説明

内燃機関のピストンのための挿入部材、並びに該挿入部を備えたピストン又はピストンヘッド

本発明は、内燃機関のピストンのための挿入部材(10,110)であって、ピストンがピストンヘッド(21,121)を有しており、該ピストンヘッドが、燃焼室(23)を有するピストンクラウン(22)と、環状のトップランド(24)と、環状のピストンリング部と、該ピストンリング部の高さ位置に配置された、環状の冷却通路(12)とを備えている形式のものに関する。本発明によれば、挿入部材(10,110)が、環状の冷却通路(12)とリングキャリア領域(11)と、燃焼室縁部補強のための凹部領域(13,113)とを有する一体的な構成部として構成されている。本発明はさらに、このような形式の挿入部材(10,110)を備えたピストン又はピストンヘッド(21,121)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンのための挿入部材であって、ピストンがピストンヘッドを有しており、該ピストンヘッドが、燃焼室を有するピストンクラウンと、環状のトップランドと、環状のピストンリング部と、該ピストンリング部の高さ位置に配置された、環状の冷却通路とを備えている形式のものに関する。本発明はまた、このような形式の、内燃機関のためのピストン又はピストンヘッドに関する。
【0002】
最近の内燃機関においては、ピストンは、高い熱的及び機械的な負荷にさらされる。特に、一般的に軽金属合金例えばアルミニウム合金より鋳造されたディーゼルエンジンのためのピストンは、高い負荷にさらされる複数の領域を有している。これらの領域は、最上部のピストンリング溝の領域、並びに燃焼室縁部の領域及び燃焼室底部の領域である。最上部のピストンリング溝の領域を、特別なリングキャリアによって安定化することが公知である。この特別なリングキャリアは冷却通路構造も有している(ドイツ連邦共和国特許公開第19750021号明細書参照)。また、燃焼室縁部を補強材により補強することも公知である(ドイツ連邦共和国特許公開第102004056519号明細書参照)。
【0003】
このような形式のピストン補強は、ピストン内に挿入部材を鋳込むことによって形成される。この場合に問題なのは、挿入部材を位置正確に、かつできるだけ僅かな遊びを有してピストン鋳型内固定し、それと同時に冷却通路のための塩コアを、ピストン鋳型内にできるだけ位置正確に配置し、かつ固定することである。
【0004】
本発明の課題は、安価な費用でできるだけ正確にピストン鋳型内に固定することができ、ピストンの高い負荷にさらされる領域を効果的に補強することができる挿入部材を提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1に記載した特徴を有する挿入部材、並びに請求項9に記載した特徴を有するピストン又はピストンヘッドによって解決された。本発明によれば、挿入部材が、環状の冷却通路とリングキャリア領域と、燃焼室縁部補強、燃焼室底部補強部のための凹部領域とを有する一体的な構成部として構成されている。本発明によるピストン若しくはピストンヘッドは、挿入部材を有しており、該挿入部材が、一体的な構成部分として構成されていて、環状の冷却通路、ピストンリングキャリア並びに燃焼室縁部補強部及び燃焼室底部補強部を有していることを特徴としている。
【0006】
本発明による挿入部材は、完成されたピストン内に、高い負荷にさらされる2つの異なる領域のための補強部として用いられることを特徴としている。これによって、唯一の挿入部材を鋳型内に配置し、位置正確に固定し、ひいては最上部のピストンリングも燃焼室縁部及び/又は燃焼室底部も効果的に補強することができる。本発明による挿入部材は、公知の形式で簡単かつ位置正確に、ピストン若しくはピストンヘッドのための鋳型内に配置し、固定することができる。つまり、従来技術におけるようにピストンリングキャリア未加工鋳造品を鋳型内に配置し、かつ固定することができる。従って、本発明によるピストン若しくはピストンヘッドの製造費用は著しく低減される。
【0007】
さらに本発明による挿入部材は冷却通路を備えている。このことはつまり、鋳型のための特別な塩コアはもはや必要ないということである。しかも、この冷却通路は、本発明による挿入部材と同じ正確さで鋳型内に自動的に配置される。本発明による挿入部材は、前述のように、リングキャリア未加工鋳造品に相当する構造を介して鋳型内に固定される。これは、塩コアを挿入するよりも高い位置精度で実施できるので、完成したピストン内の冷却通路は、従来技術において可能であるよりも高い位置精度を有している。また本発明による挿入部材に設けられた冷却通路は、最上部のピストンリング溝の特に近傍に位置決めされ、それによって自動的に、燃焼室縁部及び燃焼室底部に対する特に小さい間隔が得られる。このような形式で、改善された冷却作用が、熱的に特に強く負荷された最上部のピストンリング溝の領域においても、また燃焼室の領域においても得られる。
【0008】
要約すれば、従来技術に対して多くの利点が得られる。本発明によるピストンのための鋳造法が著しく簡略化され、それと同時に、最上部のピストンリング溝、燃焼室縁部及び燃焼室底部においても、効果的な補強が得られ、連客通路のための位置公差の最小化、冷却通路の最適な位置決め、ひいては最上部のピストンリング溝及び燃焼室の効果的な冷却が得られる。
【0009】
本発明の有利な実施態様は従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明による挿入部材は、有利な実施例によれば、付加的な構造部を有している。つまり本発明による挿入部材は、少なくとも部分的な燃焼室底部補強部のための未加工鋳造品を有している。このような形式で、燃焼室の補強がさらに改善される。
【0011】
本発明による挿入部材は、さらに、ピストン若しくはピストンヘッドと形状結合(形状による束縛)式に結合するための構造、例えば挿入部材とピストンとの間の形状結合式な結合を補足する、アンダカット及び/又は突起の形状の構造を有している。
【0012】
本発明による挿入部材は、任意の材料より成っていてよい。本発明による挿入部材に適した材料は、例えば繊維強化された材料、特に公知のリングキャリアを製造するために使用される材料である。このような材料として、ニレジストとして公知のオーステナイト鋳鉄が挙げられる。有利には、本発明による挿入部材は、ピストン若しくはピストンヘッド内に鋳込む前に、公知のアルフィン法により処理される。
【0013】
本発明による挿入部材は有利には鋳造部品として構成されている。本発明によるピストン若しくはピストンヘッドは、例えばアルミニウム合金より鋳造されていて、すべてのエンジン特にディーゼルエンジンに適している。
【0014】
本発明の実施例が、以下に図面を用いて詳しく説明されている。図面は概略図であって、縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施例による挿入部材の断面図である。
【図2】本発明の第1実施例による、完成されたピストンヘッドの部分断面図である。
【図3】本発明の第2実施例による挿入部材の断面図である。
【図4】本発明の第2実施例による、完成されたピストンヘッドの部分断面図である。
【0016】
図1は、本発明の第1実施例による挿入部材10を示す。挿入部材10は、環状のウエブ14を備えた環状の支持領域11と、環状の冷却通路12と、凹部13とを有している。挿入部材10は、図示の実施例では、いわゆるNiResist(ニレジスト)材料より一体的に鋳造されている。ニレジスト材料とは、特にねずみ鋳鉄(Lamellengraphit)又はノジュラー鋳鉄(Kugelgraphit)を有するオーステナイト鋳鉄材料である。冷却通路12は、公知の形式で、挿入部材10用の型内に圧縮された塩コア15を挿入し、心材又はピンにできるだけ位置正確に保持することによって、形成される。塩コア15は、挿入部材10のための材料によって鋳包まれ、まず鋳造完成された挿入部材10内に残存する。鋳造完成された挿入部材10は、必要であれば公知の形式で後処理される。
【0017】
図1に示した実施例による挿入部材10は、本発明に従って、内燃機関のためのピストン又はピストンヘッド内に鋳込まれる。ピストン若しくはピストンヘッドは、例えば軽金属材料特にアルミニウム合金より成っている。挿入部材10は、鋳造の前に、公知の形式でアルフィン処理され、例えばアルミニウム・シリコン溶融液内に浸され、これによって、アルミ化鉄(Eisenaluminiden)より成るいわゆるアルフィン層が挿入部材10の表面に形成される。このアルフィン層は、ピストン若しくはピストンヘッドの材料と挿入部材10の材料との間の結合層として用いられる。
【0018】
このように前処理された挿入部材10は、製造しようとするピストン若しくはピストンヘッドの鋳型内に挿入され、位置正確に保持され、この際に、環状のウエブ14が載設手段として用いられる。このような処置は公知である。何故ならば一般的なリングキャリア未加工鋳造品が、同じやり方でピストン鋳型内において保持されるからである。このようにして挿入部材10はピストン材料によって鋳包まれ、それによって未加工鋳造品16が得られる。このようにして得られた未加工鋳造品16の、後から得られるピストンヘッドの領域内における輪郭形状は、図2に一点鎖線で示されている。
【0019】
未加工鋳造品16は、完成されたピストン若しくはピストンヘッドに後加工される。この際に同時に、ピストン若しくはピストンヘッドの最終的な構造を得るために、挿入部材10がピストン若しくはピストンヘッドと一緒に形成される。ピストンヘッド21は、燃焼室23を有するピストンクラウン22と、環状のトップランド24と、環状のリング部(図示せず)とを備えている。
【0020】
挿入部材10は、図1に示したリングキャリア領域11が公知の形式でリングキャリア25を形成し、該リングキャリア25は、ピストンリング部の最上部のリング溝内に配置されている。ピストンリングの高さ位置、及び燃焼室23に密接する位置に、環状の冷却通路12が配置されている。塩コアは、公知の形式で、オイルドレン孔26がピストンヘッド21内に形成され、塩コアがオイルドレン孔を通って水で洗浄されることによって、取り除くことができる。図1に示した挿入部材10の凹部13は、環状の燃焼室縁部補強部27並びに部分的な燃焼室底部補強部28が得られるように、後加工されている。
【0021】
図3及び図4は、本発明による挿入部材110並びに本発明によるピストンヘッド121のそれぞれ別の実施例を示す。この場合、図1及び図2に示した実施例と構造が同じ部分には、同じ符号が付けられている。図1及び図2に対する唯一の相違点は、挿入部材110の凹部113若しくはピストンヘッド121の燃焼室底部補強部128の構造である。挿入部材110の凹部113は、その外周面に沿って、環状のアンダカット129を備えている。さらに凹部113は、その内側領域に、環状の突起131を有している。アンダカット129及び突起131は、相応の鋳型を使用して鋳造によって製造される。しかしながら例えば挿入部材を図1に従って鋳造し、アンダカット129及び突起131を、相応に後加工することによって挿入部材113に形成するようにしてもよい。
【0022】
図4には、アンダカット129及び突起131によって、挿入部材113とピストンヘッド121とが付加的に形状結合(形状による束縛)式に結合されることが示されている。
【符号の説明】
【0023】
10 挿入部材、 11 リングキャリア領域、 12 冷却通路、 13 凹部、 14 ウエブ、 15 塩コア、 16 未加工鋳造品、 21 ピストンヘッド、 22 ピストンクラウン、 23 燃焼室、 24 トップランド、 25 リングキャリア、 26 オイルドレン孔、 27 燃焼室縁部補強部、 28 燃焼室底部補強部、 110 挿入部材、 113 凹部、 121 ピストンヘッド、 128 燃焼室底部補強部、 129 アンダカット、 131 環状の突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンのための挿入部材(10,110)であって、ピストンがピストンヘッド(21,121)を有しており、該ピストンヘッドが、燃焼室(23)を有するピストンクラウン(22)と、環状のトップランド(24)と、環状のピストンリング部と、該ピストンリング部の高さ位置に配置された、環状の冷却通路(12)とを備えている形式のものにおいて、
前記挿入部材(10,110)が、環状の冷却通路(12)とリングキャリア領域(11)と、燃焼室縁部補強のための凹部領域(13,113)とを有する一体的な構成部として構成されていることを特徴とする、内燃機関のピストンのための挿入部材。
【請求項2】
挿入部材が、少なくとも部分的な燃焼室底部補強部のための凹部領域(13,113)を有している、請求項1記載の挿入部材。
【請求項3】
挿入部材が、ピストンと形状結合式に結合するための構造部(129,131)を有している、請求項1又は2記載の挿入部材。
【請求項4】
前記構造部(129,131)がアンダカット(129)又は突起(131)として構成されている、請求項3記載の挿入部材。
【請求項5】
挿入部材が、繊維強化された材料より成っている、請求項1から4までのいずれか1項記載の挿入部材。
【請求項6】
挿入部材がオーステナイト鋳鉄より成っている、請求項1から4までのいずれか1項記載の挿入部材。
【請求項7】
挿入部材が、アルフィン法によって処理されている、請求項6記載の挿入部材。
【請求項8】
挿入部材が鋳造部品として構成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の挿入部材。
【請求項9】
内燃機関のためのピストンのピストンヘッド(21,121)であって、該ピストンヘッドが、燃焼室(23)を有するピストンクラウン(22)と、環状のトップランド(24)と、環状のピストンリング部と、該ピストンリング部の高さ位置に配置された、環状の冷却通路(12)とを備えている形式のものにおいて、
ピストンヘッド(21,121)が挿入部材(10,110)を有しており、該挿入部材が一体的な構成部として構成されていて、環状の冷却通路(12)とリングキャリア(25)と、燃焼室縁部補強部(27)とを有していることを特徴とする、挿入部材を備えたピストンヘッド。
【請求項10】
挿入部材(10,110)が、少なくとも部分的な燃焼室底部補強部(28)を形成している、請求項9記載のピストンヘッド。
【請求項11】
ピストンヘッド(121)及び挿入部材が、突起(129)及び/又はアンダカット(131)によって互いに形状結合式に結合されている、請求項10記載のピストンヘッド。
【請求項12】
ピストンヘッドが軽金属合金より鋳造されている、請求項9から11までのいずれか1項記載のピストンヘッド。
【請求項13】
内燃機関のためのピストンであって、該ピストンがピストンヘッド(21,121)を有しており、該ピストンヘッドが、燃焼室(23)を有するピストンクラウン(22)と、環状のトップランド(24)と、環状のピストンリング部と、該ピストンリング部の高さ位置に配置された、環状の冷却通路(12)とを備えている形式のものにおいて、
前記ピストンが挿入部材(10,110)を有しており、該挿入部材が、一体的な構成部として構成されていて、環状の冷却通路(12)とリングキャリア(25)と、燃焼室縁部補強部(27)とを有していることを特徴とする、内燃機関のピストンのための挿入部材。
【請求項14】
前記挿入部材(10,110)が、少なくとも部分的な燃焼室凹部補強部(28)を形成している、請求項13記載のピストン。
【請求項15】
ピストンと挿入部材(110)とが、突起(129)及び/又はアンダカット(131)によって互いに形状結合式に結合されている、請求項14記載のピストン。
【請求項16】
ピストンが軽金属合金より鋳造されている、請求項13から15までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項17】
ピストンが、ディーゼルエンジンのための、アルミニウム合金より鋳造されたピストンである、請求項13から16までのいずれか1項記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−526982(P2011−526982A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516960(P2011−516960)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/DE2009/000935
【国際公開番号】WO2010/003398
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】