説明

光音響装置

【課題】生体内の深い位置での光音響信号を取得する。
【解決手段】超音波を集音する音響レンズと、前記音響レンズによって集音された超音波を検出する超音波検出器と、前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させる駆動装置とを備え、前記駆動装置により前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させることにより、光音響法により被測定対象から発生する超音波を測定する光音響装置であって、前記被測定対象内の第1の位置から発する超音波に基づく第1の測定信号を出力し、前記第1の位置とは異なる前記被測定対象内の第2の位置から発する超音波に基づく第2の測定信号を排除する制御部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響効果を用いて生体内部の光吸収係数の分布を計測する方法に関し、特にアレイ型の超音波検出器を用いることで光音響によって生じた光吸収係数の分布により形成される音響像をイメージングする装置である。
【背景技術】
【0002】
光音響法は、試料に励起光を照射し、試料の光吸収に伴う周期的体積変化を光音響信号として検出する方法である。この光音響法を用いることで、生体内部の光吸収分布の情報を計測・可視化することができる。
【0003】
近赤外光は、生体の窓と呼ばれる波長帯域(600−1000nm)の光であり、他の波長帯域の光に比べて生体に対して浸達長が長い。また、近赤外光は、X線等の電磁波に比べて生体に対する影響が少ない。こうした特徴を有する近赤外光を用いて、生体内部の情報を計測・可視化する研究が近年活発に行われている。超音波は、近赤外光と同様に生体に対して、安全性が高く、そして生体内部の深くまで到達できる。また、超音波は近赤外光と異なり生体内をほぼ直進するという特徴をもつ。生体を構成する主要な物質である水、脂肪、酸化・還元ヘモグロビン、コラーゲン等は、近赤外の領域の光に対して特徴的なスペクトルを有している。このスペクトル情報を用いて生体内の構成物質の空間分布を可視化することで、癌などの疾病の兆候が観察できるものと期待されている。しかしながら、生体は近赤外光に対して強い散乱特性を有しているため、特定部位のスペクトル情報を入手するのは困難である。そこで、近赤外光と超音波の特徴を生かした光音響法を用いることにより、特定部位のスペクトル情報を入手することが可能となる。
【0004】
このような、光音響法を用いて生体内部の情報を可視化する技術は、従来から行われている(特許文献1)。
【特許文献1】米国特許第5840023号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように近赤外光は生体内で強く散乱するため、生体の深い領域では光強度が少ない。生体に近赤外光を照射し、その生体内部の特定部位から発生した超音波の強度は、特定部位に吸収される光強度に比例する。そのため、生体の深い領域で発生する超音波の強度は小さく、特許文献1の光音響法では、微弱な超音波信号しか得ることができなかった。また、生体の深い領域で発生する超音波は、生体の深い領域になるにつれて超音波検出器に入射する超音波波面の割合が少なくなるため、同様に、微弱な超音波信号しか得られなかった。
【0006】
本発明は、生体等の光の拡散する物体内部の光の吸収の情報を超音波を介して深い位置まで取得できる光音響装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての光音響装置は、超音波を集音する音響レンズと、前記音響レンズによって集音された超音波を検出する超音波検出器と、前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させる駆動装置とを備え、前記駆動装置により前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させることにより、光音響法により被測定対象から発生する超音波を測定する光音響装置であって、前記被測定対象内の第1の位置から発する超音波に基づく第1の測定信号を出力し、前記第1の位置とは異なる前記被測定対象内の第2の位置から発する超音波に基づく第2の測定信号を排除する制御部を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体等の光の拡散する物体内部の光の吸収の情報を超音波を介して深い位置まで取得できるため、健康医療の分野で利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施例について説明する。なお、各図において同一の参照符号は同一部材を表しているので説明は省略する。
【実施例1】
【0011】
まず、比較例の光音響法による生体内の可視化技術に関して詳細に説明する。
【0012】
図2は、比較例としての光音響法の概要を示したものである。被測定対象104は、生体であり、その中(被測定対象内)に近赤外光を吸収する吸収体(吸収領域、第1の吸収領域、第1の位置)105が存在している。マッチング層(マッチング溶液)103は、被測定対象104と近赤外光に対する光学特性をほぼ等しくしてあり、光および超音波の伝播を円滑にしている。光源121は、nsecオーダのパルス光を照射する光源であり、照明光学系122を介して被測定対象104にパルス光を照射する。111は、光源121を駆動するための光源駆動回路であり、制御回路120に接続されている。制御回路120は、メモリ123を有している。被測定対象104中をパルス光は拡散しながら伝播する。吸収体105は伝播してきた拡散光を吸収する。吸収体105は、吸収した光エネルギーにより急激に膨張し、その結果、吸収体105の大きさに関連した超音波を発生する。超音波の強度は、その吸収体に吸収される光エネルギーに比例する。
【0013】
図2中の矢印133の方向に進んだ超音波の波面の概略を波面132で示す。ここでは、吸収体105で発生する超音波の例を示したが、近赤外光が伝播している領域における吸収体では同様の現象が生じる。したがって、図2中の第2の吸収体(第2の吸収領域、第2の位置)134でも、吸収体105と同様に超音波が発生する。
【0014】
伝播した超音波は、アレイ構造を有する超音波検出手段115を構成する各アレイ115a〜115eで検出される。各アレイからの超音波信号(第1の測定信号、第1の超音波信号)は、信号変換部118a〜118eを介して制御回路(制御部)120により再構成される。再構成にあたっては、従来Sum_and_delay法などが使用されている。再構成された像は、出力機器113に音響像(図4(b))が出力される。超音波検出手段115及び信号変換部118a〜118eは、超音波トランスデューサ駆動回路119を介して制御回路120に接続されている。次に、各アレイ115a〜115eにおける信号に関して説明する。図3は、各アレイ部で検出される信号を模式的に示した図である。図3中の118a〜118eは、図2中の超音波検出手段115におけるアレイ115a〜115eにおいて検出された超音波の波形の時間変化を表したものであり、軸128が時間方向に対応している。基準時間129が、近赤外光が照射された瞬間である。近赤外光は生体中を瞬時に伝播し、図2中の吸収体105あるいは第2の吸収体134によって吸収される。近赤外光を吸収した吸収体105あるいは第2の吸収体134からは、超音波が発生する。生体中を超音波は、約1500m/secで伝播する。そのため、超音波が超音波検出手段115の各アレイ115a〜115eによって検出されるときには時間差が生じる。図3中、波形130は、近くにある図2中の第2の吸収体134で発生した超音波の波形(第2の測定信号に基づく波形)、波形131は、吸収体105で発生した超音波の波形(第1の測定信号に基づく波形)である。
【0015】
この波形の形状において遅延時間135が吸収体までの距離に関するパラメータを、周期136が吸収体の大きさを表している。したがって、この波形を再構成することで、生体内部において吸収体の情報を可視化することができる。しかしながら、上述したように近赤外光は生体内で強く散乱するため、生体内部では光強度が少ない。したがって生体の深い領域では、吸収体により発生する超音波の強度は小さい。また、図2における超音波検出器115のアレイ115aには、吸収体105で発生した超音波の波面132のうち角度θの割合しか入射できないため、検出できる超音波のエネルギーが小さく、深い部分からの信号が得られなかった。
【0016】
以下、本発明の第1の実施例について詳細に説明する。図1は本発明の実施例1の構成を説明するための図である。
【0017】
図1において、被測定対象104は、生体であり、その中(被測定対象内)に近赤外光を吸収する吸収体(吸収領域)105が存在している。マッチング層103は、被測定対象104と近赤外光に対する光学特性をほぼ等しくしてあり、近赤外光および超音波の伝播を円滑にしている。光源109は、nsecオーダのパルス光を照射する光源であり、照明光学系110を介して被測定対象104にパルス光を照射する。111は、光源109を駆動するための光源駆動回路である。被測定対象104中をパルス光は拡散しながら伝播し、その拡散光の一部が吸収体105によって吸収される。吸収された光エネルギーにより吸収体が急激に膨張するため、この吸収体105はそれ自身の大きさに関連した超音波を発生する。この超音波の強度はその吸収体に吸収される光エネルギーに比例する。
【0018】
図1中の矢印133の方向に進んだ超音波の波面の概略を波面132で示す。ここでは、吸収体105で発生する超音波の例を示したが、近赤外光が伝播している領域における吸収体では同様の現象が生じる。したがって、第2の吸収体(第2の吸収領域)134でも、吸収体105と同様に超音波が発生する。
【0019】
伝播した超音波は、音響レンズ102により集音される(集められる)。図1では、吸収体105と超音波検出器101が共役関係になっており、吸収体105で発生した超音波は、超音波検出手段上で集音する。ここで、吸収体105と超音波検出器101とが共役関係である、とは、吸収体105と超音波検出器101と(の位置関係)が共役関係にある場合だけでなく、超音波検出器101が共役位置近傍にある場合(実質的に共役な場合)も含めて共役関係であるとする。
【0020】
超音波検出器(超音波トランスデューサ)101は、駆動装置107と接続されており(駆動装置上に配置されており)、駆動装置107によって音響レンズ102の軸(光学的なレンズにおける光軸)と平行な方向に移動可能である。この駆動装置107は、駆動装置制御回路108に接続されており、駆動装置制御回路108からの駆動信号に基づいて、超音波検出器101を駆動している。この駆動装置制御回路108は制御回路112に接続されており、制御回路112は、超音波トランスデューサ駆動回路106からの信号に基づいて、又は予め設定された駆動パターンに基づいて、駆動装置制御回路108に駆動信号を送信する。
【0021】
ここで、駆動装置107が超音波検出器101の音響レンズ102の軸の方向への駆動(移動)とは、その移動する方向が少なくとも音響レンズ102の軸方向の成分を持っていれば足りるため、移動方向と軸方向とが必ずしも平行である必要は無い。また、この駆動装置107は、超音波検出器(超音波トランスデューサ)101と音響レンズ102のうちの一方、或いは両者を移動させることが可能である(音響レンズを移動させる場合は、マッチング層の大きさを変化させると好ましい)。つまり、両者の間隔(位置関係)を変えずに、超音波検出器(超音波トランスデューサ)101と音響レンズ102の両者を移動させても良い。しかしながら、本実施例1のように音響レンズ102を被測定対象に対して固定したままで、超音波検出器(超音波トランスデューサ)101を音響レンズ102の軸方向に移動させると構成が簡易になるため好ましい。
【0022】
また、超音波検出器101は、超音波検出器101からの超音波信号(第1の測定信号、第2の測定信号等)を処理する信号処理部114を有する超音波トランスデューサ駆動回路106を介して、制御回路112に接続されている。制御回路112は、メモリ123を有している。メモリ123は、音響イメージ等を記憶する。
【0023】
次に本発明により光音響像が取得できる原理を説明する。図4は、その原理を説明するための図であり、付番の共通のものは同じ機能をあらわすものとして説明を省略する。
【0024】
図4では、吸収体105とアレイ型の超音波検出器101が共役関係にある場合において、吸収体105で発生した超音波の伝播の様子を示している。
【0025】
図4において、超音波は生体中をほぼ直進し、吸収体105で発生した超音波の波面116は音響レンズ102で収束波面117に変換される。そして、超音波検出器101上に集音する。この原理で、超音波検出器101上には、吸収体105の音響像が結像する。
【0026】
ここで、吸収体105の大きさを無視した場合の吸収体105と超音波トランスデューサ101との距離をL(m)とする。また、吸収体105で発生した超音波の音速をv(m/sec)とする。そのとき、超音波はL/v(s)後の時間に超音波トランスデューサ101上に到達することになる。
【0027】
この到達時間は、超音波トランスデューサ101の位置と音響レンズ102の焦点距離により決定される共役点、すなわち吸収体105の位置によって決定される。
【0028】
したがって、超音波トランスデューサ101と焦点距離が既知の音響レンズ102の相対位置関係を計測し、その共役点を算出することで、超音波トランスデューサ上に、共役点で発生した超音波がいつ到達するのかを予測することができる。このとき、媒質中の音速を知ることが必要であるが、生体内の音速は、1500〜1600m/secといわれているので、その値を使って計算することが可能である。音響レンズ102中およびマッチング層103の音速はあらかじめ測定を行いその値を使用することでより高度な予測が可能となる。
【0029】
アレイ上の出力を並べることで、図4(b)に示したような吸収体105の像124が画像出力機器113上に形成される。
【0030】
図5は、超音波検出器101と共役関係にない第2の吸収体134の関係を示したものである。第2の吸収体134で発生した超音波は、音響レンズ102で波面139のように変換される。超音波検出器101と第2の吸収体134は共役関係にないため波面139は超音波検出器101上で集まることなく、つまりフォーカスはずれの像を形成する。図5(b)は、不図示の出力手段上のイメージを示したものであり、背景125の中に焦点はずれの音響像124がイメージングされる(結ばれる)。
【0031】
この焦点はずれ124の像が形成される時間は、第2の吸収体134の位置が、共役点である吸収体105の位置よりも超音波トランスデューサ101に対して近い位置にあるので、より早い時間に形成される。加えて、その像は、共役関係にないこと、および、音響レンズ102の中心と周辺を通過した音波の時間差が生じることなどもあり、ぼけた形で形成される。
【0032】
次に、各アレイ101a〜101eにおける信号に関して説明する。図6は、各アレイで検出される信号を模式的に示した図である。図6に示したように、音響レンズ102に対して吸収体105と第2の吸収体134は異なる位置にあるため、各アレイ101a〜101eに入る時間が異なる。図7は、各アレイに入る信号を模式的に示したものである。126a〜126eは、各アレイ101a〜eに対応した信号であり、127は時間軸である。129は基準時間を示している。
【0033】
図6の第2の吸収体134は、超音波検出器101に近いため、その音響信号は基準時間から短い時間で信号140として観測される。また、吸収体105の信号は、超音波検出器101から遠い距離にあるため、信号(第1の超音波)141として検出される。吸収体105は、超音波検出器101と共役関係にあるため、特定のアレイ101aに対応する信号126aに強く観測される。
【0034】
音響レンズ102を配置することで、特定のアレイに共役点近傍の超音波の信号を結果的に強く入射させることができる。
【0035】
したがって、生体内のより深い部位の音響信号を検出することが可能となる。特に、超音波検出器101の能力が限られている場合においては有効である。
【0036】
本実施例では、超音波検出器101を駆動装置107により移動させることで、音響像を逐次取得し、最後に奥行き方向の画像を構成する。
【0037】
本発明は、これにより、光音響効果により発生した音波を効率よく超音波検出器101に導くことができるばかりか、再構成を行わなくとも音響イメージを超音波トランスデューサ上に音響像を形成することができる。
【0038】
図7に示したように、焦点はずれの信号(第1の超音波以外の第2の超音波)140は小さいこともあり、場合によってはノイズとなる。生体内の超音波の伝播速度の概略は算出できることから、音響レンズ102の焦点距離fと超音波検出器101との位置(音響レンズと超音波検出器との相対的な位置関係、位置間隔)から概略の共役点の位置(共役位置)を算出することができる。そして、共役点の位置から光音響信号の検出する時間をあらかじめ予測してその部分(時間)に入射した信号を音響像とするとノイズの少ないイメージを形成することができる。
【0039】
図7では、たとえば基準時間129を基準として、音響像の到達予想時間142を算出し、その前後余裕を持たせた形の到達予想時間近傍の閾値143の間、超音波検出器101のシャッターを開けるなどをする。ここで、超音波の超音波検出器101への到達時間は、超音波の発生源としての吸収体と超音波検出器101との間隔(相対的な位置関係、両者の距離)、及びその間にある媒質(超音波を伝達する媒質)内の超音波の伝播速度等によって得られるものである。勿論この到達予想時間(超音波の到達する時間の予想値)は、演算で求めても、テーブルから取得しても構わない。シャッターとしては、超音波検出器101の被測定物側にメカニカルシャッターのような超音波を物理的に遮断する(阻害する、超音波の伝達を阻害する)機構を用いて、そのシャッターの開閉を制御してもよい。また、超音波検出器101によって検出される光音響信号のうち閾値143の間の光音響信号を抜き取るような信号処理部114であってもよい。ここでは、超音波検出器101により検出した検出結果のうち、吸収体105(第1の位置)から発する超音波に基づく信号(第1の測定信号)を残し、吸収体134(第2の位置)から発する超音波に基づく第2の測定信号を排除する処理を行えば良い。好ましくは、吸収体105(第1の位置)から発生する超音波に基づく信号(第1の測定信号)だけを残し(出力し)、それ以外の信号を全て排除できれば好ましい。このようなシャッターを有することにより、超音波検出器101が検出する超音波信号のノイズが多くなることを防止する(ノイズが超音波検出器に伝達するのを阻害する)ことができる。メカニカルシャッターは、到達予想時間近傍の間シャッターを開口させ、到達予想時間近傍以外の時間は閉口することによって、ノイズとなる超音波を物理的に遮断することができる。信号処理部114は、到達予想時間近傍の間に検出される超音波信号については取得し、到達予想時間近傍以外の間に検出される超音波信号については取得しないことで、ノイズを少なくすることができる。
【0040】
この時間に計測される各アレイからの出力を、空間的にならべることで、音響像を得ることができる。
【0041】
本実施例では、超音波検出器101として、説明のため5つのアレイの構造を示したが、実際には、より多くの画素構造をもつもので構成すると、より高分解能の画像を取得することができる。
【0042】
また、本実施例においては、光源109の位置を図1の位置としたが、その位置に限定するものではなく光源を複数設けても同様の効果が得られる。
【0043】
ここまで示したように、超音波トランスデューサ101の共役点の音響イメージが取得される。
【0044】
したがって、1共役断面の音響イメージを取得したあとに、音響レンズ102と超音波トランスデューサ101の間隔を調整して共役点を移動し、その地点における共役像を取得することで断層像を取得することができる。
【0045】
比較例のように信号に再構成をして画像を取得する構成ではないので、処理系をシンプルにすることが可能となる。
【0046】
このとき、共役関係における結像倍率を、算出して音響イメージの大きさを補正するなどするとより高精度な音響イメージングが可能となる。
【0047】
図10に音響像を取得するためのフローチャートを示す。
【0048】
先ず、ユーザは、生体104内部において音響イメージを取得したい位置と、かかる位置から取得したい範囲(画像取得領域)を不図示の入力装置を使って入力する。S101において、制御回路112は、音響レンズ102を介してユーザが取得したい位置と共役関係になる超音波トランスデューサ101の位置を算出する。そして、駆動装置107を用いて超音波トランスデューサ101をかかる共役位置へ駆動する。次いで、S102において、音響レンズ102と超音波トランスデューサ101の相対位置を制御回路112のメモリ123に記憶し、制御回路112は、かかる相対位置からできあがる像の倍率βを算出する。S103において、光音響イメージの計測が開始されると、S104では、超音波トランスデューサ101の共役位置から超音波が到達する時間をあらかじめ予測し、その時間をデータ取得タイミングとして設定する。S105では、光源駆動回路111は光源109を発光させる。S106では、S104で設定されたデータ取得タイミングにおいて得られた音響イメージをメモリ123に記憶する。S107では、制御回路112はユーザが設定した画像取得領域全てにおいて音響イメージの取得が終了したかどうかを判断する。終了していない場合はS108へ移り、次の音響イメージを取得するために、音響レンズ102と超音波トランスデューサ101の相対位置を変更し、S102〜S107を再び行う。S107で、ユーザが設定した画像取得領域全てにおいて音響イメージの取得が終了している場合は、S109へ移り、取得した生体104の断層画像をS102で求めた倍率βによって補正する。S110では、S109で補正された断層画像を出力機器113に出力する。その後、画像の取得を終了する。
【0049】
本実施例においては、生体に照射する光源の波長を近赤外光のみとしたが、光音響を行う光源の波長を変更して光音響法を行うことで、音響イメージの分光像を取得することができる。その分光情報を利用して、吸収体の分光特性を把握することにより、吸収体の性質を推定することが可能となる。
【0050】
図12に、光源の波長を変更して、音響イメージを取得するフローチャートを示す。
【0051】
図12のフローチャートは、図10のフローチャートとは、S104とS105の間に、光源の波長の設定を行うS201が追加される点で異なる。また、S106とS107の間に、取得する波長の音響イメージが全て取得しているかどうかを判断するS202が追加される点で異なる。
【0052】
先ず、ユーザは、生体104内部において音響イメージを取得したい位置と、かかる位置から取得したい範囲(画像取得領域)と、音響イメージを取得する際に用いる光源の波長の種類とを不図示の入力装置を使って入力する。S101において、制御回路112は、音響レンズ102を介してユーザが取得したい位置と共役関係になる超音波トランスデューサ101の位置を算出する。そして、駆動装置107を用いて超音波トランスデューサ101をかかる共役位置へ駆動する。次いで、S102において、音響レンズ102と超音波トランスデューサ101の相対位置を制御回路112のメモリ123に記憶し、制御回路112は、かかる相対位置からできあがる像の倍率βを算出する。S103において、光音響イメージの計測が開始されると、S104では、超音波トランスデューサ101の共役位置から超音波が到達する時間をあらかじめ予測し、その時間をデータ取得タイミングとして設定する。S201では、制御回路112は、ユーザが入力した光源の波長の種類の中から生体104に照射する波長を設定する。S105では、光源駆動回路111はS201で設定された波長で光源109を発光させる。S106では、S104で設定されたデータ取得タイミングにおいて得られた音響イメージをメモリ123に記憶する。S202では、制御回路112は、ユーザが設定した光源波長全ての種類で音響イメージが取得されたかどうかを判断する。ユーザが設定した光源波長全ての種類で音響イメージが取得されていない場合は、S201へ戻り、次の光源波長を設定して、再びS105〜S106を行う。ユーザが設定した光源波長全ての種類で音響イメージが取得されている場合は、S107へ移る。S107では、制御回路112はユーザが設定した画像取得領域全てにおいて音響イメージの取得が終了したかどうかを判断する。終了していない場合は、S108へ移り、次の音響イメージを取得するために、音響レンズ102と超音波トランスデューサ101の相対位置を変更し、S102〜S107を行う。S107で、ユーザが設定した画像取得領域全てにおいて音響イメージの取得が終了している場合は、S109へ移り、取得した生体104の断層画像をS102で求めた倍率βによって補正する。S110では、S109で補正された断層画像を出力機器113に出力する。その後、画像の取得を終了する。
【0053】
本実施例は、音響レンズ102を用いて超音波トランスデューサ101上に超音波を集音することにより比較的生体内の深い部分の光音響イメージングを可能とするものである。また、比較例として示したものと併用することも可能である。
【実施例2】
【0054】
本発明にかかる第2の実施例を以下に説明する。図8は第2の実施例を説明するための図である。本実施例は、実施例1の装置をアレイ化した構造であり、被測定物204中の吸収体205を光音響効果を用いて検出するものである。
【0055】
202a,b,cは、2次元配列されて形成された音響レンズアレイであり、アレイ型の超音波検出器201a,b,c及びアレイ型の駆動装置206a,b,cが対応して複数個並んで配置されている。
【0056】
原理に関しては、実施例1と同様なので説明を省略する。
【0057】
光源209は、nsecオーダのパルス光を照明光学系210を介して照明する。被測定物204の内部の吸収体205からの音響波を超音波検出器201a,b,cで検出するので広い範囲の音響像を取得することができる。
【0058】
図9は、音響像のイメージを示したものである。超音波検出器201a,b,cから取得された画像は、図9の表示エリア214内の領域215a,215b,215cに表示するように構成している。
【0059】
また、本発明においても実施例1と同様に、超音波検出器を駆動装置206a,b,cを用いて動かすことで、焦点位置を変更して音響像を取得することができる。
【0060】
また、本実施例においては、光源の位置を図8の位置としたが、その位置に限定するものではなく光源を複数設けても同様の効果が得られる。
【0061】
本実施例においても、生体に照射する光源の波長を近赤外光のみとしたが、光音響を行う波長を変更して光音響法を行うことで、音響イメージの分光像を取得することができる。その分光情報を利用して、吸収体の分光特性を把握することによって、吸収体の性質を推定することが可能となる。
【実施例3】
【0062】
本発明における第3の実施例を図11を使用して説明する。図11は、光音響法により音響イメージを実施例1に説明したような手法をもとに取得する装置の構成例である。
【0063】
筐体310は超音波トランスデューサ301および光源308を内蔵する筐体であり、観察者はこの筐体310を使って、被検体304の内部の音響イメージを取得するものである。被検体304はたとえば人間の乳房等である。被検体304の内部は、近赤外光に対して吸収特性は低いものの強散乱特性を示すため光は直進しない。光源308は、近赤外光のパルス光を発光する光源であり、光源駆動回路313を介して制御装置311に接続されている。制御装置311は、メモリ123を有している。メモリ123は、音響イメージ等を記憶する。光源308を発光した光は、レンズ309を介して被検体304を照明する。吸収体305は、被検体304内部にあり、近赤外光に対して吸収特性を示す物体であって、近赤外光の照射にともない光音響により超音波を発生する。発生した超音波は、音響レンズ302を介して、超音波トランスデューサ301が音響レンズ302に対して、吸収体305と共役関係にあるときに音響像を超音波トランスデューサ301上に形成する。315は、メカニカルシャッターであり、本実施例では超音波トランスデューサ301の被検体304側にメカニカルシャッターが配置されている。メカニカルシャッター315は、音響レンズ302を介して超音波トランスデューサ301と共役関係になる位置から発生する超音波に対しては開口して超音波を通す。しかし、共役関係にならない位置から発生する超音波に対しては、超音波トランスデューサ301に検出されるのを防止するために閉口する。もちろん、上述したような超音波トランスデューサ駆動回路314の中にある図示しない信号処理部をメカニカルシャッター315の代わりに用いてもよい。超音波トランスデューサ301は超音波トランスデューサ駆動回路314を介して制御装置311に接続されている。また、駆動装置306が、超音波トランスデューサ301には接続されており、音響レンズ302との相対位置を移動させることができるように構成されている。駆動装置306は、駆動装置制御回路307を介して制御装置311に接続されている。不図示の観察者が制御装置311を制御することにより、音響イメージを逐次取得してゆくことで断層像を得ることができる。測定において取得した断層像を観察者は、表示装置312で観察することができる。
【0064】
本実施例は、筐体310を観察者が持つことができる構成であり、被検体304と音響レンズ302の間に音響インピーダンス整合用の音響整合層(マッチング溶液)303を塗布して使用する。この音響整合層303としては、これまで超音波エコー装置等で使用されてきた透明のジェルなどを使用することができる。また、音響レンズ302と超音波トランスデューサ301の間を、音響インピーダンス整合用のマッチング溶液で満たしてもよい。そうすることにより、音響エネルギーのロスを少なくすることが可能である。
【0065】
本実施例では、光源308としてパルス光を発光する光源としたが、半導体レーザあるいはチタンサファイアレーザ等を使用することができる。波長可変のレーザを用いて波長を変更して、音響像を取得することで、分光イメージングを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明にかかる第1の実施例を説明するためのブロック図。
【図2】比較例の光音響法による測定方法を説明するためのブロック図。
【図3】比較例の光音響法において検出される超音波信号を模式的に示した図。
【図4】吸収体105と超音波検出器101が共役関係にある場合の超音波の伝播を説明するためのブロック図及び音響像のイメージ図。
【図5】第2の吸収体134と超音波検出器101が共役関係にない場合の超音波の伝播を説明するためのブロック図及び音響像のイメージ図。
【図6】各アレイ部で検出される超音波信号を模式的に示したブロック図。
【図7】本発明にかかる第1の実施例において検出される超音波信号を模式的に示した図。
【図8】本発明にかかる第2の実施例を説明するためのブロック図。
【図9】本発明の第2の実施例において取得される音響像のイメージ図。
【図10】音響像を取得するためのフローチャート。
【図11】本発明にかかる第3の実施例を説明するためのブロック図。
【図12】光源の波長を変更して、音響像を取得するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0067】
101 超音波検出器
102 音響レンズ
103 マッチング層
104 被測定対象(生体)
105 吸収体(吸収領域)
106 超音波トランスデューサ駆動回路
107 駆動装置
108 駆動装置制御回路
109 光源
110 照明光学系
111 光源駆動回路
112 制御回路
113 出力機器
123 メモリ
134 第2の吸収体(第2の吸収領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を集音する音響レンズと、
前記音響レンズによって集音された超音波を検出する超音波検出器と、
前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させる駆動装置とを備え、
前記駆動装置により前記超音波検出器と前記音響レンズの少なくとも一方を移動させることにより、光音響法により被測定対象から発生する超音波を測定する光音響装置であって、
前記被測定対象内の第1の位置から発する超音波に基づく第1の測定信号を出力し、前記第1の位置とは異なる前記被測定対象内の第2の位置から発する超音波に基づく第2の測定信号を排除する制御部を有することを特徴とする光音響装置。
【請求項2】
前記第1の位置と前記超音波検出器の位置とが、前記音響レンズによって共役な関係になっていることを特徴とする請求項1に記載の光音響装置。
【請求項3】
前記制御部が、前記超音波検出器と前記音響レンズとの位置に基づいて、前記第2の測定信号を排除することを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響装置。
【請求項4】
前記被測定対象と前記超音波検出器との間に配置されたシャッターを備えており、
前記シャッターが、前記第2の位置から発する超音波が前記超音波検出器に達するのを阻害し、前記第1の位置から発する超音波を前記超音波検出器に伝達するように、開閉を制御されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の光音響装置。
【請求項5】
前記超音波検出器が、前記第1の位置から発する超音波も前記第2の位置から発する超音波も検出しており、
前記制御部が、前記超音波検出器による検出結果から、前記第2の位置から発する超音波に基づく前記第2の測定信号を排除する処理を施すことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の光音響装置。
【請求項6】
前記超音波検出器と前記音響レンズとの位置に基づいて、前記第1の位置から発する超音波の前記超音波検出器に到達する時間の予想値を得て、
前記制御部は、該到達予想時間に基づいて前記第2の測定信号を排除していることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項に記載の光音響装置。
【請求項7】
前記被測定対象を照射する光源から発する光の波長を変更することが可能であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか一項に記載の光音響装置。
【請求項8】
前記音響レンズは、2次元配列されて形成された音響レンズアレイであり、
前記超音波検出器と前記駆動装置は、前記音響レンズアレイに対応して複数個並んで設けられることを特徴とする請求項1乃至7いずれか一項に記載の光音響装置。
【請求項9】
前記音響レンズと前記超音波検出器の間に、音響インピーダンス整合用のマッチング溶液が存在することを特徴とする請求項1乃至8いずれか一項に記載の光音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−63617(P2010−63617A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232174(P2008−232174)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】