説明

内燃機関におけるシリンダヘッド

【課題】シリンダヘッド3に,その上面の動弁室4の内底面4aに開口するオイル落とし通路14と,前記動弁室をタイミングチエンケース17に連通するオイル通路18とが形成され,吸気弁7及び排気弁8に対するバルブガイドスリーブ9,10が,前記動弁室内に突出するように設けられている内燃機関において,前記オイル落とし通路を小さくして,潤滑油の劣化を低減する。
【解決手段】前記オイル通路18における内底面18aを,前記動弁室4の内底面4aのうち前記オイル落とし通路14が開口する部分よりも高い部位で,前記バルブガイドスリーブ9,10の上端よりも低い部位に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関において,そのシリンダブロックの上面に取付けられるシリンダヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関においては,従来から良く知られているように,シリンダブロックの上面に締結したシリンダヘッドの上面に,カム軸等を含む動弁機構を内蔵する動弁室を凹み形成し,この動弁室内において,前記動弁機構を潤滑し,この潤滑した後の潤滑油を,前記シリンダヘッドの内部に前記動弁室の内底面に開口するように設けたオイル落とし通路を通してシリンダブロック下部におけるオイルパンに戻すという構成にしている。
【0003】
この場合,前記動弁機構に対する潤滑油を,前記オイル落とし通路のみからオイルパンに戻す構成である場合,前記動弁室から燃焼室側への吸気弁及び排気弁を介してのオイル漏れを少なくするためには,前記オイル落とし通路を大きくすることによって油面の高さを低くするようにしなければならず,これでは,例えばシリンダヘッドの横幅寸法が増大するといったシリンダヘッド及びシリンダブロックの大型化とか,或いは,冷却水ジャケットの縮小等を招来することになる。
【0004】
そこで,先行技術としての特許文献1,2及び3は,内燃機関のクランク軸方向の一端部には,下部が前記オイルパンに連通するタイミングチエンケースが設けられていることに着目して,前記動弁室の内底面と前記タイミングチエンケース内とを連通するオイル通路を設けることにより,前記動弁内における潤滑油を,前記オイル落とし通路と,前記タイミングチエンケースとの両方からオイルパンに戻すという構成にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−228577号公報
【特許文献2】特開平07−286508号公報
【特許文献2】特開2006−70758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,前記特許文献1,2及び3に記載の構成である場合,オイルパンへのオイル落とし通路を,動弁室内における油面を高くすることなく,小さくできる利点を有するが,その反面,前記動弁室内における潤滑油の一部が,タイミングチエンケース内に入ってオイルパンに戻る途中において,タイミングチエンにて激しくかき回されることになるから,潤滑油の劣化が早められるばかりか,潤滑油中に気泡が発生し,この気泡のために潤滑油ポンプの効率が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は,これらの問題を解消することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため請求項1は,
「内燃機関におけるシリンダヘッドに,その上面に凹み形成した動弁室における内底面に開口するオイル落とし通路と,前記動弁室をタイミングチエンケースに連通するオイル通路とが形成されているとともに,吸気弁及び排気弁に対するバルブガイドスリーブが,前記動弁室内に突出するように設けられているものにおいて,
前記オイル通路における内底面を,前記動弁室の内底面のうち前記オイル落とし孔が開口する部分よりも高い部位で,前記バルブガイドスリーブの上端よりも低い部位に位置する。」
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この構成によると,前記動弁室内における潤滑油は,常時の状態ではオイル落とし通路からオイルパンに戻されているが,動弁室内における潤滑油が過剰に多くなって,その内底面に溜まるようになった場合,その油面高さが,前記動弁室における内底面から前記オイル通路における内底面を越えた場合に限り,前記オイル通路からタイミングチエンケースに流出し,タイミングチエンケースを通ってオイルパンに戻されることになる。
【0010】
つまり,内燃機関の高速運転時等のように,前記動弁室内における潤滑油が過剰に多くなる状態においては,前記オイル落とし通路からオイルパンに戻る潤滑油を,前記動弁室内における油面が高くなる分だけ多くすることができる一方,前記オイル通路からタイミングチエンケースを経てオイルパンに戻る潤滑油,つまり,前記タイミングチエンケース内でタイミングチエンにてかき回されることになる潤滑油を,前記オイル落とし通路を大きくすることなく,少なくすることができるから,シリンダヘッドの大型化及び冷却水ジャケットの縮小等を招来すること,並びに,潤滑油の劣化促進及び気泡によるポンプ効率の低下を招来することを確実に回避できる。
【0011】
その一方において,前記動弁室に過剰に溜まる潤滑油の油面は,前記オイル通路における内底面がバルブガイドスリーブの上端よりも低いことにより,前記動弁室に溜まる潤滑油の油面が,前記動弁室の内底面から突出するバルブガイドスリーブの上端を越えて高くなることはないから,潤滑油の前記バルブガイドスリーブを介しての燃焼室への漏れが,その油面が高くなることによって増大するのを確実に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態の内燃機関の部分的平面図である。
【図2】図1のII−II視断面図である。
【図3】図1のIII −III 視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明の実施の形態を,図1〜図3の図面について説明する。
【0014】
これらの図において,符号1は内燃機関を示す。
【0015】
この内燃機関1は,下部に図示しないオイルパンを備えたシリンダブロック2と,その上面に配設したシリンダヘッド3と,このシリンダヘッド3の上面に凹み形成した動弁室4を塞ぐようにしたヘッドカバー5とを備えており,前記シリンダヘッド3は,前記シリンダブロック2に対して各気筒における左右両側のうち各気筒間の部位に配設した複数本ヘッドボルト6によって締結されている。
【0016】
前記シリンダヘッド3には,吸気弁7と排気弁8とが各気筒ごとに設けられており,これら吸気弁7及び排気弁8は,前記動弁室4の内底面4aのうち後述するオイル落とし通路14が開口する部分よりも適宜寸法H1だけ動弁室4内に突出するように設けたバルブガイドスリーブ9,10にて支持ガイドされており,これらバルブガイドスリーブ9,10の上端の各々には,バルブステムオイルシール11が設けられている。
【0017】
前記吸気弁7及び排気弁8は,従来から良く知られているように,前記動弁室4内に軸支した吸気弁用カム軸12及び排気弁用カム軸13の回転によって開閉作動するように構成されている。
【0018】
また,前記両カム軸12,13等の動弁機構には,前記オイルパン内における潤滑油が潤滑油ポンプ(図示せず)にて供給されることにより潤滑され,この潤滑後の潤滑油は,前記動弁室4の内底面4aに溜まるように構成されており,更に,前記潤滑油ポンプは,内燃機関によって駆動されることにより,当該潤滑油ポンプによる前記動弁機構等に対する潤滑油の供給は,内燃機関における回転数に比例して増大するようになっている。
【0019】
前記シリンダヘッド3のうち少なくとも一本のヘッドボルト6より外側の部位には,上下方向に延びるオイル落とし通路14が,前記動弁室4における内底面4aに開口するように形成されており,このオイル落とし通路14の下部は,前記シリンダブロック2の内部に形成した通路15を介して下部のオイルパンに連通している。
【0020】
前記シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の側面には,図示しないクランク軸から前記両カム軸12,13への動力伝達用タイミングチエン16を内蔵したタイミングチエンケース17が設けられ,このタイミングチエンケース17内の下部は,前記オイルパンに連通している一方,前記タイミングチエンケース17内の上部には,前記動弁室4が,前記シリンダヘッド3に形成したオイル通路18が連通している。
【0021】
そして,前記動弁室4から前記タイミングチエンケース17へのオイル通路18における内底面18aを,図3に示すように,前記動弁室4における内底面4aのうち前記オイル落とし通路14が開口する部分から適宜寸法H2だけ高い部位で,且つ,前記バルブガイドスリーブ9,10における上端よりも適宜寸法だけ低い部位に位置するように構成している。
【0022】
なお,前記オイル通路18の内底面18aを前記動弁室4の内底面4aよりも高くすることは,図示の構成にすることに限らず,前記オイル通路18の途中に,堰板を設けるという構成にすることができる。
【0023】
この構成によると,前記動弁室4内における潤滑油は,常時の状態ではオイル落とし通路14からオイルパンに戻されているが,動弁室4内における潤滑油が過剰に多くなって,その内底面4aに溜まるようになった場合,その油面高さが,前記動弁室4における内底面4aから前記オイル通路18における内底面18aを越えた場合に限り,前記オイル通路18からタイミングチエンケース17に流出し,タイミングチエンケース17を通ってオイルパンに戻されることになる。
【0024】
つまり,内燃機関1の高速運転時等のように,前記動弁室4内における潤滑油が過剰に多くなる状態においては,前記オイル落とし通路14からオイルパンに戻る潤滑油を,前記動弁室4内における油面が高くなる分だけ多くすることができる一方,前記オイル通路18からタイミングチエンケース17を経てオイルパンに戻る潤滑油,つまり,前記タイミングチエンケース17内でタイミングチエン16にてかき回されることになる潤滑油を,前記オイル落とし通路を大きくすることなく,少なくすることができる。
【0025】
その一方において,前記動弁室4に過剰に溜まる潤滑油の油面は,前記オイル通路18における内底面18aがバルブガイドスリーブ9,10の上端よりも低いことにより,前記動弁室4に溜まる潤滑油の油面が,前記動弁室4の内底面4aから突出するバルブガイドスリーブ9,10の上端を越えて高くなることはない。
【符号の説明】
【0026】
1 内燃機関
2 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
4 動弁室
4a 動弁室の内底面
5 ヘッドカバー
7 吸気弁
8 排気弁
9,10 バルブガイドスリーブ
11 バルブステムオイルシール
12,13 カム軸
14 オイル落とし通路
16 タイミングチエン
17 タイミングチエンケース
18 オイル通路
18a オイル通路の内底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関におけるシリンダヘッドに,その上面に凹み形成した動弁室における内底面に開口するオイル落とし通路と,前記動弁室をタイミングチエンケースに連通するオイル通路とが形成されているとともに,吸気弁及び排気弁に対するバルブガイドスリーブが,前記動弁室内に突出するように設けられているものにおいて,
前記オイル通路における内底面を,前記動弁室の内底面のうち前記オイル落とし孔が開口する部分よりも高い部位で,前記バルブガイドスリーブの上端よりも低い部位に位置することを特徴とする内燃機関におけるシリンダヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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