説明

光電式煙感知器

【課題】煙濃度が急激に増減しても、誤報や失報が発生しない煙感知器を提供することを目的とする。
【解決手段】検煙空間で、第1の発光パルス幅で光を発生する第1の発光素子と、上記検煙空間で、上記第1の発光素子の光軸とは異なる光軸を具備し、上記第1の発光パルス幅よりも狭いパルス幅である第2の発光パルス幅の光を発生し、上記第1の発光パルス幅の時間内に発光し、上記第1の発光素子が発生する光と同じ波長分布を具備する光を発生する第2の発光素子と、上記第1の発光素子の光軸との交差角度と、上記第2の発光素子の光軸との交差角度とが異なる受光素子と、上記受光素子の出力信号を、上記第1の発光素子が発光した光の成分と上記第2の発光素子が発光した成分とに分離する分離手段と、上記分離手段が出力した各出力値に基づいて火災判別する火災判別手段とを有する光電式煙感知器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電式煙感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光電式煙感知器として、2つの発光素子を互いに異なるタイミング(別々の時刻)で発光させ、一方の発光素子が発光した光による受光量と、他方の発光素子が発光した光による受光量との比を求め、この求めた比に基づいて火災判断する光電式煙感知器が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2966541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来例は、2つの発光素子を別々の時刻で発光するので、厳密にはオンタイムの受光出力比を検出することができない。
【0004】
したがって、ラビリンス内に虫等が侵入し、この虫等が素早く動き回った場合や、煙濃度が急激に上下するとき等には、時間に対する出力の変動が大きくなる。このために、2つの発光素子の発光周期のタイムラグによって受光出力比が大きくなり、誤作動または失報になる可能性がある。
【0005】
本発明は、煙濃度が急激に増減しても、誤報や失報が発生しない煙感知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、検煙空間で、第1の発光パルス幅で光を発生する第1の発光素子と、上記検煙空間で、上記第1の発光素子の光軸とは異なる光軸を具備し、上記第1の発光パルス幅よりも狭いパルス幅である第2の発光パルス幅の光を発生し、上記第1の発光パルス幅の時間内に発光し、上記第1の発光素子が発生する光と同じ波長分布を具備する光を発生する第2の発光素子と、上記第1の発光素子の光軸との交差角度と上記第2の発光素子の光軸との交差角度とが異なる受光素子と、上記受光素子の出力信号を、上記第1の発光素子が発光した光の成分と上記第2の発光素子が発光した成分とに分離する分離手段と、上記分離手段が出力した各出力値に基づいて火災判別する火災判別手段とを有する光電式煙感知器である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検煙空間内の煙濃度が急激に増減しても、誤報や失報が発生しないという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例である。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の実施例1である光電式煙感知器100の回路構成を示すブロック図である。
【0010】
図2は、実施例1において、光電式煙感知器100の信号処理を示す図である。
【0011】
光電式煙感知器100は、検煙空間10を具備するケースC1と、第1の発光素子11と、第2の発光素子12と、受光素子13と、信号処理回路20と、制御回路30と、送受信回路40と、無極性化回路50と、作動表示灯回路60と、定電圧回路70とを有する。
【0012】
第1の発光素子11は、検煙空間10で、第1の発光パルス幅W1で光を発生する。
【0013】
第2の発光素子12は、検煙空間10で、第1の発光素子11の光軸とは異なる光軸を具備し、第1の発光パルス幅W1よりも狭いパルス幅である第2の発光パルス幅W2の光を発生し、第1の発光パルス幅W1の時間内に発光する。
【0014】
第1の発光素子11、第2の発光素子12は、互いに同一波長の赤外線を発光する、たとえばLEDで構成されている。つまり、第1の発光素子11が発生する光と、第2の発光素子12が発光する光とは、同じ波長分布を具備する。
【0015】
受光素子13は、第1の発光素子11の光軸との交差角度と、第2の発光素子12の光軸との交差角度とが異なり(2つの発光素子11、12に対して、互いに異なる光軸角度を有し)、赤外線に感度を有する受光素子である。
【0016】
信号処理回路20は、増幅回路21と、バンドパスフィルタ22、24と、A/D変換器23、25とを有する。
【0017】
増幅回路21は、受光素子13の出力信号を増幅する。
【0018】
バンドパスフィルタ22、24は、増幅回路21が出力した信号を、第1の発光素子11が発光した光の成分と第2の発光素子12が発光した成分とに分離する。バンドパスフィルタ22の中心周波数fcは、たとえば100Hzであり、バンドパスフィルタ24の中心周波数fcは、たとえば1KHzである。すなわち、フィルタの中心周波数が極端に低いと、外光等の影響を受けるので、中心周波数fcを、たとえば100Hzと1KHzとに設定する。つまり、バンドパスフィルタ22、24は、分離手段の例である。
【0019】
A/D変換器23、25は、バンドパスフィルタ22、24が分離して出力したアナログ信号を検出レベルに変換する回路である。
【0020】
制御回路30は、CPUが含まれ、光電式煙感知器100の全体を制御するともに、A/D変換器23、25が出力した各検出レベルに基づいて火災判別する。制御回路30は、火災判別手段の例である。つまり、制御回路30は、受光信号をパルス幅の短い成分と長い成分とに分離した後に、A/D変換し、検出レベルの成分比に基づいて火災判定を行う。
【0021】
送受信回路40は、図示しない火災受信機との間で信号を送受信するための回路である。作動表示灯回路60は、光電式煙感知器100の作動状態を外部から見て直ちに認識できるように、所定の表示灯を点灯させる等によって、光電式煙感知器100の作動状態を表示する回路である。定電圧回路70は、光電式煙感知器100に設けられている各回路に所定の定電圧を供給する回路である。
【0022】
次に、実施例1の動作について説明する。
【0023】
図3は、実施例1において、正常監視時の出力信号と、検煙空間10への煙等の侵入時の出力信号とを示す図である。
【0024】
出力値(初期値)A0は、検煙空間10に煙や異物等が存在しない監視開始時と正常監視時とに、発光素子11が発光したときにバンドパスフィルタ22が出力した出力信号の値であり、出力値(サンプル値)A1は、検煙空間10へ煙等が侵入時に、発光素子11が発光したときにバンドパスフィルタ22が出力した出力信号の値である。
【0025】
出力値(初期値)B0は、出力値A0と同様に、発光素子12が発光したときにバンドパスフィルタ24が出力した出力信号の値であり、出力値(サンプル値)B1は、検煙空間10へ煙等が侵入時に、発光素子12が発光したときにバンドパスフィルタ24が出力した出力信号の値である。
【0026】
制御回路30は、以下に示す3要素で火災判断を行う。
(1)A1−A0、
(2)B1−B0、
(3)(1)と(2)との関係(比率・差分等)。
【0027】
図4は、実施例1の動作を示すフローチャートである。
【0028】
まず、S1で、発光素子11、12を制御し、S2で、発光素子11、12に発光させて、受光素子13が信号受光する。S3で、増幅回路21が信号を増幅する。なお、受光信号を増幅する必要がない場合は増幅しない。
【0029】
S4で、通過帯域が異なるバンドパスフィルタ22、24を通過した信号を、それぞれA/D変換器23、25が取り込む。つまり、増幅回路21が増幅した信号を分離する。S5で、差の値X=A1(サンプル値)−A0(初期値)、差の値Y=B1(サンプル値)−B0(初期値)を演算する。
【0030】
S7で、差の値Xと閾値TA1とを比較し、差の値Xが閾値TA1以下であると判断されれば、S8で、差の値Yと閾値TB1とを比較し、差の値Yが閾値TB1以下であると判断されれば、S9で、正常である(非火災である)と判断する。
【0031】
S8で、差の値Yが閾値TB1よりも大きいと判断されれば、S10で、比の値Y/Xと閾値TR1とを比較し、Y/Xが閾値TR1以下であると判断されれば、S11で、正常である(非火災である)ことを、火災受信機に送信する。
【0032】
S10で、Y/Xと閾値TR1とを比較し、Y/Xが閾値TR1よりも大きいと判断されれば、S12で、Y/Xと閾値TR2とを比較し、Y/Xが閾値TR2以下であると判断されれば、S13で、火災が発生していることを、火災受信機に送信する。
【0033】
S12で、Y/Xが閾値TR2よりも大きいと判断されれば、S14で、虫等の異物が図2における検煙空間10のb点付近に侵入した結果、発光素子11によるXの値が、発光素子12によるYより極端に小さくなり、検出結果が異常であることを、火災受信機に送信する。
【0034】
一方、S7で、差の値Xが閾値TA1よりも大きいと判断されれば、S21で、Y/Xと閾値TR3とを比較し、Y/Xが閾値TR3以下であると判断されれば、S22で、虫等の異物が図2における検煙空間10のa点付近に侵入した結果、発光素子12によるYの値が、発光素子11によるXより極端に小さくなり、検出結果が異常であることを、火災受信機に送信する。
【0035】
S21で、Y/Xが閾値TR3よりも大きいと判断されれば、S23で、Y/Xと閾値TR4とを比較し、Y/Xが閾値TR4以下であると判断されれば、S24で、火災が発生していることを、火災受信機に送信する。S23で、Y/Xが閾値TR4よりも大きいと判断されれば、S25で、煙感知器100の発光素子12によるYの検出回路に異常が発生し、検出結果が異常であることを、火災受信機に送信する。
【0036】
よって、実施例1によれば、検煙空間内の煙濃度が急激に増減しても、また、検煙空間内に虫等の異物が侵入しても、発光素子11による発光タイミングと発光素子12による発光タイミングとが異なることによる誤報や失報が発生しない。
【0037】
実施例1によれば、同一波長の2つの発光素子を異なる発光波形で同時に発光させ、波形分離した受光出力を解析するので、同時に、2種類の散乱光出力情報を得ることができ、従来の技術に比べて、火災検出時間が短い。
【0038】
さらに、2つの発光素子の正確な受光出力比を得ることができ、誤報、失報を回避することができる。
【実施例2】
【0039】
図5は、本発明の実施例2である光電式煙感知器200の信号処理を示す図である。
【0040】
光電式煙感知器200の回路構成は、基本的には、光電式煙感知器100と同じである。光電式煙感知器100において、バンドパスフィルタ22、24の代わりに、デジタルフィルタ27、28が設けられ、A/D変換器23、25の代わりに、A/D変換器26が設けられている点が、光電式煙感知器100とは異なる。
【0041】
デジタルフィルタ27は、中心周波数fcがたとえば、100Hzであり、発光素子11が発光した光成分を抽出し、デジタルフィルタ28は、中心周波数fcが、たとえば1KHzであり、発光素子12が発光した光成分を抽出する。
【0042】
次に、実施例2の動作について説明する。
【0043】
図6は、光電式煙感知器200の動作を示すフローチャートである。
【0044】
実施例2の動作は、基本的には、図4に示す実施例1の動作と同じであるが、図4に示すフローチャートにおいて、S4、S5の処理代わりに、S31、S32の処理を実行する。つまり、S31で、A/D変換器26が増幅回路21の出力信号を検出レベルに変換し、S32で、デジタルフィルタ27が、中心周波数100Hzの信号(発光素子11が発光した光成分)のみを通過させ、デジタルフィルタ28が、中心周波数1KHzの信号(発光素子12が発光した光成分)のみを通過させる。
【0045】
実施例1と同様に、たとえばS42で、X−YがTR2よりも大きいと判断されれば、S14で、虫等の異物が、図2に示す検煙区間10のa点付近に侵入した結果、発光素子11を遮り、発光素子12を反射しているので、検出結果が異常であることを、火災受信機に送信する。
【0046】
また、たとえば、S42で、X−YがTR3より小さいと判断されれば、同様に、図2に示す検煙空間10のb点付近に虫が侵入し、両発光素子を反射させていると認識する。
【0047】
さらに、たとえばS52で、X−YがTR4より大きくYがほぼ0であれば、発光素子12が断線であると認識する。
【0048】
実施例2においても、同一波長の2つの発光素子を異なる発光波形で同時に発光させ、受光出力を解析するので、同時に、2種類の散乱光出力情報を得ることができ、したがって、火災検出時間が短い。
【0049】
さらに、2つの発光素子の正確な受光出力比を得ることができ、誤報、失報を回避することができる。
【実施例3】
【0050】
図7は、本発明の実施例3の動作を示すフローチャートである。
【0051】
実施例3は、実施例1において、図4に示すS10、S12、S21、S23の処理において、「X/Y」の代わりに、「X−Y」の差分値を使用して演算処理する実施例である。この場合、閾値TR1、TR2、TR3、TR4を、実情に応じて変更するようにしてもよい。
【実施例4】
【0052】
図8は、本発明の実施例4の動作を示すフローチャートである。
【0053】
実施例4は、実施例2において、図6に示すS10、S12、S21、S23の処理において、「X/Y」の代わりに、「X−Y」の差分値を使用して演算処理する実施例である。この場合、閾値TR1、TR2、TR3、TR4を、実情に応じて変更するようにしてもよい。
【0054】
次に、上記実施例における光電式煙感知器の判定例について説明する。
【0055】
図9は、本件の発明者が、光電式煙感知器の各種状態を判別できることをシミュレーションで確認した結果を示す図である。
【0056】
本件の発明者は、正常時、煙粒子または異物の侵入時、故障時の受光波形から、以下の閾値によって、光電式煙感知器の各種状態を判別できることをシミュレーションで確認した。
【0057】
図4、図6に示す比率を使用した場合は、次のとおりであり、このシミュレーション結果を、図9(1)に示してある。
【0058】
この場合における条件は、Xmax=200、Ymax=200である。また、閾値として、TA1=20、TB1=30、TR1=1.5、TR2=10、TR3=1.5、TR4=5とした。
【0059】
図7、図8に示す差分を使用した場合は、次のとおりであり、このシミュレーション結果を、図9(2)に示してある。
【0060】
この場合における条件は、Xmax=200、Ymax=200である。また、閾値として、TA1=50、TB1=10、TR1=15、TR2=20、TR3=10、TR4=50とした。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施例1である光電式煙感知器100を示すブロック図である。
【図2】実施例1において光電式煙感知器100の信号処理を示す図である。
【図3】実施例1において、正常監視時の出力信号と、検煙空間10への煙等の侵入時の出力信号とを示す図である。
【図4】実施例1の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例2である光電式煙感知器200の信号処理を示す図である。
【図6】光電式煙感知器200の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例3の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例4の動作を示すフローチャートである。
【図9】本件の発明者が、光電式煙感知器の各種状態を判別できることをシミュレーションで確認した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100…光電式煙感知器、
C1…ケース、
10…検煙空間、
11…第1の発光素子、
12…第2の発光素子、
13…受光素子、
20…信号処理回路、
21…増幅回路、
22…バンドパスフィルタ、
23…A/D変換器、
24…バンドパスフィルタ、
25…A/D変換器、
30…制御回路、
40…送受信回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検煙空間で、第1の発光パルス幅で光を発生する第1の発光素子と;
上記検煙空間で、上記第1の発光素子の光軸とは異なる光軸を具備し、上記第1の発光パルス幅よりも狭いパルス幅である第2の発光パルス幅の光を発生し、上記第1の発光パルス幅の時間内に発光し、上記第1の発光素子が発生する光と同じ波長分布を具備する光を発生する第2の発光素子と;
上記第1の発光素子の光軸との交差角度と上記第2の発光素子の光軸との交差角度とが異なる受光素子と;
上記受光素子の出力信号を、上記第1の発光素子が発光した光の成分と上記第2の発光素子が発光した成分とに分離する分離手段と;
上記分離手段が出力した各出力値に基づいて火災判別する火災判別手段と;
を有することを特徴とする光電式煙感知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−250851(P2008−250851A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93993(P2007−93993)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】