説明

光電変換素子及び光電変換素子用色素

【課題】光電変換素子の光電変換特性を高めることが可能な、光電変換素子用色素等を提供する。
【解決手段】色素が金属酸化物層に担持された色素担持金属酸化物電極を有する作用電極を備える光電変換素子において、前記色素として、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を用いる。


[式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び光電変換素子用色素に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多種多様な技術分野において、色素が広く使用されている。一例を挙げると、光電変換素子の分野では、例えば、色素増感型太陽電池の作用電極に、光増感作用を有する色素が用いられている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、一般的に、色素の担持体として酸化物半導体を有する電極を有しており、かかる色素が入射した光を吸収して励起され、この励起された色素が電子を担持体に注入することにより、光電変換を行う。そして、この種の色素増感型太陽電池は、理論上、有機系太陽電池の中では高いエネルギー変換効率が期待でき、また、従来のシリコン半導体を用いた太陽電池より低価格で製造できるため、コスト的に非常に有利であると考えられている。
【0004】
一方、光電変換素子に用いられる色素としては、ルテニウム錯体系色素や、シアニン系色素等の有機色素が広く知られている。特に、シアニン系色素は、比較的安定性が高く、また、容易に合成可能であるため、種々の検討がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、エネルギー変換効率等の向上を目的として、メチン鎖骨格の両端にインドレニン骨格が結合した構造を有し、さらに、酸化物半導体電極に吸着するためのアンカー基としてカルボン酸基を有するシアニン系色素が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、近赤外から赤外領域における光電変換特性の向上を目的として、シクロ環が導入されたヘプタメチン鎖骨格の両端にインドレニン骨格が結合した構造を有し、さらに、酸化物半導体電極に吸着するためのアンカー基としてカルボン酸基を有するシアニン系色素が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−166119号公報
【特許文献2】特開2007−220412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、光電変換特性のさらなる向上を目的として、吸収波長領域の広域化が検討されており、特に、近赤外から赤外領域における光吸収強度が大きな色素の開発が求められている。また、近年の光電変換素子の実用化フェーズへの移行にともない、単にエネルギー変換効率に優れる光電変換素子のみならず、新たな付加価値を有するもの、例えば、各色にカラーリングされた光電変換素子や、無色透明の光電変換素子、各色のカラーリングが施された素子を複数並列してカラーコーディネートした光電変換素子等の実現が求められている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のシアニン系色素等に代表される従来の光電変換素子に用いられている色素の多くは、極大吸収波長が450〜700nm付近にあり、近赤外から赤外領域の光吸収強度が小さく、また、青色〜黄色に着色しているので、再現可能な色相に限界があり、新たなカラーバリエーションを創出することが困難であった。
【0010】
一方、特許文献2に記載のシアニン系色素は、極大吸収波長が800nm付近にあり、無色透明に近いものであったが、金属酸化物層への密着性(吸着性)が弱く、色素が剥離しやすいという問題点があった。また、光電変換素子に用いる色素としてはエネルギー変換効率が不十分であり、さらなる改善が求められていた。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、近赤外から赤外領域における光吸収強度が大きく、また、金属酸化物層への密着性(吸着性)に優れ、これにより光電変換特性に優れる光電変換素子用色素及び光電変換素子を提供することにある。そして、本発明のさらなる目的は、薄緑色或いは無色透明の光電変換素子用色素及び光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、本発明者らが新たに合成した特定構造のシアニン系色素を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下<1>〜<7>を提供する。
<1> 色素が金属酸化物層に担持された色素担持金属酸化物電極を有する作用電極を備える光電変換素子において、
前記色素として、下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、下記芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、これらは、芳香環に置換基を有してもよい。Anp−はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは色素全体の電荷を中性に保つ係数である。
<芳香環群A>
【化2】

で表される構造を有する化合物を含む、
光電変換素子。
【0014】
<2>前記一般式(1)において、A1及びA2が、ベンゼン環である、
上記<1>に記載の光電変換素子。
【0015】
<3>前記一般式(1)において、R1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基である、
上記<1>又は<2>に記載の光電変換素子。
【0016】
<4> 前記金属酸化物層は、実質的に酸化亜鉛からなる、
上記<1>〜<3>のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【0017】
<5> 下記一般式(1):
【化3】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、下記芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、これらは、芳香環に置換基を有してもよい。Anp−はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは色素全体の電荷を中性に保つ係数である。
<芳香環群A>
【化4】

で表される構造を有する、光電変換素子用色素。
【0018】
<6> 前記一般式(1)において、A1及びA2が、ベンゼン環である、
上記<5>に記載の光電変換素子用色素。
【0019】
<7> 前記一般式(1)において、R1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基である、
上記<5>又は<6>に記載の光電変換素子用色素。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、近赤外から赤外領域における光吸収強度が大きく、また、金属酸化物層への密着性(吸着性)に優れる光電変換素子用色素が実現される。そのため、この光電変換素子用色素を用いることにより、光電変換特性が高められた光電変換素子を簡易且つ確実に実現することができる。しかも、光電変換特性に優れるのみならず、薄緑色或いは無色透明を呈する光電変換素子をも実現することができるので、新たなカラーバリエーションを創出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】色素増感型太陽電池100の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0023】
本実施形態の色素は、色素増感型太陽電池等の光電変換素子に用いられるものであり、一般式(1)で表される構造(以下、「一般式(1)に示すシアニン構造」ともいう。)を有するものである。一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物(以下、「本実施形態のシアニン化合物」ともいう。)は、例えば、金属酸化物半導体材料を含む金属酸化物層(担持体)に対して吸着性(結合性)を有するとともに、光を吸収して励起され、電子をその担持体に対して注入することができる化合物である。
【0024】
【化5】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、下記芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、これらは、芳香環に置換基を有してもよい。Anp−はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは色素全体の電荷を中性に保つ係数である。
<芳香環群A>
【化6】

【0025】
一般式(1)において、炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基とは、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基を意味する。
【0026】
一般式(1)において、R1〜R4は、光電変換特性を高める観点から、いずれも炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であることが必要とされる。炭素数3以下のアルキル基を用いると、本実施形態のシアニン化合物の会合抑制が不十分となり、また、本実施形態のシアニン化合物の金属酸化物半導体材料への吸着性が劣化する傾向にある。一方、炭素数21以上のアルキル基を用いると、分子間距離が大きくなりすぎて、本実施形態のシアニン化合物から金属酸化物半導体材料への電子注入効率が落ちる傾向にある。また、R1〜R4のうち2つのみが炭素数4〜20の直鎖状アルキル基である場合は、本実施形態のシアニン化合物の会合抑制が不十分となり、優れた光電変換特性が得られ難い傾向にある。また、R1〜R4のうち1つのみ又は3つのみが炭素数4〜20の直鎖状アルキル基である場合は、合成が困難であり、高コスト化する傾向にある。これらの観点から、一般式(1)において、R1〜R4のすべてが炭素数10〜20の直鎖状アルキル基であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)において、A1及びA2は、分子全体としてのπ共役を広げて光吸収波長域の幅をブロード化するとともに、その光吸収ピークの極大吸収波長は800nm付近に設定する観点から、上記の芳香環群Aから選択されるいずれか1種の芳香環であることが必要とされる。これらの中でも、A1及びA2は、ベンゼン環であることが好ましい。A1及びA2は、各々が同一の芳香環であっても異なる芳香環であってもよいが、合成が容易で低コスト化を図る観点から、同一の芳香環であることが好ましい。
【0028】
一般式(1)において、上記の芳香環群Aに示す芳香環は、いずれも、置換基を有してもよい。かかる芳香環に導入されてもよい置換基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子(F,Cl、Br等)、炭素数1〜4の直鎖状又は分枝状のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等)、炭素数1〜4以下のハロゲン化アルキル基(CF,CCl等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基,エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブチルオキシ基、第2ブチルオキシ基、第3ブチルオキシ基等)、炭素数1〜4のハロゲン化アルコキシ基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、A1及びA2の芳香環の置換基は、各々が同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
本実施形態のシアニン化合物は、化合物全体の電荷を中性に保つためにカウンターアニオン(一般式(1)において、Anp−で示す。)を有していてもよい。カウンターアニオンとしては、1価あるいは2価のアニオンであれば、任意のものを用いることができる。一般式(1)のAnp−において、p=1の場合のアニオン(1価のアニオン;An)の具体例としては、例えば、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)或いはヨウ化物イオン(I)等のハロゲン化物イオンや、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF)、過塩素酸イオン(ClO)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF)、塩素酸イオン或いはチオシアン酸イオン等の無機系陰イオンや、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸イオン、2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、N−アルキルジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン或いはN−アリールジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン等の有機スルホン酸系陰イオンや、オクチルリン酸イオン、ドデシルリン酸イオン、オクタデシルリン酸イオン、フェニルリン酸イオン、ノニルフェニルリン酸イオン或いは2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホン酸イオン等の有機リン酸系陰イオンや、その他にビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオン、ビスパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホン酸イオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン或いはトリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボアニオン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。また、一般式(1)のAnp−において、p=2の場合のアニオン(2価のアニオン;An2−)としては、例えば、硫酸イオン(SO2−)、ベンゼンジスルホン酸イオン或いはナフタレンジスルホン酸イオン等が挙げられる。ここで、一般式(1)中で説明したqは、一般式(1)に示したシアニン化合物全体として電荷を中性に保つ係数であり、0であってもよい。また、q=1の場合には、Anp−が1価のアニオンであるAnとなり、化合物全体の電荷を中性に保つように塩を形成する。また、Anp−が2価のアニオンであるAn2−の場合には、q=1/2となる。すなわち、qは0あるいは1/pである。また、本実施形態のシアニン化合物は、分子内で塩を形成した、所謂、内部塩であってもよい。この場合、本実施形態のシアニン化合物は、例えば、インドレニン骨格の窒素原子に導入された−CHCHCOOH基等の酸性基がイオン化したものとなる。
【0030】
本実施形態のシアニン化合物はR1〜R4に炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基が導入されており分子会合が抑制されているため、励起電子が失活し難く金属酸化物半導体材料に対して効率よく電子が注入される。そのため、色素として本実施形態のシアニン化合物を用いた光電変換素子では、照射された光量に対して本実施形態のシアニン化合物から金属酸化物半導体材料への電子注入量の割合が高くなり、IPCE(Incident Photons to Current conversion Efficiency)が向上し、その結果、変換効率が向上したものと考えられる。なお、IPCEとは、光電変換素子において照射した光の光子数に対する光電流の電子数への変換された割合を表すものであり、IPCE(%)=Isc×1240/λ×1/φ(式中、Iscは短絡電流であり、λは波長であり、φは入射光強度である。)により求められる。
【0031】
また、上述したとおり、特許文献2に記載のシアニン系色素においては、金属酸化物層への密着性(吸着性)が弱く、光電変換素子に用いる色素としてはエネルギー変換効率が不十分であった。この特許文献2に記載のシアニン系色素との比較から、さらに以下のことが推察される。すなわち、本実施形態のシアニン化合物においては、R1〜R4に炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基が導入されてシアニン化合物の会合が抑制されている一方でヘプタメチン鎖骨格にシクロ環等が導入されていないことから、謂わば、アンカー基近傍の立体障害が緩和された設計となっており、インドレニン骨格の窒素原子に導入された−CHCHCOOH基の金属酸化物層への吸着が促進され、その密着性が高められている。また、特許文献2に記載のシアニン系色素とは異なり、ヘプタメチン鎖骨格にシクロ環が導入されていないため、本実施形態のシアニン化合物は、金属酸化物半導体材料に対する電子注入が高められている。これらが相まった結果、本実施形態のシアニン化合物を用いた光電変換素子は、特許文献2に記載のシアニン系色素を用いたものに比して、エネルギー変換効率が高められたと考えられる。
【0032】
なお、本実施形態のシアニン化合物は、一般式(1)に示すシアニン構造を有するものであれば、その他の構造については特に限定されない。また、本実施形態のシアニン化合物は、一般式(1)に示すシアニン構造を有するものであれば、その鏡像異性体や、ジアステレオマー又はそれらの混合物であっても同様の効果が得られる。また、上記した「アンカー基」とは、金属酸化物半導体材料を含む金属酸化物層(担持体)に対して、化学的或いは静電的な親和力又は結合能を有する基のことをいう。このアンカー基は、インドレニン骨格の窒素原子に導入された−CHCHCOOH基の他に、上記の芳香環群Aに示す芳香環に導入されていてもよい。
【0033】
本実施形態のシアニン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、以下の(B4)〜(B18)においては、一般式(1)中のAnp−を含まない構造のみを示したが、上述したように、これらは任意のAnp−を有していてもよい。すなわち、上述した1価或いは2価のアニオンであれば、任意に組み合わせることが可能であり、その他のアニオンであっても同様である。また、上述したように、以下の(B4)〜(B18)においては、例えば、酸性基がイオン化して内部塩を形成していてもよい。
【0034】
【化7】


【化8】


【化9】

【0035】
【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】

【0036】
本実施形態のシアニン化合物は、CIE(Commission Internationale d'Eclairage) Yxy表色系の色度座標(x,y)が、0.0≦x≦0.4、及び、0.3≦y≦0.8の範囲内にあることが好ましく、0.30≦x≦0.33、及び、0.32≦y≦0.35の範囲内にあることがより好ましい。かかる範囲にある本実施形態のシアニン化合物は、薄緑色〜緑色を呈するので、また、目視観察で無色透明の作用電極を実現可能なので、光電変換特性に優れる光電変換素子において、新たなカラーバリエーションを創出することが可能となる。なお、本明細書において、CIE Yxy表色系の色度座標(x,y)の測定は、光電変換素子用の作用電極(基体上に色素が担持された金属酸化物電極を有するもの)を作製し、この作用電極を用いて測定したものを意味する。このとき、色素の吸着量は、エネルギー変換効率が最も高くなるよう、最適化したものとする。
【0037】
一般式(1)に示すシアニン化合物は、周知一般の反応を利用した方法で得ることができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、下記の化学反応式(I)に示されるルートの如く、インドレニウム塩及びアミジン塩酸塩から一般式(1)に示すシアニン化合物を合成することができる。
【化25】

【0038】
次に、本実施の形態に係る光電変換素子用色素の使用例について説明する。
【0039】
図1は、本実施形態の光電変換素子である色素増感型太陽電池100の概略構成を示す断面図である。
本実施形態の色素増感型太陽電池100は、作用電極11と、対向電極21と、これら作用電極11及び対向電極21の間に設けられた電解質31とを備える。作用電極11及び対向電極21のうち少なくとも一方は、光透過性を有する電極となっている。作用電極11と対向電極21とは、スペーサ41を介して対向配置され、これら作用電極11、対向電極21及びスペーサ41並びに図示しない封止部材によって画成される封止空間内に電解質31が封入されている。
【0040】
作用電極11は、外部回路に対して、負極として機能する。作用電極11は、基体12の導電性表面12a上に金属酸化物(金属酸化物半導体材料)を含有する多孔性の金属酸化物層13を備え、その金属酸化物層13に上述した一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物(色素)が担持(吸着)されることにより、色素担持金属酸化物電極14が形成されたものである。換言すれば、本実施形態の作用電極11は、上述した一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物が金属酸化物層13の金属酸化物(金属酸化物半導体材料)表面に担持(吸着)された複合構造体が、基体12の導電性表面12a上に積層された構成(色素担持金属酸化物電極14)となっている。
【0041】
基体12としては、少なくとも金属酸化物層13を支持可能なものであればその種類や寸法形状は特に制限されず、例えば、板状或いはシート状の物が好適に用いられる。その具体例としては、例えば、ガラス基板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィンあるいはブロム化フェノキシ等のプラスチック基板、金属基板或いは合金基板、セラミックス基板又はこれらの積層体等が挙げられる。また、基体12は、透光性を有することが好ましく、可視光領域における透光性に優れるものがより好ましい。さらに、基体12は、可撓性を有することが好ましい。この場合、その可撓性を生かした種々の形態の構造物を提供できる。
【0042】
導電性表面12aは、例えば、導電性PETフィルムのように基体12上に透明導電膜を形成する等して、基体12に付与することができる。また、導電性を有する基体12を用いることで、基体12に導電性表面12aを付与する処理を省略することができる。透明導電膜の具体例としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)などを含む金属薄膜や、導電性高分子などで形成されたものの他、インジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、SnO、InOの他、SnOにフッ素をドープしたFTO(F−SnO)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。透明導電膜の形成方法は、特に限定されず、例えば、蒸着法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、或いは浸漬法等、公知の手法を適用できる。また、透明導電膜の膜厚は、適宜設定可能である。なお、基体12の導電性表面12aは、必要に応じて、適宜の表面改質処理が施されていてもよい。その具体的としては、例えば、界面活性剤、有機溶剤又はアルカリ性水溶液等による脱脂処理、機械的研磨処理、水溶液への浸漬処理、電解液による予備電解処理、水洗処理、乾燥処理等公知の表面処理が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0043】
金属酸化物層13は、色素を担持する担持体である。金属酸化物層13は、一般的には、空隙が多く、表面積の大きな多孔質構造を有しているものが用いられ、緻密で空隙の少ないものであることが好ましく、膜状であることがより好ましい。特に、金属酸化物層13は、多孔質の微粒子が付着している構造であることがより好ましい。
【0044】
本実施形態の金属酸化物層13は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を主成分とする多孔性の半導体層である。これらの金属酸化物は、1種のみを単独で用いても、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体など)して用いてもよい。例えば、酸化亜鉛と酸化スズ、酸化チタンと酸化ニオブ等の組み合わせで使用することもできる。高いエネルギー変換効率を得る観点から、金属酸化物層13は、実質的に酸化亜鉛からなる層であることが好ましい。ここで、「「実質的に酸化亜鉛からなる」とは、酸化亜鉛を95wt%以上含むことを意味する。なお、金属酸化物層13は、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、カドミウム、鉛、アンチモン、ビスマス等の金属、これらの金属酸化物及びこれらの金属カルコゲニドを含んでいてもよい。なお、金属酸化物層13の厚みは、特に限定されないが、0.05〜50μmであることが好ましい。
【0045】
金属酸化物層13の形成方法としては、例えば、金属酸化物の分散液を基体12の導電性表面12a上に付与した後に乾燥する方法、金属酸化物の分散液或いはペースト(金属酸化物スラリー)を基体12の導電性表面12a上に付与した後に高温焼結する方法、金属酸化物の分散液或いはペーストを基体12の導電性表面12a上に付与した後に50〜150℃程度の低温処理を行う方法の他、金属塩を含有する電解液から基体12の導電性表面12a上にカソード電析させる方法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ここで、高温焼結を必要としない方法を採用すると、基体12として耐熱性が低いプラスチック材料を用いることができるため、フレキシブル性の高い作用電極11を作製することが可能となる。
【0046】
金属酸化物層13には、光を吸収して励起されることにより電子を金属酸化物へ注入することが可能な色素(増感色素)として、上述した一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物が担持(吸着)されている。
【0047】
なお、色素として、上述した一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物の他に、他の色素(増感色素)を含んでいてもよい。光電変換素子に要求される性能に応じて、所望の光吸収帯・吸収スペクトルを有するものが適用可能である。
【0048】
他の色素の具体例としては、例えば、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ローダミンB、ピロガロール、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB(エリスロシンは登録商標)、フルオレシン、マーキュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素または無金属ポルフィリン系色素などの有機色素等が挙げられる。また、これらの他の色素は、金属酸化物と結合又は吸着することができるアンカー基(例えば、カルボキシル基、スルホン酸基或いはリン酸基等)を有することが好ましい。なお、これらの他の色素は、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
また、他の色素として、例えば、有機金属錯体化合物も使用可能である。有機金属錯体化合物の具体例としては、例えば、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオンもしくは硫黄アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物等が挙げられる。より具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、並びに、ビピリジルルテニウム錯体、ターピリジルルテニウム錯体、フェナントロリンルテニウム錯体、ビシンコニン酸ルテニウム錯体、アゾルテニウム錯体或いはキノリノールルテニウム錯体等のルテニウム錯体等が挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、色素は、1種又は2種以上の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤としては、例えば、色素の会合を抑制する会合抑制剤が挙げられ、具体的には、化学式(2)で表されるコール酸系化合物等である。これらは単独で用いもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0051】
【化26】

(上記式(2)中、R91は酸性基を有するアルキル基である。R92は化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子のいずれかに結合する基を表し、水酸基、ハロゲン基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、複素環基、アシル基、アシルオキシ基、オキシカルボニル基、オキソ基あるいは酸性基またはそれらの誘導体であり、それらは同一であってもよいし異なっていてもよい。tは1以上5以下の整数である。化学式中のステロイド骨格を構成する炭素原子と炭素原子との間の結合は、単結合であってもよいし、二重結合であってもよい。)
【0052】
色素を金属酸化物層13に担持させる方法は、特に限定されない。その具体例としては、例えば、色素を含む溶液に金属酸化物層13を浸漬する方法、色素を含む溶液を金属酸化物層13に塗布する方法等が挙げられる。ここで用いる色素含有溶液の溶媒は、使用する色素の溶解性又は相溶性等に応じて、例えば、水、エタノール系溶媒、ニトリル系溶媒、ケトン系溶媒等の公知の溶媒から適宜選定することができる。
【0053】
ここで、カソード電析法により金属酸化物層13を形成する場合、金属塩及び色素を含む電解液を用いることで、金属酸化物層13の形成と色素担持とを同時に行って、色素が金属酸化物層13の金属酸化物表面に担持(吸着)された色素担持金属酸化物電極14を直ちに形成することもできる。電解条件は、常法にしたがい、使用する材料の特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、ZnOと色素からなる色素担持金属酸化物電極14を形成する場合には、還元電解電位は−0.8〜−1.2V(vs.Ag/AgCl)程度、pHは4〜9程度、電解液の浴温は0〜100℃程度が好ましい。また、電解液中の金属イオン濃度は、0.5〜100mM程度、電解液中の色素濃度は50〜500μM程度が好ましい。さらに、光電変換特性をより一層高めるために、色素が担持された金属酸化物層13から、一旦、色素を脱着し、その後に、他の色素を再吸着させてもよい。
【0054】
なお、作用電極11(金属酸化物電極14)は、基体12の導電性表面12aと金属酸化物層13との間に、中間層を有していてもよい。中間層の材料は、特に限定されないが、例えば、上記の透明導電膜12aで説明した金属酸化物等が好ましい。中間層は、例えば、蒸着法、CVD法、スプレー法、スピンコート法、浸漬法或いは電析法等の公知の手法によって、基体12の導電性表面12aに金属酸化物を析出或いは堆積することで形成することができる。なお、中間層は、透光性を有することが好ましく、さらに導電性を有することが好ましい。また、中間層の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1〜5μm程度が好ましい。
【0055】
対向電極21は、外部回路に対して正極として機能する。対向電極21は、導電性表面22aを有する基体22からなり、その導電性表面21aが作用電極11の金属酸化物層13と対面するように対向配置されている。基体22及び導電性表面22aは、上述した基体12及び導電性表面12aと同様に、公知のものを適宜採用することができ、例えば、導電性を有する基体12の他、基体12上に透明導電膜12aを有するもの、基体12の透明導電膜12a上にさらに白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、モリブデン、チタン、ロジウム、ルテニウム或いはマグネシウム等の金属、カーボン、導電性ポリマー等の膜(板、箔)を形成したもの等を用いることができる。
【0056】
電解質31としては、酸化還元対を有するレドックス電解質やこれをゲル化した半固体電解質或いはp型半導体固体ホール輸送材料を成膜したもの等、一般に電池や太陽電池等において使用されているものを適宜用いることができる。なお、電解質31は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
レドックス電解質としては、例えば、I/I系、Br/Br系、又は、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。具体的には、ヨウ化物塩とヨウ素単体とを組み合わせたもの、又は、臭化物塩と臭素とを組み合わせたもの等、ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたもの等である。かかる酸化還元剤の含有量は、特に限定されないが、電解質の総量に対し、1×10−4〜1×10−2mol/gが好ましく、1×10−3〜1×10−2mol/gがより好ましい。
【0058】
上記のハロゲン化物塩としては、例えば、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類、又は、ハロゲン化ピリジニウム類等が挙げられる。より具体的には、これらのヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化セシウムや、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージド或いはトリメチルフェニルアンモニウムヨージド等の4級アルキルアンモニウムヨージド類や、3−メチルイミダゾリウムヨージド或いは1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド等のイミダゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージド或いは3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージド等のチアゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−ベンゾオキサゾリウムヨージド等のオキサゾリウムヨージド類や、1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージド等のキノリニウムヨージド類や、ピリジニウムヨージド類等が挙げられる。また、臭化物塩としては、例えば、四級アルキルアンモニウムブロミド等が挙げられる。ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものの中でも、上記したヨウ化物塩のうちの少なくとも1種とヨウ素単体との組み合わせが好ましい。
【0059】
また、レドックス電解質は、例えば、イオン性液体とハロゲン単体とを組み合わせたものでもよい。この場合には、さらに上記したハロゲン化物塩などを含んでいてもよい。イオン性液体は、一般に電池や太陽電池等において使用されているものを適宜用いることができ、特に限定されない。イオン性液体の具体例としては、例えば、「Inorg.Chem.」1996,35,p1168〜1178、「Electrochemistry」2002,2,p130〜136、特表平9−507334号公報、或いは、特開平8−259543号公報等に開示されているものが挙げられる。
【0060】
イオン性液体は、室温(25℃)より低い融点を有する塩、又は、室温よりも高い融点を有していても他の溶融塩等と溶解することにより室温で液状化する塩が好ましい。このようなイオン性液体の具体例としては、以下に示したアニオン及びカチオン等が挙げられる。
【0061】
イオン性液体のカチオンとしては、例えば、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム及びそれらの誘導体が挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。具体的には、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム或いは1−エチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0062】
イオン性液体のアニオンとしては、例えば、AlCl或いはAlCl等の金属塩化物や、PF、BF、CFSO、N(CFSO、F(HF)或いはCFCOO等のフッ素含有物イオンや、NO、CHCOO、C11COO、CHOSO、CHOSO、CHSO、CHSO、(CHO)PO、N(CN)或いはSCN等の非フッ素化合物イオンや、ヨウ化物イオン或いは臭化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。これらは、各々を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イオン性液体のアニオンとしては、ヨウ化物イオンが好ましい。
【0063】
電解質31は、上記したレドックス電解質を溶媒に対して溶解、分散或いは懸濁させた液状の電解質(電解液)であっても、上記したレドックス電解質を高分子物質中に保持させた固体高分子電解質であってもよい。また、レドックス電解質とカーボンブラック等の粒子状の導電性炭素材料とを含む擬固体状(ペースト状)の電解質であってもよい。ここで、本明細書において、「擬固体」とは、固体の他、流動性はほとんど認められないが応力の印加により変形可能であるゲル状固形物或いは粘土状固形物を包含する概念を意味し、具体的には、静置して一定時間を放置した後に、自重による形状変化がないか又はその形状変化がわずかなものを意味する。なお、導電性炭素材料を含む擬固体状の電解質では、導電性炭素材料が酸化還元反応を触媒する機能を有するため、電解質中にハロゲン単体を含まなくてもよい。
【0064】
電解質31は、上記したハロゲン化物塩やイオン性液体等を溶解、分散、膨潤又は懸濁させる有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒は、電気化学的に不活性であれば特に制限なく用いることができるが、融点が20℃以下、且つ、沸点が80℃以上のものが好ましい。融点及び沸点がこの範囲にあるものを用いることにより、耐久性が高められる傾向にある。また、有機溶媒は、粘度が高いものが好ましい。粘度が高いことにより沸点が高くなるため、高温環境下に曝されても電解質の漏れが抑制される傾向にある。さらに、有機溶媒は、電気伝導率が高いものが好ましい。電気伝導率が高いことにより高いエネルギー変換効率が得られる傾向にある。
【0065】
有機溶媒の具体例としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キノリン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、アセトン、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、酢酸、ギ酸、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ペンタノール、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジオキサン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、N−メチルピロリドン、γ‐ブチロラクトン、α‐メチル‐γ‐ブチロラクトン、β‐メチル‐γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、3‐メチル‐γ‐バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、有機溶媒は、官能基として、ニトリル基、炭酸エステル構造、環状エステル構造、ラクタム構造、アミド基、アルコール基、スルフィニル基、ピリジン環、環状エーテル構造のうちの少なくとも1種を有するものが好ましい。このような官能基を有する有機溶媒は、これらの官能基をいずれも含まないものと比較して、高い効果が得られるからである。このような官能基を有する有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピルニトリル、ブチロニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドあるいは1,4−ジオキサンなどが挙げられる。中でも、メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、メトキシアセトニトリル及びブチロニトリルが挙げられる。なお、これら有機溶媒は、各々を単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。また、有機溶媒の含有量は、電解質31の総量に対し、10〜80wt%であることが好ましい。
【0066】
なお、電解質31は、要求性能に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、一般に電池や太陽電池等において使用されているものを適宜用いることができる。その具体例としては、例えば、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン及びそれらの誘導体等のp型導電性ポリマー;イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、トリアゾリウムイオン及びそれらの誘導体とハロゲンイオンとの組み合わせからなる溶融塩;ゲル化剤;オイルゲル化剤;分散剤;界面活性剤;安定化剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0067】
電解質31を作用電極11と対向電極21との間に配する方法は特に限定されず、各種公知の手法を用いて行うことができる。例えば、作用電極11の色素担持金属酸化物電極14と対向電極21の導電性表面22aとを、必要に応じてスペーサを介し、所定の間隔を置いて対向配置し、予め形成された注入口を除いて封止剤等を用いて周囲を貼り合わせた後、全体を封止する。続いて、作用電極11と対向電極21との間に、電解質を注入口から注入し、その後、注入口を封止することにより、電解質31を形成することができる。
【0068】
なお、電解質31として固体電荷移動材料を採用する場合、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料等を用いることが好ましい。
【0069】
正孔輸送材料としては、例えば、芳香族アミン類やトリフェニレン誘導体類等が好ましく用いられる。その具体例としては、例えば、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレン或いはその誘導体、ポリ(p−フェニレン)或いはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)或いはその誘導体、ポリチエニレンビニレン或いはその誘導体、ポリチオフェン或いはその誘導体、ポリアニリン或いはその誘導体、ポリトルイジン或いはその誘導体等の有機導電性高分子等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0070】
また、正孔輸送材料として、例えば、p型無機化合物半導体を用いることもできる。この場合、バンドギャップが2eV以上のp型無機化合物半導体を用いることが好ましく、2.5eV以上のp型無機化合物半導体であることがより好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは、色素の正孔を還元できる条件から、作用電極11のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、そのイオン化ポテンシャルは、4.5eV以上5.5eV以下の範囲内であることが好ましく、4.7eV以上5.3eV以下の範囲内であることがより好ましい。
【0071】
p型無機化合物半導体としては、例えば、1価の銅を含む化合物半導体等が好ましく用いられる。1価の銅を含む化合物半導体の具体例としては、例えば、CuI、CuSCN、CuInSe、Cu(In,Ga)Se、CuGaSe、CuO、CuS、CuGaS、CuInS、CuAlSe、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi、MoO、Cr等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0072】
固体電荷移動材料から電解質31を形成する方法は、特に限定されず、各種公知の手法を用いて行うことができる。有機導電性高分子を含む正孔輸送材料を用いる場合、例えば、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法を採用することができる。また、無機固体化合物を用いる場合、例えば、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解メッキ法等の手法を採用することができる。
【0073】
さて、本実施形態の色素増感型太陽電池100は、作用電極11に対して光(太陽光、又は、太陽光と同等の紫外光、可視光或いは近赤外光)が照射されると、その光を吸収して励起した色素が金属酸化物層13へ電子を注入する。注入された電子は、隣接した導電性表面12aに移動したのち外部回路を経由して、対向電極21に到達する。一方、電解質31は、電子の移動にともなって酸化された色素を基底状態に戻す(還元する)ように、酸化される。この酸化された電解質31が上記の電子を受け取ることによって還元される。このように、作用電極11と対向電極21との間における電子の移動と、これにともなう電解質31の酸化還元反応とが繰り返されることにより、連続的な電子の移動が生じ、定常的に光電変換が行われる。
【0074】
ここで、本実施形態の色素増感型太陽電池100においては、上述した一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物を用いているので、従来のものに比して、特に、近赤外領域において、照射された光量に対する色素から金属酸化物層13への電子注入量の割合が高くなるため、エネルギー変換効率を向上させることができる。とりわけ、金属酸化物層13が実質的に酸化亜鉛からなる作用電極11を採用した色素増感型太陽電池100において、エネルギー変換効率がより一層高められたものとなる。
【実施例】
【0075】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
まず、一般式(1)に示すシアニン構造を有する化合物として、化学式(B1)〜(B3)に示す構造を有するシアニン化合物(ヨウ化物)を合成した。
【0077】
(合成例1)
下記の化学反応式(I−1)に示すように、インドレニウム塩I0.46mmol、アミジン塩酸塩0.22mmol、無水酢酸4.4mmol、トリエチルアミン0.51mmol及びアセトニトリル3gを仕込み、85℃で3時間攪拌した後、ヨウ化ナトリウムを加えた。このようにして得られた反応生成物を、クロロホルム:メタノールが10:1の溶出液を用いてシリカゲル精製を行った後に減圧乾燥することにより、最終生成物である化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物8mg(収率4%)を得た。
【0078】
【化27】

【0079】
(合成例2)
下記の化学反応式(I−2)に示すように、インドレニウム塩II2mmol、アミジン塩酸塩1mmol、無水酢酸2.4mmol、トリエチルアミン4mmol及びアセトニトリル4gを仕込み、室温で3時間攪拌した後、ヨウ化ナトリウムを加えた。このようにして得られた反応生成物を、クロロホルム:メタノールが10:1の溶出液を用いてシリカゲル精製を行った後に減圧乾燥することにより、最終生成物である化学式(B2)に示す構造を有するシアニン化合物310mg(収率27%)を得た。
【0080】
【化28】

【0081】
(合成例3)
下記の化学反応式(I−3)に示すように、インドレニウム塩III0.5mmol、アミジン塩酸塩0.25mmol、無水酢酸0.5mmol、トリエチルアミン0.5mmol及びアセトニトリル1.2gを仕込み、室温で5時間攪拌した後、ヨウ化ナトリウムを加えた。このようにして得られた反応生成物を、クロロホルム:メタノールが10:1の溶出液を用いてシリカゲル精製を行った後に減圧乾燥することにより、最終生成物である化学式(B3)に示す構造を有するシアニン化合物8mg(収率2%)を得た。
【0082】
【化29】

【0083】
これらの合成例1〜3の最終生成物について、核磁気共鳴法(nuclear magnetic resonance;NMR)により構造を同定すると共に、最大吸収波長(λmax)を測定した。表1及び表2に、測定結果を示す。
【0084】
なお、NMR測定する際には、測定機器としてJOEL社製のLambda−400を用いた。このとき、合成例1及び3では、重溶媒である重水素化されたクロロホルム(CDCl)1cmに対して最終生成物3〜10mgを溶解させた溶液を測定試料とし、室温にて H−NMRスペクトルを測定した。また、合成例2では、重溶媒のCDClに代えてCDODを用いたことを除き、合成例1及び3と同様にして測定した。
【0085】
また、最大吸収波長(λmax)を調べる際には、日立製作所製のUVスペクトルメータ(U−3010)を用いた。この場合には、最終生成物をメタノール(CHOH;溶媒)に対して、吸光度が0.5〜1.0の範囲内になるように調製して測定に用いた。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1及び表2に示すように、合成例1〜3では、それぞれ化学式(B1)〜(B3)に示す構造を有するシアニン化合物(ヨウ化物)が合成されたことが確認された。
【0089】
次に、以下の手順により、上記の実施形態で説明した色素増感型太陽電池100を作製した。
【0090】
(実施例1)
色素として、上述した合成例1の化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物を用いて、以下の手順により、上記の実施形態で説明した色素増感型太陽電池100を作製した。
【0091】
まず、以下の手順で、作用電極11を作製した。
最初に、導電性表面12aを有する基体12として、フッ素ドープしたSnOを透明導電膜とする縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO)を用意した。続いて、その導電性表面12a上に、縦0.5cm×横0.5cmの四角形を囲むように厚さ70μmのマスキングテープを貼り、この部分に金属酸化物スラリー3cmを一様の厚さとなるように塗布して乾燥させた。この場合、金属酸化物スラリーとしては、10重量%となるように酸化亜鉛粉末(平均粒径20nm;堺化学工業社製FINEX−50)を、非イオン性界面活性剤としてTriton X-100(Tritonは登録商標)を1滴添加した水に懸濁して調製したものを用いた。続いて、導電性表面12a上のマスキングテープを剥がし取り、この基体12を電気炉により450℃で焼成し、金属酸化物層13としての厚さ約5μmの酸化亜鉛膜を形成した。続いて、化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物とデオキシコール酸とをそれぞれ3×10−4mol/dm及び1×10−2mol/dmの濃度になるように無水エタノールに溶解させて、色素含有溶液を調製した。そして、この色素含有溶液中に金属酸化物層13が形成された基体12を浸漬し、化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物を金属酸化物層13に担持させて色素担持金属酸化物電極14を形成することにより、実施例1の作用電極11を得た。
【0092】
次に、以下の手順で、対向電極21を作製した。
まず、導電性表面22aを有する基体22として、フッ素ドープしたSnOを透明導電膜とする縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO)を用意した。続いて、その導電性表面22a上に、スパッタリングにより厚さ100nmのPt層を形成することにより、対向電極21を得た。なお、この場合、導電性表面22aを有する基体22には、電解液注入用の孔(φ1mm)を、予め、2つ開けておいた。
【0093】
次いで、アセトニトリルに対して、ジメチルヘキシルイミダゾリウムヨージド(0.6mol/dm)、ヨウ化リチウム(0.1mol/dm)、ヨウ素(0.05mol/dm)を、それぞれ所定の濃度になるように混合して、電解液を調製した。
【0094】
その後、上記の作用電極11及び対向電極21並びに電解液を用いて、以下の手順で、色素増感型太陽電池100を作製した。
まず、厚さ50μmのスペーサを金属酸化物層13の周りを囲むように配置し、その後、作用電極11の色素担持金属酸化物電極14と対向電極21のPt層とを対向配置し、スペーサを介して貼り合わせた。その後、対向電極21に開けておいた注入孔から電解液を注入して、電解質31を形成した。最後に、セルの周囲全体及び注入孔を封止することにより、実施例1の色素増感型太陽電池100を得た。
【0095】
(実施例2)
色素として、合成例1の化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物に代えて、合成例2の化学式(B2)に示す構造を有するシアニン化合物を用いること以外は、実施例1と同様に処理して、実施例2の作用電極11及び色素増感型太陽電池100を得た。
【0096】
(実施例3)
色素として、合成例1の化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物に代えて、合成例3の化学式(B3)に示す構造を有するシアニン化合物を用いること以外は、実施例1と同様に処理して、実施例3の作用電極11及び色素増感型太陽電池100を得た。
【0097】
(比較例1〜4)
色素として、合成例1の化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物に代えて、下記の色素(C1)〜(C4)をそれぞれ用いること以外は、実施例1と同様に処理して、比較例1〜4の作用電極11及び色素増感型太陽電池100を得た。
【0098】
【化30】

【0099】
<エネルギー変換効率の測定>
得られた実施例1〜3及び比較例1〜4の色素増感型太陽電池100の電池特性を、AM−1.5(1000W/m)のソーラーシミュレーターを用いて測定した。評価結果を、表1に示す。
なお、エネルギー変換効率(η:%)は、色素増感型太陽電池100の電圧をソースメーターにて掃引して応答電流を測定し、これにより得られた電圧と電流との積である最大出力を1cmあたりの光強度で除した値を算出し、この算出結果に100を乗じてパーセント表示したものである。すなわち、エネルギー変換効率(η:%)は、(最大出力/1cmあたりの光強度)×100で表される。
【0100】
<剥離試験>
色素の吸着性(密着性)を評価するために、剥離試験を行った。評価結果を、表1に示す。
なお、剥離試験は、以下の手順により行った。まず、UVスペクトルメータにより、各々の作用電極11の色素担持金属酸化物層14の表面の吸収スペクトル(測定波長は350nm〜950nmの範囲)を測定し、ピーク波長における初期の吸光度を求めた。次に、作用電極11を10重量%の割合で水を含むアセトニトリル混合液100cmに2時間浸漬した後、同様に吸収スペクトルを測定し、ピーク波長における10重量%水含有アセトニトリル2時間浸漬後の吸光度を求めた。最後に、ピーク波長における初期の吸光度と10重量%水含有アセトニトリル2時間浸漬後の吸光度から、色素残存率(%)=(10重量%水含有アセトニトリル2時間浸漬後の吸光度/初期の吸光度)×100を算出した。なお、この一連の吸収スペクトルの測定には、島津製作所製UV−3101PCを用いて、スリット幅5nmとして行った。
【0101】
【表3】

【0102】
表1から明らかなように、合成例1〜3のシアニン式化合物を用いた実施例1〜3の色素増感型太陽電池100は、比較例1〜4の色素増感型太陽電池100に比して、エネルギー変換効率に優れることが確認された。
また、実施例1〜3の作用電極11は、比較例1〜3の作用電極11に比して、色素残存率が高くエネルギー変換効率にも優れる傾向にあることが確認された。このことから、ヘプタメチン鎖骨格にシクロ環等が導入されていない合成例1〜3のシアニン式化合物は、ヘプタメチン鎖骨格にシクロ環等が導入された(C1)〜(C3)のシアニン式化合物に比して、アンカー基近傍の立体障害が緩和され、インドレニン骨格の窒素原子に導入された−CHCHCOOH基の金属酸化物層への吸着が促進され、その密着性が高められるとともに、金属酸化物半導体材料に対する電子注入が高められていることが示唆される。さらに、比較例4は色素残存率は高いが、エネルギー変換効率が低い。実施例1〜3の色素増感型太陽電池100はR1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基であることで、エネルギー変換効率が優れることが示唆される。
【0103】
(実施例4〜6及び比較例5〜8)
焼成法により金属酸化物層13を形成する際に、酸化亜鉛粉末に代えて、酸化チタン(TiO)粉末を含む金属酸化物スラリーをそれぞれ用いること以外は、実施例1〜3及び比較例1〜4と同様に処理して、実施例4〜6及び比較例5〜8の作用電極11及び色素増感型太陽電池100を得た。
なお、上記の酸化チタン粉末を含む金属酸化物スラリーとしては、以下のように調製したものを用いた。まず、チタンイソプロポキシド125cmを、0.1mol/dm硝酸水溶液750cmに攪拌しながら添加し、80℃で8時間激しく攪拌した。得られた液体をテフロン(登録商標)製の圧力容器に注ぎ入れ、その圧力容器を230℃、16時間オートクレーブにて処理した。その後、オートクレーブ処理した沈殿物を含む液体(ゾル液)を攪拌することにより再懸濁させた。続いて、この懸濁液を吸引濾過して再懸濁しなかった沈殿物を除き、ゾル状の濾液をエバポレータで酸化チタン濃度が11質量%になるまで濃縮した。こののち、濃縮液に基板への塗れ性を高めるためにTriton X-100を1滴添加した。続いて、平均粒径30nmの酸化チタン粉末(日本アエロジル社製P−25)をこのゾル状の濃縮液に、酸化チタンの含有率が全体として33質量%となるように加え、自転公転を利用した遠心撹拌を1時間行い、分散させた。
【0104】
得られた実施例4〜6及び比較例5〜8の色素増感型太陽電池100のエネルギー変換効率及び色素残存率を、同様の手法で測定した。評価結果を、表2に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
表2から明らかなように、合成例1〜3のシアニン式化合物を用いた実施例4〜6の色素増感型太陽電池100は、比較例5〜8の色素増感型太陽電池100に比して、エネルギー変換効率に優れることが確認された。
また、実施例4〜6の作用電極11は、比較例5〜8の作用電極11に比して、色素残存率が高くエネルギー変換効率にも優れる傾向にあることが確認された。このことから、ヘプタメチン鎖骨格にシクロ環等が導入されていない合成例1〜3のシアニン式化合物は、ヘプタメチン鎖骨格にシクロ環等が導入された(C1)〜(C3)のシアニン式化合物に比して、アンカー基近傍の立体障害が緩和され、インドレニン骨格の窒素原子に導入された−CHCHCOOH基の金属酸化物層への吸着が促進され、その密着性が高められるとともに、金属酸化物半導体材料に対する電子注入が高められていることが示唆される。さらに、比較例8は、色素残存率は高いが、エネルギー変換効率が低い。実施例4〜6の色素増感型太陽電池100はR1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基であることで、エネルギー変換効率が優れることが示唆される。
さらに、実施例1〜3と実施例4〜6との比較から、実質的に酸化亜鉛からなる金属酸化物層13を有する実施例1〜3の色素増感型太陽電池100は、実質的に酸化チタンからなる金属酸化物層13を有する実施例4〜6の色素増感型太陽電池100に比して、色素残存率は同程度である一方、エネルギー変換効率が有意に優れることが確認された。
【0107】
(参考例1及び2)
色素として、合成例1の化学式(B1)に示す構造を有するシアニン化合物に代えて、下記の色素(化合物D1及び化合物D2)をそれぞれ用いること以外は、実施例1と同様に処理して、参考例1及び2の作用電極11を得た。
【0108】
【化31】


【化32】

【0109】
<CIE Yxy表色系の色度座標(x,y)の測定>
化学式(B1)〜(B3)に示す構造を有するシアニン化合物(ヨウ化物)を用いた実施例1〜3並びに参考例1及び2の作用電極11のCIE Yxy表色系の色度座標(x,y)を、以下の手順で測定した。測定結果を、表3に示す。
なお、CIE Yxy表色系の色度座標(x,y)は、以下の手順により行った。まず、UVスペクトルメータにより、作用電極11の色素担持金属酸化物層14の表面の吸収スペクトル(測定波長は350nm〜850nmの範囲)を測定した。次いで、CIE Yxy表色系の色度座標(x,y)を、日本分光製V−570のカラー診断プログラムにより計算した。
【0110】
【表5】

【0111】
表3から明らかなように、合成例1〜3のシアニン式化合物を用いた実施例1〜3の作用電極11は、いずれも若干の薄緑色を呈し、目視観察ではほぼ無色であることが確認された。
【0112】
なお、上述したとおり、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上説明した通り、本発明は、色素増感型太陽電池等の光電変換素子に関わる電子・電気材料、電子・電気デバイス、及びそれらを備える各種機器、設備、システム等に広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0114】
11…作用電極、12…基体、12a…導電性表面、13…金属酸化物層、14…色素担持金属酸化物電極、21…対向電極、22a…導電性表面、22…基体、31…電解質、41…スペーサ、100…光電変換素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素が金属酸化物層に担持された色素担持金属酸化物電極を有する作用電極を備える光電変換素子において、
前記色素として、下記一般式(1):
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、下記芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、これらは、芳香環に置換基を有してもよい。Anp−はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは色素全体の電荷を中性に保つ係数である。
<芳香環群A>
【化2】

で表される構造を有する化合物を含む、
光電変換素子。
【請求項2】
前記一般式(1)において、A1及びA2が、ベンゼン環である、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基である、
請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記金属酸化物層は、実質的に酸化亜鉛からなる、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
下記一般式(1):
【化3】

(式(1)中、R1〜R4は、それぞれ独立して炭素数が4〜20の直鎖状アルキル基であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、A1及びA2は、下記芳香環群A(ピロール環との縮合位置を示すため、式(1)中のピロール環を円弧aで表した。)から選択されるいずれか1種であり、各々が同一であっても異なっていてもよく、これらは、芳香環に置換基を有してもよい。Anp−はp価のアニオンであり、pは1あるいは2であり、qは色素全体の電荷を中性に保つ係数である。
<芳香環群A>
【化4】

で表される構造を有する、光電変換素子用色素。
【請求項6】
前記一般式(1)において、A1及びA2が、ベンゼン環である、
請求項5に記載の光電変換素子用色素。
【請求項7】
前記一般式(1)において、R1〜R4が炭素数10〜20の直鎖状アルキル基である、
請求項5又は6に記載の光電変換素子用色素。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181287(P2011−181287A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43481(P2010−43481)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】