説明

免震装置

【課題】軸方向と直交する面内で互いに交差する2方向の独立した加振力が作用した場合、それによる局部剪断歪み抑え耐久性を向上することのできる免震装置を提供する。
【解決手段】免震装置10において、各剛性フランジ6A、6Bと、これに対応するベースプレート7A、7Bとは、軸方向に直交する平面内の半径方向の相互の変位が拘束されており、かつ、軸線の周りには相互の回転変位が許容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造体と下部構造体との間に取り付けられてこれらの構造体の間の振動の伝搬を減衰させる、それぞれ複数枚の円板状のゴム層と剛性板とを軸方向に交互に積層した積層体、この積層体の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ、および、これらの剛性フランジに取り付けられ上部構造体と下部構造体に固定されたそれぞれのベースプレートよりなる免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、図1に断面図で示すように、上部構造体8Aと下部構造体8Bとの間に取り付けられてこれらの構造体8A、8Bの間の振動の伝搬を減衰させるよう作用し、それぞれ複数枚の円板状のゴム層1と剛性板2とを軸方向に交互に積層した積層体5、この積層体5の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ6A、6B、および、これらの剛性フランジ6A、6Bに取り付けられ上部構造体8Aと下部構造体8B剛性との固定されたそれぞれのベースプレート7A、7Bよりなる免震装置90(例えば、特許文献1参照。)が用いられている。
【0003】
従来技術においては、剛性フランジ6A、6Bとこれらのそれぞれに対応するベースプレート7A、7Bとは、剛性フランジ6A、6Bに形成された貫通穴を通過する複数本のボルト11により相互に固定されている。
【0004】
このような免震装置は、軸方向と直交する面内で互いに交差する2方向の独立した加振力が作用した場合、図2に斜視図で、図3に平面図でそれぞれ模式的に示すように、R方向の第1の加振力によってR方向に変形した状態の免震装置に、R方向と交差する方向の加振力Fが作用したとき、R方向の変形量Lと、加振力FのR方向に直角の方向θの成分Fθとの積のねじりモーメントが作用し、これによって、単純に1方向Rの加振力が作用する場合に対比して局部剪断歪みが増加し、免震装置の終局性能、すなわち、破断歪みの低下に繋がることがわかってきた。なお、図3において、曲線Qは、免震装置が変形する際の下側フランジ6Bに対する上側フランジ6Aの移動軌跡を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−259378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、軸方向と直交する面内で互いに交差する2方向の独立した加振力が作用した場合、それによる局部剪断歪み抑え耐久性を向上することのできる免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>は、上部構造体と下部構造体との間に取り付けられてこれらの構造体の間の振動の伝搬を減衰させる、それぞれ複数枚の円板状のゴム層と剛性板とを軸方向に交互に積層した積層体、この積層体の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ、および、これらの剛性フランジに取り付けられ上部構造体と下部構造体とに固定されたそれぞれのベースプレートよりなる免震装置において、
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向に直交する平面内の半径方向の相互の変位が拘束されており、かつ、積層体軸線の周りには相互の回転変位が許容されていることを特徴とする免震装置である。
【0008】
<2>は、<1>において、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剪断キーを介して軸方向と直交する平面内の変位が拘束されていることを特徴とする免震装置である。
【0009】
<3>は、<1>において、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に軸線を中心とする円板の凸部を設け、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの他方に前記凸部に対応する凹部を設けることによって軸方向と直交する平面内の変位が拘束されていることを特徴とする免震装置である。
【0010】
<4>は、<1>〜<3>のいずれかにおいて、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向の相対変位が拘束されていることを特徴とする免震装置である。
【0011】
<5>は、<4>において、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剛性フランジを貫通するボルトによって前記軸方向の相対変位が拘束され、剛性フランジの、ボルト貫通部分は、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの軸線の周りの相互の変位を許容するための長穴が周方向に延在するよう設けられていることを特徴とする免震装置である。
【0012】
<6>は、<4>において、記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に、これらの他方との軸方向の相対変位が拘束するためのフックが取り付けられていることを特徴とする免震装置である。
【発明の効果】
【0013】
<1>によれば、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向に直交する平面内の半径方向の相互の変位が拘束されており、かつ、積層体軸線の周りには相互の変位が許容されているので、上部フランジは下部フランジに対して軸心周りに自由に回転することができるので、モーメントはゼロとなり、ねじり変形を発生させることがなく、したがって、軸方向と直交する面内で互いに交差する2方向の独立した加振力が作用した場合、それによる局部剪断歪みゼロにし耐久性を向上させることができる。
【0014】
<2>によれば、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剪断キーを介して軸方向と直交する平面内の変位が拘束されるようにしたので、<1>の構成を容易に実現させることができる。
【0015】
<3>によれば、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に軸線を中心とする円板の凸部を設け、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの他方に前記凸部に対応する凹部を設けることによって軸方向と直交する平面内の変位が拘束されるようになっているので、この場合も同様に<1>の構成を容易に実現させることができる。
【0016】
<4>によれば、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向の相対変位が拘束されているので、軸方向の加振力があったとしても、剛性フランジと、これに対応するベースプレートとが外れるのを防止することができる。
【0017】
<5>によれば、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剛性フランジを貫通するボルトによって前記軸方向の相対変位が拘束され、剛性フランジの、ボルト貫通部分は、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの軸線の周りの相互の変位を許容するための長穴が周方向に延在するよう設けられているので、<4>の構成を容易に実現することができる。
【0018】
<6>によれば、記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に、これらの他方との軸方向の相対変位が拘束するためのフックが取り付けられているので、この場合も、<4>の構成を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来のの免震装置を示す断面図である。
【図2】免震装置において、2方向の加振力が加わった場合に作用するモーメントを説明するための模式的斜視図である。
【図3】同上の目的のための、模式的平面図である。
【図4】本発明に係る実施形態の免震装置を示す断面図である。
【図5】図4のA−A矢視に対応する矢視図である。
【図6】本発明に係る他の実施形態の免震装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について図に基づいて説明する。図4は、この発明の実施形態の免震装置を示す概略断面図であり、図5は、図4のA−A矢視に対応する矢視図であり、免震装置10は、上部構造体8Aと下部構造体8Bとの間に取り付けられてこれらの構造体8A、8Bの間の振動の伝搬を減衰させるよう作用し、それぞれ複数枚の円板状のゴム層1と剛性板2とを軸方向に交互に積層した積層体5、この積層体5の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ6A、6B、および、これらの剛性フランジ6A、6Bに取り付けられ上部構造体8Aと下部構造体8Bとに固定されたそれぞれのベースプレート7A、7Bよりなっている。
【0021】
また、この免震装置10は、その特徴として、各剛性フランジ6A、6Bと、これらに対応するベースプレート7A、7Bとは、軸方向に直交する平面内の半径方向の相互の変位が拘束されており、かつ、積層体5の軸線Cの周りには相互の変位が許容されていて、これを実現するために、相対するフランジ6Aとベースプレート7A、および、相対するフランジ6Bとベースプレート7Bの半径方向中心部には、円板状をなす剪断キー20A、20Bをはめ込む筒状の穴21A、22A、21B、22Bがそれぞれ設けられていて、それらの中に剪断キー20A、20Bが配置されていて、剪断キー20Aによって、フランジ6Aとベースプレート7Aとの半径方向内外の相対変位は抑制され軸線C周りの回転変位だけが許容され、同様に、剪断キー20Bによって、フランジ6Bとベースプレート7Bとの半径方向内外の相対変位は抑制され軸線C周りの回転変位だけが許容されている。
【0022】
また、フランジ6Aとベースプレート7Aとは、ボルト11によってそれぞれが軸方向に相対変位しないよう拘束されている。図示の場合、ボルト11は、フランジ6Aの外周部付近に周方向に沿って延在する長穴12を通過してベースプレート7Aにねじ込まれていて、ボルト11とフランジ6Aとは周方向には長穴12の周方向延在距離だけ軸心の周りに相対変位が許容され、一方軸方向には、ボルト11の頭が長穴12と干渉して、フランジ6Aとベースプレート7Aとが外れることはない。この構成は、フランジ6Bとベースプレート7Bとの関係についても同様であり説明を省略する。
【0023】
図6は、本発明に係る免震装置の実施形態の変形例を示す断面図であり、この免震装置30も、免震装置10と同様に、複数枚の円板状のゴム層1と剛性板2とを軸方向に交互に積層した積層体5、この積層体5の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ16A、16B、および、これらの剛性フランジ16A、16Bに取り付けられ上部構造体8Aと下部構造体8Bとに固定されたそれぞれのベースプレート17A、17Bよりなっている。
【0024】
この変形例の免震装置30が、先に図4、図5を参照して説明した実施形態の免震装置10と異なる点は、第1に、フランジ16Aとベースプレート17Aとの、および、フランジ16Bとベースプレート17Bとの半径方向の相対変位を規制する手段として、剪断キー20A、20Bの代わりに、フランジ16A、16Bの半径方向中心部分にそれぞれ凸部31A、31Bを設けるとともに、ベースプレート17A、17Bのそれぞれに、凸部31A、31Bに対応する凹部32A、32Bを設け、凸部31A、31Bと、対応する凹部32A、32Bとの係合により、これらの、軸心周りの相対回転変位を許容しつつ半径方向内外の相対変位を規制している点であり、第2に、フランジ16Aとベースプレート17Aとの、および、フランジ16Bとベースプレート17Bとの軸方向の相対変位を規制する手段として、ボルト11を用いるのではなく、ベースプレート17A、17Bのそれぞれにフック9を設け、フック9を、ベースプレート17A、17Bと剛性フランジ16A、16Bとの軸方向の相対変位を規制しつつ軸心周りの相対変位を許容するように構成していることであり、このような構成によっても先に述べた、フランジ16Aとベースプレート17Aとの、および、フランジ16Bとベースプレート17Bとの相対変位の規制と許容とを可能にすることができる。
【0025】
なお、ここで、フランジ16A、16Bの半径方向中心部分にそれぞれ凸部31A、31Bを設け、ベースプレート17A、17Bのそれぞれに凹部32A、32Bを設ける代わりに、フランジ16A、16B側に凹部を、ベースプレート17A、17B側に凸部を設けることもできる。
【0026】
さらには、フック9は、これをベースプレート17A、17B側で固定する代わりに、フランジ16A、16Bに固定することもできる。
【符号の説明】
【0027】
1 ゴム層
2 剛性板
5 積層体
6A、6B 剛性フランジ
7A、7B ベースプレート
8A 上部構造体
8B 下部構造体
9 フック
10 免震装置
11 ボルト
12 長穴
16A、16B 剛性フランジ
17A、17B ベースプレート
20A、20B 剪断キー
21A、21B 剛性フランジの筒状の穴
22A、22B ベースプレートの筒状の穴
30 免震装置
31A、31B 剛性フランジの凸部
32A、32B ベースプレートの凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間に取り付けられてこれらの構造体の間の振動の伝搬を減衰させる、それぞれ複数枚の円板状のゴム層と剛性板とを軸方向に交互に積層した積層体、この積層体の軸方向両側に固定された一対の剛性フランジ、および、これらの剛性フランジに取り付けられ上部構造体と下部構造体とに固定されたそれぞれのベースプレートよりなる免震装置において、
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向に直交する平面内の半径方向の相互の変位が拘束されており、かつ、積層体軸線の周りには相互の回転変位が許容されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剪断キーを介して軸方向と直交する平面内の変位が拘束されていることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に軸線を中心とする円板の凸部を設け、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの他方に前記凸部に対応する凹部を設けることによって軸方向と直交する平面内の変位が拘束されていることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項4】
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、軸方向の相対変位が拘束されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の免震装置。
【請求項5】
前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとは、剛性フランジを貫通するボルトによって前記軸方向の相対変位が拘束され、剛性フランジの、ボルト貫通部分は、前記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの軸線の周りの相互の変位を許容するための長穴が周方向に延在するよう設けられていることを特徴とする請求項4に記載の免震装置。
【請求項6】
記各剛性フランジと、これに対応するベースプレートとの一方に、これらの他方との軸方向の相対変位が拘束するためのフックが取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180618(P2010−180618A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25182(P2009−25182)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】