内燃機関のシリンダ成形体及び内燃機関のシリンダブロック
【課題】機関運転中に径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる内燃機関のシリンダ成形体、及び内燃機関のシリンダブロックを提供すること。
【解決手段】シリンダブロック11には複数のシリンダ12が並設されている。各シリンダ12には、その内周側に、シリンダブロック11のシリンダボア17を構成するボア壁部18が設けられている。ボア壁部18はシリンダ成形体Pにアルミニウム系合金を含浸させた金属基複合材料からなる。シリンダ成形体Pの上端側部19には、隣接するシリンダボア17間に配置される第1上端側部19Aと、第1上端側部19Aとともにシリンダボア17を構成する第2上端側部19Bとが設けられている。第1上端側部19Aにおいてはその強化材の体積率が第2上端側部19Bにおける強化材の体積率よりも低く、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高く設定されている。
【解決手段】シリンダブロック11には複数のシリンダ12が並設されている。各シリンダ12には、その内周側に、シリンダブロック11のシリンダボア17を構成するボア壁部18が設けられている。ボア壁部18はシリンダ成形体Pにアルミニウム系合金を含浸させた金属基複合材料からなる。シリンダ成形体Pの上端側部19には、隣接するシリンダボア17間に配置される第1上端側部19Aと、第1上端側部19Aとともにシリンダボア17を構成する第2上端側部19Bとが設けられている。第1上端側部19Aにおいてはその強化材の体積率が第2上端側部19Bにおける強化材の体積率よりも低く、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高く設定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体、及びそのシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料によりシリンダボアが構成された内燃機関のシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダヘッドやシリンダブロック等のエンジン部品はアルミニウム合金化されて軽量化が図られているが、シリンダライナについては、他のエンジン部品よりもより一層の高温寸法安定性、耐摩耗性、強度及び剛性が求められているため、アルミニウム合金化することは困難であった。そこで、従来、シリンダライナをアルミニウム合金化する代わりに、金属を基材としセラミックス等の強化材により強化された金属基複合材料(MMC:Metal Matrix Composite)が素材として用いられたシリンダライナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−259635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダライナには、機関運転中、シリンダボア内で発生した燃焼熱が伝達される。そのため、例えば、シリンダブロックには冷却水が流通するウォータージャケットが設けられており、シリンダライナは冷却水によって冷却される。ところが、シリンダブロックのシリンダボア間部分はシリンダボアによって挟まれているため、冷却水によって充分に冷却することができずその他の部分よりも温度が高くなる傾向にある。このため、シリンダライナにおいては、機関運転中、機関燃焼室の外壁に対応する上端部のうちのボア間に位置する部分とそれ以外の部分とで大きな温度差が生じていた。
【0005】
そこで、冷却水による冷却能力を高めて、ボア間に相当するシリンダライナの上端部の部位を十分に冷却するという方策も考えられるが、この場合、ボア間以外の部分が過度に冷却されることになり、結局、ボア間に相当する部分の温度は低下するものの、同部分とそれ以外の部分とでは依然として大きな温度差が生じる。このように、従来のシリンダライナにおいては、ボア間に相当する部分とそれ以外の部分とで大きな温度差が生じることを回避できず、ひいては、径方向における熱変形が不均一になる事態を招くこととなっていた。特に、金属基複合材料はアルミニウム合金等の金属材料と比較して熱伝導率が低いため、こうした傾向が一層顕著なものとなる。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、機関運転中においてシリンダボアの径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる内燃機関のシリンダ成形体、及び内燃機関のシリンダブロックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数のシリンダを有するシリンダブロックのシリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体において、機関燃焼室に対応する上端側部分のうち、隣接するシリンダボア間に位置する部分を第1の上端側部分とし、周方向における他の部分を第2の上端側部分としたとき、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその熱伝導率が高くなるように強化材の組成が設定されてなることを要旨とする。
【0008】
この発明では、シリンダ成形体を含む金属基複合材料によって、シリンダブロックのシリンダボアが構成された場合、シリンダブロックの機関燃焼室から第1の上端側部分に伝達された熱は速やかにその周方向に伝達されるため、第1の上端側部分の周方向における温度分布が均一化するようになる。更に、この第1の上端側部分から第2の上端側部分に熱が伝達されることにより、第1の上端側部分の平均温度と第2の上端側部分の平均温度の差も減少するようになる。その結果、シリンダ成形体及びこれが鋳込まれるシリンダブロックのシリンダボアの上端側部分について、機関運転中におけるその周方向の温度分布の均一化を図ることができ、シリンダボアの径方向の熱変形が不均一になることを抑制することができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の上端側部分の熱伝導率が前記第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くなるように、前記第1の上端側部分と前記第2の上端側部分とに含まれる強化材の熱伝導率及び体積率の少なくとも一方が異なるように設定されることを要旨とする。
【0010】
なお、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くする場合、例えば、第1の上端側部分における強化材の体積率を第2の上端側部分における強化材の体積率よりも低くした構成、第2の上端側部分における強化材よりも第1の上端側部分における強化材の熱伝導率を高くした構成、若しくはそれらを組み合わせた構成を採用することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその強化材の体積率が小さく設定されることを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によるように、第1の上端側部分における強化材の体積率を小さくすれば、第1の上端側部分に含浸されるアルミニウム系金属の割合は第2の上端側部分に含浸されるアルミニウム系金属の割合よりも高くなる。そのため、アルミニウム系合金が含浸されたシリンダ成形体によってシリンダブロックのシリンダボアを構成した場合には、第1の上端側部分により構成される部分の熱伝導率を第2の上端側部分により構成される部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ1、Vf1とし、前記第2の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ2、Vf2としたとき、λ1>λ2且つVf1≦Vf2なる関係を満たすことを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によるように、第1の上端側部分の熱伝導率、体積率と第2の上端側部分の熱伝導率、体積率との関係を、λ1>λ2且つVf1≦Vf2とすることで、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記第1の上端側部分における強化材はこれに含まれるセラミックス材よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含むことを要旨とする。
【0016】
この発明では、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
請求項6に記載の発明は、複数のシリンダを有するとともに、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料により各シリンダボアが構成されてなる内燃機関のシリンダブロックを要旨とする。
【0017】
この発明では、機関運転中にシリンダボア周囲で温度差が生じることを抑制し、シリンダボアにおいて径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本実施形態におけるシリンダブロックの平面図、(b)は図1(a)のA−A線断面図。
【図2】(a)はシリンダ成形体の平面図、(b)はシリンダ成形体の側面図。
【図3】(a)は濾過体及び濾過体に取り付けられる吸引具の模式図、(b)は濾過体のB−B線断面図。
【図4】濾過体に強化材を付着させる方法を示す工程図。
【図5】(a)は成形される前の強化材成形体を示す断面図、(b)は強化材成形体の表面を整える工程の説明図。
【図6】表面が整えられた後の強化材成形体の模式図。
【図7】シリンダ成形体をシリンダブロック本体に鋳包む態様を示すための模式図。
【図8】機関運転時におけるボア壁部の上側部分の周方向温度分布を示すためのグラフ。
【図9】機関運転時におけるボア壁部の上側部分の径方向温度分布を示すためのグラフ。
【図10】第2実施形態において、(a)は濾過体及び濾過体に取り付けられる吸引具の模式図、(b)は図10(a)のC−C線断面図。
【図11】第2実施形態において、(a)〜(c)は濾過体に強化材を付着させる方法を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、シリンダブロック11には複数のシリンダ12が並設されるとともに、複数のシリンダ12を取り囲むようにウォータージャケット13が形成されている。ウォータージャケット13は、シリンダ外周面12aと、シリンダ外周面12aと所定の間隔を隔てて対向する外壁14と、シリンダ12及び外壁14を接続してウォータージャケット13の底面を形成する底壁15と、により区画形成されている。シリンダ12の頂面及び外壁14の頂面は、図示しないシリンダヘッドが載置されるシリンダブロック11のデッキ面11aを形成している。図1(a)に示すように、隣り合うシリンダ12同士はその一部が接続部16を介して接続されている。各シリンダ12のシリンダボア17は、シリンダ12の内側に位置するボア壁部18によって構成されている。尚本明細書において、ボア壁部18は、デッキ面11a側をその上側としている。
【0020】
ボア壁部18は、セラミックス材としてのアルミナ短繊維及びセラミックス粒子からなるシリンダ成形体P(強化材成形体)に、金属基材としてのアルミニウム系合金を含浸させてこれを鋳込むことにより形成される金属基複合材料(MMC)によって構成されている。ボア壁部18は、シリンダボア17間の接続部16を挟むように配置された第1の上側ボア壁部18Aと、第1の上側ボア壁部18Aとともにシリンダボア17を構成する第2の上側ボア壁部18Bとを有している。第1の上側ボア壁部18Aは、シリンダ12の配列方向において最も端に位置する第1の上側ボア壁部18Aを除いて接続部16に対応している。そして、第1の上側ボア壁部18Aにはシリンダ成形体Pの第1上端側部19Aが含まれる一方、第2の上側ボア壁部18Bにはシリンダ成形体Pの第2上端側部19Bが含まれている。
【0021】
図2(a)及び(b)に示すように、シリンダ成形体Pは略円管状に形成されるとともに、内径H1及び外径H2が一定に形成されている。シリンダ成形体Pの上端側部19は、第1上端側部19Aと、周方向における他の部分としての第2上端側部19Bとからなる。第1上端側部19Aは、上下方向の長さが、ピストンが上死点に達したときのピストンの頂面とデッキ面11a(図1(a)参照)との距離よりも長くなるように形成されている。第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとはシリンダ成形体Pの周方向(図2(a)で示す矢印X方向)に沿って交互に存在するとともに、第1上端側部19Aの周方向長さF1は第2上端側部19Bの周方向長さF2よりも短い。
【0022】
また、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1は第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2よりも低く、Vf1<Vf2の関係を満たしている。第1上端側部19Aを構成する強化材と第2上端側部19Bを構成する強化材とは同じものであり、第1上端側部19Aを構成する強化材の熱伝導率λ1と第2上端側部19Bを構成する強化材の熱伝導率λ2とは、λ1=λ2の関係を満たしている。なお、「強化材の体積率」とは、単位体積当たりに強化材が占める体積割合のことを意味し、本実施形態では、単位体積当たりにアルミナ短繊維及びセラミックス粒子が占める体積割合のことを意味する。第1上端側部19Aは、第2上端側部19Bに比べてアルミニウム系合金の含浸される割合が高くなるように設定されている。そして、アルミニウム系合金は、アルミナ短繊維、セラミックス粒子のいずれよりも熱伝導率が高いため、第1上端側部19Aを含む第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2上端側部19Bを含む第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くなっている。
【0023】
一方、図2(b)に示すように、シリンダ成形体Pの下端部20は上端側部19に連続するとともに、その全体が第2上端側部19Bと同じ組成の強化材によって形成されている。すなわち、シリンダ成形体Pの下端部20はその強化材の体積率及び強化材の熱伝導率が第2上端側部19Bと同じであり、その熱伝導率は第2上端側部19Bの熱伝導率と等しくなっている。
【0024】
次に、シリンダ成形体Pを製造する際に用いられる装置について説明する。
図3(a)に示すように、濾過体21はステンレス製であるとともに円筒状に形成されている。濾過体21にはその周壁23全体に複数の開孔24が形成されている。濾過体21の第1端部25には、孔径の小さい複数の開孔24Aが形成された第1濾過部26と、この第1濾過部26の開孔24Aよりも孔径の大きい複数の開孔24Bが形成された第2濾過部27とが設けられている。
【0025】
図3(b)に示すように、第1濾過部26と第2濾過部27とは周方向に沿って交互に存在している。第1濾過部26は、その周方向の長さf1が、第2濾過部27の周方向の長さf2よりも小さい。図3(a)に示すように、第1濾過部26の周面における単位面積当たりの開孔24Aの数と、第2濾過部27の周面における単位面積当たりの開孔24Bの数とは等しいため、第1濾過部26の開孔率P1(単位面積における総開孔面積/単位面積)は第2濾過部27の開孔率P2よりも低い。更に、第2端部28には、第2濾過部27と同様の開孔率となるように、開孔24Bと孔径の等しい開孔が、第2濾過部27と同じ数だけ形成されている。
【0026】
一方、吸引冶具22は図示しない吸引装置に接続される一対の吸引管29を有している。吸引管29の一端にはフランジ部30が設けられている。フランジ部30には、吸引管29側とは反対側の面30aに、濾過体21の内側に嵌入可能な円板状突部31が設けられている。
【0027】
次に、シリンダ成形体Pの製造方法、及びシリンダ成形体Pをシリンダブロック本体Bに鋳込む方法について説明する。
まず、上述した濾過体21を上下両側から挟むように吸引冶具22を配し、各吸引冶具22の円板状突部31を濾過体21の内側に嵌め込んで、フランジ部30を濾過体21の上下両端部それぞれに当接させる。このようにして濾過体21の内側を密封した後、図4の矢印Aで示すように、濾過体21を、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を含む強化材原料液に浸漬する。このとき、強化材原料液が貯留された容器32には攪拌プロペラ33が設けられているため、攪拌プロペラ33によって強化材原料液中の強化材が分散され均一化される。
【0028】
そして、濾過体21を浸漬させた状態で、吸引冶具22を介して濾過体21の内側を吸引すると、濾過体21の開孔24を通じて強化材原料液が吸引される。開孔24A及び開孔24Bはその孔径がアルミナ短繊維の平均長さよりも小さいため、強化材原料液が吸引されると、濾過体21の周壁23全体には強化材が付着し、その結果、図4の矢印Bで示すように、濾過体21の周壁23を覆うような円筒状の強化材成形体34が成形される。なお、この場合、第1濾過部26における開孔率P1は第2濾過部27における開孔率P2よりも小さいため、図5(a)に示すように、強化材は第1濾過部26よりも第2濾過部27に対応する部分に多く付着する。ここで、強化材が付着した直後の強化材成形体34は、その厚みが一定でないため、強化材成形体34、濾過体21及び吸引冶具22を容器32から取り出した後、図5(b)に示すように、ローラ35によって強化材成形体34の表面を加圧する。その結果、強化材成形体34の表面が成形され、強化材成形体34のうち第2濾過部27に対応する部分については強化材が圧縮されて強化材の密度が高くなる。その後、図6に示すように、強化材成形体34から一対の吸引冶具22を分離する。次に、強化材成形体34から濾過体21を分離し、強化材成形体34を乾燥・焼成すると、所定の剛性を有するシリンダ成形体Pが製造される。
【0029】
なお、強化材原料液は次のような工程を通じて精製される。まず、シリンダ成形体Pの強化材が所定の体積率となるようにアルミナ短繊維及びセラミックス粒子の添加割合を求め、その添加割合となるように所定量のアルミナ短繊維及びセラミックス粒子を水に添加する。そして、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を添加した溶液に、無機バインダーとしてのシリカゾル及びアルミナゾルを添加し、その後、高分子凝集剤を添加して、強化材と無機バインダーとを凝集させることで強化材原料液を精製する。
【0030】
このように製造されたシリンダ成形体Pは、図7に示すように、シリンダブロックの鋳造に際して鋳込まれる。すると、シリンダ成形体Pには金属基材としてのアルミニウム系合金が含浸され、それによって金属基複合材料からなるボア壁部18が構成されてこれがシリンダブロック本体Bと一体化される。シリンダ成形体Pにおいては、第1上端側部19Aに位置する部位における強化材の体積率が第2上端側部19Bに位置する部位における強化材の体積率に比べて低いため、第1上端側部19Aに位置する部位が周方向における他の部分としての第2上端側部19Bに位置する部位よりも熱伝導率が高い構成となる。なお、シリンダ成形体Pを鋳込む際には、シリンダ成形体Pの第1上端側部19Aがシリンダボア間に相当する部分に位置するように、キャビティ内におけるシリンダ成形体Pの設置状態が設定される。
【0031】
次に、機関運転中におけるシリンダブロック11の熱変形について説明する。
機関運転中、シリンダブロック11の機関燃焼室(シリンダボア17)内では燃焼熱が発生し、シリンダブロック11のシリンダボア17間はシリンダボア17によって挟まれているため温度が高くなる傾向にある。そのため、図8の破線で示すように、熱伝導率が均一に設定された従来のシリンダ成形体を採用したシリンダブロックの場合、ボア壁部18の上側部分における周方向の温度は、隣接するシリンダボア17に最も近い部位Lに近くなるほど高くなる。これに対して、本実施形態のシリンダ成形体Pを採用したシリンダブロック11では、ボア壁部18の上側部分に伝達された熱が第1上端側部19Aを含む第1の上側ボア壁部18Aをはじめ、速やかに他の部分、例えば、第2上端側部19Bを含む第2の上側ボア壁部18Bにも伝達される。そのため、第1の上側ボア壁部18Aの平均温度と第2の上側ボア壁部18Bの平均温度との差が減少するようになる。ボア壁部18の上側部分の周方向における温度分布は、図8の実線で示すようになり、ボア壁部18の上側部分のうち隣接するシリンダボア17に最も近い部位Lの温度は従来のシリンダライナに比べて低くなる一方、ボア壁部18の上側部分のうち隣接するシリンダボア17に最も離れた部位の温度は従来のシリンダライナに比べて高くなる。すなわち、本実施形態については、そのボア壁部18の上側部分の周方向における温度分布が、従来のシリンダライナに比べて均一化される。
【0032】
また、機関運転時における燃料の燃焼はピストンが上死点付近に達したときに生じるため、シリンダボア17内で発生した熱はまずボア壁部18の上側部分に伝達される。そして、上述したようにボア壁部18の上側部分は温度分布が均一化されるため、上側部分から下側部分に伝達される熱量が増大する。その結果、本実施形態のボア壁部18の上側部分の平均温度とボア壁部18の下側部分の平均温度の差が減少し、ボア壁部18の径方向の熱変形が上側部分と下側部分とで大きく変わることを抑制できる。
【0033】
また、図9のグラフに示すように、機関運転時におけるボア壁部18の径方向の温度分布についてみると、第1の上側ボア壁部18Aにおける径方向の温度分布は、同図9の実線T1で示すようになり従来のシリンダライナ(図9の破線)に比べて、内周側と外周側との温度差が小さくなっている。これに対して、第2の上側ボア壁部18Bについては、図9の実線T2で示すように、その内周側と外周側との温度差が依然大きく、第2の上側ボア壁部18Bの内周側の温度はほぼ変化しない。そのため、ボア壁部18の上側部分の内周側温度は過度に低下していない。
【0034】
この実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)シリンダ成形体Pの上端側部19には、シリンダブロック11に鋳込まれた場合にシリンダボア間に配置される部分となる第1上端側部19Aが形成されている。この第1上端側部19Aは周方向において第1上端側部19Aとは異なる第2上端側部19Bよりも熱伝導率が高くなるように、強化材の組成が設定されている。そのため、シリンダブロック11のボア壁部18の上側部分について、機関運転中における周方向の温度分布の均一化を図ることができ、ボア壁部18の上側部分の径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる。
【0035】
(2)ボア壁部18の上側部分においては、機関運転時に径方向の熱変形が不均一になることが抑制され、ひいてはシリンダボア17の真円度が向上する。したがって、シリンダ成形体Pを鋳込んだシリンダブロック11を備える内燃機関では、機関運転中のピストンの動きに対するピストンリングの追従性の向上を図ることができる。
【0036】
(3)シリンダボアの真円度を向上させることができるため、ピストンリングの張力を低減することができ、燃費の向上を図ることができるようになる。
(4)ウォータージャケット13を流通する冷却水の冷却能力をとくに高めなくとも、ボア壁部18の第1の上側ボア壁部18Aについてはその周方向における温度分布の均一化を図ることができる。したがって、シリンダボア間以外の部分を不必要に冷却することはないため、冷却損失が増大することを抑制できる。
【0037】
(5)従来のシリンダライナに比べて、本実施形態のボア壁部18の上側部分においてはその内周側温度が低下する。したがって、機関運転中、機関燃焼室の内壁付近における混合気の自己着火が起き難くなり、内燃機関のノック限界が向上する。
【0038】
(6)機関運転時におけるシリンダボアの径を、極力、軸方向全体において均一にすることができ、シリンダボアの真直度の向上を図ることができる。
(7)第2上端側部19Bは、周方向において第2上端側部19B以外の部分である第1上端側部19Aよりも熱伝導率が低くなるように強化材の組成が設定されている。すなわち、第2の上側ボア壁部18Bは、周方向において、第2の上側ボア壁部18B以外の部分である第1の上側ボア壁部18Aよりも熱伝導率が低く設定されている。そのため、ボア壁部18の上側部分全体の熱伝導率を高くした場合に比べて、ボア壁部18の上側部分、すなわちシリンダボア17の内周側の温度が下がることはないため、ボア壁部18の上側部分の内周に張った油膜の温度を所望の温度に維持することができる。したがって、油膜は少なくとも設計時に設定された要求を満たす程度の粘度になり、摩擦を低減する機能を十分に発揮することができる。
【0039】
(8)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aの強化材の体積率が第2の上側ボア壁部18Bに対応する第2上端側部19Bの強化材の体積率に比べて低いため、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くなっている。したがって、第1の上側ボア壁部18Aと第2の上側ボア壁部18Bとで熱伝導率が異なるように構成しても、第1上端側部19A及び第2上端側部19Bに含浸させる金属基材については、従来どおりのアルミニウム合金を用いることができるため、シリンダ成形体Pをシリンダブロックに鋳込む場合に従来の方法からの変更点を極力少なくすることができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明にかかるシリンダ成形体を具体化した第2実施形態について、図10及び図11を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、シリンダ成形体Pの組成及びシリンダ成形体Pの製造方法が第1実施形態と異なっており、以下、そうした相違点を中心に説明する。
【0041】
本実施形態のシリンダ成形体Pにおいては、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとで強化材の体積率Vf1,Vf2が等しく(Vf1=Vf2)設定されるとともに、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとで成分が異なる強化材が用いられている。具体的には、第1上端側部19Aは、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を主成分とした強化材によって組成されている。強化材の主成分である人造黒鉛粒子、セラミックス粒子、アルミナ短繊維はこれらの順に熱伝導率が高く、それらは熱伝導率の高い順に体積率も高く設定されている。なお、第1上端側部19Aにおける強化材の熱伝導率λ1は、人造黒鉛粒子、セラミックス粒子、アルミナ短繊維それぞれの熱伝導率及び体積率に基づいて設定される。人造黒鉛粒子は、その熱膨張係数が、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも低いものである。
【0042】
一方、第2上端側部19Bは、アルミナ短繊維、セラミックス粒子を主成分とした強化材によって組成されている。アルミナ短繊維、セラミックス粒子は、これらの順に、体積率が高くなっている。第2上端側部19Bにおける強化材の熱伝導率λ2は、アルミナ短繊維、セラミックス粒子それぞれの熱伝導率及び体積率に基づいて設定される。そして、第1上端側部19A及び第2上端側部19Bにおける各強化材の熱伝導率λ1,λ2はいずれもアルミニウム系合金の熱伝導率よりも低い。第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1と第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2は等しいが、アルミナ短繊維、セラミック粒子、黒鉛粒子からなる強化材の熱伝導率λ1は、アルミナ短繊維、セラミック粒子からなる強化材の熱伝導率λ2よりも高いため、第1上端側部19Aは第2上端側部19Bよりも熱伝導率が高くなっている。
【0043】
次に、本実施形態におけるシリンダ成形体Pの製造方法について説明する。
まず、図10(a)に示すように、本実施形態の濾過体40は、第1実施形態と異なり、その周壁23全体に、孔径の等しい複数の開孔41が形成されている。濾過体40の周壁23全体には、開孔率が一定となるように開孔41が形成されている。そして、図10(a)及び(b)に示すように、この濾過体40の周壁23に対して、第1実施形態で説明した第2濾過部27及び第2端部28に対応する部分を覆うように磁石シート36を付け、第1実施形態で説明した第1濾過部26に相当する箇所を露出させる。この状態で、吸引冶具22を濾過体40に取り付け、図11(a)に示すように、その濾過体40をアルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を含む第1強化材原料液に浸漬した後に、吸引冶具22を介して吸引する。すると、濾過体40のうち第1濾過部26と同じ部分には、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を主成分とした強化材が付着する。その後、図11(b)に示すように、吸引冶具22及び濾過体40を第1強化材原料液から取り出し、磁石シート36を濾過体40から取り外す。
【0044】
次に、図11(c)に示すように、吸引冶具22及び濾過体40をアルミナ短繊維、セラミックス粒子を含む第2強化材原料液に浸漬して吸引する。すると、濾過体40のうち第2濾過部27及び第2端部28と同じ部分にはアルミナ短繊維、セラミックス粒子からなる強化材が付着して、円筒状の強化材成形体34が形成される。その後、第1実施形態と同様に、ローラ35によって強化材成形体34表面に圧力を付与して、強化材成形体34の表面を整形し、乾燥・焼成することで強化材成形体34を完成させる。その後、第1実施形態で説明した方法と同様の方法で強化材成形体34をシリンダブロック11に鋳込む。なお、第1強化材原料液は、水にアルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を添加し、第1実施形態と同様の方法で精製する。第2強化材原料液は、水にアルミナ短繊維、セラミックス粒子を添加し、第1実施形態と同様の方法で精製する。
【0045】
こうした本実施形態のシリンダ成形体P及びその製造方法によれば、上記(1)〜(8)に記載の効果に加え、更に次の効果を得ることができる。
(9)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aは熱伝導率の高い強化材によって組成されている。そのため、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率を第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くすることができ、ボア壁部18の上側部分についてその径方向の熱変形を均一にすることができる。
【0046】
(10)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aの熱膨張係数は第2の上側ボア壁部18Bに対応する第2上端側部19Bの熱膨張係数よりも低く設定されている。そのため、第1の上側ボア壁部18Aにおける平均温度が第2の上側ボア壁部18Bにおける平均温度より高くとも、第1の上側ボア壁部18Aの熱変形量と第2の上側ボア壁部18Bの熱変形量の差を減少させることができ、ボア壁部18の上側部分においては、その径方向における熱変形をより均一化することができる。
【0047】
(11)第1上端側部19Aにおける強化材は、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子の他に、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含んでいる。したがって、例えば、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも熱伝導率の高い金属粒子を用いて、第1上端側部19Aの熱伝導率を高くする場合に比べて、シリンダ成形体Pの重量増加を抑制できる。
【0048】
上述した実施の形態は、以下のようにこれを適宜変更した形態にて実施することもできる。
・第1実施形態において、第2濾過部27における開孔率P2についてはとくに限定されない。第2濾過部27に付着する強化材の量が第1濾過部26に付着する強化材の量に比べて多くなるのであれば、第2濾過部27における開孔率P2が第1濾過部26における開孔率P1と等しくてもよい。この場合であっても、第2濾過部27に形成される開孔24Bの孔径が第1濾過部26に形成される開孔24Aの孔径よりも大きければ、第2濾過部27には第1濾過部26よりも多くの強化材が付着するようになる。また、第2濾過部27の開孔率P2が第1濾過部26の開孔率P1より小さくとも、開孔24Bの孔径が開孔24Aの孔径に比して大幅に大きければ、第2濾過部27には第1濾過部26よりも多くの強化材が付着する。なお、濾過体21,40に形成される開孔24,41の孔径についてはとくに限定されないが、その孔径がセラミックス繊維の平均長さと同程度か、若しくは小さい方が好ましい。
【0049】
・第1実施形態において、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとを異なる強化材によって組成してもよい。例えば、第1上端側部19Aについては熱伝導率λ1の高い強化材によって組成し、第2上端側部19Bについては熱伝導率λ2の低い強化材によって組成してもよい。このような構成にすれば、第1上端側部19Aの熱伝導率を第2上端側部19Bの熱伝導率に比べてより高くすることができる。
【0050】
・第2実施形態において、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1と、第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2とを異ならせてもよい。例えば、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1を第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2より低く設定してもよい。このような構成であれば、第1上端側部19Aの熱伝導率をより高めることができる。
【0051】
・第2実施形態において、濾過体40に強化材を付着させる工程の順序を変更してもよい。例えば、磁石シート36により濾過体40の第1濾過部26に相当する部分を覆った状態で、第2強化材原料液に浸漬して、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を主成分とした強化材を付着させ、次に、磁石シート36を取り外し、第1強化材原料液に浸漬して、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、黒鉛粒子を主成分とした強化材を付着させてもよい。
【0052】
・第2実施形態において、黒鉛粒子の代わりに、例えば銅粒子等からなる金属粉末を添加して、第1上端側部19Aの熱伝導率を高めてもよい。
・セラミックス粒子として用いる材質の種類についてはとくに限定しない。例えば、ゼオライト粒子や、炭酸カリウム粒子を用いてもよい。
【0053】
・強化材の成分であるセラミックス繊維は、短繊維に限らず、長繊維でもよい。
・強化材の組成を変更してもよい、セラミックス繊維のみで強化材を組成してもよい。
・セラミックス材以外の材質の強化材によって金属基材を強化してもよい。例えば、炭素繊維や、金属粒子、金属繊維等によって強化してもよい。
【0054】
・金属基材として用いる金属の種類を変更してもよい。例えば、アルミニウム合金の代わりに、マグネシウム合金を金属基材として用いてもよい。
・金属基材よりも熱伝導率が高く設定された強化材を含むシリンダ成形体の場合、第1上端側部、第2上端側部における各強化材の熱伝導率λ1,λ2とし、第1上端側部、第2上端側部における各強化材の体積率Vf1,Vf2としたときには、条件1:λ1>λ2且つVf1≧Vf2、条件2:λ1≧λ2且つVf1>Vf2の各条件1,2のいずれか一方が満たされるように設定する。
【0055】
・シリンダ成形体Pの下端部20のうち、シリンダボア間に配置される部分については、その熱伝導率が第1上端側部19Aの熱伝導率と同じになるように、強化材の組成を設定してもよい。
【0056】
・シリンダブロック11に鋳込まれたシリンダ成形体Pのうち、最も端に位置するシリンダ成形体Pについては、第1上端側部19Aを1つのみ形成し、シリンダボア17間にのみ第1上端側部19Aを配置してもよい。なお、上記実施形態のように、最も端に位置するシリンダ成形体Pについても2つの第1上端側部19Aを形成するようにすれば、同シリンダ成形体Pが一種類のみとなるため、それらの生産効率を高めることができその管理も容易なものとなる。
【0057】
・シリンダ成形体Pの上端側部19については、その周方向において、隣接するシリンダボア17に最も近い部分で熱伝導率が最も高くなるように設定し、隣接するシリンダボア17から離れる部分ほど、徐々に熱伝導率が低下するように強化材の組成を設定してもよい。
【0058】
・シリンダ成形体Pの上端側部19について、その上下方向における熱伝導率の大きさの分布を変更してもよい。例えば、上端側部19については、上端側部19の最も上端部分で熱伝導率が最も大きくなり、下方になるにつれて熱伝導率が低くなるように設定してもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…シリンダブロック、12…シリンダ、17…シリンダボア、18…ボア壁部、18A…第1の上側ボア壁部、18B…第2の上側ボア壁部、19…上端側部、19A…第1の上端側部分としての第1上端側部、19B…第2の上端側部分としての第2上端側部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体、及びそのシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料によりシリンダボアが構成された内燃機関のシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダヘッドやシリンダブロック等のエンジン部品はアルミニウム合金化されて軽量化が図られているが、シリンダライナについては、他のエンジン部品よりもより一層の高温寸法安定性、耐摩耗性、強度及び剛性が求められているため、アルミニウム合金化することは困難であった。そこで、従来、シリンダライナをアルミニウム合金化する代わりに、金属を基材としセラミックス等の強化材により強化された金属基複合材料(MMC:Metal Matrix Composite)が素材として用いられたシリンダライナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−259635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダライナには、機関運転中、シリンダボア内で発生した燃焼熱が伝達される。そのため、例えば、シリンダブロックには冷却水が流通するウォータージャケットが設けられており、シリンダライナは冷却水によって冷却される。ところが、シリンダブロックのシリンダボア間部分はシリンダボアによって挟まれているため、冷却水によって充分に冷却することができずその他の部分よりも温度が高くなる傾向にある。このため、シリンダライナにおいては、機関運転中、機関燃焼室の外壁に対応する上端部のうちのボア間に位置する部分とそれ以外の部分とで大きな温度差が生じていた。
【0005】
そこで、冷却水による冷却能力を高めて、ボア間に相当するシリンダライナの上端部の部位を十分に冷却するという方策も考えられるが、この場合、ボア間以外の部分が過度に冷却されることになり、結局、ボア間に相当する部分の温度は低下するものの、同部分とそれ以外の部分とでは依然として大きな温度差が生じる。このように、従来のシリンダライナにおいては、ボア間に相当する部分とそれ以外の部分とで大きな温度差が生じることを回避できず、ひいては、径方向における熱変形が不均一になる事態を招くこととなっていた。特に、金属基複合材料はアルミニウム合金等の金属材料と比較して熱伝導率が低いため、こうした傾向が一層顕著なものとなる。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、機関運転中においてシリンダボアの径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる内燃機関のシリンダ成形体、及び内燃機関のシリンダブロックを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、複数のシリンダを有するシリンダブロックのシリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体において、機関燃焼室に対応する上端側部分のうち、隣接するシリンダボア間に位置する部分を第1の上端側部分とし、周方向における他の部分を第2の上端側部分としたとき、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその熱伝導率が高くなるように強化材の組成が設定されてなることを要旨とする。
【0008】
この発明では、シリンダ成形体を含む金属基複合材料によって、シリンダブロックのシリンダボアが構成された場合、シリンダブロックの機関燃焼室から第1の上端側部分に伝達された熱は速やかにその周方向に伝達されるため、第1の上端側部分の周方向における温度分布が均一化するようになる。更に、この第1の上端側部分から第2の上端側部分に熱が伝達されることにより、第1の上端側部分の平均温度と第2の上端側部分の平均温度の差も減少するようになる。その結果、シリンダ成形体及びこれが鋳込まれるシリンダブロックのシリンダボアの上端側部分について、機関運転中におけるその周方向の温度分布の均一化を図ることができ、シリンダボアの径方向の熱変形が不均一になることを抑制することができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1の上端側部分の熱伝導率が前記第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くなるように、前記第1の上端側部分と前記第2の上端側部分とに含まれる強化材の熱伝導率及び体積率の少なくとも一方が異なるように設定されることを要旨とする。
【0010】
なお、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くする場合、例えば、第1の上端側部分における強化材の体積率を第2の上端側部分における強化材の体積率よりも低くした構成、第2の上端側部分における強化材よりも第1の上端側部分における強化材の熱伝導率を高くした構成、若しくはそれらを組み合わせた構成を採用することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその強化材の体積率が小さく設定されることを要旨とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によるように、第1の上端側部分における強化材の体積率を小さくすれば、第1の上端側部分に含浸されるアルミニウム系金属の割合は第2の上端側部分に含浸されるアルミニウム系金属の割合よりも高くなる。そのため、アルミニウム系合金が含浸されたシリンダ成形体によってシリンダブロックのシリンダボアを構成した場合には、第1の上端側部分により構成される部分の熱伝導率を第2の上端側部分により構成される部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ1、Vf1とし、前記第2の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ2、Vf2としたとき、λ1>λ2且つVf1≦Vf2なる関係を満たすことを要旨とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によるように、第1の上端側部分の熱伝導率、体積率と第2の上端側部分の熱伝導率、体積率との関係を、λ1>λ2且つVf1≦Vf2とすることで、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記第1の上端側部分における強化材はこれに含まれるセラミックス材よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含むことを要旨とする。
【0016】
この発明では、第1の上端側部分の熱伝導率を第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くすることができる。
請求項6に記載の発明は、複数のシリンダを有するとともに、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料により各シリンダボアが構成されてなる内燃機関のシリンダブロックを要旨とする。
【0017】
この発明では、機関運転中にシリンダボア周囲で温度差が生じることを抑制し、シリンダボアにおいて径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本実施形態におけるシリンダブロックの平面図、(b)は図1(a)のA−A線断面図。
【図2】(a)はシリンダ成形体の平面図、(b)はシリンダ成形体の側面図。
【図3】(a)は濾過体及び濾過体に取り付けられる吸引具の模式図、(b)は濾過体のB−B線断面図。
【図4】濾過体に強化材を付着させる方法を示す工程図。
【図5】(a)は成形される前の強化材成形体を示す断面図、(b)は強化材成形体の表面を整える工程の説明図。
【図6】表面が整えられた後の強化材成形体の模式図。
【図7】シリンダ成形体をシリンダブロック本体に鋳包む態様を示すための模式図。
【図8】機関運転時におけるボア壁部の上側部分の周方向温度分布を示すためのグラフ。
【図9】機関運転時におけるボア壁部の上側部分の径方向温度分布を示すためのグラフ。
【図10】第2実施形態において、(a)は濾過体及び濾過体に取り付けられる吸引具の模式図、(b)は図10(a)のC−C線断面図。
【図11】第2実施形態において、(a)〜(c)は濾過体に強化材を付着させる方法を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を、図1〜図9を参照して説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、シリンダブロック11には複数のシリンダ12が並設されるとともに、複数のシリンダ12を取り囲むようにウォータージャケット13が形成されている。ウォータージャケット13は、シリンダ外周面12aと、シリンダ外周面12aと所定の間隔を隔てて対向する外壁14と、シリンダ12及び外壁14を接続してウォータージャケット13の底面を形成する底壁15と、により区画形成されている。シリンダ12の頂面及び外壁14の頂面は、図示しないシリンダヘッドが載置されるシリンダブロック11のデッキ面11aを形成している。図1(a)に示すように、隣り合うシリンダ12同士はその一部が接続部16を介して接続されている。各シリンダ12のシリンダボア17は、シリンダ12の内側に位置するボア壁部18によって構成されている。尚本明細書において、ボア壁部18は、デッキ面11a側をその上側としている。
【0020】
ボア壁部18は、セラミックス材としてのアルミナ短繊維及びセラミックス粒子からなるシリンダ成形体P(強化材成形体)に、金属基材としてのアルミニウム系合金を含浸させてこれを鋳込むことにより形成される金属基複合材料(MMC)によって構成されている。ボア壁部18は、シリンダボア17間の接続部16を挟むように配置された第1の上側ボア壁部18Aと、第1の上側ボア壁部18Aとともにシリンダボア17を構成する第2の上側ボア壁部18Bとを有している。第1の上側ボア壁部18Aは、シリンダ12の配列方向において最も端に位置する第1の上側ボア壁部18Aを除いて接続部16に対応している。そして、第1の上側ボア壁部18Aにはシリンダ成形体Pの第1上端側部19Aが含まれる一方、第2の上側ボア壁部18Bにはシリンダ成形体Pの第2上端側部19Bが含まれている。
【0021】
図2(a)及び(b)に示すように、シリンダ成形体Pは略円管状に形成されるとともに、内径H1及び外径H2が一定に形成されている。シリンダ成形体Pの上端側部19は、第1上端側部19Aと、周方向における他の部分としての第2上端側部19Bとからなる。第1上端側部19Aは、上下方向の長さが、ピストンが上死点に達したときのピストンの頂面とデッキ面11a(図1(a)参照)との距離よりも長くなるように形成されている。第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとはシリンダ成形体Pの周方向(図2(a)で示す矢印X方向)に沿って交互に存在するとともに、第1上端側部19Aの周方向長さF1は第2上端側部19Bの周方向長さF2よりも短い。
【0022】
また、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1は第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2よりも低く、Vf1<Vf2の関係を満たしている。第1上端側部19Aを構成する強化材と第2上端側部19Bを構成する強化材とは同じものであり、第1上端側部19Aを構成する強化材の熱伝導率λ1と第2上端側部19Bを構成する強化材の熱伝導率λ2とは、λ1=λ2の関係を満たしている。なお、「強化材の体積率」とは、単位体積当たりに強化材が占める体積割合のことを意味し、本実施形態では、単位体積当たりにアルミナ短繊維及びセラミックス粒子が占める体積割合のことを意味する。第1上端側部19Aは、第2上端側部19Bに比べてアルミニウム系合金の含浸される割合が高くなるように設定されている。そして、アルミニウム系合金は、アルミナ短繊維、セラミックス粒子のいずれよりも熱伝導率が高いため、第1上端側部19Aを含む第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2上端側部19Bを含む第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くなっている。
【0023】
一方、図2(b)に示すように、シリンダ成形体Pの下端部20は上端側部19に連続するとともに、その全体が第2上端側部19Bと同じ組成の強化材によって形成されている。すなわち、シリンダ成形体Pの下端部20はその強化材の体積率及び強化材の熱伝導率が第2上端側部19Bと同じであり、その熱伝導率は第2上端側部19Bの熱伝導率と等しくなっている。
【0024】
次に、シリンダ成形体Pを製造する際に用いられる装置について説明する。
図3(a)に示すように、濾過体21はステンレス製であるとともに円筒状に形成されている。濾過体21にはその周壁23全体に複数の開孔24が形成されている。濾過体21の第1端部25には、孔径の小さい複数の開孔24Aが形成された第1濾過部26と、この第1濾過部26の開孔24Aよりも孔径の大きい複数の開孔24Bが形成された第2濾過部27とが設けられている。
【0025】
図3(b)に示すように、第1濾過部26と第2濾過部27とは周方向に沿って交互に存在している。第1濾過部26は、その周方向の長さf1が、第2濾過部27の周方向の長さf2よりも小さい。図3(a)に示すように、第1濾過部26の周面における単位面積当たりの開孔24Aの数と、第2濾過部27の周面における単位面積当たりの開孔24Bの数とは等しいため、第1濾過部26の開孔率P1(単位面積における総開孔面積/単位面積)は第2濾過部27の開孔率P2よりも低い。更に、第2端部28には、第2濾過部27と同様の開孔率となるように、開孔24Bと孔径の等しい開孔が、第2濾過部27と同じ数だけ形成されている。
【0026】
一方、吸引冶具22は図示しない吸引装置に接続される一対の吸引管29を有している。吸引管29の一端にはフランジ部30が設けられている。フランジ部30には、吸引管29側とは反対側の面30aに、濾過体21の内側に嵌入可能な円板状突部31が設けられている。
【0027】
次に、シリンダ成形体Pの製造方法、及びシリンダ成形体Pをシリンダブロック本体Bに鋳込む方法について説明する。
まず、上述した濾過体21を上下両側から挟むように吸引冶具22を配し、各吸引冶具22の円板状突部31を濾過体21の内側に嵌め込んで、フランジ部30を濾過体21の上下両端部それぞれに当接させる。このようにして濾過体21の内側を密封した後、図4の矢印Aで示すように、濾過体21を、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を含む強化材原料液に浸漬する。このとき、強化材原料液が貯留された容器32には攪拌プロペラ33が設けられているため、攪拌プロペラ33によって強化材原料液中の強化材が分散され均一化される。
【0028】
そして、濾過体21を浸漬させた状態で、吸引冶具22を介して濾過体21の内側を吸引すると、濾過体21の開孔24を通じて強化材原料液が吸引される。開孔24A及び開孔24Bはその孔径がアルミナ短繊維の平均長さよりも小さいため、強化材原料液が吸引されると、濾過体21の周壁23全体には強化材が付着し、その結果、図4の矢印Bで示すように、濾過体21の周壁23を覆うような円筒状の強化材成形体34が成形される。なお、この場合、第1濾過部26における開孔率P1は第2濾過部27における開孔率P2よりも小さいため、図5(a)に示すように、強化材は第1濾過部26よりも第2濾過部27に対応する部分に多く付着する。ここで、強化材が付着した直後の強化材成形体34は、その厚みが一定でないため、強化材成形体34、濾過体21及び吸引冶具22を容器32から取り出した後、図5(b)に示すように、ローラ35によって強化材成形体34の表面を加圧する。その結果、強化材成形体34の表面が成形され、強化材成形体34のうち第2濾過部27に対応する部分については強化材が圧縮されて強化材の密度が高くなる。その後、図6に示すように、強化材成形体34から一対の吸引冶具22を分離する。次に、強化材成形体34から濾過体21を分離し、強化材成形体34を乾燥・焼成すると、所定の剛性を有するシリンダ成形体Pが製造される。
【0029】
なお、強化材原料液は次のような工程を通じて精製される。まず、シリンダ成形体Pの強化材が所定の体積率となるようにアルミナ短繊維及びセラミックス粒子の添加割合を求め、その添加割合となるように所定量のアルミナ短繊維及びセラミックス粒子を水に添加する。そして、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を添加した溶液に、無機バインダーとしてのシリカゾル及びアルミナゾルを添加し、その後、高分子凝集剤を添加して、強化材と無機バインダーとを凝集させることで強化材原料液を精製する。
【0030】
このように製造されたシリンダ成形体Pは、図7に示すように、シリンダブロックの鋳造に際して鋳込まれる。すると、シリンダ成形体Pには金属基材としてのアルミニウム系合金が含浸され、それによって金属基複合材料からなるボア壁部18が構成されてこれがシリンダブロック本体Bと一体化される。シリンダ成形体Pにおいては、第1上端側部19Aに位置する部位における強化材の体積率が第2上端側部19Bに位置する部位における強化材の体積率に比べて低いため、第1上端側部19Aに位置する部位が周方向における他の部分としての第2上端側部19Bに位置する部位よりも熱伝導率が高い構成となる。なお、シリンダ成形体Pを鋳込む際には、シリンダ成形体Pの第1上端側部19Aがシリンダボア間に相当する部分に位置するように、キャビティ内におけるシリンダ成形体Pの設置状態が設定される。
【0031】
次に、機関運転中におけるシリンダブロック11の熱変形について説明する。
機関運転中、シリンダブロック11の機関燃焼室(シリンダボア17)内では燃焼熱が発生し、シリンダブロック11のシリンダボア17間はシリンダボア17によって挟まれているため温度が高くなる傾向にある。そのため、図8の破線で示すように、熱伝導率が均一に設定された従来のシリンダ成形体を採用したシリンダブロックの場合、ボア壁部18の上側部分における周方向の温度は、隣接するシリンダボア17に最も近い部位Lに近くなるほど高くなる。これに対して、本実施形態のシリンダ成形体Pを採用したシリンダブロック11では、ボア壁部18の上側部分に伝達された熱が第1上端側部19Aを含む第1の上側ボア壁部18Aをはじめ、速やかに他の部分、例えば、第2上端側部19Bを含む第2の上側ボア壁部18Bにも伝達される。そのため、第1の上側ボア壁部18Aの平均温度と第2の上側ボア壁部18Bの平均温度との差が減少するようになる。ボア壁部18の上側部分の周方向における温度分布は、図8の実線で示すようになり、ボア壁部18の上側部分のうち隣接するシリンダボア17に最も近い部位Lの温度は従来のシリンダライナに比べて低くなる一方、ボア壁部18の上側部分のうち隣接するシリンダボア17に最も離れた部位の温度は従来のシリンダライナに比べて高くなる。すなわち、本実施形態については、そのボア壁部18の上側部分の周方向における温度分布が、従来のシリンダライナに比べて均一化される。
【0032】
また、機関運転時における燃料の燃焼はピストンが上死点付近に達したときに生じるため、シリンダボア17内で発生した熱はまずボア壁部18の上側部分に伝達される。そして、上述したようにボア壁部18の上側部分は温度分布が均一化されるため、上側部分から下側部分に伝達される熱量が増大する。その結果、本実施形態のボア壁部18の上側部分の平均温度とボア壁部18の下側部分の平均温度の差が減少し、ボア壁部18の径方向の熱変形が上側部分と下側部分とで大きく変わることを抑制できる。
【0033】
また、図9のグラフに示すように、機関運転時におけるボア壁部18の径方向の温度分布についてみると、第1の上側ボア壁部18Aにおける径方向の温度分布は、同図9の実線T1で示すようになり従来のシリンダライナ(図9の破線)に比べて、内周側と外周側との温度差が小さくなっている。これに対して、第2の上側ボア壁部18Bについては、図9の実線T2で示すように、その内周側と外周側との温度差が依然大きく、第2の上側ボア壁部18Bの内周側の温度はほぼ変化しない。そのため、ボア壁部18の上側部分の内周側温度は過度に低下していない。
【0034】
この実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)シリンダ成形体Pの上端側部19には、シリンダブロック11に鋳込まれた場合にシリンダボア間に配置される部分となる第1上端側部19Aが形成されている。この第1上端側部19Aは周方向において第1上端側部19Aとは異なる第2上端側部19Bよりも熱伝導率が高くなるように、強化材の組成が設定されている。そのため、シリンダブロック11のボア壁部18の上側部分について、機関運転中における周方向の温度分布の均一化を図ることができ、ボア壁部18の上側部分の径方向の熱変形が不均一になることを抑制できる。
【0035】
(2)ボア壁部18の上側部分においては、機関運転時に径方向の熱変形が不均一になることが抑制され、ひいてはシリンダボア17の真円度が向上する。したがって、シリンダ成形体Pを鋳込んだシリンダブロック11を備える内燃機関では、機関運転中のピストンの動きに対するピストンリングの追従性の向上を図ることができる。
【0036】
(3)シリンダボアの真円度を向上させることができるため、ピストンリングの張力を低減することができ、燃費の向上を図ることができるようになる。
(4)ウォータージャケット13を流通する冷却水の冷却能力をとくに高めなくとも、ボア壁部18の第1の上側ボア壁部18Aについてはその周方向における温度分布の均一化を図ることができる。したがって、シリンダボア間以外の部分を不必要に冷却することはないため、冷却損失が増大することを抑制できる。
【0037】
(5)従来のシリンダライナに比べて、本実施形態のボア壁部18の上側部分においてはその内周側温度が低下する。したがって、機関運転中、機関燃焼室の内壁付近における混合気の自己着火が起き難くなり、内燃機関のノック限界が向上する。
【0038】
(6)機関運転時におけるシリンダボアの径を、極力、軸方向全体において均一にすることができ、シリンダボアの真直度の向上を図ることができる。
(7)第2上端側部19Bは、周方向において第2上端側部19B以外の部分である第1上端側部19Aよりも熱伝導率が低くなるように強化材の組成が設定されている。すなわち、第2の上側ボア壁部18Bは、周方向において、第2の上側ボア壁部18B以外の部分である第1の上側ボア壁部18Aよりも熱伝導率が低く設定されている。そのため、ボア壁部18の上側部分全体の熱伝導率を高くした場合に比べて、ボア壁部18の上側部分、すなわちシリンダボア17の内周側の温度が下がることはないため、ボア壁部18の上側部分の内周に張った油膜の温度を所望の温度に維持することができる。したがって、油膜は少なくとも設計時に設定された要求を満たす程度の粘度になり、摩擦を低減する機能を十分に発揮することができる。
【0039】
(8)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aの強化材の体積率が第2の上側ボア壁部18Bに対応する第2上端側部19Bの強化材の体積率に比べて低いため、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率は第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くなっている。したがって、第1の上側ボア壁部18Aと第2の上側ボア壁部18Bとで熱伝導率が異なるように構成しても、第1上端側部19A及び第2上端側部19Bに含浸させる金属基材については、従来どおりのアルミニウム合金を用いることができるため、シリンダ成形体Pをシリンダブロックに鋳込む場合に従来の方法からの変更点を極力少なくすることができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明にかかるシリンダ成形体を具体化した第2実施形態について、図10及び図11を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、シリンダ成形体Pの組成及びシリンダ成形体Pの製造方法が第1実施形態と異なっており、以下、そうした相違点を中心に説明する。
【0041】
本実施形態のシリンダ成形体Pにおいては、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとで強化材の体積率Vf1,Vf2が等しく(Vf1=Vf2)設定されるとともに、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとで成分が異なる強化材が用いられている。具体的には、第1上端側部19Aは、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を主成分とした強化材によって組成されている。強化材の主成分である人造黒鉛粒子、セラミックス粒子、アルミナ短繊維はこれらの順に熱伝導率が高く、それらは熱伝導率の高い順に体積率も高く設定されている。なお、第1上端側部19Aにおける強化材の熱伝導率λ1は、人造黒鉛粒子、セラミックス粒子、アルミナ短繊維それぞれの熱伝導率及び体積率に基づいて設定される。人造黒鉛粒子は、その熱膨張係数が、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも低いものである。
【0042】
一方、第2上端側部19Bは、アルミナ短繊維、セラミックス粒子を主成分とした強化材によって組成されている。アルミナ短繊維、セラミックス粒子は、これらの順に、体積率が高くなっている。第2上端側部19Bにおける強化材の熱伝導率λ2は、アルミナ短繊維、セラミックス粒子それぞれの熱伝導率及び体積率に基づいて設定される。そして、第1上端側部19A及び第2上端側部19Bにおける各強化材の熱伝導率λ1,λ2はいずれもアルミニウム系合金の熱伝導率よりも低い。第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1と第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2は等しいが、アルミナ短繊維、セラミック粒子、黒鉛粒子からなる強化材の熱伝導率λ1は、アルミナ短繊維、セラミック粒子からなる強化材の熱伝導率λ2よりも高いため、第1上端側部19Aは第2上端側部19Bよりも熱伝導率が高くなっている。
【0043】
次に、本実施形態におけるシリンダ成形体Pの製造方法について説明する。
まず、図10(a)に示すように、本実施形態の濾過体40は、第1実施形態と異なり、その周壁23全体に、孔径の等しい複数の開孔41が形成されている。濾過体40の周壁23全体には、開孔率が一定となるように開孔41が形成されている。そして、図10(a)及び(b)に示すように、この濾過体40の周壁23に対して、第1実施形態で説明した第2濾過部27及び第2端部28に対応する部分を覆うように磁石シート36を付け、第1実施形態で説明した第1濾過部26に相当する箇所を露出させる。この状態で、吸引冶具22を濾過体40に取り付け、図11(a)に示すように、その濾過体40をアルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を含む第1強化材原料液に浸漬した後に、吸引冶具22を介して吸引する。すると、濾過体40のうち第1濾過部26と同じ部分には、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を主成分とした強化材が付着する。その後、図11(b)に示すように、吸引冶具22及び濾過体40を第1強化材原料液から取り出し、磁石シート36を濾過体40から取り外す。
【0044】
次に、図11(c)に示すように、吸引冶具22及び濾過体40をアルミナ短繊維、セラミックス粒子を含む第2強化材原料液に浸漬して吸引する。すると、濾過体40のうち第2濾過部27及び第2端部28と同じ部分にはアルミナ短繊維、セラミックス粒子からなる強化材が付着して、円筒状の強化材成形体34が形成される。その後、第1実施形態と同様に、ローラ35によって強化材成形体34表面に圧力を付与して、強化材成形体34の表面を整形し、乾燥・焼成することで強化材成形体34を完成させる。その後、第1実施形態で説明した方法と同様の方法で強化材成形体34をシリンダブロック11に鋳込む。なお、第1強化材原料液は、水にアルミナ短繊維、セラミックス粒子、人造黒鉛粒子を添加し、第1実施形態と同様の方法で精製する。第2強化材原料液は、水にアルミナ短繊維、セラミックス粒子を添加し、第1実施形態と同様の方法で精製する。
【0045】
こうした本実施形態のシリンダ成形体P及びその製造方法によれば、上記(1)〜(8)に記載の効果に加え、更に次の効果を得ることができる。
(9)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aは熱伝導率の高い強化材によって組成されている。そのため、第1の上側ボア壁部18Aの熱伝導率を第2の上側ボア壁部18Bの熱伝導率よりも高くすることができ、ボア壁部18の上側部分についてその径方向の熱変形を均一にすることができる。
【0046】
(10)第1の上側ボア壁部18Aに対応する第1上端側部19Aの熱膨張係数は第2の上側ボア壁部18Bに対応する第2上端側部19Bの熱膨張係数よりも低く設定されている。そのため、第1の上側ボア壁部18Aにおける平均温度が第2の上側ボア壁部18Bにおける平均温度より高くとも、第1の上側ボア壁部18Aの熱変形量と第2の上側ボア壁部18Bの熱変形量の差を減少させることができ、ボア壁部18の上側部分においては、その径方向における熱変形をより均一化することができる。
【0047】
(11)第1上端側部19Aにおける強化材は、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子の他に、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含んでいる。したがって、例えば、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子よりも熱伝導率の高い金属粒子を用いて、第1上端側部19Aの熱伝導率を高くする場合に比べて、シリンダ成形体Pの重量増加を抑制できる。
【0048】
上述した実施の形態は、以下のようにこれを適宜変更した形態にて実施することもできる。
・第1実施形態において、第2濾過部27における開孔率P2についてはとくに限定されない。第2濾過部27に付着する強化材の量が第1濾過部26に付着する強化材の量に比べて多くなるのであれば、第2濾過部27における開孔率P2が第1濾過部26における開孔率P1と等しくてもよい。この場合であっても、第2濾過部27に形成される開孔24Bの孔径が第1濾過部26に形成される開孔24Aの孔径よりも大きければ、第2濾過部27には第1濾過部26よりも多くの強化材が付着するようになる。また、第2濾過部27の開孔率P2が第1濾過部26の開孔率P1より小さくとも、開孔24Bの孔径が開孔24Aの孔径に比して大幅に大きければ、第2濾過部27には第1濾過部26よりも多くの強化材が付着する。なお、濾過体21,40に形成される開孔24,41の孔径についてはとくに限定されないが、その孔径がセラミックス繊維の平均長さと同程度か、若しくは小さい方が好ましい。
【0049】
・第1実施形態において、第1上端側部19Aと第2上端側部19Bとを異なる強化材によって組成してもよい。例えば、第1上端側部19Aについては熱伝導率λ1の高い強化材によって組成し、第2上端側部19Bについては熱伝導率λ2の低い強化材によって組成してもよい。このような構成にすれば、第1上端側部19Aの熱伝導率を第2上端側部19Bの熱伝導率に比べてより高くすることができる。
【0050】
・第2実施形態において、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1と、第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2とを異ならせてもよい。例えば、第1上端側部19Aにおける強化材の体積率Vf1を第2上端側部19Bにおける強化材の体積率Vf2より低く設定してもよい。このような構成であれば、第1上端側部19Aの熱伝導率をより高めることができる。
【0051】
・第2実施形態において、濾過体40に強化材を付着させる工程の順序を変更してもよい。例えば、磁石シート36により濾過体40の第1濾過部26に相当する部分を覆った状態で、第2強化材原料液に浸漬して、アルミナ短繊維及びセラミックス粒子を主成分とした強化材を付着させ、次に、磁石シート36を取り外し、第1強化材原料液に浸漬して、アルミナ短繊維、セラミックス粒子、黒鉛粒子を主成分とした強化材を付着させてもよい。
【0052】
・第2実施形態において、黒鉛粒子の代わりに、例えば銅粒子等からなる金属粉末を添加して、第1上端側部19Aの熱伝導率を高めてもよい。
・セラミックス粒子として用いる材質の種類についてはとくに限定しない。例えば、ゼオライト粒子や、炭酸カリウム粒子を用いてもよい。
【0053】
・強化材の成分であるセラミックス繊維は、短繊維に限らず、長繊維でもよい。
・強化材の組成を変更してもよい、セラミックス繊維のみで強化材を組成してもよい。
・セラミックス材以外の材質の強化材によって金属基材を強化してもよい。例えば、炭素繊維や、金属粒子、金属繊維等によって強化してもよい。
【0054】
・金属基材として用いる金属の種類を変更してもよい。例えば、アルミニウム合金の代わりに、マグネシウム合金を金属基材として用いてもよい。
・金属基材よりも熱伝導率が高く設定された強化材を含むシリンダ成形体の場合、第1上端側部、第2上端側部における各強化材の熱伝導率λ1,λ2とし、第1上端側部、第2上端側部における各強化材の体積率Vf1,Vf2としたときには、条件1:λ1>λ2且つVf1≧Vf2、条件2:λ1≧λ2且つVf1>Vf2の各条件1,2のいずれか一方が満たされるように設定する。
【0055】
・シリンダ成形体Pの下端部20のうち、シリンダボア間に配置される部分については、その熱伝導率が第1上端側部19Aの熱伝導率と同じになるように、強化材の組成を設定してもよい。
【0056】
・シリンダブロック11に鋳込まれたシリンダ成形体Pのうち、最も端に位置するシリンダ成形体Pについては、第1上端側部19Aを1つのみ形成し、シリンダボア17間にのみ第1上端側部19Aを配置してもよい。なお、上記実施形態のように、最も端に位置するシリンダ成形体Pについても2つの第1上端側部19Aを形成するようにすれば、同シリンダ成形体Pが一種類のみとなるため、それらの生産効率を高めることができその管理も容易なものとなる。
【0057】
・シリンダ成形体Pの上端側部19については、その周方向において、隣接するシリンダボア17に最も近い部分で熱伝導率が最も高くなるように設定し、隣接するシリンダボア17から離れる部分ほど、徐々に熱伝導率が低下するように強化材の組成を設定してもよい。
【0058】
・シリンダ成形体Pの上端側部19について、その上下方向における熱伝導率の大きさの分布を変更してもよい。例えば、上端側部19については、上端側部19の最も上端部分で熱伝導率が最も大きくなり、下方になるにつれて熱伝導率が低くなるように設定してもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…シリンダブロック、12…シリンダ、17…シリンダボア、18…ボア壁部、18A…第1の上側ボア壁部、18B…第2の上側ボア壁部、19…上端側部、19A…第1の上端側部分としての第1上端側部、19B…第2の上端側部分としての第2上端側部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダを有するシリンダブロックのシリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体において、
機関燃焼室に対応する上端側部分のうち、隣接するシリンダボア間に位置する部分を第1の上端側部分とし、周方向における他の部分を第2の上端側部分としたとき、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその熱伝導率が高くなるように強化材の組成が設定されてなる
ことを特徴とする内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項2】
前記第1の上端側部分の熱伝導率が前記第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くなるように、前記第1の上端側部分と前記第2の上端側部分とに含まれる強化材の熱伝導率及び体積率の少なくとも一方が異なるように設定される
請求項1に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項3】
前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、
前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその強化材の体積率が小さく設定される
請求項2に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項4】
前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、
前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ1、Vf1とし、前記第2の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ2、Vf2としたとき、
λ1>λ2且つVf1≦Vf2
なる関係を満たす請求項2に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項5】
前記第1の上端側部分における強化材はこれに含まれるセラミックス材よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含む
請求項4に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項6】
複数のシリンダを有するとともに、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料により各シリンダボアが構成されてなる内燃機関のシリンダブロック。
【請求項1】
複数のシリンダを有するシリンダブロックのシリンダボアを金属基複合材料にて構成するために用いられる強化材を含んでなる内燃機関のシリンダ成形体において、
機関燃焼室に対応する上端側部分のうち、隣接するシリンダボア間に位置する部分を第1の上端側部分とし、周方向における他の部分を第2の上端側部分としたとき、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその熱伝導率が高くなるように強化材の組成が設定されてなる
ことを特徴とする内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項2】
前記第1の上端側部分の熱伝導率が前記第2の上端側部分の熱伝導率よりも高くなるように、前記第1の上端側部分と前記第2の上端側部分とに含まれる強化材の熱伝導率及び体積率の少なくとも一方が異なるように設定される
請求項1に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項3】
前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、
前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分は前記第2の上端側部分よりもその強化材の体積率が小さく設定される
請求項2に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項4】
前記シリンダ成形体はアルミニウム系金属が含浸されることにより前記シリンダボアを構成するものであり、
前記強化材はセラミックス材を主成分とすることで前記含浸されるアルミニウム系金属よりもその熱伝導率が低く設定された強化材を含むとともに、前記第1の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ1、Vf1とし、前記第2の上端側部分に含まれる強化材の熱伝導率、体積率をそれぞれλ2、Vf2としたとき、
λ1>λ2且つVf1≦Vf2
なる関係を満たす請求項2に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項5】
前記第1の上端側部分における強化材はこれに含まれるセラミックス材よりも熱伝導率の高い黒鉛粒子を含む
請求項4に記載の内燃機関のシリンダ成形体。
【請求項6】
複数のシリンダを有するとともに、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリンダ成形体が金属基材に鋳込まれた金属基複合材料により各シリンダボアが構成されてなる内燃機関のシリンダブロック。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−169173(P2011−169173A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31728(P2010−31728)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】
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