説明

内燃機関のトルク推定装置

【課題】複数気筒を有する内燃機関において、気筒毎のトルクを精度よく推定することのできる内燃機関のトルク推定装置を提供する。
【解決手段】筒内圧センサ24が搭載された搭載気筒(♯1)と該筒内圧センサ24が搭載されていない非搭載気筒(♯2〜♯4)とを有する内燃機関のトルク推定装置であって、検出された筒内圧Pmおよび角速度dθ/dtに基づいて、搭載気筒(♯1)の爆発に起因する実測図示トルクTiおよび正味トルクTeを算出する(ステップ100〜102)。実測図示トルクTiと正味トルクTeとの差分値(Tf+Tm)を算出する(ステップ104)。非搭載気筒(♯n)の正味トルクTeを算出する(ステップ202)。(Tf+Tm)と正味トルクTeとの和を、非搭載気筒(♯n)の推定図示トルクTiとして算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関のトルク推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開昭64−38624号公報に開示されているように、内燃機関のトルク変動と回転変動とから燃焼変動を検出する内燃機関の燃焼変動検出装置が提案されている。この装置では、より具体的には、一部の気筒に設置された筒内圧センサの出力信号に基づいて図示トルクが算出される。そして、過去の図示トルクの履歴から算出されたトルク平均値と当該図示トルクとの差をトルク変動として算出し、これを用いて燃焼変動を検出することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭64−38624号公報
【特許文献2】特開2007−32296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の装置では、筒内圧センサの設けられた気筒の燃焼によるトルクを算出することはできるが、他の気筒のトルクを算出することはできない。つまり、上記従来の装置では、内燃機関の気筒毎のトルクの絶対値を算出することができず、改善が望まれていた。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、複数気筒を有する内燃機関において、気筒毎のトルクを精度よく推定することのできる内燃機関のトルク推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、筒内圧センサが搭載された搭載気筒と該筒内圧センサが搭載されていない非搭載気筒とを有する内燃機関のトルク推定装置であって、
前記筒内圧センサの検出信号に基づいて、前記搭載気筒の燃焼区間の実測図示トルクを算出する実測図示トルク算出手段と、
前記内燃機関のクランク角信号に基づいて、前記搭載気筒の燃焼区間の正味トルクを算出する正味トルク算出手段と、
前記実測図示トルクと前記搭載気筒の正味トルクとの差分値を、フリクショントルクとして算出するフリクショントルク算出手段と、
前記非搭載気筒の燃焼区間の正味トルクを算出する第2の正味トルク算出手段と、
前記フリクショントルクと前記非搭載気筒の正味トルクとの和を、前記非搭載気筒の推定図示トルクとして算出する推定図示トルク算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明によれば、筒内圧センサの検出信号およびクランク角信号に基づいて、搭載気筒の燃焼区間の実測図示トルクと正味トルクとが算出される。そして、算出された実測図示トルクと正味トルクとの差分値がフリクショントルクとして算出される。このフリクショントルクは、何れの気筒の燃焼区間においてもほぼ等しい。このため、本発明によれば、当該フリクショントルクと非搭載気筒の正味トルクと和を演算することにより、非搭載気筒の図示トルクを高い精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態としてのシステム構成を説明するための概略構成図である。
【図2】各気筒の燃焼区間を説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態において実行されるルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態.
[実施の形態の構成]
図1は、本発明の実施の形態としてのシステム構成を説明するための概略構成図である。図1に示すとおり、本実施の形態のシステムは内燃機関10を備えている。内燃機関10は、複数気筒(例えば4気筒)を有する火花点火式のエンジンとして構成されている。内燃機関10の筒内には、その内部を往復運動するピストン12がそれぞれ設けられている。各ピストン12は、コンロッドを介してクランク軸14へ接続されている。そして、各ピストン12の上下運動が該クランク軸14の回転運動に変換される仕組みになっている。
【0011】
図1に示すとおり、クランク軸14には、該クランク軸14の回転位置を検知するためのクランク角センサ22が配置されている。また、♯1気筒のシリンダヘッドには、筒内圧力Pmを検出するための筒内圧センサ(CPS)24が組み込まれている。以下、該筒内圧センサ24が組み込まれている気筒(♯1)を「搭載気筒」と称し、該筒内圧センサ24が組み込まれていない気筒(♯2〜♯4)を「非搭載気筒」と称することとする。
【0012】
本実施の形態のシステムは、図1に示すとおり、ECU(Electronic Control Unit)20を備えている。ECU20の入力部には、上述したクランク角センサ22や筒内圧センサ24等の各種センサが接続されている。また、ECU20の出力部には、スロットルバルブ、点火プラグ、燃料噴射弁等の各種アクチュエータ(何れも図示せず)が接続されている。ECU20は、入力された各種の情報に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御する。
【0013】
[実施の形態の動作]
次に、図1および図2を参照して、内燃機関10の各気筒の図示トルクを推定する方法を具体的に説明する。図2は、各気筒の燃焼区間を説明するための図である。この図に示すとおり、本実施の形態の内燃機関10は♯1→♯3→♯4→♯2の順に燃焼する。各気筒の燃焼区間をクランク角区間で示すと、それぞれ0〜180°CA、180〜270°CA、270〜540°CA、540〜720°CAで表される。尚、内燃機関10の燃焼は♯1から始まり、且つ、補機類のON/OFFの切り替えは、♯1気筒の燃焼前、すなわち0°CAのタイミングで行われることとする。これにより、後述する補機類の駆動損失トルクTmが、燃焼サイクル(0〜720°CA)の間でほぼ一定と仮定することができる。
【0014】
図1に示すとおり、♯1には筒内圧センサ24が搭載されている。したがって、搭載気筒♯1の燃焼区間の図示トルクTi1は、次式(1)で表すことができる。
Ti=Pm(θ)・V(θ) ・・・(1)
【0015】
ここで、Pm(θ)はクランク角θにおける筒内圧、V(θ)はクランク角θにおけるシリンダ容積を、それぞれ示している。したがって、♯1の燃焼区間の図示トルクTiは、上式(1)の右辺を♯1の燃焼区間で積分することで算出することができる。
【0016】
また、各気筒の燃焼時の正味トルクTeは、次式(2)で表される。
Te=J・dθ/dt ・・・(2)
【0017】
上式(2)において、Jは混合気の燃焼によって駆動される駆動部材の慣性モーメント(イナーシャ)であり、内燃機関10のハード構成に基づいて決定される定数である。また、dθ/dtはクランク軸14の角加速度である。したがって、♯1の燃焼区間の正味トルクTeは、クランク角信号に基づいて算出された♯1の燃焼区間の角速度dθc1/dtを、上式(2)に代入することで算出することができる。
【0018】
ここで、内燃機関10に作用するトルクとしては、上述した正味トルクの他に、ピストンとシリンダ内壁との摩擦など各勘合部の機械的な摩擦損失に起因するトルクTfと、種々の補機類の駆動損失に起因するトルクTmとが存在する。したがって、これらのトルクの間には、以下の関係が成立する。
Ti=Te+Tf+Tm ・・・(3)
【0019】
上述したとおり、♯1の燃焼区間は、図示トルクTiを実測することができる。このため、算出された図示トルクTiおよび正味トルクTeを上式(3)に代入することで、(Tf+Tm)を算出することができる。
【0020】
ここで、上述したとおり、補機類のON/OFFの切り替えは、0°CAのタイミングで行われるため、補機類の駆動損失トルクTmは燃焼サイクル(0〜720°CA)を通してほぼ一定となる。また、摩擦によるトルクTfに関しても、通常の運転状態であれば、燃焼サイクルを通して一定と仮定することができる。したがって、これらのトルクの和
(Tf+Tm)は、燃焼サイクル(0〜720°CA)を通してほぼ一定となる。
【0021】
非搭載気筒♯n(nは2〜4)の正味トルクTeは、上式(2)を用いて算出することができる。したがって、非搭載気筒♯nの図示トルクTiは、上式(3)を用いて高い精度で推定することができる。
【0022】
このように、上述したシステムによれば、各気筒の図示トルクをそれぞれ算出することができるので、これらの値を最適点火時期制御やA/F制御に利用することで、更なる出力向上や燃費向上を図ることができる。また、各気筒の燃焼状態を直接計測できるので、失火やノック等の適合作業をオンボードで行うことにより、作業の更なる効率化を図ることができる。
【0023】
[実施の形態の具体的処理]
次に、図3を参照して、本実施の形態の具体的処理について説明する。図4は、ECU20が各気筒の図示トルクを推定するルーチンを示すフローチャートである。
【0024】
図3に示すルーチンでは、先ず、搭載気筒♯1の筒内圧Pmおよび角速度dθ/dtが検出される(ステップ100)。ここでは、具体的には、♯1の燃焼区間における筒内圧センサ24の検出信号およびクランク角センサ22のクランク角信号が読み込まれる。次に、♯1の燃焼区間の図示トルクTiおよび正味トルクTeがそれぞれ算出される(ステップ102)。ここでは、具体的には、上記ステップ100において検出された筒内圧Pmおよび角速度dθ/dtが上式(1)(2)に代入される。
【0025】
次に、(Tf+Tm)が算出される(ステップ104)。ここでは、具体的には、上記ステップ102において算出された図示トルクTiおよび正味トルクTeが、上式(3)に代入される。
【0026】
♯1の燃焼区間が終了すると、次に筒内圧センサ24が搭載されていない非搭載気筒♯2〜♯4の燃焼区間が順に開始される。非搭載気筒の燃焼区間が開始されると、本ルーチンはステップ200に移行する。ここでは、具体的には、先ず、クランク角信号に基づいて、♯n気筒(例えば♯3)の角速度dθcn/dtが検出される(ステップ200)。次に、♯nの燃焼区間の正味トルクTeが算出される(ステップ202)。ここでは、具体的には、上記ステップ200で検出された角速度dθcn/dtを上式(2)に代入することにより算出される。
【0027】
次に、(Tf+Tm)が読み込まれる(ステップ204)。ここでは、具体的には、上記ステップ104において算出された今回の燃焼サイクルにおける(Tf+Tm)が読み込まれる。次に、♯nの燃焼区間の図示トルクTiが算出される(ステップ206)。ここでは、具体的には、上記ステップ202において算出された正味トルクTeと上記ステップ204において読み込まれた(Tf+Tm)とが上式(3)に代入されて、♯nの燃焼区間の図示トルクTiが算出される。
【0028】
非搭載気筒の燃焼区間では、上記ステップ200〜206の処理が気筒毎にそれぞれ実行される。これにより、各気筒の燃焼区間の図示トルクTi、Ti、Tiがそれぞれ算出される。
【0029】
以上説明したとおり、本実施の形態のシステムによれば、筒内圧センサ24が搭載された搭載気筒(♯1)の図示トルクTiだけでなく、該筒内圧センサ24が搭載されていない非搭載気筒(♯2〜♯4)の図示トルクTi〜Tiに関しても、高い精度で推定することができる。
【0030】
尚、上述した実施の形態においては、(Tf+Tm)が前記第1の発明の「フリクショントルク」に相当しているとともに、ECU20が、上記ステップ102の処理を実行することにより、前記第1の発明における「実測図示トルク算出手段」および「正味トルク算出手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより、前記第1の発明における「実測図示トルク算出手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより、前記第1の発明における「フリクショントルク算出手段」が、上記ステップ202の処理を実行することにより、前記第1の発明における「第2の正味トルク算出手段」が、上記ステップ206の処理を実行することにより、前記第1の発明における「推定図示トルク算出手段」が、それぞれ実現されている。
【符号の説明】
【0031】
10 内燃機関
12 ピストン
14 クランク軸
20 ECU(Electronic Control Unit)
22 クランク角センサ
24 筒内圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内圧センサが搭載された搭載気筒と該筒内圧センサが搭載されていない非搭載気筒とを有する内燃機関のトルク推定装置であって、
前記筒内圧センサの検出信号に基づいて、前記搭載気筒の燃焼区間の実測図示トルクを算出する実測図示トルク算出手段と、
前記内燃機関のクランク角信号に基づいて、前記搭載気筒の燃焼区間の正味トルクを算出する正味トルク算出手段と、
前記実測図示トルクと前記搭載気筒の正味トルクとの差分値を、フリクショントルクとして算出するフリクショントルク算出手段と、
前記非搭載気筒の燃焼区間の正味トルクを算出する第2の正味トルク算出手段と、
前記フリクショントルクと前記非搭載気筒の正味トルクとの和を、前記非搭載気筒の推定図示トルクとして算出する推定図示トルク算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関のトルク推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−209703(P2010−209703A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53917(P2009−53917)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】