説明

免震構造体及び免震基礎杭

【課題】 縦揺れを伴う大きな地震が発生した場合でも、建物の基礎部が破壊されることなく、その振動エネルギーを吸収することのできる免震構造体及びこの免震構造体を用いた免震基礎杭を提供することである。
【解決手段】 基礎抗22の下部に互いに反発するように配置される上部磁石12と下部磁石13とを備え、前記上部磁石12と下部磁石13とが同一極性面を対向させ、その反発力によって互いに離間した状態でケーシング14に保持させるための免震構造体11を設けることで、直下型の大きな地震に耐え得ることが可能な免震杭21を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震、特に縦揺れ振動を伴う直下型の地震による基礎杭の破壊を防止するための免震構造体及びこの免震構造体を備えた免震基礎杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の免震構造による建物は、ビルや住宅等の建築物を支える土台部や基礎部の上にゴム積層体からなる免震構造体を設けて施工する場合が多い。また、地盤が軟弱な場所に建物を建築する場合は、地中にコンクリート製の基礎杭を複数配設し、この基礎杭を土台とするのが一般的な建築工法となっている。このような基礎杭を施工することで、地盤の強化を図ると共に、地震による揺れを吸収させるための免震機能を備えた免震杭が特許文献1に記載されている。この免震杭は、杭の先端とこの杭が打設される支持地盤との間に地震による揺れを低減させるための緩衝装置を設けた構造となっており、この緩衝装置は上下の支持板の間に円柱状のゴム部材からなる弾性体を設けて構成されている。
【0003】
また、前記緩衝装置は、ゴム部材以外にも様々な弾性体によって構成され、例えば、特許文献2に示すように、磁石等の磁気の反発力を利用した免震構造体も知られている。
【特許文献1】特開2003−20645号公報
【特許文献2】特願平10−078367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、従来の建物の土台部に設けられる免震構造体にあっては、比較的設置が容易であり、横揺れを伴う地震に対しては有効に作用するが、震度6〜7以上の大地震、特に、大きな縦揺れを伴う直下型の地震が発生した場合は、土台部自体が破壊するおそれがある。このため、建物を支える基礎部に対しても免震対策が重要となっている。
【0005】
一方、前記免震構造体の緩衝部材には、ゴム積層体が多く用いられているが、このようなゴム部材は建物の重量による負荷が常時かかっているため、その弾性保持力が徐々に低下することに加え、経年変化による劣化や変形が生じやすいといった問題がある。
【0006】
前記特許文献1に記載の免震杭においては、地震による揺れを緩衝する緩衝部材が杭の先端に達する地中の奥深くに設けられているため、地震による振動を直接吸収することができる。しかしながら、前記緩衝部材がゴム部材で構成されているため、直下型のような震度6〜7以上の大きな地震が発生した場合は、その振動エネルギーに耐え切れずに破壊するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、縦揺れを伴う大きな地震が発生した場合でも、建物の基礎部が破壊されることなく、その振動エネルギーを吸収することのできる免震構造体及びこの免震構造体を用いた免震基礎杭を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の免震構造体は、基礎抗の下部に互いに反発するように配置される上部磁石と下部磁石とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記上部磁石と下部磁石とが同一極性面を対向させ互いに離間した状態でケーシングに保持されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の免震構造体によれば、基礎抗の下部に設けられ、互いに反発するように配置される上部磁石と下部磁石とで構成されているため、大きな地震が発生した際に、その振動エネルギーを前記上部磁石と下部磁石との反発力によって吸収することができる。また、前記上部磁石と下部磁石とがその反発力によって常時離間した状態となっているので、上部磁石及び下部磁石にかかる負荷が軽減され、経年変化等による劣化も抑えることができ、振動吸収効果を長期に亘って安定して維持することができる。また、前記免震構造体が建物等を土台から支える基礎杭の先端部に配設されているので、縦揺れを伴う直下型の大きな地震を素早く感知して吸収することができる。これによって、基礎部における破壊を防止し、建物等の上層部への被害を最小限に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係る免震構造体及びこの免震構造体を用いた免震基礎杭の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の免震構造体11を設けた免震基礎杭(免震杭)21の断面構造を示したものである。前記免震構造体11は、図2に示すように、円柱形状の上部磁石12と、下部磁石13と、上部磁石12と下部磁石13を上下方向において離間した状態で保持する円筒形状のケーシング14とによって構成されている。この免震構造体11は、図1に示したように、地盤面Gから所定の深さに地中G1を掘削した掘削孔の底部に配置され、その上に基礎杭22が形成される。この基礎杭22は、コンクリート材を打設して形成されるコンクリート杭や前記掘削孔内に埋め込み形成される鋼管杭である。
【0013】
前記上部磁石12及び下部磁石13は、前記基礎杭22と略同じ直径を有し、対向する面がそれぞれN極又はS極の同極性の強力な永久磁石によって形成される。この実施例では、図1に示したように、前記ケーシング14内にN極同士が対向するように配置されているが、S極同士が対向するように配置してもよい。
【0014】
前記上部磁石12及び下部磁石13が組み込まれるケーシング14は、地中G1に掘られた掘削孔と略同じ直径を有した円筒形状に形成される。このケーシング14は、内部が中空の緩衝空間部15となっており、上面が閉塞され、下面が開放した状態で形成されている。このケーシング14には、前記基礎杭22自体の荷重やこの基礎杭22によって支えられる地盤面G上の建造物の重量がそのままかかるため、それに耐え得るような頑丈な鋼管材が使用される。
【0015】
前記上部磁石12は、N極又はS極の磁極面が上下面となるようにケーシング14の上端側に溶接等によって固定される。一方、前記下部磁石13は、前記上部磁石12と対向する面が同一極性となるように、離間した状態で配置される。この下部磁石13は、前記上部磁石12のようにケーシング14に完全に固定させず、下からの突き上げるような衝撃によって前記上部磁石12側に移動するよう、上下方向にスライド可能に仮固定状態で保持される。この保持手段としては、例えば、図2に示したように、前記下部磁石13の外側面とケーシング14の内側面との間に装着した弾性部材(ゴム製リング部材)16が用いられる。このゴム製リング部材16は、図3に示すように、ケーシング14の内周面に密着して設けられ、平常時には前記下部磁石13をケーシング14に確実に保持する一方、下部磁石13に下方から大きな力が加わると、下部磁石13の保持を解除してケーシング14内での移動を可能とする。また、他の保持手段として、下部磁石13の周囲を部分的にケーシング14に溶接することも可能である。この場合にも大きな衝撃によって溶接が切断され、前記下部磁石13の移動を可能とする。このように、前記下部磁石13をケーシング14に仮固定の状態で保持することによって、軽度の地震やその他の地盤変動による下部磁石13が所定位置からずれてしまうのを防止することができる。なお、前記ゴム製リング部材16等の弾性部材による密着や溶接等による保持強度は、建物の倒壊を引き起こすおそれのある強い地震による振動エネルギーがかかった際に仮固定が外れるように設定される。
【0016】
前記下部磁石13は、図1に示されるように、前記ケーシング14の下端面14aより下面13aがわずかに突出するようにケーシング14に保持されるのが望ましい。これは、直下型の大きな地震が発生した際に、その振動エネルギーをケーシング14の下端面14aより先に下部磁石13で受け易くするものである。地震による衝撃を最初に前記下部磁石13の下面13aで受けることで、ケーシング14に衝撃が加わりにくくなる。下部磁石13に大きな力が加わることでゴム製リング部材16から外れ、この外れた下部磁石13は、下面からの突き上げ振動の強さに応じてケーシング14内を上方向に移動するが、上方に位置している上部磁石12による反発力によって、地震による突き上げ方向とは逆の力が作用して、前記下部磁石13の上方への移動量を抑え、徐々に上下動の振幅幅を低減させることができる。これによって、地震による振動エネルギーが直接ケーシング14を介して基礎杭22に伝達するのを防ぎ若しくは低減させることができる。特に、図1に示したように、前記下部磁石13の下面13aに曲面状の膨らみを持たせることによって、地震による直下からの振動エネルギーを広い面積で受けることができるため、前記基礎杭22へ伝わる振動エネルギーをさらに低減させることができる。
【0017】
また、前記ケーシング14には、地震が発生した際に、前記下部磁石13がケーシング内の緩衝空間部15内を上下方向にスライド移動しやすいようにスライドガイド部17を設けることもできる。このスライドガイド部17は、例えば、図4(a),(b)に示すように、ケーシング14の内側面に上下方向に沿って設けられるレール状のガイド凸部18aと、前記下部磁石13の外側面に設けられ、前記ガイド凸部18aに適合するガイド凹部18bなどによって形成される。このようなスライドガイド部17を設けることで、地震が発生していない平常時は、図4(a)に示したように、下部磁石13がゴム製リング部材16によって動かないように保持される。この状態において、大きな縦揺れの地震が発生すると、図4(b)に示したように、下部磁石13がゴム製リング部材16から外れ、前記スライドガイド部17に沿ってケーシング14内を上下方向に移動する。このようなスライドガイド部17を設けることで、下部磁石13が傾いたり、がたついたりすることなくスムーズに前記緩衝空間部15内を移動して、地震による振動エネルギーを吸収させることができる。また、地震が治まった際にケーシング14の下端に設けられているゴム製リング部材16内に戻ることができる。
【0018】
前記上部磁石12及び下部磁石13は、前述したように、ケーシング14の直径に適合するサイズに合わせて形成する以外に、図5に示すように、直径が数cm〜数十cm程度の小磁石体19を縦横方向に複数配列することによって、前記基礎杭22と略同じ直径の円柱体に形成してもよい。隣接する小磁石体19同士の結合は適宜の手段で行うことができる。このような構成によれば、建造物の規模によって異なる直径の基礎杭22に適合させることができる。また、前記基礎杭22は、通常1〜3m程度の直径を有しているので、このようなサイズに適合した単一の磁石を形成する場合に比べて製造が容易であり、施工費が安価になるといった利点がある。さらに、単一の磁石に比べて強い磁力を得ることができる。
【0019】
前記構成からなる免震構造体11は、図1に示したように、地盤面Gから所定の深さに掘削された掘削孔の底部にクレーンなどで吊り下げて降ろされ、略水平が保たれた状態で設置される。そして、前記免震構造体11が配置された上方の掘削孔を埋めるようにして基礎杭22となるコンクリートを打設することによって免震杭21が構築される。このような場所打ち工法の他に、前記免震構造体11の上方に予め工場等で製造された剛性管(プレストレスコンクリート管)や鋼管を配設することによって、免震杭を構築することもできる。
【0020】
図6は、上記構成からなる免震構造体11の作用を示したものである。平常時は、図6(a)に示すように、下部磁石13がケーシング14の下端に前記ゴム製リング部材16や溶接等によって保持され、上部磁石12と一定の離間距離を維持した状態で静止している。この状態から大きな地震、特に直下型の地震が発生すると、図6(b)に示すように、その振動エネルギーが最初に下部磁石13の下面13aに加わり、この下部磁石13を上方に押し上げる。この押し上げによって、下部磁石13が前記ゴム製リング部材16等による保持から解除され、ケーシング14の底部から緩衝空間部15内に押し出される。そして、上方に押し出された下部磁石13は、上部磁石12と同じ極性で対向しているために上部磁石12との間で反発力が生じ、この反発力によって上部磁石12と接触することなく押し戻され、前記緩衝空間部15内を上下方向にスライドしながら地震による振動エネルギーを吸収する。このように、本発明の免震構造体11では下部磁石13がいわば緩衝材としての作用を有するので、前記下部磁石13で受けた衝撃力を上部磁石12やケーシング14に伝達されることがなく、基礎杭22には直接破壊に至るような衝撃が伝わらないことになる。なお、前記基礎杭22は、ケーシング14に支持されているため、このケーシング14の下端からは直接振動エネルギーを受けることになるが、このケーシング14は、剛性を有した鋼管材によって形成されているため、直下から受ける直接の振動エネルギーは比較的少ないものとなる。また、前記ケーシング14は、地中G1の深くに設置されているため、周囲から受ける土や岩盤からの圧力によって強固に保持させることができる。
【0021】
次に、上記免震構造体11を用いた免震杭21の一施工方法を図7に基づいて説明する。以下、場所打ちと呼ばれる施工方法を例にして説明する。
(1)水平な地盤面Gに対して鉛直方向に掘削孔20を支持地盤GXに到達するまで掘削する。この掘削作業は、鉄のパイプを地盤面Gから圧入させ、パイプの内側を掘削機械で掘りながら地中G1へ差し込んで行くことによって行われる(図7(a))。
(2)前記掘削作業の後、上部磁石12、下部磁石13及びケーシング14からなる免震構造体11を前記掘削孔20の底部に露出する支持地盤GXに向けてまっすぐ吊り下ろして設置する。この吊り下げ作業は、基礎杭の骨組みとなる円筒形状の鉄筋籠30の下端に取り付け、この鉄筋籠30ごとクレーンによって掘削孔20内に埋設する。
(3)前記鉄筋籠30内にトレミー管31を挿入し、前記免震構造体11の上面からコンクリート32を流し込み、徐々に硬化させながら掘削孔20内を満たす。
以上の工程を経ることによって、図1に示したような先端に免震構造体11を備えた一本の免震杭21が形成される。
なお、前記免震杭21は、場所打ち工法によって免震構造体11の上にコンクリートの基礎杭22を形成したが、この基礎杭22として、工場等で予め製造した剛性管(プレストレスコンクリート管)や鋼管を使用することも可能である。
【0022】
本発明の免震構造体11は、前述したように、互いに反発する上部磁石12、下部磁石13及びこれら一対の磁石を支持するケーシング14とによって構成されているため、このケーシング14を一般住宅や高層ビルなどの建物あるいは道路や橋梁などの建設物などに用いられる基礎杭22の先端に設置するだけで容易に免震機能を持たせることができる。また、前記基礎杭22は通常ケーシング14によって支持され、大きな地震が発生した際に地中G1の支持地盤GXに直接接している下部磁石13が移動してその振動エネルギーを緩衝するため、接触部分が少ない。また、前記上部磁石12及び下部磁石13が永久磁石で構成されることから、電力等の資源を使用したり、メンテナンスを要したりすることなく、半永久的に当初の免震機能を維持することができる。なお、前記上部磁石12及び下部磁石13は、建物等を支持する基礎杭に設けられるため、大きな磁力を発生させることとなるが、設置箇所が地下数メートルの地中にあるので、人体への影響は問題とならない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る免震構造体を備えた免震杭の断面図である。
【図2】上記免震構造体の内部構造を示す斜視図である。
【図3】上記免震構造体を地中の底部からみた平面図である。
【図4】ケーシングと下部磁石にスライドガイド部を設けた免震構造体の内部構造を示す斜視図である。
【図5】上部磁石及び下部磁石を複数の小磁石体の結合によって形成した場合の免震構造体の斜視図である。
【図6】地震発生前後における上記免震構造体の動作を示す作用図である。
【図7】上記免震構造体を備えた免震杭の施工方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
11 免震構造体
12 上部磁石
13 下部磁石
13a 下面
14 ケーシング
14a 下端面
15 緩衝空間部
16 ゴム製リング部材
17 スライドガイド部
18a ガイド凸部
18b ガイド凹部
19 小磁石体
20 掘削孔
21 免震杭(免震基礎杭)
22 基礎杭
30 鉄筋籠
31 トレミー管
G 地盤面
G1 地中
GX 支持地盤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎抗の下部に互いに反発するように配置される上部磁石と下部磁石とを備えたことを特徴とする免震構造体。
【請求項2】
前記上部磁石と下部磁石とが同一極性面を対向させ互いに離間した状態でケーシングに保持されている請求項1記載の免震構造体。
【請求項3】
前記下部磁石は地震による所定以上の衝撃によってケーシングの保持が解除される請求項2記載の免震構造体。
【請求項4】
前記ケーシング及び下部磁石の少なくとも一方に、前記下部磁石の上下方向への移動を可能とするスライドガイド部が設けられる請求項2記載の免震構造体。
【請求項5】
前記下部磁石はその下面が前記ケーシングの下方に突出した状態でケーシングに保持されている請求項2記載の免震構造体。
【請求項6】
前記ケーシングの下方に突出した下部磁石の下面は曲面状の膨らみを有して形成されている請求項5記載の免震構造体。
【請求項7】
前記下部磁石は弾性部材を介してケーシングに保持されている請求項2記載の免震構造体。
【請求項8】
前記弾性部材が下部磁石の周囲を取り囲むゴム製リング部材である請求項7記載の免震構造体。
【請求項9】
前記下部磁石が溶接によってケーシングに保持されている請求項2記載の免震構造体。
【請求項10】
前記上部磁石及び下部磁石は、1又は2以上の永久磁石によって構成される請求項1記載の免震構造体。
【請求項11】
前記ケーシングが前記基礎杭の下部を支える請求項2記載の免震構造体。
【請求項12】
前記基礎杭がコンクリート杭又は鋼管杭である請求項1記載の免震構造体。
【請求項13】
地中に設けられる掘削孔の底部に配置される請求項1乃至11に記載の免震構造体と、該免震構造体の上部にコンクリートの打設あるいはコンクリート剛性管又は鋼管の配設によって設けられる基礎杭とからなる免震基礎杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−291641(P2007−291641A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−118136(P2006−118136)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(501273303)山本基礎工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】