説明

免疫増強剤

【課題】 化学的処理を施さない、天然の成分を用いた免疫増強剤、及び免疫増強効果を賦与した飲食品を提供する。
【解決手段】オーツ麦などのイネ科穀粒及びその加工物とラクトバチルス・ガセリなどの乳酸菌とを組み合わせた免疫増強剤及び免疫増強用飲食品。イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌とを含有する混合物は、それぞれが単独のものよりもマクロファージが活性化されサイトカイン産生量が相乗的に高まり免疫増強効果が増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫力を増強し、種々の細菌、ウイルス感染やガンの発生を予防する作用を有するイネ科穀粒ならびに乳酸菌を有効成分として含有する免疫増強剤及びイネ科穀粒ならびに乳酸菌を配合した免疫増強用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫とは、細菌やウイルスあるいは体内で発生する腫瘍などから生体を守るためのシステムである。近年、この免疫システムを増強させる食品成分が注目されている。このような成分として、乳酸菌、麹カビあるいは酵母などの食用微生物やそれらの細胞壁成分、又は、シイタケやアガリクスに代表される担子菌類の多糖類、特にβグルカン類などが知られている。
これら成分の免疫増強効果は、生体内の様々な細胞に成分が作用し、腫瘍壊死因子(以下TNFと略記)、インターロイキン(以下ILと略記)類、インターフェロン(以下IFNと略記)類などのサイトカインと総称される物質の産生が活性化、誘導されることにより生じる。誘導されたこれらの物質は、免疫担当細胞に作用し免疫系を活性化する。 サイトカインのうち、TNFは、単球やマクロファージから放出され、細胞増殖作用や抗ウイルス作用を示すことが知られている。IL類としては、IL1〜IL18の存在が知られている。そのうちIL12は、感染、炎症、種々の免疫反応などに伴い、主として単球やマクロファージから産生されるペプチドホルモンである。IL12は単球やマクロファージが活性化すると産生量が増加し、さらにリンパ球に働いてIFNγ産生を誘導することが知られている。IFN類は、産生する細胞の種類によって名称が異なり、IFNα、IFNβ、IFNγの3つが知られている。IFNγは、主としてリンパ球が産生する、分子量が約2万の糖蛋白質であって、抗ウイルス作用、マクロファージやナチュラルキラー細胞などの免疫担当細胞の活性化や分化誘導に作用し免疫調節因子として注目されている。
免疫担当細胞の活性が弱くなることにより引き起こされる病態には、免疫失調、免疫系の種々の異常、膠原病や潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、アレルギー疾患、動脈硬化、インスリン抵抗性、糖尿病などの代謝性疾患や、多発性硬化症、移植片対宿主症、細菌感染症、ウイルス感染症、ウイルス肝炎、HIV感染などの感染症などがあり、免疫担当細胞を活性化することは、これら病態の予防、治療、改善、再発防止に非常に有益となりうる。そのため、免疫担当細胞を活性化できるような免疫増強剤、さらには免疫担当細胞を活性化できるような飲食品が強く望まれていた。
【0003】
これらIL1やIL12あるいはIFNγの産生を増強させるものとして、微生物由来の多糖類、或いは細胞壁成分などでは酵母菌体、乳酸菌菌体などが細胞培養実験で知られている。また、シイタケ抽出多糖類であるレンチナン或いは担子菌類のβグルカン類もIL1やIL12あるいはIFNγの産生増強に有効であることが知られている。しかし、これら微生物や担子菌は、培養に手間がかかり、特殊な設備を必要とする。また、これら微生物や胆子菌類由来のβグルカン或いはその他多糖類の抽出は、操作が煩雑であると共に、精製工程も煩雑で、コスト及び操作時間が多大にかかり、得られる食品素材あるいは食品が非常に高価なものとなってしまうという問題がある。さらに、免疫増強作用があるイネ科植物由来βグルカンを酸加水分解や酵素分解により低分子化して水溶性を高める技術も知られているが(例えば、特許文献1参照)、食品、医薬品などの素材として使用する場合、加熱操作や長時間の撹拌操作などが必要になり、酸や熱による変性や分子修飾のためのコストが高くなるという問題がある。また、化学的処理をした食品に抵抗感を抱く消費者も多いという問題がある。ゆえに、化学的処理を施さない、天然の食品を用いた免疫増強成分が望まれていた。
【特許文献1】特開平13-323001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、オーツ麦、大麦、小麦、ライ麦、米、とうもろこしなどのイネ科穀粒と乳酸菌とを組み合わせた免疫増強剤、及び免疫増強用飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は免疫増強作用を有する食品素材について鋭意研究を重ねた結果、オーツ麦などのイネ科穀粒及びその加工物とラクトバチルスなどの乳酸菌とを組み合わせた組成物が、それぞれが単独のものよりも免疫増強効果が相乗的に高まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、腹腔マクロファージと脾臓細胞とを共培養し、免疫原としてオボアルブミンを加えた培地に、乳酸菌の添加、無添加とオートミールの添加、無添加を組み合わせた実験系でNO2-イオン産生量、IL12量、IFNγ量を測定したところ、マクロファージ活性化を反映するNO2-イオン量は、オートミール単独添加、乳酸菌単独添加でも産生が確認されたが、オートミールに乳酸菌を添加した場合は、産生量が飛躍的に増大した。
また、IL12、IFNγのサイトカイン産生量は、オートミール単独添加や乳酸菌単独添加でもサイトカイン産生が見られたが、オートミールに乳酸菌、特にラクトバチルス・ガセリ菌を添加した場合は、産生量が飛躍的に増大した。
このように、オーツ麦などのイネ科穀粒及びその加工物とラクトバチルスなどの乳酸菌とを組み合わせた組成物がマクロファージを活性化し、それぞれが単独のものよりも、NO2-イオン産生量や、IL12、IFNγのサイトカイン産生量が相乗的に増大することを見出し、イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌とを組み合わせたものが格別の免疫増強効果を有することが判明した。
【0006】
したがって、本発明は、
(1) イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌とを含有する免疫増強剤
(2) イネ科穀粒及び/又はその加工物を乳酸菌で発酵させた前記(1)記載の免疫増強剤
(3) イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌菌体又は発酵乳とを混合した前記(1)〜(2)のいずれかに記載の免疫増強剤
(4) イネ科穀粒が、オーツ麦、大麦類、小麦類、ライ麦類、とうもろこし類又は米類の穀粒である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の免疫増強剤
(5) 乳酸菌がラクトバチルス・ガセリである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の免疫増強剤
(6) イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌とを配合した免疫増強用飲食品
(7) イネ科穀粒及び/又はその加工物を乳酸菌で発酵させた前記(6)記載の免疫増強用飲食品
(8) イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌菌体又は発酵乳とを混合した前記(6)〜(7) のいずれかに記載の免疫増強用飲食品
(9) イネ科穀粒が、オーツ麦、大麦類、小麦類、ライ麦類、とうもろこし類又は米類の穀粒である前記(6)〜(8)のいずれかに記載の免疫増強用飲食品
(10)乳酸菌がラクトバチルス・ガセリである前記(6)〜(9)のいずれかに記載の免疫増強用飲食品
からなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌の配合物は、体内におけるIL12をはじめとするサイトカインの産生を促進し、それぞれを単独で摂る場合に比べて、飛躍的に産生量が増大することで、免疫システム全体に作用し、感染症や腫瘍発生の予防に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の免疫増強剤は、免疫担当細胞活性化作用あるいはサイトカイン、特にIFNγの産生促進作用を有する免疫増強作用を有し、そのまま摂取するか、あるいは飲食品などの素材として適している。
【0009】
本発明の免疫増強剤はイネ科植物種子由来の穀粒及びその加工物を用いる。イネ科植物の例としては、米類、小麦類、トウモロコシ類、ヒエ類、アワ類、キビ類、大麦類、オーツ麦類(カラス麦類)、ライ麦類などが挙げられ、好ましくは、大麦類、オーツ麦類、さらに好ましくはオーツ麦類である。本発明でイネ科穀粒とは、イネ科植物種子の可食部分を指す。また、本発明のイネ科植物種子由来の穀粒の加工物は、穀粒を一般に食品として用いられるときに行われる処理を行ったもので、例えばオートミール、押し麦、小麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、米、米粉、さらに発芽玄米など、食用に適したいかなる形態のものでも用いることができる。また、加工及び調理の形態はどのようなものでもよく、粥や炊飯米などに用いられる加水加熱、パンやビスケットなどに用いられる焙焼などの処理をしてもよい。
【0010】
本発明の乳酸菌はラクトバチルス属の乳酸菌が好ましく、さらに好ましくは、ラクトバチルス・ガセリが挙げられる。この他にもラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、ロイコノストック属、エンテロコッカス属、サーモフィルス属、ビフィドバクテリウム属を用いることもできる。
【0011】
また、乳酸菌とイネ科穀粒及びその加工物との混合方法は、穀粒あるいはその穀粉などの加工物に、生菌を接種する、あるいはさらにそれを発酵させる、凍結乾燥品などの菌体を混合するか、あるいは発酵乳などの乳酸菌含有食品と混合するかのいずれでもよい。さらには、イネ科穀粒及びその加工物を加水加熱したものに、生菌を接種するか、あるいはさらにそれを発酵させる、凍結乾燥品などの菌体を混合する、あるいは発酵乳などの乳酸菌含有食品と混合するかのいずれであってもよい。
【0012】
本発明の免疫増強剤の形態は、イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌を混合したものを、粉末状あるいは固形状の場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤などにすれば良く、経口的に投与することが望ましい。また、流動状の場合は、袋、パウチなどに充填する。これらの形態は、従来から知られている通常の方法で製造することができる。製剤上許可されている担体や賦型剤などと混合して成型しても良い。
また、本発明の免疫増強用飲食品は加工及び調理の形態はどのようなものでもよく、上記のイネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌の混合物を、粥や炊飯米などに用いられる加水加熱、パンやビスケットなどに用いられる焙焼などの処理をしてもよく、飲料、発酵乳、麺類、ソーセージなどの飲食品、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などに配合することも可能である。
【0013】
また、本発明の乳酸菌を、イネ科穀粒及びその加工物に配合して、免疫増強剤あるいは、免疫増強用飲食品などの素材又はそれら素材の加工品に含有させて使用する場合、イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌の混合物を0.01〜50重量%含有させることが好ましい。
これらの免疫増強剤及び免疫増強用飲食品などは、免疫増強能を有するので、前述した免疫の不調により引き起こされるさまざまな病態の予防、治療、改善、再発防止に非常に有益となりうる。
【0014】
本発明の免疫増強能を発揮させるためには、成人の場合、乳酸菌が菌体重量で10〜1,000mgイネ科穀粒及びその加工物が乾燥重量で1〜100g摂取することが望ましく、このように配合量を調整すれば良い。
【0015】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0016】
[試験例1]
腹腔マクロファージと脾臓細胞とを共培養し、免疫原としてオボアルブミンを加えた培地に、乳酸菌とオートミールの添加、無添加を組み合わせた実験系でマクロファージ活性化とサイトカイン産生を調べるために、NO2-イオン産生量、IL12量、IFNγ量を測定した。
(試料の調製)
市販のオートミール10gを粉砕し、水0.09Lを加えて撹拌し、オートミール懸濁液を得た。次に、その懸濁液を加熱し、αアミラーゼを作用させて可溶性画分を採取し、さらにエタノールを接触させて沈殿させた画分を回収し、オーツβグルカンを得た。
MRS培地(DIFCO社製)1Lを滅菌し、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT2055(FERM P-15535)株の生菌10mgを接種し、37℃で一晩培養した。これを1700×gで25分間遠心分離し、乳酸菌の沈殿を得た。これに滅菌水を加えて懸濁し、菌体を洗浄するために遠心分離を3回繰り返した。これを100℃で30分間加熱してから凍結乾燥して乳酸菌体乾燥物1.0gを得た。この手法を用いてラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) ATCC 393株ならびにビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT2928(FERM P-10657)株の菌体乾燥物を得た。
【0017】
(腹腔マクロファージの誘導と調製)
上記オートミール懸濁液0.1ml、あるいは同量のβグルカン懸濁液(固形濃度1%)、あるいは生理食塩水をBALB/cマウスの腹腔に投与した。3日後にハンクス塩類緩衝液5mlを腹腔に投与し、腹部をマッサージして緩衝液を回収し、洗浄し、培養プレートに培養し、1時間後に浮遊細胞を除去して、腹腔マクロファージが接着した培養プレートを得た。
【0018】
(マウス脾臓細胞の調製)
BALB/cマウスに一匹当たり0.05mgのオボアルブミンと1mgの水酸化アルミニウムを混合したエマルジョンを、腹腔に投与した。10日後に解剖し、脾臓を摘出し、培養液中で脾臓を磨砕し、リンホプレップ(比重1.077)で密度勾配遠心を行い、脾臓細胞浮遊液を得た。
【0019】
(腹腔マクロファージとの共培養)
マクロファージが接着した培養プレートに、脾臓細胞浮遊液を添加した。ブランクには細胞を含まない培地を添加した。さらに、培養液中に免疫原であるオボアルブミンを0.1mg/mlになるように加えた。さらに、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT2055(FERM P-15535)株、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei) ATCC 393株、及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) SBT2928(FERM P-10657)株の菌体乾燥物をそれぞれ0.01mg/mlになるように添加して、37℃で3日間培養した。ブランクには菌体を含まない生理食塩水を添加した。
【0020】
(NO2-イオンの定量)
培養上清を回収し、上清中の一酸化窒素産生量を反映するNO2-イオンを定量し、マクロファージの活性化度合いを調べた。その結果を図1に示す。
図1に示されるように、生理食塩水のみを投与したブランク群では4±3μMであったのに対し、オートミール群で生理食塩水を投与した群は13±5μMであり、活性化が起こっていることが確認された。また、オートミール群で乳酸菌を添加した群は、さらなる活性化が認められた。乳酸菌の中で比較すると、ラクトバチルス・ガセリが30±5μMとなり最も高い活性化誘導能を有しており、ラクトバチルス・カゼイ、及びビフィドバクテリウム・ロンガムはそれぞれ、25±4μM、14±3μMであった。また、βグルカン群で生理食塩水を投与した群では6±3μMであり、ブランク群でラクトバチルス・ガセリを添加した群でも8±5μMであり、オートミール群よりは低いものであった。
【0021】
(IL12の定量)
前記共培養上清中のIL12量を、マウスIL12ELISAキット(Endogen社製)を用いて定量し、IL12量の産生量を調べた。その結果を図2に示す。
図2に示されるように、生理食塩水のみを投与したブランク群では検出限界以下であったのに対し、オートミール群で生理食塩水を投与した群は19±5pg/mlとIL12産生量が高く、さらに乳酸菌、特にラクトバチルス・ガセリを添加した群では103±3pg/mlとなり、産生量が飛躍的に増大した。また、βグルカン群では13±4pg/mlであり、ブランク群でラクトバチルス・ガセリを添加した群でも15±2pg/mlであり、オートミール群よりは低いものであった。
【0022】
(IFNγの定量)
前記共培養上清中のIFNγ量を、マウスIFNγELISAキット(Endogen社製)を用いて定量し、IFNγ量の産生量を調べた。その結果を図3に示す。
図3に示されるように、ブランク群では8±1ng/mlであったのに対し、乳酸菌添加群、特にラクトバチルス・ガセリを添加した群で22±3ng/mlと、産生量が増大した。ラクトバチルス・カゼイ、及びビフィドバクテリウム・ロンガム群はそれぞれ、20±4ng/ml、9±3ng/mlであった。さらにオートミールにより活性化されたと考えられるマクロファージが共存することでラクトバチルス・ガセリを添加したオートミール群が80±5ng/mlとなり、飛躍的に増大した。ラクトバチルス・カゼイ群、及びビフィドバクテリウム・ロンガム群はそれぞれ、70±7ng/ml、48±8ng/mlであった。また、βグルカン群では6±3ng/mlであり、オートミール群よりはずっと低いものであった。
以上に示したように、腹腔マクロファージと脾臓細胞とを共培養し、免疫原としてオボアルブミンを加えた培地に、乳酸菌とオートミールの添加、無添加を組み合わせた実験系でNO2-イオン産生量、IL12量、IFNγ量を測定した試験の結果、マクロファージ活性化を反映するNO2-イオン量は、オートミール単独添加、乳酸菌単独添加でも確認されたが、オートミールに乳酸菌を添加した場合は、産生量が飛躍的に増大した。
また、IL12、IFNγのサイトカイン産生量は、オートミール単独添加や乳酸菌単独添加でもサイトカイン産生が見られたが、オートミールに乳酸菌、特にラクトバチルス・ガセリを添加した場合は、産生量が飛躍的に増大した。
このように、オーツ麦などのイネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌とを組み合わせた組成物がマクロファージを活性化し、それぞれが単独のものよりも、NO2-イオン産生量や、IL12、IFNγのサイトカイン産生量が相乗的に増大することが判明した。
【0023】
[試験例2]
(マウスでの経口摂取実験)
試験例1の結果、イネ科穀粒と乳酸菌とを組み合わせた組成物がマクロファージを活性化し、それぞれが単独のものよりも、NO2-イオン産生量や、IL12、IFNγのサイトカイン産生量が相乗的に増大することが判明したが、このサイトカイン産生量の増大がマウス生体内でも立証されるかを確認した。
表1に示す割合でマウス用飼料を調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
BALB/cマウス(6週齢、雌性、日本クレア社)を12匹ずつ5群に分け、表2に示した飼料を、それぞれ自由摂取させた。試験開始7日目に、一匹あたり0.05mgのオボアルブミンと1mgの水酸化アルミニウムを混合したエマルジョンを腹腔に投与した。試験開始21日目に7日目と同様にオボアルブミンと水酸化アルミニウムの投与を行った。試験開始28日目に採血し、リンホプレップ(比重1.077)で密度勾配遠心を行い、末梢血単核球画分を調製した。免疫原であるオボアルブミンを0.1mg/mlになるように培養液中に加えて末梢血単核球画分を培養プレートに培養した。3日間培養し、培養上清中のIFNγ量を、マウスIFNγELISAキット(Endogen社製)を用いて定量した。
【0026】
(IFNγの定量)
IFNγ量の産生量を測定した結果を図4に示す。
図4に示されるように、実験動物飼料であるCE−2粉末のみを与えたE群では2.3±0.8ng/mlであったのに対し、オートミールを添加したA群では3.5±0.5ng/ml、菌体乾燥物を添加したB群では5.1±1.0ng/ml、となりIFNγ産生量が増加した。オートミールと乳酸菌を共に添加したC群では21±2.7ng/ml、オートミールの乳酸菌発酵物散剤を添加したD群では24±3.9ng/mlとなり、いずれも飛躍的に産生量が増大した。
この試験の結果、イネ科穀粒の加工物であるオートミールと乳酸菌とを組み合わせたものがマクロファージを活性化し、それぞれが単独のものよりもIFNγのサイトカイン産生量が相乗的に増大することが生体内でも確認された。
【実施例1】
【0027】
市販のオートミール(雪印乳業社製、イギリス原産)を10gと試験例1で調製したラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM P-15535)株の菌体乾燥物0.05gとを混合して、本発明の免疫増強剤である散剤を製造した。
【実施例2】
【0028】
市販のオートミール(雪印乳業社製、イギリス原産)100gに水0.5lを加え加熱した。これにラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri) SBT2055(FERM P-15535)株の生菌108cfu(100mg)を無菌的に接種し、37℃で2日間発酵させた後、乾燥して破砕し、本発明の免疫増強剤である発酵物散剤を製造した。
同様にして、大麦由来の押麦(愛健社製)、小麦粉(日清製粉社製)、ライ麦粉(日清製粉社製)、発芽玄米(ファンケル社製)ならびにトウモロコシ粉(辻安全食品社製)についても同様の製造方法で行い、本発明の免疫増強剤であるそれぞれの発酵物散剤を製造した。
【0029】
[試験例3]
(マウスでの経口摂取実験)
ゲッ歯目用実験動物飼料CE‐2粉末(日本クレア社製)90重量%と表2に示す試料10重量%を混合してマウス用飼料を調製した。
【0030】
【表2】

【0031】
BALB/cマウス(6週齢、雌性、日本クレア社)を10匹ずつ14群に分け、上記飼料を、それぞれに自由摂取させた。試験開始7日目に、一匹あたり0.05mgのオボアルブミンと1mgの水酸化アルミニウムを混合したエマルジョンを腹腔に投与した。試験開始21日目に7日目と同様にオボアルブミンと水酸化アルミニウムの腹腔内投与を行った。試験開始28日目に採血し、リンホプレップ(比重1.077)で密度勾配遠心を行って末梢血単核球画分を調製した。免疫原であるオボアルブミンを0.1mg/mlになるように培養液中に加えて末梢血単核球画分を培養プレートに培養した。3日間培養し、培養上清中のIFNγ量を、マウスIFNγELISAキット(Endogen社製)を用いて定量した。IFNγ量を定量した結果を図5に示す。
【0032】
図5に示されるように、飼料のみを与えたN群では2.9±0.9ng/mlであったのに対し、各種イネ科穀粒を乳酸菌で発酵させた群については、A群で23±4ng/ml、B群で15±3ng/ml、C群で10±2ng/ml、D群で11±3ng/ml、E群で18±4ng/ml、F群で11±2ng/mlとなり、IFNγ産生量が増大した。対照である飼料のみを与えたN群に比べていずれも飛躍的に産生量が増大した。なお、各種イネ科穀粒を、発酵させずに粉砕したものを飼料に添加した群については、G群で3.5±1.2ng/ml、H群で3.0±0.6ng/ml、I群で2.5±0.8ng/ml、J群で2.8±0.8ng/ml、K群で2.9±1.0ng/ml、L群で2.6±0.9ng/mlとなり、IFNγ産生量は対照であるN群に比べて同等のものであった。また、菌体乾燥物のみを飼料に添加したM群では5.1±1.0ng/mlとなり、発酵物散剤を添加した各群のIFNγ産生量の増大は、乳酸菌の効果ではないことが分かる。
【0033】
この試験の結果、各種イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌とを組み合わせたものがマクロファージを活性化し、それぞれが単独のものよりもIFNγのサイトカイン産生量が相乗的に増大することが生体内でも確認された。
各種イネ科植物種子の中ではオートミール発酵物散剤のIFNγ産生量が最も多かった。
【実施例3】
【0034】
生乳に脱脂粉乳を2%添加して溶解し、ホモジナイザーで均質化して100℃、10分加熱した後、41℃まで冷却したヨーグルトミックス200gを調製した。一方、市販のオートミール(雪印乳業社製、イギリス原産)200gに水0.5lを加え加熱したオートミール加水加熱物を調製した。ヨーグルトミックス200gとオートミール加水加熱物300gを混和し、この混和物にラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM P-15535)株を5重量%接種して混合し、100gずつカップに分注した後、37〜40℃にて発酵させた。乳酸酸度が0.7%になった時点で発酵を終了し、10℃以下で1晩冷却して本発明の免疫増強用発酵乳を製造した。
【実施例4】
【0035】
ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gに、上記実施例1で得られたオートミールとラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM P-15535)株の菌体乾燥物からなる散剤800gを加えて混合した。混合物を1.5gずつ袋に詰め、本発明のスティック状免疫増強用栄養健康食品を製造した。
【実施例5】
【0036】
表3に示した配合で原料を混合してドウを作成した。表3の中で散剤と表示しているのは、上記実施例1で得られたオートミールとラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM P-15535)株の菌体乾燥物からなる散剤である。このドウを成型した後、焙焼して、本発明の免疫増強用ビスケットを製造した。
【0037】
[表3]

小麦粉 30.4(重量%)
砂糖 20.0
食塩 0.5
マーガリン 12.5
卵 12.1
水 3.7
炭酸水素ナトリウム 0.1
重炭酸アンモニウム 0.2
炭酸カルシウム 0.5
散剤(実施例1) 20.0

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】腹腔マクロファージと脾臓細胞との共培養培地に、乳酸菌とオートミールとを添加した場合のマクロファージ活性化作用を調べるために、NO2-イオン産生量を測定した結果を示す。
【図2】腹腔マクロファージと脾臓細胞との共培養培地に、乳酸菌とオートミールとを添加した場合のマクロファージ活性化及びサイトカイン産生作用を調べるために、IL12量を測定した結果を示す。
【図3】腹腔マクロファージと脾臓細胞との共培養培地に、乳酸菌とオートミールとを添加した場合のリンパ球のサイトカイン産生作用を調べるために、IFNγ量を測定した結果を示す。
【図4】オートミールと乳酸菌とを組み合わせて投与した場合の末梢血リンパ球のサイトカイン産生作用を調べるために、IFNγ量を測定した結果を示す。
【図5】イネ科穀粒及びその加工物と乳酸菌とを組み合わせて投与した場合の末梢血リンパ球のサイトカイン産生作用を調べるために、IFNγ量を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌とを含有する免疫増強剤。
【請求項2】
イネ科穀粒及び/又はその加工物を乳酸菌で発酵させた請求項1記載の免疫増強剤。
【請求項3】
イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌菌体又は発酵乳とを混合した請求項1〜2のいずれかに記載の免疫増強剤。
【請求項4】
イネ科穀粒が、オーツ麦、大麦類、小麦類、ライ麦類、とうもろこし類又は米類の穀粒である請求項1〜3のいずれかに記載の免疫増強剤。
【請求項5】
乳酸菌がラクトバチルス・ガセリである請求項1〜4のいずれかに記載の免疫増強剤。
【請求項6】
イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌とを配合した免疫増強用飲食品。
【請求項7】
イネ科穀粒及び/又はその加工物を乳酸菌で発酵させた請求項6記載の免疫増強用飲食品。
【請求項8】
イネ科穀粒及び/又はその加工物と乳酸菌菌体又は発酵乳とを混合した請求項6〜7のいずれかに記載の免疫増強用飲食品。
【請求項9】
イネ科穀粒が、オーツ麦、大麦類、小麦類、ライ麦類、とうもろこし類又は米類の穀粒である請求項6〜8のいずれかに記載の免疫増強用飲食品。
【請求項10】
乳酸菌がラクトバチルス・ガセリである請求項6〜9のいずれかに記載の免疫増強用飲食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−69993(P2006−69993A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258050(P2004−258050)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月30日に日本農芸化学会2004年度(平成16年度)大会にて発表
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】