説明

内燃機関のためのレーザ点火装置

本発明は、レーザパルス(24)を形成するためのレーザ装置(26)と、レーザ装置(26)を光学的にポンピングするためのポンプ光源(30)とを備えている、内燃機関(10)、特に自動車の内燃機関(10)のためのレーザ点火装置(27)に関する。本発明によれば、ポンプ光源(30)とレーザ装置(26)との間の光学的な結合部(280)の領域にフォトダイオード装置(270)が配置されており、ポンプ光源(30)によって形成されたポンプ放射も、レーザ装置(26)によって形成されたレーザ放射も、それぞれ少なくとも部分的にフォトダイオード装置(270)のフォトダイオード(271)に入射させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザパルスを形成するためのレーザ装置と、レーザ装置を光学的にポンピングするためのポンプ光源とを備えている、内燃機関、特に自動車の内燃機関のためのレーザ点火装置に関する。
【0002】
その種のレーザ点火装置は、既にドイツ公開特許公報DE 10 2007 044 011 A1から公知である。
【0003】
発明の概要
本発明の課題は、レーザ点火装置の動作を簡単且つ確実に診断できるように、冒頭で述べた形式のレーザ点火装置を改良することである。
【0004】
この課題は、本発明によれば、冒頭で述べたようなレーザ点火装置において、フォトダイオード装置が、ポンプ光源とレーザ装置との間の光学的な結合部の領域において、ポンプ光源によって生成されたポンプ放射もレーザ装置によって生成されたレーザ放射もそれぞれ少なくとも部分的にフォトダイオード装置のフォトダイオードに入射可能であるように配置されていることによって解決される。これによって、有利には、レーザ装置によって生成されたレーザ点火パルスも、ポンプ光源から供給されたポンプ放射も監視することができる。
【0005】
本発明に係るレーザ点火装置の非常に小型の変形の形態においては、フォトダイオードがポンプ光源又はレーザ装置の光学的な接続部の領域内に配置されている。有利には、フォトダイオードを関連する構成要素内に直接的に組み込むことも可能である。
【0006】
本発明に係るレーザ点火装置の別の特に有利な変形の形態においては、ポンプ光源とレーザ装置との間の光学的な結合部が光学的なクロスセクションコンバータを有しており、また、フォトダイオードがクロスセクションコンバータの領域内に配置されており、有利にはクロスセクションコンバータに直接的に配置されている。本発明によれば、クロスセクションコンバータの領域においては、有利には、ポンプ放射もレーザ装置によって形成されたレーザパルスも、少なくとも散乱光の形態でクロスセクションコンバータから送出されるので、それらポンプ放射及びレーザパルスを非常に効率的且つ簡単にフォトダイオードを用いて検出できることが分かった。
【0007】
本発明の別の有利な変形の形態によれば、レーザ装置によって形成されたレーザ点火パルスの非常に正確な評価は、フォトダイオード装置がフォトダイオードの出力信号をフィルタリングするためのハイパスフィルタ及び/又はバンドパスフィルタを有していることによって得られる。本発明によれば、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタの下側限界周波数を適切に選択すれば、入射したポンプ放射成分に起因していると考えられる、フォトダイオードの電気的な出力信号の通常は比較的低周波の成分がフォトダイオードを事前に飽和させることなく、これによって、フォトダイオードへのレーザ点火パルスの入射に起因して生じる比較的高周波の信号成分を評価できることが保証されていることが分かった。
【0008】
本発明の別の有利な変形の形態によれば、非常に簡単な回路構成は、誘導性素子がフォトダイオード及びオーム負荷抵抗に並列に接続されていることによって得られる。例えば従来通りのコイルとして構成することができる誘導性素子のインダクタンスを適切に選択すれば、有利には、フォトダイオードの電気的な出力信号の妨害的な低周波のポンプ光成分を短絡させることができるので、この妨害的な低周波のポンプ光成分がフォトダイオードの事前飽和に寄与することはない。しかしながら、これとは異なり、レーザ点火パルスに起因するフォトダイオードの出力信号の高周波の成分は、誘導性素子と負荷抵抗とにより構成される並列回路における比較的大きい電圧降下を生じさせ、従って、有利には、この電圧降下を正確に評価することができる。
【0009】
誘導性素子は、ポンプ放射及びレーザ装置のレーザ点火パルスに使用される信号周波数に応じて、ポンプ放射の周波数成分が専らハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタによって短絡され、その結果、ポンプ放射によるフォトダイオードの不所望な事前飽和が生じることはないように選定されている。典型的には、ポンプ光の入射に起因するフォトダイオードの電気的な出力信号の信号成分は約100kHzの範囲にあることが考えられるが、レーザ装置のレーザ点火パルスの入射に起因するフォトダイオードの電気的な出力信号の信号成分は約1GHzの範囲にあることが考えられる。
【0010】
本発明の別の非常に有利な変形の形態においては、少なくとも一つの誘導性素子と少なくとも一つのオーム抵抗とにより構成される直列回路がフォトダイオードに並列に接続されている。この直列回路のオーム抵抗を適切に選択することによって、フォトダイオードの事前飽和に寄与する、フォトダイオードの出力信号の比較的低周波の信号成分を短絡することができる。これによって、フォトダイオード装置の後段に配置されている評価回路はポンプ放射を評価することもでき、例えばポンプ放射の存在を検査することができる。フォトダイオードがポンプ放射のスペクトル成分によって既に飽和状態に移行することがないようにするために、直列回路のオーム抵抗は過度に大きく選定されてはならない。
【0011】
本発明の別の有利な変形の形態によれば、少なくとも一つの誘導性素子と少なくとも一つのスイッチとにより構成される第1の直列回路、並びに、少なくとも一つのオーム抵抗と少なくとも一つのスイッチとにより構成される少なくとも一つの第2の直列回路は、それぞれフォトダイオードに並列に接続されている。この回路装置を用いて、本発明に係るフォトダイオード装置のフィルタ特性を変化させることができる。
【0012】
例えば、レーザ装置を光学的にポンピングしている間に、第2の直列回路をこの第2の直列回路のスイッチを閉じることによってアクティブ状態にし、それによってフォトダイオードに並列に第2の直列回路のオーム抵抗を接続させることができる。これによって、オーム抵抗においては、ポンプ光源の光学的なポンプ出力に比例する電圧値を検出することができる。続いて、レーザ装置によってレーザ点火パルスが形成されると見込まれる時点よりも前の所定の時点に、第2の直列回路に含まれるスイッチを開くことによってこの第2の直列回路を非アクティブ状態にすることができ、他方ではそれと同時に、上記に既に何度か説明した、インダクタンスを有する第1の直列回路のハイパス特性によって、レーザ点火パルスの非常に正確な検出を実現するために、第1の直列回路のスイッチが閉じられる。
【0013】
負荷抵抗は、同様にフォトダイオードに並列に接続されている。負荷抵抗は、フォトダイオードによって形成された電流を、例えばレーザ点火装置の制御装置によって測定技術的に検出することができる電圧に変換する。負荷抵抗は、典型的には、制御装置の相応の測定装置の内部抵抗を表すが、しかしながら、分離した形態で、特にフォトダイオードの近傍に実装することもできる。
【0014】
本発明に係るフォトダイオード装置の負荷抵抗並びに誘導性素子のインダクタンス値、また必要に応じて別のオーム抵抗を、それ自体公知の手法で、所望のフィルタ特性が達成されるように適合させることができる。更には、負荷抵抗は一方では、フォトダイオードのキャパシタンスと接続されている回路(ローパスフィルタ)が点火レーザパルスを検出するには十分に高速であるように十分に低く選定されている。負荷抵抗は他方では、確実な検出のために十分な電圧レベルが形成されるように十分に大きく選定されている。負荷抵抗に関する有利な値は50Ωから2kΩまでの範囲にある。
【0015】
本発明に係るレーザ点火装置の別の特に有利な実施の形態においては、フォトダイオード装置の少なくとも一つの誘導性素子がフォトダイオードから離隔して配置されている。例えば、誘導性素子、及び/又は、スイッチ、誘導性素子又はオーム抵抗を有している少なくとも一つの直列回路をレーザ点火装置の制御装置内に配置し、その一方で、フォトダイオードのみを光学的な結合部又は光学的なクロスセクションコンバータの領域内に直接的に配置することができる。
【0016】
別の実施の形態によれば、本発明に係るフォトダイオード装置はバイアス電圧無しでフォトダイオードを動作させるように構成されており、これによって複雑性の非常に低い回路装置が得られる。それにもかかわらず、本発明に係るハイパス装置に基づき、ポンプ光の印加によるフォトダイオードの事前飽和を回避することができ、その結果、レーザ点火パルスを良好に検出することができる。
【0017】
本発明の上述の課題の別の解決手段として、特許請求の範囲における請求項12に係る方法が提供されている。
【0018】
本発明の更なる利点及び有利な実施の形態は添付の図面、以下の説明及び特許請求の範囲の記載から得られる。図面、図面の説明及び特許請求の範囲に記載されている全ての特徴は単独でも、また相互に任意に組み合わせても本発明の対象となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るレーザ点火装置の第1の実施の形態を備えている内燃機関の概略図を示す。
【図2】本発明に係るレーザ点火装置の別の実施の形態を示す。
【図3a】本発明に係るフォトダイオード装置の回路装置を示す。
【図3b】本発明に係るフォトダイオード装置の回路装置を示す。
【図3c】本発明に係るフォトダイオード装置の回路装置を示す。
【図4a】別の実施の形態に係る電気的な動作パラメータの時間的な経過を示す。
【図4b】別の実施の形態に係る電気的な動作パラメータの時間的な経過を示す。
【図4c】別の実施の形態に係る電気的な動作パラメータの時間的な経過を示す。
【図4d】別の実施の形態に係る電気的な動作パラメータの時間的な経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1においては、内燃機関全体に参照番号10を付している。この内燃機関10は、図示していない自動車を駆動するために使用される。内燃機関10は複数のシリンダを有しており、これらシリンダの内の1つだけを図1において参照番号12で表している。シリンダ12の燃焼室14はピストン16によって区切られる。燃料はインジェクタ18を介して燃焼室14内に直接的に到達する。このインジェクタ18はレールとも称される燃料圧力蓄積器20に接続されている。
【0021】
燃焼室14内に噴射された燃料22は、レーザパルス24によって点火される。このレーザパルス24はレーザ装置26含んでいる点火装置27によって燃焼室14に放射される。このためにレーザ装置26には導光装置280を介してポンプ光が供給される。このポンプ光はポンプ光源30から供給される。ポンプ光源30はレーザ制御装置32によって制御される。ポンプ光源30は例えば、ポンプ光を形成するための半導体ダイオードレーザであり得る。レーザ制御装置32は、図1において破線で示唆されている詳細には示されていない通信線を介して、機関制御装置33と接続されている。機関制御装置33はインジェクタ18を制御する。レーザ装置及び機関制御装置を一つの制御ユニットに統合することも可能である。
【0022】
レーザ装置26は例えば、受動的なQスイッチを備えているレーザ活性固体(図示せず)を有している。Qスイッチは入力結合ミラー及び出力結合ミラーと共に一つの光学的な共振器を形成している。ポンプ光源30によって形成され、特に縦方向において光学的な共振器に向かって放射されるポンプ光が供給されると、レーザ装置26はそれ自体公知の方法でレーザパルス24を形成する。このレーザパルス24は集束光学系を介して燃焼室14内に存在する点火点ZPへと収束されている。レーザ装置26のケーシング内に設けられている構成要素は、燃焼室窓によって燃焼室14から隔離されている。レーザ活性固体として、有利には、ネオジウム又はイッテルビムがドーピングされた材料が使用される。
【0023】
本発明によればフォトダイオード装置270が設けられており、このフォトダイオード装置270は、ポンプ光源30とレーザ装置26との間の光学的な結合部280の領域において、ポンプ光源30によって形成されたポンプ放射も、レーザ装置26によって形成されたレーザ放射もそれぞれ少なくとも部分的にフォトダイオード装置270のフォトダイオード(図2を参照されたい)に入射させることができるように配置されている。
【0024】
これによって、有利には、ポンプ光源30及び/又はレーザ装置26の動作を監視することができる。例えば、本発明に係るフォトダイオード装置270は、関連する光学的な信号を電気的な出力信号に変換することができる。そのようにして変換された出力信号を、制御装置32によってそれ自体公知の方法で評価することができる。
【0025】
本発明の構造的に非常に廉価な変形の形態は、フォトダイオード271がポンプ光源30又はレーザ装置26の光学的な接続部の領域内に配置されていることによって得られる。フォトダイオード271は、電気的な接続線路271aを介してレーザ制御装置32と接続されている。
【0026】
図2には本発明の別の変形の形態が示されており、この変形の形態では、レーザ装置26とポンプ光源30との間の光学的な結合部280が複数の光ファイバ282aにより構成される一つの束282によって実現されている。光学的な結合部280は更に光学的なクロスセクションコンバータ281を有しており、このクロスセクションコンバータ281は、複数の光ファイバ282aの断面をそれ自体公知の方法でポンプ光源30の半導体レーザダイオード装置31に適合させる。クロスセクションコンバータ281は束ねられた複数の光ファイバ282aの実質的に円形の断面を、図2から見て取れるように、実質的に矩形又は直線状の配置構成に変換し、それによって、有利には、個々の光ファイバ282aは、半導体ダイオードレーザ31、特に半導体ダイオードレーザアレイのそれぞれ異なるエミッタと対向する。
【0027】
これに関して図2には、線A−A’に沿ったクロスセクションコンバータ281の切断面も示されている。
【0028】
本発明に係るフォトダイオード装置270のフォトダイオード271は、本発明に係るこの変形の形態では、光学的なクロスセクションコンバータ281に直接的に配置されているので、クロスセクションコンバータ281内で散乱した光を受光することができる。クロスセクションコンバータ281内で散乱した光は本発明の検査に従い、ポンプ光源30から供給されたポンプ光の成分も、レーザ装置26によって形成されたレーザ点火パルス24の成分も含んでいる。散乱されたポンプ光の輝度は、通常の場合、散乱されたレーザ点火パルスの輝度よりも著しく高い。
【0029】
図3aは、例えばPIN(positive intrinsic negative)ダイオードであってもよいフォトダイオード271を備えている、本発明に係るフォトダイオード装置270の第1の実施の形態を示す。本発明に係るフォトダイオード装置270は誘導性素子Lを有しており、この誘導性素子Lは図3aから見て取れるようにフォトダイオード271に並列に接続されており、これによってハイパスフィルタの構成が得られる。本発明によれば、この回路装置が、有利には、比較的低周波の成分を有している、フォトダイオード出力信号(フォトダイオード電流)の信号成分を短絡し、他方ではフォトダイオード電流の比較的高周波の信号成分が短絡されないことが分かっている。これによって、有利には、ポンプ光が一回印加されるだけでフォトダイオード271が既に事前に飽和状態に至ることを回避することができる。そのような事前飽和は不利なことに、通常の場合は時間的にポンプ光の放射の後に続くレーザ点火パルス24をもはや全く検出できなくさせる虞がある。従って、誘導性素子Lは、一方では、ポンプ光によってフォトダイオード271において形成される比較的低周波の信号成分によるフォトダイオード271の事前飽和を阻止する。他方では、ナノ秒の範囲にあるレーザ点火パルス24によって生じる比較的高周波の信号成分に関しては、誘導性素子Lと負荷抵抗RLとにより構成される並列回路における相応に良好に評価できる電圧降下が生じる。誘導性素子(コイル)L内部の寄生的なオーム負荷抵抗は完全には回避することができない。本発明によれば、有利には、固有抵抗は10mΩを下回る。
【0030】
負荷抵抗RLは、別個に分離した構成素子として構成されていなければならないものではなく、それ自体公知の手法で、例えば制御装置32の入力段に既に含ませることができる。この入力段は、フォトダイオード271によって形成された電気的な信号の評価を実現する。負荷抵抗RLをその種の入力段の入力インピーダンスとしても解することができる。
【0031】
図3bは、本発明に係るフォトダイオード装置270の別の変形の形態を示す。この変形の形態では、第1のインダクタンスL1と第1のオーム抵抗R1とにより構成される直列回路SS1が設けられている。図3aによる構成とは異なり、直列回路SS1は純粋な誘導性の特性しか有していないのではなく、直列回路SS1の誘導性の構成要素L1によって先ず短絡される、ポンプ光によってフォトダイオード271において惹起される比較的低周波の信号成分によって、オーム抵抗R1における相応の電圧降下も生じさせ、従って、同様にこの電圧降下を制御装置32によって検出することができる。このことは、図3bによる構成では、負荷抵抗RLにおいて降下した電圧の評価によって、ポンプ光の存在も、レーザ装置26によって形成されたレーザ点火パルス24に対応するレーザ放射の存在も推定することができる。
【0032】
直列回路SS1のオーム抵抗R1は、有利には、ポンプ光によって形成された信号成分が従来通り専ら短絡されるように選定されている。即ち、前述したようなフォトダイオードの事前飽和を回避するために、低周波の信号成分のごく一部だけを検出することができる。
【0033】
図3cは、二つの直列回路SS1,SS2がフォトダイオード271に並列に接続されている別のフォトダイオード装置270を示す。
【0034】
第1の直列回路SS1は、スイッチS1と誘導性素子L1とを有しており、第2の直列回路SS2は、第2のスイッチS2と、この第2のスイッチS2に直列に配置されているオーム抵抗R2とを有している。スイッチS1,S2は例えばトランジスタとして構成することができ、それぞれのトランジスタをレーザ制御装置32によって制御することができる。有利には、スイッチS1,S2としてMOSFETが使用される。MOSFETは、一方では廉価であり、他方では導通動作時には低抵抗である。
【0035】
図3cによるフォトダイオード装置270は、そのフィルタ特性に関して非常に有利に構成することができる。例えば、レーザ装置26がポンプ光源30によって供給されるポンプ光を用いて光学的にポンピングされるポンプ過程中の第1の動作モードにおいては、第1のスイッチS1が開かれており、且つ、第2のスイッチS2が閉じられているので、オーム抵抗R2,RLによって全体として比較的低抵抗の装置が生じる。この低抵抗の装置は、有利には、ポンプ光信号成分のみによってフォトダイオード271が既に飽和することを回避することができる。
【0036】
それにもかかわらず、オーム抵抗R2,RLにおいて生じる電圧降下を評価することができる。この電圧降下は、ポンプ光の強度に関する情報を表し、又は、そもそもポンプ光が存在するか否かを表す。
【0037】
第2の動作モードにおいては、第2のスイッチS2が開かれ、第1のスイッチS1が閉じられる。この構成は、実質的に図3aによる回路装置に対応するものであり、誘導性素子L1に起因するハイパス特性によって、有利には、レーザ装置26のレーザ点火パルス24によって惹起される比較的高周波の信号成分のみが負荷抵抗RLにおいて電圧降下するようにフォトダイオード271の出力信号のフィルタリングを実現し、他方では、ポンプ光に起因する比較的低周波の信号成分がフォトダイオード271の不所望な事前飽和を生じさせないようにするために、上述のように、この比較的低周波の信号成分が第1の直列回路SS1の誘導性素子L1によって短絡される。
【0038】
二つの動作モード間の切り替えは、有利には、レーザ装置26がレーザ点火パルス24を形成すると見込まれる時点よりも遥かに前に行われる。切り替えは、特に、フォトダイオード装置270のハイパスフィルタ装置が依然として振動しており、また場合によっては、レーザ点火パルス24を検出するためのフォトダイオード271の最大感度を保証するために、フォトダイオード271のP−N接合部に蓄積されているキャリアを無くすことができるように、見込まれる時点よりも前に適時に行われるべきである。
【0039】
第3の動作モードにおいては、第1のスイッチS1及び第2のスイッチS2が開かれているので、負荷抵抗RLには依然としてフォトダイオード電流が流される。負荷抵抗RLが抵抗R2よりも大きい場合には、この動作モードにおいては、第1の動作モードに比較して高められた総抵抗を実現することができ、これによって比較的弱い光学的な信号を検出することができる。つまり、例えば、レーザ活性固体の比較的弱い蛍光信号をポンプ光の遮断後に検出することができる。ここで、ポンプ過程の目的は、受動的なQスイッチによって点火光パルスがトリガされることなく、単に蛍光を形成するためにレーザ活性固体における反転分布を生じさせることである。
【0040】
誘導性素子Lのインダクタンス値は、有利には、約0.5μH(マイクロヘンリー)から約20μHまでの範囲から選定されているが、約5μHの値が特に有利である。この場合には、フォトダイオード装置によってレーザ点火パルス24を非常に効果的に検出することができる。
【0041】
以下では、図4aから図4dを参照しながら別の実施の形態を説明する。
【0042】
図4aにおける破線Updは、上述の本発明に係るフィルタリングが全く行われない場合に生じる、フォトダイオード電圧の時間経過を示す。同様の時間経過は、図4b及び図4cにおいてもプロットされている。従って、この時間経過を用いて点火時点を測定することは不可能である。
【0043】
これに対して、図4aにおける実線Ufは、図3に従ってコイルLが並列に接続されている場合のフォトダイオード電圧を示す。レーザ点火パルス24が出力される点火時点T2の測定は、例えば、本発明に従ってフィルタリングされた時間経過Uf(図4aにおける実線)を評価し、時点T2における尖った限定的な極大値Mを識別する、レーザ制御装置32のトリガユニット又は割り込みユニットを使用して実現される。
【0044】
図4aにおける参照符号T1は、ポンプ光源のスイッチオン時点を表している。時点T1の直後に、フィルタリングされた電圧経過Ufにおいては、図3aに応じたハイパスの振動の開始を識別することができる。上記においても説明したように、参照符号T2は、点火時点を表している。参照符号T3は、ポンプ光源のスイッチオフ時点を表している。時点T3以降に、図3aに応じたハイパスフィルタの振動の低下を識別することができる。
【0045】
図4bは、図3bに従ってコイルL1と低オーム抵抗R1とにより構成される直列回路が並列に接続されている場合において生じるような、フィルタリングされたフォトダイオード電圧Ufの時間経過を示す。参照符号TS1は、測定値サンプリングに関する開始時点を表し、参照符号TS2は、測定値サンプリングに関する停止時点を表す。時間窓(TS1;TS2)においては≧1の測定値が検出され、それら測定値からポンプ光の存在を推定することができる。レーザ点火パルス24の発生に対応する、時点T2における極大値は、同様に経過Ufから検出することができる。
【0046】
図4cは、図3cに従った回路を使用した場合に生じるような、フィルタリングされたフォトダイオード電圧Ufの時間経過を示す。第1の動作モードは、時点T1からTU1までの期間にセットされる。即ち、測定値サンプリングは、サンプリング窓(TS1;TS2)において行われる。この第1の動作モードにおいては、スイッチS1が開かれており、且つ、スイッチS2が閉じられているので、経過Ufからは、有利にはポンプ放射の存在を推定することができ、従って、ポンプ過程を診断することができる。
【0047】
第2の動作モードは、時点TU1からT3までの期間にセットされ、この期間において点火時点T2の測定が行われる。この第2の動作モードにおいては、スイッチS2が開かれており、且つ、スイッチS1が閉じられているので、時点T2における極大値Mを経過Ufから特に確実に検出することができる。
【0048】
ここで、時点TU1は切り替え時点、即ち、スイッチS1が閉じられ且つスイッチS2が開かれる時点を表している。切り替え後には、ハイパスフィルタ(図3cを参照されたい)の振動開始を識別することができる(時点TU1直後の時間経過Ufにおける変動を参照されたい)。
【0049】
図4dには、本発明の構想の(図3cに応じた)回路を使用した場合のフォトダイオード電圧の時間経過が実線Ufで示されている。ここでは、レーザ装置26によって形成された蛍光信号が検出されるべきである。
【0050】
このために、時点T1からT3までの第1の動作モードにおいては、時点TS1からTS2までのサンプリング窓において、光学的なポンピングに起因して生じるような、時間経過Ufの測定値サンプリングが行われる。スイッチS1(図3cを参照されたい)は開かれており、且つ、スイッチS2は閉じられている。
【0051】
その後、スイッチS1が開かれており、且つ、スイッチS2が開かれている、t>TU2の時点に関する第3の動作モードにおいては、時点TS3からTS4までのサンプリング窓において蛍光測定に関する測定値サンプリングが行われ、≧1の測定値が得られる。時点TU2以降の第3の動作モードの間では、光学的なポンピングはもはや行われない。何故ならば、これによって、蛍光信号の検出は困難になり、又は、蛍光信号をもはや検出できなくなるからである。レーザが蛍光を励起するためには、時点T3までにポンピングを行う必要がある。
【0052】
本発明に係るフォトダイオード装置270は、有利には、レーザ点火パルス24、ポンプ光源30のポンプ光、及び/又は、レーザ装置の蛍光を評価することができ、その際に、ポンプ光の信号成分によるフォトダイオード271の事前飽和に起因してレーザ点火パルス24の評価が損なわれることはない。このことは、フォトダイオードに入射するポンプ光出力が、相応の点火光出力又は蛍光出力よりも著しく大きい場合には非常に有利である。
【0053】
本発明に係るフォトダイオード装置を、特にフレキシブルに、異なる構造のグループにも分割することができる。例えば、フォトダイオード271のみが光学的な結合部280(図1を参照されたい)又は光学的なクロスセクションコンバータ281(図2を参照されたい)の領域に設けられており、その一方で、残余の構成要素L,L1,RL,SS1,SS2が光学的な結合部280又はクロスセクションコンバータ281から離隔して配置されており、例えば制御装置32内に組み込まれている。
【0054】
別の実施の形態によれば、本発明に係るフォトダイオード装置は、バイアス電圧無しでフォトダイオード271を動作させるように構成されており、これによって複雑性の非常に低い回路装置が得られる(図3a,3b,3cを参照されたい)。それにもかかわらず、本発明に係るハイパス装置に基づき、ポンプ光の印加によるフォトダイオード271の事前飽和を回避することができ、その結果、比較的短いレーザ点火パルス24を良好に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザパルス(24)を形成するためのレーザ装置(26)と、前記レーザ装置(26)を光学的にポンピングするためのポンプ光源(30)とを備えている、内燃機関(10)、特に自動車の内燃機関(10)のためのレーザ点火装置(27)において、
前記ポンプ光源(30)と前記レーザ装置(26)との間の光学的な結合部(280)の領域にフォトダイオード装置(270)が配置されており、それにより、前記ポンプ光源(30)によって形成されたポンプ放射も、前記レーザ装置(26)によって形成されたレーザ放射も、それぞれ少なくとも部分的に前記フォトダイオード装置(270)のフォトダイオード(271)に入射させられることを特徴とする、レーザ点火装置(27)。
【請求項2】
前記フォトダイオード(271)は、前記ポンプ光源(30)又は前記レーザ装置(26)の光学的な接続部の領域内に配置されている、請求項1に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項3】
前記ポンプ光源(30)と前記レーザ装置(26)との間の前記光学的な結合部(280)は、光学的なクロスセクションコンバータ(281)を有しており、
前記フォトダイオード(271)は、前記クロスセクションコンバータ(281)の領域内に配置されており、有利には前記クロスセクションコンバータ(281)に直接的に配置されている、請求項1又は2に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項4】
前記フォトダイオード装置(270)は、前記フォトダイオード(271)の出力信号をフィルタリングするためのハイパスフィルタ及び/又はバンドパスフィルタを有している、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項5】
誘導性素子(L)が、前記フォトダイオード(271)に並列に接続されている、請求項4に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項6】
少なくとも一つの誘導性素子(L1)と少なくとも一つのオーム抵抗(R1)とにより構成される直列回路(SS1)が、前記フォトダイオード(271)に並列に接続されている、請求項4又は5に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項7】
少なくとも一つの誘導性素子(L1)と少なくとも一つのスイッチ(S1)とにより構成される第1の直列回路(SS1)、及び、少なくとも一つのオーム抵抗(R2)と少なくとも一つのスイッチ(S2)とにより構成される少なくとも一つの第2の直列回路(SS2)が、前記フォトダイオード(271)に並列に接続されている、請求項4乃至6のいずれか一項に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項8】
負荷抵抗(RL)が、前記フォトダイオード(271)に並列に接続されている、請求項4乃至7のいずれか一項に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項9】
少なくとも一つの誘導性素子(L)が、前記フォトダイオード(271)から離隔して配置されている、請求項4乃至8のいずれか一項に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項10】
前記誘導性素子(L)及び/又は少なくとも一つの直列回路(SS1,SS2)は、前記レーザ点火装置(27)の制御装置(32)内に配置されている、請求項9に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項11】
前記フォトダイオード装置(270)は、前記フォトダイオード(271)をバイアス電圧無しで動作させるように構成されている、請求項4乃至10のいずれか一項に記載のレーザ点火装置(27)。
【請求項12】
レーザパルス(24)を形成するためのレーザ装置(26)と、前記レーザ装置(26)を光学的にポンピングするためのポンプ光源(30)とを備えている、内燃機関(10)、特に自動車の内燃機関(10)のためのレーザ点火装置(27)の動作方法において、
前記ポンプ光源(30)と前記レーザ装置(26)との間の光学的な結合部(280)の領域にフォトダイオード装置(270)が配置されており、それにより、前記ポンプ光源(30)によって形成されたポンプ放射も、前記レーザ装置(26)によって形成されたレーザ放射も、それぞれ少なくとも部分的に前記フォトダイオード装置(270)のフォトダイオード(271)に入射し、
前記フォトダイオード装置(270)の出力信号を評価し、前記レーザ点火装置(27)の動作状態を推定することを特徴とする、レーザ点火装置(27)の動作方法。
【請求項13】
前記フォトダイオード装置(270)は、前記フォトダイオード(271)の出力信号をフィルタリングするためのハイパスフィルタ及び/又はバンドパスフィルタを有しており、
前記レーザ装置(26)を光学的にポンピングしている間、又は、前記レーザ装置(26)を光学的にポンピングした後に、前記ハイパスフィルタ及び/又は前記バンドパスフィルタのフィルタ特性を、特に、少なくとも一つのスイッチ(S1,S2)を用いた個々のフィルタ構成要素(K1,R2)のオンオフによって変化させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも一つの誘導性素子(L1)と少なくとも一つのスイッチ(S1)とにより構成される第1の直列回路(SS1)、及び、少なくとも一つのオーム抵抗(R2)と少なくとも一つのスイッチ(S2)とにより構成される少なくとも一つの第2の直列回路(SS2)が、前記フォトダイオード(271)に並列に接続されており、
前記レーザ装置(26)が光学的にポンピングされるポンプ過程中の第1の動作モードにおいては、前記第1のスイッチ(S1)は開かれており、且つ、前記第2のスイッチ(S2)は閉じられており、
第2の動作モードにおいては、前記第2のスイッチ(S2)は開かれており、且つ、前記第1のスイッチ(S1)は閉じられている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の動作モードの終了に伴うポンプ光の遮断後に、前記レーザ装置(26)のレーザ活性固体の蛍光信号を検出するために、第3の動作モードにおいては、前記第1のスイッチ(S1)及び前記第2のスイッチ(S2)は開かれる、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a)】
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【図4b)】
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【図4c)】
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【図4d)】
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【公表番号】特表2013−515911(P2013−515911A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546406(P2012−546406)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/068854
【国際公開番号】WO2011/080025
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】