説明

免震定着機構を用いた耐震工法

【課題】 鉄筋に持続的に荷重が作用し続ける場合に荷重を緩和し、コンクリート柱などのひび割れの発生を抑制し、部材を損傷することなく地震エネルギを吸収できるようにし、鉄筋に付加的に作用する軸力上昇を防いで耐震設計を合理化できるようにする。
【解決手段】 鉄筋定着部に所定荷重以上の力が作用したときに、鉄筋端部が限定された可動域を移動する免震定着機構を用いた耐震工法であって、前記鉄筋定着部は、先端部に定着板(23)が固定されて構造物の母材(13)内に延びる鉄筋(20)がその表面と母材との付着を切られた領域(21)を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域(25)の範囲内で移動し、可動域を超える移動が制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免震定着機構を用いた耐震工法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラーメン高架橋等の鉄筋コンクリート構造物の柱に曲げモーメントが作用すると、柱基部には引っ張り軸力が作用するが、この引っ張り軸力を負担する従来の鉄筋定着構造について図6により説明する。
図6(a)は、完成直後のラーメン高架橋10を示しており、ここでは列車11が走行する高架橋の例であり、柱基部13には、例えば図6(b)に示すような鉄筋の曲げ定着構造が使用されている。この定着構造の場合、符合Aで示す円で囲んだ先端部分を上方へ折り曲げた鉄筋17を柱基部13内に埋め込んだもので、矢印15で示すような軸力が作用したとき、鉄筋17と柱基部コンクリート構造物との付着、先端部Aの曲げ部分の引き抜き抵抗により定着力が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図6に示した従来の定着構造は、鉄筋がコンクリート構造物等の母材から抜け出さないことを目的とした構造となっていて、鉄筋と母材との滑りをほとんど許容しない構造となっている。しかし、鉄筋コンクリートラーメン高架橋などの不静定構造物においては、図7(a)に示すように、コンクリートの温度変化や乾燥収縮によるひずみによって柱や床版部材の長さが変化して柱などの部材に曲げが作用し、従来の定着構造では鉄筋の抜け出し量がほとんどないため、柱基部13に矢印で示すような持続的な引っ張り軸力15が作用する。そのため、図7(b)に示すように、鉄筋17と母材との付着力、鉄筋先端部の引き抜き抵抗によって柱基部13に破線19で示すようなコーン破壊力が作用し、ひび割れ発生の原因となる。このように、鉄筋に付加的な応力が作用する部材には構造物を設計する際に、通常の列車荷重や地震荷重に加えて、付加応力の発生をあらかじめ見込んで鉄筋の耐震設計を行う必要があり、不経済になってしまう。また、単純桁を連結して連続桁化する場合やラーメン構造化し構造物の不静定次数を高めて耐震性を向上させる場合に、柱に曲げによるひび割れが生じることになる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記課題を解決しようとするもので、鉄筋に持続的に荷重が作用し続ける場合に荷重を緩和し、コンクリート柱などのひび割れの発生を抑制し、部材を損傷することなく地震エネルギを吸収できるようにし、鉄筋に付加的に作用する軸力上昇を防いで耐震設計を合理化できるようにすることを目的とする。
そのために本発明は、鉄筋定着部に所定荷重以上の力が作用したときに、鉄筋端部が限定された可動域を移動する免震定着機構を用いた耐震工法であって、
前記鉄筋定着部は、先端部に定着板が固定されて構造物の母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着を切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動し、可動域を超える移動が制限されることを特徴とする。
また、本発明は、前記免震定着機構をラーメン高架橋の柱基部に配置したことを特徴とする。
また、本発明は、持続的な温度変化、乾燥収縮によって構造物に生じる不静定力を前記免震定着機構で緩和することを特徴とする。
また、本発明は、前記免震定着機構で持続する応力を開放して構造物のひび割れの発生を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、温度変化やコンクリートの乾燥収縮など鉄筋に持続的に作用する軸力に対して、作用した力に応じて定着板が移動してその力を緩和できるため、構造物のひび割れ発生を防止でき、地震時等において、従来と同等以上の性能を発揮することが可能である。また、構造物の損傷以外に鉄筋定着部でエネルギー吸収が見込めるため、構造物の設計の合理化と地震後の復旧性の向上を見込むことができる。また、温度変化や乾燥収縮による付加的に作用する荷重を緩和できるため、鉄筋の設計を合理化できる。また、単純桁の連続桁化やラーメン構造化によって、支承の廃止や構造物の不静定次数向上を図る場合に、柱に作用する曲げ応力やひび割れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の免震定着機構を用いた耐震工法を説明する図である。
【図2】可動域内の定着板の移動方向別の抵抗を制御する例を説明する図である。
【図3】可動域内に弾性体を封入した例を説明する図である。
【図4】一枚の定着板に複数の鉄筋を接続した例を説明する図である。
【図5】鉄筋定着機構の設置箇所を説明する図である。
【図6】従来の定着構造を説明する図である。
【図7】従来の定着構造のひび割れ発生を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本実施形態について説明する。
図1は本発明の耐震工法を説明する図であり、図1(a)は、列車11が走行する完成直後のラーメン高架橋10を示しており、柱基部13には、図1(b)に示すような鉄筋定着構造が使用されている。この定着構造の場合、柱基部13の母材中に鉄筋20を施工し、その際、母材と鉄筋との間に付着力が作用しないように縁切りし(付着を切る)、鉄筋先端部に平断面が円形または矩形の定着板23を固定する。定着板は符号Bの円で示す母材中に形成された領域からなる平断面が円形または矩形の可動域25内に収納される。定着板23は鉄板やモルタル製であり、可動域25内には空気やガス、液体、オイル等の粘性体などの流体を充填封入することで、定着板の固定と移動を制御する。定着板23は鉄筋にある程度の力が加わるまでは動かないが、ある閾値を越えた力が加わると矢印27で示すように可動域内をスライドして荷重を逃がすことができる。その際、定着板と可動域内周面との摩擦抵抗、或いは可動域内に封入した充填材の抵抗により、鉄筋に加わる軸力に対して減衰機構として作用させることができる。なお、図では鉄筋20を一本のように図示しているが、主鉄筋を複数本束ね、或いは全部束ねて一枚の定着板に固定するなどの変形が可能である。また、鉄筋表面の付着を切る場合、母材との間に隙間があっては鉄筋が安定しないので隙間はつくらないようにすることが望ましく、図では付着を切る縁切り部21を模式的に示している。
【0008】
このように、本発明の耐震工法で使用する定着機構は、鉄筋表面と母材との付着を切った領域を持つため、鉄筋に軸力が発生したときに鉄筋が母材を損傷することなく、軸力をそのまま定着板に伝達することができ、また、鉄筋表面と母材の付着がないことから、鉄筋に軸力が作用したときに母材のひび割れ発生を抑制し、従来の鉄筋定着部と同等以上の引張荷重を発揮させることができる。特に、温度変化やコンクリートの乾燥収縮など鉄筋に持続的に軸力が作用したとき、作用した力に応じて定着板が移動してその力を緩和するため、図1(c)に示すように、ラーメン高架橋10において柱や床版部材の長さが変化して曲げが作用しても曲げによる軸力が作用しないためひび割れ発生を防止することができ、付加応力の発生をあらかじめ見込んだ鉄筋の耐震設計を行う必要をなくすことができる。また、鉄筋に持続的に軸力が作用しても定着部の損傷はなく、限定された可動域により一定量を超える定着板の移動は制限されて鉄筋が抜け出すことはないため、列車荷重や地震荷重など急な荷重に対しては従来と同等の耐震性能を発揮させることができ、従来に比してラーメン高架橋の長さを大幅に長くすることが可能である。
また、可動域内部に空気、ガス、液体、オイル等の粘性体などの流体を充填することで定着板の移動速度を調節し、可動域内に充填する物質の物性を調整することで、鉄筋に荷重が作用した時に定着板が急激に移動することを抑制することができる。また、定着板が移動し始める荷重を制御できる構造であり、ごく小さな荷重では定着板を移動させないことも可能である。
【0009】
なお、鉄筋の側面に凹凸があり、母材との間に隙間がないと母材に対して上下方向の機械的な力が作用してしまうので鉄筋は丸棒であることが望ましいが、さらに、鉄筋側面を平滑にして付着力が作用しないようにする必要がある。そのため管状のものやシート状の被覆部材、例えばシース管やビニールホースで鉄筋を被覆したり、鉄筋にビニールテープを巻き付けるなどの方法を用いて縁切りすることが望ましい。また、鉄筋側面に縁切り用の材料、例えばパラフィンやグリース等を塗布して鉄筋側面を平滑にして付着力が作用しないようにしてもよい。特に、鉄筋が異径鉄筋のような場合にはシース管やビニールホースで被覆して母材との付着を切る必要がある。また、上記では鉄筋と母材との間は全長にわたって付着を切るように説明したが、付着を切るのは必ずしも鉄筋全長でなくてもよく、コンクリートの強度等の状況に依存するが一部範囲であってもよい。
【0010】
図2は可動域内の定着板の移動方向別の抵抗を制御する例を説明する図である。
先端に定着板31が固定された鉄筋20は縁切り部21で母材10と縁切りされ、可動域30内には空気、ガス、オイル等の粘性体からなる流体33が封入されているのは図1(b)の場合と同じである。この例では、可動域30内をスライドする定着板31に、異なる径の貫通孔が複数形成されていて、内部に逆止弁が配置されている。例えば、貫通孔35には下方へのみ充填材を通す逆止弁35aが配置され、貫通孔37には上方へのみ充填材を通す逆止弁37aが配置され、これら貫通孔の径を異ならせることで定着板31の上方と下方への移動抵抗を異ならせている。このような構成とすることで、主として引っ張りに対する移動抵抗を大きくしたり、圧縮に対する移動抵抗を小さくしたりして現場の状況に応じた定着機構を構成することが可能となる。
【0011】
図3は可動域内にゴム等の弾性材を封入した例を説明する図である。
この例は粘性体やガス等の流体の封入が難しい場合に、ゴム(板)などの弾性材を入れるようにした例であり、可動域40内の定着板41の上下にゴム板43、45を収納し、ゴム板43と45の硬さや厚さ等を調整することで、上下方向の移動抵抗(引っ張りに対する移動抵抗と圧縮に対する移動抵抗)を異ならせるようにすることができる。
【0012】
図4は一枚の定着板に複数の鉄筋を接続した例を説明する図である。
柱の太さや長さは現場によって異なるので、例えば、柱が太い場合には可動域50の面積を大きくして大面積の定着板51を収納し、それぞれ母材10と縁切りした複数の鉄筋53を固定したもので、各鉄筋53は1本でも複数の鉄筋を束ねたものであってもよい。
【0013】
図5は本発明の鉄筋定着機構の設置箇所を説明する図である。
高架橋の場合、柱が高いと柱頭部と柱基部にかかる力は小さくなるためラーメン構造にすることができる。しかし、図5(a)に示すように高さが低い高架橋60の場合、ラーメン構造にすると柱に作用する力が大きくなるため、柱の水平力が小さくなるように柱頭部に沓座65を設けて桁を連続桁63とする場合がある。そこで、図5(b)に示すように、柱基部71に本発明の鉄筋定着機構を適用することで柱に作用する力を緩和することができ、高さが低い高架橋70でもラーメン構造化することが可能になる。この場合沓座を不要にすることができるため、材料費のコストダウン、沓座メンテナンス費のコストダウンを図ることが可能になる。なお、本発明の鉄筋定着機構は、柱基部に限らず、柱頭部72、柱中間部73など現場の状況に応じて適宜設置することが可能である。
【符号の説明】
【0014】
10…ラーメン高架橋、13…柱基部、20…鉄筋、21…縁切り部、23…定着板、25…可動域、27…軸力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋定着部に所定荷重以上の力が作用したときに、鉄筋端部が限定された可動域を移動する免震定着機構を用いた耐震工法であって、
前記鉄筋定着部は、先端部に定着板が固定されて構造物の母材内に延びる鉄筋がその表面と母材との付着を切られた領域を有し、先端部の定着板は鉄筋を介して所定荷重以上の力が作用したとき、母材内に形成された限定された可動域の範囲内で移動し、可動域を超える移動が制限されることを特徴とする免震定着機構を用いた耐震工法。
【請求項2】
前記免震定着機構をラーメン高架橋の柱基部に配置した請求項1記載の耐震工法。
【請求項3】
持続的な温度変化、乾燥収縮によって構造物に生じる不静定力を前記免震定着機構で緩和する請求項1記載の耐震工法。
【請求項4】
前記免震定着機構で持続する応力を開放して構造物のひび割れの発生を抑制する請求項1記載の耐震工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−184561(P2012−184561A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47142(P2011−47142)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】