説明

免震建物の壁耐火構造

【課題】 耐火帯の取付けが容易であり、上層躯体および下層躯体間の大きな相対的変位を許容して空隙を確実に塞ぐことができる免震建物の伸縮耐火構造を提供する。
【解決手段】 上層躯体6と下層躯体7との間に免震装置5が介在され、上層躯体6の壁12と下層躯体7の壁13との間の空隙14に、上層躯体6および下層躯体7間の相対的変位を許容し、かつ前記空隙14を塞ぐ伸縮自在な長尺の耐火帯1が設けられる免震建物の伸縮耐火構造において、前記耐火帯1には、その長手方向に間隔をあけて断面が凹状の金属から成る保持具2が摺動部分39を突出させて固着され、この保持具2の両側部には、一対の取付部材3a,3bが連結され、各取付部材3a,3bは、前記取付位置に配置された状態で、上層躯体6の壁12に固定される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水平に分断された建物の上層躯体と下層躯体との間に免震装置が介在される免震建物の壁耐火構造に関する。
【0002】
【従来の技術】既設の建物に耐震構造を導入するために、その建物を水平に切り離して上層躯体と下層躯体とに分断し、これらの上層躯体および下層躯体の上下に分断された各柱間に、薄板状のゴム板と金属板とを交互に積重した免震装置が設けられ、建物の固有震度数を小さくして、地震時における建物の振動を減衰させて安全性を向上する免震構造の建物が周知である。
【0003】このような免震建物においては、前記上層躯体と下層躯体との各柱間に介在される免震装置を外囲する壁および梁などの躯体の一部は、前記柱とともに水平方向に分断され、上下に空隙をあけて離間している。このような空隙には、前記免震装置に柱と同様な耐火性能を持たせる必要があるため、この免震装置の外側を包囲する上層躯体の壁と下層躯体の壁との間には、セラミックフエルトおよびロックウールフエルトなどのフラッフ状耐火繊維をステンレスなどの金属薄膜によって外包した耐火帯が介在されている。この耐火帯は、地震または地盤沈下などによって上層躯体と下層躯体との間の相対的変位を許容するために、上下両端部間の中間部を凹凸状に弛ませた状態で、上下両端部が免震装置を外囲する上層躯体の柱および下層躯体の柱の各対向周縁部に、金属製の固定リングまたは係止ピンなどを用いて固定されている。
【0004】このような構成によって、上層躯体と下層躯体との相対的な変位を許容し、かつ免震装置が設置される耐火帯よりも内側の空間に外部から炎が侵入することを防ぎ、所定の耐火性能を達成することができるように構成されており、類似の従来の技術は、たとえば特開平9−268670号公報および特開平10−299285号公報に示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の技術では、耐火帯はその上下両端部間の中間部を弛ませた状態で上下の柱にその耐火帯が固定されているため、上層躯体および下層躯体間の相対的変位が前記耐火帯の弛み量を超えると、その耐火帯は容易に破断してしまい、所定の耐火性能を達成することができなくなってしまう。またこの耐火帯は柔軟なマット状であるため、上下の各柱に金属製の固定リングまたは係止ピンなどによって取付けられる際に前記耐火帯を取付位置に手で保持しなければならず、この固定作業に手間を要し、取付け時の作業性が悪いという問題がある。
【0006】本発明の目的は、耐火帯の取付けが容易であり、上層躯体および下層躯体間の大きな相対的変位を許容して空隙を確実に塞ぎ、信頼性の高い耐火性能を達成することができる免震建物の壁耐火構造を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、水平に分断された建物の上層躯体と下層躯体との間に免震装置が介在される免震建物において、上層躯体の壁には、ヒンジ部分を有する縁材が固定され、この縁材には、前記ヒンジ部分によって回動自在に保持され、かつ下端部が下層駆体の壁に近接する方向にばね付勢されたカバープレートを設けて、上層躯体の壁と下層躯体の壁との間の空隙を覆い、前記空隙内には、上層躯体および下層躯体間の相対的変位を許容し、かつ前記空隙を塞ぐ厚み方向に伸縮自在な長尺の耐火帯が設けられ、前記耐火帯には、その長手方向に間隔をあけて断面が凹状の金属から成る保持具が、下層躯体の壁または上層躯体の壁に臨む耐火帯の摺動部分を突出させるようにして固着され、この保持具には、金属から成る取付部材が連結され、この取付部材は、耐火帯を前記摺動部分を下層躯体の壁または上層躯体の壁に接触させた状態で、上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定されることを特徴とする免震建物の壁耐火構造である。
【0008】本発明に従えば、免震建物において、上層躯体の壁に縁材が固定され、縁材にはカバープレートがヒンジ部分によって回動自在に保持され、このカバープレートはその下端部が下層躯体の壁に近接する方向にばね付勢される。また上層躯体と下層躯体との間には伸縮自在な長尺の耐火帯が設けられ、この耐火帯によって上層躯体および下層躯体間の相対的変位を許容し得るようにして、上層躯体および下層躯体の各壁間の空隙が塞がれる。このような耐火帯には、断面形状が凹状の金属、たとえば鋼鉄製の保持具が前記摺動部分を突出させた状態で固定されており、この保持具には金属から成る取付部材が連結される。
【0009】このような構成において、耐火帯を上層躯体および下層躯体の各壁間の空隙に装着するにあたって、耐火帯の摺動部分を下層躯体の壁または上層躯体の壁に接触させた状態で、取付部材を前記摺動部分が接触する一方の壁とは反対側の上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定する。
【0010】このように上層駆体には空隙に沿って縁材を固定し、この縁材のヒンジ部分によって回動自在に保持されるカバープレートを設けて、前記耐火帯が覆われるので、耐火帯を保護して損傷を防ぎ、より一層確実に炎の侵入を防ぐことができる。また耐火帯を空隙に設けることによって、上記のように上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定された状態において、この固定される側の躯体の壁とは反対側の躯体の壁に対して、地震または地盤沈下などによって上層躯体と下層躯体とが相対的に変位しても、耐火帯の形状が大きく変形して対向する躯体の壁面に対して隙間が生じることなく、確実に空隙を塞いだ状態で、各躯体間の相対的変位を許容することができる。
【0011】また上記のとおり耐火帯は、上層躯体の壁または下層躯体の壁のいずれか一方に固定されるので、いずれか他方に対する干渉を回避することができ、これによって上層躯体および下層躯体間の大きな変位を許容することができる。しかも前記保持具および取付部材は、金属、たとえば鋼鉄から成るので、火災発生時の高熱によって変形し、または熱溶融して流れ落ちてしまうという不具合を確実に防ぎ、信頼性の高い耐火構造を実現することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】図1は本発明の実施の一形態の免震建物の壁耐火構造を示す鉛直断面図であり、図2は図1R>1に示される耐火帯1、保持具2および各取付部材3a,3bを示す分解斜視図であり、図3は図1および図2R>2に示される伸縮耐火構造が実施される隔壁4およびこの隔壁4によって外囲される免震装置5付近の水平断面図である。なお、図1は、図3の切断面線III−IIIから見た拡大断面を示す。
【0013】既設建物を免震構造とするため、その建物は水平方向に分断して上層躯体6と下層躯体7とに分断され、これらの上層躯体6と下層躯体7との間、したがって上層躯体6の柱8と下層躯体7の柱9との間には、免震装置5が介在される。この免震装置5は、薄板状の偏平なゴム板と金属板とが交互に積重される振動吸収部を有する大略的に直円柱状の構造体であり、地震発生時の下層躯体7から上層躯体6に伝わる振動を減衰し、建物全体の固有振動数を減少させることができるように構成されている。
【0014】このような免震装置5および各柱8,9を外囲するようにして、全周に各柱8,9から外側にたとえば500mm程度の間隔ΔL1をあけて、前記免震装置5を火炎等から保護するために、隔壁4が設けられる。この隔壁4は、複数のプレキャストコンクリートパネル(略称「PCパネル」ともいう)11から成る。
【0015】このような隔壁4は、前述したように、免震構造とするために、上層躯体6に連なる上壁部12と下層躯体7に連なる下壁部13とに分離され、これらの上壁部12および下壁部13間には空隙14が介在される。上壁部12の下方に臨む下面15は、はつりによって粗面状とされ、下壁部13の上方に臨む上面16は、耐火帯1を摺動可能とするため、水平な平坦面状に形成されている。このような下面15および上面16間には、前記空隙14が介在する。
【0016】この空隙14内には、前記耐火帯1が配置される。この耐火帯1は、セラミックファイバから成る耐火材21を、ステンレス鋼の箔膜から成る外包シート22によって梱包され、水平方向に長い矩形断面を有する長尺材であり、図3の隔壁4の空隙14内に周方向全周にわたって設けられる。このような耐火帯1の上部には、長手方向に垂直な断面形状が凹状の金属から成る保持具2が接着剤によって固着される。
【0017】この保持具2は、幅Bが30〜60mm程度の短尺材であり、耐火帯1の長手方向にたとえば300mm程度の間隔をあけて固着され、耐火帯1の上面を覆う上カバー部24と、上カバー部24の幅方向、すなわち図1の左右方向の両端部から下方に直角に屈曲して連なる一対のフランジ部25a,25bとを有する。各フランジ部25a,25bには、ボルト26の軸部が挿通するボルト挿通孔27a,27bがそれぞれ形成される。このような保持具2は、金属であるたとえば鋼鉄から成り、下層躯体7の下壁部13に臨む断面全体の約1/3の領域を占める摺動部分39を下方に突出させて伸縮自在な状態で、残余の約2/3の領域に固着されて保持している。
【0018】保持具2の各フランジ部25a,25bの両側方には、一対の平板状の取付部材3a,3bが設けられる。各取付部材3a,3bは、金属から成り、この金属としては鋼鉄が用いられる。各取付部材3a,3bの長手方向一端部寄りには、長手方向に延びる案内長孔29a,29bが形成される。また各取付部材3a,3bの長手方向他端部寄りには、円形のボルト挿通孔30a,30bがそれぞれ形成される。
【0019】前記ボルト26は、一方の取付部材3aの案内長孔29aを挿通し、さらに保持具2の一方のフランジ部25aのボルト挿通孔27aを挿通し、さらに耐火帯1を幅方向一端部から他端部に挿通した後、保持具2の他方のフランジ部25bのボルト挿通孔27b、および他方の取付部材3bの案内長孔29bを挿通して突出し、この突出部分には座金31が装着されてナット32が螺着され、こうして保持具2が固着された耐火帯1に各取付部材3a,3bが前記耐火帯1の長手方向に沿う退避位置と、この退避位置に対してほぼ直角に起立した取付位置とにわたって角変位自在に連結される。
【0020】このように各取付部材3a,3bおよび保持具2が取付けられた耐火帯1を前記空隙14に装着するにあたっては、上層躯体6の上壁部12に、柱8に臨む内面33およびその裏側の外面34から端面が露出するようにして、アンカー体35a,35bが上壁部12に予め埋設され、各取付部材3a,3bを退避位置に配置した状態、すなわち耐火帯1の上面から突出しないように横向きにして、耐火帯1を保持具2および各取付部材3a,3bとともに空隙14内に配置する。この状態では、耐火帯1の下面が下壁部13の上面16上に乗載され、面接触している。次に、各取付部材3a,3bを取付位置に起立させ、アンカーボルト36a,36bを後述する縁材41の頭部嵌合孔50および各ボルト挿通孔30a,30bに挿通して、各アンカー体35a,35bに螺着する。
【0021】このようにして、耐火帯1が縁材41とともに上壁部12に固定された後、耐火帯1と上壁部12の下面15との間の空間および保持具2の上カバー部24と上壁部12の下面15との間の空間に、セラミックフェルトまたはロックウールフェルトから成る耐火性シール材37を充填して隙間を塞ぎ、こうして空隙14が耐火構造を成して塞がれる。
【0022】この状態で、上層躯体6および下層躯体7が図1の上下方向に相対的に近接/離反する方向に変位しても、耐火帯1は伸縮性を有するため、摺動部分39が伸縮して前記上下の変位を許容し、常に下壁部13の上面16に弾発的に押当てた状態を維持することができる。
【0023】また上層躯体6および下層躯体7が図1の紙面に垂直な前後方向に相対的な変位を生じても、耐火帯1は、前述したように平坦状に加工された下壁部13の上面16上を摺動して、空隙14を塞いだ状態で、各躯体6,7の相対的な前後方向の変位を許容することができる。
【0024】さらに上層躯体6および下層躯体7が図1の左右方向に相対的にずれる方向の変位を生じても、前後方向と同様に、耐火帯1は下壁部13の上面16上を図1の左右方向に摺動して、空隙14を塞いだ状態に維持して、各躯体6,7の左右方向の変位を許容することができる。
【0025】図4は、縁材41、カバープレート56および水返しカバー体73の取付状態を示す部分的に切欠いた一部の斜視図である。図1〜図3をも参照して、上記の各取付部材3a,3bのうち、外部側、すなわち図1の左側に配置される取付部材3aには、図1の紙面に垂直な長手方向に延びる長尺の縁材41が前記ボルト26によって固定される。
【0026】この縁材41は、前記ボルト26の軸部が挿通するボルト挿通孔42が図1の紙面に垂直な長手方向に間隔をあけて形成される偏平な基板43と、基板43の図1における上端部から外部側、すなわち図1の左側に突出する位置決め突部44と、基板43の図1の上下方向である幅方向両端部間の中間部から外部側に突出する大略的にL字状の支持部45と、基板43の下端部から外部側に突出し、図1に示される取付け状態において下壁部13の上面16から上方に間隔をあけて配置される水返し片46と、水返し片46の遊端部および基端部間の中間部から上方に突出して一体的に形成されるばね係止片47とを有する。
【0027】基板43の前記位置決め突部44が形成される上端部近傍には、ビス48が螺合するねじ孔49が形成される。このねじ孔49の下方には、図1の紙面に垂直な長手方向に前記アンカー体35aと同一の間隔をあけてアンカーボルト36aの頭部が嵌まり込む頭部嵌合孔50が形成される。前記アンカーボルト36aは、本実施の形態において皿ねじボルトによって実現され、前記頭部嵌合孔50にこのアンカーボルト36aの頭部が嵌まり込んだ状態で、基板43と同一面内に埋没し、基板43から突出しないように構成されている。
【0028】前記支持部45は、基板43から外部側、すなわち図1の左側になるにつれて下方に傾斜する張出し部分51と、張出し部分51の遊端部から上方に屈曲して立上る立上り部分52と、立上り部分52の上端部から基板43側に突出する大略的に半円柱状のヒンジ部分53とを有する。このヒンジ部分53の外周面は、直円筒面の一部を成す。またこのヒンジ部分53には、その長手方向に間隔をあけてノックピン54が嵌着される複数のピン孔55が形成される。各ピン孔55に前記ノックピン54が嵌着された状態では、各ノックピン54の上端部はヒンジ部分53の外周面から上方に僅かに突出している。
【0029】このようなヒンジ部分53には、カバープレート56の基端部57が回動自在に嵌着されて保持される。基端部57は、直円筒状の一部を成す内周面を有し、ヒンジ部分53の中心軸線62を回動中心として矢符A1,A2方向に角変位することができる。
【0030】前記カバープレート56の遊端部63には、下壁部13に臨んで突出する大略的にC字状断面を有する嵌合溝部64が一体的に形成され、この嵌合溝部64には可撓性および弾発性を有する材料、たとえばクロロプレーンゴムから成るパッキン65が嵌着される。このパッキン65は、カバープレート56が図1に示されるように上壁部12および下壁部13とほぼ平行に垂下した状態において、下壁部13の外面66に弾発的に当接している。
【0031】カバープレート56の前記基端部57にはまた、ノックピン54の頭部が嵌まり込む長孔67が形成される。この長孔67は、カバープレート56が矢符A1,A2方向の角変位を許容し、図1の紙面に垂直な長手方向の変位を阻止し、各躯体6,7間の図1の紙面に垂直な前後方向への相対的変位が生じたときに、縁材41、したがってこの縁材41が取付けられている上層躯体6に追従して変位し、また各躯体6,7が図1の左右方向に相対的に変位を生じたときに矢符A1,A2方向に角変位して、この左右方向の変位を許容することができる。したがって図1の紙面に垂直な前後方向および左右方向の変位が合成された斜め方向の変位を生じた場合であっても、前後方向に縁材41に対してずれを生じることなしに矢符A1,A2方向に角変位して、確実にかつ円滑に各躯体6,7間の水平方向の変位を許容することができる。
【0032】このようなカバープレート56は、常に前記耐火帯1が配置される空隙14を外側から塞いだ状態に維持するために、振止め防止用ばね68によって、下端部63が下壁部13に近接する方向、すなわち矢符A2方向にばね付勢されている。この振止め防止用ばね68の一端部は、カバープレート56の基端部57寄りの内面に設けられるばね係止片69に係止され、他端部は前記縁材41に設けられるばね係止片47に係止されている。上記のようなカバープレート56は、図1の紙面に垂直な長手方向にジョイナとも呼ばれる連結板70によって長手方向に連結されている。
【0033】前記縁材41の上部には、水切カバー体73が前記ビス48によって固定される。この水切カバー体73は、前記縁材41の上部に面接触し、位置決め突部44によって縁材41の上縁部と平行に位置決めされ、ビス48の軸部が挿通するビス孔74が長手方向に間隔をあけて形成される取付部分75と、取付部分75の下端部から外部側、すなわち図1の左側に屈曲してつながるカバー部分76と、カバー部分76の先端部から下方に屈曲して連なる屈曲部分77と、カバー部分76の下面から下方に突出し、ヒンジ部分53に嵌着されたカバープレート56の基端部57を上方から弾発的に押圧する一対の突条部分78a,78bとを有する。
【0034】これらの突条78a,78bによってカバープレート56の基端部57が上方から、換言すればヒンジ部分53に向けて弾発的に押圧されるので、各躯体6,7の上下方向、左右方向および前後方向に急激に相対的変位を生じても、ヒンジ部分53から外れてしまうことを防ぐことができる。このような水切カバー体73は、アルミニウム合金から成る押出形材である。前記カバープレート56もまた、アルミニウム合金から成る押出形材である。これらのカバープレート56も水切カバー体73は、図3に示されるように、上壁部12に周方向全周にわたって設けられている。
【0035】このようなカバープレート56によって、火災時に炎が直接に耐火帯に接する前に予備的に炎の侵入を防ぐことができ、かつ耐火帯1自体を保護し、耐火帯1が焼け落ちた部材の破片などによって損傷を受けることを防ぎ、確実な耐火性能を達成することができる。
【0036】以上のような構成によれば、免震建物において、上層躯体6と下層躯体7との間には伸縮自在な長尺の耐火帯1が設けられ、この耐火帯1によって上層躯体6および下層躯体7間の相対的変位を許容し得るようにして、上層躯体6および下層躯体7の各壁12,13間の空隙14が塞がれる。このような耐火帯1は、上記のように上層躯体6の壁12に固定された状態において、この固定される側の躯体の壁とは反対側の躯体7の壁13に対して、地震または地盤沈下などによって相対的に変位しても、形状が大きく変形して隙間が生じることなく、確実な耐火性能を維持することができる。
【0037】また上記のとおり耐火帯1は、上層躯体6の壁12に固定されるので、いずれか他方12に対していわば無制限に変位することができ、これによって上層躯体6および下層躯体7間の大きな変位を許容することができる。しかも前記保持具2および各取付部材3a,3bは、耐火性の高い金属、たとえば鋼鉄から成るので、火災発生時の高熱によって変形し、または熱溶融して流れ落ちてしまうという不具合を確実に防ぎ、信頼性の高い耐火構造を実現することができる。
【0038】図5は、本発明の実施の他の形態の免震建物の伸縮耐火構造を示す分解斜視図である。本実施の形態においては、前記ボルト26、座金31およびナット32に代えて、差込み固定金具81が用いられる。この差込み固定金具81は、耐火性の高い金属である鋼鉄から成り、耐火帯1に幅方向に貫通して差込まれる薄板状の差込み部分82と、差込み部分82の長手方向一端部にほぼ直角に屈曲して連なる折曲げ部分83と、差込み部分82の長手方向他端部に一体的に形成される先細状の穿刺部分84とを有する。
【0039】各取付部材3a,3bには、前記案内長孔29a,29bに代えて差込み固定金具81の差込み部分82の長手方向に垂直な断面よりもやや大きい内控断面を有する横長の挿入孔85a,85bが形成される。折曲げ部分83は、一方の取付部材3aの挿入孔85aを挿入して取付部材3aの表面86に接触させた状態で、その周縁部が表面86に溶接され、こうして差込み固定金具81を予め一方の取付部材3aに固定しておき、前述の実施の形態と同様に、保持具2の一方のボルト挿通孔27a、外包シート22、耐火材21、他方のボルト挿通孔27b、および他方の取付部材3bの挿入孔85bを挿通して前記穿刺部分84を他方の取付部材3bから突出させ、仮想線87に示されるように前記穿刺部分84を上方にほぼ直角に折曲げる。このようにして保持具2が固着された耐火帯に、各取付部材3a,3bを連結することができる。
【0040】この場合には、差込み固定金具81の前記折曲げ部分83が一方の取付部材3aから突出するため、この一方の取付部材3aに接触して設けられる前記縁材41の基板43に前記折曲げ部分83が嵌まり込むことができる孔または切欠きを形成することによって、基板43を一方の取付部材3aにほぼ全面にわたって接触させ、安定に前記アンカーボルト36aによって上壁部12に固定することができる。なお、前述の実施の形態と対応する部分には同一の参照符を付し、重複を避けて説明は省略する。
【0041】本発明の実施のさらに他の形態として、上記の図1〜図4に示される実施の各形態では、上下に空隙14を挟んで隣接する建物内の隔壁4の上壁部12と下壁部13との間に実施される伸縮耐火構造について述べたけれども、前記隔壁4に代えてその他の壁、たとえば建物の外壁および内壁の壁に形成された空隙を塞ぐためにも、本発明を好適に実施することができる。
【0042】以上の実施の各形態では、耐火帯1は保持具2とともに各取付部材3a,3bによって上層躯体6の上壁部12に設ける構成について説明したけれども、本発明の実施のさらに他の形態として、下壁部13に設けるようにしてもよい。
【0043】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、免震建物において、上層躯体の壁に縁材が固定され、縁材にはカバープレートがヒンジ部分によって回動自在に保持され、このカバープレートはその下端部が下層躯体の壁に近接する方向にばね付勢される。また上層躯体と下層躯体との間には伸縮自在な長尺の耐火帯が設けられ、この耐火帯によって上層躯体および下層躯体間の相対的変位を許容し得るようにして、上層躯体および下層躯体の各壁間の空隙が塞がれる。このような耐火帯には、断面形状が凹状の金属、たとえば鋼鉄製の保持具が前記摺動部分を突出させた状態で固定されており、この保持具には金属から成る取付部材が連結される。
【0044】このような構成において、耐火帯を上層躯体および下層躯体の各壁間の空隙に装着するにあたって、耐火帯の摺動部分を下層躯体の壁または上層躯体の壁に接触させた状態で、取付部材を前記摺動部分が接触する一方の壁とは反対側の上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定する。
【0045】このように上層駆体には空隙に沿って縁材を固定し、この縁材のヒンジ部分によって回動自在に保持されるカバープレートを設けて、前記耐火帯が覆われるので、耐火帯を保護して損傷を防ぎ、より一層確実に炎の侵入を防ぐことができる。また耐火帯を空隙に設けることによって、上記のように上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定された状態において、この固定される側の躯体の壁とは反対側の躯体の壁に対して、地震または地盤沈下などによって上層躯体と下層躯体とが相対的に変位しても、耐火帯の形状が大きく変形して対向する躯体の壁面に対して隙間が生じることなく、確実に空隙を塞いだ状態で、各躯体間の相対的変位を許容することができる。
【0046】また上記のとおり耐火帯は、上層躯体の壁または下層躯体の壁のいずれか一方に固定されるので、いずれか他方に対する干渉を回避することができ、これによって上層躯体および下層躯体間の大きな変位を許容することができる。しかも前記保持具および取付部材は、金属、たとえば鋼鉄から成るので、火災発生時の高熱によって変形し、または熱溶融して流れ落ちてしまうという不具合を確実に防ぎ、信頼性の高い耐火構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態の免震建物の伸縮耐火構造を示す鉛直断面図である。
【図2】図1に示される耐火帯1、保持具2および各取付部材3a,3bを示す分解斜視図である。
【図3】図1および図2に示される伸縮耐火構造が実施される隔壁4およびこの隔壁によって外囲される免震装置5付近の水平断面図である。
【図4】縁材41、カバープレート56および水切カバー体73の取付状態を示す部分的に切欠いた一部の斜視図である。
【図5】本発明の実施の他の形態の免震建物の伸縮耐火構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
1 耐火帯
2 保持具
3a,3b 取付部材
4 隔壁
5 免震装置
6 上層躯体
7 下層躯体
8,9 柱
12 上壁部
13 下壁部
14 空隙
15 下面
16 上面
21 耐火材
22 外包シート
26 ボルト
41 縁材
53 ヒンジ部分
56 カバープレート
63 下端部
68 振止め防止用ばね
73 水切カバー体
81 差込み固定金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水平に分断された建物の上層躯体と下層躯体との間に免震装置が介在される免震建物において、上層躯体の壁には、ヒンジ部分を有する縁材が固定され、この縁材には、前記ヒンジ部分によって回動自在に保持され、かつ下端部が下層駆体の壁に近接する方向にばね付勢されたカバープレートを設けて、上層躯体の壁と下層躯体の壁との間の空隙を覆い、前記空隙内には、上層躯体および下層躯体間の相対的変位を許容し、かつ前記空隙を塞ぐ厚み方向に伸縮自在な長尺の耐火帯が設けられ、前記耐火帯には、その長手方向に間隔をあけて断面が凹状の金属から成る保持具が、下層躯体の壁または上層躯体の壁に臨む耐火帯の摺動部分を突出させるようにして固着され、この保持具には、金属から成る取付部材が連結され、この取付部材は、耐火帯を前記摺動部分を下層躯体の壁または上層躯体の壁に接触させた状態で、上層躯体の壁または下層躯体の壁に固定されることを特徴とする免震建物の壁耐火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2001−26996(P2001−26996A)
【公開日】平成13年1月30日(2001.1.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−200911
【出願日】平成11年7月14日(1999.7.14)
【出願人】(000004732)株式会社日本アルミ (64)
【Fターム(参考)】