説明

光電変換素子

【課題】抵抗損失を低減することが可能な光電変換素子を提供する。
【解決手段】p型炭素層及びn型炭素層、並びに、p型炭素層とn型炭素層との間に配設されたi型炭素層を具備し、p型炭素層とi型炭素層との間に配設された第1中間層、及び/又は、n型炭素層とi型炭素層との間に配設された第2中間層を備え、第1中間層はp型不純物を含む炭素結晶層であり、第2中間層はn型不純物を含む炭素結晶層である、光電変換素子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や光検出素子等に代表される光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要という利点を有している。そのため、様々な種類の太陽電池に関する研究が、盛んに進められている。現在、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。
【0003】
これまでに提案されている太陽電池に、いわゆるpin接合を有する太陽電池がある。この形態の太陽電池では、主にi層で光吸収が行われ、生成された電子及び正孔を、p層及びn層によって発生する内部電界により分離して、発電する。
【0004】
このような太陽電池に関する技術として、例えば特許文献1には、第1導電型の第1半導体層、第2導電型の第2半導体層、及び第1半導体層と第2半導体層との間に設けられた真性半導体層を備え、第1半導体層と真性半導体層との間に設けられ、第1半導体層に対し、SP2/SP3結合比が大きく且つ不純物添加量が少ない第1導電型の第1中間半導体層と、第2半導体層と真性半導体層との間に設けられ、第2半導体層に対し、SP2/SP3結合比が大きく且つ不純物添加量が少ない第2導電型の第2中間半導体層と、の少なくとも一方を有する光起電力素子が開示されている。また、特許文献2には、基板上に第1の透明電極層を形成し、第1の透明電極層の上に中間層を形成した後、この中間層の上にp型半導体層、i型半導体層、n型半導体層、第2の透明電極層、及び、背面電極層を順次形成した光起電力素子が開示されている。また、特許文献3には、Teを含むP型化合物半導体と、P型化合物半導体上に形成されたCuS、CuTe又はCuSeからなる中間層と、該中間層にオーミック接合する金属層と、を備える化合物半導体のオーミック電極が開示されている。また、特許文献4には、少なくとも各々導電型及び/又は形状が異なる結晶質シリコンを含む第1の半導体層と第2の半導体層とを有し、第1の半導体層と第2の半導体層との層間に、非晶質からなる中間層を配置する構成を含み、第1の半導体層又は第2の半導体層のいずれか一方の半導体層がp型又はn型半導体層であり、他方の半導体層が実質的に真性な半導体層である光起電力素子が開示されている。また、特許文献5には、入射光を電気信号に変換するための光電変換層と、この光電変換層の光の入射側と反対側に配設され、光電変換層を透過した光を光電変換層側へ反射させる回折機能層とを備え、回折機能層の光電変換層に対向する側に透明樹脂からなる中間層が一体化され、中間層が透明樹脂からなる接着剤を介して光電変換層に接着され、中間層及び接着剤を構成する樹脂は光電変換層よりも低い屈折率を有する薄膜半導体素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−152400号公報
【特許文献2】国際公開第2003/061018号
【特許文献3】特開平8−78355号公報
【特許文献4】特開2004−335823号公報
【特許文献5】特開2000−294818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術では、第1半導体層と真性半導体層との間に第1中間半導体層が設けられ、第2半導体層と真性半導体層との間に第2中間半導体層が設けられる。そのため、第1半導体層と真性半導体層とを接触させた場合に懸念される不純物の拡散、及び、第2半導体層と真性半導体層とを接触させた場合に懸念される不純物の拡散を抑制することが可能になる。しかしながら、第1中間半導体層と真性半導体層との間や第2中間半導体層と真性半導体層との間には、バンドギャップやフェルミ準位の差に起因する障壁が存在する。そのため、単に第1中間半導体層や第2中間半導体層を設けるだけでは、障壁によって、真性半導体層で生成された電子や正孔(以下において、これらをまとめて「キャリア」ということがある。)の移動が妨げられる結果、抵抗損失が増大し、太陽電池の性能を向上させ難いという問題があった。かかる問題は、特許文献1〜特許文献5に開示されている技術を組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、抵抗損失を低減することが可能な光電変換素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
p層、i層、及び、n層に炭素膜を用いた光電変換素子において、p層とi層とを接触させ、i層とn層とを接触させると、これらの層を作製する際に、p層やn層に添加されている不純物元素がi層へと拡散する虞がある。不純物がi層へ拡散すると、光電変換素子の性能が低下するため、好ましくない。そこで、i層への不純物元素の拡散を抑制すべく、不純物元素の拡散を抑制する中間層を、p層とi層との間やn層とi層との間に設けることが考えられる。しかしながら、単に中間層を設けると、バンドギャップやフェルミ準位の相違に起因する障壁によって、i層からp層やn層へと向かうキャリアの移動が妨げられ、抵抗損失が増大する結果、光電変換素子の性能が低下しやすい。そのため、光電変換素子の性能を向上させるためには、中間層を設けたことに起因する抵抗損失の増大を抑制することが必要とされる。
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、p層とi層との間に配設される中間層にp型不純物を添加することによって、障壁を低くすることが可能になることを知見した。また、n層とi層との間に配設される中間層にn型不純物を添加することによって、障壁を低くすることが可能になることも知見した。障壁を低くすることにより、抵抗損失の増大を抑制することが可能になると考えられる。
【0010】
一方、p層とi層との間やn層とi層との間に中間層を設けると、屈折率の相違によって、中間層とi層との界面やn層と中間層との界面等において光が反射されやすい。例えば、i層の表面側にn層が配設され、i層の裏面側にp層が配設される光電変換素子において、i層とn層との間に中間層を単に配設すると、中間層とn層との界面において光が反射される結果、n層側から入射した光がi層へと到達し難い。i層へと到達する光の量が低減すると、光電変換素子の性能が低下するため、中間層を配設する場合には、中間層とn層との界面における光の反射を抑制することが必要とされる。
【0011】
本発明者らは鋭意研究の結果、n層を構成する炭素膜に窒素を添加することによって、屈折率を制御することが可能になり、窒素添加量を適切に制御することによって、n層と中間層との界面における光の反射を抑制することが可能になることを知見した。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、p型炭素層及びn型炭素層、並びに、p型炭素層とn型炭素層との間に配設されたi型炭素層を具備し、p型炭素層とi型炭素層との間に配設された第1中間層、及び/又は、n型炭素層とi型炭素層との間に配設された第2中間層を備え、第1中間層はp型不純物を含む炭素結晶層であり、第2中間層はn型不純物を含む炭素結晶層であることを特徴とする、光電変換素子である。
【0014】
ここに、「p型炭素層」は、例えば、ホウ素等の公知のp型ドーパントを添加したアモルファスカーボン層によって構成することができる。また、「n型炭素層」は、例えば、窒素等の公知のn型ドーパントを添加したアモルファスカーボン層によって構成することができる。また、「i型炭素層」は、例えば、i型のアモルファスカーボン層によって構成することができる。また、「p型不純物」とは、ホウ素等の公知のp型ドーパントをいう。また、「炭素結晶層」とは、例えば、ダイアモンド結晶膜層をいう。また、「n型不純物」とは、リン等の公知のn型ドーパントをいう。
【0015】
また、上記本発明において、第2中間層が備えられ、且つ、n型炭素層に窒素が含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光電変換素子では、p型不純物を含む炭素結晶層である第1中間層がp型炭素層とi型炭素層との間に配設され、n型不純物を含む炭素結晶層である第2中間層がn型炭素層とi型炭素層との間に配設される。p型炭素層とi型炭素層との間に配設される第1中間層にp型不純物を含有させることにより、第1中間層の価電子帯側の障壁を低くすることが可能になる。また、n型炭素層とi型炭素層との間に配設される第2中間層にn型不純物を含有させることにより、第2中間層の伝導帯側の障壁を低くすることが可能になる。かかる形態とすることにより、i型炭素層で生成されたキャリアの抵抗損失を低減することが可能になるので、本発明によれば、抵抗損失を低減することが可能な、光電変換素子を提供することができる。
【0017】
また、本発明において、第2中間層に隣接するn型炭素層に窒素を含有させることにより、n型炭素層と第2中間層との界面における屈折率の差を低減することが可能になる。界面における屈折率の差を低減することにより、界面における光の反射を抑制して、i型炭素層へと達する光の量を増大させることが可能になる。したがって、かかる形態とすることにより、光電変換素子の性能を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光電変換素子10を説明する断面図である。
【図2】光電変換素子10のエネルギーバンド図である。
【図3】従来の光電変換素子90を説明する断面図である。
【図4】光電変換素子90のエネルギーバンド図である。
【図5】本発明の光電変換素子20を説明する断面図である。
【図6】窒素含有量と屈折率との関係を示す図である。
【図7】光電変換素子30を説明する断面図である。
【図8】光電変換素子40を説明する断面図である。
【図9】光電変換素子50を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0020】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の光電変換素子10(以下において、「太陽電池10」という。)を示す断面図である。図1に示すように、太陽電池10は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、p型炭素層3、第1中間層4、i型炭素層5、第2中間層6、n型炭素層7、及び、くし形形状の表面電極8を有している。太陽電池10において、p型炭素層3はp型ドーパントを添加された透明なアモルファスカーボン膜、i型炭素層5は透明なi型アモルファスカーボン膜、n型炭素層7はn型ドーパントを添加された透明なアモルファスカーボン膜である。また、第1中間層4は、ホウ素(B)を添加された透明なダイアモンド結晶膜であり、第2中間層6は、リン(P)を添加された透明なダイアモンド結晶膜である。
【0021】
太陽電池10では、図1の紙面上方から照射された光が、n型炭素層7を通過して第2中間層6へと達する。第2中間層6を構成するダイアモンドはバンドギャップが5.5eVである。そのため、波長が225nm以上の光は第2中間層6によって吸収されず、i型炭素層5へと達する。このようにして光がi型炭素層5へ達すると、i型炭素層5において電子及び正孔が生成される。i型炭素層5で生成された電子及び正孔は、p型炭素層3及びn型炭素層7により発生する内部電界により分離される。そして、電子はi型炭素層5、第2中間層6、及び、n型炭素層7を通過して表面電極8へと達し、正孔はi型炭素層5、第1中間層4、及び、p型炭素層3を通過して裏面電極2へと達する。太陽電池10において、n型炭素層7の電子濃度はi型炭素層5の電子濃度よりも高く、p型炭素層3の正孔濃度はi型炭素層5の正孔濃度よりも高い。
【0022】
図2は、太陽電池10のエネルギーバンド図である。図2において、「●」は電子、「○」は正孔を表しており、図2の上側ほど電子のエネルギーが高く、図2の下側ほど正孔のエネルギーが高い。図2に示すように、ホウ素が添加されている第1中間層4は、伝導帯側の障壁が高く、価電子帯側の障壁が極めて低い。そのため、i型炭素層5において生成された正孔は、第1中間層4によって移動をほとんど妨げられることなく、p型炭素層3へと達することができ、裏面電極2へと移動することができる。また、図2に示すように、リンが添加されている第2中間層6は、価電子帯側の障壁が高く、伝導帯側の障壁が極めて低い。そのため、i型炭素層5において生成された電子は、第2中間層6によって移動をほとんど妨げられることなく、n型炭素層7へと達することができ、表面電極8へと移動することができる。このように、ホウ素が添加された透明なダイアモンド結晶膜によって構成される第1中間層4、及び、リンが添加された透明なダイアモンド結晶膜によって構成される第2中間層6が備えられることにより、障壁を低くして抵抗損失を低減することが可能になる。また、p型炭素層3、第1中間層4、i型炭素層5、第2中間層6、及び、n型炭素層7を炭素材料によって構成することにより、層界面の密着性を向上させることが可能になる。したがって、本発明によれば、抵抗損失を低減することが可能な太陽電池10を提供することができる。
【0023】
図3は、従来の太陽電池90を示す断面図である。図3において、太陽電池10と同様に構成されるものには、図1及び図2にて使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。図3に示すように、太陽電池90は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、p型炭素層3、第1中間層91、i型炭素層5、第2中間層92、n型炭素層7、及び、くし形形状の表面電極8を有している。第1中間層91及び第2中間層92は、透明なダイアモンド結晶薄膜によって構成されており、第1中間層91及び第2中間層92に、ホウ素やリンは添加されていない。
【0024】
図4は、太陽電池90のエネルギーバンド図である。図4において、「●」は電子、「○」は正孔を表しており、図4の上側ほど電子のエネルギーが高く、図4の下側ほど正孔のエネルギーが高い。図4に示すように、ホウ素が添加されていない第1中間層91は、伝導帯側にも価電子帯側にも、同程度の高さの障壁が存在している。同様に、リンが添加されていない第2中間層92は、伝導帯側にも価電子帯側にも、同程度の高さの障壁が存在している。そのため、図3の紙面上方から太陽電池90へ光を照射して、i型炭素層5で正孔及び電子を生成しても、i型炭素層5で生成された正孔及び電子は、第1中間層91の価電子帯側に存在する障壁、及び、第2中間層92の伝導帯側に存在する障壁によって移動を妨げられる結果、抵抗損失が増大する。これに対し、上述のように、本発明の太陽電池10によれば、正孔や電子が移動する際の障壁を極めて低くすることが可能になるので、抵抗損失を低減することが可能になる。
【0025】
太陽電池10において、第1中間層4は、例えば、ホウ素濃度が1×1019cm−3となるようにホウ素をドープした、厚さ(図1の紙面上下方向の長さ。太陽電池10の説明において、以下同じ。)が7nmのダイアモンド結晶膜とすることができる。また、第2中間層6は、例えば、リン濃度が1×1019cm−3となるようにリンをドープした、厚さが7nmのダイアモンド結晶膜とすることができる。
【0026】
また、太陽電池10において、p型炭素層3は、例えば、ホウ素をドープした、キャリア濃度が5×1017cm−3、厚さが10nmのアモルファスカーボン膜とすることができる。また、i型炭素層5は、例えば、キャリア濃度が1×1010cm−3、厚さが500nmの、ドープをしていないアモルファスカーボン膜とすることができる。また、n型炭素層7は、例えば、窒素をドープした、キャリア濃度が5×1017cm−3、厚さが10nmのアモルファスカーボン膜とすることができる。なお、上記例では、p型炭素層3のドーパントとしてホウ素を例示したが、太陽電池10は当該形態に限定されるものではなく、ホウ素以外のIII族元素をドーパントとして用いることもできる。また、上記例では、n型炭素層7のドーパントとして窒素を例示したが、太陽電池10は当該形態に限定されるものではなく、窒素以外のV族元素をドーパントとして用いることもできる。
【0027】
また、太陽電池10において、裏面電極2は、例えば、Ag、ZnO、ZnO/Ag、Au等によって構成することができ、裏面電極6の厚さは、例えば、1μm〜3μmとすることができる。また、表面電極8は、例えば、Au、Ag等によって構成することができ、表面電極8の厚さは、例えば、1μmとすることができる。
【0028】
太陽電池10は、例えば、以下のようにして作製することができる。裏面電極2は、石英基板1の表面に蒸着法等の公知の方法によって作製することができる。裏面電極2を作製したら、形成すべき層が堆積される物質(p型炭素層3を作製する場合は裏面電極2、第1中間層4を作製する場合はp型炭素層3、i型炭素層5を作製する場合は第1中間層4、第2中間層6を作製する場合はi型炭素層5、n型炭素層7を作製する場合は第2中間層6)の温度、及び、原料の投入量を制御する機能を備えたプラズマCVD装置等を用いて、p型炭素層3、第1中間層4、i型炭素層5、第2中間層6、及び、n型炭素層7を順に作製することができる。p型炭素層3及び第1中間層4の原料としては、メタン、アセチレン、及び、エチレン等の炭化水素(以下において、単に「炭化水素」という。)、水素、及び、トリメチルボロン等の添加物を用いることができる。また、i型炭素層5の原料としては、炭化水素及び水素を用いることができる。また、第2中間層6及びn型炭素層7の原料としては、炭化水素、水素、及び、窒素やホスフィン等の添加物を用いることができる。このようにしてn型炭素層7まで作製したら、例えば、フォトリソグラフィー及びエッチングと蒸着法等を組み合わせた方法により表面にくし形形状の凸部を形成した表面電極8を作製することにより、太陽電池10を作製することができる。
【0029】
2.第2実施形態
図5は、第2実施形態にかかる本発明の光電変換素子20(以下において、「太陽電池20」という。)を示す断面図である。図5において、太陽電池10と同様に構成されるものには、図1及び図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。以下の説明において、at%を単に「%」と示すことがある。
【0030】
図5に示すように、太陽電池20は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、p型炭素層3、第1中間層4、i型炭素層5、第2中間層6、n型炭素層21、及び、くし形形状の表面電極8を有している。すなわち、太陽電池20は、太陽電池10のn型炭素層7に代えてn型炭素層21が配設された構造をしている。n型炭素層21は、n型ドーパントであるリンに加えて、n型ドーパントである窒素が部分的に添加された透明なアモルファスカーボン膜である。n型炭素層21は、第2中間層6側に位置する厚さ3nmの部分にのみ積極的に窒素が添加されている。n型炭素層21において、第2中間層6と接触する側の面における窒素濃度は6%程度とされ、第2中間層6側に位置する厚さ3nmの部分では、第2中間層6に近づくにつれて連続的に増大するように、窒素濃度が制御されている。
【0031】
図6は、炭素層の窒素含有量と屈折率との関係を示す図である。図6の横軸が窒素含有量[at%]、縦軸が屈折率である。図6に示すように、窒素含有量が0%の時の屈折率が2.2である炭素層に窒素を含有させると、窒素含有量が増大するにつれて屈折率が大きくなり、窒素含有量を6%程度にすると、炭素層の屈折率は、ダイアモンドの屈折率である2.4になる。太陽電池20では、かかる性質を踏まえ、ダイアモンド膜によって構成される第2中間層6の屈折率2.4に合わせるべく、n型炭素層21の第2中間層6側の面における窒素含有量を6%としている。
【0032】
第2中間層6と接触する側の面における窒素濃度が6%程度となるように制御されたn型炭素層21を備える太陽電池20によれば、n型炭素層21の第2中間層6側の面における屈折率が、第2中間層6の屈折率に揃えられているので、n型炭素層21と第2中間層6との界面における光の反射を低減することが可能になる。さらに、n型炭素層21の内部において窒素濃度を連続的に変化させているため、n型炭素層21の内部における光の反射も低減することが可能になる。かかる構成とすることにより、図5の上方から入射した光がi型炭素層5へと到達しやすくなり、i型炭素層5で生成されるキャリアを増大させることが可能になる。また、太陽電池20は、太陽電池10と同様に、p型炭素層3とi型炭素層5との間に第1中間層4が配設され、i型炭素層5とn型炭素層21との間に第2中間層6が配設されている。したがって、本発明によれば、抵抗損失を低減するとともにi型炭素層5へと到達する光の量を増大させることによって、性能を向上させることが可能な、太陽電池20を提供することができる。
【0033】
太陽電池20において、n型炭素層21のキャリア濃度は、例えば5×1017cm−3とすることができ、n型炭素層21の厚さ(図5の紙面上下方向の長さ)は、例えば10nmとすることができる。なお、上記例では、n型炭素層21のドーパントとしてリン及び窒素を例示したが、太陽電池20は当該形態に限定されるものではなく、窒素のみが添加される形態や、リンに代えてリン及び窒素以外のV族元素が添加される形態とすることも可能である。n型炭素層21は、例えば、窒素濃度が第2中間層6に近づくにつれて連続的に増大するよう制御されるほかはn型炭素層7と同様に作製することができる。
【0034】
3.第3実施形態
図7は、第3実施形態にかかる本発明の光電変換素子30(以下において、「太陽電池30」という。)を示す断面図である。図7において、太陽電池10や太陽電池20と同様に構成されるものには、図1、図2、及び、図5で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0035】
図7に示すように、太陽電池30は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、p型炭素層3、第1中間層31、i型炭素層5、第2中間層32、n型炭素層21、及び、くし形形状の表面電極8を有している。第1中間層31は、ホウ素が添加されていないほかは第1中間層4と同様に構成される透明なダイアモンド結晶膜であり、第2中間層32は、リンが添加されていないほかは第2中間層6と同様に構成される透明なダイアモンド結晶膜である。
【0036】
太陽電池30は、太陽電池20と同様に、n型炭素層21を有している。そのため、n型炭素層21と第1中間層31との界面における光の反射を低減することによって、i型炭素層5へと達する光の量を増大させることが可能になる。i型炭素層5へと達する光の量を増大させることにより、i型炭素層5で生成されるキャリアの数を増大させることが可能になる。また、p型炭素層3、第1中間層31、i型炭素層5、第2中間層32、及び、n型炭素層21を炭素材料によって構成することにより、層界面の密着性を向上させることが可能になるので、抵抗損失を低減することが可能になる。したがって、本発明によれば、性能を向上させることが可能な太陽電池30を提供することができる。
【0037】
太陽電池30において、第1中間層31は、添加物を使用しないほかは第1中間層4と同様に作製することができ、第2中間層32は、添加物を使用しないほかは第2中間層6と同様に作製することができる。第1中間層31及び第2中間層32の厚さ(図7の紙面上下方向の長さ)は、例えば7nmとすることができる。
【0038】
4.第4実施形態
図8は、第4実施形態にかかる本発明の光電変換素子40(以下において、「太陽電池40」という。)を示す断面図である。図8において、太陽電池10や太陽電池30と同様に構成されるものには、図1、図2、及び、図7で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0039】
図8に示すように、太陽電池40は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、第1中間層31、p型炭素層3、i型炭素層5、n型炭素層7、第2中間層32、及び、くし形形状の表面電極8を有している。すなわち、太陽電池40は、第1中間層31及び第2中間層32の配設位置が太陽電池30と異なっており、太陽電池30のn型炭素層21に代えてn型炭素層7が配設された構造をしている。
【0040】
太陽電池は、i層等で生成したキャリアを取り出すため、p層と電極とが接続されており、n層と電極とが接続されている。しかしながら、p層と電極とを直接接触させると、電極構成材料(例えば、金属。以下において同じ。)がp層へと拡散してp層のp型半導体としての性能が低下する虞がある。同様に、n層と電極とを直接接触させると、電極構成材料がn層へと拡散してn層のn型半導体としての性能が低下する虞がある。また、太陽電池において、p層及びn層は内部電界を発生させるための層であり、多数の欠陥が存在するため、厚さがなるべく薄くなるように(例えば、厚さが10nm程度となるように)設定されている。そのため、電極構成材料がi層にまで拡散する虞があり、特に、p層及びn層がアモルファス構造である場合に、電極構成材料がi層にまで拡散する可能性が高くなる。電極構成材料がi層に達すると、電気的に短絡した状態となるため、太陽電池として機能させることが困難になる。そのため、太陽電池の性能を向上させるためには、電極からp層へと向かう電極構成材料の移動、及び、電極からn層へと向かう電極構成材料の移動を防止することも重要である。
【0041】
かかる観点から、太陽電池40では、裏面電極2とp型炭素層3との間に第1中間層31を配設するとともに、n型炭素層7と表面電極8との間に第2中間層32を配設している。第1中間層31及び第2中間層32は、ダイアモンド結晶膜であるため、裏面電極2からp型炭素層3へと向かう電極構成材料の移動、及び、表面電極8からn型炭素層7へと向かう電極構成材料の移動を防止することが可能になる。電極構成材料の移動を防止することにより、p型半導体及びn型半導体の性能低下、並びに、短絡を防止することが可能になる。また、第1中間層31、p型炭素層3、i型炭素層5、n型炭素層7、及び、第2中間層32を炭素材料によって構成することにより、層界面の密着性を向上させることが可能になるので、抵抗損失を低減することが可能になる。したがって、本発明によれば、性能を向上させることが可能な太陽電池40を提供することができる。
【0042】
太陽電池40において、電極構成材料の拡散を防止するという観点から、第1中間層31及び第2中間層32の厚さ(図8の紙面上下方向の長さ。太陽電池40の説明において以下同じ。)は3nm以上とすることが好ましい。また、キャリアの移動を妨げ難い形態にする等の観点から、第1中間層31及び第2中間層32の厚さは10nm以下とすることが好ましい。第1中間層31及び第2中間層32の厚さは、例えば、7nmとすることができる。
【0043】
5.第5実施形態
図9は、第5実施形態にかかる本発明の光電変換素子50(以下において、「太陽電池50」という。)を示す断面図である。図9において、太陽電池40と同様に構成されるものには、図8で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0044】
図9に示すように、太陽電池50は、裏面側から順に、石英基板1、裏面電極2、第1中間層31、p型炭素層3、i型炭素層5、n型炭素層51、第2中間層32、及び、くし形形状の表面電極8を有している。すなわち、太陽電池50は、太陽電池40のn型炭素層7に代えてn型炭素層51が配設された構造をしている。n型炭素層51は、太陽電池20や太陽電池30に備えられているn型炭素層21を上下反転させた形態(第2中間層32側の部位に窒素が含有され、i型炭素層5側の部位には窒素が含有されていない形態)となっている。
【0045】
n型炭素層7に代えてn型炭素層51が備えられる形態とすることにより、第2中間層32とn型炭素層51との界面における光の反射を低減することが可能になるので、i型炭素層5へと達する光の量を増大することが可能になる。したがって、かかる形態とすることにより、太陽電池40よりも性能を向上させることが可能な、太陽電池50を提供することができる。
【0046】
太陽電池40、50に関する上記説明では、p型炭素層3とi型炭素層5との間、及び、n型炭素層7やn型炭素層51とi型炭素層5との間に中間層が配設されない形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。i型炭素層5へp型不純物が拡散し難い形態にする等の観点からは、p型炭素層3とi型炭素層5との間に、p型不純物を含有させた中間層(例えば、第1中間層4)を配設することが好ましい。また、i型炭素層5へn型不純物が拡散し難い形態にする等の観点からは、n型炭素層7やn型炭素層51とi型炭素層5との間に、n型不純物を含有させた中間層(例えば、第2中間層6)を配設することが好ましい。
【0047】
本発明に関する上記説明では、p型炭素層とi型炭素層との間に第1中間層が配設され、且つ、n型炭素層とi型炭素層との間に第2中間層が配設されている形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、第1中間層及び第2中間層の一方のみが備えられ他方が備えられない形態とすることも可能である。ただし、不純物がi型炭素層へと拡散することに起因する性能低下を防止しやすい形態にする等の観点からは、第1中間層及び第2中間層が備えられる形態とすることが好ましい。
【0048】
また、本発明に関する上記説明では、n型炭素層が表面側(上面側)に配設される形態を例示したが、本発明の光電変換素子は当該形態に限定されるものではなく、n型炭素層がi型炭素層の裏面側(上面側)に配設され、p型炭素層がi型炭素層の表面側(下面側)に配設される形態とすることも可能である。ただし、性能を向上させやすい形態にする等の観点からは、n型炭素層が表面側(上面側)に配設される形態とすることが好ましい。
【0049】
また、本発明に関する上記説明では、本発明が太陽電池に適用される場合を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、光検出素子等に代表される他の形態の光電変換素子にも適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の光電変換素子は、電気自動車の動力源や太陽光発電システム等に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…石英基板
2…裏面電極
3…p型炭素層
4…第1中間層
5…i型炭素層
6…第2中間層
7…n型炭素層
8…表面電極
10…光電変換素子
20…光電変換素子
21…n型炭素層
30…光電変換素子
31…第1中間層
32…第2中間層
40…光電変換素子
50…光電変換素子
51…n型炭素層
90…太陽電池
91…第1中間層
92…第2中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型炭素層及びn型炭素層、並びに、前記p型炭素層と前記n型炭素層との間に配設されたi型炭素層を具備し、
前記p型炭素層と前記i型炭素層との間に配設された第1中間層、及び/又は、前記n型炭素層と前記i型炭素層との間に配設された第2中間層を備え、
前記第1中間層はp型不純物を含む炭素結晶層であり、前記第2中間層はn型不純物を含む炭素結晶層であることを特徴とする、光電変換素子。
【請求項2】
前記第2中間層が備えられ、且つ、前記n型炭素層に窒素が含有されていることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−96866(P2011−96866A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249702(P2009−249702)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】