光電気化学セル
【課題】 集光光路を固定し、光電変換効率を高めた光電気化学セルを提供する。
【解決手段】太陽光aを集光する集光手段(集光ガラス2)と、集光手段(集光ガラス2)の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部(光触媒部3)と、集光手段(集光ガラス2)と光エネルギ変換部(光触媒部3)との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部(水貯留部6)と、光エネルギ変換部(光触媒部3)から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部(水素貯留部7A、酸素貯留部B)と、エネルギ変換部(光触媒部3)により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段(透明ガラス板4)と、を備えることを特徴とする。
【解決手段】太陽光aを集光する集光手段(集光ガラス2)と、集光手段(集光ガラス2)の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部(光触媒部3)と、集光手段(集光ガラス2)と光エネルギ変換部(光触媒部3)との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部(水貯留部6)と、光エネルギ変換部(光触媒部3)から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部(水素貯留部7A、酸素貯留部B)と、エネルギ変換部(光触媒部3)により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段(透明ガラス板4)と、を備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により光エネルギを化学エネルギに変換する光電気化学セルに関し、特に、光照射により水を分解して、水素と酸素とを発生させる光水電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギの有効利用のために、これを利用し易いエネルギ形態に変換・貯蔵する技術の研究が盛んに行われている。太陽電池はその代表的な例であり、各種の研究が進められている。
【0003】
例えば、集光型太陽電池において、平行光である太陽光が斜めの角度から入射した場合に、集光位置検知センサにより集光スポットを検出し、集光スポットにまで太陽電池自体を移動させる技術が開示されている(特許文献1参照)。本技術によれば、太陽光を集光するときの像点のずれを防止できるため、太陽光を高倍率で集光することができる。しかし、太陽電池は、高コストであるため普及が進んでおらず、より安価なシステムの開発が望まれている。
【0004】
そこで、光触媒を利用して光エネルギから化学エネルギに変換する技術の開発が進められている。光触媒は、光エネルギを吸収して電子と正孔を生成し、各種の化学反応を起こすものであり、特に、二酸化チタン(TiO2)は、価電子帯の位置が深く、生成する正孔による酸化力は、塩素又はオゾンよりも勝るとされている。
【0005】
このような光触媒を利用して、光触媒に太陽光を照射して水を分解する方法が開示されている(特許文献2参照)。この水の分解方法では、水中に光触媒粉末を分散させて、光触媒粉末に光を照射し、光触媒への光照射により、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起されて、価電子帯にホールが形成される。励起された電子は、水中のプロトンを還元して水素を発生させて、ホールは、水を酸化して酸素を発生させて、水を水素と酸素とに分解している。しかし、本分解方法により使用する装置は、水素と酸素との取出口が一つであるため、得られるガスは、水素と酸素との混合ガスとなる。このため、水素と酸素とを別途分離する必要があった。また、上述した水の分解方法では、水素と酸素とが同じ場所で発生するため、水素と酸素とが反応して水が生成する逆反応が起きてしまい、エネルギ効率(得られた水素のエンタルピー/入射光エネルギ量)が非常に低くなっていた。
【0006】
このような逆反応を防止する方法として、アメリカの研究機関National Renewable Energy Laboratory(NREL)では、図8に示す光水電解セル30を提唱している。光水電解セル30においては、入射した太陽光aが、セル表面の集光ガラス31により集光されてp型半導体からなる光触媒32に照射されると、光触媒32中の電子が価電子帯から伝導帯に励起され、価電子帯の電子が抜けた部分にはホールが形成される。伝導帯に励起された励起電子は、水と光触媒32界面に形成されるショットキーバリヤにより生じた界面電位の傾きにより、水中のプロトンと反応して水素を発生し、この水素は水素貯留部33に貯留される。一方、価電子帯に生じたホールは、光触媒32下部に設けられた電子伝導体34を介して、水貯留部33とは連通せずに、プロトン伝導膜(例えば、ナフィオン)35を介して隔てられた酸素貯留部36側に輸送される。酸素貯留部36と電子伝導体34の界面には酸素発生触媒(例えば、ルテニウムオキサイド(RuO2))37が塗布されており、電子伝導体34を輸送されてきたホールが触媒表面に達すると、プロトンと酸素とが生成し、生成した酸素は酸素貯留部36に貯留される。また、プロトンは水溶液中とプロトン伝導膜中35を、濃度勾配によって生じる駆動力により光触媒部32に移動し、光触媒部32での水素発生に用いられる。
【0007】
さらに、生成した水素と酸素は、図9に示すように、設備端部に配置された水素収集配管38と酸素収集配管39を介して、水素貯留タンク40と酸素貯留タンク41とに送られる。
【特許文献1】特開平8−321630号公報
【特許文献2】特開平10−218601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記構成の光水電解セル30では、集光ガラス31と光触媒32との間の水貯留部33に水素(気相)が発生していた。元来、水貯留部33には水のみが貯留されていることを想定して光学系(集光ガラス31等)が構成されているが、水貯留部33で発生した水素の気相の厚さが変化すると、集光ガラス31内側に屈折率の低い層が存在することになる。水貯留部33に屈折率の低い気相が存在すると、図10に示すように、太陽光aの像点が光触媒32からずれてしまい、太陽光aを効率良く集光することができない恐れを有していた。
【0009】
また、太陽光aは、常に集光ガラス31の真上から入射するわけではなく、時間の推移により、太陽光aの入射角度が変化する。太陽光aの入射角度が変化すると、図11に示すように、光触媒32から像点がずれて、太陽光aが光触媒32に照射されなくなるという恐れを有していた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の光電気化学セルは、太陽光を集光する集光手段と、集光手段の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部と、集光手段と光エネルギ変換部との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部と、光エネルギ変換部から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部と、エネルギ変換部により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光電気化学セルによれば、集光手段内側の液体貯留部での気相の発生を抑制することにより集光光路を固定し、光電変換効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る光電気化学セルについて、光水電解セルを例に挙げて、第1実施形態から第3実施形態までにより説明する。
【0013】
第1実施形態
本実施形態では、光水電解セルの基本的な構成について、図1から図5に基づき説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る光水電解セルの構成を示す断面図である。図1に示すように、光水電解セル1は、太陽光aを集光する集光手段としての集光ガラス2を設けており、集光ガラス2の像点に、光エネルギ変換部の光触媒部3を配置している。光触媒部3の上方には、気体上昇防止手段として、中央が下に凸形状である透明ガラス板4を配置し、透明ガラス板4と光触媒部3とを連結棒5により連結している。光触媒部3と透明ガラス板4との間には、エネルギ変換の原料となる液体である水を貯留する液体貯留部としての水貯留部6を設けている。透明ガラス板4の両端には、気体貯留部として、光触媒部3から発生する水素を貯留する水素貯留部7Aが設けられ、図示しない水素貯留タンクに水素を供給する通路を形成している。集光ガラス2と光触媒部3との間には、気体貯留部として、光エネルギ変換部から発生する酸素を貯留する酸素貯留部7Bを設けており、酸素貯留部7Bは、発生した酸素を図示しない酸素貯留タンクに供給する通路を形成している。
【0015】
光エネルギ変換部は、電子伝導体8上に光触媒部3と酸素発生触媒9とを交互に配置している。水素貯留部7Aと酸素貯留部7Bとの境には、両者を分離する隔壁となるプロトン伝導膜10を設置し、プロトン伝導膜10は、酸素発生触媒9から発生するプロトンを光触媒部3に輸送するための媒体となる。
【0016】
さらに、電子伝導体8下部の両端に移動手段としての電子伝導体移動用モータ11を接続し、電子伝導体8を左右方向に移動可能にしている。
【0017】
光エネルギ変換部における光触媒部3の断面を図3に示す。図3に示すように、光触媒部3は、光触媒としてp-GaInP212を使用し、光照射方向とは逆側に、GaAsのpn結合を用いた太陽電池(n-GaAs13、p-GaAs14)を、トンネルダイオード15を介して接合している。光触媒部3を電子伝導体8上にオーミックコンタクト16を介して配置している。
【0018】
なお、図1には図示しないが、光水電解セル1に集光スポット位置検出手段を設置しても良い。集光スポット位置検出手段により太陽光aの集光スポットを検出し、検出した集光スポットに光触媒部3を移動させる。このような集光スポット位置検出手段を設けることにより、図3に示すように、太陽光aが斜めから入射して集光の像点が移動した場合においても、確実に光触媒部3に光照射することができる。
【0019】
集光スポット位置検出手段は、光位置検出センサにより検出される光位置、光エネルギ変換部から生成される気体発生量、あるいは時刻(午前又は午後の時刻を判別する時刻)などの各情報に基づき、太陽光aの集光位置を検出する手段である。集光スポット位置検出手段を用いて、光位置検出センサから検出される光位置を検出することにより、太陽光aの集光スポットを確実に検出することができる。また、集光スポット位置検出手段を用いて、光エネルギ変換部から生成される気体発生量を検出することにより、水電解反応が最も効率的に起こる光触媒の位置を容易に検出することができる。さらに、集光スポット位置検出手段を用いて、時刻(例えば、午前あるいは午後等の時刻)の識別が可能になれば、光触媒の移動方向を事前に検出することができ、水電解反応が効率的に起こる光触媒の位置を特定することができる。なお、時刻と集光スポット位置との関係を予めプログラミングしておき、この制御プログラムを制御装置に搭載することにより、複雑な集光スポット位置検出手段を使用することなく、光触媒を集光スポットに配置することができる。
【0020】
次に、上記構成の光水電解セル1の動作について説明する。
【0021】
太陽光aの平行入射光を集光ガラス2により集光し、光触媒部3の面積以下の光照射面積まで集光する。集光した太陽光を光触媒部3に照射すると、光エネルギ変換部では、ガス状の燃料又は副生成物が生成される。
【0022】
この反応を図4に示す本構成のバンド構造を用いて説明する。水の理論分解電圧は1.23Vであるが、実際上有意に分解反応を進めるためには、水の理論分解電圧の値に過電圧分を加えた1.7V−1.8V程度の電圧が必要である。しかし、p-GaInP212の価電子帯のエネルギ準位は、水の酸素発生電位よりも高い位置にあるため、酸素発生反応が進行しない。そこで、GaAsのpn結合を用いた太陽電池を、トンネルダイオード15を介してp-GaInP212と接合することにより、酸素発生触媒(白金)9のフェルミレベルを下げる。本構造とすることによりp-GaInP212において発生する励起電子のエネルギ準位は水素の酸化還元電位よりも高くなり、水中のプロトンはp-GaInP212から電子を受け取って化学式1の反応が起こる。
【0023】
2H+ + 2e− → H2 …(化学式1)
その結果、水素がp-GaInP212と水の界面で発生する。ここで、p-GaInP2上に水素発生触媒(例えば、白金触媒)を設置しても良い。光触媒により発生した水素は、上方に向かい集光ガラス2の曲がりに沿って水素貯留部7A(水素貯留溝)
に導かれる。一方、p-GaInP212で発生したホールは、バンドギャップの曲がりに沿って、GaAs太陽電池に導かれる。GaAs太陽電池では、p-GaInP212によって吸収できない長波長の光により、電子が励起される。励起された電子は、pn接合におけるバンド勾配を駆動力として、ホールは電子伝導体8を介して酸素発生触媒9側に移動し、電子はp-GaInP212側に移動する。GaAs太陽電池で発生した励起電子は、p-GaInP212で発生したホールと電荷結合して消失する。一方、酸素発生触媒9に達したホールは、酸素の酸化還元電位よりエネルギ準位が低いため、化学式2の反応により水を酸化する。
【0024】
2H2O + 4h+ → 4H+ + O2 …(化学式2)
この結果、プロトンと酸素とが酸素発生触媒9で発生する。発生した酸素は酸素貯留部7Bにより貯留され、プロトンは、プロトン伝導膜10を通過して光触媒部3での水素発生反応に用いられる。
【0025】
また、太陽光aが斜めの角度から入射すると、光が結像する位置が左右方向にずれる。焦点の位置は、図示しない集光スポット位置検出手段である光位置検出センサにより検知し、像点の移動距離にあわせて、電子伝導体8を左右方向に動かす。その結果、光触媒に常に光が照射される状態となり、太陽光aの入射方向に関わらず水素を発生させることができる。また、この時に透明ガラス板4と光触媒部3とが連結されているため、発生した水素は、左右の水素貯留部7A(水素貯留溝)に偏ることなく貯留される。この結果、光触媒部3で発生した水素が、透明ガラス板4両端の水素貯留部7A(水素貯留溝)から漏れ、集光ガラス2内側に貯留されるのを防止できるため、集光光路を確実に固定することができる。
【0026】
本実施形態によれば、気体上昇防止手段として透明ガラス板4を設置し、透明ガラス板4の両端に水素貯留部7Aを設けたため、水素貯留部7Aでの水素量の増減に関わらず、集光光路を固定することができ、この結果、光触媒に照射される光エネルギを最大限利用することができる。特に、透明ガラス板4の形状は、中央が下に凸であるため、光触媒部3から発生する水素が透明ガラス板4に滞留することなく、水素貯留部7Aに速やかに排出することができる。なお、本実施形態では、気体上昇防止手段として透明ガラス板4を使用したが、透明ガラス板4に限定されず、膜により気体上昇防止手段を構成しても良い。このように透明ガラス板4又は膜を配置することにより、集光ガラスと気体上昇防止手段とを別体とし、使用ガラス量を減らし、低コスト化を図ることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、気体貯留部としての酸素貯留部7Bを集光光路の外側に設けたため、酸素貯留部7Bに蓄えられる酸素の増減に関わらず、集光光路を固定することができる。
【0028】
第2実施形態
本実施形態では、第1実施形態に示した光水電解セルを改良した構成を示し、図5及び図6に基づき説明する。なお、第1実施形態に示した光水電解セルと重複する箇所は同一符号を使用し、その説明を省略する。
【0029】
図5は、本実施の形態に係る光水電解セルの構成を示す図であり、図6は、光触媒部周辺の構成を概略的に示す図である。図5に示すように、透明ガラス板4は直接光触媒部3と接触し、光路が全く水部分を通過しない構成を有する。
【0030】
集光スポット位置検出手段17は、電流計を用いて光電流量を測定し、集光スポット位置を検出する。具体的な構成は、図6に示すように、光触媒部3と電子伝導体8との間に絶縁層である酸化ケイ素(SiO2)層18を挿入し、光触媒部3下部のオーミックコンタクト16と電子伝導層8とに導線19を接続している。導線19には電流計20を設置し、電流計20は、電子伝導体移動用モータ11に接続されたコントロールユニット21に接続している。
【0031】
上記構成の光水電解セルでは、電流計20を用いて光電流量を常に計測しており、太陽光aの入射角が変化すると、光触媒部3から集光スポットが外れて光電流量が減少する。コントロールユニット21では、電流計20から計測される光電流量の変化を監視して、光電流量が減少し始めたことを検出したときに、電子伝導体移動用モータ11に制御信号を送信し、電子伝導体移動用モータ11を駆動させて、集光スポットに光触媒部3を配置し、光電流量が最大値となるように調節している。このように、光電流量が最大値となるように光触媒部3を移動させたため、水分解反応が最も効率的に起こる集光スポットに光触媒を配置することができる。
【0032】
また、透明ガラス板4は集光ガラスと分離した構造を有するため、集光スポットに光触媒部3を移動させると、光触媒部3に対して透明ガラス板4は相対的位置を変えずに移動することになる。このため、光触媒部3で発生した水素は、左右いずれかの水素貯留部7A(水素貯蔵溝)に偏ることなく、左右の水素貯留部7Aに均等に水素を貯留することができる。
【0033】
さらに、集光手段として、中央が下に凸形状である集光ガラスを設置したため、水素が透明ガラス板4の上方に回り込む恐れが無くなり、集光光路を確実に固定することができる。
【0034】
本実施形態によれば、光触媒部3と透明ガラス板4とが直接接触した構造を有するため、水位に関係なく集光光路を固定することができる。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得られることはもちろんである。
【0035】
第3実施形態
本実施形態では、改良した光水電解セルについて、図7に基づき説明する。なお、第1実施形態に示した光水電解セルと重複する箇所は同一符号を使用し、説明を省略する。
【0036】
図7に示すように、集光ガラス2下部に水素貯留部7Aを設置し、水素貯留部7A下部に透明凸レンズ22を設置している。図7に示す光水電解セルでは、透明凸レンズ22を設置したため、液面がΔxの範囲にある場合でも、集光光路が変化することなく光触媒部3に太陽光aを照射することができる。また、透明凸レンズ22は、中央が下に凸形状であるため、光触媒部3から発生する水素は、透明凸レンズ22に滞留することなく、水素貯留部7Aに速やかに排出される。
【0037】
本実施形態によれば、水位の増減にある程度幅を持たせることにより、一定の光路とすることができる。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得られることはもちろんである。
【0038】
以上、第1実施形態から第3実施形態までの各形態を説明したが、発明の主旨に沿うものであれば、発明の思想に含まれることはいうまでもない。例えば、光触媒としてp型半導体であるGaInP2を用いたが、その他、SrTiO3、TiO2、ZrO3、KTaO3、CdSeあるいはCdS、InTaO4、In1-xNixTaO4、Rb2La2TiO10、Ta2O5、TaON、Ta3N5などの半導体を使用しても問題はない。その際に、半導体がn型半導体である場合には、光触媒から酸素が、対極からは水素が発生することとなり、前述した各実施形態の水素貯留部と酸素貯留部とが入れ替わる構造となる。
【0039】
また、前述した各実施形態では、III−V族半導体太陽電池であるGaAs太陽電池とのタンデムタイプの光触媒部を例に挙げたが、バイアスをかける手段としては外部電源を用いても良く、その他、色素増感型太陽電池やシリコン結晶太陽電池など同様の目的を果たすものでも良い。また、第3実施形態においては、液面がΔxの範囲で変動しても光路が変わらない構成を説明したが、変動がその範囲となるように液面計を設けて液面がΔxの範囲となるように水素ガスの引き抜き量をガスブロワなどによって調整しても良い。また、水素発生触媒として白金を例に挙げたが、白金とその他の金属との合金、あるいは他の貴金属及びその合金などを用いても良い。また、酸素発生触媒としても白金を例に挙げたが、RuO2、NiOx、CeO2、IrO2などを用いても良い。また、集光スポット位置検出手段として、発生する水素量をフローメータ等の手段により検出し、生成量が減少を検知した場合、光触媒を移動させて、水素発生量が最大となる位置で固定しても良い。また、その際に、光触媒を左右どちらに動かすかはその時点で午前か午後かによって決めることが効率的である。また、予め季節と時間により、集光スポットが移動する軌跡をプログラミングしておき、その軌跡に沿って光触媒を移動させる構成としても良い。さらに、本実施形態においては、光触媒を配置した電子伝導体を移動用モータにより移動させる形態としたが、移動手段として電磁石を使用しても良い。また、本実施形態においては、水を原料とする水分解について述べたが、同様の思想は、光触媒から気体が発生するセルであれば何にでも適用可能であり、例えば光触媒を用いたエチレン生成などにおいても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光水電解セルを概略的に示す構成図である。
【図2】図1に示す光エネルギ変換部における光触媒部の構成を示す断面図である。
【図3】斜めの角度から入射した際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【図4】太陽光の照射により水から水素と酸素とを生成する際の反応を説明するバンド構造図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光水電解セルの構成を示す図である。
【図6】図2に示す光触媒部周辺の構成を概略的に示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る光水電解セルを概略的に示す構成図である。
【図8】従来における光水電解セルの構成を示す概略図である。
【図9】図7に示す光水電解セルの全体構成を示す概略図である。
【図10】水貯留部に水素の気相が生じた際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【図11】太陽光の入射角度が変化した際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1…光水電解セル,
2…集光ガラス,
3…光触媒部,
4…透明ガラス板,
5…連結棒,
6…水貯留部(液体貯留部),
7A…水素貯留部(気体貯留部),
7B…酸素貯留部(気体貯留部),
8…電子伝導体,
9…酸素発生触媒,
10…プロトン伝導膜,
11…電子伝導体移動用モータ,
a…太陽光,
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により光エネルギを化学エネルギに変換する光電気化学セルに関し、特に、光照射により水を分解して、水素と酸素とを発生させる光水電解セルに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギの有効利用のために、これを利用し易いエネルギ形態に変換・貯蔵する技術の研究が盛んに行われている。太陽電池はその代表的な例であり、各種の研究が進められている。
【0003】
例えば、集光型太陽電池において、平行光である太陽光が斜めの角度から入射した場合に、集光位置検知センサにより集光スポットを検出し、集光スポットにまで太陽電池自体を移動させる技術が開示されている(特許文献1参照)。本技術によれば、太陽光を集光するときの像点のずれを防止できるため、太陽光を高倍率で集光することができる。しかし、太陽電池は、高コストであるため普及が進んでおらず、より安価なシステムの開発が望まれている。
【0004】
そこで、光触媒を利用して光エネルギから化学エネルギに変換する技術の開発が進められている。光触媒は、光エネルギを吸収して電子と正孔を生成し、各種の化学反応を起こすものであり、特に、二酸化チタン(TiO2)は、価電子帯の位置が深く、生成する正孔による酸化力は、塩素又はオゾンよりも勝るとされている。
【0005】
このような光触媒を利用して、光触媒に太陽光を照射して水を分解する方法が開示されている(特許文献2参照)。この水の分解方法では、水中に光触媒粉末を分散させて、光触媒粉末に光を照射し、光触媒への光照射により、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起されて、価電子帯にホールが形成される。励起された電子は、水中のプロトンを還元して水素を発生させて、ホールは、水を酸化して酸素を発生させて、水を水素と酸素とに分解している。しかし、本分解方法により使用する装置は、水素と酸素との取出口が一つであるため、得られるガスは、水素と酸素との混合ガスとなる。このため、水素と酸素とを別途分離する必要があった。また、上述した水の分解方法では、水素と酸素とが同じ場所で発生するため、水素と酸素とが反応して水が生成する逆反応が起きてしまい、エネルギ効率(得られた水素のエンタルピー/入射光エネルギ量)が非常に低くなっていた。
【0006】
このような逆反応を防止する方法として、アメリカの研究機関National Renewable Energy Laboratory(NREL)では、図8に示す光水電解セル30を提唱している。光水電解セル30においては、入射した太陽光aが、セル表面の集光ガラス31により集光されてp型半導体からなる光触媒32に照射されると、光触媒32中の電子が価電子帯から伝導帯に励起され、価電子帯の電子が抜けた部分にはホールが形成される。伝導帯に励起された励起電子は、水と光触媒32界面に形成されるショットキーバリヤにより生じた界面電位の傾きにより、水中のプロトンと反応して水素を発生し、この水素は水素貯留部33に貯留される。一方、価電子帯に生じたホールは、光触媒32下部に設けられた電子伝導体34を介して、水貯留部33とは連通せずに、プロトン伝導膜(例えば、ナフィオン)35を介して隔てられた酸素貯留部36側に輸送される。酸素貯留部36と電子伝導体34の界面には酸素発生触媒(例えば、ルテニウムオキサイド(RuO2))37が塗布されており、電子伝導体34を輸送されてきたホールが触媒表面に達すると、プロトンと酸素とが生成し、生成した酸素は酸素貯留部36に貯留される。また、プロトンは水溶液中とプロトン伝導膜中35を、濃度勾配によって生じる駆動力により光触媒部32に移動し、光触媒部32での水素発生に用いられる。
【0007】
さらに、生成した水素と酸素は、図9に示すように、設備端部に配置された水素収集配管38と酸素収集配管39を介して、水素貯留タンク40と酸素貯留タンク41とに送られる。
【特許文献1】特開平8−321630号公報
【特許文献2】特開平10−218601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記構成の光水電解セル30では、集光ガラス31と光触媒32との間の水貯留部33に水素(気相)が発生していた。元来、水貯留部33には水のみが貯留されていることを想定して光学系(集光ガラス31等)が構成されているが、水貯留部33で発生した水素の気相の厚さが変化すると、集光ガラス31内側に屈折率の低い層が存在することになる。水貯留部33に屈折率の低い気相が存在すると、図10に示すように、太陽光aの像点が光触媒32からずれてしまい、太陽光aを効率良く集光することができない恐れを有していた。
【0009】
また、太陽光aは、常に集光ガラス31の真上から入射するわけではなく、時間の推移により、太陽光aの入射角度が変化する。太陽光aの入射角度が変化すると、図11に示すように、光触媒32から像点がずれて、太陽光aが光触媒32に照射されなくなるという恐れを有していた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、すなわち、本発明の光電気化学セルは、太陽光を集光する集光手段と、集光手段の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部と、集光手段と光エネルギ変換部との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部と、光エネルギ変換部から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部と、エネルギ変換部により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段と、を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光電気化学セルによれば、集光手段内側の液体貯留部での気相の発生を抑制することにより集光光路を固定し、光電変換効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る光電気化学セルについて、光水電解セルを例に挙げて、第1実施形態から第3実施形態までにより説明する。
【0013】
第1実施形態
本実施形態では、光水電解セルの基本的な構成について、図1から図5に基づき説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る光水電解セルの構成を示す断面図である。図1に示すように、光水電解セル1は、太陽光aを集光する集光手段としての集光ガラス2を設けており、集光ガラス2の像点に、光エネルギ変換部の光触媒部3を配置している。光触媒部3の上方には、気体上昇防止手段として、中央が下に凸形状である透明ガラス板4を配置し、透明ガラス板4と光触媒部3とを連結棒5により連結している。光触媒部3と透明ガラス板4との間には、エネルギ変換の原料となる液体である水を貯留する液体貯留部としての水貯留部6を設けている。透明ガラス板4の両端には、気体貯留部として、光触媒部3から発生する水素を貯留する水素貯留部7Aが設けられ、図示しない水素貯留タンクに水素を供給する通路を形成している。集光ガラス2と光触媒部3との間には、気体貯留部として、光エネルギ変換部から発生する酸素を貯留する酸素貯留部7Bを設けており、酸素貯留部7Bは、発生した酸素を図示しない酸素貯留タンクに供給する通路を形成している。
【0015】
光エネルギ変換部は、電子伝導体8上に光触媒部3と酸素発生触媒9とを交互に配置している。水素貯留部7Aと酸素貯留部7Bとの境には、両者を分離する隔壁となるプロトン伝導膜10を設置し、プロトン伝導膜10は、酸素発生触媒9から発生するプロトンを光触媒部3に輸送するための媒体となる。
【0016】
さらに、電子伝導体8下部の両端に移動手段としての電子伝導体移動用モータ11を接続し、電子伝導体8を左右方向に移動可能にしている。
【0017】
光エネルギ変換部における光触媒部3の断面を図3に示す。図3に示すように、光触媒部3は、光触媒としてp-GaInP212を使用し、光照射方向とは逆側に、GaAsのpn結合を用いた太陽電池(n-GaAs13、p-GaAs14)を、トンネルダイオード15を介して接合している。光触媒部3を電子伝導体8上にオーミックコンタクト16を介して配置している。
【0018】
なお、図1には図示しないが、光水電解セル1に集光スポット位置検出手段を設置しても良い。集光スポット位置検出手段により太陽光aの集光スポットを検出し、検出した集光スポットに光触媒部3を移動させる。このような集光スポット位置検出手段を設けることにより、図3に示すように、太陽光aが斜めから入射して集光の像点が移動した場合においても、確実に光触媒部3に光照射することができる。
【0019】
集光スポット位置検出手段は、光位置検出センサにより検出される光位置、光エネルギ変換部から生成される気体発生量、あるいは時刻(午前又は午後の時刻を判別する時刻)などの各情報に基づき、太陽光aの集光位置を検出する手段である。集光スポット位置検出手段を用いて、光位置検出センサから検出される光位置を検出することにより、太陽光aの集光スポットを確実に検出することができる。また、集光スポット位置検出手段を用いて、光エネルギ変換部から生成される気体発生量を検出することにより、水電解反応が最も効率的に起こる光触媒の位置を容易に検出することができる。さらに、集光スポット位置検出手段を用いて、時刻(例えば、午前あるいは午後等の時刻)の識別が可能になれば、光触媒の移動方向を事前に検出することができ、水電解反応が効率的に起こる光触媒の位置を特定することができる。なお、時刻と集光スポット位置との関係を予めプログラミングしておき、この制御プログラムを制御装置に搭載することにより、複雑な集光スポット位置検出手段を使用することなく、光触媒を集光スポットに配置することができる。
【0020】
次に、上記構成の光水電解セル1の動作について説明する。
【0021】
太陽光aの平行入射光を集光ガラス2により集光し、光触媒部3の面積以下の光照射面積まで集光する。集光した太陽光を光触媒部3に照射すると、光エネルギ変換部では、ガス状の燃料又は副生成物が生成される。
【0022】
この反応を図4に示す本構成のバンド構造を用いて説明する。水の理論分解電圧は1.23Vであるが、実際上有意に分解反応を進めるためには、水の理論分解電圧の値に過電圧分を加えた1.7V−1.8V程度の電圧が必要である。しかし、p-GaInP212の価電子帯のエネルギ準位は、水の酸素発生電位よりも高い位置にあるため、酸素発生反応が進行しない。そこで、GaAsのpn結合を用いた太陽電池を、トンネルダイオード15を介してp-GaInP212と接合することにより、酸素発生触媒(白金)9のフェルミレベルを下げる。本構造とすることによりp-GaInP212において発生する励起電子のエネルギ準位は水素の酸化還元電位よりも高くなり、水中のプロトンはp-GaInP212から電子を受け取って化学式1の反応が起こる。
【0023】
2H+ + 2e− → H2 …(化学式1)
その結果、水素がp-GaInP212と水の界面で発生する。ここで、p-GaInP2上に水素発生触媒(例えば、白金触媒)を設置しても良い。光触媒により発生した水素は、上方に向かい集光ガラス2の曲がりに沿って水素貯留部7A(水素貯留溝)
に導かれる。一方、p-GaInP212で発生したホールは、バンドギャップの曲がりに沿って、GaAs太陽電池に導かれる。GaAs太陽電池では、p-GaInP212によって吸収できない長波長の光により、電子が励起される。励起された電子は、pn接合におけるバンド勾配を駆動力として、ホールは電子伝導体8を介して酸素発生触媒9側に移動し、電子はp-GaInP212側に移動する。GaAs太陽電池で発生した励起電子は、p-GaInP212で発生したホールと電荷結合して消失する。一方、酸素発生触媒9に達したホールは、酸素の酸化還元電位よりエネルギ準位が低いため、化学式2の反応により水を酸化する。
【0024】
2H2O + 4h+ → 4H+ + O2 …(化学式2)
この結果、プロトンと酸素とが酸素発生触媒9で発生する。発生した酸素は酸素貯留部7Bにより貯留され、プロトンは、プロトン伝導膜10を通過して光触媒部3での水素発生反応に用いられる。
【0025】
また、太陽光aが斜めの角度から入射すると、光が結像する位置が左右方向にずれる。焦点の位置は、図示しない集光スポット位置検出手段である光位置検出センサにより検知し、像点の移動距離にあわせて、電子伝導体8を左右方向に動かす。その結果、光触媒に常に光が照射される状態となり、太陽光aの入射方向に関わらず水素を発生させることができる。また、この時に透明ガラス板4と光触媒部3とが連結されているため、発生した水素は、左右の水素貯留部7A(水素貯留溝)に偏ることなく貯留される。この結果、光触媒部3で発生した水素が、透明ガラス板4両端の水素貯留部7A(水素貯留溝)から漏れ、集光ガラス2内側に貯留されるのを防止できるため、集光光路を確実に固定することができる。
【0026】
本実施形態によれば、気体上昇防止手段として透明ガラス板4を設置し、透明ガラス板4の両端に水素貯留部7Aを設けたため、水素貯留部7Aでの水素量の増減に関わらず、集光光路を固定することができ、この結果、光触媒に照射される光エネルギを最大限利用することができる。特に、透明ガラス板4の形状は、中央が下に凸であるため、光触媒部3から発生する水素が透明ガラス板4に滞留することなく、水素貯留部7Aに速やかに排出することができる。なお、本実施形態では、気体上昇防止手段として透明ガラス板4を使用したが、透明ガラス板4に限定されず、膜により気体上昇防止手段を構成しても良い。このように透明ガラス板4又は膜を配置することにより、集光ガラスと気体上昇防止手段とを別体とし、使用ガラス量を減らし、低コスト化を図ることができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、気体貯留部としての酸素貯留部7Bを集光光路の外側に設けたため、酸素貯留部7Bに蓄えられる酸素の増減に関わらず、集光光路を固定することができる。
【0028】
第2実施形態
本実施形態では、第1実施形態に示した光水電解セルを改良した構成を示し、図5及び図6に基づき説明する。なお、第1実施形態に示した光水電解セルと重複する箇所は同一符号を使用し、その説明を省略する。
【0029】
図5は、本実施の形態に係る光水電解セルの構成を示す図であり、図6は、光触媒部周辺の構成を概略的に示す図である。図5に示すように、透明ガラス板4は直接光触媒部3と接触し、光路が全く水部分を通過しない構成を有する。
【0030】
集光スポット位置検出手段17は、電流計を用いて光電流量を測定し、集光スポット位置を検出する。具体的な構成は、図6に示すように、光触媒部3と電子伝導体8との間に絶縁層である酸化ケイ素(SiO2)層18を挿入し、光触媒部3下部のオーミックコンタクト16と電子伝導層8とに導線19を接続している。導線19には電流計20を設置し、電流計20は、電子伝導体移動用モータ11に接続されたコントロールユニット21に接続している。
【0031】
上記構成の光水電解セルでは、電流計20を用いて光電流量を常に計測しており、太陽光aの入射角が変化すると、光触媒部3から集光スポットが外れて光電流量が減少する。コントロールユニット21では、電流計20から計測される光電流量の変化を監視して、光電流量が減少し始めたことを検出したときに、電子伝導体移動用モータ11に制御信号を送信し、電子伝導体移動用モータ11を駆動させて、集光スポットに光触媒部3を配置し、光電流量が最大値となるように調節している。このように、光電流量が最大値となるように光触媒部3を移動させたため、水分解反応が最も効率的に起こる集光スポットに光触媒を配置することができる。
【0032】
また、透明ガラス板4は集光ガラスと分離した構造を有するため、集光スポットに光触媒部3を移動させると、光触媒部3に対して透明ガラス板4は相対的位置を変えずに移動することになる。このため、光触媒部3で発生した水素は、左右いずれかの水素貯留部7A(水素貯蔵溝)に偏ることなく、左右の水素貯留部7Aに均等に水素を貯留することができる。
【0033】
さらに、集光手段として、中央が下に凸形状である集光ガラスを設置したため、水素が透明ガラス板4の上方に回り込む恐れが無くなり、集光光路を確実に固定することができる。
【0034】
本実施形態によれば、光触媒部3と透明ガラス板4とが直接接触した構造を有するため、水位に関係なく集光光路を固定することができる。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得られることはもちろんである。
【0035】
第3実施形態
本実施形態では、改良した光水電解セルについて、図7に基づき説明する。なお、第1実施形態に示した光水電解セルと重複する箇所は同一符号を使用し、説明を省略する。
【0036】
図7に示すように、集光ガラス2下部に水素貯留部7Aを設置し、水素貯留部7A下部に透明凸レンズ22を設置している。図7に示す光水電解セルでは、透明凸レンズ22を設置したため、液面がΔxの範囲にある場合でも、集光光路が変化することなく光触媒部3に太陽光aを照射することができる。また、透明凸レンズ22は、中央が下に凸形状であるため、光触媒部3から発生する水素は、透明凸レンズ22に滞留することなく、水素貯留部7Aに速やかに排出される。
【0037】
本実施形態によれば、水位の増減にある程度幅を持たせることにより、一定の光路とすることができる。なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得られることはもちろんである。
【0038】
以上、第1実施形態から第3実施形態までの各形態を説明したが、発明の主旨に沿うものであれば、発明の思想に含まれることはいうまでもない。例えば、光触媒としてp型半導体であるGaInP2を用いたが、その他、SrTiO3、TiO2、ZrO3、KTaO3、CdSeあるいはCdS、InTaO4、In1-xNixTaO4、Rb2La2TiO10、Ta2O5、TaON、Ta3N5などの半導体を使用しても問題はない。その際に、半導体がn型半導体である場合には、光触媒から酸素が、対極からは水素が発生することとなり、前述した各実施形態の水素貯留部と酸素貯留部とが入れ替わる構造となる。
【0039】
また、前述した各実施形態では、III−V族半導体太陽電池であるGaAs太陽電池とのタンデムタイプの光触媒部を例に挙げたが、バイアスをかける手段としては外部電源を用いても良く、その他、色素増感型太陽電池やシリコン結晶太陽電池など同様の目的を果たすものでも良い。また、第3実施形態においては、液面がΔxの範囲で変動しても光路が変わらない構成を説明したが、変動がその範囲となるように液面計を設けて液面がΔxの範囲となるように水素ガスの引き抜き量をガスブロワなどによって調整しても良い。また、水素発生触媒として白金を例に挙げたが、白金とその他の金属との合金、あるいは他の貴金属及びその合金などを用いても良い。また、酸素発生触媒としても白金を例に挙げたが、RuO2、NiOx、CeO2、IrO2などを用いても良い。また、集光スポット位置検出手段として、発生する水素量をフローメータ等の手段により検出し、生成量が減少を検知した場合、光触媒を移動させて、水素発生量が最大となる位置で固定しても良い。また、その際に、光触媒を左右どちらに動かすかはその時点で午前か午後かによって決めることが効率的である。また、予め季節と時間により、集光スポットが移動する軌跡をプログラミングしておき、その軌跡に沿って光触媒を移動させる構成としても良い。さらに、本実施形態においては、光触媒を配置した電子伝導体を移動用モータにより移動させる形態としたが、移動手段として電磁石を使用しても良い。また、本実施形態においては、水を原料とする水分解について述べたが、同様の思想は、光触媒から気体が発生するセルであれば何にでも適用可能であり、例えば光触媒を用いたエチレン生成などにおいても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光水電解セルを概略的に示す構成図である。
【図2】図1に示す光エネルギ変換部における光触媒部の構成を示す断面図である。
【図3】斜めの角度から入射した際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【図4】太陽光の照射により水から水素と酸素とを生成する際の反応を説明するバンド構造図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る光水電解セルの構成を示す図である。
【図6】図2に示す光触媒部周辺の構成を概略的に示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る光水電解セルを概略的に示す構成図である。
【図8】従来における光水電解セルの構成を示す概略図である。
【図9】図7に示す光水電解セルの全体構成を示す概略図である。
【図10】水貯留部に水素の気相が生じた際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【図11】太陽光の入射角度が変化した際の太陽光の入射経路を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
1…光水電解セル,
2…集光ガラス,
3…光触媒部,
4…透明ガラス板,
5…連結棒,
6…水貯留部(液体貯留部),
7A…水素貯留部(気体貯留部),
7B…酸素貯留部(気体貯留部),
8…電子伝導体,
9…酸素発生触媒,
10…プロトン伝導膜,
11…電子伝導体移動用モータ,
a…太陽光,
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を集光する集光手段と、
前記集光手段の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部と、
前記集光手段と前記光エネルギ変換部との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部と、
前記光エネルギ変換部から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部と、
前記エネルギ変換部により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段と、を備えることを特徴とする光電気化学セル。
【請求項2】
前記気体上昇防止手段は、前記エネルギ変換部と前記集光手段との間に設置される透明板又は膜であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項3】
前記気体上昇防止手段は、前記集光手段であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項4】
前記気体貯留部は、前記集光手段により太陽光が集光される集光光路の外側に設置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項5】
前記気体貯留部は、前記気体上昇防止手段である透明板の端部又は膜の端部に設置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項6】
前記気体貯留部は、前記集光手段と前記気体上昇防止手段との間に設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項7】
前記気体上昇防止手段及び前記集光手段の少なくとも一方は、中央が下に凸の形状を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項8】
集光スポット位置検出手段と、前記集光スポット位置検出手段からの位置情報に基づき、前記光触媒部の位置が検出された前記集光スポット位置まで移動させる移動手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項9】
前記光エネルギ変換部と前記透明板との相対的な位置が固定されていることを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項10】
前記集光スポット位置検出手段は、光位置検出センサであることを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項11】
さらに、前記光エネルギ変換部の光触媒部と電子伝導体との間に設置された絶縁層と、光触媒部と対極を導通させる導線と、前記導線中に設置された電流計と、を備え、
前記集光スポット位置検出手段は、前記光触媒部により発生する電流を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項12】
前記集光スポット位置検出手段は、光エネルギ変換部から発生する気体発生量を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項13】
前記集光スポット位置検出手段は、時刻を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項1】
太陽光を集光する集光手段と、
前記集光手段の像点に設置され、集光した太陽光エネルギを用いてガス状の燃料又は副生成物を生成する光エネルギ変換部と、
前記集光手段と前記光エネルギ変換部との間に設置され、エネルギ変換の原料となる液体を貯留する液体貯留部と、
前記光エネルギ変換部から発生するガス状の燃料又は副生成物を貯留する気体貯留部と、
前記エネルギ変換部により生成した気体が、鉛直上向きに上昇することを防止する気体上昇防止手段と、を備えることを特徴とする光電気化学セル。
【請求項2】
前記気体上昇防止手段は、前記エネルギ変換部と前記集光手段との間に設置される透明板又は膜であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項3】
前記気体上昇防止手段は、前記集光手段であることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項4】
前記気体貯留部は、前記集光手段により太陽光が集光される集光光路の外側に設置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項5】
前記気体貯留部は、前記気体上昇防止手段である透明板の端部又は膜の端部に設置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項6】
前記気体貯留部は、前記集光手段と前記気体上昇防止手段との間に設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項7】
前記気体上昇防止手段及び前記集光手段の少なくとも一方は、中央が下に凸の形状を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電気化学セル。
【請求項8】
集光スポット位置検出手段と、前記集光スポット位置検出手段からの位置情報に基づき、前記光触媒部の位置が検出された前記集光スポット位置まで移動させる移動手段と、を備えることを特徴とする請求項1記載の光電気化学セル。
【請求項9】
前記光エネルギ変換部と前記透明板との相対的な位置が固定されていることを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項10】
前記集光スポット位置検出手段は、光位置検出センサであることを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項11】
さらに、前記光エネルギ変換部の光触媒部と電子伝導体との間に設置された絶縁層と、光触媒部と対極を導通させる導線と、前記導線中に設置された電流計と、を備え、
前記集光スポット位置検出手段は、前記光触媒部により発生する電流を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項12】
前記集光スポット位置検出手段は、光エネルギ変換部から発生する気体発生量を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【請求項13】
前記集光スポット位置検出手段は、時刻を検出することを特徴とする請求項8記載の光電気化学セル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−188370(P2006−188370A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381708(P2004−381708)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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