説明

内接歯車ポンプ

【課題】 両ロータ間の隙間への吸込圧損の増大を抑制し、キャビテーションの発生も抑制する内接歯車ポンプの提供。
【解決手段】 吸込口10と吐出口17とを有するケーシング本体1に、円筒状の胴4が配置され、この胴4内にはアウタロータ5とインナロータ6とが収容される。アウタロータ5は、胴4の中空穴54に回転可能にはめ込まれる。インナロータ6は、アウタロータ5と偏心して設けられ、アウタロータ5と内接してかみ合い、シャフト57を介して回転駆動される。両ロータ5,6を覆うよう胴4には、ポート7が設けられる。胴4の上下両端面から胴4内へ液体を導入するために、第一吸込穴65と第二吸込穴71とが形成されている。第一吸込穴65は、前記ケーシング本体1方向へ行くに従って先細りとなるテーパ穴に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オイルポンプや給水ポンプなどに使用される内接歯車ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内接歯車ポンプは、オイルポンプとして広く用いられており、吸込口と吐出口とを有するケーシング内に、インナロータとアウタロータとを回転可能に組み込んで構成される。その際、インナロータは、アウタロータと偏心して設けられ、アウタロータと内接してかみ合わされる。しかも、インナロータの歯数は、アウタロータの歯数よりも一枚少ない。回転駆動力はインナロータに与えられ、これに伴いアウタロータも同一方向へ回転する。このような構成であるから、吸込口から両ロータ間の隙間へ導入された液体は、両ロータの回転に伴い周方向へ移動して吐出口へ送り出される。
【特許文献1】特開平6−167278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1に開示されるように、従来の内接歯車ポンプはいずれも、両ロータ間の隙間への吸込穴が小さく単数であった。このような構成では、流量が増大する程、吸込圧損が大きくなり、場合によりキャビテーションを生じるおそれもあった。
【0004】
この発明が解決しようとする課題は、両ロータ間の隙間への吸込圧損の増大を抑制し、キャビテーションの発生も抑制する内接歯車ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、円筒状の胴の中空穴に回転可能にはめ込まれるアウタロータと、このアウタロータと偏心して設けられ、前記アウタロータと内接してかみ合い、シャフトを介して回転駆動されるインナロータとを備え、前記両ロータを収容した前記胴の両端側に、液体の吸込穴が対向して配置されていることを特徴とする内接歯車ポンプである。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、胴の両端側に吸込穴を配置したので、吸込性能を改善することができる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、吸込口と吐出口とを有するケーシング本体と、このケーシング本体に設けられる円筒状の胴と、この胴の中空穴に回転可能にはめ込まれるアウタロータと、このアウタロータと偏心して設けられ、前記アウタロータと内接してかみ合い、シャフトを介して回転駆動されるインナロータと、前記両ロータを覆うよう前記胴に設けられるポートと、前記ケーシング本体との間の中空部に前記胴および前記ポートを収容して、前記ケーシング本体に設けられるケーシング蓋とを備え、前記ポートには、前記ケーシング本体の吸込口からの液体を、前記中空部を介して前記両ロータ間の隙間へ導く第一吸込穴が形成されており、前記ケーシング本体と前記胴との間には、前記ケーシング本体の吸込口からの液体を、前記両ロータ間の隙間へ導く第二吸込穴が形成されており、前記各吸込穴から前記両ロータ間の隙間へ導入される液体は、前記両ロータの回転に伴い前記吐出口へ送り出されることを特徴とする内接歯車ポンプである。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、第一吸込穴および第二吸込穴から、同時に両ロータ間の隙間へ液体を導入するので、吸込性能を改善することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記ケーシング本体には、前記胴より大径の円環状溝が形成されており、この円環状溝には、前記胴および前記ポートを収容するストレーナの端部がはめ込まれ、前記第二吸込穴は、前記円環状溝と連通して、前記第一吸込穴と対向した位置に、前記ケーシング本体が切り欠かれて形成されていることを特徴とする請求項2に記載の内接歯車ポンプである。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、簡易な構成で第二吸込穴を形成することができる。しかも、ストレーナにより、両ロータ間への異物の流入を防止することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記ケーシング本体に、前記両ロータを収容した前記胴および前記ポートのセットが、二段重ねされた二段構造とされ、前記各ポートには、それぞれ対応する位置に前記第一吸込穴が形成されており、前記ケーシング本体、および両端面を前記胴に挟まれる中央のポートには、それぞれ前記第一吸込穴と対応した位置に切欠きが形成されて前記第二吸込穴が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の内接歯車ポンプである。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、各胴の両端側にそれぞれ吸込穴を配置することで、吸込性能を改善した二段構造の内接歯車ポンプを実現することができる。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、前記第一吸込穴は、前記ケーシング本体方向へ行くに従って先細りとなるテーパ穴に形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の内接歯車ポンプである。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、第一吸込穴の形状をテーパ穴とすることで、より一層、吸込性能を改善することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、両ロータ間の隙間への吸込圧損の増大を抑制し、キャビテーションの発生も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の内接歯車ポンプは、典型的にはトロコイドポンプであり、オイルポンプまたは給水ポンプなどとして使用される。この内接歯車ポンプは、吸込口と吐出口とを有するケーシング内に、インナロータとアウタロータとが回転可能に組み込まれて構成される。ケーシングには、円筒状の胴が設けられており、この胴の中空穴に同じく円筒状のアウタロータが回転可能にはめ込まれ、このアウタロータ内にインナロータが収容される。
【0017】
アウタロータは内歯歯車から構成され、インナロータは外歯歯車から構成される。インナロータは、アウタロータより小径に形成されており、その歯数はアウタロータの歯数よりも少ない。インナロータは、アウタロータ内にアウタロータと偏心して設けられ、アウタロータと内接してかみ合わされる。
【0018】
インナロータはシャフトに取り付けられており、このシャフトはモータにより回転駆動される。インナロータが回転すると、これに伴いアウタロータも同一方向へ回転する。両ロータを偏心させているので、両ロータ間の隙間の大きさは、胴の周方向位置で異なる。従って、胴の両端側の適切な位置に吸込口と吐出口とを配置しておくことで、吸込口から液体を吸入して吐出口へ吐出することができる。すなわち、吸込口から両ロータ間の隙間へ導入される液体は、両ロータの回転に伴い周方向へ移動して吐出口へ送り出される。
【0019】
本実施形態では、ケーシングの吸込口と連通して、吸込穴が胴の両端側に対向して配置される。従って、胴の周方向所定位置で、胴の両端側から両ロータ間の隙間へ導入された液体は、両ロータの回転に伴い周方向へ移動して吐出口へ送り出される。胴の両端側から同時に液体を導入することで、吸込性能を改善することができる。
【0020】
さらに具体的に説明すると、両ロータを収容する胴は、上述したようにケーシング内に設けられるが、このケーシングは、ケーシング本体とケーシング蓋とから構成される。ケーシング本体には、円筒状の胴が設けられ、この胴内に、アウタロータとインナロータとが収容される。両ロータの厚さは、それぞれ胴の厚さから両端面側のクリアランスを差し引いた値に設定されている。両ロータが収容された胴の片面には、短円柱形状のポートが設けられる。これにより、両ロータは、ケーシング本体とポートとの間に挟まれて、胴内に収容される。
【0021】
ポートには、軸方向に貫通して、第一吸込穴が形成される。この第一吸込穴は、前記ケーシング本体方向へ行くに従って先細りとなるテーパ穴に形成するのがよい。また、ケーシング本体と胴との間には、第一吸込穴と対応した周方向位置に、第二吸込穴が形成される。両ロータを収容する胴およびポートを覆うように、ケーシング本体にはケーシング蓋がなされる。ケーシング本体にケーシング蓋を取り付けた状態では、両者の間に中空部が形成され、この中空部内に胴およびポートが収容される。
【0022】
ケーシング本体の吸込口は、ケーシングの中空部と連通されている。従って、吸込口からの液体は、ケーシングの中空部を介して、第一吸込穴および第二吸込穴へ供給される。これにより、胴の両端側から両ロータ間の隙間へ導入された液体は、両ロータの回転に伴い周方向へ移動した後、ポートの所定位置に形成された吐出溝、およびこれと連通して胴の周側壁に形成された縦穴を介して、ケーシング本体の吐出口へ送り出される。
【0023】
ところで、本実施形態のケーシング本体には、胴を取り囲む位置に、円環状溝が形成されている。そして、この円環状溝と連通して、ケーシング本体の一部を切り欠くことで、第二吸込穴を形成するのがよい。また、円環状溝には、円筒状網材からなるストレーナの一端部がはめ込まれる。ストレーナの他端部は、ケーシング蓋の内面に、気密に当接される。これにより、吸込口からの液体は、ストレーナを介してろ過された後、各吸込穴へ供給される。
【0024】
内接歯車ポンプには、ポンプからの吐出圧を調整するために、公知の圧力調整弁機構を設けることができる。本実施形態では、圧力調整弁機構は、ケーシング本体内に内蔵され、ポンプからの液体の吐出圧を調整する。具体的には胴内から吐出された液体は、ケーシング内の圧力調整弁機構を介して、一部が吸込口および/またはタンクへ戻される構成とされている。この戻し経路を閉鎖するよう付勢された圧力調整弁機構について、その付勢力を調整することで、ポンプからの液体の吐出圧が調整される。
【0025】
以上の説明では、一段構造のポンプについて説明したが、場合により二段並列構造に構成することもできる。この場合、ケーシング本体に、両ロータを収容した胴およびポートのセットが、二段重ねされた構造とされる。そして、各ポートには、それぞれ対応する位置に第一吸込穴が形成される。また、ケーシング本体、および両端面を胴に挟まれる中央のポートには、それぞれ第一吸込穴と対応した位置に、ケーシングの中空部と連通する切欠きが形成されて、第二吸込穴が形成される。同様にして、これ以上の段数を有するポンプを構成することも可能である。
【実施例1】
【0026】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1から図5は、本発明の内接歯車ポンプの実施例1を示す図であり、図1は分解斜視図、図2は組立状態の縦断面図、図3は図2におけるIII−III断面図、図4は図2におけるIV−IV断面図、図5は図2におけるV−V断面図である。
【0027】
本実施例の内接歯車ポンプは、トロコイドポンプであり、オイルポンプとして使用される。本実施例の内接歯車ポンプは、ケーシング本体1とケーシング蓋2とから構成されるケーシング3の他、そのケーシング3内に収容される胴4、アウタロータ5、インナロータ6、ポート7およびストレーナ8を主要部として備える。
【0028】
ケーシング本体1は、横断面が正方形のブロック状とされ、その下面中央部には、下方へ延出して円筒状のボス部9が一体形成されている。ボス部9の上部には、フランジ(図示省略)が取付可能とされている。
【0029】
図1および図5に示すように、ケーシング本体1内には、手前側左角部に吸込口10が形成されている。具体的には、ケーシング本体1内には、その前面と左側面とに開口して、L字形状の吸込路11が形成されている。そして、この吸込路11のケーシング本体1の外面への開口部が、それぞれ吸込口10,10とされる。L字形状の吸込路11は、その角部において、一または複数の吸込連通穴12を介して、ケーシング本体1の上面へ開口されている。図示例では、三つの吸込連通穴12,12,12が、上下方向へ沿って形成されている。
【0030】
ケーシング本体1内には、後方左角部に戻し口13が形成されている。具体的には、ケーシング本体1内には、その後面と左側面とに開口して、L字形状の戻し路14が形成されている。そして、この戻し路14のケーシング本体1の外面への開口部が、それぞれ戻し口13,13とされる。戻し路14は、前後連通路15を介して、吸込路11と連通されている。図示例では、ケーシング本体1の前面の吸込口10と後面の戻し口13とが一直線上に連通するように、吸込路11と戻し路14とは、前後連通路15を介して互いに連通されている。ところで、本実施例では、戻し口13は使用しないので、戻し口13は六角穴付きプラグ16がねじ込まれて閉塞される。
【0031】
ケーシング本体1内には、前方右角部に吐出口17とエア抜き口18とが形成されている。具体的には、ケーシング本体1内には、前後方向へ貫通して第一横穴19が形成されており、この第一横穴19と交差して、ケーシング本体1の右側面からケーシング本体1の左右方向中央部まで延出して、第二横穴20が形成されている。そして、第一横穴19の前端部が吐出口17とされる一方、第二横穴20の右端部がエア抜き口18とされる。吐出口17には、金属パッキン21を介してエンドプラグ22が設けられ、エア抜き口18には、所望によりエア抜き弁23が設けられる。このエア抜き弁23は、所望時に外部へエア抜きする以外は、閉鎖状態で使用される。
【0032】
第二横穴20は、その左端部において、吐出連通穴24を介して、ケーシング本体1の上面へ開口されている。従って、吐出連通穴24からのオイルは、吐出口17のエンドプラグ22を介して、外部へ吐出可能とされる。エンドプラグ22は、軸線を前後方向へ沿って配置された段付き円柱形状とされ、中央部外周面が吐出口17にねじ込まれて固定される。エンドプラグ22の先端部は、第一横穴19よりも小径に形成されており、直径方向に貫通して吐出案内穴25,25が交差して形成されている。エンドプラグ22には、その軸線に沿って基端面へのみ開口して吐出案内路26が形成されており、この吐出案内路26は吐出案内穴25と連通されている。従って、吐出連通穴24からのオイルは、吐出案内穴25および吐出案内路26を介して、外部へ吐出される。
【0033】
第一横穴19内の後部には、圧力調整弁機構27が内蔵されており、この圧力調整弁機構27および左右連通路28を介して、第一横穴19は戻し路14と連通される。本実施例の圧力調整弁機構27は、圧力調整ボルト29、圧力調整ナット30、圧力調整バネ31、ピストン32、プランジャ33、ポペット34、ポペットホルダ35、プランジャスプリング36およびポペットスプリング37を備える。
【0034】
圧力調整ボルト29は、その頭部38を第一横穴19の後部に配置して、第一横穴19内で回転のみ可能に設けられる。圧力調整ボルト29は、頭部38に六角穴39が形成されており、六角レンチにて回転操作される。第一横穴19の後端部にはスナップリング40が設けられ、圧力調整ボルト29の脱落が防止される。圧力調整ボルト29の頭部38外周面と、第一横穴19の内周面との間には、Oリング41が設けられ、両者の隙間が封止される。
【0035】
圧力調整ナット30は、圧力調整ボルト29に進退可能にねじ込まれている。圧力調整ナット30の外周面と、第一横穴19の内周面との間には、回り止めバネ42が設けられている。これにより、圧力調整ナット30は、第一横穴19に対し回転不能であるが、第一横穴19の軸方向に沿って進退可能とされる。従って、圧力調整ボルト29を回転させることで、圧力調整ナット30を前後方向へ移動させることができる。
【0036】
ピストン32は、後方へ開口した円筒状であり、その外径は第一横穴19の内径と対応している。ピストン32と圧力調整ナット30との間には、圧力調整バネ31が配置される。圧力調整バネ31は、後端部がバネ座43を介して圧力調整ナット30に当接され、前端部がピストン32内にはめ込まれてピストン32の前壁44に当接される。これにより、ピストン32は、圧力調整バネ31により常時前方へ付勢され、ポンプを作動させていない状態では、エンドプラグ22の先端面45に当接される。ピストン32の前壁44中央部には穴が形成されており、この穴にはプランジャ33がはめ込まれる。
【0037】
プランジャ33は、後方へのみ開口した円筒状に形成されている。その中空穴46は、プランジャ33の前端部周側壁に形成された貫通穴47を介して、外部と連通される。プランジャ33の中空穴46の後部開口には、ポペット34が設けられる。ポペット34は、段付き円柱形状とされ、その前端部は円錐状部48に形成されている。この円錐状部48は、プランジャ33の中空穴46の後部開口に当接するよう配置される。
【0038】
ポペット34は、段付き円筒状のポペットホルダ35内に収容される。その際、大径穴にポペット34の大径部が配置され、小径穴にポペット34の小径部が配置される。また、ポペットホルダ35の大径穴には、プランジャ33の後端部がはめ込まれる。ポペットホルダ35の大径部には、周側壁を貫通して連通穴49が形成されている。
【0039】
ポペットホルダ35の外周側段部と、圧力調整ボルト29との間には、プランジャスプリング36が設けられる。これにより、ポペットホルダ35は、常時前方へ付勢される。また、ポペットホルダ35の内周側段部と、ポペット34の段部との間には、ポペットスプリング37が設けられる。このポペットスプリング37は、ポペット34の小径部にはめ込まれている。これにより、ポペット34は、その円錐状部48にてプランジャ33の中空穴46の後部開口を塞ぐように、常時前方へ付勢される。
【0040】
以上のような構成であるから、圧力調整弁機構27を介して、吐出連通穴24からのオイルの一部を吸込口10へ戻しつつ、吐出口17からオイルを吐出することができる。すなわち、圧力調整バネ31の付勢力に対抗してピストン32を後方へ移動させることで、プランジャ33の中空穴46へオイルを導き、さらにポペットスプリング37の付勢力に対抗して、プランジャ33とポペット34との隙間を介した後、ポペットホルダ35の連通穴49、さらには左右連通路28および前後連通路15を介して、吸込路11へオイルの一部を戻すことができる。そして、圧力調整ボルト29を回転させて、圧力調整ナット30を進退させることで、圧力調整バネ31の付勢力を調整して、ポンプからの液体の吐出圧を調整することができる。圧力調整バネ31を最大限に圧縮した状態では、加圧時にも圧力調整弁機構27を作動させない状態とすることができる。つまり、この場合、吐出連通穴24から吸込口10へのオイルの戻りは、完全に阻止される。
【0041】
ケーシング本体1の上面には、円環状溝50が上方へ開口して形成されている。円環状溝50は、ケーシング本体1の上面を下方へ切り欠いて形成されており、溝の縦断面形状は四角形状とされている。この円環状溝50の外周部にかかるように、ケーシング本体1の手前側左角部には、前述した吸込連通穴12が開口されている。一方、吐出連通穴24は、円環状溝50よりも内側に配置されている。
【0042】
さらに、ケーシング本体1の上面には、平面視が略T字状の切欠き51が、上方へ開口して形成されている。具体的には、円環状溝50の左端部から半径方向内側へ延出した後、周方向両側へ円弧状に延出して、平面視略T字状に切欠き51が形成されている。この切欠き51の深さは、円環状溝50と同一とされている。
【0043】
ケーシング本体1の上面には、円環状溝50よりも内側に、短円筒状の胴4が設けられる。この胴4の周側壁には、上下方向へ貫通して縦穴52が形成されている。この縦穴52の下部は、ケーシング本体1の上面に開口した吐出連通穴24と連通される。ケーシング本体1の上面に形成した略T字状切欠き51の円弧状部53は、胴4の中空穴54内に配置される。
【0044】
胴4内には、アウタロータ5とインナロータ6とが設けられる。各ロータ5,6は、胴4の上下方向寸法と対応した高さ寸法に形成されている。アウタロータ5は、外径が胴4の中空穴54と対応した円筒状に形成されている。従って、アウタロータ5は、胴4の中空穴54の内周面に沿って回転可能である。アウタロータ5の内周部には、複数(図示例では9枚)の内歯55,55,…が設けられている。そして、アウタロータ5の内歯55と内接してかみ合うように、アウタロータ5内にはアウタロータ5と偏心して、インナロータ6が設けられる。インナロータ6の外周部には、アウタロータ5よりも一枚少ない歯数(図示例では8枚)の外歯56,56,…が設けられている。
【0045】
インナロータ6は、シャフト57により回転駆動力を与えられる。シャフト57は、ケーシング本体1を上下に貫通して設けられる。ボス部9内には、スラスト軸受58が設けられている。また、ボス部9内には、主軸シールリング59および二つのオイルシール60,60が、スナップリング61で脱落不能に設けられており、シャフト57とケーシング本体1との隙間が封止される。そして、シャフト57には、ケーシング本体1の上面から突出する箇所に、キー62を介してインナロータ6が一体回転可能に設けられる。このインナロータ6を介して、シャフト57はさらに上方へ延出しており、その延出部はネジ部63とされている。このネジ部63にナット64がねじ込まれることで、シャフト57にインナロータ6が確実に固定される。
【0046】
両ロータ5,6が収容された胴4の上面には、短円柱形状のポート7が設けられる。これにより、両ロータ5,6は、ケーシング本体1とポート7との間に挟まれて、胴4内に収容される。ポート7は、胴4と対応した外径に形成されている。ポート7の左側で、前記切欠き51の円弧状部53と対面する位置には、第一吸込穴65が上下に貫通して形成される。第一吸込穴65は、下方へ行くに従って先細りとなるテーパ穴に形成するのが好ましい。第一吸込穴65の下部開口66の大きさが、従来のオイルポンプの吸込穴の大きさと対応している。また、ポート7の裏面には、胴4内の所定位置の上面と胴4の縦穴52とを連通するための吐出溝67が、下方へ開口して形成されている。
【0047】
胴4およびポート7には、それぞれ対応する位置に、上下方向へ貫通して、ボルト挿通穴68,68,…が形成されている。従って、これらのボルト挿通穴68を介して、ケーシング本体1の上面に形成した第一ネジ穴69,69,…へボルト70,70,…をねじ込むことで、ケーシング本体1に胴4およびポート7を固定することができる。ケーシング本体1に胴4を固定した状態では、ケーシング本体1の上面に形成した切欠き51は、胴4との間で第二吸込穴71を形成し、胴4の下方から胴4内へオイルを供給可能とされる。
【0048】
円環状溝50には、細かなメッシュ状の円筒材から構成されるストレーナ8の下端部がはめ込まれる。そして、胴4やポート7を覆うように、ケーシング本体1にはケーシング蓋2が被せられる。ケーシング蓋2は、下方へのみ開口した円筒状とされ、その下端部には正方形状のツバ部72が形成されている。そのツバ部72をケーシング本体1の上面に重ね合わせて、その四隅のボルト通過穴73,73,…を介して、カバーボルト(図示省略)がケーシング本体1の第二ネジ穴74,74,…にねじ込まれる。この際、ケーシング本体1の上面とケーシング蓋2のツバ部72下面との間には、パッキン(図示省略)が介されており、両者の隙間が封止される。ところで、ストレーナ8の上端部と、ケーシング蓋2の上壁下面との間には、円環状パッキンからなるストレーナ押え75が配置されている。
【0049】
本実施例の内接歯車ポンプは、シャフト57の下端部に接続されるモータ(図示省略)により作動する。シャフト57を回転させると、インナロータ6が回転(図4において反時計方向へ回転)され、これに伴いアウタロータ5も同一方向へ回転される。吸込口10からのオイルは、吸込連通穴12を介してケーシング蓋2内の中空部へ供給され、ストレーナ8を介した後、第一吸込穴65および第二吸込穴71から両ロータ5,6間の隙間へ供給される。このようにして胴4の上下端面から両ロータ5,6間の隙間へ導入されたオイルは、両ロータ5,6の回転に伴い周方向へ移動され、ポート7下面に形成した吐出溝67、胴4の周側壁に形成した縦穴52、およびケーシング本体1の吐出連通穴24を介して、吐出口17のエンドプラグ22から吐出される。その際、圧力調整弁機構27を調整しておくことで、ポンプからのオイルの吐出圧を調整できる。
【0050】
本実施例1の内接歯車ポンプは、一段構造であるから、簡易な構造となり、低コストで、性能のバラツキも抑えることができる。また、本実施例1の内接歯車ポンプによれば、胴4内への吸込部を大きく複数設けた。すなわち、第一吸込穴65を大きなテーパ穴とし、しかも第二吸込穴71をも設けた。これにより、吸込圧損を抑え、低入口圧でも吸い込みが可能となり、キャビテーションの発生も抑えることができる。
【実施例2】
【0051】
図6および図7は、本発明の内接歯車ポンプの実施例2を示す図であり、図6は分解斜視図、図7は組立状態の縦断面図である。本実施例2の内接歯車ポンプも、基本的には前記実施例1と同様の構成である。そこで、以下においては、両者の異なる点を中心に説明し、対応する箇所には同一の符号を付して説明する。
【0052】
前記実施例1では、一段構造のポンプについて説明したが、本実施例2では、二段並列構造とされている。この場合、ケーシング本体1の上面に、両ロータ5,6を収容した胴4およびポート7のセットが、二段重ねされた構造とされる。そして、各ポート7には、それぞれ対応する位置に第一吸込穴65が形成される。また、ケーシング本体1の上面に形成した切欠き51と同様に、中央のポート7の上面にも切欠き76を形成している。この切欠き76は、第一吸込穴65からポート7外周面まで延出して、ポート7の上面に略矩形状に形成されている。その他の構成は、前記実施例1と同様である。
【0053】
本発明の内接歯車ポンプは、前記各実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。たとえば、前記実施例1では、戻し口13を閉塞して、圧力調整弁機構27からのオイルを吸込口10へ戻したが、戻し口13を介してオイルを外部へ排出してもよい。たとえば、戻し口13を介してオイルタンク(図示省略)へ戻してもよい。また、吸込口10は、二つ設けているが、所望によりいずれか一方を塞いで使用することもできる。また、ケーシング本体1に吸込口10を一つだけ設けて形成してもよい。これらのことは、戻し口13についても同様である。
【0054】
さらに、ポンプの用途は、オイルポンプに限らず、給水ポンプなどにも利用可能である。また、アウタロータ5およびインナロータ6の歯数や歯形は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能なことは言うまでもない。また、前記各実施例では、第一吸込穴65はテーパ穴としたが、場合によりテーパ穴でなくてもよい。さらに、前記各実施例では、第二吸込穴71は、ケーシング本体1(実施例2ではさらにポート7)に切欠き51(76)を形成して構成したが、場合により胴4の方に切欠きを形成したり、ケーシング本体1内に吸込口10と直通して第二吸込穴71を形成したりしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の内接歯車ポンプの実施例1を示す分解斜視図である。
【図2】図1の内接歯車ポンプの組立状態の縦断面図である。
【図3】図2におけるIII−III断面図である。
【図4】図2におけるIV−IV断面図である。
【図5】図2におけるV−V断面図である。
【図6】本発明の内接歯車ポンプの実施例2を示す分解斜視図である。
【図7】図6の内接歯車ポンプの組立状態の縦断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ケーシング本体
2 ケーシング蓋
3 ケーシング
4 胴
5 アウタロータ
6 インナロータ
7 ポート
8 ストレーナ
10 吸込口
17 吐出口
50 円環状溝
51 切欠き
54 中空穴
57 シャフト
65 第一吸込穴
71 第二吸込穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴の中空穴に回転可能にはめ込まれるアウタロータと、
このアウタロータと偏心して設けられ、前記アウタロータと内接してかみ合い、シャフトを介して回転駆動されるインナロータとを備え、
前記両ロータを収容した前記胴の両端側に、液体の吸込穴が対向して配置されている
ことを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項2】
吸込口と吐出口とを有するケーシング本体と、
このケーシング本体に設けられる円筒状の胴と、
この胴の中空穴に回転可能にはめ込まれるアウタロータと、
このアウタロータと偏心して設けられ、前記アウタロータと内接してかみ合い、シャフトを介して回転駆動されるインナロータと、
前記両ロータを覆うよう前記胴に設けられるポートと、
前記ケーシング本体との間の中空部に前記胴および前記ポートを収容して、前記ケーシング本体に設けられるケーシング蓋とを備え、
前記ポートには、前記ケーシング本体の吸込口からの液体を、前記中空部を介して前記両ロータ間の隙間へ導く第一吸込穴が形成されており、
前記ケーシング本体と前記胴との間には、前記ケーシング本体の吸込口からの液体を、前記両ロータ間の隙間へ導く第二吸込穴が形成されており、
前記各吸込穴から前記両ロータ間の隙間へ導入される液体は、前記両ロータの回転に伴い前記吐出口へ送り出される
ことを特徴とする内接歯車ポンプ。
【請求項3】
前記ケーシング本体には、前記胴より大径の円環状溝が形成されており、
この円環状溝には、前記胴および前記ポートを収容するストレーナの端部がはめ込まれ、
前記第二吸込穴は、前記円環状溝と連通して、前記第一吸込穴と対向した位置に、前記ケーシング本体が切り欠かれて形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項4】
前記ケーシング本体に、前記両ロータを収容した前記胴および前記ポートのセットが、二段重ねされた二段構造とされ、
前記各ポートには、それぞれ対応する位置に前記第一吸込穴が形成されており、
前記ケーシング本体、および両端面を前記胴に挟まれる中央のポートには、それぞれ前記第一吸込穴と対応した位置に切欠きが形成されて前記第二吸込穴が形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の内接歯車ポンプ。
【請求項5】
前記第一吸込穴は、前記ケーシング本体方向へ行くに従って先細りとなるテーパ穴に形成されている
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の内接歯車ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127991(P2008−127991A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310089(P2006−310089)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】