説明

全反射減衰を利用した分析における反応速度係数の測定方法

【課題】全反射減衰を利用した分析における反応速度係数の測定方法を提供する。
【解決手段】全反射減衰を利用した分析装置を用いて全反射減衰角の角度変化を測定することにより、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数及び拡散係数を測定する方法において、吸着速度係数及び拡散係数をそれぞれ所定の幅で変化させた変数群のセットに対して、複数個の結合解離反応のシミュレーション曲線を用意し、測定した全反射減衰角の角度変化から結合解離反応の測定曲線を作製し、上記で作製した測定曲線と、複数個のシミュレーション曲線との一致度を調べ、最も一致度の高かったシミュレーション曲線の作製に用いた吸着速度係数及び拡散係数を、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数及び拡散係数とみなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全反射減衰を利用した分析(例えば、表面プラズモン共鳴分析、又は漏洩モード分析など)において、金属表面に固定化された被解析分子と、該被解析分子と相互作用する分子との反応の速度係数を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査等で免疫反応など分子間相互作用を利用した測定が数多く行われているが、従来法では煩雑な操作や標識物質を必要とするため、標識物質を必要とすることなく、測定物質の結合量変化を高感度に検出することのできるいくつかの技術が使用されている。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術である。SPR測定技術はチップの金属膜に接する有機機能膜近傍の屈折率変化を反射光波長のピークシフト又は一定波長における反射光量の変化を測定して求めることにより、表面近傍に起こる吸着及び脱着を検知する方法である。QCM測定技術は水晶発振子の金電極(デバイス)上の物質の吸脱着による発振子の振動数変化から、ngレベルで吸脱着質量を検出できる技術である。また、金の超微粒子(nmレベル)表面を機能化させて、その上に生理活性物質を固定して、生理活性物質間の特異認識反応を行わせることによって、金微粒子の沈降、配列から生体関連物質の検出ができる。以下、当技術分野で最も使われている表面プラズモン共鳴(SPR)について説明する。
【0003】
一般に使用される測定チップは、透明基板(例えば、ガラス)、蒸着された金属膜、及びその上に生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜からなり、その官能基を介し、金属表面に生理活性物質を固定化する。該生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定することによって、生体分子間の相互作用を分析する。上記したような分析を行なうための表面プラズモン共鳴測定装置としては、例えば、特許文献1に記載の装置などが挙げられる。
【0004】
該生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定する際、一般的には、被験物質と相互作用する生理活性物質を結合していない参照セルと、被験物質と相互作用する生理活性物質を結合した検出セルとを直列に連結して流路系内に設置し、該参照セルと該検出セルに液体を流すことによって、結合反応の測定を行なう。また、測定の際には、前記流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体へと交換することによって、生理活性物質と被験物質との結合反応を開始させ、時間の経過による信号変化を測定する方法が一般的である。
【0005】
上記した通り、表面プラズモン共鳴を用いたバイオセンサーにおいては、測定物のセンサー(金属膜+リガンド)へのアナライト結合を屈折率変化(およびそれに伴う暗線角度変動)として検出する。横軸を時間、縦軸に結合信号をプロットすると、いわゆる「センサーグラム」と呼ばれる信号(結合量等を示す)の経時変化を得ることができる。そして、センサーグラムに下記式(i)のような速度方程式をフィッティングし、それから、吸着速度係数(Ka)、離脱速度係数(Kd)等の速度係数を求めることが重要であり、薬物スクリーニングの現場において広く行われている。
dR/dt=Ka×C×[Rmax−R(t)]−Kd×R(t) (i)
R(t)=(Ka×C×Rmax)/(Ka×C+Kd) ×(1−exp(-Ka×C+Kd) ×t))(ii)(上記式(i)を解いたもの)
a:吸着速度係数、Kd:離脱速度係数、C:アナライト濃度(既知)、Rmax:理論的最大結合量、t:時間
【0006】
上記の通り、SPR信号で測定される結合解離反応は、吸着速度係数(Ka)、離脱速度係数(Kd)、拡散係数(D)、理論的最大結合量(Rmax)などの変数を用いて、時間と空間の微分方程式で表される。従って、これらKa、Kd、D、Rmaxの値を定めた時に、時間と空間を細かく分割し、シミュレーションを行うことにより、結合解離反応曲線を作成することは可能である。しかしながら、逆に結合解離反応曲線からKa、Kd、D、及びRmaxを算出することは困難であり、逆算できるような近似式を考えたとしても精度上の問題がある。
【0007】
そこで、測定された結合解離曲線に対し、Ka、Kd、D、Rmaxをいろいろと変化させてシミュレーションで反応曲線を作成し、測定曲線とシミュレーション反応曲線が一致したものを採用するという方式が考えられる。しかし、この方式についても、1つの反応曲線をシミュレーションで求める際に数時間〜数十時間の時間がかかる場合があるため、その場で変数をいろいろ変化させながらシミュレーションで反応曲線を作成するというやり方は実用的ではない。
【0008】
【特許文献1】特開2001−330560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高速かつ精度よく反応速度係数を算出することができる、全反射減衰を利用した分析における反応速度係数の測定方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、全反射減衰を利用した分析における反応曲線シミュレーションデータを予めテーブルとして取得しておき、当該シミュレーションデータと実測反応曲線との一致度を調べることにより、速度係数を高速かつ精度良く算出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、全反射減衰を利用した分析装置を用いて全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定することにより、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)を測定する方法において、
(1)吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)をそれぞれ所定の幅で変化させた変数群のセットに対して、複数個の結合解離反応のシミュレーション曲線を用意し、
(2)測定した全反射減衰角(θSP)の角度変化から結合解離反応の測定曲線を作製し、
(3)上記(2)で作製した測定曲線と、上記(1)の複数個のシミュレーション曲線との一致度を調べ、
(4)最も一致度の高かったシミュレーション曲線の作製に用いた吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)を、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)とみなすことを含む、上記の方法が提供される。
【0012】
好ましくは、工程(1)において、吸着速度係数(Ka)、離脱速度係数(Kd)、拡散係数(D)、理論的最大結合量(Rmax)及びC(アナライト濃度)をそれぞれ所定の幅で変化させた変数群のセットに対して、複数個の結合解離反応のシミュレーション曲線を用意することができる。
好ましくは、測定曲線とシミュレーション曲線の一致度を、誤差の二乗和を指標として調べることができる。
【0013】
好ましくは、金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、金属膜面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰角(θSP)を検出する光検出手段とを備えてなる全反射減衰を利用した分析装置を用い、前記流路系内の液体を交換後、液の流れを停止させた状態で全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定することができる。
【0014】
好ましくは、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰角(θSP)を検出する光検出手段とを備えてなる全反射減衰を利用した分析装置を用いることができる。
好ましくは、前記流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定することができる。
【0015】
好ましくは、測定曲線とシミュレーション曲線の一致度を調べる範囲として、結合信号カーブの一部、解離信号カーブの一部、またはその両方を用いることができる。
好ましくは、表面プラズモン共鳴測定装置を用いて表面プラズモン共鳴の信号変化を測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法では、反応曲線シミュレーションデータをテーブルで持つことにより、毎回計算する場合よりも高速にKa、Kd、D、またはRmaxの解を算出することができる。また、本発明の方法では、シミュレーションデータと実測反応曲線の一致度を調べることにより、反応曲線から特性値を算出する方式に比べ、精度が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の方法では、あらかじめ、Ka、Kd、D、またはRmaxを適切なきざみ幅で変化させた変数群のセットに対して、それぞれ事前に結合解離反応のシミュレーション曲線を作成しておき、これらをテーブルとして保持しておく(例えば、図3を参照)。そして、実測された結合解離反応曲線に対して、保持してあるテーブルデータとの一致度を調べ、一致度の一番高い反応曲線の作成に用いた変数群を、測定データに対する解とすることができる。
【0018】
なお、実際には、Kdについては結合解離の解離の部分から求めることができること、そして、Rmaxについては全体を定数倍する効果しかもたないためにその場で計算することが可能であること、Ka及びDの二種類のパラメータを変えたテーブルを持てば十分である。
【0019】
また、テーブルから一致度の一番高いデータを求める方式としては以下の3つが考えられる。
(1)総当り法(テーブル全てのデータで試す。)
(2)2段階探索法(テーブルを粗く調べ、一番高いデータがありそうな箇所を細かく調べる。)
(3)非線形最適化(一致度が高くなるように変数群を変化させていく。)
【0020】
上記の方式の何れかを、局所解の存在と演算時間に応じて選択することができる。総当り法、2段階探索法、及び非線形最適化について以下に説明する。
【0021】
(総当り法)
例えば、吸着速度係数(Ka)、離脱速度係数(Kd)、拡散係数(D)、C(アナライト濃度)、及び理論的最大結合量(Rmax)の5つのパラメーターに対して、簡単のためα、β、γ、δ、θというラベルをつける。例えば、各々100個のパラメータ数を使ったとするとパラメーターは、100×100×100×100×100=1010個になる。これに対し、最適なパラメーターを探すのに、
(α1、β1、γ1、δ1、θ1)→(α2、β1、γ1、δ1、θ1)→(α3、β1、γ1、δ1、θ1)→、、、
(α1、β2、γ1、δ1、θ1)→(α2、β2、γ1、δ1、θ1)→(α3、β2、γ1、δ1、θ1)→、、、
などのように、辞書的配列で順番に調べていくことができる。この方法を総当り法という。
【0022】
(2段階探索法)
例えば、αi、βj、γn、δl、θmにおいて、i、j、n、l及びmを10の倍数のみに限定して、先ず粗く調べる。その場合、10×10×10×10×10=105の少ない回数で第一段階の検討が終了する。その結果、例えば、(αp、βq、γr、δs、θt)が良いと分かったら、次に、α(p−5)〜α(p+4)、β(q−5)〜β(q+4)、、、、、の10×10×10×10×10=105のセットの中で最適なものを見つける。結局、2×105回の方法で探索できるので、時間を短縮することができる。
【0023】
(非線形最適化)
例えば、(αi、βi、γi、δi、θi)からスタートすると、αは(α(i−1)、αi、α(i+1))、βは(β(i−1)、βi、β(i+1))、、、、というように3×3×3×3×3=35個のデータを調べる。次に、この中で、例えば、(αi、β(i+1)、γ(i+1)、δi、θi)がよかったとすると、αは(α(i−1)、αi、α(i+1))、βは(βi、β(i+1)、β(i+2))、γは(γi、γ(i+1)、γ(i+2))、δは(δ(i−1)、δi、δ(i+1))、といった範囲で調べることができる。このようにして、中心となる点の前後を比較していきながら、これ以上よくならない点までサーチを行う方法が、非線形最適化(直接探索法)である。また、非線形最適化の方法としては、上記した直接探索法のほか、勾配法、逆行列演算法などがある(科学計測のための波形データ処理、計測システムにおけるマイコン/パソコン活用技術、南茂夫 編著、CQ出版社、第182〜183頁)。
【0024】
また、測定曲線とシミュレーション曲線の一致度を計算する方式としては、誤差の二乗和を見る方式が考えられる。この値が小さいほど、一致度が高いことになる。
さらに、一致度を見る際に重視したい部分がある場合、誤差二乗を単純に足し合わせるだけでなく、重みをつけることなどが考えられる。
【0025】
本発明は、金属表面に固定化された被解析分子と、該被解析分子と相互作用する分子との速度係数を測定する方法に関するものである。例えば、金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、金属膜面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用いて、前記流路系内の液体を交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の信号変化を測定することができる。
【0026】
被解析分子は金属表面に固定化された被解析分子と相互作用する分子へ時間とともに吸着する。この現象は下記式(1)で記述できる。
dθ/dt=ka×cs×(1−θ)−kd×θ (1)
式中、θは吸着率(=吸着量/飽和吸着量)、kaは吸着速度係数、kdは離脱速度係数、csは金属表面近傍の被解析分子の濃度を表す。
ここで、金属表面を定常的に新鮮な液に置換しつづけられる理想的な条件ではcsは一定となり、簡素な微分方程式を解くことで測定結果からka、kdを求めることが可能である。
【0027】
しかしながら、金属表面の流れが極めて遅く、csを一定に保つには高速に被解析分子溶液を高速に流す必要がある。一方、表面プラズモンは金属表面の流れの乱れが信号に揺らぎを与えること、および高速に流すためには被解析分子を大量に使用することとなる。このため、csを一定にすることは実際には不可能である。
【0028】
sが一定で無い場合、被解析分子の吸着、離脱による濃度変化は沖合いからの被解析分子の拡散によって変化する関数となる。このときの拡散は下記式(2)で表される。
∂c/∂t=D×∂2c/∂x2 (2)
(式中、xは金属表面からの距離、Dは被解析分子の拡散係数、cは被解析分子の濃度を表し、x=0のときc=csとなる。)
【0029】
一方、表面プラズモン信号R(被解析分子が吸着していないときの表面プラズモン信号との差)は被解析分子表面吸着量に比例することが知られており、下記式(3)で表される。
θ=R/Rmax (3)
(式中、θは吸着率(=吸着量/飽和吸着量)を示し、Rは表面プラズモン信号を示し、Rmaxは被解析分子が飽和吸着したときの信号を表す。)
【0030】
上記式(1)(2)および(3)を用いることで、Ka、Kd、D、またはRmaxを適切なきざみ幅で変化させた変数群のセットに対して、それぞれの結合解離反応のシミュレーション曲線を作成することができる。
【0031】
本発明においては、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定してもよく、これにより、測定時間内における参照セルの信号変化のノイズ幅、及びベースライン変動を抑制することができ、信頼性の高い結合検出データを取得することが可能になる。液の流れを停止させる時間は特に限定されないが、例えば、1秒以上30分以下であり、好ましくは10秒以上20分以下であり、さらに好ましくは1分以上20分以下程度である。
【0032】
本発明においては好ましくは、流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0033】
本発明においては好ましくは、被験物質と相互作用する物質を結合していない参照セルと、被験物質と相互作用する物質を結合した検出セルとを直列に連結して流路系内に設置し、該参照セルと該検出セルに液体を流すことにより、表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0034】
また、本発明においては、測定に用いるセルの体積(Vs ml)(上記した参照セルと検出セルを用いる場合はそれらのセルの合計体積)に対し、1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)は、好ましくは1以上100以下である。Ve/Vsは、より好ましくは1以上50以下であり、特に好ましくは1以上20以下である。測定に用いるセルの体積(Vs ml)は特に限定されないが、好ましくは1×10-6〜1.0ml、特に好ましくは1×10-5〜1×10-1ml程度である。また、液体の交換にかける時間としては、0.01秒以上100秒以下が好ましく、0.1秒以上10秒以下がより好ましい。
【0035】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。以下、本発明で用いる表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
【0036】
表面プラズモン共鳴測定装置とは、表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析するための装置である。本発明で用いられる表面プラズモン共鳴測定装置は、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備える。
【0037】
また、前記の通り、前記誘電体ブロックは、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている。
【0038】
本発明では、具体的には、特開2001−330560号公報記載の図1〜図32で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置、特開2002−296177号公報記載の図1〜図15で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置を好ましく用いることができる。特開2001−330560号公報および特開2002−296177号公報に記載の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
【0039】
例えば、特開2001−330560号公報記載の表面プラズモン共鳴測定装置としては、例えば、誘電体ブロック、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜からなる薄膜層、およびこの薄膜層の表面上に試料を保持する試料保持機構を備えてなる複数の測定ユニットと、これら複数の測定ユニットを支持した支持体と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の入射角で入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段と、前記複数の測定ユニットの各誘電体ブロックに関して順次前記全反射条件および種々の入射角が得られるように、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、各測定ユニットを順次前記光学系および光検出手段に対して所定位置に配置する駆動手段とを備えてなることを特徴とする表面プラズモン共鳴測定装置が挙げられる。
【0040】
なお、上記の測定装置においては、例えば前記光学系および光検出手段が静止状態に保たれるものとされ、前記駆動手段が、前記支持体を移動させるものとされる。
【0041】
その場合、前記支持体は、回動軸を中心とする円周上に前記複数の測定ユニットを支持するターンテーブルであり、また前記駆動手段は、このターンテーブルを間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、この支持体を前記複数の測定ユニットの並び方向に間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0042】
一方、上記とは反対に、前記支持体が静止状態に保たれるものであり、前記駆動手段が、前記光学系および光検出手段を移動させるものであっても構わない。
【0043】
その場合、前記支持体は、円周上に前記複数の測定ユニットを支持するものであり、前記駆動手段は、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0044】
他方、前記駆動手段が、その回動軸を支承するころがり軸受けを有するものである場合、この駆動手段は、該回動軸を一方向に回動させて前記複数の測定ユニットに対する一連の測定が終了したならば、この回動量と同量だけ該回動軸を他方向に戻してから、次回の一連の測定のためにこの回動軸を前記一方向に回動させるように構成されることが望ましい。
【0045】
また上記の測定装置においては、前記複数の測定ユニットが連結部材により1列に連結されてユニット連結体を構成し、前記支持体が、このユニット連結体を支持するように構成されていることが望ましい。
【0046】
また上記の測定装置においては、前記支持体に支持されている複数の測定ユニットの各試料保持機構に、自動的に所定の試料を供給する手段が設けられることが望ましい。
【0047】
さらに上記の測定装置においては、前記測定ユニットの誘電体ブロックが前記支持体に固定され、測定ユニットの薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが上記誘電体ブロックに対して交換可能に形成されていることが望ましい。
【0048】
そして、このような測定チップを適用する場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、前記誘電体ブロックと組み合う状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0049】
あるいは、測定ユニットの誘電体ブロック、薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが前記支持体に対して交換可能に形成されてもよい。
【0050】
測定チップをそのような構成とする場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、支持体に支持される状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0051】
他方、前記光学系は、光ビームを誘電体ブロックに対して収束光あるいは発散光の状態で入射させるように構成され、そして前記光検出手段は、全反射した光ビームに存在する、全反射減衰による暗線の位置を検出するように構成されることが望ましい。
【0052】
また上記光学系は、光ビームを前記界面にデフォーカス状態で入射させるものとして構成されることが望ましい。そのようにする場合、光ビームの上記界面における、前記支持体の移動方向のビーム径は、この支持体の機械的位置決め精度の10倍以上とされることが望ましい。
【0053】
さらに上記の測定装置において、測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光源は前記支持体より上の位置から下方に向けて前記光ビームを射出するように配設され、前記光学系は、前記下方に向けて射出された前記光ビームを上方に反射して、前記界面に向けて進行させる反射部材を備えていることが望ましい。
【0054】
また、上記の測定装置において、前記測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光学系は、前記光ビームを前記界面の下側から該界面に入射させるように構成され、前記光検出手段は前記支持体よりも上の位置で光検出面を下方に向けて配設されるとともに、前記界面で全反射した光ビームを上方に反射して、前記光検出手段に向けて進行させる反射部材が設けられることが望ましい。
【0055】
他方、上記の測定装置においては、前記支持体に支持される前および/または支持された後の前記測定ユニットを、予め定められた設定温度に維持する温度調節手段が設けられることが望ましい。
【0056】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された測定ユニットの試料保持機構に貯えられた試料を、前記全反射減衰の状態を検出する前に撹拌する手段が設けられることが望ましい。
【0057】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された複数の測定ユニットの少なくとも1つに、前記試料の光学特性と関連した光学特性を有する基準液を供給する基準液供給手段が設けられるとともに、前記光検出手段によって得られた、試料に関する前記全反射減衰の状態を示すデータを、前記基準液に関する前記全反射減衰の状態を示すデータに基づいて補正する補正手段が設けられることが望ましい。
【0058】
そのようにする場合、試料が被検体を溶媒に溶解させてなるものであるならば、前記基準液供給手段は、基準液として前記溶媒を供給するものであることが望ましい。
【0059】
さらに、上記の測定装置は、測定ユニットの各々に付与された、個体識別情報を示すマークと、測定に使用される測定ユニットから前記マークを読み取る読取手段と、測定ユニットに供給される試料に関する試料情報を入力する入力手段と、測定結果を表示する表示手段と、この表示手段、前記入力手段および前記読取手段に接続されて、各測定ユニット毎の前記個体識別情報と前記試料情報とを対応付けて記憶するとともに、ある測定ユニットに保持された試料について求められた測定結果を、その測定ユニットに関して記憶されている前記個体識別情報および前記試料情報と対応付けて前記表示手段に表示させる制御手段とを備えることが望ましい。
【0060】
上記した測定装置を用いて生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する場合、前記測定ユニットの1つにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出した後、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、別の測定ユニットにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出し、その後前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、前記1つの測定ユニットにおける試料に関して、再度全反射減衰の状態を検出することにより測定を行うことができる。
【0061】
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0062】
上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
【0063】
なおこの漏洩モード測定装置においても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
【0064】
また、上述した表面プラズモン測定装置や漏洩モード測定装置は、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモン測定装置の場合は金属膜であり、漏洩モード測定装置の場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角(θSP)の角度を測定している。
【0065】
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角(θSP)を測定し、該全反射減衰角(θSP)の角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。このような特定物質とセンシング物質との組み合わせとしては、例えば抗原と抗体、あるいは抗体と抗体が挙げられる。具体的には、ウサギ抗ヒトIgG抗体をセンシング物質として薄膜層の表面に固定し、ヒトIgG抗体を特定物質として用いることができる。
【0066】
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰角(θSP)の角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角(θSP)の角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用した測定装置に適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角(θSP)の角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる(本出願人による特願2000−398309号参照)。このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角(θSP)の角度変化量の測定を行っている。
【0067】
さらに、ターンテーブル等に搭載された複数個の測定チップの測定を順次行うことにより、多数の試料についての測定を短時間で行うことができる全反射減衰を利用した測定装置が、特開2001−330560号公報に記載されている。
【0068】
本発明で用いる測定チップは、本明細書中に記載した構成を有する表面プラズモン共鳴測定装置または漏洩モード測定装置(これらを総称して、全反射減衰を利用した分析装置とも称する)に用いられるための測定チップであって、例えば、誘電体ブロックとこの誘電体ブロックの一面に形成された金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されていてもよい。
【0069】
金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記金属膜への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0070】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0071】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0072】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0073】
金属膜は、最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「最表面」とは、「金属膜から最も遠い側」という意味である。
【0074】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0075】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、例えば、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0076】
上記のようにして得られた測定チップにおいて、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0077】
本発明の測定チップの表面上に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0078】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0079】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0080】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0081】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0082】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0083】
上記のようにして生理活性物質を固定化した測定チップは、当該生理活性物質と相互作用する物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
【0084】
例えば、生理活性物質が共有結合により表面に結合している測定チップ(セル)を少なくとも使用し、測定すべき被験物質を含有する試料液体と該セルとを接触させ、流路系内の液体を交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。被験物質としては例えば、上記した生理活性物質と相互作用する物質を含む試料などを使用することができる。
【0085】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
以下の実験は、特開2001−330560号公報の図22に記載の装置(以下、本発明の表面プラズモン共鳴測定装置と呼ぶ)(本明細書において図1として示す)、及び同公報の図23に記載の誘電体ブロック(以下、本発明の誘電体ブロックと呼ぶ)(本明細書において図2として示す)を用いて行った。
【0087】
図1に示す表面プラズモン共鳴測定装置は、測定ユニットを支持する支持体として、互いに平行に配された2本のガイドロッド400,400に摺動自在に係合し、それらに沿って図中の矢印Y方向に直線移動自在とされたスライドブロック401が用いられている。そしてこのスライドブロック401には、上記ガイドロッド400,400と平行に配された精密ねじ402が螺合され、この精密ねじ402はそれとともに支持体駆動手段を構成するパルスモータ403によって正逆回転されるようになっている。
【0088】
なおこのパルスモータ403の駆動は、モータコントローラ404によって制御される。すなわちモータコントローラ404には、スライドブロック401内に組み込まれてガイドロッド400,400の長手方向における該スライドブロック401の位置を検出するリニアエンコーダ(図示せず)の出力信号S40が入力され、モータコントローラ404はこの信号S40に基づいてパルスモータ403の駆動を制御する。
【0089】
またガイドロッド400,400の側下方には、それに沿って移動するスライドブロック401をそれぞれ左右から挟む形で、レーザ光源31および集光レンズ32と、光検出器40とが配設されている。集光レンズ32は光ビーム30を集光する。また、光検出器40が設置されている。
【0090】
ここで本実施形態においては、一例として8個の測定ユニット10を連結固定してなるスティック状のユニット連結体410が用いられ、測定ユニット10は8個一列に並べた状態でスライドブロック401にセットされるようになっている。
【0091】
図2は、このユニット連結体410の構造を詳しく示すものである。ここに示される通りユニット連結体410は、測定ユニット10が8個、連結部材411により連結されてなるものである。
【0092】
この測定ユニット10は、誘電体ブロック11と試料保持枠13とを例えば透明樹脂等から一体成形してなるものであり、ターンテーブルに対して交換可能な測定チップを構成している。交換可能とするためには、例えばターンテーブルに形成された貫通孔に、測定ユニット10を嵌合保持させる等すればよい。なお本例では、金属膜12の上にセンシング物質14が固定されている。
【0093】
実施例:
(1)デキストラン測定チップの作製
金属膜として50nmの金が蒸着された本発明の誘電体ブロックをModel-208UV−オゾンクリーニングシステム(TECHNOVISION INC.)で30分間処理した後、エタノール/水(80/20)中11−ヒドロキシ−1−ウンデカンチオールの5.0mM溶液を金属膜に接触するように添加し、25℃で18時間表面処理を行った。その後、エタノールで5回、エタノール/水混合溶媒で1回、水で5回洗浄を行った。
【0094】
次に、11−ヒドロキシ−1−ウンデカンチオールで被覆した表面を10重量%のエピクロロヒドリン溶液(溶媒:0.4M水酸化ナトリウム及びジエチレングリコールジメチルエーテルの1:1混合溶液)に接触させ、25℃の振盪インキュベーター中で4時間反応を進行させた。表面をエタノールで2回、水で5回洗浄した。
【0095】
次に、25重量%のデキストラン(T500,Pharmacia)水溶液40.5mlに4.5mlの1M水酸化ナトリウムを添加し、その溶液をエピクロロヒドリン処理表面上に接触させた。次に振盪インキュベーター中で25℃で20時間インキュベートした。表面を50℃の水で10回洗浄した。続いて、ブロモ酢酸3.5gを27gの2M水酸化ナトリウム溶液に溶解した混合物を上記デキストラン処理表面に接触させて、28℃の振盪インキュベーターで16時間インキュベートした。表面を水で洗浄し、その後上述の手順を1回繰り返した。
【0096】
(2)ProteinA固定チップの作成
上記(1)で作成したデキストラン測定チップ内の溶液を除去した後、200mM EDC(N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドハイドロクロライド)と50mM NHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)の混合溶液70μlを添加し、10分間放置した。混合溶液を除去した後、100μlの水で3回、100μlのAcetate5.0バッファー(BIAcore社製)で3回洗浄した。Acetate5.0バッファーを100μl入れた状態でこのチップを本発明の表面プラズモン共鳴測定装置に設置し、チップ内をProteinA溶液(ProteinA(ナカライテスク社製)を50μg/mlになるようAcetate5.0(BIAcore社製)に溶解したもの)に入れ替え30分間放置し、ProteinAを固定した。チップ内を1M エタノールアミン溶液に置き換え、3分間放置した。チップ内を100μlのAcetate5.0バッファーで10回洗浄した。ProteinAの固定による共鳴シグナル変化量は、500RUであった。
【0097】
(3)参照チップの作成:
上記(1)で作成したデキストラン測定チップ内の溶液を除去した後、200mM EDCと50mM NHSの混合溶液70μlを添加し、10分間放置した。混合溶液を除去した後、100μlの水で3回、100μlのAcetate5.0バッファーで3回洗浄した。チップ内を1M エタノールアミン溶液に置き換え、10分間放置した。チップ内を100μlのAcetate5.0バッファーで10回洗浄した。
【0098】
(4)流路系の作成
本発明のProteinA固定チップに対し、誘電体ブロックをシリコンゴムでふたをすることで、内容積15μlのセルを作成した。また、ふたのシリコンゴムに2箇所、1mm径の穴をあけ、内径0.5mm、外径1mmのテフロン(登録商標)チューブを通し、流路を作成した。同様に参照チップにもふた、流路を作成し、2つのチップを直列につなぎ、流路系を作成した。この流路系の2つのチップをそれぞれ、本発明の表面プラズモン共鳴測定装置に設置した。
【0099】
(5)mouse IgG結合性能評価
流路系内をHBS-EPバッファー(BIAcore社製)で満たした。HBS-EPバッファーの組成は、HEPES(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonicAcid)0.01mol/l(pH7.4)、NaCl0.15mol/l、EDTA 0.003mol/l、Surfactant P20 0.005重量%である。液交換前を基準とした信号変化を0.5秒間隔で測定した。流路系内を20μl/secの速度でmouse IgG溶液(mouse IgG(コスモバイオより購入)を10μg/mlになるようHBS-EPバッファーに溶解したもの)に置き換えた。置き換えに要した時間は5秒であった。
【0100】
以下のパラメータを持つ化合物を上記のmouse IgGとして使用し、その結合曲線を測定により得た。
Ka=31500, Kd=0.0008, D=4.884E-08, C=6.67-E08, Rmax=620
【0101】
また、このKa,Dを-20%,-10%,0,+10%にそれぞれ4段階ずつ変化させ、計16個のテーブルを作成した。
【0102】
【表1】

【0103】
テーブルデータと測定データの誤差二乗平均を計算し、一番小さいもの(表2のNo125)を選んだところ、化合物のパラメータと一致した。
【0104】
【表2】

【0105】
それぞれのテーブルデータと結合曲線を表示すると図3のようになる。全体からは良くわからないが、図4に示す拡大図をみると、確かに測定データと一番近いものがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】図1は、実施例で用いた表面プラズモン共鳴測定装置を示す。
【図2】図2は、実施例で用いた誘電体ブロックを示す。
【図3】図3は、実施例の測定データと16個のシミュレーションデータを示す。
【図4】図4は、図3の拡大図(170<x<200, 350<y<400の部分の拡大)を示す。
【符号の説明】
【0107】
10 測定ユニット
11 誘電体ブロック
12 金属膜
13 試料保持枠
14 センシング物質
30 光ビーム
31 レーザ光源
32 集光レンズ
40 光検出器
S40 出力信号
400 ガイドロッド
401 スライドブロック
402 精密ねじ
403 パルスモータ
404 モータコントローラ
410 ユニット連結体
411 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全反射減衰を利用した分析装置を用いて全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定することにより、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)を測定する方法において、
(1)吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)をそれぞれ所定の幅で変化させた変数群のセットに対して、複数個の結合解離反応のシミュレーション曲線を用意し、
(2)測定した全反射減衰角(θSP)の角度変化から結合解離反応の測定曲線を作製し、
(3)上記(2)で作製した測定曲線と、上記(1)の複数個のシミュレーション曲線との一致度を調べ、
(4)最も一致度の高かったシミュレーション曲線の作製に用いた吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)を、金属表面に固定化された被解析分子と該被解析分子と相互作用する分子との反応における吸着速度係数(Ka)及び拡散係数(D)とみなすことを含む、上記の方法。
【請求項2】
工程(1)において、吸着速度係数(Ka)、離脱速度係数(Kd)、拡散係数(D)、理論的最大結合量(Rmax)及びC(アナライト濃度)をそれぞれ所定の幅で変化させた変数群のセットに対して、複数個の結合解離反応のシミュレーション曲線を用意する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定曲線とシミュレーション曲線の一致度を、誤差の二乗和を指標として調べる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、金属膜面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰角(θSP)を検出する光検出手段とを備えてなる全反射減衰を利用した分析装置を用い、前記流路系内の液体を交換後、液の流れを停止させた状態で全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定する、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して全反射減衰角(θSP)を検出する光検出手段とを備えてなる全反射減衰を利用した分析装置を用いる、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記流路系内の液体を、測定すべき被験物質を含有しない対照液体から、測定すべき被験物質を含有する試料液体へと交換し、その後、試料液体の流れを停止させた状態で全反射減衰角(θSP)の角度変化を測定する、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
測定曲線とシミュレーション曲線の一致度を調べる範囲として、結合信号カーブの一部、解離信号カーブの一部、またはその両方を用いることを特徴とする、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
表面プラズモン共鳴測定装置を用いて表面プラズモン共鳴の信号変化を測定する、請求項1から7の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−40746(P2007−40746A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222953(P2005−222953)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】