説明

免震構造及び免震方法

【課題】簡易な構成で、免震ゴムに作用する引抜力を緩和することが可能な免震構造及び免震方法を提供する。
【解決手段】免震構造10は、免震ゴム16の下部フランジ板16cに貫通孔19を形成すると共に、この貫通孔19を貫通して基礎部14上部のベース板14aに着脱可能に固定される突起部材18を設けることで構築される。また、好ましくは、突起部材18と、貫通孔19の内周との間に摩擦を低減するための摩擦低減材20を介在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の免震構造及び免震方法に係り、特に免震ゴムに作用する引抜力を緩和する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震時にビルやマンションなどの構造物に生じる揺れを低減するために、非免震構造物(例えば、基礎部)と免震対象物との間に免震ゴムを介装した免震構造が用いられている。このような免震構造に使用される免震ゴムは、一般に、ゴム層と鋼板を交互に積層して接着したものが用いられており、鉛直方向に作用する圧縮力には強固で、水平方向に作用するせん断応力には柔軟な性質を有する。かかる免震ゴムを非免震構造物と免震対象物との間に介装することにより、免震対象物を支持するとともに、地震時には免震対象物への地震力の入力を抑制することができる。
【0003】
ところで、このような免震構造を備える構造物に対して、大きな地震が発生した場合には、水平方向に変位するだけでなく、免震対象物が揺動するようなロッキングと呼ばれる現象が生じ、これにともなって非免震構造物と免震対象物との間に介される免震ゴム内に、鉛直方向の引抜力が作用することがある。
【0004】
しかしながら、免震ゴムはこのような引抜力に弱く、ゴム層と鋼板との接着が剥がれるなどの損傷を受けるおそれがあるため、従来より、免震ゴムに作用する鉛直方向の引抜力を軽減する免震構造が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、免震ゴムの下部フランジ板の下側にガイド部材を設け、このガイド部材を基礎に設けられた開口部に収容することで、このガイド部材が、免震ゴムの水平方向の移動を拘束し、上下方向の移動を許容するようにした免震構造が開示されている。この免震構造によれば、免震ゴムに引抜力が生じても、ガイド部材が基礎の開口部を上下に変位できるために、免震ゴム自体には引抜力がかからないようになっている。
【特許文献1】特開2003−194146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される免震構造では、免震ゴムの下部フランジ板の下側にガイド部材を取り付けるために部品コストが増加したり、そのガイド部材を収容する基礎の開口部の施工に手間と時間を要したりするおそれがある。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、免震ゴムに作用する引抜力を緩和することが可能な免震構造及び免震方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、非免震構造物に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震構造であって、
前記免震ゴムの上下何れか一方のフランジ板に貫通孔を形成すると共に、この貫通孔を貫通して前記非免震構造物側又は前記免震対象物側に取り付けられる突起部材を設けたことを特徴とする(第1の発明)。
【0009】
本発明による免震構造によれば、免震ゴムの上下何れか一方のフランジ板は、そのフランジ板を貫通する貫通孔に、非免震構造物又は免震対象物側に取り付けられた突起部材を貫通させる構成であるため、免震ゴムと非免震構造物又は免震対象物との間に引抜力が作用した時に、フランジ板が拘束されず非免震構造物又は免震対象物から離間できるので、免震ゴムにかかる引抜力を低減できる。このため、免震ゴムのゴム層と鋼板との接着が剥がれるなどの損傷を防止できる。一方、免震対象物に作用する水平力は、フランジ板の貫通孔の内周と、突起部材とが当接することで、免震ゴムにせん断力として伝達することができるため、その免震性能を維持できる。
【0010】
また、免震ゴムの下部フランジ板の下側にガイド部材を取り付けたり、そのガイド部材を収容する開口部も非免震構造物に設けたりする必要もないため、部品コストを軽減できる共に施工に手間と時間も要さない。
【0011】
また、本発明による免震構造によれば、免震ゴムに交換が必要な場合においても、非免震構造物又は免震対象物に取り付けていた突起部材を取り外し、免震対象物を少しジャッキアップして、免震ゴムを水平方向に引き抜くことができるため、容易に免震ゴムの交換を行える。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記突起部材は、前記非免震構造物側又は前記免震対象物側に着脱可能に取り付けられることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記突起部材と、前記貫通孔の内周との間に摩擦を低減するための摩擦低減材を介在させたことを特徴とする。
【0014】
本発明による免震構造によれば、突起部材と、貫通孔の内周とが接触した場合の摩擦を低減できるため、免震ゴムに作用する引抜力をより効果的に低減できるとともに、突起部材と貫通孔の内周との摩擦による磨耗も防止できる。
【0015】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明において、前記突起部材と、前記突起部材に貫通される貫通孔とを、前記免震ゴムを取り囲むように複数設けたことを特徴とする。
【0016】
本発明による免震構造によれば、地震時等の振動よって免震ゴムと非免震構造物又は免震対象物との間に作用する水平方向のせん断力を、複数の突起部材によって分散させて伝達することができるので、個々の突起部材にかかるせん断力を小さくできる。このため、突起部材のせん断耐力を低減することができる。
【0017】
第5の発明は、第4の発明において、前記突起部材は、前記貫通孔との間に隙間が生じるように前記貫通孔よりも小寸法に形成され、
前記非免震構造物側に取り付けられる場合には、前記突起部材の断面の中心位置が、前記貫通孔の断面の中心位置よりも前記免震ゴム側へ偏心して配置され、前記免震対象物側に取り付けられる場合には、前記突起部材の断面の中心位置が、前記貫通孔の断面の中心位置よりも前記免震ゴムと反対側へ偏心して配置されることを特徴とする。
【0018】
本発明による免震構造によれば、ロッキングが生じたときに、免震ゴムが水平方向に変位して、せん断力の作用する方向に配置される突起部材と貫通孔の内周とが当接して、水平方向のせん断力を非免震構造物又は免震対象物に確実に伝達させつつ、その当接する位置と免震ゴムを挟んで対向する位置の突起部材と貫通孔との隙間を確保して、当接する突起部材と貫通孔との当接位置を支点として、フランジ板の対向位置側を確実に非免震構造物又は免震対象物から離間させることができる。
【0019】
これにより、免震ゴムによる免震性能を維持できるとともに、免震ゴムに作用する引抜力を効果的に低減できる。さらに、突起部材に作用する力は、主に、貫通孔の内周から水平方向に作用されるせん断力に限定され、軸力は作用しない。すなわち、突起部材に組み合わせ応力が生じないためその設計が容易となる。
【0020】
第6の発明は、第1〜5のいずれかの発明において、前記突起部材は、前記貫通孔が形成されたフランジ板が、前記非免震構造物又は前記免震対象物から所定量だけ離間した場合に、当該フランジ板と当接する拡大部を有することを特徴とする。
本発明による免震構造によれば、フランジ板と非免震構造物又は免震対象物との離間変位が突起部材の軸長を越えることによって、フランジ板が突起部材から抜け外れることを確実に防止できる。
【0021】
第7の発明は、第1〜6のいずれかの発明において、前記免震ゴムのフランジ板を前記非免震構造物又は前記免震対象物に向けて付勢する弾性体を設けたことを特徴とする。
本発明による免震構造によれば、弾性体の弾性力を変更することによりフランジ板と非免震構造物又は免震対象物が離間し始める引抜力の大きさを調節できる。
【0022】
第8の発明は、第1〜7のいずれかの発明において、前記突起部材は、内周側のボルトと外周側の座金とから構成され、前記ボルトは前記非免震構造物又は前記免震対象物に取り付けられていることを特徴とする。
【0023】
第9の発明は、第8の発明において、前記座金は上下の部材に分割されていることを特徴とする。
【0024】
第10の発明は、非免震構造物に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震方法であって、前記免震ゴムの上下何れか一方のフランジ板に貫通孔を形成し、突起部材を前記非免震構造物側又は前記免震対象物側にこの貫通孔を貫通して取り付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡易な構成で、免震ゴムに作用する引抜力を緩和することが可能な免震構造及び免震方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施形態に係る免震構造10が適用される免震対象物12の基礎部分を示す正面図である。また、図2は、免震構造10の鉛直断面拡大図である。
【0027】
図1に示すように、免震構造10は、免震対象物12と基礎部14との間に免震ゴム16を介在して構成されるものである。従って、本実施形態では基礎部14が本発明の非免震構造に相当する。免震ゴム16は、ゴム層と鋼板とを積層してなる積層ゴム16aと、積層ゴム16aの上下に固定された上部フランジ板16b及び下部フランジ板16cとからなり、上部フランジ板16bは免震対象物12の下面に固定される。また下部フランジ板16cは基礎部14の上面に固定されたベース板14aに載置されている。
【0028】
図2に示すように、ベース板14aは、例えば、その下面にスタッドボルト(図示しない)が複数溶接される鋼板であり、これらスタッドボルトがコンクリート等によって構成される基礎部14に埋設されることにより、基礎部14に強固に固定されている。そして、ベース板14aには、後述する突起部材18と螺合するねじ穴14bが所定の位置に複数加工されている。
【0029】
下部フランジ板16cには、その上下面を貫通する貫通孔19が設けられている。この貫通孔19には突起部材18が貫通している。
【0030】
突起部材18は、ねじ穴14bに着脱可能に固定できるように、その下端がねじ構造となっており、下部フランジ板16cの上方から貫通孔19を貫通してベース板14aのねじ穴14bに螺着される。また、貫通孔19への挿入部分である突起部材18の胴部18aの外径は、貫通孔19の内径よりも小さく形成され、一方、突起部材18の先端部18bの外径は、貫通孔19の内径よりも大きく形成されている。これにより、免震ゴム16に引抜力が作用し、下部フランジ板16cが上方へ浮上する場合に、下部フランジ板16cが拘束されず自由に上方に浮上可能であると共に、所定量浮き上がった際に、先端部18bが下部フランジ板16c上面に当接して、それ以上の浮き上がりが阻止されるようになっている。また、突起部材18の胴部18aの外周に摩擦低減材20が設けられている。これにより、突起部材18と貫通孔19とが接触した場合に、その接触摩擦が低減される。摩擦低減材20には、例えば、テフロン(登録商標)などの低摩擦の材料や、ゴムなどの低剛性の材料を用いたり、あるいは、ボールベアリングなどの機構(図示しない)を設けたりしてもよい。なお、摩擦低減材20は省略してもよい。
【0031】
図3は、図2に示す免震構造10の突起部材18及び貫通孔19の配置を説明するための平面図である。なお、図3の突起部材18及び貫通孔19の水平断面の大きさの差異や設置位置の関係は、実際よりも誇張して示している。
【0032】
図3に示すように、下部フランジ板16cは、例えば、円盤状に形成されており、貫通孔19とその貫通孔19を貫通してベース板14aに固定される突起部材18とが、積層ゴム16aを取り囲むように複数配置されている。例えば、図3では8組の突起部材18及び貫通孔19が、積層ゴム16aを取り囲むように円形状に等間隔に配置されている。
【0033】
また、突起部材18及び貫通孔19の水平断面は円形であり、突起部材18の中心位置が貫通孔19の中心位置よりも積層ゴム16a側に偏心して配置されている。
【0034】
上記した免震構造10は、先ず、基礎部14のベース板14aに、貫通孔19を形成した下部フランジ板16cを備える免震ゴム16を載置し、その後、下部フランジ板16cの上方から貫通孔19を貫通してベース板14aのねじ穴14bに、突起部材18を螺着することにより施工される。また、免震ゴム16の交換が必要な場合には、前述の逆の手順をとり、ベース板14aに固定される突起部材18を取り外し、免震対象物12を少しジャッキアップすることで、免震ゴム16を水平方向に引き抜く。
【0035】
図4は、通常の状態からロッキング発生までの免震構造10の動作過程を示す断面図であり、(a)は通常の状態、(b)は水平方向の変位が生じた状態、(c)はロッキングにより免震ゴム16が浮き上がりを生じた状態を示す図である。
【0036】
図4(b)に示すように、下部フランジ板16cがベース板14a上を水平方向に移動して、その移動した先に配置される突起部材18(以下、移動先突起部材18Fという)の外周と、移動先突起部材18Fに貫通される貫通孔19(以下、移動先貫通孔19Fという)の内周とが当接する。これにより、免震ゴム16と基礎部14との間で水平方向の地震力を伝達させることができる。このとき、移動先突起部材18Fから積層ゴム16aを挟んで対向する位置にある突起部材18(以下、対向突起部材18Rという)の中心は、この対向突起部材18Rに貫通される貫通孔19(以下、対向貫通孔19Rという)の中心に近づく方向に移動しているので、対向突起部材18Rの外周は、対向貫通孔19Rの内周と最も間隔を隔てた状態となる。
【0037】
この状態からロッキングが生ずると、図4(c)に示すように、対向貫通孔19Rの位置する側の下部フランジ板16cが、移動先突起部材18Fと移動先貫通孔19Fとの接点を支点として浮き上がる。その際、対向突起部材18Rと対向貫通孔19Rとの間は間隔を保って接触しないため、その間に摩擦は生じず、積層ゴム16aに引抜力が作用しない。そして、対向貫通孔19Rが突起部材18の先端部18bに当接するまで浮き上がると、それ以上の浮き上がりは阻止される。
【0038】
なお、免震構造10には、下部フランジ板16cを基礎部14に向けて付勢する皿ばね等の弾性体を設けてもよい。図5は、図2の免震構造10に皿ばね22を設けた例を示す鉛直断面拡大図である。
【0039】
図5に示すように、皿ばね22は、突起部材18の先端部18bと下部フランジ板16cとの間に装着されている。皿ばね22はその弾性係数が免震ゴム16の弾性係数よりも十分小さくなるように構成されている。かかる皿ばね22は、突起部材18の螺合部のねじ穴14bへの締め込み具合に応じた圧縮変形量により、免震ゴム16の下部フランジ板16cをベース板14aに押さえつける力(つまり、下部フランジ板16cが浮き上がり始める引抜力の大きさ)を調整することができる。なお、弾性体には皿ばね22に限らず、ゴム製部材など弾性を有するものであればよい。
【0040】
以上説明した第一の実施形態による免震構造10によれば、次の効果が得られる。
【0041】
(1)免震ゴム16の下部フランジ板16cに設けた貫通孔19に、基礎部14側に固定された突起部材18を貫通させる構成であるため、ロッキングにより免震ゴム16に引抜力が作用したときに、下部フランジ板16cが基礎部14から浮き上がることで、免震ゴム16にかかる引抜力を低減できる。このため、積層ゴム16aのゴム層と鋼板との接着が剥がれるなどの損傷を防止できる。一方、免震対象物12に作用する水平力は、下部フランジ板16cの貫通孔19の内周と、突起部材18とが当接することで免震ゴム16にせん断力として伝達することができるため、その免震性能を維持できる。
【0042】
(2)突起部材18はベース板14aに螺着されることにより、着脱可能に取り付けられているので、免震ゴム16に交換が必要な場合に、この突起部材18を取り外し、免震対象物12を少しジャッキアップして、免震ゴム16を水平方向に引き抜くことができるため、容易に免震ゴム16の交換を行える。
【0043】
(3)突起部材18と貫通孔19の内周との間に摩擦を低減するための摩擦低減材20を介在させた場合には、この間の摩擦を低減できるため、免震ゴム16に作用する引抜力をより効果的に低減できるとともに、突起部材18と貫通孔19の内周との摩擦による磨耗も防止できる。
【0044】
(4)突起部材18と、突起部材18に貫通される貫通孔19とを、免震ゴム16を取り囲むように複数設けることにより、地震時等の振動よって免震ゴム16と基礎部14との間に作用する水平方向のせん断力を、複数の突起部材18によって分散させて伝達することができるので、個々の突起部材18にかかるせん断力を小さくできる。このため、突起部材18のせん断耐力を低減することができる。
【0045】
(5)突起部材18は、下部フランジ板16cの貫通孔19との間に隙間が生じるように形成され、突起部材18の断面の中心位置が、貫通孔19の断面の中心位置よりも免震ゴム16側に偏心して配置されることにより、図4(c)に示すようにロッキングが生じた場合に、移動先突起部材18Fと移動先貫通孔19Fの内周とが当接して水平方向のせん断力を確実にベース板14aに伝達させつつ、対向突起部材18Rと対向貫通孔19Rとの間に隙間を確保して下部フランジ板16cを確実に浮き上がらせることができる。これにより、免震ゴム16による免震性能を維持できるとともに、積層ゴム16aに引抜力が作用するのをより確実に防止できる。
【0046】
(6)突起部材18に作用する力は、主に、貫通孔19の内周から水平方向に作用されるせん断力に限定され、軸力は作用しない。すなわち、免震ゴム16に組み合わせ応力が生じないため、その設計が容易となる。
【0047】
(7)突起部材18の先端部18bは、その外径が貫通孔19の内径よりも大きく形成されることにより、下部フランジ板16cが基礎部14から所定量浮き上がった際に、下部フランジ板16c上面と当接して、それ以上の浮き上がりを阻止するため、下部フランジ板16cが突起部材18から抜け外れるのを確実に防止できる。
【0048】
(8)免震構造10に下部フランジ板16cを基礎部14に向けて付勢する皿ばね22を設けた場合には、皿ばね22の弾性力を調節することにより下部フランジ板16cが浮き上がり始める引抜力の大きさを調節できる。さらに、浮き上がりの変位が大きくなる場合に、下部フランジ板16cが突起部材18の先端部18bに当たる際の衝撃を緩和できる。また、浮き上がった下部フランジ板16cがベース板14a上に復帰する際の衝撃も緩和できる。
【0049】
なお、免震構造10では、突起部材18は、ねじ穴14bに着脱可能に固定できるように、その下端がねじ構造となるとしたが、これに限らず、突起部材18の外径と、ねじ穴14bの寸法をほぼ同程度に加工して、挿入又は引抜することで着脱可能にしたメタルタッチ構造としてもよい。ただし、突起部材18のねじ構造をメタル構造にした場合、皿ばね22は用いないものとする。
【0050】
また、上記実施形態は、免震構造10の突起部材18に代えて、後述する座金181及びボルト182からなる突起部材180を設けた免震構造100としてもよい。図6は、免震構造100の鉛直断面拡大図である。また、図7は、図6の座金181を上下分割した構成を示す鉛直断面拡大図である。
【0051】
図6に示すように、突起部材180は、外周側の座金181と内周側のボルト182とからなり、座金181は、突起部材18と同様に、下部フランジ板16cの貫通孔19への挿入される部分である胴部181aの外径は、貫通孔19の内径よりも小さく形成され、座金181の先端部181bの外径は、貫通孔19の内径よりも大きく形成されている。一方、座金181の下部は、ベース板14aの嵌合穴14cに嵌合するような構成となっており、貫通孔19の内周と座金181とが当接することにより、水平方向のせん断力をベース板14aへと確実に伝達させるようになっている。
【0052】
ボルト182は、座金181が上方へ抜け外れないようにするために、座金181の上方から、座金181の円筒軸の中心に設けられた貫通孔19を挿通して、基礎部14に予め埋設されたさや管30に螺着され、座金181と共に基礎部14に固定される。座金181の先端部181bと下部フランジ板16cとの間に皿ばね22が装着される。なお、皿ばね22は省略してもよい。
【0053】
また、図7に示すように、突起部材180を構成する外周側の座金181を、下側のダボピン183と上側の頭部184とに分割し、例えば、ダボピン183は、建築構造用圧延棒鋼(SNR490B)で構成し、頭部184は、機械構造用炭素鋼(S45C)で構成するなどして、ダボピン183と頭部184とを異なる材料で構成してもよい。
【0054】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
第二の実施形態は、下部フランジ板16cを基礎部14に固定し、免震対象物12が上部フランジ板16bから浮上できる構成としたものである。図8は、第二の実施形態に係る免震構造200の鉛直断面拡大図であり、図9は、免震構造200の突起部材18及び貫通孔19の配置を説明するための平面図である。
【0055】
この実施形態では、図8に示すように、免震ゴム16の上部フランジ板16bに貫通孔19を設けて、突起部材18を、上部フランジ板16bの貫通孔19を下側から貫通させて、免震対象物12の底部に固定されたベース板12aに着脱可能に固定した構成としている。
【0056】
ただし、上部フランジ板16bの貫通孔19と突起部材18との配置関係は、免震構造10とは異なり、図8及び図9に示すように、突起部材18の断面の中心位置が、貫通孔19の中心位置よりも積層ゴム16aと反対側に偏心して配置されている。これにより、地震時に免震対象物12が免震構造10上を移動し又は浮き上がることになる。
【0057】
図10は、通常時からロッキング発生時までの免震構造200の動作過程を示す断面図であり、(a)は通常の状態、(b)は水平方向の変位が生じた状態、(c)はロッキングにより免震対象物12の下面が浮き上がりを生じた状態を示す図である。
【0058】
水平方向の変位が生じた状態の図4(b)と図10(b)との動作を比べると、図4(b)では、免震ゴム16側が水平移動したときの移動先突起部材18Fと移動先貫通孔19Fとの当接位置は、移動先貫通孔19Fの内周のうち積層ゴム16a側となるのに対し、図10(b)では、積層ゴム16aと反対側となる。本実施形態では突起部材18と貫通孔19の偏心の向きが第一の実施形態とは逆になっているので、図10(b)に示すように、この時の対向突起部材18Rの中心は、対向貫通孔19Rの中心に近づく方に移動することとなるため、図4(b)と同様に対向突起部材18Rと対向貫通孔19Rの内周とは最も間隔を隔てた状態となる。
【0059】
さらに、この状態でロッキングが生じた場合、図10(c)に示すように、移動先突起部材18Fが移動先貫通孔19Fの内周に当接して、水平方向のせん断力を確実に伝達させつつ、対向突起部材18Rと対向貫通孔19Rとの間に隙間を確保して、当接位置を支点として、免震対象物12を確実に浮き上げらせることができる。
【0060】
また、その浮き上がりによって、突起部材18の先端部18bが上部フランジ板16bに当接するまで変位したとしても、上部フランジ板16bがそれ以上の浮き上がりを阻止するため、対向突起部材18Rが対向貫通孔19Rから抜き外れるのを確実に防止できる。
【0061】
以上説明した第二の実施形態においても、第一の実施形態の上記(1)〜(8)と同様の効果を得ることができる。
【0062】
なお、第二の実施形態による免震構造200を、第一の実施形態で説明した皿ばね22を、突起部材18の先端部18bと上部フランジ板16bとの間に装着する構成としてもよく、また、突起部材18の代わりに、免震対象物12内にさや管30を設置して突起部材180をそのさや管30に固定する構成としてもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る第一及び第二の実施形態によれば、免震構造10、100又は200を基礎部14と免震対象物12との間に介装する構成にしたが、これに限らず、構造物の上下層の中間部に介装する構成としてもよい。この場合、免震構造10、100又は200が設けられた位置より上層が免震対象物となり、下層は非免震構造物となる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る免震構造10が適用される免震対象物12の基礎部分を示す正面図である。
【図2】第一の実施形態に係る免震構造10の鉛直断面拡大図である。
【図3】図2に示す免震構造10の突起部材18及び貫通孔19の配置を説明するための平面図である。
【図4】第一の実施形態に係る、通常の状態からロッキング発生までの免震構造10の動作過程を示す断面図であり、(a)は通常の状態、(b)は水平方向の変位が生じた状態、(c)はロッキングにより免震ゴム16が浮き上がりを生じた状態を示す図である。
【図5】図2の免震構造10に皿ばね22を設けた例を示す鉛直断面拡大図である。
【図6】第一の実施形態に係る免震構造100の鉛直断面拡大図である。
【図7】図6の座金181を上下分割した構成を示す鉛直断面拡大図である。
【図8】第二の実施形態に係る免震構造200の鉛直断面拡大図である。
【図9】免震構造200の突起部材18及び貫通孔19の配置を説明するための平面図である。
【図10】通常時からロッキング発生時までの免震構造200の動作過程を示す断面図であり、(a)は通常の状態、(b)は水平方向の変位が生じた状態、(c)はロッキングにより免震対象物12の下面が浮き上がりを生じた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
10、100、200 免震構造
12 免震対象物 12a ベース板
14 基礎部 14a ベース板
14b ねじ穴 14c 嵌合穴
16 免震ゴム 16a 積層ゴム
16b 上部フランジ板 16c 下部フランジ板
18 突起部材 18a 突起部材胴部
18b 突起部材先端部 18F 移動先突起部材
18R 対向突起部材 19 貫通孔
19F 移動先貫通孔 19R 対向貫通孔
20 摩擦低減材 22 皿ばね
180 突起部材 181 座金
181a 座金胴部 181b 座金先端部
182 ボルト 183 ダボピン
184 座金頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非免震構造物に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震構造であって、
前記免震ゴムの上下何れか一方のフランジ板に貫通孔を形成すると共に、この貫通孔を貫通して前記非免震構造物側又は前記免震対象物側に取り付けられる突起部材を設けたことを特徴とする免震構造。
【請求項2】
前記突起部材は、前記非免震構造物側又は前記免震対象物側に着脱可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の免震構造。
【請求項3】
前記突起部材と、前記貫通孔の内周との間に摩擦を低減するための摩擦低減材を介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の免震構造。
【請求項4】
前記突起部材と、前記突起部材に貫通される貫通孔とを、前記免震ゴムを取り囲むように複数設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の免震構造。
【請求項5】
前記突起部材は、前記貫通孔との間に隙間が生じるように前記貫通孔よりも小寸法に形成され、
前記非免震構造物側に取り付けられる場合には、前記突起部材の断面の中心位置が、前記貫通孔の断面の中心位置よりも前記免震ゴム側へ偏心して配置され、
前記免震対象物側に取り付けられる場合には、前記突起部材の断面の中心位置が、前記貫通孔の断面の中心位置よりも前記免震ゴムと反対側へ偏心して配置されることを特徴とする請求項4に記載の免震構造。
【請求項6】
前記突起部材は、前記貫通孔が形成されたフランジ板が、前記非免震構造物又は前記免震対象物から所定量だけ離間した場合に、当該フランジ板と当接する拡大部を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の免震構造。
【請求項7】
前記免震ゴムのフランジ板を前記非免震構造物又は前記免震対象物に向けて付勢する弾性体を設けたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の免震構造。
【請求項8】
前記突起部材は、内周側のボルトと外周側の座金とから構成され、前記ボルトは前記非免震構造物又は前記免震対象物に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の免震構造。
【請求項9】
前記座金は上下の部材に分割されていることを特徴とする請求項8に記載の免震構造。
【請求項10】
非免震構造物に免震ゴムを介して免震対象物を支持する免震方法であって、
前記免震ゴムの上下何れか一方のフランジ板に貫通孔を形成し、突起部材を前記非免震構造物側又は前記免震対象物側にこの貫通孔を貫通して取り付けることを特徴とする免震方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−321969(P2007−321969A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156454(P2006−156454)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】