説明

内燃機関の制御方法

【課題】アイドリング中にクラッチが切断状態から接続状態へと切り替わる際のドライバビリティを維持する。
【解決手段】内燃機関100の制御方法は、アイドリング中にクラッチCLを接続するための操作がなされたことを検知したとき、検知していないときと比べて点火時期を遅角することを特徴とする。これにより、運転者が素早いシフト操作をもってクラッチペダルCPから速やかに足を離し、即座にクラッチCLがつながってしまったとしても、点火時期を遅角することで燃焼を緩慢にし耐ストール性を向上させていることから、内燃機関100と手動変速機MTとの間のトルクの伝達を円滑に行わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動変速機を備えた車両に搭載される内燃機関の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手動変速機を備えた車両では、内燃機関と手動変速機との間にクラッチが介在しており、運転者によるクラッチペダルの操作に応じてこのクラッチを断接切り替えすることにより、内燃機関の出力するトルクの手動変速機への伝達または遮断を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近時では、燃費の改善を図るべく、停車中等のアイドリング時、内燃機関の回転数を本来のアイドル回転数よりもさらに低い値に抑制する制御を実施している。再発進の前には、運転者がクラッチペダルを踏み込んでクラッチを一旦切り離し、手動変速機のシフトをニュートラルから低速ポジションへと切り替えた上で、クラッチペダルを踏んでいる力を徐々に抜く、いわゆる半クラッチ状態を実現する。その合間に、抑制していた回転数を、本来のアイドル回転数まで回復させる。
【0004】
しかしながら、運転者が素早いシフト操作をもってクラッチペダルから速やかに足を離し、即座にクラッチがつながってしまう場合には、内燃機関の回転数の回復が間に合わないために、発進性が悪化するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−188658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アイドリング中にクラッチが切断状態から接続状態へと切り替わる際のドライバビリティを維持することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る内燃機関の制御方法は、手動変速機を備えた車両に搭載される内燃機関の制御方法であって、アイドリング中に内燃機関と手動変速機との間に介在するクラッチを接続するための操作がなされたことを検知したとき、検知していないときと比べて点火時期を遅角することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、運転者が素早いシフト操作をもってクラッチペダルから速やかに足を離し、即座にクラッチがつながってしまう場合であっても、点火時期を遅角することにより耐ストール性を向上させていることから、内燃機関の回転数の回復が間に合わずに発進性が悪化する問題を有効に回避することができる。
【0010】
また、アイドリング中の点火時期を所定量遅角している期間において、それ以外の期間よりも内燃機関の吸入空気量を増量するようにすれば、遅角により低下したトルクを補いエンジン回転数を維持することができるので、より確実にエンジンストールを回避することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アイドリング中にクラッチが切断状態から接続状態へと切り替わる際のドライバビリティを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のハードウェア資源構成を示す図。
【図2】同実施形態に係るハードウェア資源構成を示す別の図。
【図3】クラッチセンサの出力を参照した点火時期制御の模様を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に1気筒の構成を概略的に示した内燃機関100は、例えば図2に模式的に示すような手動変速機MTを備えた自動車に搭載されるものである。内燃機関100の吸気系1には、アクセルペダルの踏込量に応じて開閉するスロットルバルブ11を設けており、スロットルバルブ11の下流にはサージタンク13を一体に有する吸気マニホルド12を取り付けている。シリンダ2上部に形成される燃焼室21の天井部には点火プラグ8を、吸気マニホルド12の吸気ポート側端部には燃料噴射弁3を、それぞれ設けている。
【0014】
内燃機関100の排気系5には、排気マニホルド51を取り付け、かつ排気ガス浄化用の三元触媒52を装着している。そして、触媒52の上流にフロントO2センサ53を、下流にリアO2センサ54を、それぞれ設けている。これらO2センサ53、54は、排気ガスに接触して反応することにより、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧信号を出力する。
【0015】
吸気系1と排気系5との間は、EGR(排気ガス再循環)装置6を介して接続する。EGR装置6は、始端が排気マニホルド51に連通し終端がサージタンク13に連通するEGR通路61と、EGR通路61上に設けた外部EGRバルブ62とを要素とする。
【0016】
内燃機関100の運転制御を司るECU(電子制御装置)4は、中央演算装置41、記憶装置42、入力インタフェース43、出力インタフェース44等を有するマイクロコンピュータシステムである。入力インタフェース43には、吸気負圧を検出する圧力センサ71から出力される吸気負圧信号a、内燃機関100の回転数を検出する回転数センサ72から出力される回転数信号b、車速を検出する車速センサ73から出力される車速信号c、アイドルスイッチ74から出力されるIDL信号d、冷却水温を検出する水温センサ76から出力される水温信号f、燃焼圧の変化によりノッキングの状態を検出するノッキングセンサ75から出力されるノッキング信号e、排気側カムシャフト91の端部にある排気側タイミングセンサ93から720°CA(クランク角度)回転毎に出力されるパルス信号である気筒判別信号g1並びに240°CA回転毎に出力されるパルス信号である排気カム信号g2、吸気側カムシャフト92の端部にある吸気側タイミングセンサ94から240°CA(クランク角度)回転毎に出力されるパルス信号である吸気カム信号h、フロントO2センサ53から出力される上流側空燃比信号i、リアO2センサ54から出力される下流側空燃比信号j、そして図2でも示すような、手動変速機MTにおける変速時に踏み込み操作されるクラッチペダルCPの状態を検出するクラッチセンサ77から出力されるクラッチ信号k等が入力される。
【0017】
出力インタフェース44からは、燃料噴射弁3に対して燃料噴射信号n、点火プラグ8に対して点火信号m、EGRバルブ62に対してバルブ開度信号o等を出力する。
【0018】
中央演算装置41は、予め記憶装置42に格納されているプログラムを解釈、実行し、以て内燃機関100の燃焼噴射制御、EGR制御等を実行する。即ち、内燃機関100の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g1、g2、h、i、j、kを入力インタフェース43を介して取得し、それらに基づいて制御入力である燃料噴射量すなわち吸入空気量、点火時期、EGRバルブ62の開度等を算出して、制御入力に対応した制御信号m、n、oを出力インタフェース44を介して印加する。
【0019】
本実施形態において、ECU4は、プログラムに従い上記ハードウェア資源を作動し、図2に示すように、アイドリング中でクラッチCLが切断されている場合において、クラッチCLを接続するための操作がなされたことを検知したときに、検知していないときと比べて点火時期を遅角することを特徴とするものである。
【0020】
以下、ECU4による、発進時における内燃機関100の制御について、図3を参照して説明する。同図は、自動車の発進時における車速、クラッチ信号k、点火時期、吸入空気量、詳細には点火時期を遅角としたときの吸入空気量の補正量、そして内燃機関100の回転数をそれぞれ模式的に示している。
【0021】
まず、アイドリング中は、原則として、内燃機関100の回転数を所定のアイドル回転数、例えば650rpmに維持するよう制御する。但し、手動変速機MTのシフトポジションが発進不能なニュートラルポジションにあり、クラッチペダルCPが踏まれておらずクラッチセンサ77からのクラッチ信号kがOFFとなっており(クラッチCLは接続している)、車速が0となっている間は、燃費の向上のため、内燃機関100の回転数をベース回転数である650rpmよりも低い回転数、例えば600rpmに制御する。
【0022】
自動車の発進に際し、クラッチCLを係合させるべく運転者によりクラッチペダルCPが踏み込まれると、クラッチセンサ77からのクラッチ信号kがONとなる(クラッチCLは切り離される)。クラッチ信号kがONのとき、ECU4は、内燃機関100のアイドル回転数を、600rpmから650rpmへと上昇させるべく制御を行い、発進に備える。
【0023】
そして本実施形態では、少なくとも、クラッチ信号kがONとなり内燃機関100の回転数がベース回転数に至るまでの過渡の期間、点火時期を所定量遅角する。但し、クラッチ信号kがONとなったまま内燃機関100の回転数がベース回転数に到達した、あるいは、クラッチ信号kがONとなったままで所定のウェイト時間を経過した暁には、点火時期の遅角制御を終了する。また、併せて、点火時期を遅角制御している期間の吸入空気量を所定量増加させ、この吸入空気量の増加とともに燃料噴射量を増量する。吸入空気量(及び、燃料噴射量)の具体的な増加量は、点火時期を遅角することにより低下するトルクを補い、回転数を維持し得る量に設定されている。
【0024】
ここで、同図では、内燃機関100の回転数が上述したベース回転数にまで回復していない状態で、手動変速機MTのシフトポジションがニュートラルから発進可能な駆動ポジションに切り替わり、クラッチミートがなされたケースを例示している。クラッチミートの時点で内燃機関100の回転数がベース回転数にまで回復していなくても、点火時期が遅角となっているために燃焼が緩慢となることで耐ストール性が向上され、発進性が維持される。
【0025】
さらに、本実施形態では、再発進を目的としたクラッチミートによりクラッチ信号kが再度OFFとなってから、内燃機関100の点火時期を徐々に進角させるようにしている。同図では、発進直後の内燃機関100の点火時期は中立よりも進角している。併せて、このクラッチ信号kのOFFから所定時間経た後に、吸入空気量も増加させた状態から減少させるようにしている。
【0026】
以上説明した通り、本実施形態では、アイドリング中にクラッチCLを接続するための操作がなされたことを検知したときに、検知していないときと比べて点火時期を遅角制御することとしている。これにより、燃焼が緩慢となり、耐ストール性が向上する。従って、運転者が素早いシフト操作をもってクラッチペダルCPから速やかに足を離し、即座にクラッチCLがつながってしまうような場合であっても、発進性の悪化を有効に回避することができる。
【0027】
またアイドリング中の点火時期を所定量遅角している期間、それ以外の期間よりも内燃機関100の吸入空気量を増量するようにして、点火時期を遅角することにより低下したトルクを補うようにしている。これにより、内燃機関100の回転数を一定に保ち、ドライバビリティの悪化を有効に防止している。
【0028】
また本実施形態では、クラッチ信号kのON時における、内燃機関100がベース回転数に至るのに足る所定の期間だけ、点火時期を遅角するようにしているので、不必要に長い期間点火時期を遅角することを有効に回避している。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0030】
例えば、アイドル中のベース回転数及びクラッチ信号kのOFF時のアイドル回転数は、内燃機関100の具体的な態様に応じて上記実施形態とは異なる値に設定されたものであっても良い。
【0031】
なお、遅角させる所定値や吸入空気量の補正量、さらには各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、手動変速機を備えた車両に搭載される内燃機関の制御に利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
4…ECU
77…クラッチセンサ
100…内燃機関
k…クラッチ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動変速機を備えた車両に搭載される内燃機関の制御方法であって、
アイドリング中に内燃機関と手動変速機との間に介在するクラッチを接続するための操作がなされたことを検知したとき、検知していないときと比べて点火時期を遅角することを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
アイドリング中の点火時期を所定量遅角している期間において、それ以外の期間よりも内燃機関の吸入空気量を増量する請求項1記載の内燃機関の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190703(P2011−190703A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55476(P2010−55476)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】