して、硬化性樹脂層を形成する工程、
(2)前記硬化性樹脂層中の混合有機溶媒を除去するとともに、必要に応じて前記硬化性樹脂の一部を硬化する工程、
(3)酸化物半導体粒子を分散媒中に分散させた酸化物半導体ペーストを、前記硬化性樹脂層上に塗布する工程、
(4)前記ペースト中の分散媒を除去するとともに、前記硬化性樹脂の硬化を完了させて、散在した硬化樹脂層を形成する工程、
を順に含み、
前記混合有機溶媒は、互いに混和可能な低沸点有機溶媒と高沸点極性溶媒とを含み、前記低沸点有機溶媒は、沸点が150℃以下であり、
前記高沸点極性溶媒は、沸点が前記低沸点有機溶媒よりも少なくとも60℃高く、前記高沸点極性溶媒単位重量当たり、前記硬化性樹脂は25℃において9倍重量以上溶解でき、前記硬化性樹脂を9倍重量溶解させたときの高沸点極性溶媒溶液の、前記導電性表面を有する基板上での接触角が25°を超えることを特徴とする作製方法。
【請求項9】
前記工程(1)の硬化性樹脂が熱硬化性樹脂からなり、前記工程(2)が、基板の耐熱温度以下であって前記混合有機溶媒を除去可能であるとともに、必要に応じて前記硬化性樹脂を硬化することのできる温度以上で熱処理することにより行われ、前記工程(4)が、基板の耐熱温度以下であって、前記分散媒を除去するとともに前記硬化性樹脂を硬化することのできる温度以上で熱処理することにより行われることを特徴とする請求項8に記載の光電変換用酸化物半導体電極の作製方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換用酸化物半導体電極を備えたことを特徴とする色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−92813(P2010−92813A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264339(P2008−264339)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】