全方位三次元計測装置
【課題】 1台のカメラによりステレオ計測の原理で全方位三次元計測を行うこと。
【解決手段】 本発明は、上記の問題を解決するために、1台のカメラと、該カメラの光軸に沿って前方に配置した2枚の平板状の反射鏡と、前記カメラおよび前記反射鏡を回転させる回転テーブルとを具備し、前記カメラおよび反射鏡を回転させて、全方位の画像を生成し三次元計測を行う。
【解決手段】 本発明は、上記の問題を解決するために、1台のカメラと、該カメラの光軸に沿って前方に配置した2枚の平板状の反射鏡と、前記カメラおよび前記反射鏡を回転させる回転テーブルとを具備し、前記カメラおよび反射鏡を回転させて、全方位の画像を生成し三次元計測を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パノラマ画像を生成して該パノラマ画像の各画素の奥行きを計測する三次元計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パノラマ画像を生成して該パノラマ画像の各画素の奥行きを測定するために、所謂画像モザイキングを利用した方法がある。この方法では、カメラを回転台に載置、固定して、回転台を回転させてカメラにより全方位を撮影し、得られた画像をつなぎ合わせることによりパノラマ画像が生成される。このようにして2枚以上のパノラマ画像を取得し、ステレオ計測の原理で三次元計測が行われる。この方法は、比較的高い解像度のパノラマ画像が得られるので、高い測定密度の三次元計測が行える。
【0003】
三次元計測を行うためには、2枚以上のパノラマ画像を取得しなければならないが、2枚のパノラマ画像を1台の回転カメラを用いて取得することが、非特許文献1〜3に開示されている。図1に従来技術によるパノラマ画像撮影装置を示す。
【0004】
この方法では、図15に示すように、先ず、1台のカメラ10を回転中心Oに関して半径方向外方へ向けて、回転中心O回りに回転自在の回転台12に取付ける。このとき、カメラ10は、その光軸が回転中心Oを通るように配置される。次いで、回転台12を回転させて、カメラ10により撮影する。こうして得られた撮影された画像データを、図16に示すように、回転角度毎に順次並べて、左右対称の2つのスリットを通して画像データを抽出し、2枚のパノラマ画像を生成する。ただし、カメラの光学中心の位置が回転中心と一致していると、得られる2枚のパノラマ画像に視差が生じないため奥行きは推定できない。よって、カメラ配置は、光学中心の位置を回転中心からずらしておく必要がある。
【0005】
この方法は、カメラを1台しか利用しないことに加え、ステレオ計測の際に行われる対応点探索が、パノラマの水平軸(θ軸)に限定されるため、画像間のマッチング計算が簡単(エピポーラ拘束が単純)であるという利点を持つ。
【0006】
然しながら一方で、(1)ステレオ計測の精度に影響するベースラインが短く推定精度が悪い、(2)1組のステレオペアのみを利用しているため画像ノイズやオクルージョン(隠れ)に弱い、という2つの問題がある。
【0007】
まず、(1)のベースラインについて説明する。
この従来技術による方法では、図17に示すように、空間内の点Pが左右のスリットに観測されたとき、点Pの奥行きλが計算できるという原理を利用して三次元計測が行われる。すなわち、パノラマ間の対応点が得られれば、角度方向の視差(2Δθ)が得られ、既知の回転半径rとスリット間画角ψから以下の式(1)により奥行きλが得られる。
【数1】
【0008】
このとき、ステレオ計測における無限遠方の測定対象点に対するベースライン長は、図18において長さBで示され、以下の式(2)により得られる。
B=2rsinθ …(2)
【0009】
この長さが大きいほど、ステレオ計測の際の奥行き推定精度が高くなることが知られている。然しながら、このベースライン長は、スリットの画角ψに制限されており、一般的なカメラではψは高々20°程度であるため、Bはカメラの回転半径rの70%程度とかなり小さくなってしまう。
【0010】
また、パノラマ画像を2枚しか利用しない場合、撮影時に画像中にノイズが入ったり、オクルージョンによって見えない部分が存在したりした場合、正しい対応点が得られないことがある。これが(2)の問題であり、この問題を解決するためには、より多くのパノラマ画像を取得して利用することが望ましい。
【0011】
その他の従来技術による方法として、2枚以上のパノラマ画像を、複数の回転カメラから取得する方法が非特許文献4、5に開示されている。非特許文献4では、画像ノイズの問題を低減するために、複数のカメラを利用している。また、非特許文献5の方法では、ベースラインを大幅に向上することが可能である。然しながら、複数カメラを利用するこれらの方法の場合、カメラ間の配置に関するキャリブレーションや、カメラ特性の違いによって生じる画像の明るさや色ずれなどのキャリブレーションを正確に行わなければならないという問題が生じる。
【0012】
【非特許文献1】H. Ishiguro, M. Yamamoto, and S. Tsuji,“Omni-Directional Stereo”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 14, No. 2, pp. 257-262, February 1992
【非特許文献2】S. Peleg, M. Ben-Ezra, and Y. Pritch,“Omnistereo: Panoramic Depth Imaging”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 23, No. 3, pp. 279-290, March 2001
【非特許文献3】P. Peer and F. Solina,“Panoramic Depth Imaging: Single Standard Camera Approach”, International Journal of Computer Vision, Vol. 47, No. 1-3, pp. 149-160, June 2002
【非特許文献4】Y. Li, H-Y Shum, C-K Tang, and R. Szeliski,“Stereo Reconstruction from Multiperspective Panoramas”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 26, No. 1, pp. 45-62, January 2004
【非特許文献5】姜 偉、杉本茂樹、奥富正敏、“ステレオマルチパースペクティブパノラマによる全方位三次元再構成”、電子情報通信学会PRMU研究会発表資料 2004年1月22、23日 大阪府立大学 学術交流会館 信学技報 Vol. 103, No. 585, pp. 77-82, PRMU2003-211
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、複数のカメラを用いたときに発生するカメラキャリブレーション等の問題を回避するために、複数のカメラを用いることなく1台のカメラによる全方位三次元計測を可能とする全方位三次元計測装置を提供することを目的とする。
【0014】
更に、本発明は、1台のカメラを用いて、ステレオ計測におけるベースライン長を増大すること、ステレオ計測における簡単なエピポーラ拘束を実現すること、ステレオ計測の際に問題となる画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の本発明は、所定の軸線に関して所定の角度を以て交差するように光軸を前記軸線を中心として回転自在に設けられたカメラと、前記カメラに関して相対移動することなく、前記回転台および前記カメラと共に回転するように設けられた一対の反射鏡であって、該反射鏡は、反射した光が前記カメラの対物レンズに入射できるように、前記カメラの前方に前記光軸に関して所定の角度を以て配向された一対の反射鏡とを具備し、
前記カメラを前記軸線に関して所定の角度毎に回転して、前記カメラにより前記軸線回りのシーンを撮影するようにした全方位三次元計測装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1台のカメラと、該カメラの前方に配置した一対の反射鏡と、前記カメラおよび反射鏡を回転させるための回転台によって複数のカメラを用いることなく全方位三次元計測が可能となる。
【0017】
前記カメラを反射鏡と共に回転して撮影することにより得られた画像をモザイキングすることにより全方位パノラマ画像を生成し、ステレオ計測の原理を利用して三次元計測がなされる。この方法により、全方位画像センサを利用したときと比較して計測密度の高い全方位三次元計測が可能となる。
【0018】
反射鏡の配置を調節することにより、実カメラの回転半径より格段に大きなベースライン長を実現可能である。
また、反射鏡の配置を調節することにより、仮想的な対称配置の2台のカメラによる簡単なエピポーラ拘束が実現可能である。
【0019】
一対の反射鏡間に隙間を設けて画像を撮影することにより、ステレオ計測における基準パノラマ画像が取得される。また、反射鏡の配置を調節することにより、この基準パノラマ画像に対して左右対称となる、仮想カメラに撮影された画像と同等の参照パノラマ画像を得ることが可能となる。基準パノラマ画像と、2枚の参照パノラマ画像を利用して三次元計測を行うことにより、画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響が低減される。
【0020】
画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減するための別の方法として、上記装置を回転させることにより得られる画像全体を利用して、時空間画像中の軌跡を抽出することにより、三次元計測を行う。これにより、ステレオ計測の際に問題となる画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明による全方位三次元計測装置の好ましい実施形態を説明する。
先ず、図1を参照すると、全方位三次元計測装置100は、回転中心Orを形成する鉛直軸線を中心として回転自在に設けられた回転台102と、該回転台102の周縁部に取付けられたカメラ104と、該カメラ104の前方または半径方向外側に配設された平板状の一対の反射鏡106a、106bとを主要な構成要素として具備している。カメラ104は、デジタルカメラであることが好ましい。然しながら、通常のカメラを用いて写真フィルムにシーンを撮影し、該フィルムを現像した後に、ネガフィルムまたは印画紙上に形成された画像を走査して、デジタル処理してもよい。
【0022】
カメラ104は、その光軸aが回転中心Orを通り、かつ前記鉛直軸線に対して垂直となるように回転台100に固定されている。一対の反射鏡106a、106bはカメラの前方に配置され、各反射鏡106a、106bの各々の平面の法線が、前記鉛直軸線に対して垂直となるように配置される。反射鏡106a、106bの反射面はカメラ側にある。こうして、反射鏡106a、106bは、該反射鏡106a、106bで反射した光はカメラ104の対物レンズに入射できるように、回転中心Orに関する半径方向沿いにカメラ104の前方に、光軸Orに関して所定の角度αを以て配向される。また、一対の反射鏡106a、106bは、両者間に隙間gが形成されるように配置される。この構成により、カメラ104によって撮影される画像は、図2に示すように、左右一対の反射鏡106a、106bおよび隙間gに対応した3つの領域に分割される。こうした構成によって、回転台102を回転中心Or回りに回転し、所定の回転角度θ毎に全方位360°に渡ってシーンを撮影する。そして、得られた画像を用いてステレオ計測の原理で三次元計測を行う。
【0023】
この装置のように一対の反射鏡106a、106bによって視野分割を行うことにより、1台のカメラは、2台の仮想的なカメラの役割をも同時になし、結果として3台のカメラの役割を果たす。1台の実カメラと仮想的な2台の仮装的なカメラについて詳しく説明する。図3は、左の反射鏡106aに対応する仮想カメラ110を示している。実カメラ104の回転半径rと、左の反射鏡106aの位置と、角度αが正確にわかっている場合、図3に示した左反射鏡106aに対応する仮想カメラ110の光学中心C1と、その光軸a′の方向は演算により得ることができる。また、仮想カメラ110の回転半径Rは以下の式(3)により得られる。
【数2】
【数3】
【0024】
ここで、
R:仮想カメラの回転半径
r:実カメラの回転半径
α:実カメラの光軸と反射鏡の平面がなす角度
L:光軸aと反射鏡の平面の交点と回転中心との間の距離
である。
【0025】
反射鏡106aは実カメラ104の前方に配置されているので、L>rである。従って、仮想カメラ110の回転半径Rは、実カメラ104の回転半径rよりも大きくなる。ただし、この左の反射鏡106aに対応する仮想カメラ110は、右側半分以下の視界しか持たない。同様に、右の反射鏡106bに対応する仮想カメラも考えることができ、その仮想カメラは左半分以下の視界しか持たない。
【0026】
反射鏡の配置を決定する距離Lは、実カメラの回転半径rと該実カメラの大きさを加えた長さよりも十分大きくとる。また、反射鏡の角度αは実カメラの画角に依存し、仮想円112の接線方向からの光線反射が実カメラの視野領域に入るように調整する。
【0027】
次に、上述した装置を用いたパノラマ画像の生成方法を説明する。
先ず、回転台102を回転させて、カメラ104により回転中心Or回りに全方位360°にわたって所定の角度θ毎に複数の画像を撮影する。次いで、各θにおいて得られる画像を、図5に示すように、撮影の順にθ方向へ並べて360°に渡る時空間画像130を生成する。時空間画像130は、左の反射鏡106aで反射してカメラ104により撮影された左画像領域132と、右の反射鏡106bで反射してカメラ104により撮影された右画像領域134と、中央の隙間gを通過してカメラ104により撮影された中央画像領域136とから成る。
【0028】
時空間画像130の左画像領域132の縦スリット132aによって得られる部分を、回転角θ毎に順に抽出して左パノラマ画像132bが生成され、同様に、右画像領域134の縦スリット134aから右パノラマ画像134bが生成され、中央画像領域136の縦スリット136aから中央パノラマ画像136aが生成される(図6参照)。時空間画像130を生成することなく、回転角θ毎に撮影された画像データ中の縦スリット134a、134b、136bに相当する画像データを蓄積して左右および中央のパノラマ画像132b、134b、136bを生成してもよい。こうして得られた3枚のパノラマ画像、つまり左パノラマ画像、中央パノラマ画像、右パノラマ画像の例を図6に示す。
【0029】
ここで、縦スリット132a、134a、136aは、回転中心Orを決定する軸線に平行に定義される。また、左右領域の縦スリット132a、134aは、好ましくは、対応するカメラ視線が回転半径Rによって定まる円の接線方向になるように決定される。このとき、反射鏡106a、106bの角度αは、円の接線方向からの光線反射が実カメラ104の視野領域内に入るように調整しなければならない。
【0030】
以下、これらのパノラマ画像を利用して、ステレオ計測の原理で三次元計測を行う方法を説明する。
本発明の第1の実施形態による三次元計測方法では、左パノラマ画像132bと、右パノラマ画像134bの2枚のみを利用して三次元計測を行う。なお、以下の説明では、左パノラマ画像132bを基準パノラマ画像とし、右パノラマ画像134bを参照画像とする。
【0031】
先ず、左パノラマ画像132bにおいて、奥行きを求めたい注目画素を選択し、その注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが決定されると、その注目画素の位置に対応する、右パノラマ画像134b中の画素座標が計算できる。次いで、左パノラマ画像132b上の注目画素と、右パノラマ画像134b上の対応画素の各々の濃淡値を求め、注目画素と対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を、あらかじめ設定したウィンドウに関して計算し、奥行き候補λに対する評価値とする。奥行き候補λが正しい奥行きであれば、SSDは小さくなる。こうして、λを変化させてSSDを計算し、最小の値を得たλを、注目画素に対する奥行きとする。この操作を、左パノラマ画像132b上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0032】
この方法の場合、ステレオ計測におけるベースライン長は、図7中のB1で示すように、仮想カメラの回転直径となる。このベースライン長は、1台のカメラを利用した従来技術による方法におけるベースライン長よりも格段に大きくなる。また、ステレオ計測におけるエピポーラ拘束は、1台のカメラを利用した従来技術による方法と同様に非常に単純である。
【0033】
次に、第2の実施形態による三次元計測方法を説明する。
第2の実施形態では、第1の実施形態で用いた左右のパノラマ画像132b、134bに加えて、中央領域のパノラマ画像136bを用いて各画素の奥行きを求める。すなわち、中央パノラマ画像136bが基準パノラマ画像となり、左右のパノラマ画像132b、134bが参照画像となる。第1の実施形態と同様に、基準パノラマ画像において、奥行きを求めたい注目画素を選択する。また、その注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが定まると、その注目画素の位置に対応する、左パノラマ画像132b中の画素座標が計算できる。次いで、基準パノラマ画像上の注目画素と、左パノラマ画像132b上の対応画素の各々の濃淡値を求め、注目画素と対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を計算する。同様に、右パノラマ画像134bに対してもSSDを計算する。
【0034】
こうして得られた2つのSSDを加算してSSSD(Sum of SSD)を求め、奥行き候補λに対する評価値とする。奥行き候補λが正しい奥行きであれば、左右パノラマ画像132b、134bの各々のSSDは小さくなり、得られるSSSDも小さくなる。よって、λを変化させてSSSDを計算し、最小の値を得たλを、注目画素に対する奥行きとする。この操作を、基準パノラマ画像上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0035】
ここで、本実施形態におけるステレオ計測におけるベースライン長は、図7中のB2で示すように、仮想カメラの回転半径Rとなる。この回転半径Rは、第1の実施形態のベースライン長B1、および実カメラ104の回転半径rよりも大きい。従って、本実施形態におけるベースライン長は、第1の実施形態による方法および1台のカメラを利用した従来技術による方法におけるベースライン長よりも大幅に大きくなる。
【0036】
また、3枚のパノラマを利用した場合では、右パノラマ画像132b中に画像ノイズが存在した場合に、基準パノラマ画像(中央パノラマ画像136b)と右パノラマ画像132b間のSSD値が小さくならないことが生じ得る。然しながら、本実施形態では、左パノラマ画像134bで得られたSSDも同様に利用するため、二つを加算したSSSD値は、他のλにおけるSSDよりも小さくなることが期待できる。これにより、画像ノイズの影響を低減できる。
【0037】
更に、右パノラマ画像132b中でオクルージョンが発生した場合も、基準パノラマ画像136bと右パノラマ画像132b間のSSD値は小さくならない。然しながら、一般に、右パノラマ画像132bと左パノラマ画像134bで同時にオクルージョンが発生することは少ないので、二つを加算したSSSD値は、他のλにおけるSSDよりも小さくなることが期待できる。これにより、オクルージョンの影響も低減できる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態による三次元計測方法を説明する。本実施形態では、特定のパノラマ画像間のSSDを計算するのではなく、図5に示した時空間画像130全体から軌跡を抽出することにより三次元計測を行う。本実施形態では、第2の実施形態と同様に中央パノラマ画像136bを基準パノラマ画像とする。
【0039】
まず、基準パノラマ画像である中央パノラマ画像136bにおいて、奥行きを求めたい注目画素を選択し、該注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが決定されると、その注目画素の位置に対応する、左画像領域132中の対応点の軌跡が計算できる。そこで、中央パノラマ画像136b中の注目画素と、左画像領域132において対応する対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を、対応点の軌跡に渡って加算しSSSDを求める。同様に、右画像領域134中の対応点の軌跡に関してもSSSDを計算する。この2つのSSSDを、異なるλについて全て計算する。例えば、合計N個のλについてSSSDを計算すると、合計2×N個のSSSDが得られる。このSSSDの中で、最も小さいSSSDに対応するλを、注目画素に対する奥行き推定結果λとする。この操作を、基準パノラマ画像上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0040】
第2の実施形態では、中央パノラマ画像136bを基準パノラマ画像とし、左右パノラマ画像132b、134bを2枚の参照画像として利用して奥行き推定を行っているが、第3の実施形態では、より多くの参照画像を利用して奥行きを推定しているのと等価である。つまり、第3の実施形態では、左画像領域132に注目すると、左画像領域132全ての縦スリットで構成されるパノラマ画像を利用してSSSDを計算することと等価である。よって、左画像領域132だけで画像ノイズの影響を低減した三次元計測ができる。このとき、各縦スリットに対応するベースライン長が存在する。よって、第3の実施形態では、複数の異なるベースライン長のステレオ計測を利用した三次元計測となり、そのベースライン長の最大値は、第2の実施形態で述べたB2と同じになる。同様に、右画像領域134のみを利用して三次元計測ができるが、一方の反射鏡の領域でオクルージョンが発生した場合、その領域全体に渡って注目画素に対応する対応点の軌跡が失われる可能性があるため、それぞれの反射鏡領域のSSSDを別々に評価する。これにより、オクルージョンの影響を低減できる。さらに、多くのパノラマ画像を利用する効果として、画像に含まれる繰り返しパターンによる誤対応の問題も改善することができる。
【0041】
既述した第1から第3の実施形態による方法によれば、1台のカメラを利用した従来技術による方法のものよりも大きなベースライン長を利用できる。例えば、図4においてα=45°、L=2rとすると、(1)第1の実施形態では、B1=2R=2r51/2となるため、1台のカメラを利用した従来技術による方法(B=2rsinψ、ψ=20°)よりも約6.54倍のベースラインを持ち、(2)第2の実施形態では、B2=R=r51/2となるため、1台のカメラを利用した従来技術による方法(B=2rsinψ、ψ=20°)よりも約3.27倍のベースラインを持ち、(3)第3の実施形態では、複数のベースラインを持つステレオ計測の組み合わせになるが、その最大ベースライン長は第2の実施形態と同じである。
【0042】
また、第2と第3の実施形態による方法では、画像ノイズに対する影響を低減でき、その効果は第3の実施形態による方法において最も高い。さらに、第2と第3の実施形態による方法では、オクルージョンに対する影響を低減でき、その効果は第3の実施形態による方法において最も効果的である。
【実施例】
【0043】
以下、シミュレーション実験を行った結果を示す。CGを利用して一辺が2.5メートル四方の部屋を作成し、壁にテクスチャを貼り付けたものを生成した。また、部屋の中にボールと円柱を配置した。
【0044】
図4に示したパラメータについて、それぞれ、r=133.3[mm]、L=200[mm]、α=47.9°として、第3の実施形態による方法を利用して三次元形状復元を行った。このとき仮想カメラ110の回転半径はR=212.9[mm]であった。また、本発明の効果を示すため、1台のカメラを用いた従来方法(ψ=20°)との比較を行った。
【0045】
図8は、従来方法と第3の実施形態による方法で得られたパノラマ画像を示している。図9は、2つの方法による三次元奥行き推定結果をモノクロ画像で示したものであり、近くの点ほど白く表示されるように表示してある。図10は、2つの方法による三次元奥行き推定結果を断面図として表示したものである。これらの結果において、本発明システムを用いた第3の実施形態による方法の奥行き推定結果が、従来方法よりも良好であることがわかる。図11は、このようにして得られた奥行き推定結果に、テクスチャを貼り付けたものである。
【0046】
次に、実画像実験をおこなった結果を示す。
図4に示したパラメータについて、それぞれ、r=198.343[mm]、L=230.0[mm]、左反射鏡のα=46.725°、右反射鏡のα=48.688°として、第3の実施形態による方法を利用して三次元形状復元を行った。また、本発明の効果を示すため、1台のカメラを用いた従来方法(ψ=20°)との比較を行った。
【0047】
図12は、従来方法と第3の実施形態による方法で得られたパノラマ画像を示している。図13は、2つの方法による三次元奥行き推定結果をモノクロ画像で示したものであり、既述のものと同様に、近くの点ほど白く表示されるように表示している。図14は、三次元奥行き推定結果を断面図として表示したものである。発明システムを用いた方法が、従来方法よりも良好な結果が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の好ましい実施形態による三次元計測装置の概略図平面図である。
【図2】図1の装置により撮影された画像の一例である。
【図3】図1の装置における左の反射鏡に対応する仮想カメラを説明するための説明図である。
【図4】図1の装置における左の反射鏡に対応する仮想カメラを説明するための説明図である。
【図5】時空間画像を説明するための説明図である。
【図6】パノラマ画像の一例を示す図である。
【図7】本発明による三次元計測装置におけるベースライン長を説明するための説明図である。
【図8】従来技術と本発明による実験結果を比較するためのパノラマ画像の一例を示す図である。
【図9】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図10】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図11】実験に用いて三次元モデルを示す図である。
【図12】従来技術と本発明による実験結果を比較するためのパノラマ画像の一例を示す図である。
【図13】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図14】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図15】従来技術によるパノラマ画像撮影装置の略示斜視図である。
【図16】従来技術によるパノラマ画像生成方法を説明するための説明図である。
【図17】従来技術による計測方法を説明するための説明図である。
【図18】従来技術におけるベースライン長を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0049】
100 三次元計測装置
102 回転台
104 カメラ
106a 反射鏡
106b 反射鏡
【技術分野】
【0001】
本発明は、パノラマ画像を生成して該パノラマ画像の各画素の奥行きを計測する三次元計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パノラマ画像を生成して該パノラマ画像の各画素の奥行きを測定するために、所謂画像モザイキングを利用した方法がある。この方法では、カメラを回転台に載置、固定して、回転台を回転させてカメラにより全方位を撮影し、得られた画像をつなぎ合わせることによりパノラマ画像が生成される。このようにして2枚以上のパノラマ画像を取得し、ステレオ計測の原理で三次元計測が行われる。この方法は、比較的高い解像度のパノラマ画像が得られるので、高い測定密度の三次元計測が行える。
【0003】
三次元計測を行うためには、2枚以上のパノラマ画像を取得しなければならないが、2枚のパノラマ画像を1台の回転カメラを用いて取得することが、非特許文献1〜3に開示されている。図1に従来技術によるパノラマ画像撮影装置を示す。
【0004】
この方法では、図15に示すように、先ず、1台のカメラ10を回転中心Oに関して半径方向外方へ向けて、回転中心O回りに回転自在の回転台12に取付ける。このとき、カメラ10は、その光軸が回転中心Oを通るように配置される。次いで、回転台12を回転させて、カメラ10により撮影する。こうして得られた撮影された画像データを、図16に示すように、回転角度毎に順次並べて、左右対称の2つのスリットを通して画像データを抽出し、2枚のパノラマ画像を生成する。ただし、カメラの光学中心の位置が回転中心と一致していると、得られる2枚のパノラマ画像に視差が生じないため奥行きは推定できない。よって、カメラ配置は、光学中心の位置を回転中心からずらしておく必要がある。
【0005】
この方法は、カメラを1台しか利用しないことに加え、ステレオ計測の際に行われる対応点探索が、パノラマの水平軸(θ軸)に限定されるため、画像間のマッチング計算が簡単(エピポーラ拘束が単純)であるという利点を持つ。
【0006】
然しながら一方で、(1)ステレオ計測の精度に影響するベースラインが短く推定精度が悪い、(2)1組のステレオペアのみを利用しているため画像ノイズやオクルージョン(隠れ)に弱い、という2つの問題がある。
【0007】
まず、(1)のベースラインについて説明する。
この従来技術による方法では、図17に示すように、空間内の点Pが左右のスリットに観測されたとき、点Pの奥行きλが計算できるという原理を利用して三次元計測が行われる。すなわち、パノラマ間の対応点が得られれば、角度方向の視差(2Δθ)が得られ、既知の回転半径rとスリット間画角ψから以下の式(1)により奥行きλが得られる。
【数1】
【0008】
このとき、ステレオ計測における無限遠方の測定対象点に対するベースライン長は、図18において長さBで示され、以下の式(2)により得られる。
B=2rsinθ …(2)
【0009】
この長さが大きいほど、ステレオ計測の際の奥行き推定精度が高くなることが知られている。然しながら、このベースライン長は、スリットの画角ψに制限されており、一般的なカメラではψは高々20°程度であるため、Bはカメラの回転半径rの70%程度とかなり小さくなってしまう。
【0010】
また、パノラマ画像を2枚しか利用しない場合、撮影時に画像中にノイズが入ったり、オクルージョンによって見えない部分が存在したりした場合、正しい対応点が得られないことがある。これが(2)の問題であり、この問題を解決するためには、より多くのパノラマ画像を取得して利用することが望ましい。
【0011】
その他の従来技術による方法として、2枚以上のパノラマ画像を、複数の回転カメラから取得する方法が非特許文献4、5に開示されている。非特許文献4では、画像ノイズの問題を低減するために、複数のカメラを利用している。また、非特許文献5の方法では、ベースラインを大幅に向上することが可能である。然しながら、複数カメラを利用するこれらの方法の場合、カメラ間の配置に関するキャリブレーションや、カメラ特性の違いによって生じる画像の明るさや色ずれなどのキャリブレーションを正確に行わなければならないという問題が生じる。
【0012】
【非特許文献1】H. Ishiguro, M. Yamamoto, and S. Tsuji,“Omni-Directional Stereo”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 14, No. 2, pp. 257-262, February 1992
【非特許文献2】S. Peleg, M. Ben-Ezra, and Y. Pritch,“Omnistereo: Panoramic Depth Imaging”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 23, No. 3, pp. 279-290, March 2001
【非特許文献3】P. Peer and F. Solina,“Panoramic Depth Imaging: Single Standard Camera Approach”, International Journal of Computer Vision, Vol. 47, No. 1-3, pp. 149-160, June 2002
【非特許文献4】Y. Li, H-Y Shum, C-K Tang, and R. Szeliski,“Stereo Reconstruction from Multiperspective Panoramas”, IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence, Vol. 26, No. 1, pp. 45-62, January 2004
【非特許文献5】姜 偉、杉本茂樹、奥富正敏、“ステレオマルチパースペクティブパノラマによる全方位三次元再構成”、電子情報通信学会PRMU研究会発表資料 2004年1月22、23日 大阪府立大学 学術交流会館 信学技報 Vol. 103, No. 585, pp. 77-82, PRMU2003-211
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、複数のカメラを用いたときに発生するカメラキャリブレーション等の問題を回避するために、複数のカメラを用いることなく1台のカメラによる全方位三次元計測を可能とする全方位三次元計測装置を提供することを目的とする。
【0014】
更に、本発明は、1台のカメラを用いて、ステレオ計測におけるベースライン長を増大すること、ステレオ計測における簡単なエピポーラ拘束を実現すること、ステレオ計測の際に問題となる画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の本発明は、所定の軸線に関して所定の角度を以て交差するように光軸を前記軸線を中心として回転自在に設けられたカメラと、前記カメラに関して相対移動することなく、前記回転台および前記カメラと共に回転するように設けられた一対の反射鏡であって、該反射鏡は、反射した光が前記カメラの対物レンズに入射できるように、前記カメラの前方に前記光軸に関して所定の角度を以て配向された一対の反射鏡とを具備し、
前記カメラを前記軸線に関して所定の角度毎に回転して、前記カメラにより前記軸線回りのシーンを撮影するようにした全方位三次元計測装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、1台のカメラと、該カメラの前方に配置した一対の反射鏡と、前記カメラおよび反射鏡を回転させるための回転台によって複数のカメラを用いることなく全方位三次元計測が可能となる。
【0017】
前記カメラを反射鏡と共に回転して撮影することにより得られた画像をモザイキングすることにより全方位パノラマ画像を生成し、ステレオ計測の原理を利用して三次元計測がなされる。この方法により、全方位画像センサを利用したときと比較して計測密度の高い全方位三次元計測が可能となる。
【0018】
反射鏡の配置を調節することにより、実カメラの回転半径より格段に大きなベースライン長を実現可能である。
また、反射鏡の配置を調節することにより、仮想的な対称配置の2台のカメラによる簡単なエピポーラ拘束が実現可能である。
【0019】
一対の反射鏡間に隙間を設けて画像を撮影することにより、ステレオ計測における基準パノラマ画像が取得される。また、反射鏡の配置を調節することにより、この基準パノラマ画像に対して左右対称となる、仮想カメラに撮影された画像と同等の参照パノラマ画像を得ることが可能となる。基準パノラマ画像と、2枚の参照パノラマ画像を利用して三次元計測を行うことにより、画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響が低減される。
【0020】
画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減するための別の方法として、上記装置を回転させることにより得られる画像全体を利用して、時空間画像中の軌跡を抽出することにより、三次元計測を行う。これにより、ステレオ計測の際に問題となる画像ノイズ、オクルージョン、繰り返しパターンの影響を低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明による全方位三次元計測装置の好ましい実施形態を説明する。
先ず、図1を参照すると、全方位三次元計測装置100は、回転中心Orを形成する鉛直軸線を中心として回転自在に設けられた回転台102と、該回転台102の周縁部に取付けられたカメラ104と、該カメラ104の前方または半径方向外側に配設された平板状の一対の反射鏡106a、106bとを主要な構成要素として具備している。カメラ104は、デジタルカメラであることが好ましい。然しながら、通常のカメラを用いて写真フィルムにシーンを撮影し、該フィルムを現像した後に、ネガフィルムまたは印画紙上に形成された画像を走査して、デジタル処理してもよい。
【0022】
カメラ104は、その光軸aが回転中心Orを通り、かつ前記鉛直軸線に対して垂直となるように回転台100に固定されている。一対の反射鏡106a、106bはカメラの前方に配置され、各反射鏡106a、106bの各々の平面の法線が、前記鉛直軸線に対して垂直となるように配置される。反射鏡106a、106bの反射面はカメラ側にある。こうして、反射鏡106a、106bは、該反射鏡106a、106bで反射した光はカメラ104の対物レンズに入射できるように、回転中心Orに関する半径方向沿いにカメラ104の前方に、光軸Orに関して所定の角度αを以て配向される。また、一対の反射鏡106a、106bは、両者間に隙間gが形成されるように配置される。この構成により、カメラ104によって撮影される画像は、図2に示すように、左右一対の反射鏡106a、106bおよび隙間gに対応した3つの領域に分割される。こうした構成によって、回転台102を回転中心Or回りに回転し、所定の回転角度θ毎に全方位360°に渡ってシーンを撮影する。そして、得られた画像を用いてステレオ計測の原理で三次元計測を行う。
【0023】
この装置のように一対の反射鏡106a、106bによって視野分割を行うことにより、1台のカメラは、2台の仮想的なカメラの役割をも同時になし、結果として3台のカメラの役割を果たす。1台の実カメラと仮想的な2台の仮装的なカメラについて詳しく説明する。図3は、左の反射鏡106aに対応する仮想カメラ110を示している。実カメラ104の回転半径rと、左の反射鏡106aの位置と、角度αが正確にわかっている場合、図3に示した左反射鏡106aに対応する仮想カメラ110の光学中心C1と、その光軸a′の方向は演算により得ることができる。また、仮想カメラ110の回転半径Rは以下の式(3)により得られる。
【数2】
【数3】
【0024】
ここで、
R:仮想カメラの回転半径
r:実カメラの回転半径
α:実カメラの光軸と反射鏡の平面がなす角度
L:光軸aと反射鏡の平面の交点と回転中心との間の距離
である。
【0025】
反射鏡106aは実カメラ104の前方に配置されているので、L>rである。従って、仮想カメラ110の回転半径Rは、実カメラ104の回転半径rよりも大きくなる。ただし、この左の反射鏡106aに対応する仮想カメラ110は、右側半分以下の視界しか持たない。同様に、右の反射鏡106bに対応する仮想カメラも考えることができ、その仮想カメラは左半分以下の視界しか持たない。
【0026】
反射鏡の配置を決定する距離Lは、実カメラの回転半径rと該実カメラの大きさを加えた長さよりも十分大きくとる。また、反射鏡の角度αは実カメラの画角に依存し、仮想円112の接線方向からの光線反射が実カメラの視野領域に入るように調整する。
【0027】
次に、上述した装置を用いたパノラマ画像の生成方法を説明する。
先ず、回転台102を回転させて、カメラ104により回転中心Or回りに全方位360°にわたって所定の角度θ毎に複数の画像を撮影する。次いで、各θにおいて得られる画像を、図5に示すように、撮影の順にθ方向へ並べて360°に渡る時空間画像130を生成する。時空間画像130は、左の反射鏡106aで反射してカメラ104により撮影された左画像領域132と、右の反射鏡106bで反射してカメラ104により撮影された右画像領域134と、中央の隙間gを通過してカメラ104により撮影された中央画像領域136とから成る。
【0028】
時空間画像130の左画像領域132の縦スリット132aによって得られる部分を、回転角θ毎に順に抽出して左パノラマ画像132bが生成され、同様に、右画像領域134の縦スリット134aから右パノラマ画像134bが生成され、中央画像領域136の縦スリット136aから中央パノラマ画像136aが生成される(図6参照)。時空間画像130を生成することなく、回転角θ毎に撮影された画像データ中の縦スリット134a、134b、136bに相当する画像データを蓄積して左右および中央のパノラマ画像132b、134b、136bを生成してもよい。こうして得られた3枚のパノラマ画像、つまり左パノラマ画像、中央パノラマ画像、右パノラマ画像の例を図6に示す。
【0029】
ここで、縦スリット132a、134a、136aは、回転中心Orを決定する軸線に平行に定義される。また、左右領域の縦スリット132a、134aは、好ましくは、対応するカメラ視線が回転半径Rによって定まる円の接線方向になるように決定される。このとき、反射鏡106a、106bの角度αは、円の接線方向からの光線反射が実カメラ104の視野領域内に入るように調整しなければならない。
【0030】
以下、これらのパノラマ画像を利用して、ステレオ計測の原理で三次元計測を行う方法を説明する。
本発明の第1の実施形態による三次元計測方法では、左パノラマ画像132bと、右パノラマ画像134bの2枚のみを利用して三次元計測を行う。なお、以下の説明では、左パノラマ画像132bを基準パノラマ画像とし、右パノラマ画像134bを参照画像とする。
【0031】
先ず、左パノラマ画像132bにおいて、奥行きを求めたい注目画素を選択し、その注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが決定されると、その注目画素の位置に対応する、右パノラマ画像134b中の画素座標が計算できる。次いで、左パノラマ画像132b上の注目画素と、右パノラマ画像134b上の対応画素の各々の濃淡値を求め、注目画素と対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を、あらかじめ設定したウィンドウに関して計算し、奥行き候補λに対する評価値とする。奥行き候補λが正しい奥行きであれば、SSDは小さくなる。こうして、λを変化させてSSDを計算し、最小の値を得たλを、注目画素に対する奥行きとする。この操作を、左パノラマ画像132b上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0032】
この方法の場合、ステレオ計測におけるベースライン長は、図7中のB1で示すように、仮想カメラの回転直径となる。このベースライン長は、1台のカメラを利用した従来技術による方法におけるベースライン長よりも格段に大きくなる。また、ステレオ計測におけるエピポーラ拘束は、1台のカメラを利用した従来技術による方法と同様に非常に単純である。
【0033】
次に、第2の実施形態による三次元計測方法を説明する。
第2の実施形態では、第1の実施形態で用いた左右のパノラマ画像132b、134bに加えて、中央領域のパノラマ画像136bを用いて各画素の奥行きを求める。すなわち、中央パノラマ画像136bが基準パノラマ画像となり、左右のパノラマ画像132b、134bが参照画像となる。第1の実施形態と同様に、基準パノラマ画像において、奥行きを求めたい注目画素を選択する。また、その注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが定まると、その注目画素の位置に対応する、左パノラマ画像132b中の画素座標が計算できる。次いで、基準パノラマ画像上の注目画素と、左パノラマ画像132b上の対応画素の各々の濃淡値を求め、注目画素と対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を計算する。同様に、右パノラマ画像134bに対してもSSDを計算する。
【0034】
こうして得られた2つのSSDを加算してSSSD(Sum of SSD)を求め、奥行き候補λに対する評価値とする。奥行き候補λが正しい奥行きであれば、左右パノラマ画像132b、134bの各々のSSDは小さくなり、得られるSSSDも小さくなる。よって、λを変化させてSSSDを計算し、最小の値を得たλを、注目画素に対する奥行きとする。この操作を、基準パノラマ画像上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0035】
ここで、本実施形態におけるステレオ計測におけるベースライン長は、図7中のB2で示すように、仮想カメラの回転半径Rとなる。この回転半径Rは、第1の実施形態のベースライン長B1、および実カメラ104の回転半径rよりも大きい。従って、本実施形態におけるベースライン長は、第1の実施形態による方法および1台のカメラを利用した従来技術による方法におけるベースライン長よりも大幅に大きくなる。
【0036】
また、3枚のパノラマを利用した場合では、右パノラマ画像132b中に画像ノイズが存在した場合に、基準パノラマ画像(中央パノラマ画像136b)と右パノラマ画像132b間のSSD値が小さくならないことが生じ得る。然しながら、本実施形態では、左パノラマ画像134bで得られたSSDも同様に利用するため、二つを加算したSSSD値は、他のλにおけるSSDよりも小さくなることが期待できる。これにより、画像ノイズの影響を低減できる。
【0037】
更に、右パノラマ画像132b中でオクルージョンが発生した場合も、基準パノラマ画像136bと右パノラマ画像132b間のSSD値は小さくならない。然しながら、一般に、右パノラマ画像132bと左パノラマ画像134bで同時にオクルージョンが発生することは少ないので、二つを加算したSSSD値は、他のλにおけるSSDよりも小さくなることが期待できる。これにより、オクルージョンの影響も低減できる。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態による三次元計測方法を説明する。本実施形態では、特定のパノラマ画像間のSSDを計算するのではなく、図5に示した時空間画像130全体から軌跡を抽出することにより三次元計測を行う。本実施形態では、第2の実施形態と同様に中央パノラマ画像136bを基準パノラマ画像とする。
【0039】
まず、基準パノラマ画像である中央パノラマ画像136bにおいて、奥行きを求めたい注目画素を選択し、該注目画素に対する奥行きの候補λを決定する。λが決定されると、その注目画素の位置に対応する、左画像領域132中の対応点の軌跡が計算できる。そこで、中央パノラマ画像136b中の注目画素と、左画像領域132において対応する対応画素の濃淡値の差の二乗和(SSD)を、対応点の軌跡に渡って加算しSSSDを求める。同様に、右画像領域134中の対応点の軌跡に関してもSSSDを計算する。この2つのSSSDを、異なるλについて全て計算する。例えば、合計N個のλについてSSSDを計算すると、合計2×N個のSSSDが得られる。このSSSDの中で、最も小さいSSSDに対応するλを、注目画素に対する奥行き推定結果λとする。この操作を、基準パノラマ画像上の全ての画素に対して行い、全方位の三次元計測結果とする。
【0040】
第2の実施形態では、中央パノラマ画像136bを基準パノラマ画像とし、左右パノラマ画像132b、134bを2枚の参照画像として利用して奥行き推定を行っているが、第3の実施形態では、より多くの参照画像を利用して奥行きを推定しているのと等価である。つまり、第3の実施形態では、左画像領域132に注目すると、左画像領域132全ての縦スリットで構成されるパノラマ画像を利用してSSSDを計算することと等価である。よって、左画像領域132だけで画像ノイズの影響を低減した三次元計測ができる。このとき、各縦スリットに対応するベースライン長が存在する。よって、第3の実施形態では、複数の異なるベースライン長のステレオ計測を利用した三次元計測となり、そのベースライン長の最大値は、第2の実施形態で述べたB2と同じになる。同様に、右画像領域134のみを利用して三次元計測ができるが、一方の反射鏡の領域でオクルージョンが発生した場合、その領域全体に渡って注目画素に対応する対応点の軌跡が失われる可能性があるため、それぞれの反射鏡領域のSSSDを別々に評価する。これにより、オクルージョンの影響を低減できる。さらに、多くのパノラマ画像を利用する効果として、画像に含まれる繰り返しパターンによる誤対応の問題も改善することができる。
【0041】
既述した第1から第3の実施形態による方法によれば、1台のカメラを利用した従来技術による方法のものよりも大きなベースライン長を利用できる。例えば、図4においてα=45°、L=2rとすると、(1)第1の実施形態では、B1=2R=2r51/2となるため、1台のカメラを利用した従来技術による方法(B=2rsinψ、ψ=20°)よりも約6.54倍のベースラインを持ち、(2)第2の実施形態では、B2=R=r51/2となるため、1台のカメラを利用した従来技術による方法(B=2rsinψ、ψ=20°)よりも約3.27倍のベースラインを持ち、(3)第3の実施形態では、複数のベースラインを持つステレオ計測の組み合わせになるが、その最大ベースライン長は第2の実施形態と同じである。
【0042】
また、第2と第3の実施形態による方法では、画像ノイズに対する影響を低減でき、その効果は第3の実施形態による方法において最も高い。さらに、第2と第3の実施形態による方法では、オクルージョンに対する影響を低減でき、その効果は第3の実施形態による方法において最も効果的である。
【実施例】
【0043】
以下、シミュレーション実験を行った結果を示す。CGを利用して一辺が2.5メートル四方の部屋を作成し、壁にテクスチャを貼り付けたものを生成した。また、部屋の中にボールと円柱を配置した。
【0044】
図4に示したパラメータについて、それぞれ、r=133.3[mm]、L=200[mm]、α=47.9°として、第3の実施形態による方法を利用して三次元形状復元を行った。このとき仮想カメラ110の回転半径はR=212.9[mm]であった。また、本発明の効果を示すため、1台のカメラを用いた従来方法(ψ=20°)との比較を行った。
【0045】
図8は、従来方法と第3の実施形態による方法で得られたパノラマ画像を示している。図9は、2つの方法による三次元奥行き推定結果をモノクロ画像で示したものであり、近くの点ほど白く表示されるように表示してある。図10は、2つの方法による三次元奥行き推定結果を断面図として表示したものである。これらの結果において、本発明システムを用いた第3の実施形態による方法の奥行き推定結果が、従来方法よりも良好であることがわかる。図11は、このようにして得られた奥行き推定結果に、テクスチャを貼り付けたものである。
【0046】
次に、実画像実験をおこなった結果を示す。
図4に示したパラメータについて、それぞれ、r=198.343[mm]、L=230.0[mm]、左反射鏡のα=46.725°、右反射鏡のα=48.688°として、第3の実施形態による方法を利用して三次元形状復元を行った。また、本発明の効果を示すため、1台のカメラを用いた従来方法(ψ=20°)との比較を行った。
【0047】
図12は、従来方法と第3の実施形態による方法で得られたパノラマ画像を示している。図13は、2つの方法による三次元奥行き推定結果をモノクロ画像で示したものであり、既述のものと同様に、近くの点ほど白く表示されるように表示している。図14は、三次元奥行き推定結果を断面図として表示したものである。発明システムを用いた方法が、従来方法よりも良好な結果が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の好ましい実施形態による三次元計測装置の概略図平面図である。
【図2】図1の装置により撮影された画像の一例である。
【図3】図1の装置における左の反射鏡に対応する仮想カメラを説明するための説明図である。
【図4】図1の装置における左の反射鏡に対応する仮想カメラを説明するための説明図である。
【図5】時空間画像を説明するための説明図である。
【図6】パノラマ画像の一例を示す図である。
【図7】本発明による三次元計測装置におけるベースライン長を説明するための説明図である。
【図8】従来技術と本発明による実験結果を比較するためのパノラマ画像の一例を示す図である。
【図9】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図10】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図11】実験に用いて三次元モデルを示す図である。
【図12】従来技術と本発明による実験結果を比較するためのパノラマ画像の一例を示す図である。
【図13】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図14】従来技術と本発明による実験結果を比較するための奥行き演算結果を示す図である。
【図15】従来技術によるパノラマ画像撮影装置の略示斜視図である。
【図16】従来技術によるパノラマ画像生成方法を説明するための説明図である。
【図17】従来技術による計測方法を説明するための説明図である。
【図18】従来技術におけるベースライン長を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0049】
100 三次元計測装置
102 回転台
104 カメラ
106a 反射鏡
106b 反射鏡
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸線に関して所定の角度を以て交差するように光軸を前記軸線を中心として回転自在に設けられたカメラと、
前記カメラに関して相対移動することなく、前記回転台および前記カメラと共に回転するように設けられた一対の反射鏡であって、該反射鏡は、反射した光が前記カメラの対物レンズに入射できるように、前記カメラの前方に前記光軸に関して所定の角度を以て配向された一対の反射鏡とを具備し、
前記カメラを前記軸線に関して所定の角度毎に回転して、前記カメラにより前記軸線回りのシーンを撮影するようにした全方位三次元計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の全方位三次元計測装置を用いて、前記軸線回りに所定の角度毎に撮影された画像に基づき、基準パノラマ画像と、参照パノラマ画像とを生成し、
基準パノラマ画像中の注目画素の奥行きの候補を定め、
前記注目画素に対応した参照パノラマ画像中の対応画素を求め、
基準パノラマ画像上の注目画素と、参照パノラマ画像中の対応画素の濃淡値の差が最小となる奥行き候補を前記注目画素の奥行きとして決定するようにした全方位三次元計測装置。
【請求項3】
前記基準パノラマ画像は、前記一対の反射鏡の一方により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成され、前記参照パノラマ画像は、他方の反射鏡により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記基準パノラマ画像は、前記一対の反射鏡の間隙を通過した光線を撮影して生成された画像に基づいて生成され、前記参照パノラマ画像は、前記一対の反射鏡により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成される請求項1に記載の装置。
【請求項1】
所定の軸線に関して所定の角度を以て交差するように光軸を前記軸線を中心として回転自在に設けられたカメラと、
前記カメラに関して相対移動することなく、前記回転台および前記カメラと共に回転するように設けられた一対の反射鏡であって、該反射鏡は、反射した光が前記カメラの対物レンズに入射できるように、前記カメラの前方に前記光軸に関して所定の角度を以て配向された一対の反射鏡とを具備し、
前記カメラを前記軸線に関して所定の角度毎に回転して、前記カメラにより前記軸線回りのシーンを撮影するようにした全方位三次元計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の全方位三次元計測装置を用いて、前記軸線回りに所定の角度毎に撮影された画像に基づき、基準パノラマ画像と、参照パノラマ画像とを生成し、
基準パノラマ画像中の注目画素の奥行きの候補を定め、
前記注目画素に対応した参照パノラマ画像中の対応画素を求め、
基準パノラマ画像上の注目画素と、参照パノラマ画像中の対応画素の濃淡値の差が最小となる奥行き候補を前記注目画素の奥行きとして決定するようにした全方位三次元計測装置。
【請求項3】
前記基準パノラマ画像は、前記一対の反射鏡の一方により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成され、前記参照パノラマ画像は、他方の反射鏡により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記基準パノラマ画像は、前記一対の反射鏡の間隙を通過した光線を撮影して生成された画像に基づいて生成され、前記参照パノラマ画像は、前記一対の反射鏡により反射された光線を撮影して生成された画像に基づいて生成される請求項1に記載の装置。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−78291(P2006−78291A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261571(P2004−261571)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月8日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月8日 社団法人電子情報通信学会発行の「EiC電子情報通信学会2004年総合大会講演論文集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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