説明

光電変換素子およびそれを用いた色素増感型太陽電池

【課題】 電解液へのヨウ素の添加量を大幅に削減しても、高いエネルギー変換効率が得られ、かつ電池の劣化を起こしにくい電解質溶液およびそれを用いた光電変換素子並びにそれを用いた色素増感型太陽電池を提供する。

【解決手段】 導電性支持体上に、色素増感された半導体粒子からなる半導体電極層、電解液層および対向電極をこの順で有する色素増感型太陽電池または光電変換素子において、前記電解液層がハロゲンイオンをアニオンとするイオン液体を含み、下記一般式(1)に示すグリコールエーテルを溶媒とする電解液からなることを特徴とする色素増感型太陽電池または光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光電変換効率が高く、耐久性に優れる電解質溶液およびそれを用いた光電変換素子並びにそれを用いた色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽エネルギーを電力に変換する光電変換素子として、固体のpn接合型の太陽電池が活発に研究されている。固体接合型太陽電池は、シリコン結晶やアモルファスシリコン薄膜、非シリコン系の化合物半導体の多層薄膜を用いる。
しかし、これらの太陽電池は、高温もしくは真空下で製造するために、プラントのコストが高く、エネルギーペイバックタイムが長いという欠点がある。
【0003】
これらの従来の太陽電池を置き換える次世代太陽電池として、低温でより低コストで製造が可能な有機系太陽電池の開発が期待されている。
なかでも特に注目されるのは大気中で低コストの量産が可能な色素増感型太陽電池であり、特許文献1では、色素増感された多孔質半導体膜を用いる高効率の光電変換方法が提案されている。
色素増感型太陽電池は、固体接合型太陽電池における固体(半導体)−固体(半導体)接合の代りに、固体(半導体)−液体(電解液)接合を採用する湿式太陽電池である。色素増感型太陽電池は、エネルギー変換効率が11%という高い値まで達しており、電気エネルギーの供給源として有望である。
【0004】
色素増感型太陽電池に用いる電解液は、一般に有機溶媒中に可逆的な酸化還元対と電解質(イオン液体)が溶解している溶液である。
有機溶媒としては、一般に、非プロトン性極性溶媒(例、カーボネート化合物、鎖状エーテル類、多価アルコール類、ラクトン類、二トリル化合物、環状・鎖状スルホン化合物など)がイオン液体溶解性の観点から用いられている。
酸化還元対としては、ヨウ素とヨウ化物(I/I)系、臭素と臭化物(Br/Br)系、キノン/ハイドロキノン系、フェロシアン酸塩/フェリシアン酸塩、フェロセンとフェリシニウムイオン等の金属錯体などが挙げられている。ただし、エネルギー変換効率の観点から、実際に使用されている酸化還元対は、ヨウ素とヨウ化物(I/I)系に限定されている。
代表的な電解質(イオン液体)は、第四級アンモニウム(ピリジニウムイオンやイミダゾリウムイオンのような環状イオンを含む)の塩(対イオンは、一般にヨウ化物イオン)である。
【0005】
色素増感型太陽電池の電解液は、原理的に酸化還元対が必須であるとされている。ヨウ素とヨウ化物(I/I)系以外の酸化還元対を使用する方法では、充分なエネルギー変換効率を得ることが困難である。
特許文献2は、何らかの構成要素が異なる複数の色素増感型太陽電池を組み合わせたモジュールを提案している(請求項1)。構成要素が異なる例は、電解質中のヨウ素濃度の違いが含まれる(請求項6、7)。さらにヨウ素濃度に関する予備実験として、固体状のイミダゾリウム塩と4−t−ブチルピリジンとを併用、あるいは液体イミダゾリウム塩と4−t−ブチルピリジンとを併用して、ヨウ素濃度0.01〜0.05Mの範囲で変化させた例が報告されている(段落番号0039〜0050)。実施例においては、ヨウ素濃度の低い方の太陽電池では0.02Mまたは0.03Mとのヨウ素濃度、ヨウ素濃度の高い方の太陽電池では0.05Mとのヨウ素濃度が採用されている(段落番号0057の表1)。その報告によると、ヨウ素を全く添加しないと、太陽電池として機能しないこと。ヨウ素添加量は0.04M〜0.2Mが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許4927721号明細書
【特許文献2】特開2005−235725号公報
【特許文献3】特開2007−200708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、色素増感型太陽電池において、充分に高いエネルギー変換効率を得ようとすると、電解液にヨウ素とヨウ化物との組み合わせからなる酸化還元対(I/I系)を使用する必要がある。しかし、ヨウ素を使用すると、電解液が三ヨウ化物イオン(I)の形成により着色され、光エネルギー変換効率が低下する。また、ヨウ素の酸化腐食反応によって、電池の劣化が進むことが問題となっている。
本願発明は、このような事情のもとに、電解液へのヨウ素の添加量を大幅に削減しても、高いエネルギー変換効率が得られ、かつ電池の劣化を起こしにくい電解質溶液およびそれを用いた光電変換素子並びにそれを用いた色素増感型太陽電池を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、導電性支持体上に、色素増感された半導体粒子からなる半導体電極層、電解液層および対向電極をこの順で有する色素増感型太陽電池または光電変換素子において、前記電解液層がハロゲンイオンをアニオンとするイオン液体を含み、下記一般式(1)に示すグリコールエーテルを溶媒とする電解液からなることを特徴とする色素増感型太陽電池または光電変換素子を提供する。
【0009】
【化1】

式中、R、Rは水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、nは1〜10の整数である。
【0010】
本願発明は、下記(1)乃至(6)の態様で実施できる。
(態様1)前記一般式(1)で示すグリコールエーテルが、ジアルキルグリコールエーテルである。
【0011】
(態様2)前記イオン液体が、下記一般式(2)に示すアルキルイミダゾリウムのハロゲン化物塩である。
【0012】
【化2】

式中、R21,R22,R23は水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、XはCl,Br,Iである。
【0013】
(態様3)前記イオン液体が、上記一般式(2)で示すアルキルイミダゾリウムが鎖中に繰り返し単位1〜8のオキシエチレン基を有するアルキル基からなるアルキルイミダゾリウムのハロゲン化物塩である。
【0014】
(態様4)前記イオン液体のハロゲンイオンがヨウ化物イオンである。
【0015】
(態様5)前記電解液中の三ヨウ化物イオン濃度が0〜0.4mol/Lである。
【発明の効果】
【0016】
本願発明によって,光電変換素子として、エネルギー変換効率と耐久性に優れた色素増感太陽電池が得られ、とくに大面積でフレキシブルな構造の色素増感光電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明に従った光電変換素子の1例の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]電解液
本願発明の電解液は、イオン液体、酸化還元対、溶媒を含む。以下、電解液構成成分について説明する。
【0019】
(A)溶媒
本願発明の電解液のイオン液体の溶媒としては、低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、あるいはその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。多孔質半導体微粒子層に色素を吸着して得られる色素増感半導体薄膜層を光電極とするため、多孔質半導体微粒子層への浸透性が光電変換効率を向上するために必要だからである。また、イオン液体濃度や電解液量を保持するために高沸点であること、特に沸点が200℃以上であることが好ましい。さらに、イオン液体の溶解性の観点から、非プロトン性極性溶媒であることも好ましい。
【0020】
本願発明の溶媒としては、前記一般式(1)に示すグリコールエーテルが好ましく、エネルギー変換効率が高い点で、ジアルキルグリコールエーテルがより好ましい。
【0021】
このような溶媒の具体例としては、グリコール類(例、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、モノアルキルグリコールエーテル類(例、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノオクチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテルなど)、ジアルキルグリコールエーテル類(例、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテルなど)がある。これらのグリコールエーテル類は、2種以上併用してもよい。
【0022】
(B)イオン液体
本願発明の電解液層に用いるイオン液体には、室温(25℃)付近において液状となる、いわゆる室温溶融塩を用いることができる。本願発明では、前記式(2)アルキルイミダゾリウムのハロゲン化物塩を用いることが好ましく。アルキルイミダゾリウムのヨウ化物塩を用いることが、より好ましく、アルキル基が鎖中にオキシエチレン基を有するアルキルイミダゾリウムのヨウ化物塩が、さらに好ましい。
本願発明のアルキルイミダゾリウムの具体例は、ジメチルイミダゾリウム、メチルプロピルイミダゾリウム、メチルブチルイミダゾリウム、メチルヘキシルイミダゾリウムとその塩などが挙げられる。
また、アルキル基が鎖中にオキシエチレン基を有するイミダゾリウムとその塩は、以下のものが挙げられる。
【0023】
【化3】

本願発明に用いるイオン液体の濃度は、0.05〜5.0mol/Lが好ましく、0.1〜2.0mol/Lがエネルギー変換効率が高い点で好ましい。
【0024】
(C)酸化還元対
本願発明の電解液では、三ヨウ素化物イオン(I)濃度が0mol/L(イオン液体中の不純物として混入する場合を除き、含まれないことを意味する。)であることが、耐久性の観点から好ましい。ただし、0.4mol/L(電解液が三ヨウ化物イオン(I)の形成により着色され、光エネルギー変換効率が低下せず、ヨウ素の酸化腐食反応によって、電池の劣化が進みにくい濃度)以下まで添加してもよい。
【0025】
(D)その他
電解液は、さらに他の成分を含むことができる。他の成分の例には、後述する式(IV)で表わされるベンゾイミダゾール化合物、(イソ)チオシアン酸イオン、後述する式(V)で表わされるグアニジウムイオンおよびハロゲンイオンが含まれる。
【0026】
電解液中に下記式(III)で表わされるベンゾイミダゾール化合物を添加する場合、電解液中のベンゾイミダゾール化合物の濃度は0.01乃至1Mが好ましく、0.02乃至0.5Mがさらに好ましく、0.05乃至0.2Mが最も好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
式(III)において、R41は炭素数1乃至20の脂肪族基であり、そして、R42は水素原子または炭素数1乃至6の脂肪族基である。R41は炭素数1乃至12が好ましく、1乃至6がさらに好ましく、1乃至3が最も好ましい。R42は、水素原子または炭素数1乃至3の脂肪族基が好ましい。
【0029】
ベンゾイミダゾール化合物の具体例としては、N−メチルベンゾイミダゾール、N−エチルベンゾイミダゾール、1,2−ジメチルベンゾイミダゾール、N−ブチルベンゾイミダゾール、N−ヘキシルベンゾイミダゾール、N−ペンチルベンゾイミダゾール、N−イソプロピルベンゾイミダゾール、N−イソブチルベンゾイミダゾール、N−ベンジルベンゾイミダゾール、N−(2−メトキシエチル)ベンゾイミダゾール、N−(3−メチルブチル)ベンゾイミダゾール、1−ブチル−2−メチルベンゾイミダゾール、N−(2−エトキシエチル)ベンゾイミダゾール、N−(2−イソプロポキシエチル)ベンゾイミダゾールなどがある。
【0030】
電解液中にチオシアン酸イオン(S−C≡N)またはイソチオシアン酸イオン(N=C=S)を添加する場合、電解液中のチオシアン酸イオンおよびイソチオシアン酸イオンの合計の濃度は0.01乃至1Mが好ましく、0.02乃至0.5Mがさらに好ましく、0.05乃至0.2Mが最も好ましい。
電解液の調製において、イソチオシアン酸イオンは塩として添加することが好ましい。塩の対イオンは、後述するグアニジウムイオンまたはハロゲンイオンが好ましく、グアニジウムイオンがさらに好ましい。
【0031】
電解液中に下記式(IV)で表わされるグアニジウムイオンを添加する場合、電解液中のグアニジウムイオンの濃度は0.01乃至1Mが好ましく、0.02乃至0.5Mがさらに好ましく、0.05乃至0.2Mが最も好ましい。
【0032】
【化5】

【0033】
式(IV)において、R51、R52およびR53は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数が1乃至20の脂肪族基である。脂肪族基の炭素原子数は、1乃至12が好ましく、1乃至6がさらに好ましく、1乃至3が最も好ましい。
脂肪族基よりも水素原子の方が好ましい。すなわち、無置換のグアニジウムイオンが最も好ましい。
電解液の調製において、グアニジウムイオンは塩として添加することが好ましい。塩の対イオンは、ヨウ化物イオンまたはイソチオシアン酸イオンが好ましく、イソチオシアン酸イオンがさらに好ましい。
【0034】
電解液中にハロゲンイオンを添加する場合、電解液中のハロゲンイオンの濃度は0.01乃至1.5Mが好ましく、0.05乃至1.0Mがさらに好ましく、0.1乃至0.8Mが最も好ましい。
電解液の調製において、ハロゲンイオンは塩として添加することが好ましい。ハロゲンイオンの中では、臭化物イオン、ヨウ化物イオンまたはイソチオシアン酸イオンが好ましく、ヨウ化物イオンがさらに好ましい。
【0035】
電解液中には必要に応じて、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤を添加してもよい。
【0036】
[2]色素増感型光電変換素子の構造
図1は、本願発明の色素増感型光電変換素子の構造例を示す断面図である。色素増感型光電変換素子は、光電極層1、電解液層2および対向電極層3をこの順で有する積層構造からなる。
本願発明において、電解液層2は、グリコールエーテルを含む溶媒中に、イミダゾリウムイオンが溶解している電解液からなる。本願発明の電解液組成では、ヨウ素、あるいはヨウ素が会合した三ヨウ化物イオン(I)や五ヨウ化物イオン(I)は必要がなく。添加するとしても、その量を削減でき、電解液の透明性を高くすることができ、ヨウ素会合体による着色、ヨウ素の酸化腐食反応による電池の劣化進行を抑えることができる。また、光エネルギー変換効率も低下しない。
光電極層1は、光電極基板と色素増感多孔質半導体粒子層からなる。光電極基板は、透明基板11と透明導電層12とからなり、色素増感多孔質半導体粒子層は色素14により増感された半導体粒子13からなる。図1に示す色素増感型光電変換素子では、色素増感多孔質半導体層の多孔膜内(空孔)が、電解液層2を構成している電解液により充填されている。
対向電極層3は、透明基板31と透明導電層32とからなる。
【0037】
本願発明において、透明導電層(12および32)は、電圧損失が少ない金属により形成できる。金属を用いて透明導電層(12および32)を形成する場合、金属メッシュや格子状構造からなる層を形成すればよい。
電解液層2および透明導電層(12および32)の透明性を高くすることができる。このため、本願発明の色素増感型光電変換素子では、光電極層1側から入射する光41と対向電極層3側から入射する光42の双方を利用して、高い光電変換効率で電流5を発電することができる。
以下、光電極層、電解液層、そして、対向電極層の順序で説明する。
【0038】
(A)光電極層
光電極層は、光電極基板および色素増感多孔質半導体微粒子層からなることが好ましい。光電極基板は、透明基板上に透明導電層を有する。
半導体粒子層を担持する透明導電性基板は、ガラス板やポリマーフィルムが好ましく、ガラス板よりも屈曲性があるポリマーフィルムである方がより好ましい。
ポリマーフィルム材料としては、無着色で透明性が高く、耐熱性が高く、耐薬品性ならびにガス遮断性に優れ、かつ低コストの材料が好ましく選ばれる。
この観点から、好ましい材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルホン(PSF)、ポリエステルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、透明ポリイミド(PI)などが用いられる。
これらのなかでも化学的安定性とコストの点で特に好ましいものは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)であり、もっとも好ましいものはポリエチレンナフタレート(PEN)である。
【0039】
本願発明の透明導電層としては、金属(例、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、チタン)、炭素、導電性金属酸化物(例、酸化スズ、酸化亜鉛)または複合金属酸化物(例、インジウム−スズ酸化物、インジウム−亜鉛酸化物)から形成できる。
この中で高い光学的透明性をもつ点で導電性金属酸化物が好ましく、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化亜鉛、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)が特に好ましい。
最も好ましいものは、耐熱性と化学安定性に優れるインジウム−亜鉛酸化物(IZO)である。
【0040】
透明導電層は、低い表面抵抗値を有する必要がある。具体的な表面抵抗値は15Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましく、3Ω/□以下がさらに好ましく、1Ω/□以下がさらにまた好ましく、0.5Ω/□以下が最も好ましい。
低い表面抵抗値を達成するためには、金属を用いることが好ましい。金属は、透明でないという問題は、金属メッシュ構造からなる透明導電性層を形成することにより解決でき、金属がヨウ素により腐食されるという問題は、本願発明に従い、電解液中のヨウ素をなくすか、あるいはその含有量を削減することにより解決できる。
透明基板上に透明電極層を設けた光電極基板の光透過率(測定波長:500nm)は、60%以上が好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上が最も好ましい。
【0041】
この導電層には集電のための補助リードをパターニングなどにより配置させることができる。
このような補助リードは、低抵抗の金属材料(例、銅、銀、アルミニウム、白金、金、チタン、ニッケル)によって形成される。
補助リードがパターニングされた透明導電層において、補助リードを含めた表面の抵抗値は好ましくは1Ω/□以下に制御することが好ましい。このような補助リードのパターンは透明基板に蒸着、スパッタリングなどにより形成し、さらにその上に酸化スズ、ITO膜、IZO膜などからなる透明導電層を設けるのが好ましい。
【0042】
(1)半導体微粒子
本願発明の多孔質半導体微粒子層は、ナノサイズの細孔が内部に網目状に形成されたいわゆるメソポーラスな半導体膜からなっている。
多孔質半導体微粒子層を形成する半導体微粒子としては、金属の酸化物及び金属カルコゲニドを使用することができる。
金属酸化物及び金属カルコゲニドを構成する金属元素としては、例えば、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、カドミウム、亜鉛、鉛、アンチモン、ビスマス、カドミウム、鉛などが挙げられる。
【0043】
半導体材料は、n型の無機半導体が好ましい。例えば、TiO、TiSrO、ZnO、Nb、SnO、WO、Si、CdS、CdSe、V2O5、ZnS、ZnSe、SnSe、KTaO、FeS、PbSを含む。
TiO、ZnO、SnO、WO、Nbが好ましく、チタン酸化物、亜鉛酸化物、スズ酸化物およびこれらの複合体がさらに好ましく、二酸化チタンが最も好ましい。
これらの半導体粒子の一次粒子は、平均粒径が2nm以上80nm以下であることが好ましく、10nm以上60nm以下がさらに好ましく、2nm以上30nm以下が最も好ましい。
【0044】
(2)半導体微粒子層
本願発明の光電変換素子において、上記の半導体粒子によって作られる多孔質半導体粒子層は、色素によって増感されているので色素を多孔質膜の表面に吸着分子として持っている。
【0045】
本願発明における色素増感多孔質半導体粒子層において、層内を空孔が占める体積分率で示される空孔率は、50%以上85%以下であることが好ましく、65%以上85%以下であることがさらに好ましい。
多孔質半導体粒子層は、2種類以上の微粒子群を含むことができる。2種以上の微粒子群は、例えば、粒径分布が異なるものであることができる。粒径分布が異なる2種類以上の微粒子群を含む場合、最も小さい粒子群の平均サイズは20nm以下が好ましい。
この超微粒子に対して、光散乱により光吸収を高める目的で、平均粒径が200nmを越える大きな粒子を、質量割合として5乃至30質量%の割合で添加することが好ましい。
【0046】
光電極層は、透明導電性基板(透明電極および透明導電層)および色素増感多孔質半導体粒子層からなり、透明導電層は実質的に無機酸化物または金属のみから構成され、色素増感多孔質半導体粒子層は、実質的に半導体と色素のみから構成されていることが好ましい。具体的には、透明電極層および色素増感多孔質半導体層から、無機酸化物、半導体および色素を除いた固形分の質量が、透明導電層および色素増感多孔質半導体粒子層の全質量に占める割合は、3%未満が好ましく、1%未満がさらに好ましい。
【0047】
光電極の基板にポリマーフィルムを用いる場合、光電極の半導体膜は、基板ポリマーの耐熱性の範囲内である低温条件下(例、200℃以下、好ましくは150℃以下)で半導体膜を形成する低温製膜技術により作製できる。
このような低温製膜は、例えば、プレス法、水熱分解法、泳動電着法、バインダーフリーコーティング法により行うことができる。バインダーフリーコーティング法は、ポリマーなどのバインダー材料を用いないで、粒子分散液をコーティングして作製する方法である。
【0048】
簡便な製造工程の観点から、バインダーフリーコーティング法が特に好ましい。バインダーフリーコーティング法においては、コーティング剤として用いる半導体粒子分散ペーストが、半導体材料の結合のために添加される無機、有機のバインダーを実質的にほとんど含まないことを特徴とする。
ここで、バインダーを実質的にほとんど含まないこととは、ペーストの組成において、半導体を除く固形分でありバインダー材料を含める固形分が、半導体の全量に対して占める含量が1%以下であることを意味する。
バインダーフリーコーティング法においては、半導体粒子分散ペーストをプラスチック基板などにコーティングしたあとに、150℃乃至200℃の条件で加熱し乾燥することによって、多孔質半導体粒子層を形成する。
【0049】
(3)増感色素
多孔質半導体粒子層の増感に用いる色素分子としては、電気化学の分野で色素分子を用いる半導体電極の分光増感にこれまで用いられてきた各種の有機系、金属錯体系の増感材料が用いられる。
また、光電変換の波長領域をできるだけ広くし、かつ、変換効率を上げるために、二種類以上の色素を混合して用いてもよく、光源の波長域と強度分布に合わせて、混合する色素とその混合割合を選択してもよい。
【0050】
増感色素は、有機色素(例、シアニン色素、メロシアニン色素、オキソノール色素、キサンテン色素、スクワリリウム色素、ポリメチン色素、クマリン色素、リボフラビン色素、ペリレン色素)および金属錯体色素(例、フタロシアニン錯体、ポルフィリン錯体)を含む。金属錯体色素を構成する金属の例は、ルテニウムおよびマグネシウムを含む。
そのほか「機能材料」、2003年6月号、第5〜18ページに記載されている合成色素と天然色素や、「ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジックス(J.Chem.Phys.)」、B.第107巻、第597ページ(2003年)に記載されるクマリンを中心とする有機色素を用いることもできる。
【0051】
(4)半導体微粒子への色素の吸着
半導体微粒子に色素を吸着させるためは、色素の溶液中によく乾燥した半導体微粒子層を有する導電性支持体を浸漬する方法、或いは色素の溶液を半導体微粒子層に塗布する方法を用いることができる。
前者の方法では、浸漬法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。
なお、浸漬法の場合、色素の吸着は室温で行ってもよいし、特開平7−249790号公報に記載されているように加熱還流して行ってもよい。
また、後者の方法では、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等の塗布方法や、凸版、オフセット、グラビア、スクリーン印刷等の印刷方法が利用できる。
【0052】
色素の溶液に用いる溶媒は色素の溶解性に応じて適宜選択でき、例えばアルコール類(メタノール、エタノール、t−ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド等)、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)、これらの混合溶媒等が使用できる。
【0053】
色素の吸着方法は色素の溶液の粘度、塗布量、導電性支持体の材質、塗布速度等に応じて適宜選択すればよい。
量産化の観点からは、塗布後の色素吸着に要する時間をなるべく短くすることが好ましい。
【0054】
未吸着の色素の存在は素子性能の外乱になるため、吸着後速やかに洗浄により除去することが好ましい。洗浄は、アセトニトリル等の極性溶剤やアルコール系溶剤等の有機溶媒を用いて行うのが好ましい。
また、色素の吸着量を増大させるために吸着前に加熱処理を施すのが好ましい。
加熱処理の後に半導体微粒子表面に水が吸着するのを抑制するために、常温に戻さず40〜80℃で素早く色素を吸着させるのが好ましい。
【0055】
色素の全使用量は、導電性支持体の単位表面積(1m)当たり0.01〜100mmolとすることが好ましい。
また、色素の半導体微粒子に対する吸着量は、十分な増感効果を得るためには半導体微粒子1g当たり0.01〜1mmolであるのが好ましい。
色素の吸着量が少なすぎると増感効果が不十分となり、また多すぎると色素が浮遊しやすく、増感効果を低減させる原因となる。
【0056】
光電変換の波長域をできるだけ広くするとともに変換効率を上げるために、2種類以上の色素を混合して使用してもよい。この場合、光源の波長域と強度分布に応じて、適宜混合する色素及びその混合割合を選択することが好ましい。
【0057】
会合のような色素同士の相互作用を低減する目的で、無色の疎水性化合物を半導体微粒子に共吸着させてもよい。
共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)等が挙げられる。また、紫外線吸収剤を併用してもよい。
【0058】
余分な色素の除去を促進する目的で、色素を吸着した後にアミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。アミン類としてはピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよく、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0059】
(C)電解液層
電解液層は色素の酸化体に電子を補充する機能を有する層である。電解液層に前記本願発明の電解液を用いる。
光電極層は、その多孔構造中の空孔が電解液により充填されていることが好ましい。具体的に、光電極層が有する空孔が電解液によって充填されている割合は、20体積%以上が好ましく、50体積%以上がさらに好ましい。
電解液層の厚さは、例えば、光電極層と対向電極層との間に設けるスペーサーの大きさによって調整できる。電解液が光電極の外側で単独で存在する部分の厚さは、1μm乃至30μmが好ましく、1μm乃至10μmがより好ましく、1μm乃至5μmがさらに好ましく、1μm乃至2μmが最も好ましい。
【0060】
電解液層の光透過率は、測定波長400nmにおいて、電解液層の厚さが30μmである場合に換算して(30μmの光路長において)70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが最も好ましい。光透過率は、350〜900nmの波長領域全体において、上記の透過率を有することが好ましい。
【0061】
本願発明の電解液層を形成するには、キャスト法、塗布法、浸漬法等により光電極層上に電解液を塗布する方法や、光電極と対向電極を有するセルを作製しその隙間に電解液を注入する方法などが挙げられる。
【0062】
塗布法によって電解液層を形成する場合、溶融塩等を含む電解液に塗布性改良剤(レベリング剤等)等の添加剤を添加して、これをスピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ホッパーを使用するエクストルージョンコート法、多層同時塗布方法等の方法により塗布し、その後必要に応じて加熱すればよい。加熱する場合の加熱温度は色素の耐熱温度等により適当に選択すればよいが、通常10〜150℃であるのが好ましく、10〜100℃であるのが更に好ましい。加熱時間は加熱温度等にもよるが、5分〜72時間程度である。
【0063】
好ましい態様によれば、光電極層中の空隙を完全に埋める量より多い電解質液を塗布するので、図1に示すように得られる電解液層は光電極層の透明導電層との境界から対向電極層の透明導電層との境界までの間に存在する。
ここで、電解液層の厚さ(半導体粒子層を含まない)は0.001〜200μmであるのが好ましく、0.1〜100μmであるのが更に好ましく、0.1〜50μmであるのが特に好ましい。
電解液層が0.001μmより薄いと光電極層の半導体微粒子が対向電極層の透明導電層に接触するおそれがあり、また200μmより厚いと電荷の移動距離が大きくなりすぎ、素子の抵抗が大きくなる。なお、電解液層の厚さ(実質的に電解液を含む層の厚さ)は0.1〜300μmであるのが好ましく、1〜130μmであるのが更に好ましく、2〜75μmであるのが特に好ましい。
【0064】
酸化還元対を生成させるために電解質組成物にヨウ素等を導入する場合、前述の電解質の溶液に添加する方法や、電解液層を形成した支持体をヨウ素等と共に密閉容器内に置き、電解質中に拡散させる手法等が使用できる。
また、対向電極にヨウ素等を塗布又は蒸着し、光電変換素子を組み立てたときに電解液層中に導入することも可能である。
【0065】
なお、電解液層中の水分は10,000ppm以下であるのが好ましく、更に好ましくは2,000ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。
【0066】
(D)対向電極
対向電極は光電変換素子を光化学電池としたときに正極として作用するものである。
対向電極は、透明基板および透明導電層からなることが好ましい。
透明基板および透明導電層の詳細は、光電極層の透明基板および透明導電層と同様である。
【0067】
(E)その他の層
電極として作用する光電極層及び対向電極層の一方又は両方に、保護層、反射防止層等の機能性層を設けてもよい。
このような機能性層を多層に形成する場合、同時多層塗布法や逐次塗布法が利用できる。生産性の観点からは同時多層塗布法が好ましい。同時多層塗布法では、生産性及び塗膜の均一性の観点からスライドホッパー法やエクストルージョン法が好ましい。
機能性層の形成には、光電極層及び対向電極層の材質に応じて蒸着法や貼り付け法等を用いることができる。
【0068】
本願発明のフィルム型光電池には、上記の基本的層構成に加えて所望に応じさらに各種の層を設けることができる。例えば導電性プラスチック支持体と多孔質半導体層の間に緻密な半導体の薄膜層を下塗り層として設けることができる。
【0069】
下塗り層として好ましいのは金属酸化物であり、たとえばTiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nbなどである。下塗り層は、例えばElectrochim.Acta 40、643-652(1995)に記載されているスプレーパイロリシス法の他、スパッタ法などにより塗設することができる。下塗り層の好ましい膜厚は5〜100nmである。
【0070】
また、光電極として作用する多孔質半導体電極と対向電極の一方又は両方の外側表面、導電層と基板の間又は基板の中間に、保護層、反射防止層、ガスバリアー層などの機能性層を設けてもよい。これらの機能性層は、その材質に応じて塗布法、蒸着法、貼り付け法などによって形成することができる。
【0071】
本願発明のフィルム型光電池の全体の厚さは、機械的フレキシブル性と性能安定性を保証する目的から、150μm以上500μm以下、好ましくは250μm以上450μm以下である。
【0072】
本願発明の多層構成のフィルム型光電池には所望に応じ、短絡防止のためのセパレータ層を含ませることもできる。
このセパレータ層は、色素増感多孔質半導体フィルム電極と対向電極との間に挿入し、フレキシブルな電極である両極が物理的に接触することを防止することを目的とする。
【0073】
セパレータ層を形成する材料は電気的に絶縁性の材料であり、その形体はフィルムの形体、粒子の形体、電解質層と一体化した形体のいずれであってもよいが、フィルム型のセパレータを用いることが好ましい。
【0074】
フィルムの形体で用いる場合、フィルムは電解液を透過する多孔質の膜、例えば樹脂フィルム、不織布、紙などの有機材料が用いられる。また、このような多孔質フィルムは表面を親水化処理してできる親水性のフィルムを用いることもできる。
【0075】
このフィルムの厚みは80μm以下であることが必要であり、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは5〜25μmの範囲である。このフィルムとしては空孔率が50〜85%のものを用いることが必要である。
【0076】
粒子形体で用いる場合は、粒子としては各種の無機材料、有機材料を用いることができる。無機材料としては、シリカ、アルミナ、フッ素系樹脂など、有機材料としてはナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミドなどのビーズが好ましい。これらの粒子の平均粒径は、10〜50μmが好ましく、15〜30μmがさらに好ましい。
【0077】
セパレータが電解質と一体化する場合は、例えば、ポリマーなどによってゲル化した電解液、電解液中の化合物の架橋反応によって電解液を架橋して粘度を高めた電解液などが用いられる。これらのいわゆる擬固体化された電解液も広義のセパレータに含まれる。
【実施例】
【0078】
次に本願発明を実施するための形態を実施例として、表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【化6】

【0081】
【化7】

【0082】
【化8】

【0083】
【化9】

【0084】
【化10】

【0085】
【化11】

【0086】
【化12】

【0087】
(1)電解液の調製
表1に示す(実施例1−1〜1−9、2−1〜2−4)、(比較例1−1〜1−6、2−1〜2−5)において、各電解液溶媒10mLを50mLビーカーに入れた後、各イオン液体を濃度が0.4mol/Lになるように電解液溶媒に添加した。次いで、超音波洗浄機により振動攪拌を1時間行い、ヨウ素を含まない電解液を調製した。
また、表1に示す(実施例3−1〜3−4)、(比較例3−1〜3−3)においては、各電解液溶媒10mLを50mLビーカーに入れた後、各イオン液体を濃度が0.4mol/Lになるように電解液溶媒に添加した。さらに、濃度が0.1mol/L(実施例3−4においては、0.4mol/L)になるようにヨウ素を添加した。次いで、超音波洗浄機により振動攪拌を1時間行い、ヨウ素を含む電解液を調製した。
【0088】
(2)色素溶液の調製
ルテニウム錯体色素(N719、ソラロニクス社製)7.2mgを20mLのメスフラスコに入れた。tert−ブタノ−10mLを混合し、攪拌した。その後、アセトニトリル8mLを加え、メスフラシコに栓をした後、超音波洗浄器による振動により、60分間攪拌した。溶液を常温に保ちながら、アセトニトリルを加え、全量を20mLとした。
【0089】
(3)光電極層の作製
透明導電膜として、インジウム−スズ酸化物(ITO)をコートしたポリエチレンナフタレートフィルム(ITO−PENフィルム、フィルム厚み200μm、シート抵抗150Ω/sq)を20cm×10cmにカットし、メタノールでITO面を洗浄後、ITO面を表にして、平滑なガラス台の上に真空ポンプを使って固定した。
ポリマー成分を含まないバインダーフリー酸化チタンペースト(PECC−C01−06、ペクセル・テクノロジーズ(株)製)をベーカー式アプリケータを用いて、塗布厚み150μmで塗布した。ペーストを常温で10分間乾燥させた後、150℃のホットプレート上で、さらに5分間加熱乾燥して、酸化チタンナノ多孔膜フィルムを作製した。
酸化チタン膜フィルムを放冷後、1.5×2.0cmのサイズにカットした。さらに、カットしたフィルムの短辺(1.5cmの辺)の一方から、2mm内側より、酸化チタン膜を直径6mmの円となるように爪楊枝で削り、電極を作製した。
この酸化チタン電極を、再度、110℃にて10分間加熱乾燥した後、上記のように調製した0.4mMのN719色素液に浸けた。このとき、充分な色素吸着を行うため、色素溶液は、電極一枚当たり、2mL以上を目安とした。
色素溶液を40℃に保ちながら、軽く攪拌しながら、色素を吸着させた。2時間後、シャーレから色素吸着済み酸化チタン膜を取り出し、アセトニトリル溶液にて洗浄して乾燥させた。
【0090】
(4)対向電極層の作製
ガラス基板に塩化白金酸の水溶液をスプレーで塗布した。乾燥後、400℃で20分間熱分解処理を行い、平均厚みが約5nmの白金膜を形成した。このようにして、光透過率が72%の対極用ガラス基板が得られた。
【0091】
(5)色素増感型光電変換素子の作製
色素吸着した半導体層をITO−PENフィルムから掻き落として、受光面積40cm(5cm×8cm)の長方形の受光層を形成した。
この電極に対して、対向電極の透明型銀パターン化ITO−PETフィルムもしくは不透明型の白金蒸着ITO−PETフィルムを、上記のセパレータフィルムを挿入して重ね合わせ、セパレータフィルムが挿入された間隙に毛管効果によって50℃のもとで電解液を注液した。
電解液として、メチルブチルイミダゾリウムアイオダイド、メチルエチルイミダゾリウムテトラフルオロボレイト、tert−ブチルピリジン、ヨウ素の質量比6:4:1:0.2の組成から成る室温溶融塩を用いた。
このように作製したサンドイッチ型のフィルム電池のエッジ部にエポキシ系の熱効果型シール材を注入し、110℃で20分間硬化処理を行った。
このようにして組み立てた名刺サイズのフィルム型光電池は厚さが380μm、重さが2.2gとなった。
【0092】
(6)光電変換素子の色素増感型太陽電池としての評価(エネルギー変換効率)
光源として、150Wキセノンランプ光源にAM1.5Gフィルタを装着した擬似太陽光照射装置(PEC−L11型、ペクセル・テクノロジーズ(株)製)光源を用いた。光量は、1sun(AM1.5G、100mWcm−2(JIS−C−8912のクラスA))に調整した。作製した色素増感型太陽電池をソースメータ(2400型ソースメータ、Keithley社製)に接続した。
電流電圧特性は、1sunの光照射下、バイアス電圧を、0Vから0.8Vまで、0.01V単位で変化させながら出力電流を測定した。出力電流の測定は、各電圧ステップにおいて、電圧を変化後、0.05秒後から0.15秒後の値を積算することで行った。バイアス電圧を、逆方向に0.8V〜0Vまでステップさせる測定も行い、順方向と逆方向の測定の平均値を、光電流とした。
これにより求められた上記の各種素子の初期エネルギー変換効率(η)を表1に示す。
【0093】
(7)光電変換素子の色素増感型太陽電池としての評価(耐久性試験後の性能保持率)
初期エネルギー変換効率を測定した各種素子を環境加速試験機( ペクセル・テクノロジーズ(株)製)を用いて、1sunの光量下に評価サンプルをセットし、60℃30%の温湿度下で1カ月間耐久性試験を行った。耐久性試験後の各素子のエネルギー変換効率を、上記と同一方法で測定した。下記式(1)により算出した耐久性試験後の性能保持率(%)を表1に示す。
(式1)耐久性試験後の性能保持率(%)=(初期変換効率/耐久性試験後変換効率)×100
【0094】
表1の結果から、以下のことが明らかである。
【0095】
(1)電解質溶媒としてグリコールエーテルを採用する場合は、グリコールエーテル以外の非プロトン系極性溶媒(アセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、γブチロラクトン)に比べて、耐久性試験後の性能保持率が高い。(実施例1−1〜1−9)と(比較例1−1〜1−4)との対比。
【0096】
(2)イオン液体の対ハロゲンイオンとして、ヨウ素イオンを採用する場合は、臭素イオン、塩素イオンに比べて、初期変換効率(η)が高い。(実施例1−4)と(比較例1−5、1−6)との対比。
【0097】
(3)イオン液体として、アルキルイミダゾリウムイオンのヨウ化物を採用する場合は、第4級アルキルアンモニウムイオンのヨウ化物に比べて、初期変換効率(η)が高い。アルキル基中にエチレンオキサイド基を有するアルキルイミダゾリウムイオンのヨウ化物を採用した場合には、さらに初期変換効率(η)が高くなる。(実施例1−4、2−1、2−2〜2−4)と(比較例2−1〜2−5)との対比。
【0098】
(4)電解質溶媒にヨウ素を添加しない場合は、電解質液にヨウ素を添加しない場合に比べて、耐久性試験後の性能保持率が高い。(実施例2−2、2−4)と(実施例3−2、3−3)との対比。
【0099】
(5)ただし、電解質溶媒としてグリコールエーテルを採用する場合は、グリコールエーテル以外の非プロトン系極性溶媒(アセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、γブチロラクトン)に比べて、耐久性試験後の性能保持率は実用上支障のないレベルに維持される。(実施例3−1〜3−4)と(比較例3−1〜3−3)との対比。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本願発明に従う色素増感型光電変換素子では、電解液へのヨウ素添加をしなくても、太陽光エネルギー変換の効率に優れ、耐久性に優れ、低コストでかつ環境循環性に優れ、環境負荷の低い色素増感型光電池が得られる。
【符号の説明】
【0101】
1 光電極層
11 透明基板
12 透明電極層
13 半導体粒子
14 増感色素
2 電解液層
3 対向電極層
31 透明基板
32 透明導電層
41 光電極層側の入射光
42 対向電極側の入射光
5 電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、色素増感された半導体粒子からなる半導体電極層、電解液層および対向電極をこの順で有する色素増感型太陽電池または光電変換素子において、
前記電解液層がハロゲンイオンをアニオンとするイオン液体を含み、
下記一般式(1)に示すグリコールエーテルを溶媒とする電解液からなることを特徴とする色素増感型太陽電池または光電変換素子。
【化13】

式中、R,Rは水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、nは1〜10の整数である。
【請求項2】
前記一般式(1)で示すグリコールエーテルが、ジアルキルグリコールエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池または光電変換素子。
【請求項3】
前記イオン液体が、下記一般式(2)で示すアルキルイミダゾリウムのハロゲン化物塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池または光電変換素子。
【化14】

式中、R21,R22,R23は水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、XはCl,Br,Iである。
【請求項4】
前記イオン液体が、上記一般式(2)で示すアルキルイミダゾリウムが鎖中に繰り返し単位1〜8のオキシエチレン基を有するアルキル基からなるアルキルイミダゾリウムのハロゲン化物塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池または光電変換素子。
【請求項5】
前記イオン液体のハロゲンイオンがヨウ化物イオンであることを特徴とする請求項1乃至4に記載の色素増感型太陽電池または光電変換素子。
【請求項6】
前記電解液中の三ヨウ化物イオン濃度が0〜0.4mol/Lであることを特徴とする請求項1乃至5に記載の色素増感型太陽電池または光電変換素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181361(P2011−181361A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44920(P2010−44920)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(504345953)ペクセル・テクノロジーズ株式会社 (30)
【Fターム(参考)】