説明

内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置

【課題】従来の内接噛合遊星歯車減速機との間で多くの部品を共用可能であると共に、僅かな設計変更で油潤滑を適用可能で、潤滑性の向上に伴う長寿命化及び高効率化を容易に実現することができる内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置を提供する。
【解決手段】内接噛合遊星歯車減速装置100は、第1フランジ114Aにおける、内接噛合遊星歯車減速部GS1と反対側に配設され、且つ、入力軸116が挿通可能とされたモータ継カバー150を備えて構成され、このモータ継カバー150と第1フランジ114Aとの間には、潤滑油OLの貯留が可能な潤滑油貯留空間152が形成されている。又、入力軸116とモータ継カバー150との間、及び入力軸116と第2フランジ114Bとの間には、潤滑油OLを封止するオイルシール166、170がそれぞれ配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業ロボットの関節装置や自動工具交換装置等の精密制御が要求される装置の駆動のために用いられる内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業ロボットの関節装置や自動工具交換装置等の精密制御が要求される装置の駆動のために用いられる内接噛合遊星歯車減速機の中には、例えば、図6に示される内接噛合遊星歯車減速機(以下、単に「減速機」と称す。)10のように、ケーシング12内側に対向して配置され、該ケーシング12に回転自在に支持された第1フランジ14A及び第2フランジ14Bと、該第1、第2フランジ14A、14B間に配設されると共に、入力軸16が第1、第2フランジ14A、14Bに回転自在に両持ち支持された内接噛合遊星歯車減速部(以下、単に「減速部」と称す。)GS0と、を備えたものが広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この減速機10の第1、第2フランジ14A、14Bは、複数のキャリアボルト18によって一体に連結・固定され、ケーシング12に対して相対回転可能に構成されている。
【0004】
又、減速部GS0の入力軸16は、一対の軸受20A、20Bを介して第1、第2フランジ14A、14Bに支持されており、第1、第2フランジ14A、14Bに対して相対回転可能に構成されている。入力軸16は、この例では貫通孔を有する中空軸によって構成され、入力軸16の軸受20A、20B間の外周には、所定の位相差をもって偏心体22A、22B、22Cが一体に形成されている。各偏心体22A、22B、22Cの外周にはころ軸受24A、24B、24Cを介して3枚の外歯歯車26A、26B、26Cが揺動回転可能に装着されている。これら3枚の外歯歯車26A、26B、26Cはケーシング12と一体化された内歯歯車28に内接噛合している。内歯歯車28の内歯はローラ状のピン(外ピン)30によって形成されている。
【0005】
3枚の外歯歯車26A、26B、26Cにはそれぞれ内ピン孔32A、32B、32Cが貫通形成され、パイプ状の内ローラ34を介して内ピン36が挿入されている。この内ピン36は第1、第2フランジ14A、14Bによって両持ち支持されており、減速部GS0の入力軸16に入力された動力は、減速された後、第1、第2フランジ14A、14Bを介して外部に伝達可能な構造となっている。
【0006】
又、減速部GS0にはグリース(図示略)が添加・塗布されていると共に、グリース漏れを防止するために、軸受20A、20Bの内側にはシール38A、38Bが、又、ケーシング12と第1、第2フランジ14A、14Bとの間にはオイルシール40A、40Bが、それぞれ配設されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−187945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の減速機10では、グリースを用いた「グリース潤滑」が適用されているが、グリースよりも流動性が高く、また、焼付荷重が高く、安価で交換が容易な潤滑油を用いた「油潤滑」の適用も考えられる。
【0009】
しかしながら、従来の減速機10に単に油潤滑を適用しただけでは、予想に反し、所望の性能や製品寿命を得ることができなかった。
【0010】
又、グリースと潤滑油とは粘性が異なるため、そのままグリースのシール構造を油のシール構造に適用することは難しいという問題もあった。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、従来の内接噛合遊星歯車減速機との間で多くの部品を共用可能であると共に、僅かな設計変更で油潤滑を適用可能で、潤滑性の向上に伴う長寿命化及び高効率化を容易に実現することができる内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ケーシング内側に対向して配置され、該ケーシングに回転自在に支持された第1フランジ及び第2フランジと、該第1、第2フランジ間に配設されると共に、入力軸が前記第1、第2フランジに回転自在に両持ち支持された内接噛合遊星歯車減速部と、を備えた内接噛合遊星歯車減速機において、前記第1フランジにおける、前記内接噛合遊星歯車減速部と反対側に配設され、且つ、前記入力軸が挿通可能とされたカバーを備え、該カバーと前記第1フランジとの間には、潤滑油の貯留が可能な潤滑油貯留空間が形成されていると共に、前記入力軸と前記カバーとの間、及び前記入力軸と前記第2フランジとの間には、前記潤滑油を封止するオイルシールがそれぞれ配設されている内接噛合遊星歯車減速機により、上記課題を解決したものである。
【0013】
本発明に係る内接噛合遊星歯車減速機によれば、従来の内接噛合遊星歯車減速機との間で多くの部品を共用可能であると共に、僅かな設計変更で油潤滑を適用可能で、潤滑性の向上に伴う長寿命化及び高効率化を容易に実現することができる。
【0014】
なお、前記第1フランジに、該第1フランジの入力軸挿通孔とは別に、前記潤滑油貯留空間側と前記内接噛合遊星歯車減速部側とを連通する潤滑油流通孔を設ければ、潤滑油貯留空間と内接噛合遊星歯車減速部との間における潤滑油の循環を促進することができ、より一層、潤滑性の向上を図ることができる。
【0015】
又、前記カバーに、前記潤滑油貯留空間と前記カバー外側とを連通する潤滑油給排孔を設ければ、内接噛合遊星歯車減速機をオーバーホールする事無く潤滑油を交換することができ、メンテナンスが容易となる。
【0016】
更に、上述の内接噛合遊星歯車減速機における前記カバーの機能を、前記内接噛合遊星歯車減速機に連結されるモータのモータ継カバー、又は前記内接噛合遊星歯車減速機に連結されるブレーキのブレーキカバーと兼用させた内接噛合遊星歯車減速装置としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置によれば、従来の内接噛合遊星歯車減速機との間で多くの部品を共用可能であると共に、僅かな設計変更で油潤滑を適用可能で、潤滑性の向上に伴う長寿命化及び高効率化を容易に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施形態の一例に係る内接噛合遊星歯車減速装置について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の一例に係る内接噛合遊星歯車減速装置(以下、単に「減速装置」と称す。)100を示す断面図、図2、図3はそれぞれ図1における矢視II、矢視IIIから見た減速装置100の側面図、図4は図1におけるIV−IV線に沿う断面図である。
【0020】
この減速装置100は、ケーシング112内側に対向して配置され、ケーシング112に回転自在に支持された第1フランジ114A及び第2フランジ114Bと、第1、第2フランジ114A、114B間に配設されると共に、入力軸116が第1、第2フランジ114A、114Bに回転自在に両持ち支持された内接噛合遊星歯車減速部(以下、単に「減速部」と称す。)GS1と、を備えて構成されており、上記従来の減速機10における「グリース潤滑」に代えて、潤滑油OLを用いた「油潤滑」を適用したものである。
【0021】
なお、従来の減速機10と同一又は類似する機能を果たしている部分については、図中において下2桁に同じ符号を付すと共に、その説明を省略し、以下、本発明の特徴部分である油潤滑構造について詳細に説明する。
【0022】
減速装置100は、モータ(図示略)の取り付けが可能な盆状体からなるモータ継カバー150を備えている。
【0023】
このモータ継カバー150は、第1フランジ114Aにおける、減速部GS1と反対側に配設され、モータ継カバー150と第1フランジ114Aとの間には、潤滑油OLの貯留が可能な潤滑油貯留空間152が形成されている。モータ継カバー150は、ボルト154によってケーシング112に連結・固定されていると共に、ケーシング112の内周面112Aと、この内周面112Aに接する、モータ継カバー150の外周面150Aとの間にはOリング156が配設されている。
【0024】
図2に示されるように、モータ継カバー150外周の枠部には、潤滑油貯留空間152とモータ継カバー150外側とを連通する潤滑油給排孔158が複数個(この例では3個)設けられている。なお、モータ継カバー150の側面には、複数個(この例では4個)のタップ151が周方向に形成されている。
【0025】
図1に戻って、モータ継カバー150の中心部には入力軸116が挿通可能な軸挿通孔162が形成されており、この軸挿通孔162と入力軸116との間には、入力軸116に嵌合されたパイプ状のカラー164を介してオイルシール166が配設されている。一方、第2フランジ114Bと入力軸116との間にも、入力軸116に嵌合されたカラー168を介してオイルシール170が配設されている。
【0026】
又、図4に示されるように、第1フランジ114Aには、入力軸116が挿通可能な入力軸挿通孔116Aとは別に、潤滑油貯留空間152側と減速部GS1側とを連通する潤滑油流通孔160が周方向に複数個(この例では6個)設けられている。潤滑油貯留空間152に貯留された潤滑油OLは、この潤滑油流通孔160を介して、潤滑油貯留空間152と減速部GS1側の空間を流通可能となっている。
【0027】
次に、この減速装置100の作用について説明する。
【0028】
減速部GS1の入力軸116が回転すると、入力軸116と一体化された偏心体122A、122B、122Cが回転する。偏心体122A、122B、122Cが回転すると、外歯歯車126A、126B、126Cは入力軸116の周りで揺動回転を行おうとするが、内歯歯車128によってその自転が抑制されるため、外歯歯車126A、126B、126Cはこの内歯歯車128に内接しながら殆ど揺動のみを行うことになる。この外歯歯車126A、126B、126Cの回転は内ピン孔132A、132B、132C及び内ローラ134の隙間によってその揺動成分が吸収され、自転成分のみが内ピン136を介して第1、第2フランジ114A、114Bへと伝達される。
【0029】
本実施形態の一例に係る減速装置100によれば、第1フランジ114Aにおける、減速部GS1と反対側の面を覆うように配設され、且つ、入力軸116が挿通可能とされたモータ継カバー150を備え、モータ継カバー150と第1フランジ114Aとの間には、潤滑油OLの貯留が可能な潤滑油貯留空間152が形成されていると共に、入力軸116とモータ継カバー150との間、及び入力軸116と第2フランジ114Bとの間には、潤滑油OLを封止するオイルシール166、170がそれぞれ配設されているため、従来の減速機との間で多くの部品(例えば、ころ軸受124A、124B、124Cや外歯歯車126A、126B、126Cなど)を共用することができる。しかも、本発明者の実験によれば、従来の減速機に単に油潤滑を適用しただけでは所望の性能や製品寿命を得ることができなかったのであるが、減速装置100によれば、僅かな設計変更で油潤滑を適用可能で、潤滑性の向上に伴う長寿命化及び高効率化を容易に実現することができる。
【0030】
又、第1フランジ114Aに、潤滑油貯留空間152側と減速部GS1側とを連通する潤滑油流通孔160を設けているため、潤滑油貯留空間152と減速部GS1との間における潤滑油OLの循環を促進することができ、より一層、潤滑性を向上させることができる。
【0031】
更に、モータ継カバー150に、潤滑油貯留空間152とモータ継カバー150外側とを連通する潤滑油給排孔158を設けているため、減速装置100をオーバーホールする事無く潤滑油OLを交換することができ、メンテナンスが容易である。
【0032】
なお、本発明に係る減速装置は、上記実施形態の一例に係る減速装置100の形状や構造等に限定されるものではない。
【0033】
従って、例えば、図5に示される内接噛合遊星歯車減速装置200のように、上記減速装置100のモータ継カバー150に代えて、ブレーキ(図示略)の取り付けが可能なブレーキカバー202を適用してもよい。この場合には入力軸204がブレーキ軸を兼用することが可能である。又、モータ継カバー150やブレーキカバー202の機能を持たないカバーを適用してもよい。
【0034】
又、上記実施形態においては、第1フランジ114Aに潤滑油流通孔160を設けたが、例えば、入力軸116と軸受120A、又は第1フランジ114Aと軸受120Aとの隙間を通じて潤滑油OLの循環を十分に行うことができる場合などには、第1フランジ114Aに潤滑油流通孔160を設けなくてもよい。
【0035】
更に、モータ継カバー150外周の枠部に潤滑油給排孔158を設けたが、潤滑油給排孔158は必要に応じて設ければよく、その個数も3個に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、例えば産業ロボットの関節装置や自動工具交換装置等の精密制御が要求される装置の駆動のために用いられる内接噛合遊星歯車減速機及び内接噛合遊星歯車減速装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態の一例に係る内接噛合遊星歯車減速装置の断面図
【図2】図1における矢視IIから見た側面図
【図3】図1における矢視IIIから見た側面図
【図4】図1におけるIV−IV線に沿う断面図
【図5】本発明の他の実施形態の一例に係る内接噛合遊星歯車減速装置の断面図
【図6】従来の内接噛合遊星歯車減速機の断面図
【符号の説明】
【0038】
GS0、GS1…内接噛合遊星歯車減速部
OL…潤滑油
10…内接噛合遊星歯車減速機
12、112…ケーシング
112A…内周面
14A、114A…第1フランジ
14B、114B…第2フランジ
16、116、204…入力軸
18、118…キャリアボルト
20A、20B、120A、120B…軸受
22A、22B、22C、122A、122B、122C…偏心体
24A、24B、24C、124A、124B、124C…ころ軸受
26A、26B、26C、126A、126B、126C…外歯歯車
28、128…内歯歯車
30、130…外ピン
32A、32B、32C、132A、132B、132C、142A、142B…内ピン孔
34、134…内ローラ
36、136…内ピン
38A、38B…シール
40A、40B、140B、166、170…オイルシール
100、200…内接噛合遊星歯車減速装置
144、151…タップ
150…モータ継カバー
150A…外周面
152…潤滑油貯留空間
154…ボルト
156…Oリング
158…潤滑油給排孔
160…潤滑油流通孔
162…軸挿通孔
164、168…カラー
202…ブレーキカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内側に対向して配置され、該ケーシングに回転自在に支持された第1フランジ及び第2フランジと、該第1、第2フランジ間に配設されると共に、入力軸が前記第1、第2フランジに回転自在に両持ち支持された内接噛合遊星歯車減速部と、を備えた内接噛合遊星歯車減速機において、
前記第1フランジにおける、前記内接噛合遊星歯車減速部と反対側に配設され、且つ、前記入力軸が挿通可能とされたカバーを備え、該カバーと前記第1フランジとの間には、潤滑油の貯留が可能な潤滑油貯留空間が形成されていると共に、
前記入力軸と前記カバーとの間、及び前記入力軸と前記第2フランジとの間には、前記潤滑油を封止するオイルシールがそれぞれ配設されている
ことを特徴とする内接噛合遊星歯車減速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1フランジに、該第1フランジの入力軸挿通孔とは別に、前記潤滑油貯留空間側と前記内接噛合遊星歯車減速部側とを連通する潤滑油流通孔を設けた
ことを特徴とする内接噛合遊星歯車減速機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記カバーに、前記潤滑油貯留空間と前記カバー外側とを連通する潤滑油給排孔を設けた
ことを特徴とする内接噛合遊星歯車減速機。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の内接噛合遊星歯車減速機における前記カバーの機能を、前記内接噛合遊星歯車減速機に連結されるモータのモータ継カバー、又は前記内接噛合遊星歯車減速機に連結されるブレーキのブレーキカバーと兼用させた
ことを特徴とする内接噛合遊星歯車減速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−38108(P2006−38108A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219209(P2004−219209)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】