免震構造物の固定装置、及び免震建物
【課題】作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる免震構造物の固定装置、及び免震建物を提供する。
【解決手段】シアピン34の下部材46は下部構造体14に設けられた下収容部52に収容され、シアピン34の上部材44は上部構造体12に設けられた上収容部50に収容されている。外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、免震構造物10に所定値S以下の残留変形が生じた場合、配置がずれた下収容部52と上収容部50とに対応した新たなシアピン34を上収容部50の開口から下収容部52へ挿入する。よって、作業性の悪い場所で下収容部52や上収容部50の位置調整作業を行わなくてよいので、シアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【解決手段】シアピン34の下部材46は下部構造体14に設けられた下収容部52に収容され、シアピン34の上部材44は上部構造体12に設けられた上収容部50に収容されている。外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、免震構造物10に所定値S以下の残留変形が生じた場合、配置がずれた下収容部52と上収容部50とに対応した新たなシアピン34を上収容部50の開口から下収容部52へ挿入する。よって、作業性の悪い場所で下収容部52や上収容部50の位置調整作業を行わなくてよいので、シアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度以下の風荷重を免震構造物が受けたときには、下部構造体と上部構造体との相対移動を拘束し、レベル1程度よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を免震構造物が受けたときには、この拘束を解いて下部構造体と上部構造体との間に設けられている免震装置を機能させる免震構造物の固定装置、及び免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造物は、地震時における上部構造体の揺れを長周期化して応答加速度を低減することにより免震効果を発揮する。免震構造物の免震層には、免震装置が設けられている。免震装置は、通常、上部構造体の長期荷重を支える支承材(例えば、積層ゴム支承、弾性すべり支承)、地震エネルギーを吸収する減衰材(例えば、鋼棒ダンパー、オイルダンパー、粘弾性ダンパー、粘性ダンパー)、及び上部構造体を元の水平位置に戻す復元材(例えば、積層ゴム支承)によって構成されている。
【0003】
さらに、免震構造物の免震層には、レベル1程度以下の風荷重等によって免震構造物に生じる揺れを抑え、また、この揺れを繰り返し受けることによる減衰材の疲労破壊を防ぐために、免震構造物の固定装置が設けられることが多い。
免震構造物の固定装置では、一般に、シアピンが用いられている。下部構造体と上部構造体との間に免震装置が設けられている免震構造物では、例えば、図16、図17(a)に示すように、上部構造体280側に固定された上ハウジング282のプレート300に設けられたシアピン挿入孔302、及び下部構造体284側に固定された下ハウジング286のプレート304に設けられたシアピン挿入孔306にシアピン308を挿入して、下部構造体284に上部構造体280を固定する。
【0004】
レベル1程度以下の風荷重を免震構造物が受けたときには、このようにして上部構造体280に発生する揺れを抑え、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を免震構造物が受けたときには、図17(b)に示すように、シアピン308の略中央部に形成された切欠き部310でシアピン308が破断して下部構造体284と上部構造体280との相対移動の拘束が解除される。そして、下部構造体284と上部構造体280との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
【0005】
ここで、免震構造物がレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を受けて、構造設計上の設計クライテリアとして認められている範囲内での残留変形が免震構造物に生じた場合、一般的には、下部構造体284に対して上部構造体280を初期の位置に戻すことは行わない。
よって、図17(c)に示すように、免震構造物の固定装置を再び使用するために新しいシアピン312を挿入しようとしても、シアピン挿入孔302とシアピン挿入孔306とがズレてしまっているので挿入することができない。
【0006】
この問題を解決するために、図18に示すような、特許文献1の耐風シアピン挿入装置314が提案されている。耐風シアピン挿入装置314では、基礎316側に下ハウジング318が固定され、上部建物320側に上ハウジング322が固定されている。
下ハウジング318には下ブッシュ324、上ハウジング322には上ブッシュ326が回転可能に設けられており、下ブッシュ324と上ブッシュ326の偏心した位置にシアピン挿入孔328、330がそれぞれ形成されている。
【0007】
上部建物320が水平方向に変位する前の図19(a)の状態では、シアピン挿入孔328、330の中心軸を一致させており、このシアピン挿入孔328、330にシアピン332を挿入して、基礎316に上部建物320を固定する。
そして、上部建物320が水平方向に変位してシアピン332が破断し、シアピン挿入孔328、330が図19(b)の状態になった場合には、図19(c)に示すように、下ブッシュ324と上ブッシュ326をそれぞれの所定角度だけ回動させてシアピン挿入孔328、330の中心軸を一致させ、新しいシアピン332を挿入する。
しかし、特許文献1の耐風シアピン挿入装置314では、上ハウジング322が設けられることによって狭くなった空間でシアピン挿入孔328、330の位置調整をそれぞれ行わなければならない。このような、狭い空間での作業性は悪く、シアピン挿入孔328、330の相対位置の目視による確認も難しい。よって、シアピン挿入孔328、330の微調整が非常に困難となる。
【特許文献1】特開2006−176956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は係る事実を考慮し、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる免震構造物の固定装置、及び免震建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、下部構造体と該下部構造体上に免震装置を介して支持された上部構造体との間に設けられ、外乱による前記下部構造体と前記上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置において、前記下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部と、前記上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部と、前記下収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の下部材と、前記上収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の上部材と、前記下部材と前記上部材とを連結するピン部材と、を有し、外乱によって前記下部構造体と前記上部構造体とが相対移動する前の初期状態で、前記下収容部の中心と前記上収容部の中心とが平面視にて一致するように前記下収容部と前記上収容部とが配置され、前記上収容部又は前記下収容部の半径は、前記下収容部又は前記上収容部の半径に所定値を加えた長さ以上であることを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明では、下部構造体上に免震装置を介して上部構造体が支持されている。そして、下部構造体と上部構造体との間には、外乱による下部構造体と上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置が設けられている。
【0011】
免震構造物の固定装置は、平面視にて円形の下部材、平面視にて円形の上部材、及び下部材と上部材とを連結するピン部材によって構成される部材(以降、シアピンと記載する)を有している。
このシアピンの下部材は下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部に着脱可能に収容され、上部材は上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部に着脱可能に収容されている。
【0012】
例えば、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱を免震構造物が受けてピン部材が破断すると、下部構造体と上部構造体との相対移動の拘束が解除され、下部構造体と上部構造体との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
【0013】
そして、この外乱による下部構造体と上部構造体との相対移動によって、免震構造物に所定値以下の残留変形が生じて下収容部と上収容部がずれた場合、まず、破断して分割されたシアピンの下部材と上部材を、下収容部又は上収容部から別々または一度に取り出す。
そして、配置がずれた下収容部と上収容部とに対応した(平面視における下部材と上部材との相対的な配置が、平面視における下収容部と上収容部との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピンを、上収容部又は下収容部の開口から、下収容部又は上収容部へ挿入することでシアピンの設置作業が完了する。
【0014】
ここで、シアピンが挿入される下収容部と上収容部は、外乱によって下部構造体と上部構造体とが相対移動する前の初期状態では、下収容部の中心と上収容部の中心とが平面視にて一致するように下収容部と上収容部とが配置されており、また、上収容部又は下収容部の大きい方の半径は、下収容部又は上収容部の小さい方の半径よりも所定値以上長くなっている。
よって、免震構造物に生じる残留変形が所定値以下であれば、外乱によって下部構造体と上部構造体とが相対移動した後においても、上収容部又は下収容部が、平面視にて下収容部又は上収容部を包含している。すなわち、上収容部又は下収容部の縁部が下収容部又は上収容部を塞がないので、シアピンを挿入するときに上収容部又は下収容部の縁部が邪魔にならない。
【0015】
また、シアピンを上収容部及び下収容部に挿入する狭い場所で、シアピンが挿入される下収容部及び上収容部の位置調整作業を行わなくてよい。そして、このシアピンの挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピンの製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所で、ずれた下収容部と上収容部とに挿入可能な形状のシアピンを形成する(鋳造等により下部材、ピン部材、及び上部材からなるシアピンを一体に製作する、又はシアピンの形状を調整する)ことが可能となる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記下収容部は、前記下部構造体に固定された取付け部材に形成され、前記上収容部は、前記上部構造体に固定された取付け部材に形成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明では、下部構造体に固定された取付け部材に下収容部が形成されている。また、上部構造体に固定された取付け部材に上収容部が形成されている。
よって、下部構造体に下収容部を容易に設けることができ、上部構造体に上収容部を容易に設けることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記ピン部材の下部は前記下部材の中心からずれた位置に連結され、前記ピン部材の上部は前記上部材の中心からずれた位置に連結され、前記ピン部材の下部中心から前記下部材の中心までの下部水平距離と前記ピン部材の上部中心から前記上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、前記下部水平距離と前記上部水平距離との合計が前記所定値以上であり、前記下部材と前記上部材とは前記ピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転可能であることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明では、下部材の中心からずれた位置にピン部材の下部が連結され、上部材の中心からずれた位置にピン部材の上部が連結されている。
そして、ピン部材が破断する前の状態において、ピン部材の下部中心から下部材の中心までの下部水平距離と、ピン部材の上部中心から上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、さらに、下部水平距離と上部水平距離との合計が所定値以上になっている。
また、ピン部材の中心軸を回転軸にして、下部材と上部材とが相対的に回転可能になっている。
【0020】
ここで、外乱を免震構造物が受けてピン部材が破断し、免震構造物に所定値以下の残留変形が生じて、下収容部の中心と上収容部の中心とが平面視にて一致した初期状態から、下収容部の中心と上収容部の中心とがずれた状態になった場合、下部水平距離と上部水平距離との合計が所定値以上になっているので、下部材と上部材とをピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材と上部材の配置を平面視における下収容部と上収容部の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた下収容部と上収容部とに挿入可能な形状のシアピンを形成することができる。
【0021】
また、平面視における下収容部と上収容部の配置にシアピン形状(平面視における上部材と下部材との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、このシアピンの挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピンの製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所で行うことが可能である。よって、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記下部材と前記下収容部との間、又は前記上部材と前記上収容部との間に隙間が形成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項4に記載の発明では、免震構造物に発生する微振動による微小変位は、下部材と下収容部との間、又は上部材と上収容部との間に形成された隙間によって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材に伝達されない。よって、ピン部材の疲労破壊を防ぐことができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記ピン部材の上部又は下部は、前記上部材又は前記下部材に形成された孔又は凹部に挿入されることによって前記上部材又は前記下部材に連結され、前記ピン部材の上部と前記上部材に形成された孔又は凹部との間、又は前記ピン部材の下部と前記下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されていることを特徴としている。
【0025】
請求項5に記載の発明では、上部材又は下部材に孔又は凹部が形成されている。そして、ピン部材の上部又は下部は、上部材又は下部材に形成された孔又は凹部に挿入されて上部材又は下部材に連結されている。
また、ピン部材の上部と上部材に形成された孔又は凹部との間、又はピン部材の下部と下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されている。
【0026】
よって、免震構造物に発生する微振動による微小変位は、ピン部材の上部と上部材に形成された孔又は凹部との間、又はピン部材の下部と下部材に形成された孔又は凹部との間に形成された隙間によって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材に伝達されない。よって、ピン部材の疲労破壊を防ぐことができる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、前記ピン部材に切欠き部が形成されていることを特徴としている。
【0028】
請求項6に記載の発明では、外乱によって所定の荷重(例えば、レベル1程度の風荷重よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重)がピン部材に作用したときに、シアピンはこのピン部材に形成された切欠き部で破断する。
よって、シアピンの破断する位置を特定できる。また、切欠き部の深さを調整することによって破断する荷重を制御することができる。
【0029】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することを特徴としている。
【0030】
請求項7に記載の発明では、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することにより、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる免震建物を提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は上記構成としたので、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図面を参照しながら、本発明の免震構造物の固定装置、及び免震建物を説明する。なお、以降の説明において、再現期間50年の風荷重とは、50年間に少なくとも1回は発生する可能性がある風荷重の最大値のことであり、再現期間50年の中小規模の地震荷重とは、50年間に少なくとも1回は発生する可能性がある中小規模の地震荷重の最大値のことである。そして、この定義は日本建築学会の建築物荷重指針・同解説で定められている。
【0033】
まず、本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物について説明する。
【0034】
図1に示すように、免震建物としてのRC造の超高層建物10の本体となる上部構造体12と、基礎となる下部構造体14との間の基礎層Gを免震層としている。
基礎層Gには、免震装置と免震構造物の固定装置とが設けられている。免震装置は、上部構造体12の長期荷重を支える支承材、地震エネルギーを吸収する減衰材、及び上部構造物12を元の水平位置に戻す復元材によって構成されている。すなわち、下部構造体14上に免震装置を介して上部構造体12が支持され、下部構造体14と上部構造体12との間の基礎層Gに、外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置が設けられている。
支承材、減衰材、復元材、及び固定装置の設置する数及び配置は、建物の規模(平面規模、建物高さ)や目標とする免震性能に応じて適宜決めればよい。
【0035】
図2、図2のA−A断面である図3、及び図2のB−B断面である図4に示すように、免震構造物の固定装置16では、上部構造物12の下面から突出した上固定部18に角筒状の上ハウジング20がアンカーボルト22によって固定され、下部構造体14の上面から突出した下固定部24に角筒状の下ハウジング26がアンカーボルト28によって固定されている。
上ハウジング20と下ハウジング26には、後に説明するシアピン34の出し入れのための開口部30、32が形成されている。また、上ハウジング20と下ハウジング26の外周に沿って取り付けられたリブプレート36、38によって十分な強度が確保されている。また、上ハウジング20の下部には取付け部材としての上プレート40が設けられ、下ハウジング26の上部には取付け部材としての下プレート42が設けられている。
【0036】
図5(a)の側断面図に示すように、免震構造物の固定装置16は、円板状の下部材46、円板状の上部材44、及び下部材46と上部材44とを連結する円柱状のピン部材48によって構成されるシアピン34を有している。下部材46は、シアピン34の下方から平面視したときに円形状になっており、上部材44は、シアピン34の上方から平面視したときに円形状になっている。
上プレート40には上収容部としての平面視にて円形の貫通孔50が略鉛直に形成され、下プレート42には下収容部としての平面視にて円形の貫通孔52が略鉛直に形成されている。すなわち、下部構造体14に固定された取付け部材としての下プレート42に下収容部としての貫通孔52が形成され、また、上部構造体12に固定された取付け部材としての上プレート40に上収容部としての貫通孔50が形成されている。
【0037】
このように、上下ハウジング20、26に設けられた上下プレート40、42に貫通孔50、52を形成することによって、下部構造体14に下収容部としての貫通孔52を容易に設けることができ、上部構造体12に上収容部としての貫通孔50を容易に設けることができる。
【0038】
そして、シアピン34の下部材46を貫通孔52に着脱可能に挿入し、シアピン34の上部材44を貫通孔50に着脱可能に挿入した図5(b)の状態で、外乱による下プレート42と上プレート40との相対移動が拘束される。すなわち、シアピン34の下部材46が下部構造体14に設けられた下収容部としての貫通孔52に着脱可能に収容され、シアピン34の上部材44が上部構造体12に設けられた上収容部としての貫通孔50に着脱可能に収容された状態で、外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動が拘束される。
【0039】
このとき、シアピン34は、上部材44の上面に形成された鍔部54が貫通孔50の上部周縁に形成された凹部56に引っ掛かった状態で保持されている。シアピン34は、凹部56上方の複数位置に設けられた固定金具58によって上プレート40に固定されている。固定金具58には、貫通した雌ネジと貫通孔とが形成されている(不図示)。この固定金具58の貫通孔に貫通させたボルト60を上プレート40に形成された雌ネジ62にねじ込む。さらに、ボルト64を固定金具58の貫通した雌ネジにねじ込んで固定金具58から下方へ突出させる。そして、ボルト64の先端部を上部材44の上面に押し付けることによって、上プレート40にシアピン34を固定する。
【0040】
貫通孔50の大きさは、シアピン34の上部材44の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔50と上部材44との間に隙間を有さないようになっている。また、貫通孔52の大きさは、シアピン34の下部材46の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔52と下部材46との間に隙間を有さないようになっている。
【0041】
ここで、シアピン34が挿入される下収容部としての貫通孔52と上収容部としての貫通孔50は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態(図5(a)の状態)では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されており、また、貫通孔52より大きい貫通孔50の半径は、貫通孔50より小さい貫通孔52の半径よりも所定値以上長くなっている。すなわち、貫通孔50の半径をR1、貫通孔52の半径をR2、所定値をSとすると、R1≧R2+Sの条件が満たされていればよい。
【0042】
図6に示すように、シアピン34は、下部材46、上部材44、及びピン部材48によって構成されている。
図6(a)に示すように、下部材46と上部材44とはピン部材48によって連結されている。また、ピン部材48の鉛直方向の略中央部には、周方向に沿って切欠き部68が形成され、所定のせん断力を受けたときに、この切欠き部68が形成された位置で破断するようになっている。また、切欠き部68の上下には、周方向に沿って突出する鍔部70、72が設けられている。
【0043】
ピン部材48の材料は剛性を有するものであればよく、高い剛性を有するものが好ましい。例えば、SNCM439、SCM440等の高張力鋼は所定の破断強度を実現するための断面が小さい材料なので軽量化が図れる。よって、ピン部材48の材料として適している。
【0044】
下部材46の中心からずれた位置には貫通孔66が形成され、この貫通孔66にピン部材48の下部を挿入することによって下部材46にピン部材48の下部が連結される。ピン部材48の下部中心には雌ネジ74が形成されている。そして、ピン部材48の下部を貫通孔66に挿入した状態で、下部材46を鍔部70と円盤状の固定部材76とで挟み込み、固定部材76に形成された貫通孔に固定部材76の下方からボルト78を挿入して雌ネジ74にねじ込む。これによって、ピン部材48を下部材46に固定する。
【0045】
上部材44の中心からずれた位置には貫通孔80が形成され、この貫通孔80にピン部材48の上部を挿入することによって上部材44にピン部材48の上部が連結される。ピン部材48の上部中心には雌ネジ82が形成されている。そして、ピン部材48の上部を貫通孔80に挿入した状態で、上部材44を鍔部72と円盤状の固定部材84とで挟み込み、固定部材84に形成された貫通孔に固定部材84の上方からアイボルト86を挿入して雌ネジ82にねじ込む。これによって、ピン部材48を上部材44に固定する。
【0046】
このようにして、下部材46、ピン部材48、及び上部材44が一体化されて、図6(b)に示すシアピン34を形成する。また、このとき、ピン部材48の下部中心から下部材46の中心までの下部水平距離L2(図5(b)を参照のこと)と、ピン部材48の上部中心から上部材44の中心までの上部水平距離L1(図5(b)を参照のこと)とは等しく、さらに、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっている。
【0047】
また、図6(b)に示すように、ピン部材48の中心軸88を回転軸にして、下部材46と上部材44とを相対的に回転(矢印M1とN2、又は矢印M2とN1)させることにより、シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を変更することができる。
【0048】
シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を変更する具体的な方法の一例は、図7(a)に示すように、まず、シアピン48の下部を貫通孔66に挿入し、シアピン48の上部を貫通孔80に挿入した状態で、シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を調整する。
【0049】
次に、図7(a)において変更したシアピン34の形状を維持しながら、固定部材76を介して固定部材76の下方からボルト78をピン部材48の雌ネジ74にねじ込んで下部材46にピン部材48の下部を固定する。
【0050】
次に、図7(a)において変更したシアピン34の形状を維持しながら、固定部材84を介して固定部材84の上方からアイボルト86をピン部材48の雌ネジ82にねじ込んで上部材44にピン部材48の上部を固定する。
【0051】
固定部材76、84は、円筒状の部材の一方の端部に弾性を有する円板を設け、この円板に貫通孔を形成したものなので、図7(b)で、ボルト78又はアイボルト86を締め込んだときに、ピン部材48の下端面と下部材46の下端面、又はピン部材48の上端面と上部材44の上端面とが面一になっていなくても、下部材46又は上部材44を固定部材76又は固定部材84でしっかりと挟み込むことができる。
【0052】
ここでは、シアピン34の形状を調整した後に、ピン部材48を下部材46及び上部材44に固定する例を示したが、これに限らずに、例えば、ピン部材48を下部材46及び上部材44のどちらか一方に固定しておき、他方の上部材44又は下部材46を回転させてシアピン34の形状を調整した後に、この上部材44又は下部材46にピン部材48を固定してもよい。
【0053】
下部材46及び上部材44は、ピン部材48と同等以上の強度・硬度を有する材料を用いることが好ましい。これは、ピン部材48に大きなせん断力がかかり、この力を受けた下部材46及び上部材44が支圧によって破壊されないようにするためである。
【0054】
次に、本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物の作用及び効果について説明する。
【0055】
まず、図1に示す超高層建物10に、例えば、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度以下の風荷重が作用したときには、図5(a)に示す初期状態の配置となっている貫通孔52、50に挿入されたシアピン34によって、下部構造体14と上部構造体12との相対移動が拘束される。
【0056】
次に、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱がこの超高層建物10に作用し、ピン部材48が切欠き部68で破断すると、下部構造体14と上部構造体12との相対移動の拘束が解除され、下部構造体14と上部構造体12との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
このように、シアピン34はピン部材48に形成された切欠き部68で破断するので、シアピン34の破断する位置を特定でき、また、切欠き部68の深さを調整することによって破断する荷重を制御することができる。
【0057】
次に、この外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて貫通孔52と貫通孔50とがずれた場合、まず、破断して分割されたシアピン34の下部材46と上部材44を、貫通孔52又は貫通孔50から取り出す。下部材46と上部材44は、別々に取り出してもよいが、例えば、下部材46と上部材44をボルト等で仮固定して一体化し、一度に取り出すようにすれば作業効率が上がるので好ましい。
【0058】
次に、配置がずれた貫通孔52と貫通孔50とに対応した(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置が、平面視における貫通孔52と貫通孔50との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピン34を、貫通孔50の開口から貫通孔52へ挿入することで新たなシアピン34の設置作業が完了する。
【0059】
ここで、シアピン34が挿入される貫通孔52と貫通孔50は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されている。また、貫通孔50、52において、半径が大きい方の貫通孔50の半径R1は、半径が小さい方の貫通孔52の半径R2よりも所定値S以上長くなっている(R1≧R2+S)。
【0060】
よって、図8(a)〜(c)左側の側断面図、及び図8(a)〜(c)右側の平面図に示すように、超高層建物10に生じた残留変形T(上プレート40と下プレート42との相対移動量)が所定値S以下であれば、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動した後においても、貫通孔50が、平面視にて貫通孔52を包含している。すなわち、上プレート40(貫通孔50の縁部)が貫通孔52を塞がないので、シアピン34を挿入するときに上プレート40(貫通孔50の縁部)が邪魔にならない。
【0061】
また、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する狭い場所で、シアピン34が挿入される貫通孔50、52の位置調整作業を行わなくてよい。よって、作業性の悪い場所でのシアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【0062】
外乱を超高層建物10が受けてピン部材48が破断し、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致した初期状態から、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とがずれた状態になった場合、図9、10に示す方法によって、ずれた貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状のシアピン34を形成する。
なお、説明をわかり易くする為に、図9、10においては、ピン部材48の径の大きさに対する、残留変形T、上部水平距離L1、下部水平距離L2、貫通孔50の半径R1、貫通孔52の半径R2の大きさは、図5で示したものよりも大きく描かれている。
【0063】
図9(a)の平面図は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態における、貫通孔52と貫通孔50の配置を示している。このように、初期状態では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されている。
【0064】
このとき、実際には、貫通孔52と貫通孔50とにシアピン34が挿入されるが、説明の都合上、図9には、シアピン34のピン部材48の位置のみが示されている。図9(a)に示した点P1は、貫通孔52の中心I1又は貫通孔50の中心I2と、シアピン34を貫通孔52、50に挿入したときのピン部材48の下部中心J1又は上部中心J2とを結んで延ばした直線が貫通孔52の周縁部と交わる点である。
【0065】
ここで、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱が超高層建物10に作用し、これによりピン部材48が破断して下部構造体14と上部構造体12との相対移動の拘束が解除されて、超高層建物10に所定値S以下の残留変形Tが生じた場合、平面視における貫通孔52、50の配置は、貫通孔52の中心I1と貫通孔50の中心I2とがずれた図9(b)の状態になる。
【0066】
この図9(b)の状態において、まずは、貫通孔50、52のそれぞれの中心I2、I1から上部水平距離L1(又は下部水平距離L2)を半径とした円Q2、Q1を描く。
次に、この円Q2、Q1の交点をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とする。交点の数は1つか2つになるので、交点の数が2つの場合はどちらか一方をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とすればよい。図9(c)は、図9(b)において求められた2つの交点K1、K2のうち交点K2をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とした例を示したものである。
【0067】
次に、図7で示した方法を用いて、図9(c)の貫通孔50と貫通孔52の配置に合わせた形状にシアピン34の形状を調整する。すなわち、平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置が、平面視における貫通孔52と貫通孔50との相対的な配置と同じにする。
【0068】
このとき、図6に示すように、ピン部材48の中心軸88を回転軸にして、下部材46と上部材44とを相対的に回転させる角度の調整は、図10に示すように行えばよい。
まず、シアピン34を、貫通孔52の中心I1と貫通孔50の中心I2とが平面視にて一致するように配置された初期状態の貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状にする。すなわち、下部材46の中心V1とピン部材48の下部中心J1とを結んだ直線が、上部材44の中心V2とピン部材48の上部中心J2とを結んだ直線に平面視にて一致するように、ピン部材48に対して下部材46と上部材44とを配置する。
【0069】
次に、図10に示すように、ピン部材48の下部中心J1と下部材46の中心V1とを結んだ直線と、ピン部材48の上部中心J2と上部材44の中心V2とを結んだ直線との間の角度θ3が、図9(c)で求めたピン部材48の下部中心J1と貫通孔52の中心I1とを結んだ直線と、図9(c)で求めたピン部材48の上部中心J2と貫通孔50の中心I2とを結んだ直線との間の角度θ1と等しくなるように、上部材44及び下部材46の少なくとも一方をピン部材48の中心軸88(ピン部材48の下部中心J1、及びピン部材48の上部中心J2)を回転軸にして相対的に回転させる。そして、この状態で、下部材46と上部材44とをピン部材48に固定する。
【0070】
次に、図10に示すように、ピン部材48の下部中心J1と下部材46の中心V1とを結んだ直線に対して、下部材46の中心V1と下部材46の外周縁上の点P2とを結んだ直線が成す角度θ4が、図9(c)で求めたピン部材48の下部中心J1と貫通孔52の中心I1とを結んだ直線に対して、貫通孔52の中心I1と点P1とを結んだ直線が成す角度θ2に等しくなるように点P2の位置を決める。
次に、図9(c)の貫通孔52の周縁部上の点P1と、図10の下部材46の外周縁上の点P2とが一致するように、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する。
なお、点P2の位置は、図9で説明したように作図により正確に求めてもよいが、シアピン34を貫通孔50、52に挿入するときに、シアピン34を回しながら目視でシアピン34の位置調整を行ってもよい。
【0071】
このように、シアピン34では、上部水平距離L1と下部水平距離L2との合計が所定値S以上になっているので、残留変形Tが所定値S以下であれば円Q1と円Q2の交点(=下部材46に形成された貫通孔66の中心と上部材44に形成された貫通孔80の中心とが平面視にて一致する位置)を必ず求めることができる。
そして、図10の方法によって、下部材46と上部材44とをピン部材48の中心軸88(ピン部材48の下部中心J1、ピン部材48の上部中心J2)を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材46と上部材44の配置を平面視における貫通孔52と貫通孔50の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状のシアピン34を形成することができる。
具体的に数字で示すと、例えば、所定値Sを±5cmとする場合には、上部水平距離L1と下部水平距離L2とは等しいので、上部水平距離L1と下部水平距離L2とを共に2.5cmとすればよい。
【0072】
また、このような、平面視における貫通孔52と貫通孔50の配置にシアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する狭い場所以外で行うことが可能である。例えば、シアピン34の挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピン34の製作工場等の作業性が良く、下部材46と上部材44の相対位置が目視にて確認し易い場所でシアピン形状調整作業を行うことができる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【0073】
第1の実施形態では、下部材46及び上部材44に形成された貫通孔66、80にピン部材48を挿入して、ピン部材48により下部材46と上部材44とを連結した例を示したが、ピン部材48による下部材46と上部材44との連結方法は、ピン部材48の中心軸を回転軸にして下部材46と上部材44とが相対的に回転可能な連結方法であればよい。
【0074】
例えば、図11のシアピン90に示すように、下部材46にピン部材48を固定し、ピン部材48に対して下部材46が回転しないようにしてもよい。この場合は、下部材46とピン部材48とで偏心ピンを形成していることになる。また、これとは逆に、上部材44にピン部材48を固定し、ピン部材48に対して上部材44が回転しないようにしてもよい。
【0075】
また、図12に示すシアピン92のように、下部材46の上面に円筒部材94を設け、上部材44の下面に円筒部材96を設ける。そして、円柱状のピン部材98の下部を円筒部材94の挿入孔100に挿入し、ピン部材98の上部を円筒部材96の挿入孔102に挿入して、ピン部材98により下部材46と上部材44とを連結してもよい。
【0076】
この場合、円筒部材94、96の側面に、芋ネジ104をねじ込む貫通した雌ネジを形成しておき、芋ネジ104を円筒部材94、96の内壁から突出させるようにねじ込んで、この芋ネジ104の先端部をピン部材98の側面に押し付けるようにすれば、ピン部材98を円筒部材94、96に固定することができる。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物について説明する。
【0078】
第2の実施形態は、第1の実施形態のシアピン34の下部材46を上部材44よりも大きくしたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0079】
図13(a)の側断面図に示すように、第2の実施形態の免震構造物の固定装置106は、円板状の下部材108、円板状の上部材110、及び下部材108と上部材110とを連結する円柱状のピン部材112によって構成されるシアピン114を有している。下部材108は、シアピン114の下方から平面視したときに円形状になっており、上部材110は、シアピン114の上方から平面視したときに円形状になっている。
ピン部材112、下部材108、及び上部材110の材料は、第1の実施形態で示したピン部材48、下部材46、及び上部材44の材料と同様である。
【0080】
上プレート40には上収容部としての平面視にて円形の貫通孔116が略鉛直に形成され、下プレート42には下収容部としての平面視にて円形の貫通孔118が略鉛直に形成されている。
そして、シアピン114の上部材110を貫通孔116に着脱可能に挿入し、シアピン114の下部材108を貫通孔118に着脱可能に挿入した図13(b)の状態で、外乱による下プレート42と上プレート40との相対移動が拘束される。
【0081】
このとき、貫通孔116周囲の複数箇所にはボルト120が設けられており、ボルト120をねじ込むことによって貫通孔116の周壁からボルト120の先端部を突出させ、このボルト120の先端部を上部材110の側壁に押し付けることにより上プレート40に上部材110を固定している。
また、ボルト122により下プレート42の下面に複数取り付けられた受け金具124に下部材108が支持されることによって、シアピン114は貫通孔116、118内に保持されている。
【0082】
貫通孔116の大きさは、シアピン114の上部材110の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔116と上部材110との間に隙間を有さないようになっている。また、貫通孔118の大きさは、シアピン114の下部材108の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔118と下部材108との間に隙間を有さないようになっている。
【0083】
ここで、シアピン114が挿入される下収容部としての貫通孔118と上収容部としての貫通孔116は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態(図13(a)の状態)では、貫通孔118の中心と貫通孔116の中心とが平面視にて一致するように貫通孔118と貫通孔116とが配置されており、また、貫通孔116より大きい貫通孔118の半径R2は、貫通孔118より小さい貫通孔116の半径R1よりも所定値S以上長くなっている(R2≧R1+S)。
【0084】
下部材108の中心からずれた位置には貫通孔66が形成され、この貫通孔66にピン部材112の下部を挿入することによって下部材108にピン部材112の下部が連結される。また、上部材110の中心からずれた位置には貫通孔80が形成され、この貫通孔80にピン部材112の上部を挿入することによって上部材110にピン部材112の上部が連結される。
【0085】
そして、ボルト78、86、及び固定部材76、84によって、下部材108、ピン部材112、及び上部材110が一体化されて、図13(a)に示すようなシアピン114を形成する。また、このとき、ピン部材112の下部中心から下部材108の中心までの下部水平距離L2と、ピン部材112の上部中心から上部材110の中心までの上部水平距離L1とは等しく(L1=L2)、さらに、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっている(L1+L2≧S)。
また、ピン部材112の中心軸を回転軸にして、下部材108と上部材110とを相対的に回転させることにより、シアピン114の形状(平面視における下部材108と上部材110との相対的な配置)を変更することができる。
【0086】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物の作用及び効果について説明する。
【0087】
第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
図13に示すように、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱がこの超高層建物10に作用してピン部材112が破断し、この外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて貫通孔118と貫通孔116とがずれた場合、まず、破断して分割されたシアピン114の下部材108と上部材110を、貫通孔118又は貫通孔116から取り除く。下部材108と上部材110は、別々に取り出してもよいが、例えば、下部材108と上部材110をボルト等で仮固定して一体化し、一度に取り出すようにすれば作業効率が上がるので好ましい。
【0088】
次に、配置がずれた貫通孔118と貫通孔116とに対応した(平面視における下部材108と上部材110との相対的な配置が、平面視における貫通孔118と貫通孔116との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピン114を、貫通孔118の開口から貫通孔116へ挿入することで新たなシアピン114の設置作業が完了する。
ここで、シアピン114が挿入される貫通孔118と貫通孔116は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態では、貫通孔118の中心と貫通孔116の中心とが平面視にて一致するように貫通孔118と貫通孔116とが配置されている。また、貫通孔118、116において、半径が大きい方の貫通孔118の半径R2は、半径が小さい方の貫通孔116の半径R1よりも所定値S以上長くなっている(R2≧R1+S)。
【0089】
よって、超高層建物10に生じる残留変形が所定値S以下であれば、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動した後においても、貫通孔118が平面視にて貫通孔116を包含している。すなわち、シアピン114を挿入するときに下プレート42(貫通孔118の縁部)が貫通孔116を塞がないので、下プレート42(貫通孔118の縁部)が邪魔にならない。
【0090】
また、シアピン114を貫通孔118、116に挿入する狭い場所で、シアピン114が挿入される貫通孔118、116の位置調整作業を行わなくてよい。よって、作業性の悪い場所でのシアピン114設置作業の手間を低減することができる。
【0091】
また、シアピン114では、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっているので、残留変形が所定値S以下であれば下部材108に形成された貫通孔66の中心と上部材110に形成された貫通孔80の中心とが平面視にて一致する位置を必ず求めることができる。
【0092】
そして、下部材108と上部材110とをピン部材112の中心軸を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材108と上部材110の配置を平面視における貫通孔118と貫通孔116の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた貫通孔116と貫通孔118とに挿入可能な形状のシアピン114を形成することができる。
【0093】
また、このような、平面視における貫通孔116と貫通孔118の配置にシアピン114の形状(平面視における上部材110と下部材108との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、シアピン114を貫通孔118、116に挿入する狭い場所以外で行うことが可能である。例えば、シアピン114の挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピン114の製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所でシアピン形状調整作業を行うことができる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン114の設置作業の手間を低減することができる。
【0094】
次に、本発明の第3の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物とその作用及び効果について説明する。
【0095】
第3の実施形態は、第1の実施形態のシアピン34の下部材46と貫通孔52との間に隙間を形成したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0096】
図14の側断面図に示すように、第3の実施形態の免震構造物の固定装置126では、下部材46の外周に沿って、下部材46と下収容部としての貫通孔52との間に隙間Uが形成されている。
これにより、超高層建物10に発生する微振動による微小変位は隙間Uによって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材48に伝達されない。よって、ピン部材48の疲労破壊を防ぐことができる。
【0097】
第3の実施形態では、下部材46と下収容部としての貫通孔52との間に隙間Uを形成した例を示したが、上部材44と上収容部としての貫通孔50との間に隙間Uを形成してもよい。
また、第3の実施形態を第2の実施形態の固定装置106に適用してもよい。すなわち、下部材108と貫通孔118との間、又は上部材110と貫通孔116との間に隙間Uを形成してもよい。
【0098】
次に、本発明の第4の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物とその作用及び効果について説明する。
【0099】
第4の実施形態は、第1の実施形態のピン部材48の下部と下部材46との間に隙間を形成したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0100】
図15(a)の側断面図に示すように、第4の実施形態の免震構造物の固定装置128では、シアピン134のピン部材132の下部外周に沿って、ピン部材132の下部と下部材46との間に隙間Wが形成されている。
また、免震構造物の固定装置128を下プレート42の下方から見た図15(b)の平面図に示すように、微小変位を許容し、シアピン134を設置するときの隙間保持具として機能する弾性体130を隙間Wに複数設けて、弾性体130とピン部材132の下部、及び弾性体130と下部材46とを接合し、ピン部材132の下部を下部材46に連結している。
【0101】
これにより、超高層建物10に発生する微振動による微小変位は隙間Wによって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材132に伝達されない。よって、ピン部材132の疲労破壊を防ぐことができる。
【0102】
第4の実施形態では、ピン部材132の下部と下部材46との間に隙間Wを形成した例を示したが、ピン部材132の上部と上部材44との間に隙間Wを形成してもよい。
また、第4の実施形態を第2の実施形態の固定装置106に適用してもよい。すなわち、下部材108とピン部材112との間、又は上部材110とピン部材112との間に隙間Wを形成してもよい。
また、隙間Wに弾性体130を設けた例を示したが、微振動による微小変位を許容する領域をピン部材132の周囲に確保してピン部材132を下部材46に連結する方法であればよい。
これらの連結方法で、ピン部材132に下部材46が鉛直方向に十分に支持されない場合には、上部材44のように、下部材46の上面に鍔部を形成して貫通孔52の上部周縁に形成した凹部にこの鍔部を引っ掛けて下部材46を貫通孔52に保持するようにすればよい。
さらに、弾性体130はシアピン134を設置した後に取り外してもよいし、弾性体130の替わりに隙間Wの全領域に粘弾性体を設けて、この粘弾性体を微小領域における減衰材として機能させてもよい。
【0103】
なお、第1〜第4の実施形態では、ハウジング20の下端部に取り付けられた上プレート40、及びハウジング26の上端部に取り付けられた下プレート42を取付け部材としたが、下部構造体14に固定された取付け部材に下収容部(貫通孔52、118)が形成されており、また、上部構造体12に固定された取付け部材に上収容部(貫通孔50、116)が形成されていればよい。
第1〜第4の実施形態で示した、上部材44、110、下部材46、108、及びピン部材48、112、132の大きさは、所定値Sを考慮に入れた上で、材料強度、厚さ、及び太さ等に応じて適宜決めればよい。シアピンをコンパクトにすれば、挿入作業が容易になるので好ましい。
【0104】
また、第1〜第4の実施形態では、上ハウジング20及び下ハウジング26を角筒とした例を示したが、これに限らずに、他の断面形状の筒体を用いてもよいし、中空でない部材を用いて、内部に空間を形成させてもよい。
例えば、鉄の塊、コンクリートの塊、及び鉄板等に下収容部(貫通孔52、118)又は上収容部(貫通孔50、116)を形成し、これらの鉄の塊、コンクリートの塊、及び鉄板等を下部構造体14の上面や上部構造体12の下面に固定してもよい。
また、下収容部(貫通孔52、118)又は上収容部(貫通孔50、116)は、ハウジング等の取付け部材を用いずに下部構造体14や上部構造体12に直接形成してもよい。
【0105】
また、第1〜第4の実施形態では、下部材46、108の貫通孔66、及び上部材44、110の貫通孔80にピン部材48、112、132を挿入して連結した例を示したが、ピン部材48、112、132の中心軸を回転軸にして、下部材46、108と上部材44、110とが相対的に回転することができる連結方法であればよい。また、貫通孔66、80は、凹部としてもよい。
また、第1〜第4の実施形態で示したピン部材48、112、132の切り欠き部68はなくてもよい。
【0106】
また、第1の実施形態で示した下部材46、ピン部材48、及び上部材44を鋳造等により一体化したシアピンとしてもよいし、第2の実施形態で示した下部材108、ピン部材112、及び上部材110を鋳造等により一体化したシアピンとしてもよい。
また、第1〜第4の実施形態では、下収容部を平面視にて円形の貫通孔52、118とし、上収容部を平面視にて円形の貫通孔50、116としたが、シアピン34、114、134の挿入側でない下収容部又は上収容部は、貫通していない平面視にて円形の凹部としてもよい。
【0107】
また、第1〜第4の実施形態で示した所定値Sは、免震装置の性能、免震構造物の規模、シアピンの大きさ等を考慮して適宜決めればよい。例えば、第1、第2の実施形態で示した免震構造物の固定装置16、106を一般の建物に用いる場合には、建物の許容残留変形の値(レベル1程度よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を受けたときに発生する建物の残留変形の予測最大値)とするのが好ましい。
この場合、第3、第4の実施形態における隙間U、Wの水平距離は、下部材46が貫通孔52に当たるまで(図14を参照のこと)又はピン部材132が貫通孔66に当たるまで(図15を参照のこと)の建物の変形量となり、所定値S(建物の許容残留変形の値)の一部となる。
【0108】
また、第1〜4の実施形態では、免震層を基礎層Gとし、この基礎層Gに免震構造物の固定装置16、106、126、128を設けた例を示したが、免震層を建物の中間層とし、この中間層に免震構造物の固定装置16、106、126、128を設けてもよい。
【0109】
また、第1の実施形態で示したボルト64による上部材44の固定や、第2の実施形態で示したボルト120による上部材110の固定は行わなくてもよい。第3、第4の実施形態のように、隙間U、Wを有する場合には、上部材44、110が動いてしまうと隙間U、Wの大きさが変わってしまうので、第1、第2の実施形態のように、ボルト64、120によって上部材44、110を固定するのが好ましい。
【0110】
また、第1〜第4の実施形態で示したシアピン34、114、134のピン部材48、112、132が破断した後、新たなシアピン34、114、134を挿入するときに、新たなシアピン34、114、134を製作してもよいし、上部材44、110や下部材46、108が損傷又は破壊等していなければ、それらの部材は再度使用してもよい。
【0111】
また、第1の実施形態で説明したように、免震建物に生じた残留変形(上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置)がわかれば、一意にシアピン34の形状が決まるので、下げ振りなどを免震構造物の固定装置16、106、126、128に設置しておき、上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置の計測を行うとよい。
また、いちいち図9で示したような作図をその都度行わなくても、上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置に応じた上部材とピン部材と下部材の位置関係を図表にしておけばよい。
【0112】
また、第1〜4の実施形態では、免震構造物の固定装置16、106、126、128をRC造の超高層建物10に適用した例を示したが、さまざまな構造や規模の新築及び改修建物への適用が可能である。
【0113】
これまで述べたように、第1〜第4の実施形態で示した本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128は、シアピン34、114、134を挿入する場所(作業性の悪い場所)でのシアピン34、114、134の設置作業の手間を低減することができるものである。
そして、免震建物が、本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128を有することにより、シアピン34、114、134を挿入する場所(作業性の悪い場所)でのシアピン34、114、134の設置作業の手間を低減することが可能な免震建物を提供することができる。
【0114】
例えば、引用文献1の耐風シアピン挿入装置314のような固定装置では、下部材(下ブッシュ324)、ピン部材(シアピン332)、及び上部材(上ブッシュ326)を別々の部材とし、ピン部材を挿入する孔の位置調整を行った後にピン部材を挿入するので、固定装置が設置されることによって狭く、かつ暗くなった作業性の悪い場所でピン部材挿入以外の作業も行わなければならない。よって、シアピン設置の作業が煩雑になる。
【0115】
これに対して、本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128では、シアピン34、114、134を構成する下部材46、108、ピン部材48、112、132、及び上部材44、110が一体となっている。そして、下部構造体14と上部構造体12の相対移動によってずれた下収容部(貫通孔52、118)と上収容部(貫通孔50、116)の配置に合わせた形状のシアピン34、114、134を下収容部(貫通孔52、118)及び上収容部(貫通孔50、116)に挿入することで、引用文献1の耐風シアピン挿入装置314のような固定装置では必要とされる、シアピン挿入場所で行うシアピン挿入孔の位置調整作業を省くことができる。
【0116】
本発明のシアピン34、114、134は、鋳造等により一体に形成されたものでもよいが、第1〜第4の実施形態で示したような、形状を変更できるシアピン34、114、134を用いる場合においても、ずれた下収容部(貫通孔52、118)と上収容部(貫通孔50、116)の配置にシアピン34、114、134の形状を合わせるシアピン形状調整作業をシアピン34、114、134の挿入場所以外の場所(例えば、シアピンの挿入場所近く、現場の屋外ヤード、又はシアピン製作工場等)で行うことができるので、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0117】
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第4の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る免震建物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るシアピンを示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの上下部材とピン部材との連結方法を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る下収容部と上収容部の配置を示す説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るシアピン形状の調整方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るシアピン形状の調整方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの変形例を示す斜視図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図及び平面図である。
【図16】従来の免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図17】従来の免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図18】従来の耐風シアピン挿入装置を示す説明図である。
【図19】従来の耐風シアピン挿入装置におけるシアピン挿入孔の位置調整方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0119】
10 超高層建物(免震構造物、免震建物)
12 上部構造体
14 下部構造体
16、106、126、128 免震構造物の固定装置
40 上プレート(取付け部材)
42 下プレート(取付け部材)
44、110 上部材
46、108 下部材
48、98、112、132 ピン部材
50 貫通孔(上収容部)
52 貫通孔(下収容部)
68 切欠き部
88 中心軸
I1:下収容部の中心
I2:上収容部の中心
J1:ピン部材の下部中心
J2:ピン部材の上部中心
L1:上部水平距離
L2:下部水平距離
R1:上収容部の半径
R2:下収容部の半径
S:所定値
U、W:隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度以下の風荷重を免震構造物が受けたときには、下部構造体と上部構造体との相対移動を拘束し、レベル1程度よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を免震構造物が受けたときには、この拘束を解いて下部構造体と上部構造体との間に設けられている免震装置を機能させる免震構造物の固定装置、及び免震建物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震構造物は、地震時における上部構造体の揺れを長周期化して応答加速度を低減することにより免震効果を発揮する。免震構造物の免震層には、免震装置が設けられている。免震装置は、通常、上部構造体の長期荷重を支える支承材(例えば、積層ゴム支承、弾性すべり支承)、地震エネルギーを吸収する減衰材(例えば、鋼棒ダンパー、オイルダンパー、粘弾性ダンパー、粘性ダンパー)、及び上部構造体を元の水平位置に戻す復元材(例えば、積層ゴム支承)によって構成されている。
【0003】
さらに、免震構造物の免震層には、レベル1程度以下の風荷重等によって免震構造物に生じる揺れを抑え、また、この揺れを繰り返し受けることによる減衰材の疲労破壊を防ぐために、免震構造物の固定装置が設けられることが多い。
免震構造物の固定装置では、一般に、シアピンが用いられている。下部構造体と上部構造体との間に免震装置が設けられている免震構造物では、例えば、図16、図17(a)に示すように、上部構造体280側に固定された上ハウジング282のプレート300に設けられたシアピン挿入孔302、及び下部構造体284側に固定された下ハウジング286のプレート304に設けられたシアピン挿入孔306にシアピン308を挿入して、下部構造体284に上部構造体280を固定する。
【0004】
レベル1程度以下の風荷重を免震構造物が受けたときには、このようにして上部構造体280に発生する揺れを抑え、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を免震構造物が受けたときには、図17(b)に示すように、シアピン308の略中央部に形成された切欠き部310でシアピン308が破断して下部構造体284と上部構造体280との相対移動の拘束が解除される。そして、下部構造体284と上部構造体280との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
【0005】
ここで、免震構造物がレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を受けて、構造設計上の設計クライテリアとして認められている範囲内での残留変形が免震構造物に生じた場合、一般的には、下部構造体284に対して上部構造体280を初期の位置に戻すことは行わない。
よって、図17(c)に示すように、免震構造物の固定装置を再び使用するために新しいシアピン312を挿入しようとしても、シアピン挿入孔302とシアピン挿入孔306とがズレてしまっているので挿入することができない。
【0006】
この問題を解決するために、図18に示すような、特許文献1の耐風シアピン挿入装置314が提案されている。耐風シアピン挿入装置314では、基礎316側に下ハウジング318が固定され、上部建物320側に上ハウジング322が固定されている。
下ハウジング318には下ブッシュ324、上ハウジング322には上ブッシュ326が回転可能に設けられており、下ブッシュ324と上ブッシュ326の偏心した位置にシアピン挿入孔328、330がそれぞれ形成されている。
【0007】
上部建物320が水平方向に変位する前の図19(a)の状態では、シアピン挿入孔328、330の中心軸を一致させており、このシアピン挿入孔328、330にシアピン332を挿入して、基礎316に上部建物320を固定する。
そして、上部建物320が水平方向に変位してシアピン332が破断し、シアピン挿入孔328、330が図19(b)の状態になった場合には、図19(c)に示すように、下ブッシュ324と上ブッシュ326をそれぞれの所定角度だけ回動させてシアピン挿入孔328、330の中心軸を一致させ、新しいシアピン332を挿入する。
しかし、特許文献1の耐風シアピン挿入装置314では、上ハウジング322が設けられることによって狭くなった空間でシアピン挿入孔328、330の位置調整をそれぞれ行わなければならない。このような、狭い空間での作業性は悪く、シアピン挿入孔328、330の相対位置の目視による確認も難しい。よって、シアピン挿入孔328、330の微調整が非常に困難となる。
【特許文献1】特開2006−176956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は係る事実を考慮し、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる免震構造物の固定装置、及び免震建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、下部構造体と該下部構造体上に免震装置を介して支持された上部構造体との間に設けられ、外乱による前記下部構造体と前記上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置において、前記下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部と、前記上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部と、前記下収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の下部材と、前記上収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の上部材と、前記下部材と前記上部材とを連結するピン部材と、を有し、外乱によって前記下部構造体と前記上部構造体とが相対移動する前の初期状態で、前記下収容部の中心と前記上収容部の中心とが平面視にて一致するように前記下収容部と前記上収容部とが配置され、前記上収容部又は前記下収容部の半径は、前記下収容部又は前記上収容部の半径に所定値を加えた長さ以上であることを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明では、下部構造体上に免震装置を介して上部構造体が支持されている。そして、下部構造体と上部構造体との間には、外乱による下部構造体と上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置が設けられている。
【0011】
免震構造物の固定装置は、平面視にて円形の下部材、平面視にて円形の上部材、及び下部材と上部材とを連結するピン部材によって構成される部材(以降、シアピンと記載する)を有している。
このシアピンの下部材は下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部に着脱可能に収容され、上部材は上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部に着脱可能に収容されている。
【0012】
例えば、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱を免震構造物が受けてピン部材が破断すると、下部構造体と上部構造体との相対移動の拘束が解除され、下部構造体と上部構造体との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
【0013】
そして、この外乱による下部構造体と上部構造体との相対移動によって、免震構造物に所定値以下の残留変形が生じて下収容部と上収容部がずれた場合、まず、破断して分割されたシアピンの下部材と上部材を、下収容部又は上収容部から別々または一度に取り出す。
そして、配置がずれた下収容部と上収容部とに対応した(平面視における下部材と上部材との相対的な配置が、平面視における下収容部と上収容部との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピンを、上収容部又は下収容部の開口から、下収容部又は上収容部へ挿入することでシアピンの設置作業が完了する。
【0014】
ここで、シアピンが挿入される下収容部と上収容部は、外乱によって下部構造体と上部構造体とが相対移動する前の初期状態では、下収容部の中心と上収容部の中心とが平面視にて一致するように下収容部と上収容部とが配置されており、また、上収容部又は下収容部の大きい方の半径は、下収容部又は上収容部の小さい方の半径よりも所定値以上長くなっている。
よって、免震構造物に生じる残留変形が所定値以下であれば、外乱によって下部構造体と上部構造体とが相対移動した後においても、上収容部又は下収容部が、平面視にて下収容部又は上収容部を包含している。すなわち、上収容部又は下収容部の縁部が下収容部又は上収容部を塞がないので、シアピンを挿入するときに上収容部又は下収容部の縁部が邪魔にならない。
【0015】
また、シアピンを上収容部及び下収容部に挿入する狭い場所で、シアピンが挿入される下収容部及び上収容部の位置調整作業を行わなくてよい。そして、このシアピンの挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピンの製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所で、ずれた下収容部と上収容部とに挿入可能な形状のシアピンを形成する(鋳造等により下部材、ピン部材、及び上部材からなるシアピンを一体に製作する、又はシアピンの形状を調整する)ことが可能となる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記下収容部は、前記下部構造体に固定された取付け部材に形成され、前記上収容部は、前記上部構造体に固定された取付け部材に形成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項2に記載の発明では、下部構造体に固定された取付け部材に下収容部が形成されている。また、上部構造体に固定された取付け部材に上収容部が形成されている。
よって、下部構造体に下収容部を容易に設けることができ、上部構造体に上収容部を容易に設けることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記ピン部材の下部は前記下部材の中心からずれた位置に連結され、前記ピン部材の上部は前記上部材の中心からずれた位置に連結され、前記ピン部材の下部中心から前記下部材の中心までの下部水平距離と前記ピン部材の上部中心から前記上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、前記下部水平距離と前記上部水平距離との合計が前記所定値以上であり、前記下部材と前記上部材とは前記ピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転可能であることを特徴としている。
【0019】
請求項3に記載の発明では、下部材の中心からずれた位置にピン部材の下部が連結され、上部材の中心からずれた位置にピン部材の上部が連結されている。
そして、ピン部材が破断する前の状態において、ピン部材の下部中心から下部材の中心までの下部水平距離と、ピン部材の上部中心から上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、さらに、下部水平距離と上部水平距離との合計が所定値以上になっている。
また、ピン部材の中心軸を回転軸にして、下部材と上部材とが相対的に回転可能になっている。
【0020】
ここで、外乱を免震構造物が受けてピン部材が破断し、免震構造物に所定値以下の残留変形が生じて、下収容部の中心と上収容部の中心とが平面視にて一致した初期状態から、下収容部の中心と上収容部の中心とがずれた状態になった場合、下部水平距離と上部水平距離との合計が所定値以上になっているので、下部材と上部材とをピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材と上部材の配置を平面視における下収容部と上収容部の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた下収容部と上収容部とに挿入可能な形状のシアピンを形成することができる。
【0021】
また、平面視における下収容部と上収容部の配置にシアピン形状(平面視における上部材と下部材との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、このシアピンの挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピンの製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所で行うことが可能である。よって、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記下部材と前記下収容部との間、又は前記上部材と前記上収容部との間に隙間が形成されていることを特徴としている。
【0023】
請求項4に記載の発明では、免震構造物に発生する微振動による微小変位は、下部材と下収容部との間、又は上部材と上収容部との間に形成された隙間によって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材に伝達されない。よって、ピン部材の疲労破壊を防ぐことができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記ピン部材の上部又は下部は、前記上部材又は前記下部材に形成された孔又は凹部に挿入されることによって前記上部材又は前記下部材に連結され、前記ピン部材の上部と前記上部材に形成された孔又は凹部との間、又は前記ピン部材の下部と前記下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されていることを特徴としている。
【0025】
請求項5に記載の発明では、上部材又は下部材に孔又は凹部が形成されている。そして、ピン部材の上部又は下部は、上部材又は下部材に形成された孔又は凹部に挿入されて上部材又は下部材に連結されている。
また、ピン部材の上部と上部材に形成された孔又は凹部との間、又はピン部材の下部と下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されている。
【0026】
よって、免震構造物に発生する微振動による微小変位は、ピン部材の上部と上部材に形成された孔又は凹部との間、又はピン部材の下部と下部材に形成された孔又は凹部との間に形成された隙間によって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材に伝達されない。よって、ピン部材の疲労破壊を防ぐことができる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、前記ピン部材に切欠き部が形成されていることを特徴としている。
【0028】
請求項6に記載の発明では、外乱によって所定の荷重(例えば、レベル1程度の風荷重よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重)がピン部材に作用したときに、シアピンはこのピン部材に形成された切欠き部で破断する。
よって、シアピンの破断する位置を特定できる。また、切欠き部の深さを調整することによって破断する荷重を制御することができる。
【0029】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することを特徴としている。
【0030】
請求項7に記載の発明では、請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することにより、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる免震建物を提供することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は上記構成としたので、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図面を参照しながら、本発明の免震構造物の固定装置、及び免震建物を説明する。なお、以降の説明において、再現期間50年の風荷重とは、50年間に少なくとも1回は発生する可能性がある風荷重の最大値のことであり、再現期間50年の中小規模の地震荷重とは、50年間に少なくとも1回は発生する可能性がある中小規模の地震荷重の最大値のことである。そして、この定義は日本建築学会の建築物荷重指針・同解説で定められている。
【0033】
まず、本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物について説明する。
【0034】
図1に示すように、免震建物としてのRC造の超高層建物10の本体となる上部構造体12と、基礎となる下部構造体14との間の基礎層Gを免震層としている。
基礎層Gには、免震装置と免震構造物の固定装置とが設けられている。免震装置は、上部構造体12の長期荷重を支える支承材、地震エネルギーを吸収する減衰材、及び上部構造物12を元の水平位置に戻す復元材によって構成されている。すなわち、下部構造体14上に免震装置を介して上部構造体12が支持され、下部構造体14と上部構造体12との間の基礎層Gに、外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置が設けられている。
支承材、減衰材、復元材、及び固定装置の設置する数及び配置は、建物の規模(平面規模、建物高さ)や目標とする免震性能に応じて適宜決めればよい。
【0035】
図2、図2のA−A断面である図3、及び図2のB−B断面である図4に示すように、免震構造物の固定装置16では、上部構造物12の下面から突出した上固定部18に角筒状の上ハウジング20がアンカーボルト22によって固定され、下部構造体14の上面から突出した下固定部24に角筒状の下ハウジング26がアンカーボルト28によって固定されている。
上ハウジング20と下ハウジング26には、後に説明するシアピン34の出し入れのための開口部30、32が形成されている。また、上ハウジング20と下ハウジング26の外周に沿って取り付けられたリブプレート36、38によって十分な強度が確保されている。また、上ハウジング20の下部には取付け部材としての上プレート40が設けられ、下ハウジング26の上部には取付け部材としての下プレート42が設けられている。
【0036】
図5(a)の側断面図に示すように、免震構造物の固定装置16は、円板状の下部材46、円板状の上部材44、及び下部材46と上部材44とを連結する円柱状のピン部材48によって構成されるシアピン34を有している。下部材46は、シアピン34の下方から平面視したときに円形状になっており、上部材44は、シアピン34の上方から平面視したときに円形状になっている。
上プレート40には上収容部としての平面視にて円形の貫通孔50が略鉛直に形成され、下プレート42には下収容部としての平面視にて円形の貫通孔52が略鉛直に形成されている。すなわち、下部構造体14に固定された取付け部材としての下プレート42に下収容部としての貫通孔52が形成され、また、上部構造体12に固定された取付け部材としての上プレート40に上収容部としての貫通孔50が形成されている。
【0037】
このように、上下ハウジング20、26に設けられた上下プレート40、42に貫通孔50、52を形成することによって、下部構造体14に下収容部としての貫通孔52を容易に設けることができ、上部構造体12に上収容部としての貫通孔50を容易に設けることができる。
【0038】
そして、シアピン34の下部材46を貫通孔52に着脱可能に挿入し、シアピン34の上部材44を貫通孔50に着脱可能に挿入した図5(b)の状態で、外乱による下プレート42と上プレート40との相対移動が拘束される。すなわち、シアピン34の下部材46が下部構造体14に設けられた下収容部としての貫通孔52に着脱可能に収容され、シアピン34の上部材44が上部構造体12に設けられた上収容部としての貫通孔50に着脱可能に収容された状態で、外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動が拘束される。
【0039】
このとき、シアピン34は、上部材44の上面に形成された鍔部54が貫通孔50の上部周縁に形成された凹部56に引っ掛かった状態で保持されている。シアピン34は、凹部56上方の複数位置に設けられた固定金具58によって上プレート40に固定されている。固定金具58には、貫通した雌ネジと貫通孔とが形成されている(不図示)。この固定金具58の貫通孔に貫通させたボルト60を上プレート40に形成された雌ネジ62にねじ込む。さらに、ボルト64を固定金具58の貫通した雌ネジにねじ込んで固定金具58から下方へ突出させる。そして、ボルト64の先端部を上部材44の上面に押し付けることによって、上プレート40にシアピン34を固定する。
【0040】
貫通孔50の大きさは、シアピン34の上部材44の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔50と上部材44との間に隙間を有さないようになっている。また、貫通孔52の大きさは、シアピン34の下部材46の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔52と下部材46との間に隙間を有さないようになっている。
【0041】
ここで、シアピン34が挿入される下収容部としての貫通孔52と上収容部としての貫通孔50は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態(図5(a)の状態)では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されており、また、貫通孔52より大きい貫通孔50の半径は、貫通孔50より小さい貫通孔52の半径よりも所定値以上長くなっている。すなわち、貫通孔50の半径をR1、貫通孔52の半径をR2、所定値をSとすると、R1≧R2+Sの条件が満たされていればよい。
【0042】
図6に示すように、シアピン34は、下部材46、上部材44、及びピン部材48によって構成されている。
図6(a)に示すように、下部材46と上部材44とはピン部材48によって連結されている。また、ピン部材48の鉛直方向の略中央部には、周方向に沿って切欠き部68が形成され、所定のせん断力を受けたときに、この切欠き部68が形成された位置で破断するようになっている。また、切欠き部68の上下には、周方向に沿って突出する鍔部70、72が設けられている。
【0043】
ピン部材48の材料は剛性を有するものであればよく、高い剛性を有するものが好ましい。例えば、SNCM439、SCM440等の高張力鋼は所定の破断強度を実現するための断面が小さい材料なので軽量化が図れる。よって、ピン部材48の材料として適している。
【0044】
下部材46の中心からずれた位置には貫通孔66が形成され、この貫通孔66にピン部材48の下部を挿入することによって下部材46にピン部材48の下部が連結される。ピン部材48の下部中心には雌ネジ74が形成されている。そして、ピン部材48の下部を貫通孔66に挿入した状態で、下部材46を鍔部70と円盤状の固定部材76とで挟み込み、固定部材76に形成された貫通孔に固定部材76の下方からボルト78を挿入して雌ネジ74にねじ込む。これによって、ピン部材48を下部材46に固定する。
【0045】
上部材44の中心からずれた位置には貫通孔80が形成され、この貫通孔80にピン部材48の上部を挿入することによって上部材44にピン部材48の上部が連結される。ピン部材48の上部中心には雌ネジ82が形成されている。そして、ピン部材48の上部を貫通孔80に挿入した状態で、上部材44を鍔部72と円盤状の固定部材84とで挟み込み、固定部材84に形成された貫通孔に固定部材84の上方からアイボルト86を挿入して雌ネジ82にねじ込む。これによって、ピン部材48を上部材44に固定する。
【0046】
このようにして、下部材46、ピン部材48、及び上部材44が一体化されて、図6(b)に示すシアピン34を形成する。また、このとき、ピン部材48の下部中心から下部材46の中心までの下部水平距離L2(図5(b)を参照のこと)と、ピン部材48の上部中心から上部材44の中心までの上部水平距離L1(図5(b)を参照のこと)とは等しく、さらに、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっている。
【0047】
また、図6(b)に示すように、ピン部材48の中心軸88を回転軸にして、下部材46と上部材44とを相対的に回転(矢印M1とN2、又は矢印M2とN1)させることにより、シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を変更することができる。
【0048】
シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を変更する具体的な方法の一例は、図7(a)に示すように、まず、シアピン48の下部を貫通孔66に挿入し、シアピン48の上部を貫通孔80に挿入した状態で、シアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を調整する。
【0049】
次に、図7(a)において変更したシアピン34の形状を維持しながら、固定部材76を介して固定部材76の下方からボルト78をピン部材48の雌ネジ74にねじ込んで下部材46にピン部材48の下部を固定する。
【0050】
次に、図7(a)において変更したシアピン34の形状を維持しながら、固定部材84を介して固定部材84の上方からアイボルト86をピン部材48の雌ネジ82にねじ込んで上部材44にピン部材48の上部を固定する。
【0051】
固定部材76、84は、円筒状の部材の一方の端部に弾性を有する円板を設け、この円板に貫通孔を形成したものなので、図7(b)で、ボルト78又はアイボルト86を締め込んだときに、ピン部材48の下端面と下部材46の下端面、又はピン部材48の上端面と上部材44の上端面とが面一になっていなくても、下部材46又は上部材44を固定部材76又は固定部材84でしっかりと挟み込むことができる。
【0052】
ここでは、シアピン34の形状を調整した後に、ピン部材48を下部材46及び上部材44に固定する例を示したが、これに限らずに、例えば、ピン部材48を下部材46及び上部材44のどちらか一方に固定しておき、他方の上部材44又は下部材46を回転させてシアピン34の形状を調整した後に、この上部材44又は下部材46にピン部材48を固定してもよい。
【0053】
下部材46及び上部材44は、ピン部材48と同等以上の強度・硬度を有する材料を用いることが好ましい。これは、ピン部材48に大きなせん断力がかかり、この力を受けた下部材46及び上部材44が支圧によって破壊されないようにするためである。
【0054】
次に、本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物の作用及び効果について説明する。
【0055】
まず、図1に示す超高層建物10に、例えば、再現期間50年(以降、レベル1と記載する)程度以下の風荷重が作用したときには、図5(a)に示す初期状態の配置となっている貫通孔52、50に挿入されたシアピン34によって、下部構造体14と上部構造体12との相対移動が拘束される。
【0056】
次に、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱がこの超高層建物10に作用し、ピン部材48が切欠き部68で破断すると、下部構造体14と上部構造体12との相対移動の拘束が解除され、下部構造体14と上部構造体12との間に設けられた免震装置が機能して免震効果を発揮する。
このように、シアピン34はピン部材48に形成された切欠き部68で破断するので、シアピン34の破断する位置を特定でき、また、切欠き部68の深さを調整することによって破断する荷重を制御することができる。
【0057】
次に、この外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて貫通孔52と貫通孔50とがずれた場合、まず、破断して分割されたシアピン34の下部材46と上部材44を、貫通孔52又は貫通孔50から取り出す。下部材46と上部材44は、別々に取り出してもよいが、例えば、下部材46と上部材44をボルト等で仮固定して一体化し、一度に取り出すようにすれば作業効率が上がるので好ましい。
【0058】
次に、配置がずれた貫通孔52と貫通孔50とに対応した(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置が、平面視における貫通孔52と貫通孔50との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピン34を、貫通孔50の開口から貫通孔52へ挿入することで新たなシアピン34の設置作業が完了する。
【0059】
ここで、シアピン34が挿入される貫通孔52と貫通孔50は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されている。また、貫通孔50、52において、半径が大きい方の貫通孔50の半径R1は、半径が小さい方の貫通孔52の半径R2よりも所定値S以上長くなっている(R1≧R2+S)。
【0060】
よって、図8(a)〜(c)左側の側断面図、及び図8(a)〜(c)右側の平面図に示すように、超高層建物10に生じた残留変形T(上プレート40と下プレート42との相対移動量)が所定値S以下であれば、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動した後においても、貫通孔50が、平面視にて貫通孔52を包含している。すなわち、上プレート40(貫通孔50の縁部)が貫通孔52を塞がないので、シアピン34を挿入するときに上プレート40(貫通孔50の縁部)が邪魔にならない。
【0061】
また、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する狭い場所で、シアピン34が挿入される貫通孔50、52の位置調整作業を行わなくてよい。よって、作業性の悪い場所でのシアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【0062】
外乱を超高層建物10が受けてピン部材48が破断し、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致した初期状態から、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とがずれた状態になった場合、図9、10に示す方法によって、ずれた貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状のシアピン34を形成する。
なお、説明をわかり易くする為に、図9、10においては、ピン部材48の径の大きさに対する、残留変形T、上部水平距離L1、下部水平距離L2、貫通孔50の半径R1、貫通孔52の半径R2の大きさは、図5で示したものよりも大きく描かれている。
【0063】
図9(a)の平面図は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態における、貫通孔52と貫通孔50の配置を示している。このように、初期状態では、貫通孔52の中心と貫通孔50の中心とが平面視にて一致するように貫通孔52と貫通孔50とが配置されている。
【0064】
このとき、実際には、貫通孔52と貫通孔50とにシアピン34が挿入されるが、説明の都合上、図9には、シアピン34のピン部材48の位置のみが示されている。図9(a)に示した点P1は、貫通孔52の中心I1又は貫通孔50の中心I2と、シアピン34を貫通孔52、50に挿入したときのピン部材48の下部中心J1又は上部中心J2とを結んで延ばした直線が貫通孔52の周縁部と交わる点である。
【0065】
ここで、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱が超高層建物10に作用し、これによりピン部材48が破断して下部構造体14と上部構造体12との相対移動の拘束が解除されて、超高層建物10に所定値S以下の残留変形Tが生じた場合、平面視における貫通孔52、50の配置は、貫通孔52の中心I1と貫通孔50の中心I2とがずれた図9(b)の状態になる。
【0066】
この図9(b)の状態において、まずは、貫通孔50、52のそれぞれの中心I2、I1から上部水平距離L1(又は下部水平距離L2)を半径とした円Q2、Q1を描く。
次に、この円Q2、Q1の交点をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とする。交点の数は1つか2つになるので、交点の数が2つの場合はどちらか一方をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とすればよい。図9(c)は、図9(b)において求められた2つの交点K1、K2のうち交点K2をピン部材48の下部中心J1及び上部中心J2とした例を示したものである。
【0067】
次に、図7で示した方法を用いて、図9(c)の貫通孔50と貫通孔52の配置に合わせた形状にシアピン34の形状を調整する。すなわち、平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置が、平面視における貫通孔52と貫通孔50との相対的な配置と同じにする。
【0068】
このとき、図6に示すように、ピン部材48の中心軸88を回転軸にして、下部材46と上部材44とを相対的に回転させる角度の調整は、図10に示すように行えばよい。
まず、シアピン34を、貫通孔52の中心I1と貫通孔50の中心I2とが平面視にて一致するように配置された初期状態の貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状にする。すなわち、下部材46の中心V1とピン部材48の下部中心J1とを結んだ直線が、上部材44の中心V2とピン部材48の上部中心J2とを結んだ直線に平面視にて一致するように、ピン部材48に対して下部材46と上部材44とを配置する。
【0069】
次に、図10に示すように、ピン部材48の下部中心J1と下部材46の中心V1とを結んだ直線と、ピン部材48の上部中心J2と上部材44の中心V2とを結んだ直線との間の角度θ3が、図9(c)で求めたピン部材48の下部中心J1と貫通孔52の中心I1とを結んだ直線と、図9(c)で求めたピン部材48の上部中心J2と貫通孔50の中心I2とを結んだ直線との間の角度θ1と等しくなるように、上部材44及び下部材46の少なくとも一方をピン部材48の中心軸88(ピン部材48の下部中心J1、及びピン部材48の上部中心J2)を回転軸にして相対的に回転させる。そして、この状態で、下部材46と上部材44とをピン部材48に固定する。
【0070】
次に、図10に示すように、ピン部材48の下部中心J1と下部材46の中心V1とを結んだ直線に対して、下部材46の中心V1と下部材46の外周縁上の点P2とを結んだ直線が成す角度θ4が、図9(c)で求めたピン部材48の下部中心J1と貫通孔52の中心I1とを結んだ直線に対して、貫通孔52の中心I1と点P1とを結んだ直線が成す角度θ2に等しくなるように点P2の位置を決める。
次に、図9(c)の貫通孔52の周縁部上の点P1と、図10の下部材46の外周縁上の点P2とが一致するように、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する。
なお、点P2の位置は、図9で説明したように作図により正確に求めてもよいが、シアピン34を貫通孔50、52に挿入するときに、シアピン34を回しながら目視でシアピン34の位置調整を行ってもよい。
【0071】
このように、シアピン34では、上部水平距離L1と下部水平距離L2との合計が所定値S以上になっているので、残留変形Tが所定値S以下であれば円Q1と円Q2の交点(=下部材46に形成された貫通孔66の中心と上部材44に形成された貫通孔80の中心とが平面視にて一致する位置)を必ず求めることができる。
そして、図10の方法によって、下部材46と上部材44とをピン部材48の中心軸88(ピン部材48の下部中心J1、ピン部材48の上部中心J2)を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材46と上部材44の配置を平面視における貫通孔52と貫通孔50の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた貫通孔52と貫通孔50とに挿入可能な形状のシアピン34を形成することができる。
具体的に数字で示すと、例えば、所定値Sを±5cmとする場合には、上部水平距離L1と下部水平距離L2とは等しいので、上部水平距離L1と下部水平距離L2とを共に2.5cmとすればよい。
【0072】
また、このような、平面視における貫通孔52と貫通孔50の配置にシアピン34の形状(平面視における下部材46と上部材44との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、シアピン34を貫通孔50、52に挿入する狭い場所以外で行うことが可能である。例えば、シアピン34の挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピン34の製作工場等の作業性が良く、下部材46と上部材44の相対位置が目視にて確認し易い場所でシアピン形状調整作業を行うことができる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン34の設置作業の手間を低減することができる。
【0073】
第1の実施形態では、下部材46及び上部材44に形成された貫通孔66、80にピン部材48を挿入して、ピン部材48により下部材46と上部材44とを連結した例を示したが、ピン部材48による下部材46と上部材44との連結方法は、ピン部材48の中心軸を回転軸にして下部材46と上部材44とが相対的に回転可能な連結方法であればよい。
【0074】
例えば、図11のシアピン90に示すように、下部材46にピン部材48を固定し、ピン部材48に対して下部材46が回転しないようにしてもよい。この場合は、下部材46とピン部材48とで偏心ピンを形成していることになる。また、これとは逆に、上部材44にピン部材48を固定し、ピン部材48に対して上部材44が回転しないようにしてもよい。
【0075】
また、図12に示すシアピン92のように、下部材46の上面に円筒部材94を設け、上部材44の下面に円筒部材96を設ける。そして、円柱状のピン部材98の下部を円筒部材94の挿入孔100に挿入し、ピン部材98の上部を円筒部材96の挿入孔102に挿入して、ピン部材98により下部材46と上部材44とを連結してもよい。
【0076】
この場合、円筒部材94、96の側面に、芋ネジ104をねじ込む貫通した雌ネジを形成しておき、芋ネジ104を円筒部材94、96の内壁から突出させるようにねじ込んで、この芋ネジ104の先端部をピン部材98の側面に押し付けるようにすれば、ピン部材98を円筒部材94、96に固定することができる。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物について説明する。
【0078】
第2の実施形態は、第1の実施形態のシアピン34の下部材46を上部材44よりも大きくしたものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0079】
図13(a)の側断面図に示すように、第2の実施形態の免震構造物の固定装置106は、円板状の下部材108、円板状の上部材110、及び下部材108と上部材110とを連結する円柱状のピン部材112によって構成されるシアピン114を有している。下部材108は、シアピン114の下方から平面視したときに円形状になっており、上部材110は、シアピン114の上方から平面視したときに円形状になっている。
ピン部材112、下部材108、及び上部材110の材料は、第1の実施形態で示したピン部材48、下部材46、及び上部材44の材料と同様である。
【0080】
上プレート40には上収容部としての平面視にて円形の貫通孔116が略鉛直に形成され、下プレート42には下収容部としての平面視にて円形の貫通孔118が略鉛直に形成されている。
そして、シアピン114の上部材110を貫通孔116に着脱可能に挿入し、シアピン114の下部材108を貫通孔118に着脱可能に挿入した図13(b)の状態で、外乱による下プレート42と上プレート40との相対移動が拘束される。
【0081】
このとき、貫通孔116周囲の複数箇所にはボルト120が設けられており、ボルト120をねじ込むことによって貫通孔116の周壁からボルト120の先端部を突出させ、このボルト120の先端部を上部材110の側壁に押し付けることにより上プレート40に上部材110を固定している。
また、ボルト122により下プレート42の下面に複数取り付けられた受け金具124に下部材108が支持されることによって、シアピン114は貫通孔116、118内に保持されている。
【0082】
貫通孔116の大きさは、シアピン114の上部材110の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔116と上部材110との間に隙間を有さないようになっている。また、貫通孔118の大きさは、シアピン114の下部材108の挿入が可能な範囲で、できるだけ小さく形成されており、貫通孔118と下部材108との間に隙間を有さないようになっている。
【0083】
ここで、シアピン114が挿入される下収容部としての貫通孔118と上収容部としての貫通孔116は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態(図13(a)の状態)では、貫通孔118の中心と貫通孔116の中心とが平面視にて一致するように貫通孔118と貫通孔116とが配置されており、また、貫通孔116より大きい貫通孔118の半径R2は、貫通孔118より小さい貫通孔116の半径R1よりも所定値S以上長くなっている(R2≧R1+S)。
【0084】
下部材108の中心からずれた位置には貫通孔66が形成され、この貫通孔66にピン部材112の下部を挿入することによって下部材108にピン部材112の下部が連結される。また、上部材110の中心からずれた位置には貫通孔80が形成され、この貫通孔80にピン部材112の上部を挿入することによって上部材110にピン部材112の上部が連結される。
【0085】
そして、ボルト78、86、及び固定部材76、84によって、下部材108、ピン部材112、及び上部材110が一体化されて、図13(a)に示すようなシアピン114を形成する。また、このとき、ピン部材112の下部中心から下部材108の中心までの下部水平距離L2と、ピン部材112の上部中心から上部材110の中心までの上部水平距離L1とは等しく(L1=L2)、さらに、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっている(L1+L2≧S)。
また、ピン部材112の中心軸を回転軸にして、下部材108と上部材110とを相対的に回転させることにより、シアピン114の形状(平面視における下部材108と上部材110との相対的な配置)を変更することができる。
【0086】
次に、本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物の作用及び効果について説明する。
【0087】
第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
図13に示すように、例えば、レベル1程度よりも大きい風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重の外乱がこの超高層建物10に作用してピン部材112が破断し、この外乱による下部構造体14と上部構造体12との相対移動によって、超高層建物10に所定値S以下の残留変形が生じて貫通孔118と貫通孔116とがずれた場合、まず、破断して分割されたシアピン114の下部材108と上部材110を、貫通孔118又は貫通孔116から取り除く。下部材108と上部材110は、別々に取り出してもよいが、例えば、下部材108と上部材110をボルト等で仮固定して一体化し、一度に取り出すようにすれば作業効率が上がるので好ましい。
【0088】
次に、配置がずれた貫通孔118と貫通孔116とに対応した(平面視における下部材108と上部材110との相対的な配置が、平面視における貫通孔118と貫通孔116との相対的な配置と同じになっている)新たなシアピン114を、貫通孔118の開口から貫通孔116へ挿入することで新たなシアピン114の設置作業が完了する。
ここで、シアピン114が挿入される貫通孔118と貫通孔116は、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動する前の初期状態では、貫通孔118の中心と貫通孔116の中心とが平面視にて一致するように貫通孔118と貫通孔116とが配置されている。また、貫通孔118、116において、半径が大きい方の貫通孔118の半径R2は、半径が小さい方の貫通孔116の半径R1よりも所定値S以上長くなっている(R2≧R1+S)。
【0089】
よって、超高層建物10に生じる残留変形が所定値S以下であれば、外乱によって下部構造体14と上部構造体12とが相対移動した後においても、貫通孔118が平面視にて貫通孔116を包含している。すなわち、シアピン114を挿入するときに下プレート42(貫通孔118の縁部)が貫通孔116を塞がないので、下プレート42(貫通孔118の縁部)が邪魔にならない。
【0090】
また、シアピン114を貫通孔118、116に挿入する狭い場所で、シアピン114が挿入される貫通孔118、116の位置調整作業を行わなくてよい。よって、作業性の悪い場所でのシアピン114設置作業の手間を低減することができる。
【0091】
また、シアピン114では、下部水平距離L2と上部水平距離L1との合計が所定値S以上になっているので、残留変形が所定値S以下であれば下部材108に形成された貫通孔66の中心と上部材110に形成された貫通孔80の中心とが平面視にて一致する位置を必ず求めることができる。
【0092】
そして、下部材108と上部材110とをピン部材112の中心軸を回転軸にして相対的に回転させ、平面視における下部材108と上部材110の配置を平面視における貫通孔118と貫通孔116の配置に合わせることができる。すなわち、ずれた貫通孔116と貫通孔118とに挿入可能な形状のシアピン114を形成することができる。
【0093】
また、このような、平面視における貫通孔116と貫通孔118の配置にシアピン114の形状(平面視における上部材110と下部材108との相対的な配置)を合わせるシアピン形状調整作業は、シアピン114を貫通孔118、116に挿入する狭い場所以外で行うことが可能である。例えば、シアピン114の挿入場所近く、免震構造物外の地上にある作業ヤード、又はシアピン114の製作工場等の作業性が良く、下部材と上部材の相対位置が目視にて確認し易い場所でシアピン形状調整作業を行うことができる。よって、作業性の悪い場所でのシアピン114の設置作業の手間を低減することができる。
【0094】
次に、本発明の第3の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物とその作用及び効果について説明する。
【0095】
第3の実施形態は、第1の実施形態のシアピン34の下部材46と貫通孔52との間に隙間を形成したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0096】
図14の側断面図に示すように、第3の実施形態の免震構造物の固定装置126では、下部材46の外周に沿って、下部材46と下収容部としての貫通孔52との間に隙間Uが形成されている。
これにより、超高層建物10に発生する微振動による微小変位は隙間Uによって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材48に伝達されない。よって、ピン部材48の疲労破壊を防ぐことができる。
【0097】
第3の実施形態では、下部材46と下収容部としての貫通孔52との間に隙間Uを形成した例を示したが、上部材44と上収容部としての貫通孔50との間に隙間Uを形成してもよい。
また、第3の実施形態を第2の実施形態の固定装置106に適用してもよい。すなわち、下部材108と貫通孔118との間、又は上部材110と貫通孔116との間に隙間Uを形成してもよい。
【0098】
次に、本発明の第4の実施形態に係る免震構造物の固定装置、及び免震建物とその作用及び効果について説明する。
【0099】
第4の実施形態は、第1の実施形態のピン部材48の下部と下部材46との間に隙間を形成したものである。したがって、以下の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0100】
図15(a)の側断面図に示すように、第4の実施形態の免震構造物の固定装置128では、シアピン134のピン部材132の下部外周に沿って、ピン部材132の下部と下部材46との間に隙間Wが形成されている。
また、免震構造物の固定装置128を下プレート42の下方から見た図15(b)の平面図に示すように、微小変位を許容し、シアピン134を設置するときの隙間保持具として機能する弾性体130を隙間Wに複数設けて、弾性体130とピン部材132の下部、及び弾性体130と下部材46とを接合し、ピン部材132の下部を下部材46に連結している。
【0101】
これにより、超高層建物10に発生する微振動による微小変位は隙間Wによって許容されるので、この微振動による荷重が繰り返しピン部材132に伝達されない。よって、ピン部材132の疲労破壊を防ぐことができる。
【0102】
第4の実施形態では、ピン部材132の下部と下部材46との間に隙間Wを形成した例を示したが、ピン部材132の上部と上部材44との間に隙間Wを形成してもよい。
また、第4の実施形態を第2の実施形態の固定装置106に適用してもよい。すなわち、下部材108とピン部材112との間、又は上部材110とピン部材112との間に隙間Wを形成してもよい。
また、隙間Wに弾性体130を設けた例を示したが、微振動による微小変位を許容する領域をピン部材132の周囲に確保してピン部材132を下部材46に連結する方法であればよい。
これらの連結方法で、ピン部材132に下部材46が鉛直方向に十分に支持されない場合には、上部材44のように、下部材46の上面に鍔部を形成して貫通孔52の上部周縁に形成した凹部にこの鍔部を引っ掛けて下部材46を貫通孔52に保持するようにすればよい。
さらに、弾性体130はシアピン134を設置した後に取り外してもよいし、弾性体130の替わりに隙間Wの全領域に粘弾性体を設けて、この粘弾性体を微小領域における減衰材として機能させてもよい。
【0103】
なお、第1〜第4の実施形態では、ハウジング20の下端部に取り付けられた上プレート40、及びハウジング26の上端部に取り付けられた下プレート42を取付け部材としたが、下部構造体14に固定された取付け部材に下収容部(貫通孔52、118)が形成されており、また、上部構造体12に固定された取付け部材に上収容部(貫通孔50、116)が形成されていればよい。
第1〜第4の実施形態で示した、上部材44、110、下部材46、108、及びピン部材48、112、132の大きさは、所定値Sを考慮に入れた上で、材料強度、厚さ、及び太さ等に応じて適宜決めればよい。シアピンをコンパクトにすれば、挿入作業が容易になるので好ましい。
【0104】
また、第1〜第4の実施形態では、上ハウジング20及び下ハウジング26を角筒とした例を示したが、これに限らずに、他の断面形状の筒体を用いてもよいし、中空でない部材を用いて、内部に空間を形成させてもよい。
例えば、鉄の塊、コンクリートの塊、及び鉄板等に下収容部(貫通孔52、118)又は上収容部(貫通孔50、116)を形成し、これらの鉄の塊、コンクリートの塊、及び鉄板等を下部構造体14の上面や上部構造体12の下面に固定してもよい。
また、下収容部(貫通孔52、118)又は上収容部(貫通孔50、116)は、ハウジング等の取付け部材を用いずに下部構造体14や上部構造体12に直接形成してもよい。
【0105】
また、第1〜第4の実施形態では、下部材46、108の貫通孔66、及び上部材44、110の貫通孔80にピン部材48、112、132を挿入して連結した例を示したが、ピン部材48、112、132の中心軸を回転軸にして、下部材46、108と上部材44、110とが相対的に回転することができる連結方法であればよい。また、貫通孔66、80は、凹部としてもよい。
また、第1〜第4の実施形態で示したピン部材48、112、132の切り欠き部68はなくてもよい。
【0106】
また、第1の実施形態で示した下部材46、ピン部材48、及び上部材44を鋳造等により一体化したシアピンとしてもよいし、第2の実施形態で示した下部材108、ピン部材112、及び上部材110を鋳造等により一体化したシアピンとしてもよい。
また、第1〜第4の実施形態では、下収容部を平面視にて円形の貫通孔52、118とし、上収容部を平面視にて円形の貫通孔50、116としたが、シアピン34、114、134の挿入側でない下収容部又は上収容部は、貫通していない平面視にて円形の凹部としてもよい。
【0107】
また、第1〜第4の実施形態で示した所定値Sは、免震装置の性能、免震構造物の規模、シアピンの大きさ等を考慮して適宜決めればよい。例えば、第1、第2の実施形態で示した免震構造物の固定装置16、106を一般の建物に用いる場合には、建物の許容残留変形の値(レベル1程度よりも大きな風荷重やレベル1の中小規模程度以上の地震荷重を受けたときに発生する建物の残留変形の予測最大値)とするのが好ましい。
この場合、第3、第4の実施形態における隙間U、Wの水平距離は、下部材46が貫通孔52に当たるまで(図14を参照のこと)又はピン部材132が貫通孔66に当たるまで(図15を参照のこと)の建物の変形量となり、所定値S(建物の許容残留変形の値)の一部となる。
【0108】
また、第1〜4の実施形態では、免震層を基礎層Gとし、この基礎層Gに免震構造物の固定装置16、106、126、128を設けた例を示したが、免震層を建物の中間層とし、この中間層に免震構造物の固定装置16、106、126、128を設けてもよい。
【0109】
また、第1の実施形態で示したボルト64による上部材44の固定や、第2の実施形態で示したボルト120による上部材110の固定は行わなくてもよい。第3、第4の実施形態のように、隙間U、Wを有する場合には、上部材44、110が動いてしまうと隙間U、Wの大きさが変わってしまうので、第1、第2の実施形態のように、ボルト64、120によって上部材44、110を固定するのが好ましい。
【0110】
また、第1〜第4の実施形態で示したシアピン34、114、134のピン部材48、112、132が破断した後、新たなシアピン34、114、134を挿入するときに、新たなシアピン34、114、134を製作してもよいし、上部材44、110や下部材46、108が損傷又は破壊等していなければ、それらの部材は再度使用してもよい。
【0111】
また、第1の実施形態で説明したように、免震建物に生じた残留変形(上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置)がわかれば、一意にシアピン34の形状が決まるので、下げ振りなどを免震構造物の固定装置16、106、126、128に設置しておき、上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置の計測を行うとよい。
また、いちいち図9で示したような作図をその都度行わなくても、上収容部としての貫通孔と下収容部としての貫通孔との相対位置に応じた上部材とピン部材と下部材の位置関係を図表にしておけばよい。
【0112】
また、第1〜4の実施形態では、免震構造物の固定装置16、106、126、128をRC造の超高層建物10に適用した例を示したが、さまざまな構造や規模の新築及び改修建物への適用が可能である。
【0113】
これまで述べたように、第1〜第4の実施形態で示した本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128は、シアピン34、114、134を挿入する場所(作業性の悪い場所)でのシアピン34、114、134の設置作業の手間を低減することができるものである。
そして、免震建物が、本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128を有することにより、シアピン34、114、134を挿入する場所(作業性の悪い場所)でのシアピン34、114、134の設置作業の手間を低減することが可能な免震建物を提供することができる。
【0114】
例えば、引用文献1の耐風シアピン挿入装置314のような固定装置では、下部材(下ブッシュ324)、ピン部材(シアピン332)、及び上部材(上ブッシュ326)を別々の部材とし、ピン部材を挿入する孔の位置調整を行った後にピン部材を挿入するので、固定装置が設置されることによって狭く、かつ暗くなった作業性の悪い場所でピン部材挿入以外の作業も行わなければならない。よって、シアピン設置の作業が煩雑になる。
【0115】
これに対して、本発明の免震構造物の固定装置16、106、126、128では、シアピン34、114、134を構成する下部材46、108、ピン部材48、112、132、及び上部材44、110が一体となっている。そして、下部構造体14と上部構造体12の相対移動によってずれた下収容部(貫通孔52、118)と上収容部(貫通孔50、116)の配置に合わせた形状のシアピン34、114、134を下収容部(貫通孔52、118)及び上収容部(貫通孔50、116)に挿入することで、引用文献1の耐風シアピン挿入装置314のような固定装置では必要とされる、シアピン挿入場所で行うシアピン挿入孔の位置調整作業を省くことができる。
【0116】
本発明のシアピン34、114、134は、鋳造等により一体に形成されたものでもよいが、第1〜第4の実施形態で示したような、形状を変更できるシアピン34、114、134を用いる場合においても、ずれた下収容部(貫通孔52、118)と上収容部(貫通孔50、116)の配置にシアピン34、114、134の形状を合わせるシアピン形状調整作業をシアピン34、114、134の挿入場所以外の場所(例えば、シアピンの挿入場所近く、現場の屋外ヤード、又はシアピン製作工場等)で行うことができるので、作業性の悪い場所でのシアピン設置作業の手間を低減することができる。
【0117】
以上、本発明の第1〜第4の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1〜第4の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る免震建物を示す立面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】図2のB−B断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係るシアピンを示す斜視図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの上下部材とピン部材との連結方法を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る下収容部と上収容部の配置を示す説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係るシアピン形状の調整方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係るシアピン形状の調整方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの変形例を示す斜視図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係るシアピンの変形例を示す斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る免震構造物の固定装置を示す側断面図及び平面図である。
【図16】従来の免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図17】従来の免震構造物の固定装置を示す説明図である。
【図18】従来の耐風シアピン挿入装置を示す説明図である。
【図19】従来の耐風シアピン挿入装置におけるシアピン挿入孔の位置調整方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0119】
10 超高層建物(免震構造物、免震建物)
12 上部構造体
14 下部構造体
16、106、126、128 免震構造物の固定装置
40 上プレート(取付け部材)
42 下プレート(取付け部材)
44、110 上部材
46、108 下部材
48、98、112、132 ピン部材
50 貫通孔(上収容部)
52 貫通孔(下収容部)
68 切欠き部
88 中心軸
I1:下収容部の中心
I2:上収容部の中心
J1:ピン部材の下部中心
J2:ピン部材の上部中心
L1:上部水平距離
L2:下部水平距離
R1:上収容部の半径
R2:下収容部の半径
S:所定値
U、W:隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と該下部構造体上に免震装置を介して支持された上部構造体との間に設けられ、外乱による前記下部構造体と前記上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置において、
前記下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部と、
前記上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部と、
前記下収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の下部材と、
前記上収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の上部材と、
前記下部材と前記上部材とを連結するピン部材と、
を有し、
外乱によって前記下部構造体と前記上部構造体とが相対移動する前の初期状態で、前記下収容部の中心と前記上収容部の中心とが平面視にて一致するように前記下収容部と前記上収容部とが配置され、
前記上収容部又は前記下収容部の半径は、前記下収容部又は前記上収容部の半径に所定値を加えた長さ以上であることを特徴とする免震構造物の固定装置。
【請求項2】
前記下収容部は、前記下部構造体に固定された取付け部材に形成され、
前記上収容部は、前記上部構造体に固定された取付け部材に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項3】
前記ピン部材の下部は前記下部材の中心からずれた位置に連結され、
前記ピン部材の上部は前記上部材の中心からずれた位置に連結され、
前記ピン部材の下部中心から前記下部材の中心までの下部水平距離と前記ピン部材の上部中心から前記上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、
前記下部水平距離と前記上部水平距離との合計が前記所定値以上であり、
前記下部材と前記上部材とは前記ピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項4】
前記下部材と前記下収容部との間、又は前記上部材と前記上収容部との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項5】
前記ピン部材の上部又は下部は、前記上部材又は前記下部材に形成された孔又は凹部に挿入されることによって前記上部材又は前記下部材に連結され、前記ピン部材の上部と前記上部材に形成された孔又は凹部との間、又は前記ピン部材の下部と前記下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項6】
前記ピン部材に切欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することを特徴とする免震建物。
【請求項1】
下部構造体と該下部構造体上に免震装置を介して支持された上部構造体との間に設けられ、外乱による前記下部構造体と前記上部構造体との相対移動を拘束する免震構造物の固定装置において、
前記下部構造体に設けられた平面視にて円形の下収容部と、
前記上部構造体に設けられた平面視にて円形の上収容部と、
前記下収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の下部材と、
前記上収容部に着脱可能に収容される平面視にて円形の上部材と、
前記下部材と前記上部材とを連結するピン部材と、
を有し、
外乱によって前記下部構造体と前記上部構造体とが相対移動する前の初期状態で、前記下収容部の中心と前記上収容部の中心とが平面視にて一致するように前記下収容部と前記上収容部とが配置され、
前記上収容部又は前記下収容部の半径は、前記下収容部又は前記上収容部の半径に所定値を加えた長さ以上であることを特徴とする免震構造物の固定装置。
【請求項2】
前記下収容部は、前記下部構造体に固定された取付け部材に形成され、
前記上収容部は、前記上部構造体に固定された取付け部材に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項3】
前記ピン部材の下部は前記下部材の中心からずれた位置に連結され、
前記ピン部材の上部は前記上部材の中心からずれた位置に連結され、
前記ピン部材の下部中心から前記下部材の中心までの下部水平距離と前記ピン部材の上部中心から前記上部材の中心までの上部水平距離とは等しく、
前記下部水平距離と前記上部水平距離との合計が前記所定値以上であり、
前記下部材と前記上部材とは前記ピン部材の中心軸を回転軸にして相対的に回転可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項4】
前記下部材と前記下収容部との間、又は前記上部材と前記上収容部との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項5】
前記ピン部材の上部又は下部は、前記上部材又は前記下部材に形成された孔又は凹部に挿入されることによって前記上部材又は前記下部材に連結され、前記ピン部材の上部と前記上部材に形成された孔又は凹部との間、又は前記ピン部材の下部と前記下部材に形成された孔又は凹部との間に隙間が形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項6】
前記ピン部材に切欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の免震構造物の固定装置を有することを特徴とする免震建物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−144820(P2009−144820A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322954(P2007−322954)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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