説明

共重合体ラテックス、紙塗工用組成物及び塗工紙

【課題】優れた塗工紙操業性、印刷光沢、低粘度及び塗工紙表面のベタツキの抑制を同時に実現できる共重合体ラテックス及びその用途を提供する。
【解決手段】(a)成分:共役ジエン系単量体20〜80質量%、(b)成分:エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)成分:他の共重合可能な単量体(下記(イ)成分に該当するものを除く)13〜79.5質量%(但し、該(a)成分、該(b)成分、及び該(c)成分の合計は、100質量%)からなる単量体混合物を、該単量体混合物100質量部に対し、1種又は2種以上の炭素数3〜6の直鎖状又は分岐状オレフィンから導かれる、重合度2〜10のオリゴマーである(イ)成分0.0002〜0.045質量部の存在下で乳化重合することによって得られる共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、接着剤、粘着剤、繊維結合剤及び塗料などに好ましく用いられる共重合体ラテックス等に関する。更に詳しくは、例えば、塗工作業性が良好であり、印刷光沢及び、塗工紙表面のベタツキの抑制に優れた塗工紙を与え得る共重合体ラテックス、紙塗工用組成物及び塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙は、紙の印刷適性の向上及び光沢などの光学特性の向上を目的として、抄造された原紙表面に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの顔料と、それら顔料のバインダーとしての共重合体ラテックスと、粘度調整剤あるいは補助バインダーとしての水溶性高分子(スターチ、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなど)とを主構成成分とする紙塗工用組成物(紙塗工剤)が塗工されて形成されているものである。
【0003】
共重合体ラテックスとしては、スチレンとブタジエンを主要単量体成分とし、これらを乳化重合して得られたスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックス、いわゆるSB系ラテックスが汎用的に用いられている。
【0004】
塗工紙の商品価値を高めるため、要求される項目は多岐にわたるが、なかでも、印刷された塗工紙の最終的な商品価値を決める重要な項目として、印刷光沢が挙げられる。従来、塗工紙の印刷光沢を高くするためには、共重合体ラテックスの粒径を小さくする方法やブタジエン等の共役ジエン系モノマーを特定量以上使用する方法が知られている。しかしながら、これらの方法では確かに印刷光沢は高くなるが、低速剪断速度下の流動性が低下し(塗工液粘度が高くなり)、塗工液の移送などに問題を生じ、また、塗工紙表面のベタツキ性を増大させるため、バッキングロール汚れやスーパーカレンダー汚れなど操業面での問題を発生させ好ましくない。
【0005】
改良先願技術としては、共重合体ラテックスフィルム中のアルカリ金属及びアルカリ金属中に占めるカリウムの量を一定の範囲内に調節することで、優れた印刷光沢とドライピック強度、ウェットピック強度を有する塗工紙が得られることが提案されている(特許文献1参照)。この方法でも、確かに印刷光沢は向上するが、共重合体ラテックスの粘度及び塗工紙表面のベタツキ性の改善は達成されない。
【0006】
更に、同一共重合体ラテックス内に低いガラス転移点を有する(共)重合体と高いガラス転移点を有する(共)重合体を共存させることで、印刷光沢、表面強度及び剛度に優れた塗工紙を得られることが提案されている(特許文献2参照)。この方法においても、印刷光沢は改善されるが、共重合体ラテックスの粘度及び塗工紙表面のベタツキ性の改善は達成されない。
【0007】
一方共重合体ラテックス中に残留する4−ビニルシクロヘキセンの濃度を、該共重合体ラテックスの固形分に対して100ppm以下に押さえることで臭気が少なく、印刷光沢、塗工操業性、及び白紙光沢などの印刷適性に優れた塗工紙を得られることが提案されている(特許文献3参照)。この方法においては、印刷光沢と共重合体ラテックスフィルムのベタツキ性は改善されるが、共重合体ラテックスの粘度及び塗工紙表面のベタツキ性の改善は達成されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−91669号公報
【特許文献2】特開2006−176796号公報
【特許文献3】特開2003−277546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような状況から、印刷用塗工紙に用いることにより、塗工作業性に優れ、高い印刷光沢を発現しつつ、共重合体ラテックスの粘度を下げ且つ良好な塗工紙表面のベタツキ性を同時に満足することができる紙塗被用のバインダーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、共重合体ラテックスに関し第一に共重合体を製造する際に用いる単量体混合物の組成を特定範囲に定めること、第二に共重合体ラテックスを製造する際に、特定の成分の存在下で単量体混合物を乳化重合することにより得られるものにより、上記課題が解決される可能性があることを見出し、さらに研究を進めて上記課題を解決し得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の共重合体ラテックス等を提供する。
[1](a)成分:共役ジエン系単量体20〜80質量%、(b)成分:エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)成分:他の共重合可能な単量体(下記(イ)成分に該当するものを除く)13〜79.5質量%(但し、該(a)成分、該(b)成分、及び該(c)成分の合計は、100質量%)からなる単量体混合物を、該単量体混合物100質量部に対し、1種又は2種以上の炭素数3〜6の直鎖状又は分岐状オレフィンから導かれる、重合度2〜10のオリゴマーである(イ)成分0.0002〜0.045質量部の存在下で乳化重合することによって得られる共重合体ラテックス。
[2]前記(イ)成分が、炭素数6〜20のプロピレンオリゴマー又はブテンオリゴマーである上記[1]記載の共重合体ラテックス。
[3]前記乳化重合は、重合温度に関し、重合工程の間に5℃以上の降温が行われる上記[1]又は[2]記載の共重合体ラテックス。
[4]前記重合温度の降温における降下速度は1〜10℃/hrの範囲である、上記[1]から[3]のいずれかに記載の共重合体ラテックス。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の共重合体ラテックスを含む紙塗工用組成物。
[6]上記[5]に記載の紙塗工用組成物を用いて製造される塗工紙。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体ラテックスによれば、塗工作業性に優れ、塗工紙に高い印刷光沢を発現すると共に、共重合体ラテックスの粘度の上昇が抑制される。また本発明の共重合体ラテックスを含む紙塗工用組成物を用いた塗工紙は、塗工紙表面のベタツキ性が良好である(ベタツキが抑制される)効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0014】
本発明の共重合体ラテックスは、塗工紙及び塗工板紙の顔料バインダーとして好適に用いられる。
【0015】
本発明の共重合体ラテックスは、(a)成分:共役ジエン系単量体20〜80質量%、(b)成分:エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)成分:他の共重合可能な単量体(下記(イ)成分に該当するものを除く)13〜79.5質量%(但し(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の合計は100質量%)からなる単量体混合物を乳化重合して得られる。以下、これらについて順次説明する。
【0016】
前記(a)成分は、これを使用することで、得られる共重合体ラテックスの柔軟性を向上させたり、接着力、衝撃吸収性を向上させたりすることができる。
【0017】
前記(a)成分の使用量としては、本発明の共重合体ラテックスを製造する際に用いる原料単量体(前記(a)成分、前記(b)成分、及び前記(c)成分)の総量(以下、「原料単量体の総量」と略記することがある。)を100質量部とした場合において、20〜80質量部、好ましくは25〜70質量部、さらに好ましくは28〜60質量部である。使用量を20質量部以上とすることにより、共重合体に良好な耐衝撃性や、良好な接着強度を与えることが可能となる。また、80質量部以下とすることにより、共重合体がやわらかくなりすぎて接着力が低下したり塗工操業性が低下したりすることを防止することができる。
【0018】
前記(a)成分としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどがあげられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
前記(b)成分は、これを使用することで、得られる共重合体ラテックスの分散安定性を向上させたり、接着力を高めたりすることができる。
【0020】
前記(b)成分の使用量としては、原料単量体の総量を100質量部とした場合において、0.5〜7質量部、好ましくは0.8〜5.5質量部、さらに好ましくは1〜5質量部である。使用量を0.5質量部以上とすることにより、顔料混和時及び塗工工程において必要な分散安定性を維持することができる。また、7質量部以下とすることにより、共重合体ラテックスの粘度を抑え、かつ耐水性も向上することができる。
【0021】
前記(b)成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、(b)成分にアクリル酸が含まれることが好ましい。また、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体と、アクリル酸とを併用することが好ましい。二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体と、アクリル酸とを併用することにより、必要なピック強度を維持しつつ、塗工作業性を向上させることができる。
【0022】
前記(c)成分は、得られる共重合体ラテックスに様々な特性を付与し得る。
【0023】
前記(c)成分の使用量としては、原料単量体の総量を100質量部とした場合において、13〜79.5質量部、好ましくは20〜70質量部である。
【0024】
前記(c)成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体;
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル類;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;
アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシアルキルエステル類;
アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類;
2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類;
酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;
塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、などが挙げられるが、下記(イ)成分に該当するものは除外される。これらは1種を単独で、又は2種以上が組み合わせて用いられる。
【0025】
また、本実施の形態の共重合体ラテックスは、上記(a)〜(c)成分からなる単量体混合物を、1種又は2種以上の炭素数3〜6の直鎖状又は分岐状オレフィンから導かれる、重合度2〜10のオリゴマーである(イ)成分、
の存在下で乳化重合することによって得られる。
【0026】
前記(イ)成分の使用量としては、前記原料単量体の総量100質量部に対して0.0002〜0.045質量部、好ましくは0.0002〜0.03質量部、より好ましくは0.0002〜0.015質量部である。0.0002質量部以上用いることによってラテックス粘度の低減、及び良好な印刷光沢及び、ベタツキ性を実現させ、また使用量を0.045質量部以下とすることにより印刷光沢を向上させることができる。
【0027】
前記(イ)成分は例えば、プロピレン、ブテンなどのオリゴマーを挙げることができ、その炭素数は6〜20であることが好ましい。また、炭素数6〜50のプロピレンオリゴマー、(イソ)ブテンオリゴマー及び(イソ)ペンテンオリゴマーも、好ましく用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0028】
また、前記(イ)成分にいうオリゴマーとは、少なくとも二量体以上であることを意味するものであるが、中でも四量体を用いることが、得られる塗工紙に優れた印刷光沢を付与する観点から好ましい。(イ)成分として最も好ましい化合物は、プロピレンテトラマーである。
【0029】
本実施の形態において、前記(イ)成分を前記乳化重合の際に添加する方法としては、特に制限はなく、種々の方法を用いることができる。このような方法としては、例えば、
(i)前記(イ)成分を、直接乳化重合に用いる水中に添加するか、若しくは乳化分散させて添加する方法。
(ii)前記(イ)成分を前記原料単量体(a)〜(c)成分の1種又は2種以上に溶解させて乳化重合を行なう方法、
(iii)前記(イ)成分を予め各種溶剤に溶解させ、重合の系内に添加し、原料単量体と共に乳化重合を行う方法、更には、
(iv)前記(イ)成分を、前記原料単量体(a)〜(c)成分以外の原料成分に溶解させて、重合の場に添加する方法
等を挙げることができる。なお、これらの方法は1種又は複数種を併用することも可能である。
しかし、得られる共重合体ラテックスが優れた印刷光沢を塗工紙に付与する観点から、(iv)の方法を採用することが望ましい。更には(イ)成分は、乳化重合時に使用する連鎖移動剤に溶解させて添加することが最も好ましい。
【0030】
本実施の形態における乳化重合においては上記各成分の他、乳化剤、ラジカル開始剤、連鎖移動剤、各種重合調整剤等を適宜配合し得る。
【0031】
このような乳化剤としては、アニオン、カチオン、両性若しくは非イオン性の界面活性剤、又は反応性乳化剤を用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することも可能である。
【0032】
好ましい界面活性剤の例としては、例えば、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤、等があげられる。
【0033】
また、乳化分散させるための乳化分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、その他の界面活性剤や両性界面活性剤などが挙げられる。このような乳化分散可能な各種分散剤は1種を単独、あるいは複数種組み合わせて使用することが可能である。
【0034】
ラジカル開始剤としては、例えば、熱又は還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものを用いることができる。また、ラジカル開始剤としては、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することが可能である。
【0035】
このようなラジカル開始剤として具体的には、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などが挙げられる。より具体的には、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。これらは1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
なお、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩、ロンガリットなどの還元剤を重合開始剤と組み合わせて用いる、いわゆるレドックス系開始剤を用いることもできる。
【0037】
上記連鎖移動剤としては、ラジカル重合において通常用いられる公知の連鎖移動剤を用いることが併用可能である。好ましい例としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類;
テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類;
四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体;
2−エチルヘキシルチオグリコレート、等があげられ、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、連鎖移動剤の添加方法は、一括添加、回分添加、連続添加など公知の添加方法を適宜用いることができる。
【0038】
上記重合調整剤としては、例えばpH調整剤、キレート剤などが挙げられる。pH調整剤の好ましい例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられ、キレート剤の好ましい例としてはエチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0039】
前記乳化重合を行う際の重合温度としては、通常0〜100℃であるが、生産効率と、得られる共重合体ラテックスの接着強度等の品質との観点から、40〜95℃の範囲が好ましい。更に、より良好な接着強度を達成させる観点から、重合温度は、重合工程の間に5℃以上の降温が行われることが好ましい。また、前記重合温度の降温における降下速度は1〜10℃/hrの範囲内であることが好適である。
【0040】
前記乳化重合において前記原料単量体を添加する方法については、特に制限は無く、一括添加(一括重合)、連続添加(連続重合)、あるいは分割添加(逐次重合)等、いずれの方法でもよい。
【0041】
なお、前記乳化重合においては、シード重合法を用いることも可能であり、外部シード法や内部シード法等、いずれの方法も採用し得る。
【0042】
本発明の共重合体ラテックスには、アクリル酸が単量体のまま含まれることが好ましい。その含有量としては、該共重合体ラテックス中に50〜3500ppm(共重合体ラテックスの固形分の総質量を100質量%としたときの質量割合)であることが好ましく、より好ましくは100〜3300ppm、更に好ましくは200〜3000ppmである。この範囲に設定することにより、ピック強度、ラテックスフィルムの湿潤時ベタツキ性、及び着肉性を良好なレベルに引き上げることができる。
【0043】
本発明の共重合体ラテックスは、例えば、最終製品としての固形分濃度として通常30〜60質量%の範囲に希釈若しくは濃縮されて調製される。
【0044】
また、本発明の共重合体ラテックスについて、その固形分のガラス転移温度(Tg)としては、塗工紙用途における接着強度とラテックスフィルムの湿潤時ベタツキ性を両立させる観点から、−60℃〜+50℃の範囲にあることが一般的である。好ましくは−40℃〜+45℃、より好ましくは−30℃〜+40℃の範囲である。Tgは1種類の共重合体ラテックスおいて1点だけでなく、複数のTgを有していてもよい。
【0045】
本実施の形態の共重合体ラテックスについて、その数平均粒子径としては、ピック強度と重合安定性を両立させる観点から、通常50nm〜150nm、好ましくは55nm〜140nm、より好ましくは60nm〜130nmである。
【0046】
本発明の共重合体ラテックスには更に、必要に応じて各種添加剤を添加すること、あるいは他のラテックスを混合して用いることが可能である。このような添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、印刷適性向上剤などが挙げられる。また、アルカリ感応型ラテックス、プラスチック顔料などを混合して用いることもできる。
【0047】
本発明の紙塗工用組成物は、上述した共重合体ラテックスを含むものである。また、当該紙塗工用組成物において、本発明の共重合体ラテックスは顔料のバインダーとして用いることができる。
【0048】
本発明の形態の共重合体ラテックスを紙塗工用組成物のバインダーとして用いる場合、例えば、分散剤を溶解させた水中に、以下のような各種添加剤とともに共重合体ラテックスを添加して混合し、均一な分散液とすることができる。このような各種添加剤としては、例えば、無機顔料(カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、タルク等)、プラスチックピグメントやバインダーピグメントとして知られる有機顔料、水溶性高分子(澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等)、増粘剤、染料、消泡剤、防腐剤、耐水化剤、滑剤、印刷適性向上剤、保水剤、等を挙げることができる。
【0049】
ここで、紙塗工用組成物を構成する顔料については、その数平均粒子径が小さいものを主として用いた場合に、特に顕著なピック強度、湿潤ピック強度が発現され得るので好ましい。即ち、カオリンクレーについては、2μm以下の粒子が84質量%以上であるもの、炭酸カルシウムについては2μm以下の粒子が90質量%以上である顔料を用いることが好ましい。
【0050】
紙塗工用組成物に含まれる共重合体ラテックスの使用量としては、顔料100質量部に対する配合量として、通常3〜30質量部(固形分換算)である。
【0051】
本発明の紙塗工用組成物は、例えば各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーターなどを用いる通常の方法によって原紙に塗工することができる。塗工形態も特に制限はなく、原紙に対し片面、又は表裏の両面に塗工されうるものであり、また片面当たりの塗工回数についても特に制限はなく、1回であるシングル塗工の他、2回の塗工工程を行ういわゆるダブル塗工に供することもできる。この場合、本発明の共重合体ラテックスは、その下塗り用としての顔料組成物(紙塗工剤)、及び上塗り用としての顔料組成物(紙塗工剤)のいずれにも用いることができるし、その一方のみに用いてもよい。
【0052】
本発明の紙塗工用組成物は、特に制限なく各種の用紙に使用することができ、オフセット枚葉式印刷用紙、オフセット輪転式印刷用紙、グラビア式印刷用紙、凸版式印刷用紙等の各種印刷用紙及び板紙、ダンボール用紙、包装紙等に好適に用いられるが、特にオフセット枚葉式印刷用紙及びオフセット輪転印刷用紙に用いられることが望ましい。
【0053】
更に、本発明の共重合体ラテックスは、紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤、その他接着剤、各種塗料にも用いることができる。
【実施例】
【0054】
[各物性の評価方法]
(1)ピック強度:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、印刷インク(東洋インキ製造社製 PRINTING INK;タック15)(商品名)0.4ccを塗工紙サンプルに1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。評価は相対的な10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
(2)印刷光沢:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、オフセット輪転印刷用インキ0.5ccを、インターバル15secをおいて塗工紙サンプルに2回印刷し、24hr経過後に光沢度計を使用して印刷光沢の値を測定した。数値が大きいものほど印刷光沢が優れる。
(3)塗工紙表面ベタツキ性:
塗工紙サンプルの塗工面を上にし、塗工紙サンプルを5枚重ね合わせ、その上に15kgの重りを載せて1週間静置させた。この後、重ね合わせていた塗工紙同士を剥がし、塗工紙表面のピッキング状態を観察した。評価は相対的な10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
(4)共重合体ラテックスの粘度:
共重合体ラテックスを25℃、pH8、固形分濃度50%に調整し、B型粘度計(東京計器)を用いて粘度を測定した。この粘度が400mP・s以上であると、ラテックスの移送がし難くなり、移送効率が低下する。
(5)共重合体ラテックスの粒子径:
共重合体ラテックスを透過型電子顕微鏡で観察し、画像処理装置を用いて平均粒子径を算出した。
[実施例1]
【0055】
共重合体ラテックスAの製造
攪拌機と内部温度調整用の温水ジャケット、及び各種原材料の定量添加設備を備えた耐圧反応器に、重合初期の原料として水78質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.1質量部、α−メチルスチレンダイマー0.3質量部からなる重合初期原料を一括して仕込み、78℃にて充分に攪拌した。次いで、第一重合工程用として調製しておいた、イタコン酸2.5質量部、フマル酸0.2質量部、スチレン6.8質量部、メタクリル酸メチル0.06質量部、アクリロニトリル2.4質量部、ヒドロキシエチルアクリレート0.3質量部、アクリル酸0.3質量部、α−メチルスチレンダイマー0.45質量部、t−ドデシルメルカプタン0.02質量部とプロピレンテトラマー0.0003質量部を含む連鎖移動剤組成物からなる、第一重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物とを、この耐圧反応容器内に一括して仕込み、攪拌混合後、濃度30質量%のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液0.2質量部(固形分換算)を耐圧容器内に5分間かけて添加して重合反応を開始させた。
【0056】
ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液の添加終了から90分後、第二重合工程用として調製しておいた、スチレン27.2質量部、ブタジエン48質量部、メタクリル酸メチル0.24質量部、アクリロニトリル9.6質量部、ヒドロキシエチルアクリレート1.2質量部、アクリル酸1.2質量部、α−メチルスチレンダイマー1.8質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部とプロピレンテトラマー0.001質量部を含む連鎖移動剤組成物からなる、第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物をこの耐圧反応容器内に添加開始し、5.25hrを要して全量を連続的に添加した。第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加開始時点で、水17質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.2質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム0.75質量部からなる水系混合物の添加を開始し、第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加終了まで連続的に添加し、重合反応を加速させた。第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物の連続添加開始時点から、重合温度即ち耐圧反応器の内温の降温を降下速度2.9℃/hrで開始し、重合温度が70℃になった時点で降温を終了した。すなわち8℃の降温を行った。その後は第二重合工程用の単量体及び連鎖移動剤混合物の連続添加が終了するまで降温終了後の温度で反応を継続させた。その後60分間かけて重合温度を95℃まで昇温し、95℃を15分間維持し、共重合体ラテックスを得た。
【0057】
この共重合体ラテックスには、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを添加してpHを5.0以上に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、固形分濃度を50質量%に調整した。なお、これらの製造条件を表1にまとめた。
【0058】
次に、このようにして得られた共重合体ラテックスAについて、粘度と粒子径の測定を行った。その結果、共重合体ラテックスの粘度において優れた結果が得られた(表1)。
【0059】
紙塗工用組成物の調製と塗工紙の調製
次に、得られた共重合体ラテックスと以下の構成材料とを使用し、均一に混合して紙塗工用組成物を調製した。尚、以下の配合(質量部)は、水を除いて、全て固形分に換算した値である。
カオリンクレー 40質量部
重質炭酸カルシウム 60質量部
ポリアクリル酸ナトリウム 0.05質量部
水酸化ナトリウム 0.06質量部
酸化でんぷん 3.0質量部
共重合体ラテックスA 8質量部
水(塗工液の全固形分濃度が66質量%となるように添加)
なお、カオリンクレーとしては、アマゾンプラス(粒子径2μm以下の割合=97質量%以上)(商品名)、重質炭酸カルシウムとしてはカービタル90(粒子径2μm以下の割合=90質量%以上)(商品名)、ポリアクリル酸ナトリウムとしてはアロンT−50(東亞合成株式会社製)(商品名)及び酸化でんぷんとしては王子コーンスターチB(王子コーンスターチ社製)(商品名)をそれぞれ使用した。
【0060】
次に、このようにして得られた紙塗工用塗料組成物を、塗工量が片面10g/mになるように坪量74g/mの塗工原紙にブレードコーターで塗工し、乾燥した後、ロール温度50℃、線圧147,000N/mでスーパーカレンダー処理を行い塗工紙を得た。得られた塗工紙を印刷試験で評価した。この塗工紙のピック強度、印刷光沢、表面ベタツキ性を測定し、結果を表1に記載した。いずれにおいても優れた結果が得られた。
【0061】
[実施例2〜7]
表1に示した様に共重合体ラテックスの原料組成、重合温度、降温条件を変更したこと以外は実施例1と同様な方法で共重合体ラテックスB〜Gを得た。得られた共重合体ラテックスの粘度と粒子径を測定した。また、それぞれの共重合体ラテックスを使用し、実施例1と同様の条件で調製した塗工紙の物性を評価した結果を表1に記載した。共重合体ラテックスの粘度及び、塗工紙の物性のいずれも優れた結果が得られた。
【0062】
[実施例8]
表1に示す様に重合中に重合温度の降温を行わずに共重合体ラテックスを製造した。そのように重合温度を変更したこと以外は実施例1と同様の方法にて共重合体ラテックスHを得た。得られた共重合体ラテックスHの粘度及び粒子径を測定した。また、共重合体ラテックスHを使用し、実施例1と同様の条件で調製した塗工紙の物性を評価した結果を表1に記載した。共重合体ラテックスの粘度及び、塗工紙の物性の印刷光沢及び表面ベタツキ性において優れた結果が得られた。
【0063】
[比較例1〜4]
表1に示した様に共重合体ラテックスの原料組成、重合温度、降温条件を変更したこと以外は実施例1と同様な方法で共重合体ラテックスa〜dを得た。それぞれの得られた共重合体ラテックスを使用し、実施例1と同様の条件で調製した塗工紙の物性を評価した結果を表1に記載した。
【0064】
比較例1〜比較例4においては、共重合体ラテックスを構成する単量体成分の割合又は、(イ)成分の割合が本発明の範囲から外れており、塗工紙の印刷光沢、表面ベタツキ性、共重合体ラテックスの粘度のいずれかの物性が劣っていた。
(共重合体ラテックスの製造条件と評価結果)
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、塗工操業性に優れ、高い印刷光沢を発現しつつ、共重合体ラテックスの粘度を下げ且つ塗工紙表面のベタツキ性の抑制を同時に満足することができる共重合体ラテックスを提供することができる。したがって、本発明は、とくに塗工紙製造業及び関連産業において高い利用価値を有する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)成分:共役ジエン系単量体20〜80質量%、(b)成分:エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、及び(c)成分:他の共重合可能な単量体(下記(イ)成分に該当するものを除く)13〜79.5質量%(但し、該(a)成分、該(b)成分、及び該(c)成分の合計は、100質量%)からなる単量体混合物を、該単量体混合物100質量部に対し、1種又は2種以上の炭素数3〜6の直鎖状又は分岐状オレフィンから導かれる、重合度2〜10のオリゴマーである(イ)成分0.0002〜0.045質量部の存在下で乳化重合することによって得られる共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記(イ)成分が、炭素数6〜20のプロピレンオリゴマー又はブテンオリゴマーである請求項1記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
前記乳化重合は、重合温度に関し、重合工程の間に5℃以上の降温が行われる請求項1又は2記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
前記重合温度の降温における降下速度は1〜10℃/hrの範囲内である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の共重合体ラテックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の共重合体ラテックスを含む紙塗工用組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の紙塗工用組成物を用いて製造される塗工紙。


【公開番号】特開2011−225716(P2011−225716A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96742(P2010−96742)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】