説明

共役ポリマー層を成膜するための組成物

【課題】パターン化されたポリマー膜の直接成膜を容易にし、高い発光均一性を示す共役ポリマー膜を成膜することができる組成物を提供する。
【解決手段】発光デバイスの製造にあたってポリマー層を成膜するための組成物であって、組成物は溶媒に溶解した共役ポリマーを含有し、溶媒はジアルキルまたはトリアルキル置換の芳香族炭化水素を含有し、前記アルキル置換基のうち少なくとも2つは互いにオルト位にある組成物。共役ポリマーは発光ポリマーなど、溶媒は1,2−ジメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼンなどが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光デバイス(LED)における共役ポリマー層を成膜するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発光層として半導体の共役ポリマーを用いる発光デバイスが知られている。図1は簡単な発光デバイスの構成を示す。ガラスまたはプラスチック基板2を、たとえばインジウム錫酸化物の形態のアノード層4でコートする。アノードを細長いストリップの形態にパターン化してもよい。アノード層を正孔輸送層でコートしてもよい。次に、発光ポリマー層6を成膜した後、電子輸送層を成膜する。次いで、カソード層8の成膜によってデバイス構造を完成させる。例として、カソード層はカルシウムまたはアルミニウムであり得る。アノードとカソードが重なる画素Pを画定するように、カソード層8を横のストリップにパターン化してもよい。その代わりに、パターン化していないカソードで、発光ストリップを画定してもよい。さらに、その代わりに、画素をアクティブマトリックスのバックプレーン上に画定し、カソードはパターン化してもパターン化しなくてもよい。アノードとカソードとの間に電界を印加したとき、電子と正孔が発光ポリマー層6中へ注入される。正孔および電子はポリマー層中で再結合し、その一部は発光的に減衰して光を発生する。
【0003】
正孔輸送層は、一般的に、正孔輸送を維持できるどのような材料からなっていてもよい。好適な材料の例は、有機導電体たとえば以下の導電ポリマー:ドープされた形態の、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェンおよび他のポリチオフェン、ポリピロールなどである。他の代替的な材料は、共役ポリアミンおよび低分子量アミンたとえばTPDである。
【0004】
発光層はデバイス駆動条件下において電荷キャリア輸送を維持でき発光も可能などのような分子化合物またはポリマー化合物からなっていてもよい。例としては、蛍光有機化合物および共役ポリマーたとえばAlq、ポリフェニレンおよび誘導体、ポリフルオレンおよび誘導体、ポリチオフェンおよび誘導体、ポリフェニレンビニレンおよび誘導体、ヘテロ芳香環を含むポリマーなどが含まれる。
【0005】
電子輸送層は、一般的に、電子輸送を維持できるどのような材料からなっていてもよい。例としては、ペリレン系、Alq、ポリフルオレンまたはポリフルオレンコポリマー、ヘテロ芳香環を含むポリマーなどが含まれる。
【0006】
デバイスは、少なくとも1つの発光層を含んでいれば、上記の層のいかなる組み合わせを含んでいてもよい。
【0007】
OLEDは米国特許5,274,190号または米国特許4,539,507号に記載されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれている。米国特許5,274,190号においては活性層が発光性半導体共役ポリマーであり、米国特許4,539,507号においては活性層が発光性昇華分子膜である。
【0008】
従来、ポリマー層は典型的にはポリマー溶液をアノード上にスピンコーティングするかまたは規制ブレードコーティングすることによって成膜され、その後に溶媒をRTPで蒸発させるかまたは熱処理および/または減圧を用いて溶媒を追い出していた。ポリマーは、溶液から直接キャストされた発光ポリマー自体であるか、またはそのポリマーへの前駆体であり、これは熱処理工程の間に発光ポリマーへと転換される。ポリマーは2またはそれ以上の材料のブレンド、たとえば2またはそれ以上のポリマーのブレンドからなっていてもよい。
【0009】
ポリマー層は、ポリマーを含む溶液処理可能な材料を、重力もしくは圧力の効果によりまたは表面張力の効果を利用することにより、複数の細長い穴を通して基板上に供給することによって成膜してもよい。このことは、必要に応じて、ポリマー膜の直接成膜またはパターニングを容易にする。
【0010】
インクジェット法によるポリマー層の成膜は特に好ましい手法である。インクジェット法は、たとえば、EP0880303A1に記載されており、その内容は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0011】
優れた発光均一性を示すポリマー膜を作ることができる材料組成物を用いることが好ましい。
【0012】
本発明者自身の以前の出願であるPCT/GB00/03349は、ポリアルキル化ベンゼンたとえばクメンおよびイソジュレンをベースとする共役ポリマーを成膜するための組成物を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、パターン化されたポリマー膜の直接成膜を容易にする組成物を提供することにもある。特に、本発明の目的は、高い発光均一性を示す共役ポリマー膜を成膜することができる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様によれば、発光デバイスの製造にあたってポリマー層を成膜するための組成物であって、前記組成物は溶媒に溶解した共役ポリマーを含有し、前記溶媒はジアルキルまたはトリアルキル置換の芳香族炭化水素を含有し、前記アルキル置換基のうち少なくとも2つは互いにオルト位にあることを特徴とする組成物が提供される。
【0015】
溶媒は、1,2−ジメチルベンゼン、1,2,3−トリアルキルベンゼンおよび1,2,4−トリアルキルベンゼンのうち1またはそれ以上を含むことが好ましい。1,2−ジメチルベンゼンおよび1,2,3−トリアルキルベンゼンが特に好ましい。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、発光デバイスの製造にあたってポリマー層を成膜するための組成物であって、前記組成物は溶媒に溶解した共役ポリマーを含有し、前記溶媒はトリアルキルベンゼンを含有することを特徴とする組成物が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1または第2の態様の溶液処理可能な組成物を、複数の細長い穴を通して基板上に供給することによって、ポリマー層を成膜する方法が提供される。
【0018】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第1または第2の態様の組成物を、インクジェット法によって基板上に成膜する工程を有する、基板上にポリマー層を形成する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】発光デバイスの概略図。
【図2】種々のポリマー層を成膜する方法を示す概略図。
【図3】実施例において用いられた繰返し単位およびポリマーの構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願の目的上、「ポリマー」という用語は、ホモポリマーおよびコポリマーを含み、ポリマーブレンドの層とともに単一ポリマーの層をも含む。「ポリマー層」という用語は、比較的小さいディメンジョン、たとえば画素化されたディスプレイ内の単一画素に相当するディメンジョンを持つ層、およびより大きなディメンジョンの層を含む。
【0021】
本出願の目的上、「アルキル」という用語は、6以下の炭素原子を持つ直鎖または分枝アルキル置換基のことをいう。
【0022】
得られる組成物は、20℃で25〜40mN/mの範囲の表面張力、20℃で2〜8cPsの粘度、および0.25〜1.5%、好ましくは0.5〜1%のw/vポリマー濃度を有することが好ましい。このような特性を持つ組成物は、インクジェット印刷法による成膜に特に適している。また、組成物は、成膜が行われる基板に対して適当な接触角を持っていたほうがよい。たとえば、ポリイミド基板の場合には、接触角は30〜60度の範囲であるのがよい。
【0023】
得られる組成物が特定の成膜法に対して必要な流体特性を持っているならば、組成物は1またはそれ以上の別の種類の溶媒を含んでいてもよい。たとえば、組成物中に比較的少量の1またはそれ以上のトリアルキルベンゼンでも存在すれば、組成物の安定性および/または組成物の流体特性を改善できる。
【0024】
本出願の目的上、共役ポリマーという用語は、完全に共役した(すなわちポリマー鎖の長さ全体に沿って共役した)または部分的に共役した(すなわち共役セグメントに加えて非共役セグメントを含む)、オリゴマーたとえばダイマー、トリマーなどを含むポリマーのことをいう。
【0025】
ポリマーは、10,000〜500,000の範囲、より具体的には10,000〜300,000の範囲の平均分子量を持ち得る。
【0026】
ポリマーは、有機発光デバイスにおける発光層、正孔輸送層または電子輸送層に好適に用いられるポリマーであり得る。
【0027】
好ましい実施例においては、共役ポリマーは、発光ポリマー、正孔輸送ポリマーまたは電子輸送ポリマーそれ自体、または発光ポリマー、正孔輸送ポリマーまたは電子輸送ポリマーへの前駆体であり得る。共役ポリマーまたはその前駆体は、どのような好適なポリマーでもよく、特に以下のいずれか一方でもよい。
【0028】
a)導電性ポリマーたとえばポリアニリン(PANI)および誘導体、ポリチオフェンおよび誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン;これらの全てのドープされた形態、特にポリスチレンスルホン酸ドープのポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT/PSS)。
【0029】
b)溶液処理可能な電荷輸送および/または発光/電界発光ポリマー、好ましくは共役ポリマーたとえばポリフェニレンおよび誘導体、ポリフェニレンビニレンおよび誘導体、トリアリール含有ポリマーおよび誘導体、種々の形態の前駆体ポリマー、コポリマー(上で挙げたポリマー種を含む)[一般的にランダムまたはブロックコポリマーである]、主鎖に側鎖として結合した活性(電荷輸送および/または発光)種を持つポリマー、チオフェンおよび誘導体など。
【0030】
本発明は、他の化合物たとえばEP−A−0676461に記載されているスピロ化合物を含む溶液処理可能な分子化合物、および他の無機化合物たとえば絶縁体または導電体を作るための溶液処理可能な有機金属前駆体化合物を含む組成物にも適用できることは想像できる。
【0031】
共役ポリマーは、たとえばフルオレン系ポリマー、またはフルオレン単位と他の単位たとえばトリアリールアミン単位またはベンゾチアジアゾース(BT)単位を含むポリマーを含有するコポリマー、またはこのようなポリマーのうち2つまたはそれ以上のブレンドからなっていてもよい。
【実施例】
【0032】
本発明のよりよい理解のために、および本発明をどのようにして効果へと導くことができるかを示すために、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態(例のつもりにすぎないが)を以下に記載する。
【0033】
図2はパターン化されたアノード4上にポリマー層6を成膜するための成膜方法を示す。複数の細長い穴10が示されており、各々はそれぞれの溝8に合わせて整列されている。細長い穴10は導管12を通じて成膜される溶液を保持している貯槽14に連結されている。溶液は、発光ポリマー層6を成膜するために、圧力下でまたは重力によって細長い穴10を通して供給される。
【0034】
本発明による具体的な組成物を以下において議論する。
【0035】
実施例1
最初に例示される組成物は、1%w/vのトリブレンド[このトリブレンドは、おおよそ、14wt%の三元ポリマー[この三元ポリマーは、フルオレン(F8)単位(図3a図示)、ベンゾチアジアゾール(BT)単位(図3b図示)およびトリアリーレン単位(図3c図示)を含む]、56wt%のF8BT(図3d図示)および30wt%のTFB(図3e図示)を含む]を、1,2,4−トリメチルベンゼンに溶解したものである。得られた組成物は、20℃で3.8cpsの粘度および20℃で28mN/mの表面張力を有していた。
【0036】
実施例2
第2の実施例では、組成物は、1%w/vの実施例1で述べたトリブレンドを、20vlo%の1,2,4−トリメチルベンゼンと80vlo%のキシレンとの溶媒混合物に溶解したものからなる。この組成物は、20℃で2.9cpsの溶液粘度および20℃で28mN/mの表面張力を有していた。
【0037】
この組成物の試料を基板上に成膜して真空乾燥した。こうして製造されたポリマー層のPL効率は43%であった。同じ組成物の層を80℃で13.5時間乾燥すると、39%のPL効率を有するポリマー層になった。
【0038】
実施例3
第3の実施例では、組成物は、1%w/vの実施例1で述べたトリブレンドを、50vlo%の1,2,4−トリメチルベンゼンと50vlo%のキシレンとの溶媒混合物に溶解したものからなる。この組成物は、20℃で2.82cpsの溶液粘度および20℃で28mN/mの表面張力を有していた。トリメチルベンゼンの追加により、組成物の安定性がかなり向上することがわかった。
【0039】
1,2−ジメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼンおよび1,2,4−トリメチルベンゼンは、約266,000の平均分子量を持つフルオレン−チオフェンポリマーの良溶媒であることもわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光デバイスの製造にあたってポリマー層を成膜するための組成物であって、前記組成物は溶媒に溶解した共役ポリマーを含有し、前記溶媒はジアルキルまたはトリアルキル置換の芳香族炭化水素を含有し、前記アルキル置換基のうち少なくとも2つは互いにオルト位にあることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記溶媒はジアルキルまたはトリアルキル置換ベンゼンを含有し、前記アルキル置換基のうち少なくとも2つは互いにオルト位にある請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
各々のアルキル置換基は独立にC1−C6アルキル基である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
各々のアルキル置換基はメチル基である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記溶媒は1,2−ジメチルベンゼンを含有する請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記溶媒は1,2,3−トリメチルベンゼンを含有する請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
発光デバイスの製造にあたってポリマー層を成膜するための組成物であって、前記組成物は溶媒に溶解した共役ポリマーを含有し、前記溶媒はトリアルキルベンゼンを含有することを特徴とする組成物。
【請求項8】
前記溶媒はキシレンをも含有することを特徴とする請求項7の組成物。
【請求項9】
前記溶媒は20〜100重量%のトリアルキルベンゼンと80重量%以下のキシレンを含有する請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記共役ポリマーは発光ポリマーである前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリマーはフルオレン系ポリマーを含有する前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
前記ポリマーはフルオレンおよびトリアリールアミンの単位を含むポリマーを含有する前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマーはフルオレン系ポリマーとフルオレンおよびトリアリールアミンの単位を含むポリマーとのブレンドを含有する前記請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記請求項のいずれかに記載の溶液処理可能な組成物を、複数の細長い穴を通して基板上に供給することによって、ポリマー層を成膜する方法。
【請求項15】
前記請求項のいずれかに記載の組成物を、インクジェット印刷法によって基板上に成膜する工程を有する、基板上にポリマー層を形成する方法。
【請求項16】
ポリマー層を成膜するインクジェット法における、前記請求項のいずれかに記載の組成物の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102336(P2012−102336A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−537(P2012−537)
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【分割の表示】特願2002−524016(P2002−524016)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(597063048)ケンブリッジ ディスプレイ テクノロジー リミテッド (152)
【Fターム(参考)】