説明

光電変換装置及びその製造方法

【課題】シリコン半導体材料を有効に利用して光電変換特性の優れた光電変換装置を提供とその製造方法を提供することを目的の一とする。
【解決手段】単結晶若しくは多結晶半導体基板から分離した単結晶若しくは多結晶半導体層を光電変換層とする光電変換装置であって、当該半導体層を絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に接合させる所謂SOI構造を備えたことを要旨とする。光電変換層としての機能を奏する単結晶半導体層は単結晶半導体基板の表層部を剥離して転置されたものが適用され、水素若しくはハロゲンが添加された不純物半導体層を光入射側若しくはその反対側の面に設ける構成を含む。光電変換層とする半導体層は、結晶性半導体基板に水素若しくはハロゲンイオン導入して剥離層を形成し、該剥離層を劈開面として剥離される。その半導体層は絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
結晶系シリコン光電変換装置及びその作製方法を含み、広くは結晶半導体の光起電力効果を利用する光電変換装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止対策として、太陽光発電システムの導入が各地で進んでいる。2005年における光電変換装置の全世界生産量は1,759MWであり、前年度に比べて147%の増加である。現在、最も普及が進んでいるのは、結晶系の光電変換装置であり、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた光電変換装置が生産量の大部分を占めている。結晶系の光電変換装置と呼ばれるものは、まず大型のシリコンインゴットを製造し、それを薄く切り出したシリコンウエハーを基体として用いている。
【0003】
単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた結晶系の光電変換装置は、光起電力を生じさせるために、10μm程度の厚さがあれば十分であると試算されている。ところが、シリコンインゴットから切り出されるシリコンウエハーは、200μm乃至500μm程度の厚さを有している。このことは、光電変換装置に使用されるシリコンウエハーの約5%しか光電変換に寄与していないことを意味している。
【0004】
光電変換装置の生産量が増加するにつれ、シリコンウエハーの原料である多結晶シリコンの供給不足と、それによるシリコンウエハーの価格の高騰が産業界の問題となっている。半導体用を含む2006年の多結晶シリコンの世界生産量は約37,000トンであり、このうち太陽電池の需要は11,000トンとなっている。光電変換装置の生産量は年々増加しており、すでに需要が逼迫している。多結晶シリコンの生産能力を増大させるには巨額な投資が必要であり、需要に見合った生産量を確保するのは難しい情勢にある。そのため、シリコンウエハーの供給不足は、今後も続くものと予想されている。
【0005】
ここで、単結晶半導体基板を用いる別形態の光電変換装置として、薄片化された単結晶半導体層を用いるものがある。例えば、高い変換効率を保持しつつ低コスト化及び省資源化を図るために、単結晶シリコン基板に水素をイオン注入し、単結晶シリコン基板から層状に剥離した単結晶シリコン層を、支持基板の上に設けたタンデム型太陽電池が開示されている(特許文献1参照)。このタンデム型太陽電池は、単結晶半導体層と基板とを導電性ペーストで接着している。
【0006】
また、結晶性半導体層を基板上に直接形成しようとする試みも従来から成されている。例えば、27MHz以上のVHF周波数を用い、これをさらにパルス変調して結晶性シリコン膜を基板上に堆積するシリコン薄膜光電変換装置の製造方法が開発されている(特許文献2参照)。また、テクスチャー電極と呼ばれる微細な凹凸構造を持った特殊な電極の上に、薄膜多結晶シリコン膜をプラズマCVD法で成膜する際に、結晶粒と結晶粒界へのドーパント濃度を最適化するために、プラズマ処理条件を制御する技術が開示されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−335683号公報
【特許文献2】特開2005−50905号公報
【特許文献3】特開2004−14958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の技術によれば、結晶系の光電変換装置に用いられる半導体基板は、光電変換に必要な厚さよりも10倍以上厚いものが使用されており、高価なウエハを無駄に使用している。一方、結晶系薄膜シリコン光電変換装置は、半導体基板を用いる光電変換装置と比べ、結晶の質が悪いことから光電変換特性が依然劣っている。結晶系薄膜シリコン光電変換装置は、結晶性シリコン膜を化学気相成長法によって1μm以上の厚さで堆積する必要があり、生産性が悪いといった問題がある。
【0008】
また、薄片化された単結晶半導体層を導電性ペーストを用いて支持基板に接着する方法では、長期間に渡って接着強度を維持できないといった問題がある。特に光電変換装置が直射日光に晒される環境下では、導電性ペーストに含まれる有機材料が変質して接着強度が低下するという問題が発生する。さらに、導電性ペースト中の導電性材料(例えば、銀)が半導体層側に拡散して、半導体の光電変換特性を劣化させるといった信頼性上の問題が発生する。
【0009】
このような状況に鑑み、光電変換装置に必要なシリコン半導体材料を有効利用することを目的の一とする。また、光電変換装置の生産性を向上させ、光電変換特性を向上させることを目的の一とする。また、光電変換装置の信頼性を向上させることを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光電変換装置は、単結晶若しくは多結晶半導体基板から分離した、単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層を用い、当該半導体層を絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に接合させる所謂SOI構造を備えている。光電変換層としての機能を奏する単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層は、半導体基板の表層部を剥離して転置されたものが適用され、水素若しくはハロゲンが添加された不純物半導体層を光入射側及び/又はその反対側の面に設ける構成を含む。
【0011】
単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層は、単結晶又は多結晶の半導体基板に、水素若しくはハロゲンイオン導入し、該剥離層を劈開面として剥離される。単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層は、絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に固定される。単結晶又は多結晶の半導体基板に導入するイオンは、一種類のイオン又は同一の原子から成り質量の異なる複数種類のイオンを導入することが好ましい。例えば、水素イオンを導入する場合には、H、H、Hイオンを含ませると共に、Hイオンの割合を高めておくことが好ましい。原子数の多いイオンを単結晶又は多結晶の半導体基板に導入することで、ドーズ量を実質的に増やすことができ、単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層を形成するに当たり、単結晶半導体層をイオンを導入した層(剥離層)を低温で劈開することが可能となる。
【0012】
単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層と絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板とは、平滑面を有し親水性表面を形成する層を接合面として固定される。接合はファン・デル・ワールス力若しくは水素結合により形成されるものであり、分子間又は原子間の相互作用による力を利用する。好適には、前記基板と単結晶半導体層を接合するに際し、接合を形成する面の一方若しくは双方に、有機シランを原材料として成膜した酸化シリコンで接合層を設ける。有機シランガスとしては、珪酸エチル(TEOS:Si(OC)、トリメチルシラン(TMS:(CHSiH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)等のシリコン含有化合物が適用される。すなわち、絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に単結晶半導体を設けるために、平滑面を有し親水性表面を形成することができる層を、単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層と、絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板との間に設ける。
【0013】
なお、単結晶とは、結晶面、結晶軸が揃っている結晶であり、それを構成している原子又は分子が空間的に規則正しい配列になっているものをいう。もっとも、単結晶は原子が規則正しく配列することによって構成されるものであるが、一部にこの配列の乱れがある格子欠陥を含むもの、意図的又は非意図的に格子歪みを有するものも含まれる。
【発明の効果】
【0014】
単結晶若しくは多結晶半導体基板から剥離した半導体層を光電変換層とすることで、光電変換特性の優れた光電変換装置を得ることができる。当該半導体層に水素若しくはハロゲンが添加された不純物半導体層を光入射側若しくはその反対側の面に設けることで光生成キャリアの収集効率が向上し、光電変換特性を高めることができる。単結晶若しくは多結晶半導体基板から半導体層を剥離して絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板に接合させることで、光電変換に必要な厚さを保持しつつ半導体層を薄膜化することが可能となり、光電変換特性を向上させることができる。また、シリコン資源を節約することができる。
【0015】
接合層として、特定の酸化シリコン膜を用いることにより700℃以下の温度で接合を形成することができる。それにより、ガラス基板等の耐熱温度が700℃以下の基板でであっても接合部の接着力が強固な単結晶半導体層若しくは多結晶半導体層をガラス等の基板上に設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を用いて以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細をさまざまに変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下に説明する本発明の構成において、同じものを指す符号は異なる図面間で共通して用いることとする。
【0017】
(光電変換装置の構成について)
【0018】
図1に、基板101に半導体層102が設けられた光電変換装置の断面構造を示す。基板101は絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板であり、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板を適用される。その他に、セラミック基板、石英ガラス、シリコンウエハーのような半導体基板も適用可能である。半導体層102は結晶系半導体であり、代表的には単結晶シリコンが適用される。その他に、単結晶半導体基板若しくは多結晶半導体基板から剥離可能であるシリコン、ゲルマニウム、その他、ガリウムヒ素、インジウムリンなどの化合物半導体による結晶性半導体を適用することもできる。
【0019】
基板101と半導体層102との間には、平坦な表面を有し親水性表面を形成する接合層103が設けられている。接合層103として絶縁膜が適している。例えば酸化シリコン膜を適用することができる。好適には、有機シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコン膜が好ましい。有機シランガスとしては、珪酸エチル(TEOS:Si(OC)、トリメチルシラン(TMS:(CHSiH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)等のシリコン含有化合物を適用可能である。
【0020】
上記平滑面を有し親水性表面を形成する接合層103の厚さは、5nm乃至500nmの範囲で設ける。接合層103の厚さがこの範囲にあれば、接合層103の下地表面の凹凸の影響を無くして、接合層103の表面を平坦化することができる。さらに、接合する基板との応力歪みを緩和することができる。
【0021】
接合層103は半導体層102側に設けられ、基板101の表面と密接することで、室温であっても接合をすることが可能である。異種材料である基板101と接合層103を低温で接合するには表面を清浄化する。このような状態で基板101と接合層103を密接させると、表面間引力により接合が形成される。この場合、基板101と接合層103の一方若しくは双方の接合形成面に水酸基を付着させる処理を加えると好ましい。酸素プラズマ処理若しくはオゾン処理することで、基板101の表面を親水性にすることができる。この現象は、酸素プラズマ処理若しくはオゾン処理された表面が活性化して、水酸基が付着するためと考えられている。すなわち、基板101の表面を親水性にする処理を行った場合には、表面の水酸基が作用して水素結合により接合が形成される。室温で形成された接合強度を高めるためには、熱処理をすることが好ましい。
【0022】
基板101と接合層103を低温で接合するための処理として、接合を形成する表面にアルゴンなどの不活性ガスによるイオンビームを照射して清浄化しても良い。イオンビームの照射により、基板101若しくは接合層103の表面に未結合種が露呈して非常に活性な表面が形成される。このように活性化された表面同士を密接させると低温でも接合を形成することが可能である。表面を活性化して接合を形成する方法は、当該表面を高度に清浄化しておくことが要求されるので、真空中で行うことが好ましい。
【0023】
基板101と半導体層102を押圧すればより強固に接合を形成することができる。また、基板101と半導体層102を重ね合わせた状態で熱処理を加えれば接合強度を高めることができる。熱処理は、瞬間熱アニール(RTA)装置を用いて300℃乃至700℃で行われる。基板101側から、半導体層102に向けてレーザ光を照射しすることで、接合強度を高めることができる。このような処理を加圧状態で行っても良い。
【0024】
半導体層102は単結晶半導体基板を薄片化して形成される。例えば、単結晶半導体基板の所定の深さに水素等のイオンを高濃度に導入し、その後熱処理を行って表層の単結晶シリコン層を剥離する。単結晶半導体基板に導入するイオンとしては、水素の他にフッ素に代表されるハロゲンのイオンを選択することができる。ハロゲンを導入した後に水素を導入しても良いし、その逆としても良い。また、ヘリウム、アルゴン若しくはクリプトンなどの不活性ガスのイオンをこの工程の前後に導入しても良い。半導体層102の厚さは0.1μm乃至10μmとする。この半導体層102の厚さは、太陽光を吸収するのに十分な厚さである。また、半導体層102中を流れる光生成キャリアが再結合で消滅する前に電極から取り出すために適した厚さでもある。
【0025】
この場合、単結晶半導体基板に、一種類のイオン又は同一の原子から成り質量の異なる複数種類のイオンを導入することが好ましい。例えば、単結晶半導体基板に水素イオンを導入する場合には、H、H、Hイオンを含ませると共に、Hイオンの割合を高めておくことが好ましい。原子数の多いイオンを導入することで、単結晶半導体基板に照射するイオンの数を増やすことができ、イオンの導入に要する時間を短縮することができる。
【0026】
単結晶半導体基板にイオンを導入する方法としてはイオン注入法又はイオンドーピング法を適用することができる。イオン注入とはイオン化したガスを質量分離して半導体に注入する方式を指し、この方式によれば、例えばHを選択的に注入することもできる。イオンドーピング法はイオン化したガスを質量分離せず、そのまま電界で加速して基板に導入させる方式である。このイオンドーピング法を用いると、大面積基板であっても高効率に高ドーズのイオンドーピングを行うことができる。
【0027】
半導体層102を得る他の方法として、ポーラスシリコン上に単結晶シリコンをエピタキシャル成長させた後、ポーラスシリコン層をウオータージェットで劈開して剥離する方法を適用しても良い。
【0028】
半導体層102と接合層103の間には第1電極104が設けられている。第1電極104はアルミニウム、ニッケル又は銀などの金属を用いて形成される。基板101を光入射面とする場合には、第1電極104を酸化インジウムスズなどの透明電極で形成すると良い。第1電極104と接する半導体層102には、第1不純物半導体層105が設けられていることが好ましい。半導体層102がp型の場合には、第1不純物半導体層105に硼素などの元素周期表第13族の元素を添加して不純物濃度を高めp型化する。半導体層102側から光を入射する場合には、この第1不純物半導体層105が、光入射面と反対側に位置することになる。第1不純物半導体層105は内部電界を形成する。これは裏面電界(BSF:Back Surface Field)とも呼ばれており、光生成キャリアの外部量子効率を向上させるために適した構造である。このような構成は、厚さ0.1μm乃至10μmの半導体層102で光電変換層を形成する光電変換装置において有効に作用する。なお、第1不純物半導体層105は省略することも可能であり、後段で説明する第2不純物半導体層106を設ければ光電変換装置として機能を発現させることができる。
【0029】
半導体層102には、第1不純物半導体層105と反対側の面に第2不純物半導体層106が設けられている。第2不純物半導体層106は第1不純物半導体層105とは逆の導電型が付与されている。例えば、第1不純物半導体層105がp型である場合に第2不純物半導体層106はn型の層となる。n型不純物としてはリン、砒素など元素周期表第15族の元素が適用される。不純物元素の添加は、イオン注入法若しくはイオンドーピング法で行ことができる。
【0030】
第2不純物半導体層106には、n型又はp型不純物に加え、水素又はフッ素に代表されるハロゲンが含まれているワイドギャップ層106aが含まれている。水素又はフッ素に代表されるハロゲンは第2不純物半導体層106の全体に分布していても良いが、特に表面側が高濃度となるように分布していることが好ましい。いずれにしても、第2不純物半導体層106における水素又はハロゲンの濃度は、半導体層102の厚さ方向における分布において中央領域よりも高いことが望ましい。図1では第2不純物半導体層106の表層部に水素若しくはハロゲンが高濃度に分布する領域の存在をワイドギャップ層106aとして示す。勿論、第2不純物半導体層106における水素若しくはハロゲンの分布はこれに限定されず、第2不純物半導体層106の全体に水素若しくはハロゲンが分布していても良い。不純物元素が添加される不純物半導体層の近傍にはキャリアトラップとなる欠陥が生成されるので、この欠陥を補償するためにハロゲンを含ませておくことは変換効率を向上させる上で有効である。
【0031】
半導体層102に対して、第2不純物半導体層106の表面側に水素又はフッ素に代表されるハロゲンを他の領域よりも高濃度に含むワイドギャップ層106aを設けることにより、この領域のエネルギーギャップが広がる。ワイドギャップ層106aのエネルギーギャップが広がることにより、この側を光入射面とする場合、入射光が光電変換に適した半導体層102により多く入射することとなり、変換効率を高めることができる。
【0032】
第2不純物半導体層106上には第2電極107が設けられる。第2不純物半導体層106側を光入射面とする場合には、第2電極107はアルミニウム又は銀などを使って櫛形状に整形された電極とするか、酸化インジウムスズなどの透明電極で形成する。この構成において、第2不純物半導体層106上には保護膜108を設けておくことが好ましい。保護膜108は窒化シリコン膜で形成することが好ましい。その他、屈折率の異なる膜を積層して反射防止膜としての機能を付加しても良い。反射防止膜の構成としては、例えば窒化シリコン膜とフッ化マグネシウム膜との積層構造が適用される。一方、基板101側を光入射面とする場合には、この第2電極107をアルミニウムなどの金属で形成すると良い。
【0033】
図2は基板101にバリア層109と接合層103を設けた構成を示す。バリア層109を設けることで、半導体層102が汚染されることを防ぐことができる。すなわち、基板101から半導体層102にアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のような可動イオン不純物が拡散するのを防ぐことができる。バリア層109は窒化シリコン、窒化アルミニウムなどの緻密な絶縁膜を用いることが好ましい。この場合、基板101におけるバリア層109の上層に接合層103を設けることが好ましい。基板101側にも接合層103を設けることで、バリア層109として窒化シリコンなどの緻密な絶縁膜を適用することができ、さらに半導体層102と良好な接合を形成することができる。なお、他の構成は図1と同様である。
【0034】
図3は半導体層102において、第1不純物半導体層105に水素又はフッ素に代表されるハロゲンを含ませる構成を示す。水素又はフッ素に代表されるハロゲンは第1不純物半導体層105の全体に分布していても良く、n型又はp型不純物に加え、水素又はフッ素に代表されるハロゲンが含まれているワイドギャップ層105aが含まれている。ワイドギャップ層105aの水素又はフッ素に代表されるハロゲンの濃度は、第1電極104側が高濃度となるように分布さることが好ましい。図3では第1不純物半導体層105の第1電極104側に水素若しくはハロゲンが高濃度に含まれるワイドギャップ層105aがある態様を示すが、これに限定されず第2不純物半導体層106の全体に水素若しくはハロゲンが分布していても良い。第1不純物半導体層105の水素又はフッ素に代表されるハロゲン濃度を高めることにより、ワイドギャップ層105aのエネルギーギャップが広がる。第1不純物半導体層105のエネルギーギャップが広がることにより、裏面電界(BSF:Back Surface Field)を高めることができ、光生成キャリアの収集効率を高めることができる。また、ビルトインポテンシャル(内蔵電界)も上がるので、結果として光電変換特性を向上させることができる。いずれにしても、第1不純物半導体層105、第2不純物半導体層106における水素又はハロゲンの濃度は、半導体層102の厚さ方向における分布において中央領域よりも高いことが好ましい。なお、他の構成は図1と同様である。
【0035】
図1、図2及び図3を参照して基板101上に接合した半導体層102を用いた光電変換装置の構成を示すが、本形態はこれに限定されず各構成を自由に組み合わせて実施することができる。また、単結晶半導体層に換えて多結晶半導体層を適用することもできる。
【0036】
(実施形態1)
【0037】
単結晶半導体基板から薄い単結晶半導体層を剥離して、絶縁表面を有する基板若しくは絶縁性の基板上に該単結晶半導体層を転置して光電変換装置を製造する方法について図面を参照して説明する。
【0038】
図4は、本形態に係る光電変換装置の平面図を示す。この光電変換装置は、基板101上に設けられた半導体層102側から光が入射する構成である。基板101の周辺部には半導体層102の上層に開口部が形成された絶縁層110が設けられている。半導体層102上には櫛形状の第2電極107が形成されている。第2電極107の反対側に設けられる取出電極111は絶縁層110及び半導体層102を貫通するコンタクトホールにより第1電極と接続する電極ある。
【0039】
次に、図4のA−B切断線に対応する断面図を参照しながらこの光電変換装置の製造工程について説明する。
【0040】
図5(A)に示すように、単結晶半導体基板112の表面に表面保護膜113を形成する。単結晶半導体基板112は代表的には単結晶シリコンであって、表面が鏡面研磨されたシリコンウエハーが好適である。表面保護膜113は酸化シリコン又は窒化シリコンで形成することが好ましく、化学気相成長法により形成する。化学気相成長法として代表的には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法が適用される。表面保護膜113はイオンの導入により単結晶半導体基板112の表面が荒れてしまうのを保護するために設けることが好ましい。表面保護膜113は50nm乃至200nmの厚さで設けることが好ましい。その表面から電界で加速されたイオンを所定の深さに導入して剥離層114を形成する。
【0041】
イオンの導入は基板に転置する半導体層の厚さを考慮して行われる。半導体層の厚さは0.1μm乃至10μmを目安とする。単結晶半導体基板112の比較的深い位置に剥離層114を形成すために、イオンの導入は80kV以上の高加速電圧で導入する。イオンを入射させる角度は単結晶半導体基板112の主面と略垂直とすることが好ましく、チャネリングを積極的に利用しても良い。例えば、<100>結晶軸に垂直にイオンが入射するように単結晶半導体基板112の結晶面方位を選択しても良い。またイオンを導入する深さは、基板を傾けることによって制御しても良い。剥離層114よりも上層が半導体層102となる領域である。
【0042】
剥離層114は、水素又はフッ素に代表されるハロゲンのイオンを導入することで形成される。これに加え、ヘリウム、アルゴン若しくはクリプトンなどの不活性ガスのイオンを加えても良い。イオンの導入はイオン注入法若しくはイオンドーピング法のいずれによっても良い。単結晶半導体基板112に剥離層114を形成する場合、一種類のイオン又は同一の原子から成り質量の異なる複数種のイオンを導入することが好ましい。水素イオンを導入する場合には、H、H、Hイオンを含ませると共に、Hイオンの割合を高めておくことが好ましい。水素イオンを導入する場合には、H、H、Hイオンを含ませると共に、Hイオンの割合を高めておくと導入時間を短縮することができる。原子数の多い水素イオンを導入することで、剥離層114においてシリコンのダングリングボンドを形成すると共に、当該ダングリングボンドを終端して微小な空孔(マイクロボイド)を生成する。
【0043】
剥離層114の形成は、不活性ガスのイオン種を単結晶半導体基板112に導入して、当該導入領域にダングリングボンドを形成した後、水素を導入してダングリングボンドに水素を結合させるようにしても良い。この場合において、単結晶半導体基板112として適用されるシリコンのSi−H結合のみならず、Si−H結合の割合が多くなるように質量の大きい水素イオンを導入することが望ましい。Si−H結合に比べてSi−H結合は低温で水素の放出が始まるので半導体層102の剥離をより低温で行うことができる。いずれにしても、イオンの導入によって形成された微小な空孔にはシリコン結晶の格子間に非結合水素を含ませることができるので、低温の熱処理によっても半導体層102の剥離を容易に行うことができる。
【0044】
次に、図5(B)で示すように、p型を付与する不純物元素として硼素を単結晶半導体基板112の浅い領域にドーピングして第1不純物半導体層105を形成する。第1不純物半導体層105は本形態の光電変換装置において、光入射側と反対側の面に配置され、裏面電界(BSF:Back Surface Field)を形成する。
【0045】
図6は、単結晶半導体基板112に形成された剥離層114と、第1不純物半導体層105の導入不純物分布を説明する。剥離層114は、単結晶半導体基板112の表面から深い領域にあり、水素若しくはフッ素などのハロゲンが他の領域よりも高濃度で分布する領域(一点鎖線で示す領域)に形成される。第1不純物半導体層105は、単結晶半導体基板112の表面側にあり、p型を付与する不純物元素として硼素が他の領域よりも高濃度で分布する領域(点線で示す領域)に形成される。
【0046】
図5(C)は、第1不純物半導体層105上に第1電極104を形成する段階を示す。第1電極104はアルミニウム、ニッケル、銀などの金属で形成する。第1電極104は表面が平坦になるように、真空蒸着法又はスパッタリング法で形成する。
【0047】
図5(D)は、第1電極104上に単結晶半導体基板112を被覆する保護膜115を設け、さらに接合層103を形成する段階を示す。保護膜115は不純物汚染を防止するために窒化シリコン膜で形成することが好ましい。保護膜115により、可動イオンや水分等の不純物が半導体層102に拡散して汚染されることを防ぐことができる。さらに接合層103を形成する際に、第1電極104が酸化するのを防ぐことができる。接合層103は酸化シリコン膜で形成することが好ましい。酸化シリコン膜としては上述のように有機シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコン膜が好ましい。その他に、シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコン膜を適用することもできる。化学気相成長法による成膜では、単結晶半導体基板に形成した剥離層114から脱ガスが起こらない温度として、例えば350℃以下の成膜温度が適用される。これに対して、単結晶半導体基板112から半導体層102を剥離する熱処理は、成膜温度よりも高い熱処理温度が適用される。
【0048】
図7(A)は基板101と単結晶半導体基板112に形成された接合層103の表面とを密着させて両者を接合する段階を示す。接合を形成する面は十分に清浄化しておく。そして、基板101と接合層103を密着させることにより接合が形成される。この接合は上述のように水素結合が作用して接合が形成される。基板101と単結晶半導体基板112とを圧接することで接合をより確実に形成することができる。
【0049】
良好な接合を形成するために、基板101及び/又は接合層103の表面を活性化しておいても良い。例えば、接合を形成する面に、原子ビーム若しくはイオンビームを照射することで基板101及び/又は接合層103の表面を活性化させることができる。原子ビーム若しくはイオンビームを利用する場合には、アルゴン等の不活性ガス中性原子ビーム若しくは不活性ガスイオンビームを用いれば良い。その他プラズマ照射若しくはラジカル処理を行っても良い。このような表面処理により200℃乃至400℃の温度であっても異種材料間の接合を形成することが容易となる。
【0050】
基板101と単結晶半導体基板112を接合層103を介して貼り合わせた後は、加熱処理又は加圧処理を行うことが好ましい。加熱処理又は加圧処理を行うことで接合強度を向上させることが可能となる。加熱処理の温度は、基板101の耐熱温度以下であることが好ましい。加圧処理においては、接合面に垂直な方向に圧力が加わるように行い、基板101及び単結晶半導体基板112の耐圧性を考慮して行う。加熱の方法としてはハロゲンランプなどを用いても良い。低温で接合強度を高める方法としてはレーザ光を照射しても良い。照射するレーザ光の波長としては可視光から紫外光を照射することが好ましい。例えばエキシマレーザ光を照射すると良い。その他、この目的のために紫外光を照射する手段としてエキシマランプを用いても良い。いずれにしても紫外光の照射により接合部の反応が促進され接合強度を高めることができる。
【0051】
図7(B)において、基板101と単結晶半導体基板112を接合した後、熱処理を行って剥離層114を劈開面として、単結晶半導体基板112を基板101から剥離する。熱処理の温度は接合層103の成膜温度以上、基板101の耐熱温度以下で行うことが好ましい。例えば、400℃乃至600℃の熱処理を行うことにより、剥離層114に形成された微小な空洞の体積変化が起こり、基板101上に半導体層102を残して単結晶半導体基板112を剥離することができる。半導体層102の表面には剥離層114を形成するために導入された水素若しくはフッ素などのハロゲンを含むワイドギャップ層116が残される。ワイドギャップ層116は、単結晶半導体基板112としてのシリコン中に水素若しくはハロゲンを含むことによりエネルギーギャップがシリコンの1.12eVよりも広がった層である。これはSi−Siの結合エネルギーに比べ、Si−H若しくはSi−Fの結合エネルギーが大きいために必然的にワイドギャップ化するためである。剥離された半導体層102の表面は微小な凹凸を有するが、この凹凸表面を保存しておいても良い。微小な凹凸により光反射を抑える効果を期待することができる。半導体層102の表面を平坦にするためには化学的機械研磨(CMP)法で研磨しても良い。
【0052】
図8(A)は、基板101に接合された半導体層102上に絶縁層110を形成する段階を示す。絶縁層110は窒化シリコン膜又は酸化シリコン膜を化学気相成長法で形成することが好ましい。
【0053】
図8(B)は、絶縁層110に開口部を形成し、該開口部からリン又は砒素のn型不純物元素を添加して第2不純物半導体層106を形成する段階を示している。この第2不純物半導体層106が光入射側の面となる。この場合、第2不純物半導体層106は、ワイドギャップ層116を含んで形成される。ワイドギャップ層116は、水素若しくはフッ素などのハロゲンに加え、n型不純物元素を含む層である。第2不純物半導体層106はワイドギャップ層116を全体に含んで形成することが可能である。また、第2不純物半導体層106をワイドギャップ層116よりも深い領域にまで形成しても良い。この場合、半導体層102の表面に保護膜108として窒化シリコン膜を形成してリン又は砒素のn型不純物元素を導入すると、ワイドギャップ層116の水素が抜けてしまうのを防ぐことができる。
【0054】
図9は半導体層102に形成される第1不純物半導体層105、第2不純物半導体層106及びワイドギャップ層116aの関係を説明する図である。第2不純物半導体層106のn型不純物元素の分布を点線で示し、ワイドギャップ層116aに含まれる水素若しくはフッ素などのハロゲンの分布を一点鎖線で示す。ワイドギャップ層116aは、n型不純物と、水素若しくはフッ素などのハロゲンとの両方が含まれる領域であり、水素若しくはフッ素などのハロゲンは、半導体基板101の表面側に向かって濃度が高くなっている。
【0055】
図10はこの様子をバンドモデルにより説明する図である。同図に示すように、本形態の構成によれば、ワイドギャップ層116のエネルギーギャップは、半導体層102の中心部よりも広がることとなる。そのため、ワイドギャップ層116を光入射側とすることで、より多くの光を半導体層102に取り込むことができる。さらにワイドギャップ層116は、第2不純物半導体層106中、若しくはその近傍で生成されたホールがワイドギャップ層116側に流れ込み、電極に吸収されてホールが消失することを防ぐホールブロッキング層としての機能を有している。このため、光生成キャリアの収集効率、すなわち外部量子効率を高めることができる。また、半導体層102、第1不純物半導体層105及び第2不純物半導体層106で形成される半導体接合に、ワイドギャップ層116を付加するとで、封入電界(ビルトインポテンシャル)を高めることができる。接合層103を基板101と対向させることにより、第1不純物半導体層105は半導体層102の基板101側の領域に位置している。
【0056】
図8(C)は、第2電極107と、第1電極104と接続する取出電極111を形成する段階を示す。取出電極111は半導体層102を貫通するコンタクトホールを形成した後に形成する。第2電極107及び取出電極111は、アルミニウム、銀、鉛錫(半田)などで形成すれば良い。例えば、銀ペーストを用いてスクリーン印刷法で形成することができる。
【0057】
このようにして図4で示す光電変換装置を製造することができる。本形態によれば、700℃以下(好適には500℃以下)のプロセス温度で単結晶光電変換装置を製造することができる。すなわち、耐熱温度が700℃以下の大面積ガラス基板に、単結晶半導体層を設けた高効率光電変換装置を製造することができる。単結晶半導体層は単結晶半導体基板の表層を剥離することにより得られるが、当該単結晶半導体基板は繰り返し利用することができるので資源を有効に利用することができる。さらに、光入射側に水素若しくはハロゲンが添加された不純物半導体層を光入射側若しくはその反対側の面に設けることで光生成キャリアの収集効率が向上し、光電変換特性を高めることができる。
【0058】
(実施形態2)
【0059】
本形態は、大面積基板上に単結晶半導体層を設けて光電変換装置モジュールを製造する方法について例示する。光電変換装置の製造工程は、前記した図5から図8で説明するものと同様な場合について示す。
【0060】
図5(A)乃至(D)までの工程を行い、作製された単結晶半導体基板112を基板101に接合する。この場合、基板101は複数の単結晶半導体基板112を接合することのできる面積を有するものを適用する。単結晶半導体基板112は接合層103により基板101に固定される。接合の形成に当たっては、複数の単結晶半導体基板112を基板101に固定して、その後熱処理を行えば良い。単結晶半導体基板112を剥離すると、基板101に半導体層102が形成される。図11は複数の半導体層102が基板101に接合されている態様を示す。また、図11に示すC−D切断線、E−F切断線に対応する断面図を図12(A)(B)に示す。半導体層102は隣接するもの同士が一定の間隔を持って配列されていても良い。以降の工程では、複数の半導体層102を含む基板101を1枚の単位として各種工程を進めることができる。
【0061】
その後、図8(A)から(B)に示す工程を行い、半導体層102に第2不純物半導体層106を形成する。半導体層102上に絶縁層110を形成した後、その絶縁層110に開口部を設け第2不純物半導体層106を形成する。第2不純物半導体層106はイオンドーピング装置を用いて、形成することができるので個々の単結晶半導体基板を枚葉処理するよりも処理時間を短縮することができる。そして保護膜108を形成する。
【0062】
図13は第1電極104と接続するコンタクト孔117を形成する工程を示す。図14(A)(B)はC−D切断線、E−F切断線に対応する断面図を示す。コンタクト孔117は保護膜108上から形成する。コンタクト孔117は集光したレーザビームを半導体層102に照射して行う。そして半導体層102を除去することで第1電極104の表面若しくは側面を露出させるように加工する。レーザビームは基板101上を走査すれば良いので、複数の半導体層102が設けられている場合でも、コンタクト孔117の形成に要する時間は短くて済む。
【0063】
その後、図15で示すように、第1電極104の取出電極111と第2電極107を形成する。図16(A)(B)はC−D切断線、E−F切断線に対応する断面図を示す。取出電極111はコンタクト孔117を充填するように形成すれば第1電極104と接続することができる。第2電極107及び取出電極111は、アルミニウム、銀、鉛錫(半田)などで形成すれば良い。例えば、銀ペーストを用いてスクリーン印刷法で形成することができる。第2電極107及び取出電極111は基板101上を引き回せば接続端子を形成することができる。
【0064】
このようにして、複数の光電変換装置を1枚の基板上に配置した光電変換装置モジュールを製造することができる。本形態によれば、700℃以下(好適には500℃以下)のプロセス温度で単結晶光電変換装置を製造することができる。すなわち、耐熱温度が700℃以下の大面積ガラス基板に、単結晶半導体層を設けた高効率光電変換装置モジュールを製造することができる。
【0065】
(実施形態3)
【0066】
本形態では、半導体層102を取り出した単結晶半導体基板112を再利用して実施形態1と同様に光電変換装置を製造する工程を示す。
【0067】
図17(A)は実施形態1で、半導体層102を形成するために用いた単結晶半導体基板112に表面保護膜113を形成し、水素又はフッ素に代表されるハロゲンのイオンを導入して剥離層114を形成する工程を示す。剥離層114には、ヘリウム、アルゴン若しくはクリプトンなどの不活性ガスのイオンが加えられていても良い。単結晶半導体基板112の表面にはワイドギャップ層116が残存している。ワイドギャップ層116は先の工程で剥離層として形成され、現工程において残存する水素若しくはハロゲンを含む層である。本工程において単結晶半導体基板112の表面はCMPなどの処理により平坦化されていることが好ましい。
【0068】
次に、図17(B)で示すように、p型を付与する不純物元素として硼素を、単結晶半導体基板112の浅い領域にドーピングして、第1不純物半導体層105を形成する。第1不純物半導体層105はワイドギャップ層116を含んで形成される。第1不純物半導体層105はワイドギャップ層116を全体に含んで形成することも可能である。また、第1不純物半導体層105をワイドギャップ層116よりも深い領域にまで形成しても良い。
【0069】
図18は単結晶半導体基板112に形成された剥離層114と第1不純物半導体層105及びワイドギャップ層116aの関係を説明する図である。剥離層114は単結晶半導体基板112の表面から深い領域に形成される。第1不純物半導体層105のp型不純物元素の分布を点線で示し、ワイドギャップ層116aに含まれる水素若しくはフッ素などのハロゲンの分布を一点鎖線で示す。ワイドギャップ層116aは、p型不純物と、水素若しくはフッ素などのハロゲンとの両方が含まれる領域であり、水素若しくはフッ素などのハロゲンは、半導体基板101の表面側に向かって濃度が高くなっている。第1不純物半導体層105は本形態の光電変換装置において、光入射側と反対側の面に配置され、裏面電界(BSF:Back Surface Field)を形成する。
【0070】
図17(C)は、第1不純物半導体層105上に、第1電極104を形成する段階を示す。第1電極104はアルミニウム、ニッケル、銀などの金属で形成する。第1電極104は表面が平坦になるように、真空蒸着法又はスパッタリング法で形成する。
【0071】
図17(D)は、第1電極104上に単結晶半導体基板112を被覆する保護膜115を設け、さらに接合層103を形成する段階を示す。接合層103は酸化シリコン膜で形成することが好ましい。酸化シリコン膜としては上述のように有機シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコン膜が好ましい。その他に、シランガスを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコン膜を適用することもできる。
【0072】
その後、実施形態1と同様にして基板101に半導体層102を接合する。図19(A)は、基板101に接合された半導体層102上に絶縁層110を形成する段階を示す。絶縁層110は窒化シリコン膜又は酸化シリコン膜を化学気相成長法で形成することが好ましい。半導体層102の表面には剥離層114を形成するために導入された水素若しくはフッ素などのハロゲンを含むワイドギャップ層116が残されている。ワイドギャップ層116は、単結晶半導体基板112としてのシリコン中に水素若しくはハロゲンを含むことによりエネルギーギャップがシリコンの1.12eVよりも広がった層である。
【0073】
図19(B)は、絶縁層110に開口部を形成し、該開口部からリン又は砒素のn型不純物元素を添加して第2不純物半導体層106を形成する段階を示している。この第2不純物半導体層106が光入射側の面となる。この場合、第2不純物半導体層106は、ワイドギャップ層116を含んで形成される。第2不純物半導体層106はワイドギャップ層116を全体に含んで形成することが可能である。また、第2不純物半導体層106をワイドギャップ層116よりも深い領域にまで形成しても良い。この場合、半導体層102の表面に保護膜108として窒化シリコン膜を形成してリン又は砒素のn型不純物元素を導入すると、ワイドギャップ層116の水素が抜けてしまうのを防ぐことができる。
【0074】
図20は半導体層102に形成される第1不純物半導体層105、第2不純物半導体層106及びワイドギャップ層116aの関係を説明する図である。ワイドギャップ層116aは半導体層102の両側に設けられることとなる。図20では、第1不純物半導体層105のp型不純物元素と第2不純物半導体層106のn型不純物元素の分布を点線で示し、ワイドギャップ層116aに含まれる水素若しくはフッ素などのハロゲンの分布を一点鎖線で示す。ワイドギャップ層116aは、p型不純物若しくはn型不純物と、水素若しくはフッ素などのハロゲンとの両方が含まれる領域である。
【0075】
図21はこの様子をバンドモデルにより説明する図である。同図に示すように、本形態の構成によれば、第1不純物半導体層105及び第2不純物半導体層106の外側に設けられるワイドギャップ層116のエネルギーギャップは、半導体層102の中心部よりも広がることとなる。第2不純物半導体層106側のワイドギャップ層116を光入射側とすることで、より多くの光を半導体層102に取り込むことができる。さらに、第2不純物半導体層106側のワイドギャップ層116は、第2不純物半導体層106中若しくはその近傍で生成されたホールがワイドギャップ層116側に流れ込んで電極に吸収されて消失することを防ぐホールブロッキング層としての機能を有している。また、第1不純物半導体層105側のワイドギャップ層116は電子に対するブロッキング層としての機能を有している。本構成によれば、第1不純物半導体層105と第2不純物半導体層106の両側に電子及びホールに対するブロッキング層がワイドギャップ層116により形成されるので、光生成キャリアが逆方向に拡散して電極に吸収されて消失してしまうのを防ぐことができる。このため、光生成キャリアの収集効率、すなわち外部量子効率を高めることができる。
【0076】
図19(C)は、第2電極107と、第1電極104と接続する取出電極111を形成する段階を示す。取出電極111は半導体層102を貫通するコンタクトホールを形成した後に形成する。第2電極107及び取出電極111は、アルミニウム、銀、鉛錫(半田)などで形成すれば良い。例えば、銀ペーストを用いてスクリーン印刷法で形成することができる。
【0077】
このようにして光電変換装置を製造することができる。本形態によれば、700℃以下(好適には500℃以下)のプロセス温度で単結晶光電変換装置を製造することができる。すなわち、耐熱温度が700℃以下の大面積ガラス基板に、単結晶半導体層を設けた光電変換装置を製造することができる。単結晶半導体層は単結晶半導体基板の表層を剥離することにより得られるが、当該単結晶半導体基板は繰り返し利用することができるので資源を有効に利用することができる。さらに、水素若しくはハロゲンが添加されてワイドギャップ化された不純物半導体層を半導体層102の光入射側及びその反対側の面に設けることで光生成キャリアの収集効率が向上し、光電変換特性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】絶縁基板上の単結晶半導体層を光電変換層とする光電変換装置の断面構造を示す図。
【図2】絶縁基板上の単結晶半導体層を光電変換層とする光電変換装置の断面構造を示す図。
【図3】絶縁基板上の単結晶半導体層を光電変換層とする光電変換装置の断面構造を示す図。
【図4】実施の形態に係る光電変換装置の平面図。
【図5】実施の形態に係る光電変換装置の製造工程を説明する断面図。
【図6】単結晶半導体基板に形成された剥離層と第1不純物半導体層の不純物分布を説明する図。
【図7】実施の形態に係る光電変換装置の製造工程を説明する断面図。
【図8】実施の形態に係る光電変換装置の製造工程を説明する断面図。
【図9】半導体層に形成される第1不純物半導体層、第2不純物半導体層及びワイドギャップ層の関係を説明する図。
【図10】図9で示す構成をバンドモデルにより説明する図。
【図11】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する平面図。
【図12】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する断面図。
【図13】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する平面図。
【図14】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する断面図。
【図15】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する平面図。
【図16】実施の形態に係る光電変換装置モジュールの製造工程を説明する断面図。
【図17】実施の形態に係る光電変換装置の製造工程を説明する断面図。
【図18】単結晶半導体基板に形成された剥離層と第1不純物半導体層の不純物分布を説明する図。
【図19】実施の形態に係る光電変換装置の製造工程を説明する断面図。
【図20】半導体層に形成される第1不純物半導体層、第2不純物半導体層及びワイドギャップ層の関係を説明する図。
【図21】図20で示す構成をバンドモデルにより説明する図。
【符号の説明】
【0079】
101 基板
102 半導体層
103 接合層
104 第1電極
105 第1不純物半導体層
105a ワイドギャップ層
106 第2不純物半導体層
106a ワイドギャップ層
107 第2電極
108 保護膜
109 バリア層
110 絶縁層
111 取出電極
112 単結晶半導体基板
113 表面保護膜
114 剥離層
115 保護膜
116 ワイドギャップ層
116a ワイドギャップ層
117 コンタクト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁表面を有する基板に密接する絶縁材料でなる接合層と、前記接合層に密接する第1電極と、前記第1電極上の単結晶半導体層と、前記単結晶半導体層上の第2電極とを有し、
前記単結晶半導体層は、前記第1電極側に一導電型不純物が添加された第1不純物半導体層と、前記第2電極側に一導電型とは逆の導電型の第2不純物半導体層とを有し、
前記第2不純物半導体層に含まれる水素又はハロゲンの濃度は、前記第2電極側の表層部が、他の領域に比較して高いことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
請求項1において、前記絶縁材料が酸化シリコンであることを特徴とする光電変換装置。
【請求項3】
請求項2において、前記酸化シリコンは有機シランガスを用いて化学気相成長法により形成されたものであることを特徴とする光電変換装置。
【請求項4】
請求項3において、前記有機シランガスが、珪酸エチル(TEOS:Si(OC)、トリメチルシラン(TMS:(CHSiH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)から選ばれた一であることを特徴とする光電変換装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、前記絶縁表面を有する基板が、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスから選ばれた一種であることを特徴とする光電変換装置。
【請求項6】
絶縁表面を有する基板に密接する絶縁材料でなる接合層と、前記接合層に密接する第1電極と、前記第1電極上の単結晶半導体層と、前記単結晶半導体層上の第2電極とを有し、
前記単結晶半導体層は、前記第1電極側に一導電型不純物が添加された第1不純物半導体層と、前記第2電極側に一導電型とは逆の導電型の第2不純物半導体層とを有し、
前記第1不純物半導体層に含まれる水素又はハロゲンの濃度は、前記第1電極側の表層部が、その内側の領域に比較して高く、前記第2不純物半導体層に含まれる水素又はハロゲンの濃度は、前記第2電極側の表層部が、他の領域に比較して高いことを特徴とする光電変換装置。
【請求項7】
請求項6において、前記絶縁材料が酸化シリコンであることを特徴とする光電変換装置。
【請求項8】
請求項7において、前記酸化シリコンは有機シランガスを用いて化学気相成長法により形成されたものであることを特徴とする光電変換装置。
【請求項9】
請求項8において、前記有機シランガスが、珪酸エチル(TEOS:Si(OC)、トリメチルシラン(TMS:(CHSiH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)から選ばれた一であることを特徴とする光電変換装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれか一項において、前記絶縁表面を有する基板が、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスから選ばれた一種であることを特徴とする光電変換装置。
【請求項11】
水素及び/又はハロゲンをソースガスとしてプラズマ励起して生成された一種類のイオン又は同一の原子から成り質量の異なる複数種類のイオンを単結晶半導体基板に導入して該単結晶半導体基板の表面から所定の深さの領域に水素及び/又はハロゲンを含む剥離層を形成し、
前記単結晶半導体基板上に有機シランガスを用いて化学気相成長法により酸化シリコン膜を形成し、
前記単結晶半導体基板と絶縁表面を有する基板を、前記酸化シリコン膜を挟んで重ね合わせて接合し、
前記単結晶半導体基板と前記絶縁表面を有する基板を重ね合わせた状態で熱処理を行い、前記剥離層に亀裂を生じさせ、前記絶縁表面を有する基板上に
水素及び/又はハロゲンを含む前記剥離層の一部を含む単結晶半導体層を残存させたまま前記単結晶半導体基板を剥離して除去し、
前記剥離層を少なくとも一部に含むように前記単結晶半導体層に不純物元素を添加して不純物半導体層を形成することを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項12】
水素及び/又はハロゲンをソースガスとしてプラズマ励起して生成された一種類のイオン又は同一の原子から成り質量の異なる複数種類のイオンを、表層部に水素及び/又はハロゲンを含む単結晶半導体基板に導入し、該表層部よりも深い領域に水素及び/又はハロゲンを含む剥離層を形成し、
前記表層部を少なくとも一部に含むように前記単結晶半導体層に一導電型の不純物元素を添加して第1不純物半導体層を形成し、
前記単結晶半導体基板上に有機シランガスを用いて化学気相成長法により酸化シリコン膜を形成し、
前記単結晶半導体基板と絶縁表面を有する基板を、前記酸化シリコン膜を挟んで重ね合わせて接合し、
前記単結晶半導体基板と前記絶縁表面を有する基板を重ね合わせた状態で熱処理を行い、前記剥離層に亀裂を生じさせ、前記絶縁表面を有する基板上に
水素及び/又はハロゲンを含む前記剥離層の一部を含む単結晶半導体層を残存させたまま前記単結晶半導体基板を剥離して除去し、
前記剥離層を少なくとも一部に含むように前記単結晶半導体層に一導電型とは逆の導電型の不純物元素を添加して第2の不純物半導体層を形成することを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は請求項12において、前記有機シランガスが、珪酸エチル(TEOS:Si(OC)、トリメチルシラン(TMS:(CHSiH)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH)から選ばれた一種を用いることを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項14】
請求項11又は請求項12において、前記単結晶半導体基板上に有機シランガスを用いて化学気相成長法により酸化シリコン膜を形成する温度が前記剥離層に導入した元素が離脱しない温度であり、前記熱処理が、前記剥離層に導入した元素が離脱する温度で行われることを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項15】
請求項11又は請求項12において、前記単結晶半導体基板上に有機シランガスを用いて化学気相成長法により酸化シリコン膜を形成する温度が350℃以下であり、前記熱処理が400℃以上の温度で行われることを特徴とする光電変換装置の製造方法。
【請求項16】
請求項11又は請求項12において、前記剥離層の形成は、H、H、Hイオンを導入することにより行われるものであって、H、H、Hイオンのうち、Hイオンの割合が高いことを特徴とする光電変換装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−283176(P2008−283176A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103609(P2008−103609)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】